メッソー
勤めているパート先で、人事の異動があった。
大々的に人員を入れ替えることで、リフレッシュをはかりたいとのこと。
確かに、慣れない仕事をする事は…基本マニュアルをキッチリとこなすという当たり前のことを最優先するきっかけにはなる。
無駄を省いて効率よく仕事をすることに長けていた社員たちは、マニュアルを守らないのが当たり前だった。
正社員が三人抜け、契約社員が二人抜け、ベテランパートが二人抜け。
別部署からやってきた三人の社員は、全員物流倉庫の勤務は初めてだった。
未経験のバイトが三人入ってきて、時短バイト日替わりでやってくるようになった。
……ベテラン勢がごっそりいなくなってしまったせいで、現場は激しく混乱している。
マニュアルを見ながら正しい仕事をする社員は効率のいい仕事をすることが難しいうえに、右も左もわからないスタッフが過半数を超えているのだ。
リフレッシュ前から勤めているのは、契約社員が一人と、自分を含めたパートが三人。
十人で回していた仕事を十二人で回す…一見すると余裕ができたように錯覚するが、勝手を知らない人が半数以上いるのでちょっとしたことで作業がストップし、説明などのフォローで時間が費やされてしまう。
「新垣さん、ちょっといいですか」
「新垣さん、教えてください」
「これでいいですか、新垣さん」
…丁寧だし、人あたりもいいし、悪い人たちではないのだ、新メンバーの面々は。
だがしかし、如何せん…手際が悪い。
無駄な作業や思い込みでミスをすることも少なくないため、気が抜けない。
「助かりました、ありがとう!」
「さすがですね」
「頼りにしてます!」
「新垣さんに任せておけば安心ですね」
「新垣さんがいるから大丈夫ですよ!」
「新垣さんに確認してもらいましょう」
ついほんのひと月前まで、上司に尻を拭ってもらっていたのに。
問題が起きるたびに、頼りになる人にお願いしていたのに。
失敗してしまうたびに、頭を下げていたのに。
……信じられない。
この私が、頼りにされている。
この私に、処理を任せている。
この私を、できる人扱いしている。
正直、この雰囲気に慣れない。
これでは、まるで……私ができる人みたいではないか。
さんざん失敗をして迷惑をかけて。
ちょっとしたことで勘違いをして。
連絡ミスで騒動を起こしたり。
間違った解釈をして怒られて。
焦って追い込まれてミスって凹んだり。
私は、決して…持て囃されるような人材では……。
「今一番現場を回してるのは新垣さんですね」
「代表みたいなものですよ」
「もう所長になっちゃえば?」
そんな御大層な人間ではないんですってば!!!
「そ、そんな…!!無理、無理です、めっそうも、な、い……」
・・・?!
あ、ああアアア!!!
めっそうもない?!
めっそうモナい!!!
モナ、モナが!!!
モナが、モナが出たああああああアアアア!!!
「…?? 新垣さん?」
なぜだかわからないけれど、私は…モナに遭遇すると冷や汗が噴き出す。
なぜだかわからないのに、私は自身の言葉の中に虚像を見る。
モナは、モナは…。
私の感情を糧にして、シレッと姿を現し…
「は、ハハハ!!何でモナいです!! 」
……いかんいかん!
モナと出くわすとおかしなテンションになってしまうのは…悪い癖だ。
せっかく落ち着いて仕事に向き合うことができるようになったのに…台無しにするなんてあってはならないこと!
ざわつき始める胸を、元気のいい言葉で…大きな声で、吹き飛ばさねば!!
「今日も一日、みんなでフォローし合って頑張りましょぉ~!!」
「おー!」
「よろしくお願いします!」
「あ、そういえば昨日なんですけど、わかんないことが…」
「ワタシごみ集めてきますね!」
「電話かけたいので、フォローいいです?」
……モナの片鱗がかき消された、この場所で。
私は今日も…前を、向く。




