第15話:生後1か月でほぼ1歳!? 子猫たちの超進化と、追い抜かれたちいさなお姉ちゃん
第15話:生後1か月でほぼ1歳!? 子猫たちの超進化と、追い抜かれたちいさなお姉ちゃん
◯月◯日(育児日記 120日目)
タイトル:アマチ生後四か月、三つ子生後一か月。猫の十倍スピード成長がもたらす恐怖(?)の逆転現象!
「……バイオ学者として、成長曲線のグラフを描き直さねばならない。いや、描く前に破集してゴミ箱へ叩き込むべきかもしれん……!」
丸木小屋の中、私は自分の表面を「波形模様」にウネウネと波打たせながら、目の前で展開される常識外れの光景に呆然としていた。
育児日記は、ちょうど120日目。
我が愛娘・天智にとっては、生まれた日から数えてちょうど四か月目(生後4か月)の節目の日である。
首は完全にすわり、自分の意志で寝返りを打ち、お座りの体勢を数秒キープできるようになり、何より「お姉ちゃん」としての意識が芽生えた、微笑ましくも着実な赤ん坊の成長だ。
……だが。問題は、お隣の三つ子たち(クララ、ナララ、ミララ)である。
彼女たちが誕生したのが、日記90日目。
つまり、今日は三つ子たちにとって生まれてちょうど満一か月(30日目)の記念すべき日なのだ。
人間ならば、ようやく目がはっきり見え始め、手足をバタバタさせる程度の時期。
しかし——ケットシー(魔獣猫)の成長速度は、人間の約十倍!
「みゅ〜!」「にゃはー!」「みゅふーっ!」
シュバッ! シュバババッ!!
「は……早すぎる……! 動きの残像が見えるぞ……!?」
生後30日を迎えた三つ子たちは、ケットシー年齢に換算すれば「一歳目前(ヤンチャ盛りの幼猫)」!
かつての手のひらサイズでモフモフしていた赤ん坊の影などどこにもない!
部屋の柱を一気に駆け登り、天井の梁から「トウッ!」と軽やかに大ジャンプを決め、棚の上の小物を前足で「チョイチョイ」と弾き飛ばす、完全なる「素早い小悪魔ハンター軍団」へと覚醒していたのだ!
◇
「にゃははっ! 天山さん、すごいだろニャー! クララたち、今日で生まれて一か月だけど、もう一人前のケットシーの身のこなしだニャ!」
遊びに来たルークが、天井の梁の上でクルクルと宙返りしてみせる長女クララを見上げて、鼻高々に胸を張る。
長女のクララは、運動神経バツグンのアクロバット猫。
長男のナララは、体格が一回り大きくなり、食べ物を見つける鼻の利き方がプロ級。
そして三女のミララは、人懐っこさと甘え上手さに磨きがかかり、言葉(猫語と人間の単語のチャンポン)を喋り始めていた!
「アマチ! あそぶニャ! あそぶニャ!」
なんと、ミララが小さな口で、はっきりと天智の名前を呼んだのだ!
「あぅ……!? み、みららちゃんが……しゃべったーっ!?」
床の上でお座りの練習をしていた天智が、大きな瞳を丸く見開いた。
天智の成長速度も、スキル『順応』とスライム栄養のおかげで人間の赤ん坊としては規格外に早い。
しかし、ケットシーの10倍スピード成長の前には、ついに「成長速度の逆転」が起きてしまったのだ!
ほんの2週間前までは、自分が膝の上でトントンしてあげていた「守るべき小さな赤ちゃん」。
それが、いつの間にか自分よりも素早く走り回り、自分よりも上手におしゃべりし、自分を飛び越えて部屋中を駆け回っているのである!
「あぅ……あぅ……(わたし、おねえちゃんなのに……)」
天智の頭頂部にある「髪の毛猫耳」が、ショックのあまり「ペショッ……」と力なく垂れ下がった。
ちいさなプライドが、ガラガラと崩れ去る音が聞こえるようだった。
◇
「ふふ、天智ちゃん。ショックを受けることはないわよ」
三つ子たちの成長を優しく見守っていた母猫・メイラさんが、お茶を飲みながら天智の頭を撫でてくれた。
「猫はね、身体が大きくなるのがとっても早いの。あと5日もすれば、この子たちはすっかり大人のケットシーと同じ形(1歳)になるのよ。でもね、天智ちゃんがこの子たちの『大好きなお姉ちゃん』であることは、何ひとつ変わらないわ」
「あぅ……?」
天智がうっすらと涙を浮かべた目で、メイラさんを見上げる。
「ほら、見てごらんなさい」
メイラさんが指差した先では——。
天井の梁から飛び降りてきた長女クララ、干し魚の匂いを嗅ぎつけた長男ナララ、そして「アマチ!」と叫んでいた三女ミララの三つ子たちが、一斉に天智の元へとダッシュで押し寄せていた!
トトトトトッ!
「アマチー!」「あそぶニャー!」「すきすきー!」
ドスンッ!!
「あぅっ!?」
3頭の子猫たちが、お座りをしていた天智の身体へ一斉にダイブ!
天智を押し倒し、顔中を「ペロペロ! すりすり!」と大激しく甘え始めたのだ!
「みゅ〜! アマチ、おねえちゃん!」「だいすきニャー!」
「あ……あふっ! み、みんな……っ!」
三つ子たちにとって、どれだけ足が速くなろうと、どれだけジャンプ力が増そうと、天智は生まれた時から自分たちを優しく撫でてくれ、ミルクを分けてくれ、泡だらけになって一緒に遊んでくれた「世界で一番大好きで特別な大きなお姉ちゃん」なのだ!
身体の成長速度は追い抜かれても、絆の深さは何ひとつ変わっていなかった。
「あはっ! あははははっ! くららちゃん! なららちゃん! みららちゃん! くすぐったいーっ!」
天智の顔に、いつもの大満開の笑顔が戻った!
ペショッと垂れていた髪の毛猫耳が、ピンッ!と勢いよく立ち上がり、ピコピコと嬉しそうにダンシングを始める!
「よし……! 成長速度の差など、親子の……いや、姉妹の愛の前には関係ない! 天智、三つ子ちゃんたちと一緒に、1か月記念の特大お祝いをしよう!」
私はスライムボディを全開にし、胸の核を燃え上がらせた!
◇
「フッ……見よ! 本日のメインイベント! 生後1か月(ケットシー1歳目前)&天智生後4か月を祝う、特製『スライム・巨大キャットアスレチック&おやつタワー』だーっ!」
ぽこんっ!!
私が『変化』スキルで変形したのは、前回の反省を活かした「低反発・衝撃吸収・超ロング滑り台付き巨大アスレチック」である!
タワーのあちこちに、ナララが大好きな「特製煮干しエキス風味の魔素ゼリー」や、クララが飛び移れる「ぽよんぽよん空中ブランコ」、そしてミララと天智が一緒に滑れる「二人がけ特大スライム滑り台」が完備されている!
「にゃあぁぁぁっ!? 天山さん、前よりパワーアップしてるニャーッ!」
ルークが目を丸くする!
「行くぞ子どもたち! パパの愛のテーマパークを攻略してみせるがいい!」
「「「「おーーーっ!!! / みゅ〜〜〜っ!!!」」」」
天智と三つ子たちの、大追跡&遊戯タイムが始まった!
シュバババッ!
長女クララが空中ブランコを「トウッ!」と鮮やかに飛び移る!
長男ナララが洞窟の中で「うまうま〜!」と魔素ゼリーに飛びつく!
そして天智は、三女ミララの手を小さな手で「ぎゅっ」と握り締め、特大滑り台のてっぺんへと登っていった。
「ミララちゃん! いっしょに、すべるよ!」
「ニャ! アマチ、いっしょ!」
二人は仲良く並んで座り、スライムの滑り台を滑り降りる!
シューーーーーッ!!
「「あははははっ! / にゃははははっ!」」
ポヨンッ!!
一番下で柔らかく着地した二人。
天智はミララを抱きしめ、ミララも天智の首元に顔をすり寄せた。
速すぎる成長。
あと5日もすれば、三つ子たちはケットシーとしての「1歳(大人への一歩)」を迎えてしまう。
人間である天智が追いつくには、まだまだ長い年月がかかるだろう。
けれど、今この瞬間、二人は間違いなく「対等な仲良し姉妹」として笑い合っていたのだ。
「ふふ……本当に、素敵な姉妹ね」
メイラさんが、目を細めて微笑む。
「ええ……! 成長の早さに寂しさを覚えることもありますが……この子たちの絆は、どんなスピードにも負けません!」
私は平べったい滑り台形態のまま、胸の核を温かい熱で満たした。
◇
宴が終わり、すっかり夜が更けた丸木小屋。
遊び疲れた子どもたちは、私のスライムボディの中央で、巨大な「モフモフの団子」となってスヤスヤと眠っていた。
天智(生後4か月)を中心に、クララ、ナララ、ミララ(生後30日)がキュッと身を寄せ合っている。
天智は眠りながらも、隣にいるミララの身体を包み込むように抱きしめ、頭の髪の毛猫耳を幸せそうにピコピコと動かしていた。
「アマチ……おねえちゃん……だいすき……ニャ……」
寝言を呟くミララ。
「あぅ……みららちゃん……ずっと……いっしょ……」
微笑みながら寝言を返す天智。
ケットシーの10倍の成長スピードがもたらす、切なくも愛おしい逆転劇。
けれど、失敗とハプニングを繰り返しながら深まってきた家族の絆は、何ものにも壊せない。
「あと5日で、君たちは1歳か……。よし、最高のお祝いを準備しなきゃね」
すやすやと眠る4人の小さな天使たちの可愛い寝顔を見つめながら、スライムパパは静かに、そして誇らしく目(核)を閉じるのであった。
(第15話・完)




