絶望しかない
とにかく三井くんとのお出かけは、アップデート予定日の前日に決まった。
新エリアの話題にも変わったし、開放される前にレベル上げしておきたいサークルメンツと周回にも向かったけど、ボス部屋への移動の合間にタツキからはメッセージが飛んできた。
隣にいる送信者本人を見上げると、両手を合わせてお願いポーズをとっている。
『一崎、俺にもプライベートで一日もらえない?』
『無理です、ごめんなさい』
すげなく断ったのに、お願いポーズのタツキからはさらに必死な個人チャットが飛んでくる。
『頼む、俺も本気なんだって。このまま三井に逃げ切られたら後悔する。
上司が部下を休日なのに遊びに誘うとか、難しい気持ちもあってさ。
でもお願い、この通り!』
確かに、上司に休日すら拘束されるとか休日出勤感が強い。
課長に直接言われたら絶望して辞表出してるな……って思いながらもタツキを見上げた。
……蜷川課長に、直接言われてるわけじゃない。
相手は今一緒に遊んでて、チャットしながら必死になって両手を擦り合わせてる先輩プレイヤー、タツキだ。
蜷川課長が関係改善に取り組もうしてくれる姿勢は今日も見えたし、黙ってる間にも『お願い』『この通り』とか一生懸命メッセージが送られてくる。
このままじゃお互いゲームに集中出来ないだろうし、前線に早く戻さなきゃいけない気持ちもあって、仕方なく予定表を開いた。
『じゃあ……今週の日曜だけなら空いてます。
来週以降は無理です』
『今週の日曜日!?
……う、あの……三歳の姪っ子……自分が一番可愛いリトルプリンセスと、デートの約束入ってて……』
『お姫様との先約があってよかったですね、お幸せに』
個人チャットでタツキが騒いで泣いてる気がするけど気のせいかな、うん。
とにかく、三井くんと遊びに行くことは決まってる。
タツキも返事が届かないことで諦めたらしく、ボス部屋ではチャットを打ち切ると前線に向かって銃を撃ち込んで踏ん張ってた。
――切り替え早いし、片手に銃持ったまま手榴弾のピンを噛んで抜く手慣れた姿とか、狙った場所に投げてるテクニカルさとか、普通にしてたら格好いいのにな。
今日もみんなでレベル上げが楽しいし、タツキも活躍してる……って周回終わってハイタッチ交わしたら、タツキからメッセージがきた。
『そうだミツハ、来月入ってからなら』
『大型アプデ楽しみですね。
来月はゲームが一番の楽しみなので、一日たりとも空ける予定はありません』
終わってすぐにメッセージを送ってくるタツキを笑顔で切り捨てると、腰から砕けた上司は膝をついて倒れていた。
「タツキ、どうした!? ボスにやられたのか!?」
「自分の所業を後悔してる……」
「しっかりしろ、傷は浅いぞ!
衛生兵、衛生兵ーっ!」
魂抜けたエモートで倒れてるとか面白い。みんなも「終了後の流れショットか!?」なんて回復魔法を掛けて大騒ぎしてるから、私もアイテムで参加した。
でもタツキこと蜷川課長とはこのあと何もないまま、三井くんと遊びに出かけることになったのでした。




