第八十五話 覚醒Ⅱ
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バルドの下へ急ぐほのか達。
一方そのころ、仲間を残しアガレス達と交戦の末、最上級魔術を受けたバルドはどうなったのか。
彼女たちは、彼の危機に間に合うか。
アガレス達の前方に出来た黒く焼けた大地の中央で、魔術攻撃の直撃を受けたバルドは片膝をついた状態で体から黒い霧のようなものを出したまま動かなくなっていた。
「仕留めたか?」
「閣下の魔術だ。まともにくらって生きてる訳ねえだろ」
軽口をたたきつつもビアンカの警戒は解けていない。
とは言え、自身の王たるアガレスの最大魔術『バニッシュ』を受けたのだ。
いかに彼が強敵であろうが致命傷だろう。
しかし、ピクリともしなかった彼の指が僅かに動いた。
「ぬ……!?」
敵が未だ生きていることにアガレスを含めた将軍たちは驚いた。
曲がりなりにも魔術界最強の光魔術を受けたのだ。まともな人間なら動けないはずだ。
「灰にならないどころか生きているか……大した男だ」
ゆっくりとした足取りでアガレスが一人、動かないバルドの下に近づいていく。
どうやら直接自らの手でトドメを指すつもりのようだ。
[おい、相棒!! 目を覚ませ!]
[若! しっかりしてください!!]
[冗談じゃねえぞ。このままここでくたばる気か!? たかが人間ごときにテメーは殺さる気かよ!!]
二本の魔剣が声を荒げて目を覚まさせようとするが、意識の回復にはまだほど遠い。
遂にアガレスがバルドの前にたどり着く。
手に持つ剣を大きく掲げる。雷鳴が鳴り響き、閃光が剣を照らした。
「これで終わりだ魔剣士。せめて痛みを知らずに地の底に墜ちるがいい」
[相棒!!]
[若あぁっ!!]
振り上げられた剣が振り下ろされるまさにその瞬間――――
「――っ!!」
何かを察知したアガレスが攻撃を止めてその場を飛び退く。
直後―――空から砲撃魔法がアガレスの居た場所に着弾する。
間髪入れずに降り注ぐ砲撃の雨。絶えず降る砲撃から逃れる為に必然的にバルドから遠ざかる。
最後に大出力の砲撃が彼らの前を焼き払うように奔り、大地を吹き飛ばす。
「なんだ今の砲撃は……!?」
「閣下、お気を付けください。この反応……あの娘か」
頭上を見上げる一同に映ったのは、白い少女だった。
彼女――――皐月ほのかはゆっくりと降下し、バルドの前に降り立った。
[ほのか、さん……?]
[ほのかの嬢ちゃん、なのか…?]
彼女で間違いないはず、なのに魔剣たちは戸惑いを隠せなかった。
今のほのかから感じられる気配がそう思わせる原因だった。
溢れ出る魔力は彼女のものだが、その中――魔力の奥底から感じられる包み込むような神気が魔剣たちを困惑させた。
問いかけに反応せずに彼女はゆっくりと振り返った。
そして、ボロボロで動かないバルドを見て悲しみを宿した表情を浮かべる。
「バルドさん……」
彼の傍に寄り、そっと手で頬に触れた。それだけで彼がまだ生きていると分かったのか、安堵の表情に変わった。
「生きてる……。よかった、よかったよ……」
彼の頭に腕を回して胸に抱えるようにして抱きしめる。
敵に背を見せているにも拘らず、彼女はただただ強く抱きしめる。
ほのかの体が淡く桜色に光り出す。不思議な光は彼女を伝い、バルドに移る。
暖かな光は、彼の負った外傷をたちまちの内に癒していく。
「回復魔法か!」
「させるかよっ!!」
いち早く反応したビアンカが駆けだし、ほのかの背後から円月刀を振り上げる。
「さっさとくたばれよ。死にぞこないーー!!」
振り下ろされる刃。
だが刃は二人を斬ることは出来ず、桜色の魔法障壁の前に阻まれた。
「なっ――うおっ!?」
強い拒絶の力が働いてビアンカは跳ね飛ばされる。
自身の背後でそんなことが起きていたのに、ほのかは動かないでただジッとバルドを
抱きしめ続けていた。
「……うっ」
小さく彼から声が聞こえた。体を離すと閉じられていた瞼がゆっくりと開いた。
ぼやけた視界の焦点が徐々に合わさり、やがて目の前にいる人物がほのかであると判断できた。
「ほのか、か……?」
「バルドさん…。――っ、よかったよぉ……」
眼から溢れる涙を拭わずに彼女はもう一度、力一杯彼に抱き着いた。
よかった、と何度も呟いては涙を流す。
なぜ彼女がここにいるのか、バルドは問いただしたかった。
だが、自分を抱き泣きじゃくる彼女を前にしてその考えは消えた。
彼女の頭に手をやり優しく撫でて、わるかったな…と謝罪する。
小さく何度も頷いて応える。そして、彼から体を離したほのかは振り返りアガレスたちと対面する。
その目は幼くも強い意志を宿して大人顔負けの気迫が感じられた。
「あれがあの魔剣士の守ろうとする者か」
ほのかを見てアガレスはバルドゥスへと問いかける。
彼女たちと対峙した経験のある彼は静かに、そしてはっきりと頷く。
「お気を付けください閣下。あの娘、見た目に反して相当の手練れ――いえ、状況判断からの行動力が優れています」
「……どうして」
「む?」
小さく聞こえた問う声にアガレス達はほのかを見る。
ここに来るまでに多くのものを目にしてきた。それはとても悲しく苦しいもので胸を締めつけた。溢れる想いは止まることを知らず、堪えていた感情は爆発した。
「どうしてこんな事をするの!! わたし達はただ平和に暮らしたかっただけなのに、なんでみんなを傷つけるの!! こんな事をして誰も幸せになんてなれないのに…なんで争おうとするの!」
彼女が感情を爆発させその想いをアガレス達にぶつける。
その時だ。不思議な現象が、彼らの前で起きた。
目に涙を溜めた彼女の体から光が溢れだす。それに呼応するように周囲の大地から光の粒が上る。
ほのかから溢れる光は更に強さを増し、周囲の光の粒が彼女の下に集まっていく。
「なんだ……? この光は?」
「魔力…? これ、まさか魔力素か?」
彼女の下に魔力素が集まっていく。それは可視出来るほどに大きなものになり、彼女の持つ魔力と交わり彼女と一つになっていく。見たこともない光景に彼らは警戒して武器を構える。
「悲しみを呼び込む人たちなんか……。みんな、みんな―――――出ていってええぇぇぇっ!!!!!」
感情の全てを吐き出すように叫ぶ。
その瞬間、彼女から眩い光と共に膨大な魔力が周囲に解き放たれた。
「うおっ、眩し!?」
「な、なんの光ぃ!?」
目を眩ませるほどの光を前にアガレス達は手で影を作る。
その桜色の光は天高く昇り空一杯に広がる。勢いは止まらず、空の彼方まで広がっていく。
光が広がると同時に周囲では不可解な現象が発生した。
戦場に広く展開されていた兵士たちが皆、動きを止めると同時に手から武器を離し地に倒れ伏した。
クロス王国兵だけでなく共和国兵も含めた全ての兵士たちがまるで糸の切れた操り人形のように崩れ落ちていく。
「な、なんだ。何が起きているのだ――むっ!?」
異常事態に理解が追いついていないバルドゥスの視界が揺れる。
見れば、愛馬であるガリューが地に膝をついていた。
「如何したガリュー!?」
幾度となく潜り抜けてきた戦場でただ一度たりとも膝を屈したことのない愛馬が見せた動きに驚きを隠せない。立とうと力を込めているのだろう鼻息を荒くしている。だが、力が入らないのか遂には横になってしまった。
落馬寸前に受け身を取って立ち上がったバルドゥス。その手からランスが零れ落ちた。
手が震える。足が震える。体を支えきれない。
他の兵士たち同様に彼もまた地に倒れ伏した。
「バルドゥス!?」
「な、なにが……!?」
「おいおい爺さん。なに腰ぬかしてんだ―――あれ?」
挑発していたビアンカが続いて倒れた。
なんで自分が地面に倒れているのか理解できないのか目を丸くする。
「ビアンカ将軍!?」
「ち、力が入らねえ…!? な、なにがどうなってんだ……?」
「くそっ、精神干渉型の魔法か!?」
ペインが機関銃をほのかに向けて発砲する。
だが、どういう事だろう。弾丸は彼女の目の前で急激に軌道をずらし、後ろへと流れてしまった。
己の目を疑った彼は機関銃を連射するが全て逸れていく。弾を撃ち尽くした銃を捨て、対戦車ロケット弾を発射する。
それすら彼女の前で軌道を逸らして明後日の方向へ飛んでいき爆発した。
「弾が、避ける――うっ!?」
驚愕する彼の体から力が抜け、先の二人と同じく倒れる。
「こ、これはなんとす~~ばらしい事でしょ~うか!! 彼女から発せられるエネルギーは精神干渉ではありません。もっと、もっと違う古代の高位の魔法――」
興奮しながら解析していたレノンだったが、搭乗していた機体が異音を発したと同時に突然、機能停止を起こし、彼もまた突っ伏して動かなくなった。
「何がどうなっている? あの娘、我々になにをした」
仲間が次々と倒れる中、眩い閃光を放ち続けるほのかをアガレスは睨み付けた。
バルドの盾となるように立つ少女、その体から発せられる魔力は限界がないのか、魔力の放出が止まる様子はない。
その目は真っ直ぐと、瞬きせずこちらを見てる。
(いや、違う。あの娘の目に我々は映っていない!? 貴様は、何を見ている!?)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ほのかの後を追いかける仲間達の頭上を、光の奔流は瞬く間に空を覆い隠す勢いで広がっていく。
「なんなの、これ?」
立ち止まり、空を見上げる。呆然と立ち尽くす中で、騎士たちは一つの違和感を覚えた。
「なんだ? なにかがおかしい…?」
「攻撃が止んだ。それに、静かになったな」
視線を前に向ける。
前方に展開されていた航行艦から対空攻撃が止んで、徐々に高度を落とし地上に次々と不時着する。
地上を見下ろすと、先まで雄たけびを上げて激突していた兵士たちが全て倒れて動かなくなっていた。
「みんな、動かなくなってるです?」
「何が起きているんだ。この光と何か関係があるのか?」
空の果てまで広がり続ける光に再び目を向ける。
呼応する様に、地上から光の粒が緩やかに上ってきた。
目の前に浮かんだ光の粒にフィリスが手を伸ばし、そっと触れる。
その瞬間、体に何かが流れ、同時に脳裏にバルドを庇うように立つほのかの姿が映し出された。
「これ、ほのかだ。ほのかがこれを起こしてるんだ!」
「皐月が、だと!?」
「フィリスちゃん、それほんまなんか!?」
「間違いない。これ、ほのかだ。ほのかが、みんなを止めているんだ。争いを、抑え込もうとしてるんだ!!」
光の粒に触れた一瞬の間に流れ込んできた何かからいま起きている現象を理解した。
だが同時にこれは人が成せるものではないと理解も出来た。
「急ごう! ほのかの所に!」
阻む者がいなくなった空と地上。
仲間たちは移動を再開し、ほのか達の下に急いだ。
クイックバスター
ほのかがアガレスを頭上から攻撃した時に使った砲撃魔法。ホーリーバスターの連射間隔を短くして連射速度を上げている。威力に変化はなく強力な制圧力を誇るが、やや射程が短くなってしまっている他に消費魔力量も馬鹿にならないほど多い。最後の一撃が通常の1.5倍の火力をもっている。
次回もよろしくお願いします。




