第18話 剣術学上級ゼミでの初稽古
初日の午後の3時限目。この時間はアンセルモ部長教授の剣術学上級ゼミだね。
昼食を共にしたサテュちゃんと別れ、俺はひとり剣術訓練場へと向かった。
ちなみにサテュちゃんも剣術学上級ゼミを選択しているがが、これは通常の学院生のための講義で、別の先生のゼミだそうだ。
俺が受講しろと指定された剣術学上級ゼミは武術特別分校専用のゼミで、同じように武術系と魔法系の実践ゼミはすべて特別分校専用となっている。
なので、どのゼミも4年G組に在籍している学院生、つまりクラスメイトだけの少人数ゼミなのですな。
「よし、来たな」とフィールドにはアンセルモ先生が既に来ていて、ゼミを受講予定の訓練着姿のクラスメイトも集まっている。俺も着替えて来ましたよ。
クラスメイトは3人だから、俺を含めて4名が受講生ということかな。
「ラウロ、よろしく。あとは、えーと」
「よろしくな、ディック」
「わたしはコーデリアよ。コーデでいいわ、ディックくん」
「わたしはマリアンジェラ。マリアンね。よろしくねー」
ラウロくん、ここでも一緒ですなぁ。なんだか本当に縁が深いのかもだ。
あとはコーデさんとマリアンさんの女子がふたり。
一度だけ木剣を交わしただけで何とも言えないけど、アンセルモ教授の剣はパワー重視なんじゃないかと思ったので、女子がふたりも居るのが意外だ。
ちなみに、ラウロくんの相方とも言えるアマートくんやサイミちゃんは、別の教授の剣術学上級ゼミなのだそうだ。
「そうしたら、今年の俺のゼミはこの4名で決定だな」
「先生、わたしたちは昨年からの引き続きだからそうだけど、ディックくんも決まりなんですかー?」
「決まりだ、決まり。なあディック」
「あ、ええ、まあ」
まあ俺としては、剣術学をひとつは受講するつもりだったので、良いのですけどね。
「へぇー。そうしたらお手並み拝見ね」
「うふふ、楽しみ」
「そう言っていられるのは、いまだけだぞ」
「あら」
「そうなのー?」
「ラウロはディックの実力を知ってるのか?」
「あはは、まあ」
そんな雑談もありまして。
「そうしたらゼミを始めるぞ。まずはおまえらの達成目標や訓練テーマの確認だな。昨年からの引き続きだが、動きや技の速さ正確さは共通として、ラウロは一撃の強さか」
「はい」
「コーデリアは、手数をもっと増やしたいか」
「はい」
「マリアンジェラは、更により速くとより美しく、だったか。美しさっているのか?」
「必要でーす」
「まあいいか。ともかく、今年が学院最後の1年だ。その目標達成に向けて精進してくれ」
「はーい」
「それでディック。おまえにも一応聞くが、達成目標や訓練テーマとかは何かあるか?」
「あー、そうですねぇ……」
一応、聞くんですね。達成目標とか訓練テーマとかかぁ。何だろうな。
前世では齢70になるまでに、家伝の武技についてはだいたい達成したと自負しているからなぁ。
「どんな相手にでも対応出来て、普通に闘える、ですかね」
「普通に闘える、か……。おまえの剣術は特殊そうだからな」
そうなんだよね。俺の家伝の武技が常とするのは、一撃必殺ならぬ“一手必殺”だ。
剣であれ、格闘術であれ、暗器を用いているのであれ、一手に必殺を込める。一手で足りなければ二手必殺、三手必殺だ。
要するに、一撃の出来栄えよりも、二手三手となったとしても必殺を重視するということだね。
でも、こんなことを学院の剣術学の講義で言っても仕方がないだろうから、俺が考えたのは、それよりもこの世界で普通に闘えるスタイルも学ぼうかということですな。相手も人間だけでは無いだろうしね。
「まあ、良くわからんが、分かった。ではみんな、この1年、頑張るぞ」
「おう」
「はーい」
ゼミはこういったちょっとしたミーティングでスタートし、そのあとは準備運動のストレッチ、そして木剣の素振り、ふたりひと組になっての打ち込みの稽古。これはアンセルモ教授が相手になる場合もある。
そして毎回ではないが、訓練の進捗度を見るために試合稽古も行われるとのことだ。
まずはストレッチなのだが、これは身体を温め関節の可動域を広げる前世の動的ストレッチに良く似ているというか、そのままなんだよな。
俺も皆が行うのを真似しながら身体を動かしたが、まあ慣れていると言えば慣れている。
そして木剣の素振り。手に持つのは、先日のアンセルモ教授と行った試合稽古の際に使用したものと同じ、刀の定寸二尺三寸五分よりもやや長い短めの両手剣を備品から借りたものだ。
久しぶりの素振りで気持ちが良い。おまけに若返った15歳設定、現在14歳の身体なので、千本ぐらいの素振りは行けそうだ。実際には百本だったけどね。
それから今日は初日ということで、残り時間を三分割して相手を変えながら行う打ち込み稽古。
俺の相手は、まずはコーデちゃんだね。
「打ち手は、まず僕からでいいのかな?」
「いいですよ。掛かってらっしゃい」
アンセルモ先生との試合稽古の時にも思ったのだけど、俺って木剣を打ち合う稽古ってほとんどしたことが無いのですよね。
まあ、ここは慣れるまで頑張りましょう。
「身体に当てちゃったらごめんね」
「当てられるものなら、当ててみなさい」
なるほど、打ち合いにはかなり自信があるようですな。俺は逆の意味で自信が無いんだよな。
アンセルモ先生の「始めっ」の声で、ふた組の打ち込み稽古が始まった。
「じゃ、行きます」
「来なさい」
俺は無造作に歩いて距離を縮め、間合いに入ったところで上段から相手の肩口へと木剣を振り下ろす。
そこをすかさずコーデちゃんが木剣を合わせ、同時にガンと押し返す。
おお、こんな感じですか。
続いて左斜め上段から打ち下ろし、これも同じように合わされて押し返された。
これを十数回続けたのだけど、なんだか形式ばった稽古って感じなんだよな。
もちろん俺の方で、コーデちゃんが合わせやすいように形を決めて打ち込んでいるからっていうのもあるのだけど。
それでもコーデちゃんの表情や動きを見ると、木剣を合わせるのに必死で集中しているのが分かる。
この子って、おそらくこの学院での剣術の上位者なんだろうなぁ。
そうしたら、もう少し難しくしても良いですかね。
俺はいったん距離を取り、それを見たコーデちゃんが「ふう」とひと息ついたそのタイミングに合わせて、急速に接近。
間合いに深く入り、横合いから彼女の木剣を狙って鋭く打ち込んだ。
これって武器飛ばし、あるいは武器破壊の武技なんだよね。相手が構える剣や刀の急所とも言えるある一点に対して、正確に打ち当てる。
尤も、武器を破壊するにはかなりの気、この世界で言うところのキ素力を込める必要があるけれど、いまはそこまでしない。
「あ」
コーデちゃんが慌てて木剣を合わせた瞬間、その木剣は彼女の手から吹き飛び、数メートル離れたフィールドにガランと落ちた。
「え? どうして?」
木剣が吹き飛んだのを見て、少し離れてふた組の打ち込み稽古を見守っていたアンセルモ先生が走ってくる。
その様子に、ラウロくんとマリアンちゃんの組も打ち合うのを止めてこちらを見た。
「ディック、何をしたんだ?」
「あー、打ち込みはだいたい分かったので、武器飛ばしをちょっと」
「武器飛ばし? それはおまえの例の技なのか?」
「あ、ええ、家伝の……」
ちょっとまたやっちゃいましたですかね。
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