第九十四話 虚無VS時&地
九十四話更新
強敵シルヴィアを前にSCCAとギルドの長が迎え撃つ。共和国の双璧と言われた二人の連携はシルヴィアに通じるのか。
「さて、行くぜ!」
気合の籠った声と共にザックスが真正面からシルヴィアに向かって突撃する。向かってくるザックスに向けてシルヴィアは魔力弾を飛ばし攻撃を始めた。
シルヴィアはこの時、初撃は回避されると踏んで回避先を想定した弾幕配置を行っていた。だがザックスはこれを真正面から直撃した。
「効かんなぁっ!!!」
爆炎の中からザックスが飛び出す。直撃しても一切怯みもしないで猛進してくる姿にやや驚かされる。接近するザックスは魔力を生成し周囲に魔力弾を展開する。
「飛んでけ、アースボム!!」
黄土色の魔力弾が放たれる。飛来する魔力弾を難なく回避するシルヴィアに肉薄し持っていた戦斧を振り下ろす。迫る重撃をほんの僅かだけ高速移動魔法を用いて最小限の移動で避ける。大振りの攻撃が避けられて決定的な隙が生まれる。
「墜ちろ」
ザックスの鼻先にブラックハートを向ける。魔方陣が展開され直後に無名の砲撃が彼を包み込んだ。
ゼロ距離からの砲撃魔法。とてもではないが無事でいられない。
そう誰もが思うだろう。だが、ザックス・イエーガーは違った。砲撃直後にブラックハートへ手が伸びてきて掴んだ。
「なっ!?」
「取ったぜ、べっぴんさんよ!!」
着ていた衣服はボロボロだが、大してダメージを負った様子もなく目を煌々と輝かせ立つザックスがいた。今まで相対したどの相手ともまるで違う。攻撃を受けても怯みもせず動きが鈍る事もない異様な男に流石の彼女も驚きを隠せない。
「まず一打!!!」
すかさず強烈な一撃を叩き込む。咄嗟に防御魔法を張り攻撃を防ぐ――が呆気なく弾き飛ばされ地面に落される。
「くっ……! 防御越しでこの威力…!」
「予想以上に堅いな。あと何打でブッ倒せるやら」
「そう何度もくらう気はないわ」
「そうかい。なら同じ状況を作ればいい」
「全くその通りだ」
背後から聞こえた声にシルヴィアは瞬時にガードマテリアルを発動する。直後に首を狙った剣の一撃が飛んできたが障壁によって阻まれた。
「私の背後に立たないで」
「厄介な魔法だな。瞬く間に発動するという事は、特定の条件に対して自動で発動するカウンター魔法といったところかな?」
返事の代わりに光線状の魔力弾を撃つがカルロスの姿が忽然と消える。視界から消えたカルロスに一瞬だけ気を取られる。
「余所見はいけねえな、ぺっぴんさん!!」
僅かな隙を逃さずザックスが肉薄する。迎撃の魔力弾をその身で受けながらも猛進してガードマテリアルに戦斧を叩きつける。凄まじい音が鳴り響く。衝撃でシルヴィアが大きく後ろに後退させられるが障壁は罅すら入らない。
「おいおいおい。いくら何でも堅すぎるだろ…? さっきの防御魔法よりも守りが高すぎるぜ」
「あれが彼女の持つ最強の防御魔法だ。『マテリアル魔法』と分類される」
「あ? んじゃあれが『物質魔法』か。生で見るの初めてだな」
「魔法によって生み出す『創造物質』。あれは現世におけるあらゆる物質よりも堅いだろう。突破するには収束砲撃魔法かそれを凌駕する大魔法が必要になる」
「要はそれを俺がやれってことか? ……お前さ、自分であの魔法を引っ張り出させる状況に持ち込んだクセによくそんなことを他人にやらせようとするな?」
呆れた表情で告げる。確かに背後を取ったが故にあの守りが発動したのは間違いなくカルロスが原因だ。対してカルロスは大きく溜息を吐いてやれやれと肩を竦める。
「君に言われたくはないな。得意のクロスレンジに入っておきながら一打で仕留めきれず、挙句、一方的に反撃を受けるアウトレンジまで吹っ飛ばすバカが何処にいるかね? 私が敵ならもう君をクロスレンジまで近づけないようにアウトレンジを維持しつつ一方的に殴る戦闘を選ぶ。この結果に至る前に動きを封じる必要があったからわざわざ背後を取る戦術を選んだのだがね。全く…無駄な被弾は慎めと、昔から何度言ってきたと思っているんだ? 」
「ひっさびさに聞いたなその長ったらしい説教…。あと嫌味を言うんじゃねえよ」
「嫌味? いいや違う。これは客観的に見た分析結果だ。君はどうも近づいては遠くに吹っ飛ばすというクロスレンジ型にしては致命的な欠点を持っている。これで君が無駄に被弾した割合は凄まじいの一言だ。正直言って『馬鹿』、いや『極めつけの愚か者』と言ってもいい」
「うるせー! ブッ叩けば遠くに物が吹っ飛ぶのは物理の世界じゃ当たり前の話だろ! それをフォローすんのがお前の仕事だろーが。対応が遅いんだよ。老いたかジジイ!」
「私がフォローする? ふっ…冗談は寝言だけにしてくれないか。それと鏡を見て言った方がいい。遅れているのは君の方だ。もっと速く動けないのかね? まるでナマケモノを見ている気分だったぞ」
「んだとコノヤロー!?」
「……なんか喧嘩始めてない?」
「もしかして仲が悪いとか?」
「あれがアイツ等の何時ものやり取りなんだろ。シルヴィアの言ってた『共和国の双璧』で思い出した。ザックスは元近衛騎士団団長だった男だ。その頃は『ノーガードのイエーガー』って呼ばれたな」
「近衛騎士団団長!? それってヨーデル陛下直属の護衛騎士だったってこと!?」
バルドの発言にフィリスが驚いた様子で反応する。
「そこまで驚くことなのか?」
「うん。だって近衛騎士団団長はヨーデル国王が亡くなった後、モンスター討伐任務に出動してその最中に戦死したって言われていたから……」
「要するに誤情報…いや、意図的に隠したのかもな」
「『ノーガードのイエーガー』っていうのは?」
「そのまんまの意味だ。アイツはガードをしない。出撃した戦闘で一度も防御に回った事がないんだ。敵を視認したら突撃して薙ぎ倒す。その際にいくら被弾しようが足を止めず怯む事無くただ目標に向けて突っ込んでいく。今だってそうだったろ?」
確かに言われてみれば彼はガードしていなかった。ただ真っ直ぐに最短距離を最速で飛んでいた。被弾しようがお構いなしといった風に。曰く、“被弾しようが最速で近づけば総ダメージは大して変わらない”という考えの持ち主らしい。
「それって唯の突撃馬鹿って事だよな?」
「言ってやるな。本人がそれで正解だと思ってるんだ」
対してカルロスは堅実な男だ。バルドとの模擬戦のように攻める時は攻め、守る時は守る。状況に合わせて攻守を切り替え常に自身にとって有利な状態を維持する。ザックスとは正反対の戦いを行う。
だからこそ、二人は当時コンビを組まされたのだろう。突撃思考のザックスをカルロスがフォローし、時には共に攻め立てる。ザックスが敵陣を食い破り、カルロスが傷を広げる。こうして二人の活躍によって長きに渡る魔導戦争で共和国は守られてきた。
過去を知る者だからこそ、そのコンビを畏れる。『共和国の双璧』、砕く事の出来ない最強の守りが彼らなのだ。
魔導戦争に参加していた古株でこの戦場にいるとしたら、クロス陣営にいる『軍神バルドゥス』、『鉄拳のマルコ』の二人だろう。逆に言えば、クロス陣営で対抗できるのはこの二名だけという事になる。だが今回はこの二人ではない。相手は世界が認める『今世紀最強の虚無魔法士』であるシルヴィアだ。
「まあ、殺れってんなら良いぜ」
「勢い余って殺めないでくれよ。彼女には聞かねばならないことが山ほどある」
「ヘイヘイ…っと!!」
ザックスが纏う気迫が更に大きく膨れた。同時に身体も一回り大きくなったように錯覚する。
「悪いなべっぴんさん。こちとらそっちのお陰で余裕はなくなった。加減は無しで行くぜ!!」
「加速しろ。クロックアップ」
時計の様な模様の魔方陣がザックスに付与される。時計の針が徐々に加速し凄まじい速さで回り出す。深い深い笑みを浮かべた次瞬、ザックスの姿が掻き消える。
「ッ……!!」
「君は、遅くなれ」
迫りくる殺気にシルヴィアが距離を取ろうと動こうとした。だが、既に傍らにカルロスが剣を大きく振りかぶって肉薄していた。瞬間移動などという言葉では片づけられない瞬きもしていない間に、カルロスは己の射程圏内にシルヴィアを捉えていた。
振るわれる刃に回避でなくガードマテリアルで受ける選択をする。
「クロックダウン」
それが悪手であったことに気付いた頃には全てが遅すぎた。ザックスに付与されたものと同じ魔方陣が彼女にも、広がった時計はザックスの時とは逆回転に回り始めその速度は徐々に遅くなっていく。
「な…に………!?」
「君の時は、私が支配した。あとは、ザックス……君の仕事だ」
「ああ、イイゼ。準備はオーケーだ」
振り向きたい衝動に駆られる。だが体がまるで自分の意志を無視するようにゆっくりとした動作でいる。迎撃魔法を構築しようと試みても、魔方陣の展開すらスローモーションのようにゆっくりとしたものだった。彼女の背後に浮かぶザックスが戦斧を大きく掲げる。
「大山撃滅―――!!」
魔力が斧へと集束する。黄土色の光がこれでもかと集まったそれはまるで色褪せたもう一つの太陽の様だ。
一歩前へ足を大きく踏み出す。身を捻りながら戦斧を持った腕が大きく後ろに引く。その場で一度、二度、回転しそして―――――
「三旋必殺ッ!!!!!」
轟音の如く雄たけびを上げて三度目の回転の後、全体重を加えた戦斧の一撃をシルヴィアへと叩き込んだ。クロックアップの効果によりより速さの増した凶悪な一撃がガードマテリアルを――まるで鉄のハンマーに全力で叩かれたガラスのように――粉々に粉砕しシルヴィアも弾き飛ばして地面へと叩き落した。
大山撃滅・三旋必殺
ザックスの持つ必殺の魔法。戦斧に魔力を集め圧縮しその場で回転し三度目で溜めた力を一気に解き放つ超強力な地属性近接魔法。回転エネルギーも加えた一撃はその名の通り大山すら吹き飛ばし地形を変えると噂される。
圧倒的火力を発揮する魔法だが、発動までの隙が大きく動きの素早い相手だと動きを封じなければ当てられない欠点を持つ。
次回もよろしくお願いします。




