第13話:ちいさな警備隊とお留守番! 留守居役スライム(分身)の大災難
第13話:ちいさな警備隊とお留守番! 留守居役スライム(分身)の大災難
◯月◯日(育児日記 115日目)
タイトル:ほんの15分の買い出し。残されたスライム分身と、お留守番隊長の「お世話」大爆走!
「大丈夫だにゃ、天山さん! 村長からの呼び出しはたった15分! 広場の集会所で薬草の調合についてちょっと打合せするだけだにゃ!」
丸木小屋の入り口で、ルークが手を叩きながら急かしていた。
生後115日目。前回の毛繕い狂宴から3日。 すっかり素早く走り回るようになった三つ子たち(クララ、ナララ、ミララ)と、すっかり子猫気取りの「髪の毛猫耳」をピコピコ動かす天智。
私はバイオ学者として、そして心配性の父親として、苦渋の決断を迫られていた。
「しかしルーク殿、4人を部屋に残して離れるなど……! 赤ん坊と子猫の組み合わせは、化学反応で言えばニトログリセリンと衝撃のようなものだぞ!?」
「あぅ! パパ、いってらっしゃい! わたし、お留守番できる! おねえちゃんだもん!」
天智は胸を張り、頭の髪の毛猫耳を「ピコンッ!」と誇らしげに立ててみせた。 隣では三つ子たちが「みゅ〜!」「にゃーっ!」と尻尾をパタパタ振っている。
「……よし。ならばこうしよう!」
私は『変化』スキルを発動させ、自らの身体から約三分の一の質量を切り離した。
プスンッ!
床の上に現れたのは、本体のミニチュア版である【自律型・お留守番スライム分身】である!
「見よ! 私の意思と繋がった生体分身だ! これなら何かあっても、この分身がクッションになり、自浄作用で部屋を保護し、私にリアルタイムで危険を通知してくれる!」
「うわぁ、スライムの分身か! それなら安心だニャ! さあ、早く行くぞにゃ!」
「天智、三つ子ちゃんたち、いいかい? パパの分身の言うことを聞いて、大人しくお留守番するんだよ?」
「はーいっ! パパ分身ちゃん、よろしくねーっ!」
私は不安を振り切りつつ、ルークとともに広場の集会所へと向かったのだった。
◇
——そして、パパが扉を閉めたまさにその1秒後。
「あはっ! パパいなくなったー!」
天智の瞳が、悪戯っぽくキラリーンと輝いた。
「あぅ! クララちゃん、ナララちゃん、ミララちゃん! お留守番たいちょうの天智ちゃんが、お部屋をピカピカにおそうじするよーっ!」
「みゅ〜っ!」「にゃーっ!」「みゅふーっ!」
三つ子たちが歓声をあげる! そう、天智にとって「お留守番」とは、パパの目を盗んで思いっきり大暴れできる最高の無法地帯だったのだ!
まずターゲットにされたのは、残された【スライム分身】であった。
「あぅ! パパ分身ちゃん! お掃除の手伝いしてね!」
天智は分身スライムの手触り(ぽよんぽよん)を握りしめると、『マネッコ』による猫足ハイハイで部屋の隅へとダッシュ!
「あむっ! ぺろぺろ〜っ!」
「みゅ〜!(ぺろぺろにゃー!)」
天智と三つ子たちが一斉に分身スライムへ群がり、前回の「毛繕い(おやつタイム)」を再開! 分身スライムは意思こそ本体(私)と繋がっているものの、体積が小さいため抵抗力が弱い!
『ひ、悲報……! 本体(私)へ緊急報告! 分身が子どもたちに全身を舐め回され、急速に融解・縮小中!』
集会所で村長と話していた私の脳内に、分身からの悲痛なSOS(魔素通信)が届いた!
「(な、なにぃっ!?? 分身が舐められているだと!?)」
「どうしたにゃ天山さん、急に顔(スライム表面)を青くして?」
「い、いや何でもない……! 会議を急ごう!」
◇
丸木小屋の中では、事態がさらにエスカレートしていた。
分身スライムを小さなお手手で揉みしだき、粘土のようにこねくり回した天智。
「あぅ! お掃除のお道具できたーっ!」
天智は分身スライムを平たく引き伸ばし、『特製スライム・モップ(雑巾)』へと変形させてしまったのだ!
「クララちゃん、ナララちゃん、ミララちゃん! 床をお掃除するよーっ!」
天智は分身モップを手にして、床の上を「シュッ! シュッ!」と高速スライディング! 長女クララと三女ミララがそのモップの上にちょこんと飛び乗り、まるで「ルンバに乗る子猫」状態で部屋中を滑走!
「あははははっ! たのしいーっ! ピカピカ〜っ!」
「みゅ〜〜〜っ!(高速移動にゃー!)」
さらに食いしん坊のナララは、棚の上に置いてあった「ほしぶどう(干し果実)」の壺を見つけ出し、器用に前足でひっくり返した!
バラバラバラッ!
「みゅ〜! うまうまの雨にゃー!」
部屋中に転がり出る干し果実! そこへ、天智と分身モップに乗った子猫たちが「シュザーーーッ!」と突入!
『ぐわぁぁぁぁっ! 本体へ報告! 干し果実と雑菌が体内にめり込み、分身のセルフクリーニング機能が過負荷で限界突破! 泡立ちが発生中!』
脳内に送られてくる分身の断末魔!
「(あ、泡立ち!? 干し果実の発酵とスライム酵素が反応して爆発の兆候が出ているだとーっ!?)」
「天山さん? 手が震えてるぞにゃ?」
「ルーク殿! 会議は終わりだ! 撤収ーーーっ!!」
「えぇっ!? あと5分あるぞにゃー!?」
私は集会所を飛び出し、転がるようにして我が家へ猛ダッシュした!
◇
一方、丸木小屋ではついにクライマックスを迎えていた。
泡立ち始めた分身スライムを見た天智。
「あぅ! 泡だ! あわあわお洗濯だーっ!」
天智は分身スライムの泡を自分の顔や三つ子たちの身体に「塗り塗り」し始め、部屋全体がピンク色のハーブ泡と干し果汁でカオスな泡パーティ会場へと変貌!
「クララちゃん! きれいにするね! ぺろぺろーっ!」
「みゅふ〜っ!(あわあわにゃー!)」
天智の「髪の毛猫耳」が、泡まみれになりながら「ルンルン♪」と最高潮に踊る!
そして——。
バァァァンッ!!
「天智ーっ! 三つ子ちゃんたちーっ! 無事かぁぁぁぁぁっ!?」
私が扉を蹴破るようにして飛び込んだ時、そこに広がっていたのは……。
床一面に広がるピンクのハーブ泡、 転がる干し果実の山、 全身泡まみれで「七三分け」になった三つ子たち、 そして、泡でサンタクロースのようなヒゲを作って「あはっ! パパ、おかえりー!」と無邪気に笑う天智の姿であった。
そして、私の分身は……過負荷のあまり「泡状のジュース」と化して床に散らばっていた。
「あ……あ……」
私の口(スライムの亀裂)から、魂がすーっと抜け出ていく。
ほんの15分。 たった15分の買い出しとお留守番で、我が家は完全な「ハーブ泡&果汁のテーマパーク」と化していたのだ。
「あにゃぁぁぁっ!? 部屋が泡だらけだニャーッ!?」
後ろから追いついたルークが、頭を抱えて絶叫した。
◇
「……ふぅ……ふぅ……」
それから一時間後。
ルークの【ウォーター・シャワー】魔法と、復活した私の超高速吸収によって、部屋と子どもたちは何とか綺麗にお掃除された。
泡を洗い流された三つ子たちは、すっかり疲れて「みゅ〜……」とお腹を空かせて倒れ込んでいる。
天智も、泡遊びのエネルギーを使い果たし、私の膝の上で「ヒック……あぅ……」と満足そうなあくびをしていた。
頭の「髪の毛猫耳」も、すっかりしんなりと寝ている。
「天智……パパの分身ちゃんをモップにするのは、ダメだって言ったでしょう……?」
平べったい座布団状態の私が、力なく諭す。
すると、天智は小さな手で私の頬をペシペシと叩き、にっこりと笑った。
「あぅ! でもね、天智ちゃん、お留守番がんばったよ! 三つ子ちゃんのお世話、いっぱいしたもん!」
「……うう……(お世話というか、一緒に大暴れしただけなのだが……)」
叱ろうにも、この無邪気で誇らしげな笑顔を見せられると、親バカな私の核は毒気を抜かれてしまうのだ。
「ふふ、まあ誰も怪我しなかったから良かったニャ。天智ちゃんもお姉ちゃんとして張り切ったんだよな」
ルークが笑いながら、三つ子たちにミルクを飲ませてあげる。
「あむ……ちゅー……」
お腹がいっぱいになった三つ子たちが、天智の身体にスルスルとすり寄り、4人で重なり合って「すー……すー……」と幸せそうな寝息を立て始めた。
天智は眠りながらも、小さな手でミララの背中を「トントン……トントン……」と優しく撫でている。
失敗ばかりのお留守番。 分身は泡となって消え、お部屋は大惨事になったけれど。
天智の中に芽生えた「お留守番隊長」としての誇りと、三つ子たちへの愛情は、本物だったのだ。
「よし……明日からは『分解しない、超耐久型お留守番おもちゃスライム』の開発だな……!」
すやすやと眠る子どもたちの可愛い寝顔を見つめながら、スライムパパの反省と挑戦は、どこまでも続いていくのであった。
(第13話・完)




