「学園祭一日目」
学園祭がついに始まった。
アランにとっては、最初で最後の学園祭だ。
そのためか、アランは緊張しているが、張り切ってもいる。
「服装もバッチリね!」
「メイド服か...フェンデス様が来ないことを祈ろう...」
「あ、忘れてた」
レベッカたちはアランの言葉で思い出した。
アランの女装は、アレンちゃんなのだ。
フェンデスと鉢合わせでもしたら、裏切り行為がバレてしまう。
これはかなりまずい状況だ。
だが、今更変えるわけにも行かない。
アランたちはフェンデスが来ないことを祈るばかりだ。
「とりあえず、もう店開けちゃう?」
「そうだね。みんな、大丈夫そう?」
アーサーがクラスに聞くと、皆は快諾した。
こうしてぬるっと始まった学園祭、波乱の幕開けである。
* * *
「はい、紅茶を2つですね、ありがとうございます」
王子に四天王ともなると、沢山の客がやってくる。
表方、裏方、どちらも大忙しだ。
これでは、とてもシフトを変えられそうにない。
しかも、まだ学園祭が始まって1時間である。
これでは商品が先に尽きてしまいそうだ。
「ちょ、誰か!もうすぐ在庫尽きるんだけど!」
「え!?嘘!?私、数間違えた?」
レベッカは焦りに焦った。
レベッカの予想を遥かに上回ったのだ。
まさかの開始一時間で、来場者三千人以上。
これは、商会で仕事をしているときとはまるで違う。
違う世界なのだ。
「ちょ、誰か仕入れして来て!」
「え、じゃあ、僕行きます!」
「アランよろしく!」
(ふぅ...とりあえず、フェンデス様に会うリスクは低くなった。あとは、在庫を仕入れてくるだけ)
廊下を進んでいくと、いろいろな有名人と出会う。
この学園の大半が、貴族で構成されているため、自然とそうなるのであろう。
アランは、人混みを避けて全力疾走した。
だが、それでも時間がかかる。
アランは身長が低いため、人混みに飲まれやすい。
そこへ、更に不運が...
「ねぇ、きみ。可愛いね、ちょっとお茶しない?」
(出た!典型的な、”ナンパ”!レベッカに何度も言われたけど、本当にいるんだ...)
「すみません!今急いでるんで!」
「ちょっと待ってよ!」
男は手を掴み、アランを止めた。
(う、嘘でしょ!?ナンパってこんな強引なものなの?手首を切り落とす?いや、でも、流石に人が多いし...)
アランはどうしようかと、もじもじしていると、一番会いたくない人物がやって来た。
「やめてくれるかな、僕の連れなんだけど」
「誰だお前」
「ふぇ、フェンデス様!?」
アランはフェンデスが突然現れたこと、このナンパ男がこの国の王子様に不敬をとったこと、その2つに驚いている。
ナンパ男がフェンデスの顔をジロジロと見ると、何かに気づいたようだ。
「だ、第、三王子...様...」
「へー、僕も意外と有名なんだね。そいつ、連れてって」
「了解です」
男は必死に謝罪をしていたが、許されるわけもなく、取り巻きたちに引きずられていった。
アランも、その場の空気に紛れて、こっそりと退散しようとしたが、フェンデスが気がついてしまった。
「アレンは学園祭に見に来たの?」
「は、はい...それで、お使いを頼まれてしまったので、失礼します!」
「え、えぇ?行っちゃった...」
アランはメイドとは思えない速さで、その場から飛び出した。
さすがのフェンデスもポカンとしながら、宙を見つめていた。
アランが校門に着いたところで、メラーヌとばったりであった。
アランはその好機を逃さず、今の状況を伝えると、思わぬ返答が返ってきた。
「私の予想通りね。ちゃんと、準備してきたわよ」
「え、予想通り?どういうことですか?」
「あのね、あの子達は経験が足りないの。私も経験したんだけど、最後の年は客の数が半端じゃないの。だから、あんな数じゃ足りないと思って...」
メラーヌが後ろを見ると、こないだしばかれていた男たちがセコセコと商品を運んできてる。
「ぼ、ボス!運び屋したぜ!」
「3秒遅い。そんな筋肉持ってて、何だこのざまは。ほら、もう一往復だ」
「え!?そ、そんな...」
「な、なんか、可哀想ですね...」
運んできた商品は、かなりの量でとても一人で運べる量ではなかった。
そこで、一度アランは教室に戻り、応援を呼ぶことにしたのだが...
戻る最中、かなりの数のナンパにあった。
そのたび、走って逃げたり、上手に受け流したりと、アランの気力はそこに使われてしまった。
「つ、疲れた...」
「どうしたんだ?手ぶらで...」
「だ、誰か荷物運ぶの、手伝って」
接客の方は、かなり手一杯だが、裏方の方は、何人か暇そうな人がいた。
アランは、その人達に頼み、自分は接客へと回った。
その間に、アランはアーサーにフェンデスのことを伝えた。
「どうしますか?」
「うーん、フェンデスがここに来ないとも限らないけど、今は猫の手も借りたい状態だしね...」
「ウィッグつければ?」
そう言ったのはベルージュだった。
どうやら、個人的に使うため、何個か持ってきていたようだ。
ベルージュは急いで取りに行き、茶色セミロングのウィッグを持ってきた。
アランはそれをかぶると、まるで別人のようになった。
「え、誰?」
「あ、アランだよ!」
「え、あ、アラン!?お、お前、女だったのか...」
「違うよー!」
クラスメイトからはかなり好評だ。
アランの顔が元々良く、更にベルージュのウィッグと相性が良い。
これなら、フェンデスが来ても大丈夫だろう。
順調に接客を進めていくと、案の定彼はやってきた。
「これはこれは、兄上。第一王子ともあろう方が、こんな格好で接客だなんて...」
フェンデスは、兄を嘲笑うかのように言った。
だが、アーサーは動じずに、マニュアル通りに接客を始めた。
「ご注文はお決まりですか?」
「じゃあ、この紅茶のセットを一つ」
「承知いたしました。あ、そうそう、おすすめにもう一つ、アレンという人でもどうですか?」
その言葉を聞いた瞬間、フェンデスは驚きすぎて、席から立ち上がってしまった。
アーサーはそのまま、奥へと行ってしまい、フェンデスは質問すら許されなかった。
フェンデスの心のなかで、アーサーの言葉が渦巻く中、紅茶のセットが運ばれてきた。
「ご、ご注文の、商品です。ご、ごゆっくり...」
「君、どこかで会った?」
「へ?え、あ、いや...何処かでお会いしましたか?」
茶髪のメイド、いや、生徒。
青い透き通った瞳に、整った顔立ち。
フェンデスは、どこかで会ったような気がした。
フェンデスの記憶力はかなりのもので、今日出会った人物は全員覚えている。
だが、記憶の片隅にも、こんな人物はいなかった。
フェンデスが疑問に思う中、マカロンに口をつけると、世界が変わった。
「なにこれ、美味しい...」
それから、フェンデスの手は止まらず、頼んでいたマカロンを一瞬で平らげてしまった。
さらに、このマカロンとマッチする紅茶で、フェンデスは店の虜になってしまった。
だが、この店の代表は、宿敵の兄。
そう簡単に認めるわけにはいかないと、意地を張って帰ってしまった。
「なんで僕に接客させたんですか!バレたらどうするんですか!」
「え?だって、やられたら、やり返さないとね」
「それで僕を使わないでくださいよ!」
そんな話をしていると、なにやら外が騒がしくなってきた。
マリアが様子を見に行くと、死んだ魚のような顔をして戻ってきた。
「お父様、来た...」
「へ?」
クラスメイトたちは、なるほどと納得していたが、アランだけは動揺を隠せなかった。
アランは、体調が悪くなったと告げ、裏で休憩していると、二人の話し声が聞こえてきてしまった。
「これはマカロンか。最近の流行りに乗ったというわけか」
「...はい」
「さすがの出来だ。これはどこで仕入れたのか?」
「...どこでも良いでしょ」
どうやら、マリアとバーナードとの仲はあまり良くないものではないらしい。
バーナードはどうやら、マリアの最後の学園祭を見に来たようだ。
だが、マリアはそれを望まない。
まわりも、その空気の中仕事をするのは大変そうだ。
「そういえば、風の噂で聞いたのだが、お前が目をかけてる生徒がいるらしいな。名前は確か...アランだったか」
この場で一番聞いてほしくない話題がやってきた。
アランとマリアの、二人の心臓の鼓動は早まり、周りの声が聞こえづらくなってしまった。
「アラン、ちょ、大丈夫?」
「え、えあ、うん、多分...」
「今、アランって聞こえたが、ちょっと連れてきてくれるか?」
「へ?あ、いや、ちょっと、今忙しそうだし...また今度で」
マリアはその場から逃げるようにして、裏に戻っていった。
バーナードは疑問を持っていたが、マリアとこれ以上関係を悪くするわけにはいかないのか、問い詰めることはしなかった。
「ちょっと私達抜けるわね。ほら、レベッカもベルージュも行くわよ」
「え、えぇ!?私達抜けちゃったら大丈夫なの?」
「それなら私達にまかせてくれ。ほら、アランくんも行っておいで」
「あ、ありがとうございます!」
(た、助かった...)
* * *
「うーん、なんか目立つわね。やっぱり私の美貌のせいかしら」
「ベルって割と自意識過剰よね。まあ、でも確かに私たちなんか目立ってるわよね...こういうときのために、エレンから変装道具をもらってるから、みんなつけて」
そうしてレベッカ、マリア、ベルージュの三人はどうにか変装をし、人混みから解放された。
レベッカはニット帽にマスクを、マリアはフードにサングラスを、ベルージュはお面をかぶり、正体を隠した。
「これならバレないわね。ほら、アラン行くわよ!」
「文化祭初めてだから、たくさん行きたいなー」
「じゃあ、ほら、アランちゃん行くよ!」
「ちょ、ちょ走らないで!」




