表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で武技相伝 〜 いやその前に次の人生を楽しみましょうよ  作者: 東杜 伊三技
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/24

第10話 寮生活が始まります

 剣術訓練場での実技面接を終えた俺は、サテュちゃんに案内されて入寮するために第7男子寮へと向かう。


 ちなみにティモ爺は「自分はもうよろしいでしょう。馬車で待機していますよ」と去って行った。

 サテュちゃんは俺の案内を終えたら、今日は王都にある屋敷に帰るのだとか。新入生の入学式と春学期の開始が明後日なので、明日にはまた登校して来て自分が住む寮へと戻るのだそうだ。


「寮には、お昼を食べてから行こうよ」ということで、剣術訓練場と魔法訓練場のちょうど中間に位置しているカフェレストランのようなお店に入った。

 学院の敷地内にはこういうお店がいくつかあって、教授と職員のみが利用出来る制限の掛かった店舗もあるが、ここは学院生の利用が可なのだとか。


「学院生用には大食堂があってね。そこは広くて安いしボリュームもあるから、わたしも普段はそこを利用しているのだけど、たまにはね。それにまだ休暇中だし」

「そうなんだ。でも、学院生が利用出来ない店もあるのか」


「教授と職員と外部からの来客用、つまり大人用ね。さっきの教授棟の中にも本格的なレストランがあって、とても美味しい料理が食べられるのよ。でもあそこは完全に教授と来客のためのお店で、わたしもお父さまと何回か行ったことがあるくらいかしら」


「サテュちゃんのお父上って、確かさっき学院長たちが呼んでいた特別栄誉教授なんだよな?」

「ははは。本人はそう呼ばれたくないらしいのだけど、学院だといちおう教授だから。なんでも、卒業してから直ぐにその称号を授与されたらしいけど」


 卒業してから直ぐというと、15歳か16歳で特別栄誉教授になったという訳ですか。

 なんだかやっぱり、常人とは違う存在なのですなぁ。


「でも、そのおかげで、武術特別分校を創設することが出来たの。お父さまが熱心に働きかけたから」

「へぇー」


 武術特別分校が出来た理由は、先ほどの学院長たちとの面談でも説明されたけど、要するに武術と魔法に秀でた学院生のその特技を集中的に伸ばすためだ。


 それまでもこのセルティア王立学院の講義科目の中では、剣術学と魔法学は特別な存在として扱われていて、他の政治学とか歴史学などといった座学中心の科目よりも教授の数も多く在籍しているし、講義やゼミの数も多く設定されているのだとか。


 つまり、この学院では知識を得て思考や研究する力を養うと同時に、希望者はそういった実践的な剣術や魔法を修得出来るというのを重視している。

 だが一方で、そんな戦う技術の修得に関心のあまりない子たちも年々増えてきたそうで、それはサテュちゃんのお父上が在籍して頃からそういった傾向が現れて来たのだという。


「お勉強を頑張れば、あとは学院生活を楽しみたいって子が多いの。せっかくの4年間の学院生生活だし、それはそれで良いとは思うけど、でもわたしたちの生きる世界って、危険が身近にある世界なのよ。だから、多少でも身を守る力や技が必要だし、本格的に戦うことの出来る人材も必要なの。この学院の卒業生って、騎士団の騎士やそういった部隊を指揮することになる貴族も結構居るのよね」


 そんな現状を鑑みて、サテュちゃんのお父上が学院に働きかけ、先ほどお会いした学院長と剣術学部長教授、魔法学部長教授の3人が中心になって設立したのが武術特別分校ということだそうだ。


 カフェレストランで出てきたパスタランチをご馳走になりながら、そんな会話を交わす。

 ところで話は変わりますけど、こういう食事の支払いとか、あと日用品を購入するとか、そういうお金って、俺はどうすればいいのですかね?


「あは、ごめんごめん、忘れてた」


 忘れないでください、結構大切なところですぞ。


「はい、これをどうぞ」と、彼女は肩から提げていた可愛らしいバッグから革製の大型の財布のような物を取り出して、俺に渡してくれた。

 前に居た世界の財布よりも厚みがあって、手に持つとずっしりと重い。


 中を見ると小型の金貨、大小の銀貨、白っぽい色の銅貨と普通の銅貨と、様々な貨幣が何枚ずつか入っていた。

 この世界は紙のお札が無いらしいので、これだけ入っていると財布が重たいよな。

 だが、その貨幣とは別に何かチケットのような紙製のものが入っていた。財布から出してみると、何種類かの券種に分かれている。


「これは?」

「それは学院の中だけで通用するチケットね。なので、学院に居る分にはお金を持つ必要は無くて、そのチケットで食堂を利用したり買い物したり出来るのよ」

「そうなんだ。ともかくも、ありがとう。俺って、昨日登録した冒険者で稼げるようになるまでは無一文なのかな、食事とかどうするんだろうって考えていて」


「あはは、そうよねー。それに王都で冒険者が稼ぐのは、それなりに大変だろうしね」


 そのそれなりに稼ぐのが大変な冒険者に成らせたのは、キミですけどね。


「だから、冒険者というのは、あくまでこの世界を早く知って貰うための手段なのよ。それとは別に、暮らしについては、うちの子爵家で面倒は見させていただくわ。というのがわたしのお母さまからの指示。その財布のお金やチケットも、足りなくなったら補充してあげるけど、でも贅沢はダメよ。うちのお母さまはそういうの、厳しいから」

「分かりました、です」


 サテュちゃんのお母上、ありがとうございます。

 これは早く、お父上とお母上にお会いして、お礼を言わないとだよな。

 そう彼女に言うと、やはり「そのうちに会うことになるわよ」とのことだった。




 カフェレストランでの昼食を終え、第7男子寮へと案内された。

 寮の建物はかなり年季が入っているようだが、でも頑丈そうな石造りの2階建てだった。

 その玄関口前の庭で、ひとりの中年女性が掃き掃除をしていた。


「ラドミラさん、こんにちは」

「おや、サテュさんじゃないかい。それでそっちの子、ははん、例の男子だね」

「ラドおばさん、正解よ。今日からこの第7男子寮でお世話になる、ディックさん。ラドおばさんは、この寮の管理人をされている方」


「ディックです。今日から1年間、よろしくお願いします」

「あらまあ、礼儀正しい子だね。わたしはこの寮の管理人のラドミラ。わからないことは、いつでも何でも聞いてちょうだいな」


 ちょっとふくよかな体型をしたラドおばさんは、この男子寮のお母さんって感じですかね。

 前世も含めて初めて住む寮ということで、少し不安はあったけど、彼女の笑顔に接したらなんだか大丈夫そうな気がして来ました。


「そうしたら、わたしは中に入れないから今日はここまでね」

「おう、朝から色々ありがとう」

「うん、どういたしまして。これでわたしの最初のお役目もひと区切り。あとは、明後日に春学期が始まってからね」

「わかった」

「そうしたらラドおばさん、このディックさんを渡しますから、あとはお願いします。ディック、また明後日」

「うん、また明後日。ティモ爺にもよろしく伝えて」


 男子寮では女子は玄関口までで、寮の中には入れない。同じく女子寮では男子は玄関口までが、伝統的な決まりなのだそうだ。

 それでサテュちゃんは、ここで踵を返してティモ爺が待つ職員棟外の馬車駐車場へと戻って行った。


 手を振りながら去っていく彼女の後ろ姿を、俺は暫く眺める。

 考えてみたら、彼女の上司だというおそらくはこの世界の神様や彼女のご両親から任されたことだとはいえ、昨日今日と若い女性の彼女が、この俺のために随分と親身になって世話をしてくれたものだよな。


「もういいかい? サテュちゃんのお尻とか、これからいつでも見られるさね」

「あ、いや、お尻だけじゃなくて後ろ姿を……」

「あはは、冗談だから、そんなに赤くならなくてもいいよ。もう見えなくなったし、さて、寮に入りましょうかね。ディックさんが今日から暮らすお部屋に案内するよ」


 2階にあるその部屋は、ベッドにデスク、椅子テーブルや収納家具が備えられたワンルームだね。


「ディックさん、あんた、荷物はそれだけかね」

「ええ、そうなんです。最小限の荷物で遠方から来たものですから」

「まあ、たいていの日用品は学院生食堂の隣の売店で買えるから、足らない物はそこで揃えるといいさね。学院のチケットは持ってるのかい?」

「はい、あります」

「ディックさんは、どうも喋り方が硬いわねぇ。聞いていると思うけど、この学院の中に居る分には、王族でも貴族でも一般庶民でも分け隔ての無い社会。だからもっと、くだけていいんだよ」

「分かりました。あ、わかったよ、ラドおばさん」

「そうそう、その調子その調子」


 ラドおばさんとそんな会話を交わしながら、俺は下ろしたバッグの中から、昨日着ていたジャケットを出して収納ダンスの中のハンガーに掛ける。シワになっちゃいけないからね。

 しかし本当に持ち物が僅かしか無いので、これは早速に日用品を揃えんとだな。



 それからラドおばさんに案内されて、階下にあるという集会室へと向かった。

 そこはその名称の通りに集会を行うための広い部屋なのだけど、集会というよりは寮生が普段ダラダラ過ごしたり、何かの時に宴会をしたりする空間なのだとか。あ、ダラダラ過ごすというのはラドおばさんが言った表現で、これも伝統なのだそうだ。


「おや、ちょうど良かった。寮長がダラダラしてるよ。寮長さん、ちょっといいかい」


 そこにはなんだか見慣れたふたり組がダラダラ話していた。


「なんですか? ラドおばさんって、うげっ」

「さっきぶりです、ラウロくんとアマートくん。あらためまして、今日からこの寮でお世話になるディックです。ラウロくんがこの寮の寮長だったんだね」


「なんだい、もう知り合いだったのかい。そうしたらあとはよろしく」と、ラドおばさんは去って行った。


「まあよ、今日から新しい学院生が来るって聞いていたから、さっき剣術訓練場であんたの姿を見て、そうかもとは思っていてけどよ。まあ、そうなっちまったんだから、よろしくな」

「昨日、今日と本当に僕たちと縁がありますね。あ、あらためましてアマートです。よろしくお願いしますね」


 昨日今日で三度目の邂逅で、それもこれからの1年間を同じ寮で暮らすなんて、本当にラウロくんとアマートくんとは縁があるよな。

 剣術訓練場でも今も「うげっ」とか言われたけど、でもそれほど悪い感じじゃ無いんだよな。

 もしかしたら、このふたりって、友だちとかに成れますかね。


お読みいただき、ありがとうございました。

もしよろしければ本作も、いいねやブックマーク登録、★(幾つでも)で応援してあげてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ