第八十三話 決意Ⅱ
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バルドを助けに一人飛び出したほのか。その彼女を見て仲間たちは何を選択するか。
一人戦場の空へ飛んでいったほのかを見送るシリウスは口笛を吹いた。
「おぉ速い速い。あっという間に飛んでいっちゃったよ」
「シリウス!!」
その彼にユグドラが強い口調で呼び近づく。
振り返った彼の胸ぐらを掴み、壁に押し付ける。
「どういうつもりだ。なぜ皐月を行かせた!!」
「ちょっ、ちょっと待って!? 俺は何もしてないよ!」
「なんだと!?」
「ほのかは自分の意志で行ったんだ。自分で選択してバルドの所に行ったんだよ」
怒りを露わにする彼女に、ほのかを行かせた理由を伝える。
「なぜだ。お前なら止めることができただろう」
「嘘ついてないのに止める理由なんてないっしょ」
「はァ? おい、シリウス。それは本気で言ってんのか?」
聞いていたサヤがもう一度聞く。その声は不満なことを隠しておらず、返答次第では殴って来そうな気配すらする。それを前にしても、シリウスは“当然”と答えを返してきた。
「嘘をついてない子に、嘘で返すのは違反だからね~」
「だからって、あたしたちに何も言わないのはどうなんだよ」
「言ったら嘘つかれるもん」
「嘘だと?」
「君たちだってさ……行きたいんでしょ? バルドの所にさ?」
その問いかけに目を見開く。自然とユグドラは掴んでいた手を放した。
「君たちだってバルドを一人で行かせたくなかった。でも、守るものがあったから選択した。自分に嘘をついてそれを覆い隠した。嘘は嘘を呼ぶ。君たちに相談したらほのかの気持ちも嘘に包まれる。俺にはその選択ができない。あの瞳を嘘で曇らせたくはないね」
まあ、逆に嘘を吹き飛ばして皆を巻き込めたかもしれないかもね。
そう付け加えて、彼は声を殺すように笑う。
「ほのかは嘘をつかなかった。本当の事を隠さないで答えた。だから、俺は道を譲った。君たちはどうする? このまま待つかい?」
問われた一同は口を閉ざして沈黙する。
特に深く思考したのはユグドラといった守護騎士たちだ。
バルドやシリウス、アウルやグラキエスを除けばここのいるのはどこにでもいる子供たちだ。
戦争など縁も所縁もない平和な土地で暮らす一般人だ。
そんな彼女たちを連れてバルドの下に馳せ参じるのは出来ない。
「嘘をつかなかったら、通してくれるの?」
そんな中で凛とした声が艦内に響いた。
声の主、リースリットが一歩前に出てシリウスに問いかけた。
「勿論。まっ、後でバルドに怒られるだろうけどね」
「ん…。なら、そこを通して。私も、行く。……アウル」
「承知した」
「リースリットさん、アウルさんまで!? ま、待って!!」
エメローネの制止を無視して、リースリットは躊躇いもなくカタパルトの端まで進むと身を投げる。
続いてアウルも飛び降り、二人は空を飛翔する。
「ぬしよ。わっちは風となって後を追う。全力で飛ぶといい」
「ん……ありがとう」
その身を羽へ、そして風へと変えたアウルが姿を消すと同時にリースリットは最高速でほのかの後を追いかけていった。
「んじゃ、アタシも行くか」
「霧島さん?」
また一人、サヤが前に出る。眼下に広がる大地を見下ろす。
「アイツらが行ったのに、アタシたちがビビってどうすんだよ。アタシらは先輩なんだぜ?」
「霧島さん……。うん、そうだね。僕たちは先輩だもんね」
サヤの隣にアシュトンが並んだ。目だけを彼に向ける。
膝はガクガクと震えているのを見た。
「ビビってんぞ。そんなんで大丈夫かよ?」
「だ、大丈夫だよ。それに、霧島さんを一人で行かせたくないし」
「はァ?」
「霧島さん、魔術分からないでしょ?」
「うぐッ」
「僕なら魔術がわかるから、もし危ないと感じたら教えられるし、なにかあったら守れるから」
相変わらず膝は笑っているが、その表情はいたって真剣なものだ。
彼の強い意志と真剣な眼差しに鼓動が高鳴った。
顔に血流が集まって火照ってくるのを感じたサヤは彼からそっぽを向く。
「あれ? 霧島さん?」
「うっせェ、しゃべんな」
「ええっ!? 拒絶された!?」
「ちげェよ! 黙って背中に乗れ! そんで口を閉じてろ、開くんじゃねェ!!」
「なんで怒ってるの!?」
納得いかないが、言われたとおりに背中に乗る。長い髪から彼女の使用するシャンプーの香りがしてドキッとするがグッとこらえて背中にしがみつく。
「やっぱ、この立ち位置……なんか違う気がする」
「てめェは走れねえだろ。おら、行くぞ」
カタパルトから二人が飛び降りる。重力に従って真っ直ぐに落ちる。
眼下には共和国軍の集団が見えた。
「お前らどけェ!!」
頭上からの声に驚き見上げる一同が落ちてくる存在にさらに驚く。
慌ててその場から退いたと同時にサヤが着地する。重力の影響で凄まじい衝撃があたり一帯に広がった。
彼女はその力を逃さず足に込めて…前に進む力に変換した。
まるでそれは地上を走るミサイルのようだ、と後にその姿を目撃した兵士は口にしたという。
「さて、若者たちは先に行ったけど……どうする? 騎士の皆さん」
「ぬぅ…」
更に煽りを受けるユグドラ達は小さく唸った。止めるべきだったのに止められなかった。
彼の言う通り自分たちは嘘をついている。本当の気持ちを隠している。
「シリウス君。あんまり、うちの子達をいじめんといて」
そんな彼の前にあかねが立った。
彼女の瞳から言わんとしている事を察したシリウスが問いかける。
「大丈夫なのかい? こっから先は地獄だよ?」
「みんなは分かってて選んだんでしょ? なら、うちがここに立ったという事は答えは分かるよね?」
「シリウス。あまり守護騎士たちを煽るな。彼女たちの守るべき者は多けれど、最優先は主である創世の者だ。彼女の号令なしでは遠くへは飛べない」
ここにきて黙していたグラキエスも動き出した。
窘められた彼は肩を竦めてから両手を上げて降参のポーズをとる。
振り返ったあかねは守護騎士たちに指示を、自らの意志を示す。
「うちはほのかちゃんの後を追いかける。みんな、うちについて来て。みんなでバルドさんを助けよう!」
「主……。御意!!」
あかねからの強い決意にユグドラ達が片膝をつき首を垂れる。
皆から返事を聞いて強く頷いたあかねは次にフェリスの方を向く。
「フィリスちゃんも行こう」
「でも……」
最後まで口を閉ざしていたフィリスに声をかける。しかし、未だ迷いを残したような返答をされた。
「私なんかが行っても、足手まといだよ」
彼女の属性は水属性である。全属性の中でも回復に長けているが、攻撃性に非常に乏しい。
マルグリットのような攻撃寄りのタイプでもない事も自覚している。これまでの冒険でも得られた攻撃魔法は数える程度。加えて威力も大したこともない。オーバーリミッツで強化しても雀の涙程度だという事も検証済みだ。
故に彼女は足を止めてしまったのだ。
一緒に行けば邪魔になると思って―――
「本心はどうなんだい?」
「え?」
俯いていた彼女が顔を上げると、鼻がくっつきそうな距離にシリウスの顔があった。
びっくりして顔を少し離す。
「君の本心を俺は聞きたい。嘘は聞きたくない」
いつものふざけた感じが消えた真剣な様子に気圧される。
自分の本当の気持ち……。そんなの決まっている。
「追いかけたい。ほのかを追いかけて、バルドを助けに行きたい」
嘘偽りない本当の想いを彼に打ち明ける。それを聞いた彼は満足したようにニコッと笑みを作って顔を離した。
「なら、皆と一緒に行こう」
「で、でもわたしは――」
「あ~、聞きたくない。属性の問題とかそんなの本心を隠す嘘だよ。悩んでる暇があるなら、本能に従って進んだほうが早いって。壁にぶつかったら、蹴破る方法を考えればいいのさ。大事なのは今、今の自分の気持ちを隠していたら後で後悔するよ」
尚も迷いを見せる彼女の話を遮る。そして彼女の前に手を差し伸べる。
差し出された手を見てから彼の顔を見る。
「大丈夫。何かあったら俺が守るよ。だから、自分の気持ちに嘘をつかないで親友を助けに行こうよ」
一瞬の逡巡…だがフィリスは首を振ってから小さく深呼吸を行い迷いを断ち切る。
差し伸べられた手にゆっくりと自分の手を乗せる。小さな手を彼は包み込むように優しくそして安心させるように強く握った。
「それじゃあ、皆で追いかけようか。一人で勝手に突っ走っていった奴とそれを慕って追いかけた子を助けにさ」
「そういう訳にはいかないわ」
一致団結したところで遮る声が室内に響いた。
そして直後にあかね達を水の捕縛魔法が巻き付いて動きを封じた。
「えっ!?」
「なんのつもりだ、アルトワルツ!」
「シリウスさん。貴方はバルドさんとの約束を反故するというの? なんの為に、あの人が一人で死地に赴いたか理解していますか?」
険しい顔つきのエメローネがターミナルをこちらに向けて立っていた。
誰が見ても怒っていると分かる様子に、シリウスはあちゃーと動かせない手の代わりに顔を動かして表現する。
「そんなプリプリしないでよ。かわいい顔が台無しよ?」
「冗談は後にして。質問に答えて」
「本当の事なのにな~。ま、いっか。答えは、YES、はい、Exactly、その通り」
縛られているというのに余裕を崩さない彼はいつものようにふざけた調子で返事を返した。
そして小さく何かを呟いた次の瞬間、エメローネの捕縛魔法が音もなく弾け飛んだ。
「えっ…!?」
「みんな飛べ!!」
自由の身となった一同が声に反応して一斉に飛び降りてターミナルを起動。
真っ直ぐにほのかの飛んでいった方角へ飛翔した。
残されたのは驚きを隠せないでいるエメローネと対峙するシリウスだけだ。
「なにを、したの?」
「魔法解除。いや~、構成解析成功すると割とあっさり壊れるね。もう少し凝った構成にしないと簡単に破壊されるよ」
エメローネの捕縛魔法に対して指摘を加えると彼はハッチの端まで向き合った状態で下がる。
「待ちなさい!」
「NO!待たない。じゃあね~~」
そのまま後ろに倒れる形で彼も艦から降りた。空中で姿勢を変えて仲間たちの後に続く。
「シリウス君。ほのかちゃんに今から追いかけても追いつくの?」
「んー? まあ、追いつけるんじゃない? ほのかの最高速度ってそこまで速くないし」
「いや、その予想は外れそうだぞシリウス。皐月女史の速さ…どんどん上がっているぞ。凄まじい速さだ。あのピステール女史が追いつけていない!」
ルチアからの報せに思惑と違った結果が返ってきたことに彼は驚きの表情を浮かべた。
「およ? それはちょっと予想外だぞ。これは全力で飛ばさないと振り切られそう」
「急ごう!!」
飛ばせばまだ間に合う。なんとか合流するべく、一同は最高速で敵の制空権内に飛び込んでいった。
ほのかが飛び出したことを皮切りに仲間たちも飛び出す。
バルドの危機に彼女たちは間に合うか。
次回もよろしくお願いします。




