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第七十八話 可能性を奪う光

七十八話更新


シルヴィアとの交戦を終えたほのか達。

彼女の残した言葉の意味を知るために一行は第六都市を目指す。




第八都市を離れ、大空を航行する軽巡洋航行艦フェンサー。

進路を第六都市に向けて雲の中を突き進んでいた。


「都市との通信はまだ取れないの?」

「雷の魔力素の強い影響もあってまだです」


彼女たちは第六都市にある魔導研究所に通信を行おうとしている。

あそこの研究所にはオズワルドの知り合いがいる。コンタクトが取れれば第六都市の地方で何が起きているか把握することができる。


だが、雷の魔力素が基準よりも多い地域に近づいていることから通信系統に若干の影響を与えてきている。

普通ならば衛星通信が可能なものもあの地域だけはなかなかうまくいかない。


第八都市でシルヴィアがいなかったことに言いようのない焦燥感に駆られるエメローネ。

その彼女の脇に缶コーヒーが置かれ、彼女は顔を上げる。


「少しは落ち着いたらどうだ?」


同じものを手に持つバルドがモニターの方に視線を向けたまま語る。

プルタブを開けて一口飲んで小さく息を吐く。


「焦ったところでいいことなんざ何もないぞ」

「ありがとう…頂くわ」


素直に礼を言って彼女もまたコーヒーを口にする。

苦みが脳を刺激して焦りで曇りかかっていた思考をクリーンにする。


「ほのかさん達は?」

「部屋に引っこませた。……まさかお前はあいつらに現実を見せる気なのか?」

「ごめんなさい……」


鋭い目つきを彼女に向ける。それにエメローネは謝罪一つで視線をモニターに戻す。この先に待っているのは厳しい現実だ。ないと願っても、決して叶わない非情な現実だ。

それを幼い彼女たちに見せる訳にはいかない。


「最悪の事態が起きていたら。ほのかさん達を中央都市へ戻します」

「その方がいい。もうじき雲も抜ける。その時、通信が回復するだろう」


背を向けてバルドはブリッジを後にする。

すれ違う人たちが忙しなく動いていく間を通りほのか達のいる部屋にたどり着く。


「あっ、バルドさん」


扉を開けた彼を認めたほのかが彼の名を呼ぶ。

戸を閉めほのか達の所に近づいて腰を下ろす。


「ねえ、バルドさん。マードックさん達を置いてきてよかったのかな?」

「本人がいいって言ったんだ。そっとしといてやれ」



あの後、意識を回復したマードック達はジパングの姿とアトラク・ナクタの姿が

ないことを知り、己の役目が終わったと察した。


――終わったんだな、全部……。


空を見上げて小さくつぶやくマードックを見てほのかは彼にこれからどうするのかを聞いた。


――ジパングとまた撃ち合いができて満足したとは言えねえが十分だ。それに君のおかげでいい夢を見れた


そう言って彼はほのかの頭を撫でた。自分がなにをしただろうか首を傾げるほのかにカカカッと笑う。


――あんた方はまだすべきことがあるんだろ? なら行きな。俺たちは……大丈夫さ



旅立つほのか達を乗せたフェンサーが水上から空へと飛び立つ。

その後姿を甲板に並んだマードック達が敬礼で見送る。


窓からその光景を見ていた彼女たちは直後に彼らの姿が光となるのを目にした。




マードック達が見せた光……。

その光はとても暖かく内に炎を宿すものだったとほのかは感じ取った。


「なあ、一つ聞いてもいいか? この後どうすんだよ」


その光を思い出しているとサヤがバルドに質問してきた。


「さあな。シルヴィアの動きが分からないから何とも言えん。一度 中央都市に戻って準備を整える必要がありそうだ」

「アトラク・ナクタとの戦闘でそこまで兵装を消費したのか」

「まあな。だから暫くは休みだろう」


呼ばれるまでゆっくりと羽を伸ばしてればいいさ。

すぐになにかが起きるわけないだろうしな。



普段言わないだろうことを言って彼は立ち上がる。

自室に戻って休むと伝えて部屋を出ようとするバルドをほのかは見て首を傾げる。


(どうしたんだろうバルドさん。なんか、いつもとちょっと様子が違うような……)


彼との付き合いが長いほのかはその微妙な違和感になにかが引っかかった。

気になったほのかは彼についていこうと思い立ちあがったその時だ、脳裏に何かが駆け抜けた。

それがなにかを認識する前に、彼女は言いようのない恐怖を全身で感じた。


「だめ……。だめだよ…」

「皐月女史、どうした?」

「ダメッ! その光を撃っちゃダメ!!」


震える体を抱きしめ彼女は叫ぶ。

急に様子がおかしくなったほのかに仲間たちは驚く。


「皐月どうした!?」

「光に溶けていく……!! 光に溶けていく!!」

「落ち着けほのか!」


怯える彼女を落ち着かせようとバルドが肩に手をかける。


「バルドさん。お願い! あそこに……アラガミ平野に急いでいこう!!」

「アラガミ平野に…?」

「このままだと、光にたくさんの意志が、心が溶けて消えてっちゃう!! あの光は、可能性を奪う光だよ!!」


彼女の怯え方は尋常ではない。それに先ほどから言う光とは何なのか。


(ほのかにしか見えない何かが見えているのか!?)


シルヴィアが言っていた言葉が脳裏を掠める。可能性の光、イレギュラー……。

ほのかの中で、なにかが目覚めつつあるのか。彼女のうちに眠る本来の力が……。


このままでは取り返しのつかない事態がやってくる。それを理解したバルドは急いで通信回線を開いてエメローネに連絡を入れる。


「エメローネ! 予定変更だ。急いでアラガミ平野に飛ばせ!!」

『ど、どうしました!? 何かあったの!?』


急に連絡が入って驚きを隠せないエメローネ。

説明したいのは山々だがほのかの様子を見るに時間が惜しかった。


「いいから急げ! もしかすっといま以上にヤバい事態になるぞ!!」

『わ、わかったわ!』


停止する筈だった空域に達したフェンサーを再度発進させ、アラガミ平野へと急ぐ。その間もほのかは何かに怯えるように体を震わせていた。


「っ!」

「リースリットちゃん? どないしたん!?」


変化はほのかだけではなかった。アラガミ平野に近づくにつれてリースリットもほのかと同様の反応をみせたのだ。


「いったい、何が起きてるの…?」

「ちっ……。なにを企んでやがるシルヴィア……!!」


二人の変化の正体を知るだろう人物の名を呟き、バルドは窓から見える景色を睨み付けた。




最速で飛行するフェンサーは雲の中を突き進む。

やがて雲の色が一段と黒く濃いものに変わり雷鳴が響き始めた。


「まもなくアラガミ平野につきます」

「高度を下げて! 地上の状況を確認します」


深い深い雲の海を突き抜けたフェンサーが姿を現す。

モニターが開いて地上の状況をエメローネたちは確認し、それと同時に息が止まりかけた。

地上に広がるのは死屍累々の人の群れ。大破・轟沈した航行艦と装甲車両や輸送ヘリ。


この世の地獄のような光景が平野一帯に広がっていた。


「酷いもんだなこりゃ……」

「うっぷ…」


前衛では近接戦闘が行われて混戦状態に陥っている。

そこに後衛にいる魔術部隊からの支援攻撃で戦線が徐々に押されているようだ。


「コールサインレッド発令! 各兵装安全装置解除! 本艦はこれより本陣へ向けて移動します。対空及び対艦攻撃に注意して!」


交戦空域を飛行するということはいつ攻撃されてもおかしくはないということ。

移動を移動を始めてすぐにブリッジに鳴り響くミサイルアラート。


「魔術大国の航行艦より対艦ミサイル接近!!」

「防御シールド展開! 対空攻撃開始。ミサイルを撃ち落として!!」


対空機銃で接近するミサイルを撃ち落としながら回避行動を始める。

避けるフェンサーに更に艦砲射撃が飛んできた。


「にゃろう! こっちは時代遅れのオンボロ艦なんだぞ!! 俺たちよりも新型艦狙えっての!?」

「仕掛けてくる航行艦の数およそ三! その全てが新型艦!? フェンサーの対空能力では対処しきれません!!」

「反撃してはダメ! 撃ち返しては機動力が落ちるわ!」

「冗談だろ!? 撃たなきゃこっちが堕とされるぞ!? 反撃させてくれ!!」

「ルカ。このまま回避最優先! なんとしても本部まで向かって!」

「了解」


三隻の新型艦に追われる形となったフェンサー。辛うじて回避しているが攻撃の密度が激しくビーム砲がシールドを掠めていく。


「シールド出力低下! 第一装甲板に異常発生! このままだと持ちません!!」

「アトラク・ナクタとの戦闘での影響がここにきて……!!」

「機動力でも負けてます! 距離七百まで接近!」


追い詰められた。だがそこに別の方角からビームが飛来。追跡してくる魔術大国の航行艦一隻の側面を貫いた。

爆発・炎上して轟沈する一隻。さらに対艦ミサイルとビーム砲による艦砲射撃が残る二隻に襲い掛かる。次々に被弾して轟沈する追手。


撃墜したのは六隻で編隊を組んだ航行艦。それがフェンサーに接近し防御陣形を展開する。


「た、助かった~~」

「ど、どこの部隊だ?」

「隣接する艦から通信。これは……第七艦隊『ヘカトンケイル』のものです」

「第七艦隊。対艦戦において無類の強さを持つあの部隊なの?」


XW型200m級重武装航行艦三隻とZ型180m級軽巡航行艦二隻、X型150m級高速航行艦一隻の構成の第七艦隊は世界的に名の知れた部隊で主に対艦戦闘において世界でも指折りの実力を持っている。


『こちら第七艦隊。貴艦の所属と目的を述べよ』

「こちらは中央研究所所属のエメローネ・アルトワルツです。作戦指揮官のカルロス・トーラス元帥に緊急の報告があって来ました」

『現在、カルロス元帥は前線にて指揮を執っている。それはこの戦況において重要なものか?』

「そうよ。だからお願いします」

『分かった。本艦を中心として護衛に回ろう』


フェンサーを中央に配置した十字の陣形を展開。艦隊を率いる艦長が周囲の友軍艦隊の配置を確認する。


「一番近くて第十二艦隊と第三艦隊か。各艦隊に通達。重要機密を持った友軍艦の護衛支援を求む」


回線を繋ぎ応援を求めると彼らは了解の返答を返す。

それぞれの戦闘区域より抜ける艦隊が集結を始める。それに合わせて他の艦隊がその穴を埋めるべく陣形を変更。攻撃の密度を増やすべく密集陣形になる。




「ダメッ!! みんな、早く逃げてーー!!」


その時、警告の声と共にブリッジにほのかが飛び込んできた。


「ほのかさん、どうしてここに!?」

「みんな逃げて! 光に呑み込まれる! 溶けて消えていっちゃうの!!」


鬼気迫る勢いで危険を訴えるほのかにブリッジにいた全員が驚いて彼女を見る。

その焦り様は尋常ではなく、後から来たバルドが彼女を押さえなければエメローネに飛びかかる勢いだった。


「何かが来る……!? いったいなにが!?」


前方に再び目を向けたエメローネたちが次に目にしたのは。

遠く彼方から飛来する光。全てを包み込む紫色の輝きを放つ巨大な閃光。

それが密集陣形を取っていた船団一つを丸ごと呑み込んで空の彼方に消えていった。


「な、なんなのいまの……」

「右舷に展開していた空挺師団が、消し飛んだぞ……」

「第十艦隊、第四艦隊を含む複数の艦隊の反応ロスト……全滅です」

「あぁ…みんな消えていっちゃう」


光の中へと消えていった艦隊を前に誰もが言葉を失った。

いましがた共に戦っていた友軍艦隊が跡形もなく消え去ったのを目の当たりにして彼らも言葉が出ないようだ。


「いまのがお前の言っていた怖い光か?」


全てを消し去った光を目にして腕の中で怯えるほのかにバルドが問うと彼女は小さく頷いた。


「ぜんぶ持っていっちゃう。あの光から悪意しか感じられないの。バルドさん、怖いよ」

「急いで発射地点を探して! あれだけの質量をもった攻撃なら本体も大型のはずよ!」


震えそうになる声を押し殺してエメローネは指示を出す。

呆然としていたフォンがハッと意識を取り戻してすぐさま索敵を開始する。


「九時の方向、距離二万五千の位置に大型熱源反応を感知! 超望遠レンズより映像出します!」


ブリッジにほかの仲間たちが集結するとともにモニターが開いて閃光を放った物の正体を映し出す。


「なんだ、ありゃ…」


モニターに映し出された正体にエドが小さく呟く。

地上をゆっくりとした速度で走行するのは、過去を通してこれまでに見たこともないサイズの車両……いや砲台だった。


 黒く染まった全身に紫色の古代文字が淡く光る長砲身の砲台。その下に無理やり走行できるようにキャタピラを装備させた感じだ。その移動速度は遅いのか映像からは集中してみないと動いてるか分からないくらいだった。


「あれがお前の言っていた光の正体か?」

「うん…。でも、まだなの。もっと、もっとたくさんの光が消えていくよ」

「カルロス元帥の下に急ぐわ。フェンサー最大船速! 一気に前線へ飛ぶわよ!!」


 カルロスの位置を割り出して最高速度で向かう。前線では先の一撃で混乱状態に陥っているようだ。友軍の支援射撃が一気になくなったことで均衡が崩れ始めている。


「いけない! 戦況が傾き始めてる!!」

「魔法士と魔術師じゃ体のつくりが違うからな。数では勝ってても質で負けてりゃどうしようもねえ」


魔術師と魔法士の違い……それは戦闘スタイルだけではない。

実は身体能力では魔法士は魔術師に劣るのだ。いくらこちらが数をそろえ、なおかつ練度を重ねた精鋭でも、向こうも同等レベルの実力者がいれば個人戦となれば不利となる。


それを理解しているからこそ、相手は数で勝るこちらに対して躊躇なく飛び込んでくる。




「さて…彼の言ったとおりに近い戦況になってしまったか。ふむ……」


混戦の中で襲いくる敵兵を軽く倒しながらカルロスは思考を巡らせていた。


「カルロス元帥。いや、カルロス総司令」

「シュベルト・ハイネス君か。無事で何よりだ」


 敵兵を薙ぎ倒し傍らに現れたのは一人の男性だった。頬に獣の爪でつけられた様な三つの傷跡を持ち、青色の鋭い目つきを持った人物。

 彼、シュベルト・ハイネスは魔法共和国の有する実力者の一人にして『鬼のシュベルト卿』と呼ばれる陸戦魔法士だ。


彼の持つ武器は薙刀。その一太刀で正面にいる十数人のクロス王国兵が吹き飛ばされる。


「先の砲撃で動揺が広がっている」

「分かっているよ。君も忙しいと思うが、ここを受け持ってくれるかな? 私は第二区域の援護に向かいたくてね」

「構わない。私の部下はこれで動揺するほど軟な精神を持たせていない。私がいなくともいまの持ち場をまだしばらくは耐えられよう」


任せるよ。そう言ってカルロスは落ち着いた足取りでその場から後退する。

総司令であるカルロスが引き下がったのを好機と見た相手が一気に畳みかけようと踏み出す。


「ッ!!!」


だがそれを阻むようにシュベルトは薙刀を一振りする。彼らの一歩手前の地面がその一振りで抉れ飛んだ。


「そこから一歩でも踏み込めばこちらの射程圏内だ。加減する気はない。勇ある者は死を覚悟してかかってこい」

「ほぉ、今の時代にも歯ごたえのありそうな奴がいるじゃねえか!!」


兵たちをかき分けて姿を見せた人物にシュベルトは目つきをさらに鋭くさせる。


「『鉄拳のマルコ』か」

「最近の若い小僧はビビり症で歯ごたえがなかったが、久々にワシに刃を当てそうな奴が出たか!!」


筋骨隆々の大男がシュベルトと相対す。クロス王国第二突撃大隊長 マルコまたの名を『鉄拳のマルコ』と呼ばれた老兵だ。己の拳のみで大戦を乗り越え生き残った猛者の一人。


「大戦時の豪傑がバルドゥス以外にもいたとはな」

「ワシは老いようが関係ない!! 閣下の道を阻むものはこの拳で叩き潰すまでよ!!」


時を重ねようと衰えを見せぬ軽鎧に身を包んだ肉体。そこから発せられるのは闘気。


「こやつの相手はワシが引き受ける!! 英断の下に突き進め将兵たちよ!!」


魔術陣が発動。橙色の魔力がオーラとなって身を覆う。


「行くぞ若造!! 武人剛来!!!」


筋肉が一回り大きく膨らむ。丸太のような足が地面に沈む。

ため込んだ力を一気に開放し、驚異的な加速でシュベルとの有効射程に侵入し拳を叩き込む。灰色の魔力光が刃に宿る。拳に向けて薙刀を振るい激突する。


 衝撃波が巻き起こり地面が吹き飛ぶ。激突する両者を大きく避けるようにクロス王国兵は更に進軍を開始する。それを阻むように装甲部隊と連携をとって抑え込む魔法士部隊。



マルコとの交戦と時を同じくして第四戦闘区域ではクロス軍の攻勢に押され窮地に立たされていた。


「くそっ! 動ける者はあと何人だ!?」

「負傷者多数! 動ける者はほとんどいません!!」


 相手の攻撃を凌ぎながら部下の報告を聞いて苦虫を噛み潰した表情を作る。

最初にバルドゥス隊の攻撃を受けたここ第四戦闘区域では、初撃の被害が最も多く戦力が大幅に減少していた。

バルドゥス隊はこちらの陣形を食い破った後、その勢いのまま別の区域を横から挟撃を加えるために駆け抜けていった。


 彼らはまたこちらに戻ってくるだろう。ここと第二区域を相手は重点的に攻撃を加えている様子からこの二か所を攻め崩すことを目的としている。つまり、ここを突破されればこちらが総崩れになるという結果である。


「その命、貰い受ける!!」


 持っている得物を弾かれ、決定的隙を生み出される。相手の刃が胴へ向けて振るわれる。その時、両者の間の地面がせり上がり土の壁が生み出される。


「なんと!?」


驚きに目を見開くクロス兵が次に目の当たりにしたのは壁から突如として飛び出す拳。それも人間の身長を超えるサイズの土の拳だった。

殴り飛ばされ吹き飛ぶ兵士は動かなくなる。突如として現れた壁に両陣営の動きが止まった。


「やはりここを狙ったか。予想通りだ」


 声に反応して振り返ると戦場に似つかわしい普段着の姿をした男性が立っているではないか。彼は両陣営の間に歩むと立ち止まり、クロス王国の陣営を見た。


「歩兵だけか。侵攻の度合いから察するに突撃部隊が来るな」

「何者だ貴様! 邪魔するなら一般人だろうと容赦せん!!」


その男、オズワルドにクロス兵の一人が肉薄して剣を振り下ろす。


「こちらの陣営の戦力は……まぁ、察しのレベルか。だが、それでも問題はないな」


 振り下ろされる剣を前にしてもまるで興味がないように自分の陣営を見てつぶやく。そして直後、剣を振り下ろした兵士の上から拳が落ちてきて叩き潰された。


「一人やられた!」

「なんだいまのは。何もない空間から鉄の拳が出てきたぞ!!」

「奇妙な力を使う。奴をやれ! このまま自由にしていると後々厄介になる! 一気に倒せ!!」


雄たけびをあげて兵士たちがオズワルド一人に集中して襲い掛かる。

威圧感を与えるほどの人の群れが近づくのに対し、彼は小さく嘆息した。


「戦術性もない突撃か。無駄死にするだけの愚行だな」


彼の後ろから大きな拳が飛び出して眼前の一団を一撃のもとに殴り飛ばした。

更にもう一度拳が飛び出して残る一団も問答無用で吹き飛ばした。


「策も練らずに飛び込むからやられるのだ」


倒れて動かなくなった相手を見て容赦ない一言で終える。


「さて……少しここで手を打っておくか」


そう呟いて彼は後ろにいる魔法士たちの方へと向き合う。




機動隊の指揮を執る軍神バルドゥスは第二突撃の号令をあげていた。


「敵の威勢を討ち崩す。各員、突撃を始めよ!!」


 合図とともに雄たけびをあげてバルドゥス率いる機動部隊が一斉に駆け出す。攻撃目標は、先に攻撃を行った第四戦闘区域の陣営だ。


「前方七百に敵部隊を確認!!」


 部下の一人が敵を発見し報告に入る。バルドゥスの視界にもそれは見えていた。向こうも気づいているだろう。じきに来る迎撃行動に備えて魔術の準備を行おうとする。


「き、来たぞ!! 軍神バルドゥスだ!!」

「各員全力後退!! 逃げろ!!」


ところが、バルドゥスを見るや相手は身を翻して全力で逃げ出したのだ。

これには彼も驚き……いや困惑を覚えた。


(持ち場を放棄して逃げるだと? ……それほどにまで士気が低下したということか?)

「奴ら尻尾を巻いて逃げてるぞ」

「これは好機だ。一気に片づけてやる!」


状況の分析に思考を巡らせるバルドゥスを追い抜くように、相手の敗走姿に士気高揚した部下たちが馬の速度を上げる。


敗走する魔法士とこちらの機動隊の距離は着実に縮まりつつある。追いつき蹂躙するまではもはや時間の問題だろう。


 しかし、その光景を見ていたバルドゥスの脳裏に閃光が駆け抜けた。それは悪寒という形となり彼は過去のある出来事と今の光景が重なる錯覚を覚えた。


(なんだこれは……? この光景、まるであの時と同じだ)


心の中で彼はそれを否定した。しかしそれを拒絶すればするほどその予想は現実味を帯びていく。逃げる敵を追い突出する味方の背を見ていたバルドゥスは、次の瞬間に随伴する護衛を残し一人、突出する味方へと駆け出す。


「将軍!?」

「お前達はそれ以上進むな! これは命令だ!!」


 強い口調で発する言葉に随伴兵たちは一斉に立ち止まり待機する。

それを目で確認せずに彼はすぐに視線を前に戻し、ガリューを急がせる。

いつになく焦りの色を見せるバルドゥス。彼の脳裏には嫌な予感以外なかった。


「あり得ん。だが、この寒気が本物なら貴様がいるというのか…!」




バルドゥスが追いかける前方で突出した突撃隊はもう間もなく接敵するまでに近づいていた。


「槍構え!! 一気に突き崩す!!」


前方に槍を向け、勢いのままに敵を貫く態勢に入る。

あと少しで一方的な蹂躙が始まろうとしたその時だった。



 何もない地面から天を見上げるほどに高い壁が突き上げて出てきた。

あまりにも予想外、想定外。突如として敗走する敵の真後ろから現れた壁に彼らは止まろうと手綱を引いたが止まれずに前衛にいた者達が衝突。さらに後続も仲間に衝突、または避けようとして落馬するなどの事態に陥った。


「か、壁!? 何もないところから壁が出てきたぞ!」


 それは前方だけに止まらず。そびえ立つ岩石の壁は円を描き自分たちを囲い始める。あっという間に彼らは天井の開いたドーム状の壁に閉じ込められてしまった。そして空の見える頭上に展開される複数の魔方陣。そこから黒い塊が飛び出し、飛来する。


 落下点にいた彼らは慌てて退避し直撃をギリギリかわす。地面に着弾した塊が変形し、くろがねの巨人が姿を現した。さらに、地面からも同様の巨人が飛び出す。


「ゴ、ゴーレムだ!!」

「モンスターがなんでこんなところに!?」


 動揺を隠せないでいる彼らを前に姿を見せたゴーレムは柴眼を輝かせ強靭なその腕を振り回し攻撃を始める。暴風雨のように振り回される剛腕を前に仲間たちが成す術なく殴り飛ばされていく。

 勇気を振り絞り何人かは馬に跨り突撃を敢行。構えていた槍が根元からひしゃげ、振り下ろされた拳に馬ごと地面に沈んだ。

 ある者は魔術を使って迎撃を試みるが、それをものともせず攻撃の中を悠然と歩んで攻撃者を殴り飛ばす。




前方に展開されている土の壁にバルドゥスは先行した部下たちの危機的状況に愛馬と共に真っ直ぐに突撃する。


「打ち砕くぞ、ガリューよ!!」


 応えるように地面を蹴る強さが増し、地を駆ける速度がどんどん上がっていく。槍の先に魔力を集中させ自らの姿勢を低くして突っ込む。分厚く立ち塞がる壁に激突、それを穿ち砕いた。


彼はそのまま勢いを止めずに状況を確認。部下を攻撃しようとしているゴーレムを認めるとそちらに真っ直ぐに突撃する。


「穿て戦槍! 螺貫槍!!」


 ガリューの跳躍と同時に突き出される槍。それがゴーレムの中心を捉え、穿つ。大穴の開いたゴーレムは動きを止めてその場に崩れ落ちる。


「陣形を整えよ! 動ける者は馬に乗り負傷者と共にあの穴から脱出するのだ!!」


 ボロボロの仲間を庇いながら一人、また一人と無事な馬に乗って離脱を試みる。

そして大穴から彼らが脱出を行うまさに同時のタイミングで壁の上に人影――先ほど敗走したはずの魔法士たちが壁の中から姿を現したのだ。


「いまだ! 一斉攻撃!!」


 頭上から降り注ぐ魔力弾。一か所しかない出口から撤退していたバルドゥス隊にこれを回避する術はなく、一方的に攻撃の雨にさらされることとなる。


(壁の中に伏兵だと!? こんな奇天烈な発想を考えるのは奴しかおらぬ!!)


ゴーレムを使役し、常人では考えられない戦術を執る。これまでの人生の中でただ一人存在する。


「やはりそなたか、ニコラス・オズワルド」

「軍神バルドゥス。久しいな」


ゴーレムを引き連れ彼の前にニコラスが立ち塞がった。




悪化の一途をたどる戦況。動き出す巨大兵器。

止められる術はあるのか。


それでは次回もよろしくお願いします。


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