第九十六話 カテゴリー
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シルヴィアによって引き起こされたモンスターの暴走。その群れの中に出現したカテゴリーと呼ばれるモンスター。カルロスやザックスですら動揺を隠せないそのモンスターはいったい何者なのか。
事態はSCCA創設以来過去に類を見ない非常に切迫したものになってしまった。
地面を慄かせ突き進むのは大小様々なモンスター。その全てが血走った眼を輝かせ視線の彼方にいる無数の命へ狙いを定めていた。
「地上部隊は近場の航行艦に乗れ! 負傷者は最優先にだ! 乗り切れない場合は車両を捨てても乗せろ!!」
「牽制で良い。足の速い奴の動きを封じるんだ!」
「イエローヴォルフの群れが突っ込んでくるぞ。迎え撃て!」
それは一言で言い表せば波だ。巨大なうねる波だ。その破壊的な生物の殺意の圧力が遠くから少しずつ迫ってくる。
魔術側も魔法側も、どちらの勢力も相手のことなど気にしている場合ではなかった。急いで艦に乗って離脱せねば、大地を侵食する生物の奔流に飲まれ骨も残さず消えてしまうだろう。
「飛行型モンスターが接近してくるぞ!」
「対空戦闘用意!! モンスターを近づけさせるな!」
「弾幕張れーっ!!」
地上だけでなく空からもモンスターは襲い掛かってくる。空を黒く染めるほどの夥しい数の飛行型モンスターが両軍の艦隊へと襲い掛かってくる。対空兵装で迎撃行動を始める。それ以外にも甲板へと出た各々が魔法や魔術で防衛を始める。
迎撃するモンスターの中でもっとも苦戦を強いられるのは竜種だ。特に飛行能力に長けた飛竜。そしてこの地に生息する飛竜『ストームワイバーン』は強力なモンスターとして知られている。その名の通り、そのモンスターは嵐だ。雷雲孕む暴虐な嵐の如き存在、飛竜の中でもランクの高い存在だ。
AAAクラスの雷属性、背中から伸びる一本の鋭利な太い突起物。背骨の一部が進化の果てに伸びてできたそれは体内で生成した電気を集める役割を持つ。
そして、獲物や外敵を発見した際に攻撃として使用する。集めた電気を収束圧縮して放たれる一撃は厚い岩盤すら容易に貫通する破壊力を持つ。艦砲すら耐える堅牢な鱗、他にも鋭い牙や鉤爪、ブレスに至るまで強力な雷属性を有するモンスター界でも屈指の戦闘能力を持つ。
それが数十、あるいは百を軽く超えるのではないかという数で両軍の艦隊へ他のモンスターに混ざって襲い掛かってきていた。
必死の防御陣地を構築中の艦隊。その中にエメローネ率いる航行艦フェンサーもいた。他よりも早く駆け付けた彼女のお陰でほのか達は無事に避難する事が出来ていた。
「全員無事でよかったわ。一時はどうなる事かと思ったわ」
「ご、ごめんなさい…」
「謝らなくても大丈夫です。ほのかさんの気持ちは分からなくもないですから。……負傷したバルドさんは医務室で休ませているわ。大丈夫、すぐに良くなるはずよ」
ブリッジに集結した面々の中で身体を小さくして謝るほのかを宥める。そして同乗したカルロスとザックスへと体を向ける。
「カルロス元帥、ザックスさん。この事態、どう受け取りますか?」
「一言で言い表せば、非常に危うい状況だ」
「だな。この地のモンスターはどいつもこいつも荒くれもんだ。あーも殺気立って暴れてるとヤバい」
「加えて……カテゴリーの存在だ。あれを動かすとは、シルヴィアの奴め……とんでもない事をしてくれたよ」
「カテゴリーの出現についてはこちらも確認できています。至急対策を練る必要があると考えています」
「………あのー、さっきから言ってるカテゴリーって何なんです?」
聞いた事のない名称に疑問の声を上げたのはマルグリットだ。数多くのモンスターと対峙してきたが今回のモンスターは、これまでと違う扱いを受けている部分に引っ掛かりを感じたのだ。
「カテゴリー……。正確には『接触禁忌モンスター』の事を指す名称だ。SCCAでは限られた人間以外にそいつに接触する事も近づくことも許されない。存在自体が自然災害、ひとたび動けば一帯すべての生態系が激変する超常的戦闘能力を持つ。そういったモンスター達の総称だ」
一般的に知られるモンスターより遥かに強大な力を持ったモンスターと考えた方が簡単だろう。そう区切ってからカルロスは言葉を続ける。
「初めに姿を確認したのが此処アラガミ平野の魔術側領土内だ。何の前触れもなくそれは僻地より姿を現し、近隣の村々を焼き払いながら首都方面へ侵攻を始めた。魔術大国はこれを撃退する事に成功した。…が、代償はとても重いものだった。首都の外壁は完膚なきまでに破壊され、兵士も市民にも大勢の死者を出した」
随分と昔の話だがね、と補足を加える。
「それは魔術側の問題では? なぜこちら側の人間が監視をしている?」
「当時の人間でないから詳しい事情は分からないが、それが魔術側でなく元はこちら側に住んでいたことが双方の調査で分かった共通の答えだったからだ」
「ではなぜ移動した? お前たちがいう事が本当なら、それは前人未到の地に生息していたことになる。これまで発見されなかったという事はそこがテリトリーなのだろう。ならばなぜそれほどの生物が縄張りを変える必要がある?」
「君の疑問は尤もだよ騎士ユグドラ。調査の果てに我々が辿り着いた答えは単純なものだったよ。『それよりも力を持った怪物がそれを追い出した、或いは出現によって移動せざるを得なかった』」
「そんな化け物じみた奴より化け物なモンスターなんているのかよ?」
「そこまでは確証がないから何とも言えない。だが、例えそうであったとしても奴の力は本物だ」
端末の前に移動したカルロスはコンソールを操作しつつ話を続ける。
「最初のカテゴリーが出現して以降、世界各地で同等の力を持ったモンスターが相次いで発見されるようになった。そのどれもが未知の力を使って周囲の生態系を破壊する危険な存在だった。現在確認されているカテゴリーは37体。我々はそれらを出現順にアルファベットで個体識別する事にした。A~Z、以降はAAからAZという順で登録している。それらを各国は選出した精鋭部隊で行動を監視している」
そして―――――
「いま、我々の前に姿を現したカテゴリーこそ…世界で初めてカテゴリーとして認定されたモンスター『カテゴリーA』だ」
映像に映し出されるその姿にほのか達は息を呑んだ。
それは生き物と呼んでいいのだろうか。山のように大きな体だった。深い黒い体毛に覆われた馬の下半身に尾は長く、トカゲを思わせる鱗を持つ。上半身は人に近い体つきに深い鈍銀色の体毛に覆われ、そこから生えている腕は竜の鱗、五つの指から鋭い鉤爪を生やしている。
極めつけは頭部だ。龍のような長い髭を生やし、オオカミに近い獣顔、側頭部から生えるのは悪魔のような捻じれ角。そして背中から生える一対の翼は幾重もの装甲板のような甲殻に覆われた機械質の被膜のついたものだった。
「なんだあれは…」
「控えめに言っても、生き物って言えねえだろ」
「キメラ、といった方が正しいな」
「残念ながらあれは合成魔獣と言った類ではない。あの体を構成する部位は全て奴の遺伝子であると採取した鱗などで確認済みだ。あれは自らの進化の果てにああなったのだよ」
静かにゆっくりとした足取りでカテゴリーAは前進を続けている。その脇を多くのモンスターが道を妨げないように大きく左右に広がる形で駆け抜けている。
「どれだけ暴走していても目の前にいる絶対強者の邪魔はしないか」
「カテゴリーだけが問題じゃねえぞ。周辺にいるモンスターはどいつも強力だ。おまけにあのべっぴんさんを追いかけねえといけねえんだ。その方法を探さねえといけねえぞ」
――人間よ―――
いざその問題に入ろうとしたその時だった。脳へ直接声が響く。声に反応して仰ぎ見れば一滴の光が宙に現れ、やがて膨らみ弾けると中から光の精霊レムルスが姿を現した。その姿を認めるやアウルは露骨に眉間に皺を寄せて不機嫌な表情を見せる。対するレムルスもアウルを一瞬だけ一瞥した後、視界に入れないようにほのか達を見下ろしてきた。
「レムルス!?」
「何で光の精霊が此処に? ここは雷の精霊の管轄じゃ…」
「非常事態だ。故に我はここに居る。人間ども、厄介なことをしてくれたな」
「厄介な事?」
「あの惑星の事か」
ルチアが空を覆う巨星の事と言えば、レムルスは然りと返事を返した。
「あれはこの世界のものではない。あの星の中に生物ならざる生物が存在している。それの発する力がモンスター達を暴走させている」
「止める方法は?」
「元凶を絶て。他に方法はない」
「どうやってだよ!? あの星まで飛べってか? 今の航行艦にそこまでの飛行能力はないぞ!?」
「あれを使えばいい」
レムルスの示す先――――天へ巨人の雄たけびを轟かせ沈黙した古代砲『ウルリクムミ』があった。
「あれであの星へ飛べばいい」
「飛べって…どうやって? もうこの辺りの魔力素を使ったら……」
「枯渇し永遠に生命の住めぬ土地になる。故に我等がいる。我ら精霊の力を使い貴様らをあの星へ飛ばす」
「そんな事が出来るの?」
「可能だ。我らとしてもこの状況を静観する訳にはいかない。――この地を統治する『ヴォルト』はこの事態に怒りを感じているようだからな」
雷雲から膨大なエネルギーを含んだ落雷が次々に降り注ぎ地上を焼き払っていく。自然の起こす雷とは全く異なる異質な動きをするそれは意志を持つように狙った相手を焼き焦がしていく。姿は見えずとも分かるほどの怒気を孕んだ雷撃。これを発生させているのがヴォルトなのだろう。
「助けてくれるんですか?」
「魔術師の子よ。勘違いしてくれるな。我らはこの世界の均衡を守るために行動する。貴様らは貴様らで己が種の存続の危機に怯えるか、立ち向かうか選ぶがよい。答えが定まった時、再び我が名を呼べ。だがあまり時間はかけてくれるなよ。我はそこまで気が長い方ではないからな」
言うべきことを言い終えたのかレムルスはその身を光に包みほのか達の前から姿を消した。
非常に凶悪なモンスター、それをカテゴリーと呼ぶ。
某ハンティングゲーに例えると古龍種的な立ち位置のモンスター。生半可な実力者は近づく事すら許されない接触禁忌とされている。
次回もよろしくお願いします。




