第14話 逆提案
席を食堂の方に移して、サテュちゃんとお昼ご飯をいただいた。
昨日のカフェレストランではパスタランチだったけど、若い身体となった男子としてはやっぱり肉だよな。前世で言う生姜焼き定食のような、香辛料の効いた牛肉と野菜の炒め物をガッツリ食べる。
食堂の方に移動する頃合いには、同じように昼食を摂る学院生たちの数が増えて来る。
明日から春学期なので、ほぼ全員が登校して来ている筈だということだった。
そんな学院生の特に女子だけど、「サテュちゃん、こんちゃー」とか「おひさー、サテュちゃん」とか言って、俺たちのテーブルに近寄って来て、俺を見て「誰コイツ」という不審の眼を向けるのは、おそらく同級生なんだろうな。
それから、「サテュさま、おはようございます」とか「こんにちはです、サテュお姉さま」とか言って来て、俺を見て「誰ですかコイツ」という不審の眼を向けるのは、おそらく下級生でしょうね。
ともかくもここで食事をしていると、新学期の始まりということもあってサテュちゃんに挨拶してくる女子学院生が多い。
一方で、たまに声を掛けてくる男子は同級生だそうで、それ以外の男子は遠目からこちらを見ながら、俺を見て「誰だよアイツ」という不審の眼を向けて来ますな。
「そのうちあなたのことは知れ渡るから、珍しがられるのは、いまだけよ」
知れ渡るですか。まあ、全寮制の隔離された小さな社会だろうからね。
でもそれだけ一緒に居るサテュちゃんが、学院内でも有名人だということではないかな。
食事が終わったので、俺たちは学院生食堂を出て移動した。
実は今朝、散歩に出る前に寮でアマートくんと顔を合わせたんだよね。
その彼からは、今日の午後にでも冒険者パーティに加わるかどうかの件について、サイミという女子メンバーも呼んで話さないかと持ち掛けられた。
俺としてはもちろんOKだ。ただし、お昼はサテュちゃんと一緒なので、そのまま彼女も加わるだろうとは予想していた。アマートくんには言わなかったけどね。
それでそのことを話すと「当然、私も加わるわ」ということで、いまは彼らと待ち合わせている剣術訓練場前へと向かっている。
待ち合わせ場所は学院生食堂でも良かったのだけど、今日は学院生が増えるだろうから静かな場所にしようと、別の所にしました。
その剣術訓練場の入り口に3人の人影が見え、向こうも俺たちふたりに気がついたようだ。
のだが、俺の隣にサテュちゃんが居るので少し慌てているようだった。
「サテュ姫も来られましたか」
「どうして無双姫が居るのぉ?」
「まあ僕は、彼女が一緒だとなんとなく思ったけどな」
3人それぞれの反応。アマートくんは冷静で、サイミさんはちょっと不満そう。そしてラウロくんはそうだろうなと諦めの表情だった。
「わたしが居るのが嫌かもだけど、ディックくんて、うちが面倒を見ることになってるから、少し我慢してよ」
「我慢て、そういうのじゃないけどさー」
「この集まりの理由は、ディックくんから聞いてるんですよね」
「聞いたからこうして付いて来たのよ」
「おい、サテュっち、まさか反対して話をぶち壊すために来たんじゃないだろうな」
「反対とかぶち壊すとか、わたし、そんな壊し屋じゃないわよ。逆、逆」
「逆って?」
「まあまあ、立ち話も何だから、どこかに腰を落ち着けてから……」と俺が間に入る。
「そうね。そうしたら、そこのカフェレストランでお茶でもしながら話しましょ。予定外のわたしが参加しちゃったから、わたしの奢りでいいわよ」
「やったー、さすが、無双姫さま」
「無双姫さまはやめなさい」
「はーい」
サイミさんて、サテュちゃんがちょっと苦手なのかと一瞬心配したのだけど、そういうことでは無かったようだった。
まあ同じ北辺という地方の出身だし、そもそもが3年間もこの学院で暮らしているんだよね。
昨日も来たカフェレストランは、昼時を過ぎたということで空いていた。
それぞれがカーファや紅茶を注文し、俺は今回は紅茶にした。
「ねえ、せっかくのサテュちゃんの奢りだから、甘い物も行っちゃわない? グリフィンマカロンとか」
「お、いいですね」
「たまには甘い菓子もいいか」
「まあ、いいわよ」
「やったー」
グリフィンマカロン? この世界にもマカロンがあるのか。
前の世界で俺もそう何度も食べた経験がある訳ではないけれど、確か○○○マカロンとかオシャレな地名を冠したマカロンがあったような。
で、グリフィンて、サテュちゃんちの家名だよね。
「これはうちのお父さまが開発したお菓子。うちって、陰で“デザート貴族”って呼ばれてるくらい、お菓子やデザートの開発商品が多いのよ」
「ははあ」
「それで、グリフィンマカロンは最初期のもので、初披露もこの学院だったそうで、このお店でメニューとして出している訳」
「出来れば、“ザックさまトルテ”もメニューに加えて欲しいわよねー。あれって、グリフィニアに行かないとお店では食べられないし」
「あれはダメ。品質を守るために、お父さまが許可しないのよ」
「そうなんだー」
“ザックさまトルテ”ですか。トルテというからにはケーキの一種だと思うけど、こちらは家名じゃなくて人名が付いているのですな。それで、そのザックさまというと?
「お菓子の話もいいけどよ、本題だ」と、ラウロくんがお菓子話題から話を戻した。
「そうですよ。あ、グリフィンマカロンは注文しましたから」
「ありがとう、アマートくん」
「まずはサイミちゃんと、ディックとの紹介だな。冒険者ギルドでは顔を合わせているけど、ちゃんとした挨拶は初めてだよな」
「ディック、です。昨日にこの学院の武術特別分校に転入学して、第7男子寮に入りました。今年1年間だけだけど、よろしく」
「ふたりから聞いたけど、本当に同級生になったんだ。わたしはサイミ、サイミ・デッカー。ラウロくんのとこのお隣の、デルクセン子爵家領の騎士爵家の出身ね」
「あ、ご丁寧に。僕はノマディック・シルフィン。貴族ではありませんが、リガニア地方のヴィリルムという街の出身です」
「へへぇー、ディックくんて、聞いた通りホントに律儀で大人びて居るのねー。でもさー、同級生なんだから、もっと砕けた感じでいいのよ」
隣で、俺の本当の魂年齢を知っているサテュちゃんが、可笑しそうに声を出さずに笑っております。
「それで、ディックが僕らのパーティに入る件だけどよ、サテュっちはさっき言ったことの続きを話してくれ」
「わたしがこうして付いてきた理由ね。さっきも言った通り、このディックくんが国外から来て学院に転入学するにあたっては、ちょっと理由は言えないのだけど、グリフィン子爵家が全面的に支援することになっています」
「まあ、サテュっちの家らしいな」
「そうね。それで、彼が冒険者になるにあたっても、行動はまったく自由なのだけど、やっぱり外国だし、暫くは眼の届くところに居て欲しいのよね。……ということで、わたしもあなたたちのパーティに入ります。以上」
「…………」
「……はあ?」
「……え?」
「ええーっ!!」
それはいきなりの無双姫からの逆提案で、驚きますわなぁ。
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