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第八十話 

第八十話更新


更新速度が戻るように計画的に進めたいと思う今日この頃。




シルヴィアによって連れてこられたミラが虚無の世界から出ると眩い光が初めに彼女を出迎える。


それに目を細めて手で遮る。徐々に光になれて自分のいる場所が何処なのかハッキリと見えるようになった。


「ここは……?」


目の前に広がるのは見たこともない空間だった。

光の球体が飛び交い、多数の解読できない文字の羅列が流れるモニターが消えては現れる。

壁も天井も支える柱も淡い光を発する白色の未知の材質で出来たもの。


辺りを見渡している彼女を他所にシルヴィアが一人で先へと進みだし、慌てて追いかけ後に続く。


「あの…ここはどこなのですか?」


質問を投げかけるがシルヴィアからは返答はない。

その歩みは一定で迷いは一切感じられない。


知っている場所なのだろうか?

そう思ったところでシルヴィアの歩みが止まった。

そしてここに来て初めて口を開いた。


「ここが何処だか…そこから外の景色を見ればわかるわ」


彼女の視線の先にある窓、そこからミラは外の様子を覗き込んだ。

直後に彼女は絶句する。



目に広がるのは闇の世界。その中に輝く幾億の星々。

無限に広がる宇宙そら、一際輝く青き星が彼女の目に映りこんだ。


「あれは……パルティナ?」

「そう。あれは私たちの住む世界パルティナよ」

「で、ではここは……いったい!?」

「それを知りたいならこの先に進むことね」


一つ扉を通り抜ける。

瞬間―――――景色は一変した。


青い青い何処までも続いていそうな世界が広がる。

その青く清浄なそらを飛翔する巨大な虫のような生き物が多数見えた。


口部に湾曲した牙を生やし、長い胴体から生えた皮膜状のものを動かして雄大な姿を見せつける。多種多様な小さな生物が浮かぶ中でそれはこちらに近づき自分たちに僅かばかりの興味を示すように視線を向け再びこの世界を悠然と飛んでいった。


更に一つ扉を潜る。赤い世界が広がる。

全てが業火の海に呑み込まれ蒼穹は紅蓮に染まる。

その中でドラゴンが大きく翼を広げ咆哮を上げる。合わせて噴火を繰り返す大地。何者も踏み込むことを許さぬ溶岩が無限に広がる。


もう一度門を潜り抜ける。

深緑の世界が広がり、多種多様の動植物が迎える。

小型生物から大型生物、生命の息遣いが聞こえそうな暖かく心が澄み渡る。

一際高い崖の上で銀毛に覆われた四足の獣が無数の流星が降り注ぐ空に向かって雄たけびを上げる。



一つ扉を潜る。

景色は一変する。

荒れ果てた荒野が広がる。一つの獣のような、それでいて幾つもの声が折り重なった雄たけびと共に武装した人間たちが砂煙をあげ激突する。

泥まみれになりながらも相手を殺め勝利をもぎ取り、そしてもぎ取られる。

どこまでも続く醜い闘争の世界が死屍累々の丘の上で繰り広げられる。


一つ扉を潜り抜ける。

景色は変わらずしかし、そこに生命はない。


いや、ある。


たった一つ。剣を支えに傷つきながらも立つ者。

そしてその先…頭上より降り立つは黒き禍々しい光を持つ翼のある白き大蛇。無数の目に十字に裂けた口を持つこの世のものとは思えない存在が現れる。


剣を持つ者の背後にもう一つの存在が降り立つ。神々しい輝きを放つ人の姿をした者が現れる。

見た者は皆一言でそれを表現するならば神と邪神の来迎か。


人は剣を掲げる黄金に輝くそれを手に……。神は杖を持つ。万雷の裁きをもって全てを正すために。邪神は咆哮する。遍く全てを排するために。


人と神と邪神の闘争。後に残るは何か……。




幾つもの光景を見せられた彼女たちは最後の扉を潜る。

その中でシルヴィアが語り掛ける。


「王女ミラ。貴方は今まで見た光景を見てどう感じたのかしら?」


そう問われて彼女は答えに窮した。

美しきものもあれば、荘厳なものもあり、そして醜いものもあり、恐ろしいものもあった。


「私たちが生まれる前の世界の歴史を見せられたような気がします。命の系譜…最後はその最果ての光景で私たちに対する警告といったものだと感じました」

「警告……。そうね。その考え方も正しいわ。でも、今までの記録はそれを知らせるためにあるものじゃないの」


最後の扉を潜り抜けた先に待つのは石造りの空間。その中に不釣り合いな電子装置の数々。

それからは幾つものパイプが伸びていて一つの方向に伸びていた。


「私の、いいえこれはあの人・・・の導き出した答えであるのだけれど。あれは一つの世界の歴史ではない。無数の世界の過去の歴史を示しているのだと」

「無数の、世界?」

「正確には個々の世界の歴史を記録して保存し、閲覧できるようにしたものね」

「それは、いったい何のために?」

「……きっとあれの為に残したのだと思うわ」


視線を向けた彼女を追ってミラも目を向ける。

幾つものパイプが伸びていくその先には、巨大な何かを形作った石像が立っていた。

まるで翼で身を包んで丸くなっている生物のようにも見える。


「あれに学習させるためにデータとして残し、理解させようとしているのよ」

「理解……」

「そう。この世で最も不要で害悪となる生物がなんなのか……。数多存在する生命を脅かし滅ぼし踏みにじる滅びるべき生物が何かを理解させるためにね」


冷たく言い放たれる言葉に背筋が凍りついた。

シルヴィアを見る。四白眼の瞳にミラは一歩後ろに下がった。


「貴方も見てきて分かったでしょう? この世界で最も不要な生物が何であるか、さっきの光景を見てきて理解はできるでしょう」

「な、なにを言ってるんですか……」

「この世に最も不要な生物。それが私たち人間だという事実をあれに教え込ませているのよ」


ミラを置き去りにして彼女は石像の前まで向かいそれに手を添える。


「かつて、とある世界に高度な文明を築いた人類がいた。その代償として多くの土地が、生命が死んでいった。繰り返される戦争で朽ちていった世界を前にしてやっと気づいて最後にこれを造り出し、死んだ世界を蘇らせようとした」


けれどそんな都合よく計画は動かなかった。


「世界の裁定者が来たのよ」

「裁定者……?」

「手記にはそれを『闇』と呼んでいた。星を穢した愚か者たちに鉄槌を下すためにそれは宇宙そらの果てからやって来たと言われているわ。一夜で十の大陸にある数十にも及ぶ王国が滅び去った。戦術クラスの質量兵器も環境破壊レベルの大魔法も一切通用しない。人類が持ちうる全ての英知を込めた攻撃はそれを前になんの意味をなさない」


『闇』は殺していった。星に存在する一種の生命を、人間・・だけを、その文明全てを滅ぼしていった。


「そこで漸く悟ったのよ。『闇』は自分たちを葬るためにやって来たのだと。星を汚した自分たちにその代償を払わせるために。生き残った者はこれをここに封印して記録を残し続けることにした。あれが再び現れるような危機を作らせないようにね」

「作らせないように……とはどういうことなのですか?」


嫌な予感が脳裏をよぎる。それはあってはならない事だと、外れであってほしいと思った。


「簡単なことよ。必要以上の進化を強制的に消去すればいいの」


冷たく言い放たれた言葉にミラは全身から力が抜けるような感覚を覚えた。

進化を強制的に消去ということは、つまり――


「人を……人類を滅ぼすというのですか!!」


人の歩んできた歴史。高みを目指す現在いま。未来への希望。それら一切をまるでコンピュータに残されたデータを完全消去するかのように消し去ろうというのか。


「そんなこと、誰が許すというのですか!?」

「許す許さないなんて関係ないわ。決めるのはこのオーパーツだけ。私たちが如何に拒もうとしても、これの決定は変えられないわ。進みすぎた一はゼロに戻さないといけないの。これ以上の最悪の事態を防ぐためにね」


人類の根絶を防ぐために人類を滅ぼす。なんと矛盾した話だろうか。


「でも、いまはまだその時ではない。まだこの世界の人類は、その時を迎えていないの」

「どういうこと、ですか?」

「まだ眠りから覚めるには時間があるということよ。時間があるといっても数時間ではないわ。あの人の計算では千年…あるいは数世紀も先かもしれない。それだけまだ人類は時間があるということよ」


でも――――


「だからこそいま目覚めてもらわないと困るのよ」


ミラには分らなかった。彼女がなぜここまで人類滅亡に拘るのか。


「その為の『秘石 ニーベルンゲルゲン』よ。あらゆる願いを叶える願望器。この力の完全なる復活がこれを目覚めさせるのよ。あとは……」


目の前に出現する大型モニター。

映し出されるのは魔法共和国とクロス王国が激突する戦場だった。


「最後の欠片が目覚めたとき、時は動き出す」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


戦場に響く金属音。

多くの将兵たちが見守る中で二つの影が激突する。

超重量剣ケルベロス、バハムートを片手で軽々と振り回すバルドと

長剣でその攻撃を受け流し鋭い一撃を繰り出すアガレスの二人だ。


「獄炎剣!!」

「羅刹剣!!」


双方の剣から放たれる衝撃波が激突し相殺される。

剣を打ち合い刃を交わす。


バルドの一振りは重く剣圧だけで空気が吹っ飛ぶ。

アガレスの剣は鋭く一振りで空気を切り裂く。


双極の二人の戦闘はいつまでも続くかに思えた。

しかし、突如として戦場の各所にて赤い信号弾が撃ち上がった。


「なんだいまのは?」


空高く撃ち上がった信号弾に一瞬だけ意識を向ける。

アガレスも同様に僅かばかり動きを止めて眼だけで確認し、バルドへと声をかける。


「どうやらこの戦いも終わりが近づいてきたようだ」

「なんだと?」

「いま一度問おう。我が軍門に降る気はないか?」

「けっ! 何度も言わせんな。お前の下につく気はねえよ」

「そうか、残念だ。では、貴様にはここで消えてもらうとしよう」


疾風のごとくかける影がバルドに近づく。

音もなく接近したそれは手に持つ円月刃で背後から襲い掛かった。


気配に素早く反応して急所への一撃を防御する。

その影はそのまま彼の頭上を飛び越えてアガレスの脇に降り立つ。


「よぉーやく会えたぜ~。泥棒剣士さんよーー!!」

「まーたテメーか。しつこい奴だな」


黒蠍のビアンカ。その姿を認めた彼は心底面倒そうに深いため息をついた。

そして直後に再び迫る気配に反応して剣を振るう。


甲高い金属音と共にケルベロスが受け止める鉤鎌刀。

その持ち主『白蓮』は、むぅっと小さく唸る。


「二度も同じ手を受けると思ったかちびっ娘?」

「流石……!」


バハムートによる反撃をかわし、アガレスの傍らに侍る。

敵が一気に増えたことに警戒を強める。

その彼に照準が合わさり、重い発砲音が戦場に響く。


頭部を狙った狙撃をバハムートを盾として弾き飛ばす。

直後に凄まじい速さで接近してくる大きな気配に素早く反応し、放たれた

衝撃波を弾き飛ばす。


「冗談っしょ。AMアンチマテリアル弾だぜ? 弾くとは予想外だわ。

おまけに追撃のアトラスの一撃も弾くとか化け物かよ」


狙撃手 ペインは小さく唸った。初撃で仕留められなかった彼に視線が向けられる。

位置がばれたと察知し、武器をたたみ王の下に駆けつける。同様にアトラスも並ぶ。

更にバルドの頭上から飛来するのは大型機動兵器。搭乗者である科学者レノンが姿を見せる。


「将軍どもが揃いも揃って集合か」

[軍神や筋肉爺がいないけどな~]

[若、もしかして先ほどの信号弾は……!]

「十中八九 緊急時の信号だろうな。残りもすぐに集まるだろうな」


王と将軍格が全員集合する危機的状況に追いやられた彼はそれでも冷静さを崩さない。むしろ好都合だと言わんばかりに武器を構える。


「ここで連中をぶっ潰せばこれ以上の戦闘を止められる。おまけにあのデカブツも破壊できる。一石二鳥どころか三鳥にもなる」


紅く光る眼に強敵達を映し、闇色の魔力をその身から溢れさせる。

アガレスの合図と共に動き出す将軍たち。それに合わせてバルドも動き出す。

譲れない戦いの第二ラウンドが開かれた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


シュベルトと戦闘を行っていたマルコも緊急事態を報せる信号弾に気付いて戦闘を中断する。


「陛下の下に進撃を許しただとぉ!! たるみ過ぎではないかぁっ!!!」


一刻を争う事態に戦闘を行っている場合ではない。

彼は一度、退くことを瞬時に判断した。


「運がよかったな小僧!! その命、首一枚繋がったぞ! ワシが戻るまで大事に取っておくことだな。ガッハッハッハ!!」


シュベルトに背を向けて戦闘区域から離脱する。

マルコの気配が消えたところでシュベルトは小さく息を吐いた。


「流石は『鉄拳』か……」


手から薙刀が地に落ちる。右手を見れば痙攣しており指一つ動かすことも難しい状態だった。


情けない話だ、と呟き顔を上げる。

目の前に広がるのは大勢の敵兵。マルコの作った好機を逃すまいと強い意志を感じられる。


落ちた薙刀を左手で持ち一つ深呼吸する。

譲れないものはこちらにもある。


雄たけびを上げて迫る軍勢に負けじと吠えて立ち向かう。





壁に囲まれた狭い空間でオズワルドとバルドゥスは激戦を繰り広げていた。

アイアンゴーレムを駆使して逃げ場を潰しつつ致命的な一撃を加えようとするオズワルド。それを巧みな馬術でかわし手に持つ槍でゴーレムを粉砕していくバルドゥス。


(そうだ。あの時もこうであった!)


バルドゥスの脳裏に思い起こされるのはかつての戦争の記憶。

戦況はこちらが優勢で魔術大国は共和国軍を蹴散らし領土を広げていた。


だが目の前にいる男、オズワルドがとつぜん現れたことで状況は一変した。

いままで敗北を知らなかった自分たちが初めてその歩みを止め、剰え後退をする結果になった。


それも一度ならず、二度もだ。


「忘れはせぬぞ! あの時を!!」


立ち塞がるゴーレムの群れを乗り越え、倒しながらオズワルドに

少しずつ距離を詰めていく。


「おぬしの卑劣な戦術の前に敗走したあの記憶を!! 失った同胞とおぬしに利用され散っていった戦士たちを!!」


繰り出される槍の一撃がオズワルドへと迫る。

それをゴーレムが手で壁を作り受け止める。押し返され再び距離が開く。

打ち倒したゴーレムが再び復活し、またも進路を阻むように立ち塞ぐ。


「だから、どうした?」

「なんだと!?」

「戦いとはいかに効率よく、より効果的に相手を封じ込めるかがカギだ。その為の犠牲は必然的な結果だ」


激情に駆られるバルドゥスを前にオズワルドは静かに答えた。


「結果、貴方たちは敗走し最大限の打撃を与えるに繋がった。あの犠牲は後の未来を、現在いまを繋ぐ懸け橋になった」

「詭弁をぬかすか!!」

「戦争で犠牲が出ない訳がないだろう。まさか、軍神と謳われた貴方がそれを語ろうと言うのか? 多くの部下の屍をその愛馬と共に足で踏み越え、土をかけ、駆け抜けた貴方が?」

「貴様っ!!」


オズワルドの前に大型の召喚陣が出現する。

そこから感じ取れるのは、いま彼が従えているゴーレムとは比べ物にならない強大な力。

奇襲だったとはいえ過去に精強な部下たちを紙切れのように吹き飛ばし、敗走の切っ掛けとなった存在が呼び出されようとしていた。


「それとも…この戦争は贖罪の意味を込めて参戦したとでもいうのか? 大国の軍を抜け、クロス王国に与したのもそれが理由か?」

「答える義理などない。ここで決着をつける!」



しかし、それは叶う事はなかった。

遠くで撃ち上がった信号弾が二人の戦いを止めさせた。


(あの色の信号弾は!?)


王の身に危険が迫っている時に放たれる信号弾。各将軍たちを招集する緊急信号だ。何かがあったと察し顔色を変える。


「好きにするといい」


声に反応してオズワルドの方に視線を戻す。


「このままここで戦うか。それとも戻るか。どちらでも私は構わない」

「くっ……。これもおぬしの想定内、という事か!?」

「ご想像にお任せする」


一瞬の迷いがあったものの、答えをすぐに弾きだす。

オズワルドに背を向け愛馬を駆って彼は後退する選択肢を選んだ。


遠ざかるバルドゥス隊の後姿を見送ったオズワルドは小さく息を吐いた。


「誰かは知らないが……無謀な事をするものだな」


あの軍神が血相を変えて戻ったのだ。おそらくは他の将軍達も戻ったはずだ。

多数の憶測が脳裏を過るが、目下の問題を解決するのが最優先と判断して考えを止める。


「どちらにせよ…向かった者は帰っては来れない。決死隊になるだろう」




シルヴィアに連れてこられたミラは謎の施設で恐るべき計画を知ることになる。

一方でアガレスと対峙するバルドの前には敵将軍が続々と集結しつつあった。


それでは次回もよろしくお願いします。

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