第16話 入学式とホームルーム
本日は3月1日ということで、セルティア王立学院の入学式と春学期初日の当日になった。
ラウロくんとアマートくんに連れられて、学院講堂という大きな施設に向かう。要するにシアターかホールですな。
アリーナの座席は最前列が主役の新入生。こちらはまだ空席だ。
その後ろからが在校生で、2年生のA組からF組、そして3年生のA組からF組だが、ここに武術特別分校の1クラスが加わる。4年生も同様だね。
武術特別分校のクラスはそのままだと名称が長いので、便宜的にGクラスと呼ばれているのだそうだ。
ということで、俺たちはその4年生Gクラスの席に行く。サイミちゃんが先に来ていて手を振っているな。その他のGクラスのクラスメイトも揃っているようだね。
武術特別分校のクラスの人数は定員が最大20名と聞いていたけど、ラウロくんとアマートくんに事前に聞いていたのは、4年G組は俺を入れて男子10名、女子8名の計18名なのだよね。
これは特別分校が2年生終了時で希望者を募り、剣術学と魔法学関係の成績も考慮して選抜されるからで、定員割れは致し方ないとのこと。
その点では、病気退学の男子が出て17名となったところ俺が加わったので、なんとか18名に戻った。
「こいつが噂の転入学生な。ディックだ。今日からよろしく付き合ってやってくれ」
「ディックです。よろしく」
「おう、それぞれの自己紹介は後でいいんだろ? ラウロ」
「そうだな。それはホームルームの時で」
「そうしたら、取りあえずよろしくだ」
「よろしくねー」
「なんだか強そうよ」
「ちょっと、イケメンかも」
「無双姫が後見人だって聞いたわよ」
「えー、その情報は何処から」
「ナイショの情報源」
「サテュちゃんが彼女とかじゃ無いわよね」
「そこの情報はまだですわ」
えーと、女子の方が8名と数が少ないのだけど、元気さと姦しさは男子の三倍はありそうですな。
ちなみに、ナイショの情報源云々を口にしたのはサイミちゃんだから、情報源てあなた自身でしょうが。
なお、名前の挙がったサテュちゃんは4年A組なので、席は少し離れております。
やがて新入生がバラバラと入場して席に着き始めたので、ひときわ騒がしかった俺たちの席も静かになった。
入学式が始まる。何人かのスピーチがあって終わるということだったので、長々とした退屈な話を覚悟していたのだけど。
学院長挨拶、来賓の王宮内政部とかのお役所の副長官挨拶、教授代表挨拶、学院生会会長挨拶、そして新入生代表挨拶と続いたけど、それぞれが短いスピーチでサクサクと式が進んで行く。
ちなみに教授代表はアンセルモ剣術学部長教授で、エルヴィール魔法学部長教授と毎年交代で務めているのだとか。
あと、学院生会会長というのは、もしかしたらサテュちゃん? とか一瞬思ったけどそうでは無かった。
一年交代で今年の会長職を務めるのは、リューディア・サルディネロという4年生の女性で、王国南部のサルディネロ伯爵家のご息女だとアマートくんが教えてくれました。
それで入学式もあっという間に終了し、このあとは今年最初のホームルームなのだということで、学院講堂を後にしてクラスの皆で専用教室へと移動した。
講堂を出る際に、やはり同じく4年A組の専用教室へクラスメイトと移動するサテュちゃんが、俺の方を見て小さく手を振っていたので、俺も振り返す。
側を歩いていたクラスメイトの女子たちが、コソコソ話していたのは分かっていたけどね。
4年G組の専用教室に入って、席は自由だというのでラウロくんとアマートくんの側に着席する。
するとクラス担任の教授がやって来た。いえ、何のことはないアンセルモ先生なのでしたけどね。
通常、部長教授はクラス担任にはならないのだそうだけど、このクラスが初めての武術特別分校のクラスだということで、責任者のアンセルモ教授が引き受けたらしい。
ちなみに3年生のG組のクラス担任は、エルヴィール教授だということだ。
「よーし、静かにしろ。今年、お前らは4年生で最後の年だ。年の終わりには卒業式を迎えるが、剣術特別分校初の卒業生となる。卒業後の進路については皆それぞれだろうが、初の卒業生とし悔いのないよう、残る10ヶ月を過ごしてくれ。俺からは以上だ……おっと、普通に馴染んで座っているから忘れるところだった」
忘れないでください。
「皆も既に知っていると思うが、今年1年だけになるが転入学生のディックが今日からこのクラスに加わる。ディック、挨拶しろ」
「転入学生のノマディック・シルフィンです。ディックと呼んでください。10ヶ月だけのクラスメイトになりますが、よろしくです」
「よし、クラスの連中それぞれの紹介は後でやってくれ。あとクラス委員からは何かあるか? ラウロ」
「あー、特にありません」
ラウロくんはクラス委員でもあるんだね。クラス委員は名目的にクラスのリーダーで、学院生会との繋ぎ役をするらしい。
「ただ、頑張るのは秋の学院祭の時だけだけどね」とはアマートくん。
「そうしたら、ホームルームはこれで……」
「はい、はい、はーい」
このホームルームも実に淡白で、アンセルモ先生がさっさと終わらせようとしたのだけど、女子の何人かが同時に手を挙げた。
「なんだ?」
「これで終わりだとつまんないので、デイックくんに質問タイムでーす」
俺に質問? つまんないから? まあいいですけど。
「デイックに質問タイムかよ。まあ好きにやってくれ。じゃあ、ここからはラウロ、頼むな」
「わかりました。それでデイックに質問て、なんだ?」
アンセルモ先生は単に面倒臭いだけなのか、進行をクラス委員のラウロくんに渡した。
「えーと、サテュ姫さまとのご関係は?」
「まだその質問は早いったら」
「まずは出身地ね。ディックくんのご出身は?」
「あ、僕の出身地はセルティア王国ではなくて、北方山脈の向こうのリガニア地方のヴィリルムという街です」
「へぇー、外国から来たんだー」
「リガニア地方というと、昔に戦争があったところよね。いまはもう大丈夫なのかしら」
そうなんですね、俺も初めて知りました。
「あー、いま現在は平和だと思いますよ」と、取りあえず答えておく。特段物騒な話は聞いていなかったからね。
「その外国であるリガニア地方から、ディックくんはどうしてこの学院に?」
「僕の両親とサテュさんのお母上のご実家が知り合いだということで、そのご縁でこの学院を紹介いただいて、それで転入学することになりました」
「そこでサテュ姫さまとの関係が出てくる訳ねー」
「なるほどなるほど」
それから質問タイムは暫く続いたけど、いちおう俺のカバーストーリーの範囲を超えるものでは無かったので、なんとか乗り切りましたよ。
とにかく彼女たちの関心ごとは、俺の武術的な実力とかそういうことよりもサテュちゃんとの関係がどういったものなのかが第一だった。
その点では俺の転入学の経緯から、彼女の家が支援者としてお世話をしてくれていると答えるしかなかったのだけどね。まあ彼女たちは、それ以上のことを聞き出したかったようだけど。
それで、質問タイムもほど良い頃合いでラウロくんが「時間も時間だから、これで終了」と切ってくれて、俺はなんとか解放されました。
「そうしたら、明日から5日間は受講科目選択のオリエンテーションだ。ディックは分からないこともあるだろうから、ラウロとそれからアマートも手助けしてやってくれ」
「分かりました」
ということでホームルームは終了。解散となったところで、アンセルモ先生に手招きされて呼ばれた。
「何ですか? 先生」
「クラスはこんな感じだ。面食らうところもあるかもだが、まあ大丈夫だよな」
「はい、大丈夫です」
いちおう先生も俺に気を遣ってくれていたんだね。面白そうに質問タイムを聞いていたけどさ。
「それでだ。明日からのオリエンテーションだが」
「はい」
「おまえ、俺の剣術学上級ゼミは受講決定な?」
「はい……、はい?」
「通常は3年生の時のゼミ受講から引き継ぐのだけどな、おまえは特例だ」
「あー、そうなんですね。それは決定ということですか?」
「決定も何も、俺を瞬時に倒したおまえが、俺のゼミに入らなくてどうするんだよ」
「あー」
「ということで、よろしくな」
「あ、はい」
そういうことですか、そうですよね。
学院の剣術学部長教授を瞬時に倒した学院生は、サテュちゃんのお父上以来だそうなので、その責任を取れというか責務としてゼミに入れということですよね。
はい、分かりました。これで1科目は決定です。
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