第九十二話 秘石覚醒
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窮地に立たされるほのか達の危機に現れたのは元帥カルロスだった。
シルヴィアの強襲によって窮地に陥ったほのか達。その彼女たちの救援に来たのは共和国の切り札タスクフォース元帥カルロス・トーラスだった。
「強い魔力反応が現れたと思って来てみれば、やはり君だったか」
「カルロス・トーラス…」
叩き落されたシルヴィアがゆっくりと立ち上がる。飛行魔法で再び宙に浮かんで彼と同じ高度で止まる。
「秘石を求めて姿を現すと思っていたよ。予想よりだいぶ早いようだがね」
「元帥自らこのような場所に姿を現すのね。少し意外だったわ」
「不思議な光のお陰でね。敵の抵抗もなくなったから苦労する事もなくここまでこれたよ」
シルヴィアの視線が地上にいるほのかへと向けられる。感情の籠らない視線に体が震えた彼女はそっとバルドの陰に隠れる。
「さて…。君には多くの容疑がかけられている。大人しくしてくれると助かるのだがね?」
「貴方の指示に従う気はないわ」
「そうだろうね。君の経歴から見ても素直に従う気はないと思っているよ」
最初から分かっていた風に語る。そして続けてシルヴィアのことを語り出した。
「シルヴィア・ピステール。父ジャック・ピステールと母デボラ・ピステールの間に生まれたピステール家の長女。幼き頃から他の同年代の子よりも優れた才を持ち、大人顔負けの頭脳明晰さをみせる。周囲からは子供ながら何を考えているか分からず薄気味悪い子供という評価を受けていた」
「成長し世界大会に出場。圧倒的な実力で見事三冠を果たしたことで今世紀最強の魔法士と呼ばれるようになる。同時に虚無属性という未知の属性を保有していることが判明する。政府が何度かSCCAに勧誘するもすべて断って研究に明け暮れる」
シルヴィアは何も言わずカルロスの語りを聞いている。感情のない瞳は未だ動かない。
「高校を卒業した頃になって、妹であるリースリット・ピステールが生まれる」
リースリットの名が出たとき、彼女は微かだが反応を示した。
「両親と共に彼女を溺愛していたそうだね。自らの知識と技術、その全てをまるで与えるように君は妹の教育に精力的だった。そして数年の時が過ぎリースリット君がある程度成長した時――――」
一度区切ってから…続きをシルヴィアに向けて、そして周囲に教えるように彼は言った。
「君は、己の両親であるピステール夫妻を『殺した』」
「……」
「え…」
「ころ…し、た……?」
衝撃の発言にほのか達は絶句した。思わずリースリットとシルヴィアに交互に視線を向ける。シルヴィアの感情のない瞳のその奥底では、凄まじい殺意の炎が見える。リースリットは顔を俯いて小さな手を強く拳に変えている。
「その日から君は変わった。全ての財も功績も捨て、そしてたった一人の家族を捨て、遂には人々の前から姿を消した。以降の情報は皆無。君の所在は完全に我々の調査でも掴めなくなった。君は……これまで何をしていたのかね? そして、君に何があったのかね?」
全員の視線がシルヴィアに向けられる。長く沈黙を続けていたシルヴィアは此処に来てカルロスからの質問に静かに答えた。
「それは貴方が一番よく知っているはずよ」
「ほう?」
「教えてあげてもいいわ。その代りに……この世界に寄生する死にぞこないの老害共を差し出しなさい」
カルロスの眉が僅かに動いた。険しい表情に変わり目付きが鋭くなる。
「……何の事か分からないのだが?」
「とぼけても無駄よ。『あの人』の警鐘を一蹴して功績全てをはく奪し追放までした事を貴方達が忘れたとしても私は忘れないわ。『あの人』が発見し、そこで見たもの。いずれやって来るこの世界の危機。その全てを、貴方は、政府の人間は笑い、妄想だと、否定した!!」
目に明らかな怒りが宿る。今まで感情を閉ざしていたシルヴィアが初めて感情を露わにしていた。
「それでも知ってもらいたいと全てをはく奪されてからも研究と調査を『あの人』は続けていた。そんな『あの人』を貴方達が、この世界から追放したのよ!」
「……妄言は止してくれないか。私はあの者の事は知らない。公式発表では権威剝奪の後に行方不明となり『事故死』となっている」
「知らないとでも? 『あの人』は遺してくれたわ。自分がいつ死ぬか、殺されるか分かっていた様に、私たちの前から姿を消す前に私に言葉を残してくれた」
言葉を紡ぐたびにシルヴィアの怨嗟の炎は勢いを増す。握り拳の隙間から血が滲み滴り落ちるほど手に力が込められる。深い憎しみを含め、彼女は遺された言葉をカルロスに語った。
「『元老院に気を付けろ。彼らは人の可能性を求めている』」
「っ……!!」
「あの時……ついて行けばよかった。今でも一人にしてしまったことを後悔してるわ。一緒に行けば…未来は、可能性は変わっていたかもしれなかったのに。あんな死にぞこない共に、あんな卑怯者共から『あの人』を守れたのに!!」
「シルヴィア・ピステール、それ以上の発言は止めるんだ」
「知った事か! 『あの人』をこの世界から葬った時点で、私はこの世界に失望しか残っていない! 許さない。貴方達を許さないわ! ひたむきに前を見て、未来を見据え、真っ直ぐに生きていた『あの人』を害悪と称して消した事を……世界が忘れても私は忘れるものか!!」
溢れんばかりの憎悪が彼女から発せられる。それに蓋をするように彼女は静かに呼吸を整え、冷静さを取り戻す。
「だから私は教えてあげるのよ。この秘石を使ってね。……準備は整った。後は実行するだけ」
右手に持つ秘石を高く掲げると沈黙していた筈の秘石が再び活動を開始した。眩い光を放つそれから光が波紋のように発せられる。それと同時にウィル、フォルテ、メローから警告音が鳴り火花が散る。
「ウィル!?」
[システムに異常発生…。内部で高濃度の魔力、暴走による…誘爆回避、異常物を強制排出します]
三基のターミナルがそれぞれ何かを内部から弾き出した。まるで意志を持つように空に駆けるそれは、これまで封印してきた秘石の欠片たちだった。
「欠片が…!?」
「そんな!? 活動も止まって、幾つもの封印をかけてたのに……なんで!?」
シルヴィアの許に集まった欠片が互いに呼応し、結びつき合体する。それは美しい八色に輝く星の様な結晶体。しかしそれは人を魅了する怪しさも兼ね備えた恐ろしい輝きだ。
あらゆる願いを叶えるとされる願望器と呼ばれる古代の遺物『ニーベルンゲルゲン』が遂にその完全なる姿を現した。
長き旅の果てにシルヴィアの手によって秘石が遂に完全なる形で目覚める。
次回もよろしくお願いします。




