第20話 強化剣術研究部と総合武術部
「強化剣術、とは?」
「まあ、簡単に言うと、剣を繰り出す時にキ素力を込めるのですありますな」
剣にキ素力を込めるか。するとどうなるんだ? 俺も前世で刀などの得物を振るう際に、ここぞというときには気を込める場合があるけど、狙いを違わずに鋭さを増すとか、そんな効果を狙ってのものだよな。
尤も前世では実際に人を殺めたことがないので、これは猪や鹿などの獣相手とかですけどね。
「キ素力を込めると? 強化剣術と言うからには、剣の強度が上がるとか?」
「まあそれもあるのでありますが、正直言って僕らは魔法が苦手なのでありますよ」
「わたしは多少遣えるけどさ」
サイミちゃんは魔法が出来るらしいけど、基本的には強化剣術研究部の部員さんは魔法適性が無い人が多いらしい。
「でありますが、魔法適性が無くて魔法が発動しないとしても、訓練次第ではキ素力を練り込んで、放出することが出来るようになるのでありますよ」
「するとどうなる?」
「それなりの威力があるキ素力を剣に込められるようになると、鋭い剣やより重量感のある剣が振るえるようになるとか、極めると剣の威力が剣の長さを超えて繰り出せるとか、でありますな。いや、最後のこれはかなり難しくて、学院生で出来たのはそれこそアビゲイル閣下とかエイドリアン・デッカー師とか、僅かな人数だと聞いておりますよ」
キ素力を練り込んで放出か。キ素力というのは、それをエネルギーとして魔法を発動させるものであると魔法学概論の講義でも聞いたけど、魔法適性が無い場合でも剣に込めて繰り出すことが出来るのか。
キ素力を練り込むというのが、まだ俺にはもうひとつ分からないのだけど、要するにこの世界の不思議パワーのエネルギー源ということでいいのかな。
「ふーん。それで、その強化剣術というのが、今の部の名前の強化武術になった?」
「はい。これにもまた理由がありましてですな。我が部はアビゲイル・ベネット閣下が創部されたものとお話ししましたが、またその弟閣下である特別栄誉教授閣下もまた当学院に入学されて直ぐに、総合武術部という新しい課外部を創部されました」
その話は聞いてるね。確かもう廃部になってしまって、それがきっかけともなって武術特別分校が出来たということだったよな。
「そうなのでありますな。我が部と特別栄誉教授閣下の総合武術部は、ご姉弟がそれぞれに創られた同じ剣術系の課外部ということで、あ、向こうは魔法も柱とした部だったそうですが。それで、ふたつの部は友好関係にありまして、夏休み中には合同合宿を行うなどのこともされていたそうなのでありますよ。いやあ、僕らの時代にも総合武術部が存在していれば、どれほど楽しかったことでありますか」
だが結局、総合武術部は年月を経て部員数が激減し、遂には廃部となってしまったのだそうだ。
これは、剣術と魔法を二大柱として、そこに体術などの習得練習なども加えるという欲張りなコンセプトが、却って部を維持出来なくしてしまったのが理由であるらしい。
指導者やリーダーの問題なんかもあっただろうしね。
「当時の我が部ではこの総合武術の廃部を惜しんで、それまでの関係性からせめて部の名前からでも意思を引き継いで残そうということで、我が部の名称を強化武術研究部としたのでありますよ」
「なるほどね」
エックくんの説明はこれでひと段落のようだ。
剣を繰り出す時にキ素力を込めて剣の威力を様々に増すという、そんな強化剣術には関心があったし、まだ名称だけだという強化武術というワードにも少し興味が湧いた。
「それで、どうでありますかね、ディックくん。あなたも我が強化武術研究部に入部してみるというのは」
「あー、僕がか……」
「無理しなくていいよぉ。直ぐに色々決めなくていいと思うからね」
エック部長の誘いに俺が少し逡巡していると、横からサイミ副部長がそう言ってくれた。
そうなんだよね。この世界に俺が出現してから、まだ僅か4日目。
この短い期間に、冒険者登録、学院転入学、そして目の前に居るサイミちゃんたちの冒険者パーティへの合流と、色々なことが続け様に決まって行った。
ちょっとペースが早すぎるよな。
これで課外部への入部なんかも決めてしまうと、負担が多すぎるというか、新しく取り組んで経験する事柄があり過ぎて混乱しちゃいそうだし、こなせなくなる可能性もある。
そこはほら、元は70歳の高齢者で、いくら若返っているとはいえ無茶はせずに慎重でありたいよね。
それに、俺の行動については、まだ今のところサテュちゃんと相談して決めた方が良いだろうと思う。
「ちょっと考えさせて貰うよ。相談する相手も居るし」
「サテュ姫ね。そこは大切よ。あら、噂をすれば、さすがの嗅覚よねぇ」
サイミちゃんが目線を向けた方向からは、その当のサテュちゃんがこちらにやって来るのが見えた。
「隣のテントでラウロくんに聞いたら、こっちに居るって言うから」
「エックくんとサイミちゃんから、強化武術研究部の話を聞いていたんだよ」
「そうなのね」
「サテュ姫、こんち」
「あ、こんち、サイミちゃん」
「これはサテュ殿、お久しぶりであります」
「エックくんは相変わらず硬いわね。久しぶり」
「恐縮であります」
それで、サテュちゃんはどうしてこのテント村に来たのですかね。
まあ、俺を探しに来たみたいなのだけど。
「あなたも、課外部の勧誘に巻き込まれているんじゃないかと思ってね。それで総合剣術部の方に顔を出してみたのだけど、こちらだったとはね」
「ちょっと興味が湧いたものだからさ。それに部の成り立ちなんかも」
「ああ、アビー伯母さまのお話ね。それにお父さまの総合武術部との関係性かしら」
「大変恐縮ではありましたが、僕が話させていただきましたのであります」
「それはいいのよ、エック部長」
そうか。サテュちゃんの伯母さんが創部したという強化剣術研究部。そしてお父上が創部した総合武術部。
繋がりという点で、このふたつの課外部に共に関係があるのは、まさにサテュちゃんなのだろう。
だからエックくんも大変恐縮ではありましたが、と言ったのか。
「そもそも、わたしはどの課外部にも所属していない訳だし、総合武術部はとうの昔に廃部になっちゃってるし、強化剣術研究部の方はエックくんたちにしっかりと受け継がれている訳だから、わたしがどうのこうのって出しゃばるのも違うしね」
まだ聞いてなかったけど、サテュちゃんは課外部に所属していなかったんだ。
「わたしはさ、てっきりサテュ姫が総合武術部を再建するものとばっかり、思っていたのだけどぉ」
「それは結局、ひとりじゃ無理だったのよ、サイミちゃん。お父さまが総合武術部を創ったときも、同級生5人と力を合わせて頑張ったという話だし、アビー伯母さまだって総合剣術部から独立するときには、1学年下の三人衆の助けが大きかったって聞いているわ。わたしはたまたま、そういう縁に恵まれなかっただけ」
そう語る彼女の残念そうな、少し悔しそうな表情が笑顔の中にちらりと伺えた。
おそらくそれは3年前の入学時の、今のような時期のことなのかも知れないな。
それから暫くは、強化武術研究部や隣の総合剣術部の新入生勧誘の様子を見学したりして時間を過ごし、サテュちゃんとテント村を後にした。
「少し早いけど、夕食を食べましょうか」
「そうだね」
ふたりでお昼と同じく再び学院生食堂に行き、夕食をいただく。
俺は牛肉とたっぷり野菜の炒め物定食で、サテュちゃんは王都では珍しいという魚や貝、海老などが入ったブイヤベースみたいな定食を注文した。
「こういう味の濃い煮込み料理なら、この王都でも魚介類はなんとかいただけるわ」ということらしい。俺も今度食べてみますかね。
それにしてもこの学院生食堂は、定食メニューが豊富なので有り難いですな。
食事中の話題は剣術学上級ゼミでのことなどで、コーデちゃんとの打ち込み稽古で彼女の木剣を叩き飛ばした話もした。
「うふふ。あなた、必ず何か一回はやらかすのね」
「やらかすというか、それが僕本来の武技だからさ」
やらかすとか非難めいた表現ながら、彼女は面白がっているようで、その木剣を叩き飛ばした様子を見たかったと言って笑った。
まあ見たいのなら、手合わせでもしてやって見せますよ。
というか、どの課外部にも入っていないのに無双姫とか呼ばれているサテュちゃんの剣の腕前は、いかほどのものなんでしょうかね。
「今度、うちに来た時にね」
そうでした。学院生活最初の2日休日は彼女の屋敷に行って、屋敷内にあるという訓練場で手合わせとかをして貰える予定でした。
「それはそうとして、サテュちゃんはどうしてどこの課外部にも入らなかったんだ?」
「さっきの話の続きね。それはね、やっぱりお父さまの影響かな」
「お父上の影響? どういう?」
「簡単に言えば、学院の課外部とはいえ、貴重な時間を訓練に費やすのだから、それなら剣術と魔法の両方をやりたかったのよ」
「つまり?」
「ひとり総合武術部ね」
「ひとり総合武術部……」
要するに、仲間に恵まれなかったことから、かつての総合武術部を再建出来ず、仕方なくたったひとりで総合武術部の訓練を続けて来たということですか。
それって、子供の頃から祖父や父を師匠としつつも、ずっとひとりで家伝の武技を鍛錬し続けてきた俺に似ているかもだよな。
ひとり総合武術部と口に出して、なんとなく恥ずかしそうにしている目の前の彼女の表情を見ながら、俺は消失前の前世の自分が辿った人生を思い出すのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
もしよろしければ本作も、いいねやブックマーク登録、★(幾つでも)で応援してあげてください。




