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魔法使いの家出  作者: 羽良 凪都輝
第5章 王立魔術師学校マギア 後編
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「学園祭一日目」


学園祭がついに始まった。

アランにとっては、最初で最後の学園祭だ。

そのためか、アランは緊張しているが、張り切ってもいる。


「服装もバッチリね!」

「メイド服か...フェンデス様が来ないことを祈ろう...」

「あ、忘れてた」


レベッカたちはアランの言葉で思い出した。

アランの女装は、アレンちゃんなのだ。

フェンデスと鉢合わせでもしたら、裏切り行為がバレてしまう。

これはかなりまずい状況だ。

だが、今更変えるわけにも行かない。

アランたちはフェンデスが来ないことを祈るばかりだ。


「とりあえず、もう店開けちゃう?」

「そうだね。みんな、大丈夫そう?」


アーサーがクラスに聞くと、皆は快諾した。

こうしてぬるっと始まった学園祭、波乱の幕開けである。


 * * *


「はい、紅茶を2つですね、ありがとうございます」


王子に四天王ともなると、沢山の客がやってくる。

表方、裏方、どちらも大忙しだ。

これでは、とてもシフトを変えられそうにない。

しかも、まだ学園祭が始まって1時間である。

これでは商品が先に尽きてしまいそうだ。


「ちょ、誰か!もうすぐ在庫尽きるんだけど!」

「え!?嘘!?私、数間違えた?」


レベッカは焦りに焦った。

レベッカの予想を遥かに上回ったのだ。

まさかの開始一時間で、来場者三千人以上。

これは、商会で仕事をしているときとはまるで違う。

違う世界なのだ。


「ちょ、誰か仕入れして来て!」

「え、じゃあ、僕行きます!」

「アランよろしく!」


(ふぅ...とりあえず、フェンデス様に会うリスクは低くなった。あとは、在庫を仕入れてくるだけ)


廊下を進んでいくと、いろいろな有名人と出会う。

この学園の大半が、貴族で構成されているため、自然とそうなるのであろう。

アランは、人混みを避けて全力疾走した。

だが、それでも時間がかかる。

アランは身長が低いため、人混みに飲まれやすい。

そこへ、更に不運が...


「ねぇ、きみ。可愛いね、ちょっとお茶しない?」


(出た!典型的な、”ナンパ”!レベッカに何度も言われたけど、本当にいるんだ...)


「すみません!今急いでるんで!」

「ちょっと待ってよ!」


男は手を掴み、アランを止めた。


(う、嘘でしょ!?ナンパってこんな強引なものなの?手首を切り落とす?いや、でも、流石に人が多いし...)


アランはどうしようかと、もじもじしていると、一番会いたくない人物がやって来た。


「やめてくれるかな、僕の連れなんだけど」

「誰だお前」

「ふぇ、フェンデス様!?」


アランはフェンデスが突然現れたこと、このナンパ男がこの国の王子様に不敬をとったこと、その2つに驚いている。

ナンパ男がフェンデスの顔をジロジロと見ると、何かに気づいたようだ。


「だ、第、三王子...様...」

「へー、僕も意外と有名なんだね。そいつ、連れてって」

「了解です」


男は必死に謝罪をしていたが、許されるわけもなく、取り巻きたちに引きずられていった。

アランも、その場の空気に紛れて、こっそりと退散しようとしたが、フェンデスが気がついてしまった。


「アレンは学園祭に見に来たの?」

「は、はい...それで、お使いを頼まれてしまったので、失礼します!」

「え、えぇ?行っちゃった...」


アランはメイドとは思えない速さで、その場から飛び出した。

さすがのフェンデスもポカンとしながら、宙を見つめていた。

アランが校門に着いたところで、メラーヌとばったりであった。

アランはその好機を逃さず、今の状況を伝えると、思わぬ返答が返ってきた。


「私の予想通りね。ちゃんと、準備してきたわよ」

「え、予想通り?どういうことですか?」

「あのね、あの子達は経験が足りないの。私も経験したんだけど、最後の年は客の数が半端じゃないの。だから、あんな数じゃ足りないと思って...」


メラーヌが後ろを見ると、こないだしばかれていた男たちがセコセコと商品を運んできてる。


「ぼ、ボス!運び屋したぜ!」

「3秒遅い。そんな筋肉持ってて、何だこのざまは。ほら、もう一往復だ」

「え!?そ、そんな...」

「な、なんか、可哀想ですね...」


運んできた商品は、かなりの量でとても一人で運べる量ではなかった。

そこで、一度アランは教室に戻り、応援を呼ぶことにしたのだが...

戻る最中、かなりの数のナンパにあった。

そのたび、走って逃げたり、上手に受け流したりと、アランの気力はそこに使われてしまった。


「つ、疲れた...」

「どうしたんだ?手ぶらで...」

「だ、誰か荷物運ぶの、手伝って」


接客の方は、かなり手一杯だが、裏方の方は、何人か暇そうな人がいた。

アランは、その人達に頼み、自分は接客へと回った。

その間に、アランはアーサーにフェンデスのことを伝えた。


「どうしますか?」

「うーん、フェンデスがここに来ないとも限らないけど、今は猫の手も借りたい状態だしね...」

「ウィッグつければ?」


そう言ったのはベルージュだった。

どうやら、個人的に使うため、何個か持ってきていたようだ。

ベルージュは急いで取りに行き、茶色セミロングのウィッグを持ってきた。

アランはそれをかぶると、まるで別人のようになった。


「え、誰?」

「あ、アランだよ!」

「え、あ、アラン!?お、お前、女だったのか...」

「違うよー!」


クラスメイトからはかなり好評だ。

アランの顔が元々良く、更にベルージュのウィッグと相性が良い。

これなら、フェンデスが来ても大丈夫だろう。

順調に接客を進めていくと、案の定彼はやってきた。


「これはこれは、兄上。第一王子ともあろう方が、こんな格好で接客だなんて...」


フェンデスは、兄を嘲笑うかのように言った。

だが、アーサーは動じずに、マニュアル通りに接客を始めた。


「ご注文はお決まりですか?」

「じゃあ、この紅茶のセットを一つ」

「承知いたしました。あ、そうそう、おすすめにもう一つ、アレンという人でもどうですか?」


その言葉を聞いた瞬間、フェンデスは驚きすぎて、席から立ち上がってしまった。

アーサーはそのまま、奥へと行ってしまい、フェンデスは質問すら許されなかった。

フェンデスの心のなかで、アーサーの言葉が渦巻く中、紅茶のセットが運ばれてきた。


「ご、ご注文の、商品です。ご、ごゆっくり...」

「君、どこかで会った?」

「へ?え、あ、いや...何処かでお会いしましたか?」


茶髪のメイド、いや、生徒。

青い透き通った瞳に、整った顔立ち。

フェンデスは、どこかで会ったような気がした。

フェンデスの記憶力はかなりのもので、今日出会った人物は全員覚えている。

だが、記憶の片隅にも、こんな人物はいなかった。

フェンデスが疑問に思う中、マカロンに口をつけると、世界が変わった。


「なにこれ、美味しい...」


それから、フェンデスの手は止まらず、頼んでいたマカロンを一瞬で平らげてしまった。

さらに、このマカロンとマッチする紅茶で、フェンデスは店の虜になってしまった。

だが、この店の代表は、宿敵の兄。

そう簡単に認めるわけにはいかないと、意地を張って帰ってしまった。


「なんで僕に接客させたんですか!バレたらどうするんですか!」

「え?だって、やられたら、やり返さないとね」

「それで僕を使わないでくださいよ!」


そんな話をしていると、なにやら外が騒がしくなってきた。

マリアが様子を見に行くと、死んだ魚のような顔をして戻ってきた。


「お父様、来た...」

「へ?」


クラスメイトたちは、なるほどと納得していたが、アランだけは動揺を隠せなかった。

アランは、体調が悪くなったと告げ、裏で休憩していると、二人の話し声が聞こえてきてしまった。


「これはマカロンか。最近の流行りに乗ったというわけか」

「...はい」

「さすがの出来だ。これはどこで仕入れたのか?」

「...どこでも良いでしょ」


どうやら、マリアとバーナードとの仲はあまり良くないものではないらしい。

バーナードはどうやら、マリアの最後の学園祭を見に来たようだ。

だが、マリアはそれを望まない。

まわりも、その空気の中仕事をするのは大変そうだ。


「そういえば、風の噂で聞いたのだが、お前が目をかけてる生徒がいるらしいな。名前は確か...アランだったか」


この場で一番聞いてほしくない話題がやってきた。

アランとマリアの、二人の心臓の鼓動は早まり、周りの声が聞こえづらくなってしまった。


「アラン、ちょ、大丈夫?」

「え、えあ、うん、多分...」

「今、アランって聞こえたが、ちょっと連れてきてくれるか?」

「へ?あ、いや、ちょっと、今忙しそうだし...また今度で」


マリアはその場から逃げるようにして、裏に戻っていった。

バーナードは疑問を持っていたが、マリアとこれ以上関係を悪くするわけにはいかないのか、問い詰めることはしなかった。


「ちょっと私達抜けるわね。ほら、レベッカもベルージュも行くわよ」

「え、えぇ!?私達抜けちゃったら大丈夫なの?」

「それなら私達にまかせてくれ。ほら、アランくんも行っておいで」

「あ、ありがとうございます!」


(た、助かった...)


 * * *


「うーん、なんか目立つわね。やっぱり私の美貌のせいかしら」

「ベルって割と自意識過剰よね。まあ、でも確かに私たちなんか目立ってるわよね...こういうときのために、エレンから変装道具をもらってるから、みんなつけて」


そうしてレベッカ、マリア、ベルージュの三人はどうにか変装をし、人混みから解放された。

レベッカはニット帽にマスクを、マリアはフードにサングラスを、ベルージュはお面をかぶり、正体を隠した。


「これならバレないわね。ほら、アラン行くわよ!」

「文化祭初めてだから、たくさん行きたいなー」

「じゃあ、ほら、アランちゃん行くよ!」

「ちょ、ちょ走らないで!」


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