第11話:お外であそびたい! 忍び寄る猫足ハイハイと草むらのハンターたち
第11話:お外であそびたい! 忍び寄る猫足ハイハイと草むらのハンターたち
◯月◯日(育児日記 107日目)
タイトル:子猫のマネッコで足音が消えた!? ぽんぽこ草むらで始まるちいさな狩り。
「あーっ! お外! お外いくーっ!」
丸木小屋の扉の前で、天智が両手をバンバンと叩いてアピールしていた。
生後107日目。前回のキャットタワー大騒動から4日。 秋の爽やかな風が木々を揺らし、木漏れ日がサンサンと降り注ぐ絶好のお散歩日和である。
「あぅ! くららちゃん! なららちゃん! みららちゃん! いくよーっ!」
「みゅ〜!」「にゃーっ!」「みゅふーっ!」
天智の声に応えるように、三つ子たち(クララ、ナララ、ミララ)も尻尾をピンと立てて大はしゃぎ。 生後20日近くを迎えた子猫たちは、足腰がすっかりしっかりして、外の世界への好奇心が爆発しているのだ。
「分かった分かった。お外に行こうね。でも天智、みんなから離れちゃダメだよ? パパの目届く範囲で遊ぶんだよ」
「はーいっ!」
私はスライムボディを『ポータブル日よけマット&抱っこ形態』へと変形させ、天智と三つ子たちを引き連れて、小屋の前の日当たりの良い広場へと繰り出した。
◇
「にゃ〜、天山さん! 子どもたちの虫干し……じゃなくて日向ぼっこかい?」
広場で畑の手入れをしていたルークが手を振ってくれた。
「ええ、ルーク殿。たまには外の空気を吸わせてあげようと思いましてね」
広場の柔らかな草の上に天智と三つ子たちを降ろすと、子どもたちは一斉に草の感触を楽しそうに確かめ始めた。
「あむっ……くさ、ちくちくー!」
「みゅふ〜……(日向ぼっこ心地いいニャ)」
ぽかポカ陽気の中、のんびりとした時間が流れる——はずだった。
ガサガサッ。
広場の端にある草むらから、小さな音が聞こえた。
一瞬で、三つ子たちの耳が「ピンッ!」と前を向いた。 長女クララ、長男ナララ、三女ミララの目が、まあるく見開かれる。
「……みゅっ。」
クララが体を低くし、姿勢を落とした。 獲物を狙う、猫の本能——ハンターの体勢である。
ナララとミララも、クララの真似をして姿勢を低くし、お尻をフリフリと揺らし始めた。
「おや……? 三つ子ちゃんたち、何か見つけたみたいだにゃ?」
ルークが目を細める。
草むらの葉っぱの陰にいたのは、体長5センチほどの小さくて丸い魔物——『ポッポバッタ』だった。 害のないおとなしい昆虫の魔物で、跳ねるたびに「ポッポッ」と可愛らしい音を立てる、子どもたちの格好のおもちゃだ。
「みゅ〜……(ねらうニャ……)」
静かに、音もなく草むらへ忍び寄る子猫三姉妹。
そして、それを見た天智の瞳が、怪しくキュピーンと輝いた!
発動してしまったのだ。彼女の隠された恐ろしいスキル——『マネッコ』が!
「あぅ……(ねらうー……)」
天智は手足を床につき、お尻をキュッと持ち上げた。 そして次の瞬間——信じられないことが起きた!
スッ……スッ……。
「な……なにぃっ!???」
バイオ学者である私の目が飛び出しかけた。
天智のハイハイから、完全に「音」が消えたのだ! 彼女は子猫たちの足裏の肉球の使い方、重心の移動、関節のしなりをスキル『マネッコ』で完璧にコピー! 体重7キロの赤ん坊であるはずの天智が、まるで「猫の足(猫足)」を手に入れたかのように、一切の足音を立てずに草むらを滑るように進み始めたのである!
「す、すごいにゃ……! 天智ちゃんのハイハイ、完全にキャットステップになっているにゃ……!」
ルークも驚きで顎が外れそうになっている。
「これぞ『マネッコ』スキルの応用……! 生物の歩行メカニズムを感覚で完全模倣しているというのか!? 赤ん坊の学習能力の恐ろしさよ……!」
天智と三つ子たちは、一列の「子猫ハンター隊(+1人)」となり、息を殺してポッポバッタへと近づいていく。
先頭:クララ(長女猫) 二番手:天智(人間の赤ん坊・猫足モード) 三番手:ナララ&ミララ(子猫たち)
「(しーっ……だよ、パパ)」
天智が振り返り、小さな人差し指を口元にあてて「しーっ」のポーズをとる。 あまりの可愛さと本気モードに、私も息を飲んで見守るしかない。
◇
ターゲットのポッポバッタは、目の前に忍び寄る4人のハンターたちに全く気づいていない。
「ポッポ〜……♪」と気呑気に葉っぱをかじっている。
距離、あと五十センチ。
三つ子たちのお尻の振りが、激しさを増す。 フリフリ、フリフリ……。
天智もお尻を「フリフリ、フリフリ……」と真似して揺らす。
「(いまだニャー!)」
トビッ!!
「みゅーっ!」「あーっ!」
クララと天智が同時に草むらへ飛び出した!
「ポッポッ!?!?」
驚いたポッポバッタが、慌てて空中へピョーンと大ジャンプ!
「あうーっ! にげたーっ!」
「みゅ〜〜〜っ!」
ここから、広場を舞台にした大追跡劇が始まった!
ポッポバッタは「ポッポッ!」と音を立てながら、草むらをランダムに跳ね回る! それを追う、猫足ハイハイの天智と三つ子たち!
「あっちニャ!」「あぅー! こっちー!」
驚くべきは、天智の機動性だ。 猫足を習得した天智は、草むらの障害物をしなやかにかわし、低い姿勢のまま「シュシュッ!」と素早く方向転換!
「捕まえろー! 天智ちゃん、右だニャーっ!」
ルークもすっかりノリノリで応援を始める!
「待ちなさいルーク殿! 応援している場合ではない! あのバッタは無害だが、もし天智たちが深追いして森の奥へ行ってしまったら——」
私が焦った、その時!
ポッポバッタが追い詰められ、最後の力で大ジャンプ! 跳んで行った先は——なんと、私のてっぺんであった!
ペタッ。
「ポッポ〜……(安心)」
「あ」
ポッポバッタが、私のスライムボディの頭頂部に着地して息を整えている。
そして、それを見た4人の小さなハンターたちの目が、一斉に怪しく光った。
ターゲット確認。 目標:スライムパパのてっぺん。
「あぅ……ロックオンーっ!」
「みゅ〜〜〜〜っ!!(突撃にゃー!)」
「や、やめ……待ちなさい! パパを狩りの場にするなーっ!」
◇
ドガシィィィィィンッ!!
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」
4人のハンターが一斉に私のスライムボディへ飛びかかってきた!
猫足で勢いをつけた天智のダイブと、三つ子たちの爪アタックが同時に私の前面に激突!
「ポッポッ!?」
驚いたポッポバッタは「逃げろー!」と言わんばかりに空中へ飛び去って行ったが、後に残されたのは、ハンターたちに押し潰された私であった。
「うぐぐ……またしても……私がオチ担当に……」
床に平べったく押し潰された私。
その上で、逃げられたポッポバッタを見送った天智と三つ子たちが、顔を見合わせていた。
「あぅー……にげられちゃったねぇ」
「みゅ〜……(ざんねんにゃ)」
ガックリと肩を落とす小さなハンターたち。
だが、天智はすぐに笑い出した。
「あははっ! でも、たのしかったね! くららちゃん、みららちゃん、なららちゃん!」
「みゅー!」「にゃーっ!」「みゅふーっ!」
天智が草の上に転がると、三つ子たちも天智のお腹の上に「ぽてん」と飛び乗り、みんなでゴロゴロと転がり合って大爆笑!
「やれやれ……激しい狩りだったニャ」
ルークが笑いながら、潰れた私を引っ張り起こしてくれる。
「……フフ……まあ、怪我もなく、外で力一杯遊べたのだから大成功だよ……」
潰れた体を「ポンッ」と元に戻しながら、私は笑顔で子どもたちを見つめた。
◇
夕方。
たっぷりお外で走り回り、ちいさな狩りを楽しんだ子どもたちは、丸木小屋へ戻ると完全にお腹を空かせていた。
「あむ……ちゅー……」
「みゅ〜……(お腹いっぱいにゃ)」
私が作ってあげた「特製ハーブミルク」を並んで飲んだ後、4人は私のスライムボディの上で丸くなり、泥のように深い眠りについていた。
天智の小さな足先が、眠りながらも「ピクッ、ピクッ」と猫の足真似のように動いている。
「ふふ……今日は楽しかったかい? 小さなハンターさん」
私は『体温サーモ』をぽかぽかの三十六度半に設定し、すやすやと眠る4人の背中を優しく包み込んだ。
猫の真似をして、どんどん逞しく、そして優しく育っていく天智。 失敗もハプニングも尽きないけれど、この輝かしい日々を、パパはいつまでも守り続けていこうと心に誓うのだった。
(第11話・完)




