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異世界で武技相伝 〜 いやその前に次の人生を楽しみましょうよ  作者: 東杜 伊三技
第1章

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第8話 面接、じゃなくて面談じゃなくて面接

 眼の前にある建物は職員棟だそうで、正面入り口から入って中の通路を通り、そのまま真っ直ぐ裏手に抜けられるようになっている。

 そしてこの職員棟を抜ければ、もう学院の構内だ。


 俺の転入学手続きとかはこの職員棟で行うのかと思ったが、そのまま学院長のところに行くのだという。

 それでこの建物の裏手から少し歩くと、やはり同じような3階建の建物の前に着いた。

 この学院の施設は、それぞれがこのように独立した建物で構成されているのだね。


「ここが教授棟よ。さあ入りましょ」と、俺たちはサテュちゃんを先頭にこの建物の中に入る。

 内部のロビーには受付らしき場所があって、「ちょっと待ってて」とサテュちゃんがその受付に向かって行った。

 そうして受付に座る女性と何か話している。


「学院長さんとは約束済みなのかな」

「事前に話が行っていますからね。それで本日の午前ということで、アポは取ってあります。いえ、なに、今回のことは当初より嬢様のお父上からのお話で行われていますので、学院長が約束を違えるというのは万が一にもありません」


 そうなんだね。

 そのティモ爺の言葉の通り、直ぐに戻ってきたサテュちゃんが「学院長は部屋で待っているそうよ。さ、行きましょ」と言って、スタスタと階段へと向かって行った。



 階段を上り3階まで行く。学院長室があるフロアだ。

 廊下を少し進むと、重厚な扉の前で俺たちは立ち止まった。

 そしてサテュちゃんが扉をノックすると、室内から「どうぞー」という女性の声が聞こえる。

 女性? 秘書とか? いや中に入れば直ぐに分かるか。


 サテュちゃんを先頭に学院長室へと入る。


「サテュちゃん、いらっしゃい。待ってましたよ」

「今日は新学期前の忙しいタイミングですみません、学院長」

「そういうのはいいのよ。それに、普段は自分から何も言ってこない特別栄誉教授からの頼みごとですからね」

「あはは。すみません」


 室内は広くて、大きなデスクの前に応接セット。それからその横には会議テーブルも備えられていた。


 そうして、サテュちゃんが学院長と応えた相手はやはり女性でした。

 それも事前に、エルフ族だと聞いていたのでさりげなく観察すると、なるほど人族よりは長く尖った特徴のある耳が印象的だ。

 でもそれ以外は、普通の中年のご婦人に見える金色の髪のおばさんだね。しかしながら、精霊族の年齢はティモ爺の例もあるので見た目では判断出来ませんな。


 この学院長以外にはあとふたりの人物が居て、ひとりはいかにも武術でもやっていそうなガタイが良くて背の高い40歳代ぐらいの男性。

 もうひとりはその男性よりも少し若い、赤く長い髪を後ろで束ねた細身の女性だ。

 このふたりの男女は、俺たちが部屋に入ったときから俺をじっと見ている。


「ティモさんもお久しぶり。あなたも変わらないわね。お元気?」

「恐縮です。そういう学院長こそ、初めてお会いした時分からかなり年月を経ましたが、あまりお変わりがない。でもまあ、少しは老けましたかね」

「初めて会った頃からしたらそれはそうよ。しかしティモさんも言うようになったわね。あの頃の物静かなあなたが懐かしいわ。うふふふ」

「はははは」


 そういう感じなんですね。同じ精霊族でもファータとエルフは一般的に相性が良くないとは聞いたけど、古い知り合いらしいこのふたり、親しいのかそうでも無いのか。



「それで、今日の本題はその男子ね。初めまして、わたしがこのセルティア王立学院の学院を務めている、オイリ・マルトラです。よろしくね」

「はい。初めてお眼に掛かります。僕はノマディック・シルフィンです。ディックとお呼びください」

「うふふ、ディックくんね。礼儀正しい子で良かったわ」


 俺たちは会議テーブルに俺を真ん中に両脇がサテュちゃんとティモ爺と並びで座った。

 正面はオイリ学院長で、彼女の隣には男性と女性が席に着いている。

 それにしても、第一印象はまずは合格のようだ。なにせ転入学の学院長面接だからさ。


「学院長、俺らも紹介せんか」

「あ、ごめんごめん。このむさいのは、剣術学の部長教授でね。ディックくん、あなたが今日から入る武術特別分校の責任者も務めている、アンセルモ・トルレス教授」

「よろしくな。それから、むさくて悪いな」

「あー、いえ、その、よろしくお願いします」


「それからこちらの女性は、魔法学の部長教授のエルヴィール・ゴーチエ教授。このひとが武術特別分校の副責任者。ディックくんの転入学でまずはご紹介しようと、来ていただいたのよ」

「それは恐縮です。よろしくお願いします……って、僕がこの学院に入るのはもうOKということですか?」


「あら、もうOKかって、サテュちゃん?」

「えーと、このひとには先ほど学院長面接だって伝えたので」

「面接じゃなくて、面談ですよ。転入学が決まった上での面談ね。だいたいが、あなたのお父さまから頼まれたら、もうその時点で決まりなのよ。ファータのお姫さまったら、聞き間違い」

「あー、そうでしたかー」


 学院長面接と学院長面談の聞き間違いね。もう決まってはいたですね。

 俺はなんとなく安堵して、ふーっと大きく息を吐き出した。



「はっはっは。面接なら、それはそれで良いではないか」

「そうですよ。特別栄誉教授のご推薦とは言っても、ご本人とは初めてお会いするんですからね」

「後で時間を貰って、場所を移動してもいいな」

「そうね。そうしましょう」


 おい、そこのふたり、なんか勝手にこの後の予定を決めてるけど、いいのか?

 俺が入る武術特別分校の責任者と副責任者だというから、これからの1年間はこのひとたちにお世話になるのだろうけど。

 でも、剣術学と魔法学の部長教授というからには、この後の展開が予想出来るような。



 それからいくつか基本的な質問をされ、それに俺やサテュちゃんが答えたあと、学院についての説明をして貰った。

 昨晩にも夕食の席でサテュちゃんからざっくりと聞いてはいるので、大まかな概要を理解する感じだ。


 このセルティア王立学院は、およそ900年間の歴史があるセルティア王国の中でも最も古い伝統を誇る教育機関であり、かつ王立でありながら独立した運営を誇りとしている。


 ちなみにその独立運営を一手に担っているオイリ学院長は、かなり長い年月に渡って学院長の任に就いているらしいが、それが何年間なのかは誰も正確には知らないそうだ。

 でも、長い長い付き合いだと言っていたティモ爺なら知っていそうだよな。


 学生数は1学年120名、男女の数はほぼ同数。4学年制なので、総数は480名だ。

 各学年ともAからFまでの6クラスがあり、1クラスは20名の少人数制。

 また全寮制であり、男子寮が第1から第8までで女子寮が第9から第16までとなっている。定員はそれぞれ30名だそうで、1学年につき7名か8名で4学年の学院生が同じ寮で生活する。


 そして俺が転入学する武術特別分校なのだが、これはサテュちゃんが学院に入学した3年前に設置され、実際に稼働を始めたのが昨年からなのだそうだ。

 だから卒業生はまだいなくて、今年の4年生が初めての卒業生になる。


 一般の学院生のカリキュラムでは、3年生からゼミ形式の専門課程が本格的に始まるのだが、このうち武術関係のみを専門課程としたのが武術特別分校ということらしい。まあ特別分校という名称を付けているけど、特別専攻という感じですかね。


 この特別分校には、1年と2年生時に剣術学と魔法学のどちらかの専門課程の講義を受けた者の中から希望し、担当教授が認めた者が3年生から進めるとのこと。

 定員は僅か20名で、まあこれは特化型の専攻だからそうなのかもね。


 講義内容としては、剣術はもちろんのこと槍術、打撃武器術、弓術、格闘術、四元素魔法、特別魔法などなど、だそうだ。


 それで俺がこの少数精鋭の武術特別分校になぜ転入学出来るのかというと、昨年の3年生に病気理由による中途退学者が1名出たからなのだそうだ。

 通常、よほどの特殊な理由がない限り、一般の学院生も含めてこういった中途退学の欠員補充は行わないそうだが、俺のケースはそのよほどの特殊なケースなのですかね。



「ディックくんが所属するクラスは、4年生の特別分校クラスになるわね。それで寮は第7男子寮よ」

「サテュ嬢様のお父上と同じ寮ですな」

「あら、ティモさんは良く憶えてるわね」

「そうなんですね」

「サテュちゃんは、お父さまから聞いてなかったの?」

「大昔の話ですから」


 サテュちゃんのお父上が入っていた寮に、1年間だけだけど俺も入寮することになるのは、これも何かのご縁ですかね。


「第7男子寮には、後でサテュちゃんが案内してあげてね」

「はーい」

「さて、それじゃこれからのことだけど、明後日の3月1日は入学式で、これは全学院生も出席するの。だから、ディックくんも出席よ。いいわね」

「はい」


「それで、入学式が終了したらホームルームだけがあって、その日はそれだけ。翌日から5日間は履修する科目のオリエンテーションで、まあ他の4年生は履修する科目がだいたい決まっているのだけど、あなたは初めてだから、この5日間で自分が履修する科目のどのゼミかを選んでくださいね。ここまではいいかしら」

「はい、大丈夫です。あの」

「わからないこと、あった?」

「履修科目って何科目取ればいいんですか? 必須は何科目以上とか」


「ああ、そうそう、それを言い忘れていたわ。4年生だと自主的な勉学や研究を重視しているので、履修の必須科目数は6科目よ。そのうちの半分の3科目以上は武術特別分校専用の科目からで、残りは一般学院生が履修する他の専門科目のゼミから取ってもいいの。でも、あなたは1年間だけの転入学だから、いきなり専門科目ゼミだと厳しいだろうから、もし希望するのなら、特別に1年生に混じって概論科目を選んでもいいし、すべて武術特別分校専用科目でもいいわよ。その辺のところはサテュちゃんに助けて貰って、じっくり考えてくださいな」

「わかりました」


 最低6科目ですか。5日間のうちで6つのゼミの講義を取れば良い訳で、あとは自分で学んだり研究したりせよ。それ以外に講義を受けたいのなら自分の判断で他の講義を履修しろという、極めて自主性を重んじた設定なのですな。




「そろそろ話はもういいか?」

「そろそろ話はって、本来なら特別分校の責任者であるあなたが説明すべきことなのよ」

「すみませんねぇ、学院長。いつもながらのアンセルモ教授で」

「まあ、わかっていましたから、わたしが説明したのですよ。それでアンセルモ教授。何かしら?」


「ああ、悪かったな学院長。先ほどよ、このディックの坊やとサテュの姫様が、この会を学院長面接と勘違いしてたじゃねえか」

「そうね」

「だったらその勘違いのまま、俺も武術特別分校を預かる者として面接というか、転入学させる前に、ちょっとばかしこの坊やの腕前を見てみたくてよ。なあいいだろ? サテュの姫様」


 さっき彼らが言っていたことだけど、要するにまた腕試しか。

 講義が始まれば、さっき説明された5日間のオリエンテーション期間中に、それぞれのゼミで俺の腕試しはされるのだろうと勝手に解釈していたけど、責任者として転入学前にという、このむさい、じゃなくてワイルドな剣術学部長教授の言うことも理解出来ないこともないよな。

 あと、この3人の人たちの雰囲気や関係性は、今の短いやりとりで何となく分かりました


「いいですよ。実技面接ということですね、アンセルモ教授。いいわよね、ディックさん。それから、いつも言ってますけど、わたし、姫様とかじゃ無いですから」


 俺が口を開く前にサテュちゃんがそう返答した。

 冒険者ギルドでのこともあったし、今日は学院長面接だと思っていて剣術学部長教授と魔法学部長教授も顔を揃えていたのだから、そんな流れになるだろうって彼女も予測していたのかもね。


「承知しました。何をどうすればいいか分かりませんけど」

「おう。そうしたら剣術訓練場へ行くぜ。いいよな、学院長」

「わたしも行きますよ」


 剣術訓練場ですか。これはちょっと楽しみになって来たかもですぞ。


お読みいただき、ありがとうございました。

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