第七十九話 巨砲咆哮
七十九話更新。
更新がだいぶ遅れてしまい申し訳ありませんでした。
巨大な砲台が再び動き出す。砲身から濃縮された魔力が溢れ、収まり切れない光が砲口から膨れ上がる。そして解き放たれた閃光が莫大な質量を宿し、前方に展開される魔法共和国軍の機動艦隊を再び焼き尽くした。
「第十二艦隊と十八艦隊の反応 完全に消滅!」
「おいおいマジでやべぇって。これ以上やられたら制空権とられるどころじゃねえぞ!?」
「ただでさえ地上では不利な状況だというのに、空でも負ければ敗戦は避けれない」
「現在展開されている艦隊の持つ主兵装では射程圏外です! このままでは壊滅してしまいます!!」
動揺が広がるブリッジでエメローネは唇を噛んだ。あの砲台はあまりにも強力すぎる。
超長射程に絶大な火力、さらにこちらの攻撃圏外、接近するには撃ち終ると同時に展開される魔術大国の艦隊を相手にしないといけない。
陸空共にあれへの接近は困難で甚大な被害は免れないだろう。
どうにかしてカルロス元帥の下にたどり着き連絡を取る必要がある。
(どうにか……どうにかしないと!!)
「ったく、見ちゃいられねえな……」
苛立ちの含まれた声に一同が声の主に顔を向ける。
後頭部を掻き、そして鋭い目つきのバルドが不機嫌な声を発した。
「エメローネ。この艦の転送装置は使えるな?」
「え、ええ…。できるけど、どうするつもり?」
「だったら、いまから言うポイントの上空に俺を転送しろ」
そう言って彼女に転送先のポイントを伝えるとエメローネは目を大きく見開いた。
「こんな場所に転送ですって!? 何を考えているのあなたは!?」
彼が示した投下ポイント……それはクロス王国陣営のど真ん中だった。
「これが一番手っ取り早いんだよ。このまま続けても防戦一方でこっちが消耗するだけだ」
「だからって…こんな場所に転送するなんて自殺行為だわ!」
「一人で行ったほうが何かと都合がいいんだよ」
仲間たちの間を通り、転送装置の方へ歩き出す。その表情は過去に見たこともない程に苛立ちが表れていた。
「ったく、扱いきれもしねえ代物を引っ張り出しやがって……これだから人間って奴は嫌いなんだよ」
吐き捨てるように呟かれた言葉には深い感情が溢れていた。
その言葉を耳にしたほのかは彼の服を掴んだ。
「なんだ?」
「待ってバルドさん。わ、わたしも行く!!」
このまま彼を一人で行かせてはいけない気がした。
何の根拠もないけど止めないとと思った。
ジッと見つめる彼女を見下ろす形で見ていたバルドだったが、彼女の方に向きなおると視線を合わせるために膝を折る。
「…ほのか。俺の目を見ろ」
「え?」
彼の言っていることがイマイチ分からないままに彼女は言われるままに目を見た。彼の目が淡く光ったように思えた、と同時に体の力が抜けるような感覚を覚えた。
「少しの間、眠ってろ」
「バル…ド…さん……」
薄れゆく意識を耐えようとした彼女だったが、遂に崩れ落ちる。
その彼女を倒れる前に抱きかかえてユグドラへと預ける。
「バルド、お前……」
「悪いが今回は聞く耳は持たねえぞ。戦争ってのがどれだけ危険かはインペリアの騎士なら分かるだろ」
それに守護騎士たちは全員が口を閉ざした。
反論がないと分かった彼は転送装置へと向かう。
「時間がない。エメローネさっさと転送してくれ。俺が前で暴れて注意を引く。その間にカルロスになんとか連絡をとれ」
悩んでいる暇はないと悟ったエメローネは転送指示を出す。
装置が起動し、バルドが光に包まれる。
「ほのか達のこと、任せるぞ」
その言葉を残し、バルドはフェンサーより目標ポイントへと転送される。エメローネは彼を転送と同時にフェンサーをカルロスの下へと向かうように指示を出した。
クロス大国軍の中央上空に姿を現したバルドが目の前と眼下に広がる大軍団を前に腕を組む。
「さて……行くか」
[下方に複数の対空兵器がありますね]
「まずそれを潰す。それからこの戦争を始めた馬鹿野郎を叩く」
飛行魔法を解除。重力に従って自由落下を始める。
彼の出現と接近はすぐに直下の部隊が察知していた。
「直上に反応あり。数は一」
「敵艦のミサイルか? いや、ミサイルにしては動きが遅い。空挺魔法士か」
「たった一人で敵陣のど真ん中に飛び込んでくるとは敵ながら天晴れだが……無謀にもほどがあるな。己の無力さを教えてやれ。対空兵器起動、目標、直上!!」
対空兵器が一斉に動いて真上に照準を合わせる。
操作盤を動かす兵士が目標をロックしようとしたまさにその時―――
落下する反応が爆発的な勢いで速さを増す。
「目標の速度上がりました!!」
「なんだと!? 撃ち落とせ!」
「こちらの速度を上回っている…!! 迎撃が間に合わない!!」
闇雲に放たれる対空砲火。その中をそれは避ける素振りもせずに真っ直ぐに降下してくる。周辺部隊に退避命令を下したと同時に、黒い火の玉と化したそれが着弾。地面を吹き飛ばし、発した衝撃波で周辺の兵士や兵器を薙ぎ倒す。
「二十機中十八機か……上出来だな」
爆心地の真ん中に立っていたバルドが両手にそれぞれ持つ大剣を軽く振って呟いた。
「気休め程度にしかならんだろうが…。空挺部隊の連中の被害は減らせるか」
空を見上げる彼の耳に武器を構える音が聞こえる。
さて…と声を零して視線を前に向けると夥しい数のクロス兵が彼の前に立ちはだかっていた。
「何者だ貴様! 身形からして魔法共和国軍の者ではないな!?」
「質問に答える気はねえよ。…単刀直入に聞く。この戦争を起こした馬鹿野郎……アガレス・ラ・ドヴァーキンはどこだ?」
彼の問いかけに周囲にいる兵士たちから漂う気が一気に重みを増す。
「貴様……。我らが王、アガレス陛下を馬鹿呼ばわりしたな!!」
「だったらなんだ? 答える気があるのかないのかハッキリしろ。ここでダラダラしてる暇はないんだよ」
「なれば簡単!!」
部隊を率いる隊長格の一人が地を蹴り一気にバルドに肉薄。手に持つ剣に魔力を宿し振りかざしながら雄たけびを上げる。
「答える気など……毛頭もなし!!!」
気迫と共に振り下ろされる一撃。空気も押し潰す勢いで迫りくる剣を前に
バルドは小さく息を零す。
「まあ…だろうな」
ケルベロスを軽く一閃。剣を弾き飛ばす。バハムートを手放し、空いた手を相手の喉元に伸ばし捕まえる。
「業火滅掌」
手が赤熱し、爆発を起こす。吹き飛ばされた相手は仲間たちの前まで転がり、喉を押さえてのたうち回る。その様を目の当たりにして騒めく兵士たちを前にバルドは再びバハムートを手に取り肩に担ぐ。
「答える気はないとは最初っから分かってたけどな。それにだいたい場所は分かってる」
剣に黒い炎が宿る。それはまるで生きているかのように蠢き、盛る。
漂う気配に兵士たちは直感する。
この男を君主の下に行かせてはならないと……!
「各員構え!! この男だけはなんとしても抑え込む。我らが王、アガレス様をお守りするのだ!!」
雄たけびを上げ各々の獲物を高く掲げた彼らが一斉に地を蹴りバルドへと突撃する。それだけで一個の生物を思わせる数の暴力がたった一人へと襲い掛からんとする。
「今日の俺はすこぶる機嫌が悪い……」
だが、それを前にしてもバルドは一切の焦りもない。
俯き加減の顔がゆっくりと上がる。
金の瞳は血の様な真紅の輝きとなり相手を威圧する。
「手加減する気はねえ……。もし二度と戦えない体になっても、文句は言うなよ!!!」
足を強く大地に踏みしめる。地面が深く沈み、深く深く陥没する。
溜めた力を一気に開放。常人では不可能と思える爆発的な速度で大群へと突っ込む。
「派手に暴れるぞ!!」
[ヒーハーーッ!! いっらっしゃいませ~~!!]
振り下ろされるケルベロス。直後、戦場の一角で強烈な爆音とともに大量の土砂が空高く上った。
クロス王国軍その最後尾に厳重な警備に守られて進軍するアガレスはいた。
さらにその後方1000mに例の巨大砲塔が同じ速度で動いている。
「ペイン。機器の調子はどうだ」
『第一射に比べて八十パーセントまで出力が落ちてます。同時に周囲の魔力素の減少を確認しました。このまま第三射を行った場合、レノン技術長の計算で六十パーセントに落ちるかと』
「やはり魔力素を喰らうか……問題はない。続けて第三射の発射準備を始めろ。制空権を奪取することを最優先としろ」
『うぃす。土下座してでも急がせます』
ペインとの通信を終えて進撃を続行する。
直後、中枢付近で強烈な炸裂音と共に大量の土砂が舞い上がる光景が映った。
何事かと警戒を強めアガレスの身の回りの警備を強化する近衛兵たち。
少しして彼の前に一人の兵士が駆けつける。
「報告します! 隊列中央に侵入者あり。苦戦中との報告です」
「数は…?」
「い、一です」
その報告に周囲の兵たちが訝しむ。
たかだか一人を相手に苦戦とはどういうことなのか。
「それが…相手は恐るべき力の持ち主のようで」
「そのようだな」
静かに兵の言葉を耳にしていたアガレスが言葉を発する。
次いで起きる炸裂音。それは最初に聞いた時よりも確実に近づいていた。
ゆっくりとした動作で腰に掛けていた鞘より剣を抜く。
護衛の近衛兵たちも得物を抜いて迎撃準備に入る。
前方で雄たけびを上げて挑みかかった一団が土砂と共に空高く吹き飛ばされる。
地面に叩き落され悶え苦しむ彼らの脇を一人の男が真っ直ぐにこちらへと進んでくる。
「クロス王国国王アガレス・ラ・ドヴァーキンだな?」
肩にケルベロスを担ぎ険しい表情で睨み付けるバルドが対峙する。
「大型剣に赤髪に黒服……。貴様がバルドゥスが言っていた冒険者か」
「おい、アガレス。悪いことは言わねえ。さっさとこの戦争を止めて国に帰りな」
周囲から肌に突き刺さるような殺気が飛んでくる。
自らの王と認めた者への敬意を感じ取れぬ口調に強い不快感を感じたからだ。
周りの反応とは裏腹にアガレス本人はいたって冷静な姿勢を崩さない。
「貴様にそれを主張する権利があるのか?」
「お前、自分がどんな代物を使ってんのか理解してんのか」
彼の質問に答える気がないバルドは視線をアガレスの後方にある巨大砲台に向ける。
「無論だ。知らずして手にするほど愚かではない」
「なら、もうあれを使うのは止めろ。取り返しのつかない事態になる前に」
「……断る」
その一言に両者の間に交わされる緊張が高まったのを兵士たちは感じ取った。
「古代城砕砲『ウルリクムミ』……。近年になって我が国で発掘されたあれを我々の間ではそう呼称する。見ての通り大規模な魔力砲にて射線上にある全ての物体を根こそぎ薙ぎ払う決戦兵器だ。動力源は大気中にある魔力素を基に使用する。ただ、如何せん動力伝達系統に問題があるのかそれとも不完全体として破棄されたのか分からないが魔力集積能力にやや問題があってな……」
視線を砲台へと向けるそれにバルドも警戒しつつも視線の先を追う。
その先には魔導障壁で厳重に守られている欠片……前回のアラガミ平野にてバルドゥスによって奪われたあの秘石の欠片があったのだ。
「まさか……!!」
「あの欠片は非常に魔力集積能力が高く、その蓄積量も過去に類を見ない程に優秀でな。あの砲台との親和性も非常に良い。さらにこの地との相性が良いのか安定した供給を行える」
まるで、このようにして使用するために建造されたように見えるな。
語ってから再びバルドのほうを向く。
「魔剣士よ。我が軍門に降れ」
「なに……?」
突然の誘い。それに今一度聞き返す。
「貴様の力はバルドゥスから聞いている。それほどの圧倒的な力を持て余す様は実に惜しい。我が下につき存分に力を示してはどうだ? この力と我が配下の者達の力、そして貴様の力を合わせればこの国はおろか世界を制することも可能だろう。貴様の望むもの、その全てを手に出来る」
「……そいつは魅力的な話だな」
しばしの沈黙の後に呟く。
「だが、断る」
そして拒絶の返答が次に返ってきた。
「ほう…」
「俺にはこの国で守らないといけない者が沢山出来たんでな。いっつもトラブルばかり呼んで巻き込んで、面倒事に無暗に首を挟んで巻き込まれてと手におえないが、そんなんでも俺は気に入ってるんでな。そいつらを放っといて軍門に降る気なんか毛ほどもねえよ。いや、それ以前に誰かの下につくのなんか真っ平御免だ。面倒だ」
肩に担いでいたケルベロスを下ろす。
その行為は戦闘態勢に移るという意味も込められている。
アガレスの瞳に明確な敵意の色が宿る。
「あんま調子に乗ってると……潰すぞ」
「交渉は決裂、か。いや、それ以前の問題だったな。貴様との交渉のテーブルにすらつけていなかったということか」
「アガレス。お前のやり方は間違っている。独立のために戦争を起こすって考えは賢い手とは思えないな。こんな事をしてお前の父が築いてきた功績を無にする気か」
質問に彼は答えず、アガレスが剣を構える。
揺るぎない決意を持った眼がバルドただ一人だけを捉える。
「我が国の進退はこの一戦にあり。邪魔立てするなら加減は加えぬ」
「はっ! それはこっちのセリフだ」
ケルベロスの切っ先を向ける。その身から魔力を溢れさせる。
その魔力はまるで煉獄の黒い炎を連想させる。
「こっちだって退くわけにはいかねえ理由がある。これ以上あの物騒なもんを使って戦争を続けるなら手加減はしねえぞ!!」
両者が同時に戦闘態勢に入る。双方から発せられる強い気配に周囲の兵士たちがたじろぎ後退する。
周囲の喧騒が二人の間から掻き消える。
いまの二人にはお互いしか見えない。
同じタイミングで一歩踏み込み地を蹴り両者は激突した。
初撃で両者を中心に地面が吹き飛んだ。
力にものを言わせた超重量の一閃。跳躍で回避、上空からの空襲。
紙一重の回避から相手の腹に一発蹴りを加えて追撃の一撃。受け流してからの反撃。手に肘を当てて反撃を封じる。互いに距離を取り再びぶつかる。
「閣下をお守りせねば!」
「だ、だが…あの戦いに飛び込むには我々ではあまりにも無力すぎる」
「……将軍たちだ。将軍たちを呼ぶしかない!」
「そうだ。閣下をお守りするにはそれしか選択肢はない!! 急ぎ連絡を!」
眼で動きを追うのもやっとな戦闘を前にしばし呆然と二人の戦いを見て兵士たちは一斉に各将軍へ通達すべく駆け出していった。
古代城砕砲 ウルリクムミ
クロス王国領内の古代遺跡より出土した巨砲。過去に例を見ない巨大な砲塔を持つ魔導兵器。大気中に存在する魔力素を基に戦術破壊レベルのエネルギー砲を放つ事が可能だが、代償として一帯の魔力素を大幅に消費し世界バランスに多大な影響を与えてしまう。
秘石との親和性がなぜ高いのかは現状不明のままである。




