第19話 新入生勧誘テント村にて
その後は、武器飛ばしの技を使用したことを適当に誤魔化して、マリアンちゃんとラウロくんとも打ち込み稽古を普通にこなし、1時間のゼミを終えた。
「よし、今日はこれで終了だ。片付けて解散」
アンセルモ先生の合図で、借りている木剣などを備品室に返し、着替えて終了だ。
「ラウロ、この後は? 寮に帰るか?」
「いや、これから総合剣術部の新入生勧誘なんだ。なあ部長と副部長」
「そうよ、ラウロくんはあまり部活に熱心じゃないけど、あなたも4年生なんだから、新入生勧誘は頑張ってね」
「たくさん入れるですよー」
課外部の新入生勧誘かぁ。どうやら1年生を勧誘するための各部のテント村が、1年生の専用教室棟の前の広場に既に立ち並んでいるらしい。
それと、学院でも最大規模の課外部らしい総合剣術部の部長がコーデリア嬢で、副部長がマリアンジェラ嬢なんですな。
だから、アンセルモ剣術学部長教授のゼミがこの3名ということなのですか。ラウロくんと木剣を合わせた感じでは、ふたりと遜色がなかったしね。
「ディックくん、あなたも遊びに来てね」
「総合剣術部に入ってもいいんだよー」
「まあ、覗きに来いや」
「うん」
学院らしい課外部の新入生勧誘テント村というのもちょっと見てみたいので、この後行ってみますかね。
それで、総合剣術部の3人はそそくさと片付けを終えて剣術訓練場を出て行った。
「それでよ。ゼミはどうだった? 物足りなかったか?」とは、まだ残っていたアンセルモ先生。
「あ、いや……」
「正直に言ってくれていいんだぜ。その昔に当時の剣術学部長教授を一瞬で倒したお方は、1年生の時から講師扱いだったらしいからな」
「はあ」
それってきっと、サテュちゃんのお父上で、1年生時から剣術学と魔法学の特待生となり、いまもこの学院の特別栄誉教授閣下として尊敬されている方だよね。
「いや、それなりに楽しかったですよ。僕はさっきみたいに、同世代の子と一緒に木剣を振るなんて経験をして来ませんでしたので」
「そうなんだな。大人に鍛えられた結果って訳か」
「ええ、祖父と父ですね」
「なるほどな」
「僕の剣は、先生ももう分かっているかと思いますが、ちょっと特殊な剣というか武技なんですよね」
「まあ、そうみたいだな」
「で、そんな僕の剣は講師とかに向いていませんし、それに仮に講師扱いされたら、同級生と対等に剣を合わせる楽しみが無くなって、寂しいじゃないですか」
きっと特別栄誉教授閣下も、かつて学院生だった当時はそう思っていたんじゃないかな。
まだ会い見えない閣下の剣術は分からないけれど、少なくとも12歳から15歳の年齢だったらそうなのじゃないかなと想像する。
「そうか、分かった。そうしたら他の3名と同じ扱いにしとくぜ。ただし、俺と剣を合わせる機会も多めに作って置くからな」
「分かりました」
着替えを終えて、その新入生勧誘テント村へと行ってみた。
なるほど、学院中の課外部がテントのブースを構えていて、賑やかさと相まって壮観ですなぁ。
えーと、総合剣術部はと、あったあった。さすがが最大規模の課外部だけあって、テントを二振り使用したなかなかのものです。
テント内にはテーブルや椅子なんかも多めに置かれて、面接会場みたいな設えになっており、そこで先ほどまで一緒だった部長のコーデちゃんと副部長のマリアンちゃん、そしてラウロくんが談笑していた。
連結した隣のテントではアマートくんが居て、あれは1年生の女子と男子を勧誘しているみたいだな。
「おお、来たかディック。まあ座れや」
「座れって、僕は部員じゃないから」
「いいの、いいの、なあ部長」
「いいわよ。適当に寛いで勧誘の様子でも見て行って」
「この辺はG組の連中ばかりだしさー」
そうなんだね。見回すと確かにそんな感じで見知った顔が居る。
「でも、見どころのある1年生とかが来たら教えてね。あなたならわかるでしょ」
「目利き、頼むですよー」
「はあ」
見どころのある1年生ね。確かに初見でも分かることはあるけど、顔や姿を見ただけだと情報が少なすぎるよな。俺は観相師とかではないし。
まあ気を放ってくれればまた別だけど。
「おーい、ラウロ、来たのか。あれ、もしかしてディックくん。君って総合剣術部に入っちゃったの?」
ひとりの男子が隣り合った別のテントからやって来た。
彼もG組だよね。誰だっけ?
「エック、僕だって新入生勧誘会場くらいは来るさ。あ、それとディックはまだ総合剣術部には入っていないからな。遊びに来ただけ」
エック、ああエックハルトくんだったな。
「そうしたら、こっちで誘ってもいいのかな? あ、あらためまして僕はエックハルト。隣でテントを構えている、強化武術研究部の部長をしているのであります」
「ご丁寧に、どうも」
強化武術研究部、ですか。
「強化武術研究部というのは、どんな課外部なの?」
「うん、ちょっと説明が必要なのでありますがね、もし良ければ隣の我が部のテントに御足労いただくのは?」
エックくんはそう言って、主にコーデ部長の方をチラチラ見た。
「行ってらっしゃい。エックくんとこはうちから分かれた兄弟課外部だし、他の部の子と話すのも良い経験だしね。それに交流も広がるわ」
「ちょっと変な奴らだけどねー」
「まあ、行ってこいや」
さすが、学院最大規模の課外部を仕切るコーデ部長ですな。度量が広い。
マリアン副部長の言った「変な奴ら」が、ちょっと気になるけどね。
それでエックくんに案内されて隣のテントへと移動した。
こちらにもテーブルと椅子が置かれているけど、2セットだけだね。
俺はエックくんに促されて、そのひとつに彼と対面して座る。もうひとつのテーブルには、おそらく1年生と思われる男子を勧誘している女子が座っていたが、見たことがないのでG組の子では無いよな。
他の4年生か、それとも3年か2年生かも知れない。
「こうして話すのは初めてだね。学院にはもう慣れたでありますか?」
「ああ、慣れたまではいかないけど、さっきまでアンセルモ先生の剣術学上級ゼミに参加していたけど、楽しかったよ」
「それであの3人と一緒でありましたか。それにアンセルモ先生の剣術学上級ゼミとは。途中転入学でアンセルモ先生がゼミの受講を認めたのでありましたなら、それはディック
くんがかなりの剣術巧者ということでありますなぁ」
変な奴らの理由その1。同級生でクラスメイトなのに話し方がいささかバカ丁寧で、それに語尾も頻繁に変。俺や何故かサテュちゃんも、そんな語尾を時々使うけどさ。
「それで、強化武術研究部というのは?」
「ご興味をいただけましたか」
「うん、強化武術、という名称が、少しね」
「なるほどなるほど、これは少し丁寧にお話しせんといかんでありますなあ」
話が長くなるですかね。でもまぁ、4時限目は講義が無いし暇だし、いいか。
「そもそも、我が強化武術研究部という課外部は、元は強化剣術研究部という名称でありまして、この部はかの当学院特別栄誉教授閣下の御姉上であらせられます、アビゲイル・グリフィンあらためアビゲイル・ベネット閣下が創部された課外部であります」
「ほほう」
「もう、エック部長ったら、また大袈裟に話してるぅ」
「あ、サイミ副部長、来ましたか」
「ディックくん、こんち」
「こんち? サイミちゃんもこの部の部員なんだ、って副部長なんだね」
「そうそう、うちの部ってさ人数が少ないから、なんかしないとね」
「なにを言っているのでありますか、サイミ副部長はかの偉大な部長であらせられたエイドリアン・デッカー師の……」
「もうその話はいいから、それより、ディックくんは何しにこのテントに?」
「ああ、強化武術と聞いて、ちょっと興味が湧いてね。それでエック部長にこの部のことを聞き始めたところ」
「それでさっきの大袈裟な話が始まってたって訳ね。まあいいわ。はい続きをどうぞ。わかりにくいところは、わたしが翻訳するから」
翻訳って、まだサイミちゃんの方が話し方は普通だから、まあ助かるか。
「では続きは、アビゲイル・ベネット閣下が創部された課外部であります、からでしたな。元の名称である強化剣術研究部というのは、そもそもが総合剣術部から分かれて独立した課外部でして。その成り立ちは、当時、魔法が苦手であられたアビゲイル閣下が、魔法を用いずに剣の技を格段に強化する“強化剣術”を、当学院でも研究し研鑽しようという目的で、立ち上げられたものなのでありますよ」
「加えて言うと、アビゲイル閣下の養父となったクレイグ・ベネット殿は、その強化剣術の達人だったのよね」
「なるほど、強化剣術でありますか」
釣られた俺の口調、はまあいいとして、魔法を用いずに剣の技を格段に強化する強化剣術ですか。
これは、もう少し話を聞いてみる価値があるかもですなぁ。
お読みいただき、ありがとうございました。
もしよろしければ本作も、いいねやブックマーク登録、★(幾つでも)で応援してあげてください。




