第11話 友だちが出来たのかな
今日の予定は、学院生食堂に付設しているという売店に行って、暮らしに必要な日用品を購入するのと学院生食堂の様子を見て来るぐらいだ。
それで俺は、ラウロくんとアマートくんと集会室で少し話す感じになったのだけど、後で売店に行くと言うと、「それなら、一緒に学院生食堂に行って話そうぜ」ということになった。
俺やサテュちゃんたちの顔を見て「うげっ」とか言ったくせに、話してみるとわりと人懐こい連中みたいだね。
それに俺ひとりで初めての場所を探しながら行くよりも、連れて行って貰えるのはありがたい。
半神半精霊と人間が混ざっているというサテュちゃんは別にして、14歳15歳ぐらいの男子たちと俺がうまく会話が出来るのか。
そこのところがちょっと心配だったけど、まあ見た目が同じ年齢なので彼らにはもちろんそんな歳の差など分からず、問題は無さそうだった。
学院生食堂というのはとても大きな施設で、総合競技場という施設や先ほどの剣術と魔法の2つの訓練場を除けば、学院では此処とあとは学院講堂が最も大きな建物なのだそうだ。
内部の様子は、大学キャンパスの食堂や大企業の社員食堂といった雰囲気だね。
横長の広いオープンキッチンがあり、トレイを滑らせて行きながら料理を注文したり出来ている惣菜を取ったりと、まあ要するにカフェテリア方式だ。
席数は学院生全員をいちどに収容出来るのではないかというぐらいに多く、また出入り口近くには飲み物だけで過ごせるカフェのエリアもあり、こちらも席数が多い。
俺たちが行ったときには昼食の時間を少し過ぎた頃合いで、また春学期前の休暇期間中ということもあってか、食堂の方にもカフェの方にも何人かが居るくらいだった。
「学院生食堂でも、グリフィニア産のカーファが飲めるんだよな。ディックはカーファって大丈夫か?」
寮で少し話してそれから学院生食堂に来るまでで、俺たちはディック、ラウロ、アマートと、ファーストネームで呼び合うようになっていた。
こういうところが若いっていいよなとか思う。みんながみんなそうでは無いとは思うのだけど、特に俺とラウロくんは拳を交わした仲、あ、拳を振るったのは俺だけでしたっけ。
まあそんな出会いの間柄だからね。
それぞれがカーファを手に席に着いた俺たちは、それでもあらためて家名をちゃんと含めた名前を紹介し合うことになった。
「僕は、ラウロ・ブライアントな」
「彼、こう見えてもブライアント男爵家の嫡男」
「それはいいって」
「それで、ディックは知っているのかどうか分からないけど、君が一緒に居た無双姫のサテュさんとは親戚なのです」
「それはもっといいって。僕のことよりも自分の紹介をしろ、アマート」
「はいはい。僕はアマート・アマディ。エイデン伯爵領のアマディ準男爵家の長男です」
「俺のことを言ったこいつも、実は無双姫の、というか、そのご両親とは縁が深い家柄なんだぜ」
「へぇー」
「その辺のところは追々」
いま初めて知ったけど、というかサテュちゃんやティモ爺が教えてくれなかったからだけど、このふたりってサテュちゃん自身や彼女の家と関係が深かったんだね。
これは明後日、彼女に聞いてみないとだな。
「僕はノマディック・シルフィン。ディックは呼び名ね。家名はあるけど家が古いからだそうで、いまは貴族でもなんでもなくてただの一般庶民。生まれ育った実家はセルティア王国内じゃ無くて、リガニア地方のヴィリルムという街なんだ」
これは、昨晩の夕食時にサテュちゃんとティモ爺とで相談した俺のカバーストーリーね。
家名はサテュちゃんのご両親の家名を繋げて新しく作ったものだけど、外国のとても古い家柄の家名ということにした。
そうすることで、かつては貴族だったかも知れないし、そうで無いかも知れないと曖昧に。
あと、俺の武術が古い家伝だということを何かの折に口にする可能性が強いので、古い家柄とする方が都合が良いのだ。俺の前の世界の家名である葛上もとても古かったしね。
それから、俺がどこから来たかについては、セルティア王国の隣にあるリガニア地方に実際に存在するヴィリルムという街とした。
ここはサテュちゃんのお母上やティモ爺の故郷にいちばん近い街だそうで、リガニア都市同盟という連合体の一員である都市国家なのだそうだ。
まあ、北方山脈という山脈を挟んだ向こうで、セルティア王国から行ったことのある人が少ないそうなので、これも都合が良いだろうとのこと。
「ふーん、そうなんだ。アマートはヴィリルムって街のこと、知ってる?」
「いえ、名前は聞いていますけど、実際に良くは知りませんね。うちの父なら知っていると思いますけどね」
「そうか、でもリガニア都市同盟のヴィリルムから来たのなら、サテュやティモさんが世話をしているのは頷けるよな」
頷けるんだ。でもここで、なんで? と逆に聞いたらボロが出ますよ。黙って頷いているのが正解です。
「あ、そうか。サテュ姫の母上やティモさんの実家は、あっちの方だって僕も聞いたことがある」
「そうなんだよ。でもこれは秘密事項なんだけどな。僕たち親戚だと、ぼんやりとは知っている」
「なるほどね」
「ディックはそこに行ったことがあるの?」
「いや、流石にないよ。僕の受け入れというか、支援者としてサテュちゃんの家が名乗りを挙げてくれただけなので、僕自身は良く分かっていないんだ」
「そうなのか。まあそうなのだろうな」
「サテュちゃんのご両親だものね」
おそらくは俺より遥かにサテュちゃんのご両親や家のことを良く知っているだろうふたりは、そう言ってそれぞれに納得してくれました。
「ねえ、ラウロもアマートも冒険者登録をしてるんだよね?」
「ああ、昨日にギルドで会った通りに、そうだな」
「ラウロと僕と、あと昨日にギルドで一緒に居たサイミちゃんね」
「ディック、おまえも登録したんだろ」
「うん、ラウロが相手してくれたお陰で登録できたよ」
「僕のお陰じゃねーし。それに普通は、腕前確認とかしなくても登録出来るんだぜ」
「ああ、それは、サテュちゃんとティモ爺が連れて行ったから、ギルド側が警戒したらしいって、ティモ爺が」
「ティモさんがそう言うんじゃ、そうなんだろうな」
「でもそうだったから、ディックの強さが分かったよね」
「ま、まあな」
このふたりは、今日の午前中に俺がアンセルモ教授と試合稽古をして一方的に倒しちゃったことをまだ知らない。
知ったらどういう反応をするですかね。まあ、アンセルモ先生たちが公にしない限り、自分からは言わないけど。
「で、普段は冒険者としてどういう活動をしてるんだ?」
「僕たちは、昨年に武術特別分校に入って、それから冒険者活動を始めたんだよね」
「まあ、2年生までは他の学科の勉強なんかも忙しいし、課外部にも入っていたからな」
「総合剣術部ね。まだ在籍はしていて、放課後は課外部、休日は冒険者って感じ」
「へぇー、忙しそうだ」
「そうでもないんだよ。休日は冒険者と言っても日数の掛かる依頼仕事は受けないから、2日休日のうちのどちらかで、近場の森で薬草採取とか獣狩りを地味にコツコツとね」
「まあ、そのお陰で、俺たちも1年を掛けてDランクになったんだけどな」
「せめてDランクぐらいになってないと、地元の冒険者から笑われちゃうしね」
薬草採取や獣狩りね。獣と言っても、この王都近辺の森に生息しているのは、兎や小型の鹿、あとボアと呼ばれる猪ぐらいらしいが、野生のそういった獣の肉は珍重されるのだそうだ。
「ナイアの森とかは?」
「ディック、おまえサテュ姫やティモさんとかから聞いて無いのか?」
「ああ、なんかちょっと聞いたような」
「あそこはね、ギルドの許可が無いと滅多に入れない、言ってみれば禁足地なんだよね」
「それに、危険な魔獣なんかも居るらしいしな」
「禁足地、なんだ」
「過去に、サテュ姫のお父上から強い働きかけが冒険者ギルドにあったらしいよね」
「閣下は冒険者ギルドとも強い繋がりがあるからな」
「へぇー」
また新しい情報を得ることが出来たな。知れば知るほど、サテュちゃんのお父上がどんな人物か興味が湧いてくる。
「ディックも登録したからには、休日に冒険者の活動をするんだろ?」
「ああ、そうなるかな。具体的にはいつからどういう風にとか、まだぜんぜん考えてないけど」
俺がそう答えると、ラウロくんとアマートくんは互いの顔を見て頷き合った。
「そしたらよ、俺たちのパーティに入らねぇか?」
「ラウロ、アマート、サイミちゃんの3人パーティなんだけど、君が入れば強力な4人パーティになりそうだよね。尤も、サイミちゃんの了解を得ないとだけど」
「取りあえず、どうよ。ちなみにパーティ名は“北辺の獅子”な」
「僕は“北辺の鷲”がいいんだけどなぁ。ちなみにサイミちゃんは“北辺の狼”だって」
まあパーティ名はどれでもいいですけどね。
なお、3つとも“北辺の”なのは、3人ともが貴族領は異なるにせよ、セルティア王国内で北辺と呼ばれる地の出身だからだということらしい。
「誘ってくれて、ありがとう。でも、少し考えさえて。前向きに考えるからさ」
「ああ、いきなりの勧誘だからな。よーく考えてくれや」
「相談もちゃんとしてね」
そうなんだよね。多分良く気の回るアマートくんの言う通り、まずはこのお誘い、俺のお世話役で支援者代表のサティちゃんと相談しないとですなぁ。
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