第15話 冒険者パーティ加入の話し合い
ラウロくんたちの冒険者パーティに“入ります”というサテュちゃんからの逆提案を受けて、暫しの驚きと動揺から復活した3人が話し合いを始めたので、俺とサテュちゃんはそれを見守るかたちになった。
それぞれの発言を聞いていると、どうやら3人とも拒否するという意見ではないらしい。
拒否はしないものの、俺とサテュちゃんのふたりが加わって5人パーティとなった場合、あらためてリーダーはどうするのか、ポジションはどうするのか、活動はこれまで通り12日に1回でいいのか、パーティ名はどうするのか、などなど。
そんなわりと具体的なことを話し合っている。
「5人パーティって難しいのか?」
「冒険者パーティは3人から5人が普通だから、別に難しいことはないわよ。ただこのメンバーだと、5人全員が前衛になっちゃいそうよね」
「そうなのか」
「バランスの良い5人パーティだと、斥候職がひとりは欲しいし、前衛の剣士か戦士が2名として、あとは魔法職がふたりで、そのうちのひとりは回復魔法が出来るとベストね」
「ほほう」
「あなた、弓矢は?」
「弓矢か。出来るよ。いちおう鍛錬しているからね。で、どうして?」
「魔法が無理でも、弓なら遠距離攻撃が出来るでしょ」
「そうだな」
この世界の特に冒険者が使用する弓は短弓だそうだ。
俺の前世で一般的だった和弓は、全長2メートルを超える世界でも最大級に大きな長弓だ。
それに比して、一般的な短弓は1.2から1.6メートルで、この世界でもそのぐらいの長さらしい。
俺は普通の和弓のほか、忍びが使うような取り回しの良い短弓の鍛錬も積んでいたので、弓の扱いにも慣れている。
「ラウロくんとアマートくんは剣士だから前衛が決まりとして、魔法も出来るのがサイミちゃんとわたしね。なので、サイミちゃんには魔法の遠距離攻撃と剣での攻撃もこなせる遊撃役をしてもらって、わたしも両方出来るけど回復魔法も出来るから後衛かしら」
「なるほど」
「なるほどぉー」
途中からこちらの会話を聞いていた3人が声を揃える。
「それで僕は?」
「ディックくんも前衛が良いのかもだけど、あなた弓が出来て体術も出来て、素早く動くのも得意でしょ。それに、気配察知とかも出来そうだから、斥候職兼前衛はどうかしら?」
この5人で戦闘を行う場合、いまは想定するしかないけれどそんな役割でも俺は大丈夫だよな。忍びに近い鍛錬もして来ているしね。
「まあ、大丈夫だと思うよ」
「それはいいな」
「ディックくんが斥候職をしてくれると、ほぼ全部のカバーが出来そうです」
「サテュちゃんが後衛で、回復魔法も遣ってくれちゃうと安心感が増すわ」
3人もこのポジション案には大賛成のようだ。
「そうしたら決まりだな。ディックもパーティに入るでいいんだよな?」
「僕が入るから、サテュちゃんも入る、だから。僕が入る前提ですよ」
「よしっ、これで決まりだっ」
「おー」
男子ふたりが拳を突き上げ、釣られて俺も拳を上げる。
「ちょっと待って」
「なんだ、サイミちゃん。何か問題でもある?」
「問題じゃなくて、わたしも大賛成。でももうひとつ」
「もうひとつ?」
「メンバーが5人になったわたしたちのパーティ名が、まだはっきり決まって無いわよ」
そういえば昨日も聞いたよな、北辺のなんとか。
「ちなみに、わたしは北辺の狼ね」
「強さから言えば、北辺の獅子だろ」
「北辺に獅子は居ないわ」
「やはり、北辺の鷲ですね」
おそらくは何回も繰り返しただろうやり取りをそんな風に言い合って、俺とサテュちゃんの方を見てくる。
何? 決めてほしいって? うーむ。
「北辺の疾風ね」
「北辺の疾風……」
「おおー」
「僕もいいと思うな、北辺の疾風」
「カッコいいかも」
「さすがはサテュさんです」
「うーん、皆がいいなら」
「あなたはどうなの? ラウロくん」
「あー、わかった、賛成。僕たちは北辺の疾風だ」
「おー」
今度は全員で拳を突き上げる。北辺の疾風か。俺自身は北辺という単語へのこだわりが分からないけれど、鋭く力強い何かを感じる良い名称だと思う。
「あとはリーダーだな」
「リーダーはあなたがしなさい、ラウロくん」
「え、僕かよ」
ここまでの流れだと、てっきりリーダーはわたしがするとサテュちゃんが言い出しそうな気がしていた。たぶん3人もそうだよね。
「これまで、あなたがリーダーだったんでしょ」
「まあ、はっきりとは決めていなかったけどな」
「でも、実質的にそうでしたね」
「声も大きいし」
声の大きさは関係が、いや、戦場では声の大きさが統率者の印だ。いわゆる戦場声というやつだね。
冒険者の仕事場も、戦場では無いにせよそれに近いだろう。
「活動する時もだけど、ギルドでとか、冒険者同士のやり取りとか。そういう点ではわたしたちは初心者だし、経験も無いから。だからラウロくん、お願いします」
「お、おう、そうだな」
「頼むぜ、ラウロ」
「お願いしますよ、ラウロ」
「交渉役とかもあるからさ。ラウロくん、頼むね」
そうなんだよな。
冒険者どころか、この世界そのものにまったく初心者の俺は問題外として、先日の冒険者ギルドでのギルド長とのやり取りからすると、サテュちゃんを前面に立てない方が良い気がする。
あの時もギルド側が随分と警戒というか、遠慮をしていたようだったしね。
こうして俺とサテュちゃんの加入決定に加えて、パーティ名やリーダー、各メンバーのポジションも決まり、あとは活動を始めるだけとなった。
それについては彼らのこれまでの活動通り、基本的には学業優先で学院の2日休日の2日目となる。
「そうしたら、10日間の講義が終わった、最初の2日休日の2日目の午前に冒険者ギルドに集合な。その時にギルドには正式にパーティ名とメンバーの届出をして、それが終わったら手始めに近場の森に出かけようぜ」
「わかったわ」
「そうしましょう」
「おー」
「森に行ったら、互いの動きの確認をした方がいいかもね」
「そうだな」
「そうしましょう」
「おー」
ここまでのやり取りを聞いていると、活動の全般面はラウロくんがリーダーとして引っ張り、戦闘面に関してはサテュちゃんが率先して意見を言う感じですかね。
まあ、お互いの動きを確認するというのは基本中の基本だと思うので、最初にすることとしては当然なのでしょうな。
前世で記憶する味そのままのグリフィンマカロンの甘さを味わいながら、暫く雑談をしてから解散となった。
ラウロくんとアマートくんは剣術訓練場で少し木剣を合わせて行くと言い、サイミちゃんは「こうなったら、魔法を磨かなきゃ」と、いちおう在籍している課外部の総合魔導研究部の自主練習に行くのだそうだ。
俺はラウロくんとアマートくんから誘われたけれど、サテュちゃんとふたりでもう少し話したかったこともあって、それは断った。
「いいの? 男の子同士の付き合いは」
「まあこれから、いくらでもそういう機会はあるだろうからさ。それに」
「それに?」
「それに、僕がこの世界に出現して以来、キミにはこうして毎日お世話をして貰っていて。僕が誘われたせいで、キミまで冒険者になってパーティに入ることになっちゃったけれど」
そうなんだよな。サテュちゃんは冒険者登録をしていないので、彼女の登録もしなければいけない。
「そもそも、キミがどのぐらい闘えるのか、どのくらい強いのかを、僕はぜんぜん知らないんだよな」
「ははーん、それはそうだったわね。……あなたなら、ラウロくんたちの実力はだいたい把握出来てるでしょ?」
ラウロくんとは実際に相対しているし、アンセルモ剣術学部長教授と木剣を合わせた感覚から、この世界のというか、少なくとも学院の剣術がどの程度のものかを知ることが出来ている。
だけど、半神半精霊と人間とのハーフ? と言っているサテュちゃんの戦闘力がどのくらいのものなのか、まったく想像が出来ないんだよな。
「そうねぇ。そうしたら次の2日休日の1日目はうちの屋敷に来なさい。うちには訓練場があるから、そこで。それで、あなたはうちに泊まって、翌日は冒険者ギルド。そんな予定でどうかしら」
「承りました」
「また前世感が出てるわよ」
「OK、それで行こうぜ」
「あはは、ちょっとぎこちないけど、まあいいか。じゃ、そうしましょう」
明日が入学式と春学期の開始で、翌日から10日間は講義選択のオリエンテーション。
そうしてその翌日の初めての休日に、サテュちゃんのお屋敷に行くことになりました。
でも子爵様のお屋敷だよね。貴族屋敷ってどんなところですかね。
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