お茶
夜に仕事を終えてログインすると、昨日ピエナちゃんに啖呵を切ったこともあって『英雄がきたぞ!』などと騒がれてしまった。
変にバタバタしてるサークル拠点が不思議で、何が起こるのか辺りを見回してたけど、タツキも先にログインしてる。
けれど盗賊のマゼンタさんと話してたのを、私のところに無理やり押し出されて並ばされた。
「え、何?」
「いつものやつだって。
お前も一皮剥けたんだ……分かってるだろ、タツキ?」
でもタツキも何が起こるか、全く知らないみたい。
一流イラストレーターの書いたイケメンの目が、パチパチ不思議そうに瞬きしてる。
ヒーラーちゃんやみんなも、周りに続々と集まり始めた。
タツキと顔合わせてたら……リーダーの合図で、一斉に花火が打ち上がった。
「ミツハちゃーん、タツキチー、やっぱり付き合ってたんだね!
カミングアウトおめでと〜!」
パーンパパパパパーンっ。
クラッカーが連発されて煙がすごい。もはや煙幕焚かれてるのかもしれないってくらい炸裂した。
サークル内には儀式みたいなものがある。
イベントとかお祝いごとがあると、運営が花火やクラッカーを配布してくれる。
使い切れずに余りがちになるのはいつものことだから、余ってたらみんなで全力の『お祝い』をして消化する。
アイテムボックスの圧迫解消だーってサークルメンツ同士の結婚を祝福するのに私たちも使ったことはあるけれど、まさか自分たちが祝われる側になるとは思ってなかった。
「盛り上がってるところ申し訳ないんですけど、私とタツキは付き合ってませんよ」
「そうそう。勘違いされるかもなーって言いながらハイレシア探索して、新マップの話しただけで終わりましたって」
「えー、だって二時間も三時間もだよ?
ハイレシアってそんなダンジョンみたいになってないでしょ? 白々しいんだからー」
「実は今度、同期の男の子に誘われて遊びに行くんです。
タツキが彼氏だったら浮気宣言ですけど、違いますから。
ほら、伝えても平気でしょう?」
サークルメンツの集まる拠点が『ただの救いのヒーローだった!』って、いっそう騒がしくなった。
タツキも動揺して話を聞こうとしたから、かなり信憑性が出た。
――三井くんとは結局、お試しで遊びに行くことになった。
連絡先は入社時に交換してるからメッセージでやり取りもしたけど、相談して選んだのはテーマパークだ。
来週の日曜日の約束をお互い楽しみにしていて、私も今から何を着ようか必死になって考えている。
「新エリアの開放予定日前日なんで、それなら時間あるし、いいよってお相手さんにも伝えていて。
気の合う同期だから誘ってもらえたのも嬉しくて、今から楽しみにしてます」
「いいないいなー、付き合う前って全部新鮮で良いよね!
どうやってお誘いされたの?」
「コンビニの帰り道で『遊びに行こうよ』って。
お互いに慣れてない感じで照れ臭かったんですけど、お誘いされました」
「きゃー初々しいーっそういう話すきー!」
『待ったミツハ、本当に三井から誘われたってこと!?』
絶望顔のタツキから個人宛のチャットメッセージが来たけど、頷く。
ぎっくり腰でも起こしたのかと思うくらいよろよろして、盗賊のマゼンタさんにもたれかかった。あれが最前線張ってて主力メンツのサークルがあるらしい。うちです。
流石にみんなもタツキが相手じゃないって分かったらしく、一斉に引き上げて行った。盛り上がるのも早ければ、潮が引くのも早い。
取り残されたタツキは肩を抱くマゼンタさんに慰められてた。
ヒーラーちゃんも哀れな弟子のお腹を杖でつついている。
「タツキチ振られてるー。かわいそー。
いい子いないの? あんまり彼女の話とかしないもんね、そっかロンリーウルフかー」
「いる。……うん、好きな子はいるんだ。
聞いてくれる、ヒーラーちゃん」
「なになに?」
「俺も会社で今日、食事会に行った。
帰り道で好きな子に、プリンとお茶を奢った。
店内でお茶を一生懸命選んでるから、好きな銘柄を探してるのかと思ってた」
おい待て。
まさかのリアルエピソードに愕然とする私の前で、タツキは興味津々のヒーラーちゃん相手に涙のエモートを見せている。
「でも会社帰ったら、留守番してた社員に真っ先に駆け寄ってお茶渡してるんだ。
普段は一緒に行かない子だから『お留守番ありがとうございます、おかげで行って来られました』ってお礼を伝えるためにお茶を買ってたってこと。
しかも俺からの奢りだってことも伝えてくれてさ。
自分で飲むためじゃなくて、代わりに行けなかった社員の気持ちをフォローするためにお土産選んでくれてたとか、俺の好きな子可愛くない?」
『ちょっとタツキ、恥ずかしい話するのやめてもらえる?!』
『上司として、もっと社員同士の交流を深めるためにも一崎を誘えばよかったなーって改めて後悔した話だから、恥ずかしくないでーす』
個人でチャットしてるから、タツキ相手に真っ赤になりそうなのを必死に堪えた。
課長に奢らせてまでお茶買って帰るとか、押し付けがましいかと思ったけど……お茶なら蔵前さん、愛妻弁当にも合うし。
私も会社で一人ぼっちで留守番してると、なんとなーく寂しい瞬間もあるし。
みんなで行けなくてもお土産があったら置いてきぼり感なくなるのかな、その方がいいのかなって思ったから選んだお茶の話だ。
課長もあげても平気そうだったし、蔵前さんも喜んで課長にお礼伝えてるから、もう気にもしてなかったのに……課長がそんなこと考えてたなんて知らなかった。
目をキラキラさせるヒーラーちゃんが、弟子のお腹をさらに激しくつついている。
「えー、タツキチもミツハ以外に好きな子いたの!?
やだー混み合ってきたー! 恋バナ大好きーっ」
「ヒーラーちゃん。
リーダーでランカーの俺と、新たな伝説になる恋バナを作らないか!」
「え、ごめん、今彼氏と別れ話の最中だから。
そういうのちょっと待ってもらえる?」
「あ、すみません、出しゃばりました」
突然生えたリーダーのおちょくりに『彼氏とラブラブだから無理だよー!』なんて返ってくるかと思ってたら、ツートーンくらい落ちたヒーラーちゃんの声が告げたのは『始まるものがあれば、終わるものもある』というお話であった。
……井戸端会議では有名なんだけど、多分ヒーラーちゃんに片想い中なんだよね、リーダー。
複雑そうな全身鎧の背中を見ながら拳を握ってしまった。がんばれ、ランカー。




