# 第10話:バイオ工学の結晶! 補強キャットタワー完成と、小さな征服者たち
# 第10話:バイオ工学の結晶! 補強キャットタワー完成と、小さな征服者たち
## ◯月◯日(育児日記 103日目)
**タイトル:耐荷重100キロ越えの生体キャットタワー誕生! だが、子どもたちの進化はパパの計算を遥かに凌駕していた。**
「くっくっく……できた。ついに完成したぞ……! 我がバイオ工学の英知と、スライムの適応能力が融合した、究極の『生体補強型キャットタワー(Ver.2.0)』が……!」
前回の「キャットタワー大倒壊事故」から4日。
育児日記は103日目を迎えていた。
生後2週間余りとなった三つ子たち(クララ、ナララ、ミララ)の運動能力の発達は、日を追うごとに凄まじさを増している。
今や部屋の中を素早くトコトコと駆け回り、あちこちの段差にピョンピョンと跳び乗ろうとする「わんぱく盛り」の真っ最中だ。
そして、彼女たちの標的はいつだって、この私——風海天山である。
前回のように、途中で流動化を起こして崩落するなど、バイオ学者として、そして一家の主としてあってはならない失態!
そこで私は、この4日間、不眠不休(元から睡眠は不要だが)で体内の高分子ゲル構造の再設計に取り組んでいたのだ。
「いいかいルーク殿、そして子どもたち。よくお聞き」
丸木小屋の中に遊びに来ていたルークと、床でじゃれ合っていた天智、そして三つ子たちに向かって、私は誇らしげに宣言した。
「今日の私は、ただのスライムではない! 内部に高密度の『セルロース類似ナノファイバー(魔素強化版)』の網状骨格を張り巡らせ、引張強度とせん断応力を従来の五〇〇%に引き上げた『免震・耐震ハイブリッド生体タワー』なのだ!」
「にゃ、にゃんだか難しい言葉ばっかりだけど……要するに、崩れないキャットタワーになったってことかニャ?」
ルークが目をパチクリさせながら尋ねる。
「その通り! 見よ、この勇姿を!」
ポコンッ!!
私が『変化』スキルを発動させると、私の青い透き通ったスライムボディが、ニョキニョキと垂直方向に伸長!
全体として円錐形の堂々たる3段キャットタワーの形状へと姿を変えた。
一番下の第1層は、天智が座れる広々とした「ぽよんぽよんテラス」。
中層の第2層は、子猫たちがくぐり抜けて遊べる「トンネル洞窟」。
そして最上階の第3層には、一番高い場所から部屋を見渡せる「ふんわり展望台」が配置されている。
さらに、表面には子猫たちの小さな爪がしっかり引っかかるよう、微細なコラーゲン繊維状の摩擦加工(ノンスリップ構造)が施されているという徹底ぶりだ。
「……おおっ! すごいニャ! まるで本物の高級キャットタワーみたいだニャ!」
ルークが思わず歓声をあげる。
「フッ……耐荷重は一〇〇キログラム以上! 天智(約7キロ)と三つ子たち(計約1・5キロ)が同時に最上階で大暴れしようとも、ビクともしない設計だ。さあ、子どもたちよ! パパという名の大自然に挑むがいい!」
◇
「あうーっ! おっきい! パパ、すごーいっ!」
天智の目がキラキラと輝いた!
生後103日を迎えた天智は、最近ますます知恵がつき、言葉の理解も進んでいる。
「あはっ! のぼるー! おねえちゃん、いちばんにのぼるーっ!」
天智は『順応』ハイハイの力強い脚力で、第1層の「ぽよんぽよんテラス」へとダイブ!
普段の柔らかいスライムなら、ここで天智の重みで「ぬちゃっ」と体が沈み込むところだが、今日の私は違う!
ググッ……!
「ぬおおお……! 効いている! ナノファイバー骨格が天智の体重をしっかりと受け止め、適切な反発力に変換しているぞ!」
私の体内で内部応力が計算通りに分散され、キャットタワーの軸は1ミリもブレない!
「みゅ〜?」「にゃーっ!」「みゅふーっ!」
天智の楽しそうな声に反応して、三つ子たち(クララ、ナララ、ミララ)も一斉に目を輝かせた!
「みゅっ!(突撃にゃ!)」
長女のクララが、新開発の「ノンスリップ側面」に小さな爪を引っ掛け、トトトトッと垂直に近い壁面を駆け登っていく!
「おおっ! 爪の引っかかり具合も良好! 子猫の肉球に優しい柔らかさを保ちつつ、滑らない!」
「みゅー!(うまうまの匂いにゃ!)」
食いしん坊の長男ナララは、第2層の「トンネル洞窟」へと突入!
洞窟の壁面からは、私が体内で精製した「ほんのり甘いミルク風味の魔素気体」が微量に分泌されており、ナララは「うっとり〜」と目をとろけさせながら洞窟の中でふみふみ(揉みほぐし)を始めている。
「みゅふーっ!(天智ちゃん、待つにゃー!)」
そして三女のミララは、天智の背中に飛びつき、天智の服(パパのスライム生地)をつかみながら、天智と一緒に最上階を目指して登り始めた!
「あはははっ! ミララちゃん、いっしょ! いっしょに登るーっ!」
天智がミララの落ちないように気を配りながら、一段ずつ慎重に、けれど力強く登っていく。
そこには、前回の事故から成長した「お姉ちゃん」としての優しさが溢れていた。
「すごい……! 完璧だ! 崩れない! 沈まない! みんなが笑顔で安全に遊んでいる!」
私は自分のバイオ工学の勝利に、感涙を流しそうになっていた(涙腺はないが)。
ルークも感心したようにキャットタワーの周りをぐるりと回る。
「天山さん、これは本当に大成功だニャ! 倒れる気配が全然ないニャ!」
「そうだろう、ルーク殿! 科学と親の愛が合わされば、超えられない壁など存在しないのだよ!」
◇
——しかし。
バイオ学者・風海天山は、またしても子育ての基本を忘れていた。
**「完璧な遊具を作れば作るほど、子どもたちは想定外の遊び方を編み出す」**という、恐ろしい真理を。
15分ほど、平穏で微笑ましいアスレチックタイムが続いた後のことだった。
最上階の「ふんわり展望台」に辿り着いた天智と三つ子たち。
頂上からの素晴らしい眺め(丸木小屋の天井が近く見える)に満足した彼女たちの脳内で、新たな「悪戯の回路」が接続されたのだ。
「あうー……パパ、ここ、たかいねぇ」
天智が、最上階のフチから下を覗き込んだ。
「そうだよ天智、高いだろう? パパのタワーの頂上だからね」
「……ぽよん、ぽよん?」
天智が、私のてっぺんで小さくお尻を弾ませた。
ぽよん……ぽよん……。
高密度に強化されたナノファイバー骨格は、強い「反発力(弾力)」を持っている。
それが何を意味するか——。
天智の目が、悪戯っぽくキュピーンと輝いた。
「……あはっ!! トランポリンだーーーっ!!」
「なっ!???」
天智が『順応』スキルの脚力を使って、最上階のてっぺんで**全力のジャンプ**を開始したのだ!
**ボヨンッッッ!!**
「ぐはぁぁぁぁっ!?」
高反発のスライムボディが、天智のジャンプ力を完璧に増幅!
天智の小さな身体が、室内とは思えない高高さまでドカンと跳ね上がった!
「あはははははっ! とんでるーっ! わたし、とんでるーっ!」
「みゅ〜〜〜〜っ!?(お空飛んでるニャー!?)」
天智の背中にしがみついていたミララも一緒に「大ジャンプ」!
さらに、それを見た長女クララと長男ナララも、「楽しそうにゃー!」と最上階で一斉にピョンピョンと跳ね始めた!
**ボヨン! バヨン! ポヨヨンッ!!**
「あかん! あかんぞ天智! それはキャットタワーであって、トランポリンではないーっ!」
私の強化骨格が、4人の連続ジャンプによる増幅共振を起こし始めた!
物理学でいう**『共振現象』**である!
規則正しく加わる振動が、構造体の固有振動数と一致した時、破壊的な揺れが発生する!
「あにゃにゃにゃっ!? 天山さんがめちゃくちゃ縦に伸び縮みしてるニャーっ!?」
ルークが頭を抱えて叫ぶ!
「ひ、避雷針! いや制振ダンパーを起動……っ、追いつかない! 4人のジャンプのリズムがバラバラで共振波形がカオス理論に達しているぅぅぅっ!」
ボヨン! ビヨン! ギュンギュン!!
天智:「あははははっ!」
クララ:「みゅ〜〜〜っ!」
ナララ:「にゃごーっ!」
ミララ:「みゅふ〜っ!」
子どもたちは大興奮の絶頂!
キャットタワーの頂上で、4人が交互に跳ね上がることで、私はまるで「巨大な生きているアコーディオン」のように縦へ横へと激しく伸縮を繰り返す!
「た、天井に頭がぶつかるニャ! 天山さん、なんとかするニャーっ!」
「無理だぁぁぁっ! 反発力をゼロにしたら全員が激突してしまう! こうなったら……エネルギーを『横』に逃がすしかない!」
私は覚悟を決めた!
「『変化』・スライム・巨大すべり台ロールアウト形態ぃぃぃぃっ!!」
タワーの形状を維持することを諦め、最上階から床に向かって、緩やかなカーブを描く「超ロング滑り台」へと一瞬で構造変化させたのだ!
◇
シューーーーーーッ!!
「「「キャーッ! / みゅ〜〜〜っ!」」」
跳ね上がっていた天智、クララ、ナララ、ミララの4人が、一列になって私の背中の滑り台をシュザーッ!と滑り落ちていく!
摩擦係数を極限まで調整した特製スライム滑り台。
4人は心地よい風を感じながら、丸木小屋の床まで安全かつ爽快に滑走!
ポンッ、ポンッ、ポンッ、ぽよん。
最後は床に敷いた柔らかいスライムマットの上へ、見事に着地!
「……ふぅ……ふぅ……受け……止めた……全員……無事か……?」
キャットタワーから巨大滑り台へと形を変え、全エネルギーを使い果たした私は、へなへなと床の上に潰れた。
静まり返る部屋。
そして——。
「「「「パチパチパチパチパチーーーーッ!!!(歓喜の大拍手)」」」」
「あははははっ! すごーい! パパのキャットタワー、最高ーーーっ!」
天智が大喜びでパチパチと手を叩く!
「みゅ〜! みゅ〜!(最高の遊具だニャー!)」
クララ、ナララ、ミララの三つ子たちも、天智の周りに集まって「もっとやりたいニャー!」と尻尾をふりふりしながら大歓声!
「やれやれ……」
ルークが呆れ顔で、壁にもたれかかりながら笑った。
「キャットタワーとしては失敗かもしれないけどさ……子どもたちにとっては、世界一楽しい遊園地になったみたいだニャ、天山さん」
「……うう……バイオ工学者としてのプライドはズタズタだが……父親としては……まあ、良しとしよう……」
私は平べったい座布団状態のまま、力なくプルプルと揺れた。
◇
夕方。
散々跳ね回り、滑り台で滑り倒した子どもたちは、完全にお腹を空かせてエネルギー切れを起こしていた。
「あむ……ちゅー……」
「みゅ〜……うまうま……」
私が身体から抽出し、温度を人肌に調整した「特製栄養ミルク」を、天智と三つ子たちが並んでちゅうちゅうと飲んでいる。
天智は自分の哺乳瓶(スライム製)を持ちながら、空いた片方の手で、隣でミルクを飲むミララの背中を「トントン」と優しく撫でてあげていた。
「あぅ……ミララちゃん、おいちいね」
「みゅ〜……(おいしいニャ)」
言葉は完全には通じなくても、二人の間には確かな「お姉ちゃんと妹」の温かい空気が流れていた。
頑丈なキャットタワーを作ることはできなかったけれど。
子どもたちが全身で喜び、怪我ひとつなく笑い合える場所を作れたのなら、私のドタバタも無駄ではなかったのだと思える。
「よし……明日からは『ジャンプ力を吸収する衝撃減衰トランポリンタワー』の研究だな……!」
へとへとになりながらも、すでに次なる改良案を練り始める私。
すやすやと眠りについた4人の小さな天使たちの可愛い寝顔に囲まれて、スライムパパの幸せな夜は、静かに更けていくのであった。
(第10話・完)




