オマエ
大学時代のツレたちで集まることになった。
ずいぶん長い間会っていなかったから、近況報告も兼ねて飲み会をやろうとのこと。
言われてみれば確かに、もう十年スパンで会っていない。
最後に全員で顔を合わせたのは…俺の結婚式の二次会だったか…。
家庭を持って、子供が生まれたり。
転職したり、起業したり。
なかなか時間が合わず、時間だけが流れてしまった。
……皆、元気にしてはいる。
ガッツリ十人で集まる事はしなくとも、それぞれがそれぞれとそれなりに繋がっていて、そこそこ交流は続いているのだ。
同じ町内に住んでいるのが一人と、市内在住者が三人、県内で暮らしているのが四人、県外にいるのが一人。
全員、つかず離れずのちょうどいい距離で、程よく繋がってきたのが良かったのだろう。能天気に授業を受けてはレポート提出に四苦八苦していた頃は、こんなにも縁が続いていくとは思いもしなかった。
「加藤、お前の会社ってテント持ってたよな?出店してみない?」
「この前もらったサンプル助かったわ!加藤さまさまだな!」
「今度町内会の祭りでやぐら組むんだけど、加藤に頼みたくて!」
…気心は知れてるし、ひととなりも十分わかっている。
学生の頃のようなノリをどこか残したまま、いい関係が続いているのがありがたい。
「ちょ?!聞いてねーけど!!」
「マジか…」
「貸し一つだからね?!」
たまにトラブる事もあるが、そんなのは…『こういうこともあるさ』という大人の分別をトッピングすれば何とかなる。
「加藤、サンキューな!」
「加藤がいてくれてよかったー!」
「加藤サン、これからも頼みますよ!!」
どうにも間に合いそうにない卒論を、総出で手伝ってもらったっけ…。
フラれてやけになった時に、旅行に連れ出されたこともあるな…。
失敗して、凹んで、落ち込むたびに…引っ張り上げてくれたんだよな。
今、現在、この瞬間に会話しているのに…過去のワンシーンが目に浮かんでくる。
今の自分を形成している、過ぎ去った出来事のあれやこれが胸によみがえってくる。
……いい友人たちに出会えたと思う。
頼っていい誰かがいる。
助けを求める誰かがいる。
……いい友人たちがいると、心から思う。
自分が自分でいられる、大切な…場所がある。
正直、俺は恵まれている。
俺は、決して…特別な努力をしてきたわけではない。
何となくノリで続けてきた部分も少なくない。
ごく普通にできることをしてきただけだ。
失言や失敗だってそれなりにある。
腹立たしいことを言われてムッとした事だってある。
けれど、いつだって……
「ここぞという時の加藤頼みってね」
「いいやつの代表格だもんな、加藤は!」
「風格も一番だしなあ!」
「この前もツルの一言で!」
「今日も輝いてるし!」
「マジ眩しーわ!」
?!
ちょ!!!
この流れは!!!
「お ま え ら も な ! !」
俺は、やけに毛量の少なくなったツレどもの頭頂部をわっしわっしとやりながら…、ハタと気付いた。
・・・?!
あ、ああアアア!!!
おまえらもな?!
おまえらモナ!!!
モナ、モナが!!!
モナが、モナが出た……!
なぜだかわからないが、俺は…モナに遭遇すると思考が停止する。
なぜだかわからないのに、俺は自身の言葉の中に虚像を見て…フリーズしてしまうのだ。
「お前らなあ、親しき仲にも礼儀あれっていうだろ!」
「ちょ…うん、ごめん、僕たちちょっとお酒飲み過ぎました」
「加藤君ぐらいツルッといってた方がね、いさぎ良いと思うのボク」
「俺なんか昨日新人に薄らハゲって陰口叩かれて!!」
「なんですぐ髪の毛の話するんだろうねえ…」
「俺最近抜け毛ヤバくてさあ…」
「先輩に心得を聞こう、うん…」
「あっ、加藤君の好きなベトナム手羽先来たよ!」
「…?? か、加藤サン?」
モナは、モナは…。
シレッと姿を現して…、俺の得も言われぬ感情を…糧にしているのかもしれない。
「は、ハハハ!!何でモナいって!! 」
……いかんいかん!
モナと出くわすとおかしなテンションになってしまうのは…悪い癖だ。
せっかくフルメンバーで集まれたのに、台無しにするなんて…あってはならん!
ここは一発、元気の出る言葉で…大きな声で、吹き飛ばさねば!!
「足りない毛は、みんなでフォローし合って頑張るぞ!!おぉ~!!」
「お~!惜しみなく分け与えるわ!」
「お前は搾取側だろ?!」
「俺マジで頑張る…唯一のフサフサとして」
「何その優越感w」
「俺だってまだ提供側だぞ!!」
「そう言えばさあ、娘がヘアドネーションしてさあ…」
「俺もスネ毛ヘアドネーションしてえな…」
「なんで体毛って地域にばらつきがあるんだろうね」
「そりゃあ田舎よりも都会の方が人気があってだな」
「いやいや、最近はのどかな田舎暮らしにあこがれる人が…」
……モナの片鱗がかき消された、この場所で。
俺は今日も…前を、向く。




