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第七話 そして外の世界へ

遅れに遅れ第七話更新。


構成は思いついてるのに、それを文章にすると……

何故か内容が若干ずれると言う……



これが駄作者の私クオリティーなのか……。



構成を文章化するのに四苦八苦しながらの今回話です。


では、本編をどうぞ。








 深い深い常闇の夜が世界を覆っていた。

幸いにも夜空には雲はなく、少し欠けた月の光が夜の帳を僅かばかり明るくしてくれていた。


 その月の光が深い深い森にも降り注ぎ、優しい光が木々の合間を縫って地上に当たる。

そして、そんな森の中に場違いな色が煌々と灯っていた。黒が世界を塗り固める中で光るそれは赤い色を灯す。

心細くなる暗い世界に温かな焚火の明かりが灯っていた。


そんな焚火の前には三人の影があった。


『そうか……。ほのかはそっちにいるのか』

「ああ……面倒な事にな」


その中にいる一人の人物、バルドが目の前にあるモニター映っている誠治を前に事の詳細を語っていた。


「悪いな……。お前のチビッ娘を巻き込んじまってよ。俺がいながら情けねえ話さ……」

『いや……。お前がいてくれなければ、うちのほのかが無事に帰ってこれたか保証ができない。いてくれただけでも感謝はしている』


此処に至るまでの経緯を話すと―――


 崩落を始めた始まりの洞窟の祭壇の下には地下通路があり、祭壇の間が崩れる寸前に三人は何とか脱出。そのまま狭い通路を真っ直ぐに飛行していき、暫くして行き止まりに至った所で停止。


壁の向こうから空気が流れている事を確認したバルドが壁を破壊して外へと脱け出す事に成功した。

此処までは良かったのだが……問題はその後だった。


外へ出て初めに分かった事は、日が暮れていた事だった。辺りは薄暗くなり始めていて青空も赤く染まり始めていた。


次に気付いたのは、現在の位置だった。

 真っ直ぐに飛んでいた事もあってか、なんと第三都市から随分と離れた未開の森の中に自分達は立っていたのだ。


そこから帰るにしても迷宮の様な森の中を歩いて森の外へと出て更に街へと帰るのは至難の業だった。


 日も暮れ始めているし、ほのかとフィリスの体力も限界に来ている事を悟ったバルドは森の中でも比較的に安全そうな場所を探してそこにキャンプをする事に決めた。


そこまでに紆余曲折があったが省く事にしよう。



そうして現在に至るという訳である。


「にしても、お前ん家が魔法通信の回線持っててくれて良かったと思ってるぜ。じゃなけりゃ連絡がつかなかったしよ」

『それは私も同じ気持ちだ。お前が魔法通信の技術を持っていてくれて本当に助かった。慧子さんはほのかの帰りが遅くてずっと心配していたからね……』

「……だとよ、ほのか?」

「うぅ……。ご、ごめんなさい」


言われた彼女はバルドの隣でしゅんと項垂うなだれる。


家族に黙って……というか嘘を吐いて外に出ていった事もあってほのかは罪悪感で一杯だった。

隣で猛省している少女の頭に彼はポンッと大きな手を乗せて少し強めに撫でる。


「まっ、こいつも反省してんだ。あんまし怒んなよ?」

『その位は分かっているつもりだ。それで……この後は如何する気なんだ?』

「今晩は悪いがこの森ん中で野宿だ。朝になったら第二都市の方に行く」

『ん? こっちに直接は戻らないのか?』

「そうしたいのは山々何だがよ。此処からだと第三都市に行くには山脈を越えなきゃならねえ。なら、迂回路を使って第二都市に行ってそこから定期船に乗ってそっちに行った方が楽だ」


 第二都市から第四都市までは巨大な川が一本流れている。

そこには、定期的に魔物除けの式を組み込んだ大型船が人を乗せて移動している。

まだ安定した航行が出来ない事から不定期にしか出ていないから不便だったりする訳だが……。


一度、第二都市に向かってから第三都市に向かって船で向かった方が色々と都合がいいと思っての提案だった。


『空を飛ぶという手はないのか? 飛行魔法が出来るのだろ?』

「生憎…今は『ドラゴンフライ』が活性化する時期と被ってる。無暗に飛んだら最後、死角から突然やって来て掻っ攫われるぞ」

『むぅ……』


ドラゴンフライは飛行する体長約4メートルの風属性のC級モンスターだ。

名前の通りトンボと似た様な姿をしており、八枚の翅を高速で羽ばたかせてソニックウェーブを基本攻撃に使ってくる。


最も特徴的なのが、その速さだ。

モンスター界では屈指のスピードを誇り、その速さは並みの飛行魔法士が追い付く事が出来ない。

そして、彼等は肉食性であり、基本は小さな虫や小鳥などを捕食するが、人も時々襲ってくる事がある。


そんなモンスターが活発になる時期に飛んだが最後。

羽音に気付いた時には既に自分は捕まってしまっている事だろう。


 ドラゴンフライは自身より大きな獲物は狙わないという習性を持っている事からそれを利用して大型飛行機などを作って空を移動する様にして襲われない様に最近はなっている。

現在は都市間を移動する大型飛行機があるお陰で年々その被害は減ってはいるが衝突事故などもあるから油断は出来ない。


尤も、ドラゴンフライ以上の飛行モンスターも存在するので飛行機も安全とは言い難いのも事実である。


「俺一人だったら対処は出来なくもねえが……。餓鬼二人を守りながら戦うのはまず無理だ。それは分かるだろ?」

『……ああ。すまない、無理な事を言った』

「いや、心配すんのも無理はねえよ。なんせ、野宿すんのはモンスター共の住む森の中だ。自慢の娘がその中で寝泊まりするとか想像できないだろうしな」


彼の心配も当然のこと。


 今まで外の危険とは掛け離れた頑丈な城壁に守られた都市の中で暮らしていた自分の愛する娘が、気付けば外へ飛び出して、尚且つその危険なモンスターの巣窟の森の中で寝泊りをしなくてはならなくなっているのだ。


『それもそうなのだが……』

「なんだよ? 他に心配な事でもあんのか?」


 ある。と言って凄い真剣な表情を向けてくる。

それに何事かと思ってバルドも目を細め、次に来るだろう言葉に集中しようと身構えた。


『うちのほのかをお前が寝込みを襲って食べてしまわないかと思って心配している……』

「発展途上の餓鬼に欲情すっかボケ」


 しかし、真剣な顔とは裏腹に内容は非常に如何でもいい事だった。

呆れた表情に変わったバルドは間を開ける事なく返事を返す。


すると、言われた誠治はくってかかってきた。


『なんだと!? うちのほのかが可愛くないというのか!!』

「いや別に可愛くはねえと言った訳じゃねえっての。寧ろ、こいつは俺の知る中じゃ美少女って部類の奴だと思ってるぞ」

「あう……/////」


隣にいたほのかはハッキリと言われて、恥ずかしくなって顔を赤く染めて俯きもじもじとする。

その彼女をチラリと一瞥した彼は言葉を続けた。


「まっ、こいつは弄り易いってのが可愛いと思う理由だがな」

「そっちが本当の理由だったの!?」

「当たり前だろ。弄り易くなかったらつまらねえじゃねえか?」

「うぅ……。バルドさんから見た私の立ち位置が明確に分かった様な気がするの……orz」


何やら地面に両手を付いて落ち込んでいるほのか。そんな彼女の頭に手を乗せて軽く撫でてやる。

その光景を見て誠治はより一層の親馬鹿精神むき出しで牙をむく。


『お前にうちのほのかは嫁には出さんからな!!』

「いや別に要らねえし」

『なんだとおぉぉぉっ!? うちの至宝の娘のほのかを要らないというかあぁぁぁ!?』

「んじゃあ……。わ~い、嬉しいな~…か?」

『よし、ならば戦争だ!! 表に出ろ。娘が欲しくば私の屍を越えて行け!!!』

「だぁ~もうっ!! テメーはどっちを選ばせたんだコラッ!!」

『誠治さん……?』

『け、慧子さん? な、何を――!?』


 その時、誠治の背後に誰か立っていた様に見える。

そして、次の瞬間に堅い金属音が聞こえて画面が一時乱れた。再び元に戻るとそこには母の慧子が朗らかな笑みと共に映っていた。


『こんばんわバルドさん。少し、娘と代わってくれますか?』

「おお、いいぞ。ほれほのか、母親からだぞ」


指で空中に浮かんでいる画面の縁を軽く叩くと、画面が横に滑りほのかの前で止まる。

一つ前で起きた音にほのかはおっかなびっくりといった感じで母に問う。


「お、お母さん? ええっと……お父さんは?」

『誠治さんは少し疲れたからお休みするそうよ』


 ニコニコと普段通りの満面の笑みを見せる母親を見て、ほのかは引き攣った笑顔を見せる。

さっきの金属音は皐月家では聞き慣れた音なので、父誠治が一体如何なったのかは容易に想像できた。


『ほのか。バルドさんに失礼のない様にね?』

「うん……。お母さん。嘘吐いてごめんなさい……」


素直に謝るほのか。それに慧子は少し複雑な表情を見せた。


『ほのかが嘘を言っていたのは、あの時には分かってたのよ』

「え……?」

『でも、それを私は止めようとは思わなかった。何でだと思う?』


 嘘に気付いていた。それなのに、自分を止めようとしなかった。

それは何故か? 考えても分からなかった彼女は首を横に振った。


そして、慧子はゆっくりと話し始めた。


『貴方が、自分の出来る事を探していた様に見えたからよ』

「出来る……事を?」

『貴方は魔法適正がある。けど、魔法が使えない身で産んでしまって色々と辛い思いをさせてしまった。それでも、魔法が使えなくてもほのかは自分にできる事を探していたのは分かってたわ』


 親だからこそ分かる彼女の苦悩。

その原因は自分たちにもあると慧子達も同様に苦悩していた。

そして、それを変わる事も出来ない自分達、歯痒はがゆい想いをしていたのだ。


一呼吸置いてから慧子は言葉を続ける。


『あの時、それを必死で探して漸く見つけた。……そういう風に見えたの。だから、止めなかった。それに……きっとバルドさんがほのかをもしもの時は助けてくれるって信じてたのも理由の一つかしら』


ふふっと上品に笑う。

彼は何時も口が悪い人だが、本当はほのか達の事を大切に思ってくれる優しい男性だというのは分かっていた。だから、今度もきっと彼が救ってくれると何となくだが分かっていた。


 本来なら親である自分達の役目なのだろう。

しかし、それがままならないのが現実。普段のほほんとしている慧子でも自分にできる事と出来ない事くらいはわきまえているつもりだ。


『早く帰って来てね? それとお友達にはちゃんと連絡を入れておくのよ?』

「うん!」


 その後に親子はしばらく楽しく話を続け、続いて姉と兄とも話をする事が出来た。

話し終えた後に通信を再びバルドへと返す。

一言二言を慧子は彼に伝え、それを彼は頷いて了承すると安心したように朗らかな笑みを見せる。


 その後、ほのかはバルドから通信魔法の術を教わって自分でマリナ達に連絡を取った。

ほのかの話を聞いて二人とも驚き、心配してくれた。


それに気丈にも大丈夫と答え、早く帰ってくる事を約束し二人と他愛のない話をしてしばらくの間楽しみ、別れを惜しみつつ通信を切るのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



焚火の炎を使って夕飯の調理をし始めるバルド。

その姿をほのかは体育座りをしてジッと見つめていた。


「はい! ありがとうございます局長。それでは……」


その時、ずっと話を続けていたフィリスも通信を終えた様だ。


「随分と長く話をしてたな? 何かあったのか?」


問いかける彼にフィリスは焚火の近くまで戻って膝を折って座ってから首を横に振って何でもないと答える。


「ううん。局長だけじゃなくて他の研究員の仲間と話しをしてたからちょっと時間が掛かっただけだよ」

「そうか。仲良き事は良い事だな」

[相棒の場合はしょっちゅう周りに敵を作るから平穏なんて程遠いけどな~ウヒャヒャヒャ!!]

「うっせ……」


隣でぎゃははと笑う相方に顔をしかめて渋い顔になる。

それにほのかとフィリスはくすりと笑う。


「そろそろ出来る頃だな……」


ぐつぐつと煮込んでいたシチューを適度な大きさの底の少し深い皿に盛って適当に千切った香り高い草らしきものを上に軽くいてから二人の前に差し出した。


「ほれ、冷める前に食っちまいな」

「ありがとうなの、バルドさん!」

「ありがとうバルド」


 二人揃っていただきますと言ってからスプーンでそれをすくって口に入れた。

その瞬間、二人は体を硬直させ、スプーンを咥えた状態で固まった。


「ん? 如何したお前等?」

「お……美味しい~~♪」

「すごく美味しいよ! これ、本当にバルドが作ったの!?」


 口にした途端に広がった味に二人の表情が明るくなる。

一口入れる度に口一杯にスープの味が彼女達の舌を介して、脳の感覚神経を刺激してきた。


「まあな。一人旅してっと嫌でも身に付いちまうんだよ」

[でも、家庭的な味は作れないってのが問題だったりするんだよな~あいぶほぉ!?]

「だまってろナマクラ」


 突然出て来て余計な一言を言った結果、殴られて物理的に黙らされるケルベロス。

その光景にほのかとフィリスは苦笑いするしかなかった。


程なくして、夕飯を平らげた一同は今日の事を思い返していた。


「しっかしまあ、今日の事を思い返すと色々と波乱万丈だった気がするな」

「にゃはは……」

「えっと……色々と迷惑をかけてごめんなさい」

「そこは気にしてねえから大丈夫だ。なんせ、コイツで慣れているからな」

「ふえっ!? 私なの!?」


指を指されてビックリした表情になる。

それに合わせて彼女の二つに結った髪がビッと上を向いた。


一体如何やったら髪がそんな風に動くのかはこの際スルーしよう。

驚くほのかを見てバルドが何を驚いてるんだといった表情を見せた。


「なんで驚いてんだよお前?」

「私、そんなにバルドさんに迷惑かけてないの!?」

「自分の胸に手を当ててそうだと言いきれるか?」

「えっと…それは……にゃはは。ごめんなさい」


思い当たる節が幾つもあり過ぎて冷や汗を流して苦笑い。

そして、すぐに謝罪する。それによしっと頷いて勝者の顔を見せる。


「ちなみにどんな事があったのかな?」

「そうだな……。運動神経がドベのクセに木に登って下りられなくなった猫を助けようとして逆に自分が降りれなくなったとか、親の買い物を手伝おうとして迷子になったりとか、友達と川遊びをしている時に深みにはまって溺れ掛けたりとか……パッと思いつくだけで二十くらいあるな」

「それは……何と言うか……すごいね」

「だから俺はコイツを『トラブル娘』と呼んでいる。そんで、三人揃った時は『トラブルメーカーズ』と呼んでいる」


ちなみにトラブルのほとんどが、上級生の男子に絡まれる事だったそうだ。

ほのかもマリナも舞華も容姿が非常に整っていて可愛らしいから男がいい寄って来るらしい。


その度にマリナが喧嘩腰になってトラブルが巻き起こり、その度に丁度良くバルドは出くわしたりして追い払うらしい。


[ちなみに相棒の預かり知らぬ所で、その噂が肥大化して相棒は『ロリコン』っていうレッテルが追加されてるぜ?]

「はあ!? 聞いてねえぞ!? 何時の話だそれ!?」

[ホンのひと月前の話だぜ~。まあ、都市の中だけの噂だし気にすんなってウヒャヒャヒャ!!]

「ぜってーあの商店街の馬鹿共の仕業だな……。次にあった時には覚えてやがれよ……」


ゴゴゴッと背後より怒りの形相の夜叉が見えた様な気がした。


[若……? ほのかさん達が怯えているので、その殺気は閉まった方がよろしいですよ?]

「……ふぅ~。わりぃ、頭に血が昇ってたぜ」


 取り敢えずさっきの件は後回しにしようと決めて、放っていたオーラを消す。

存在感のあるオーラが消えた事でホッと息を吐く二人。


「んで……。改めて聞くが、今日、初めて冒険らしい事をした訳だが……感想は?」

「すごく疲れたの……。それに、外の世界ってこんなにすごかったんだなって思ったの!」

「私も、思ってた以上に厳しい世界だって思い知らされたよ。でも、それ以上に初めて自分の眼で見て体験出来たのが嬉しいかな」


 それぞれが今日感じた事を忘れる事はないだろう。それ程に新鮮な体験だった。

今日の出来事を自分達の胸に大切にしまうかのように目を閉じて感じている二人を見てバルドはフッと表情を崩す。


「他に何か言いたい事はあるか?」

「はいっ!」

「なんだ、ほのか?」

「お風呂入りたいの……」

[ないもの強請っちゃ駄目だぜ、ほのかの嬢ちゃん……]

[お風呂は流石に、ドラム缶でも用意しないと無理ですよ……。私達、女性にとってそれは死活問題になるのは分かりますが…]

「そんなに汚れを落としたいなら直ぐ傍に川があっからそこで水浴びでもしてこい。怖いんだったら俺も一緒にいてやるからよ」

「じ~~」


自分の後ろの茂みを指差して言う彼をほのかとフィリスがじぃっと見つめてくる。


「……なんだよ?」

「……覗かない?」

「変な事しないよね?」

「毎度毎度言うが……。そのセリフは十年経ってから言えやボケ#」


至極当然な返事が返されるのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




冷たい水で水浴びをして冷えた体を再び焚火で温める。

寝間着を持っていないのでさっき着ていた服を再び着る事になったが……。


「明日は早く出るからな。早めに寝とけ」


 自分達が水浴びをしている内に何時の間にか焚火の近くにテントが建っていた。

その中に寝袋が二つほど置かれている。


(どこから出したんだろ……)


気になったが、気にしてはいけない様な気がした。しかし、気になったのは寝袋が二つしかない事だ。


「バルドさんはどうするの?」

「俺は寝ずの番をすっから必要はねえよ」

「それじゃあバルドが体調を崩すよ?」

「二日三日程度徹夜した所で冒険者を生業にしてる俺が体調なんぞ崩すか。いいから子供はさっさと寝ろ」


 二人をテントの中に押し込んでやるバルド。

その後に火を囲んで反対の位置にある大木に腰を降ろして幹に背を預けた。


「今日はいろんな意味で疲れたぜ……」

[久々に新鮮な体験だったじゃねえか相棒。俺は好きだぜ~、こういった冒険もよ? ウヒャヒャヒャ!!]

「そんな冒険も明日明後日までだ。ほのかとフィリスを無事に送り届けたらそれで俺の役目も終わりだ」

[そうですね。しかし……寂しくなりますね]

むしろ静かになって清々する。子供二人と一緒に冒険なんぞ出来るか」


赤く燃える焚火の炎を目を細めて見つめて言うバルド。

その満月の様に綺麗な金の瞳に真紅の炎が映っていた。


その時、何処か遠くから遠吠えが響き渡ってきた。


「ヴォルフの遠吠えか……」

[距離的には余裕があるな。こっちには来ないと思うぜ?]

[如何やら幾つかのグループ同士の交信を図っている様ですね]


 複数の方向から狼の遠吠えが夜空に響き渡っていた。

それを一種の自然が生み出す音楽と感じて楽しみつつバルドは静かに辺りへの警戒を行うのだった。


………………

…………

……


狼の遠吠えが響く。

それは少なからず他の動物達に影響を与えるものであった。


寝袋に入って眠っていたほのかとフィリスはヴォルフの遠吠えで目を覚ましてしまった。


[マスター、如何しました?]

「ちょっと、眠れなくて……」

[フィリスもですか?]

「うん。なんか…ね」


 今まで頑丈な城壁で守られた街の中で聞いていたのとは違い、更に近い感覚で聞こえる遠吠えが彼女達に生物特有の本能が不安感を与えてくるのだ。


眠りについても、聞こえてくる遠吠えに目を覚ます。

それに、今まで家族や、研究所の仲間が傍にいたが、今は誰も傍にいない。

本当に頼る者がいない事が彼女達を安心させて眠りに就けない理由でもあった。


それと同時に自分達が本当に外の世界に出ているのだと実感する。

テントから二人は出る。その二人に対面で番をしていたバルドが気付いた。


「なんだ? まだ寝てなかったのか?」


 茶化そうと思った彼だったが、それは直ぐに脳の片隅に消える。

目の前にいるのは、不安な顔をした子供が立っていたからだ。


「……怖いか?」


 それに二人が同時に小さく頷いた。

それを見て、彼はフッと柔らかな微笑みを見せて自身の左右に虚空に手を突っ込んで敷物を引っ張り出して敷く。


その後に自分の膝をポンポンと叩く。

自分の膝を使ってもいいぞという合図と見てほのかとフィリスが彼の所に歩み寄ってその膝を枕にして横になった。


誰かの温もりを感じると、途端に二人のまぶたは重くなってきてそのままゆっくりと閉じ、小さな寝息を立てて眠りに就いた。


「幾ら気丈に振る舞っても…中身はまだまだ子供って訳か」

[美少女二人に膝枕たぁ、役得だな相棒? ウヒャヒャヒャ]

[黙りなさい駄犬。ほのかさん達の不安も分からない訳ではないでしょう!]


たしなめる様に小さな声でケルベロスを叱責する。

それを余所にバルドは彼女達の体を冷やさない様にコートを二つ取り出してそれぞれにかけて上げた。


小さな手がキュッと彼の服の裾を掴んでくる。

その二人を安心させる様に頭に手を置いて優しく撫でる。

むず痒いのかもぞもぞと動く二人。


面倒くせえな……と小さく呟くもののその表情には何処にもめんどくさがっている様には見えなかった。


三人だけの夜は静かに過ぎていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



場所は変わって第三都市コーネリアの第三研究所。

夜遅くにも拘らず明かりが灯っていた。



その中にある一室。

局長室では、オズワルドが自身の本棚にある書物を片っ端から取り出して山の様に積み上げた状態で熱心に書に目を通していた。


「これでもないか……」


 そう呟いて分厚い本を閉じ、脇に置く。

それには魔力晶と呼ばれる魔力を大量に含めた結晶の種類とその特性が記されていた。


「フィリス君からの情報では、あの欠片は自身の能力を上昇させたというから魔力晶の可能性があると思ったのだが……」


魔力晶には各属性が存在し、その内に周囲の魔力を吸収して力を溜めこむ特性がある。

元は鉱物であるそれなのだが、あまりにも大量の魔力を取り込むと内部構造が一気に崩壊、再構築を始める。


その時に周囲の同様の欠片が存在すれば結びついて更に力を溜めこみ、エレメント系のモンスターへと変貌を遂げるのだ。他にも大気中の魔力素が不安定になるとエレメント系モンスターは誕生するケースもある。


こういった事から彼はあの赤い欠片をエレメント系のモンスターだと思って調査をしていたのだが、残念な事にその糸口は見つからなかった。


「フィリス君は明日は第二都市の方に行って、そこから船に乗って帰ると言っていたな」


 仕事机に置かれているパソコンには一通のメールが届いている。

それは第二都市の研究所の知り合いからの返事で、一晩宿泊させる了承の言葉が添えられていた。


向こうに着いたら彼女達を迎え入れる準備は整えてくれるだろう。

その時だった。誰かがドアを激しくノックしてきた。


「局長!! 起きてますか!?」

「ああ、起きている。一体如何したのだ? もう少し静かに出来ないか?」

「それどころじゃないんです!! 今、大門からSCCAの討伐隊と調査隊が大怪我を負って帰ってきました!!」

「なんだとっ!?」


 それに驚いてガタッと音を立てるほど勢いとく立ち上がる。

その衝撃で椅子が後ろに倒れるが気にせず慌ててドアを開けて詳細を聞く。


「全員は無事だったのか!?」

「はい。大怪我を負ってはいますが辛うじて……。ですが、彼等はうわ言の様に何かを言ってました」

「何をだ?」

「それが……」


 何と言えばいいのか分からないといった風な表情にオズワルドは眉を顰める。

そして、局員が隊員が言っていたうわ言の言葉をそのまま口に出した。


――紅い十字の……黒蠍……――


「っ!!」


 それに彼は大きく目を見開いた。そして、額から冷たい汗が頬を伝う。

その言葉の意味する所が何なのか分かった様でその顔色は悪かった。


フラッと眩暈めまいが起きて彼は頭に手を添え、ふらつきかけた。

その彼の様子に局員の者は慌てた様子でうかがった。


「局長!? 如何したんです!? 顔色が悪いですよ?」

「いや、大丈夫だ……。だが……、いや、まさかそんな事は……」

「紅い十字の黒蠍が何か知ってるんですか?」

「ああ、そうだ。だが、それは君達もよく知っている奴らだぞ」

「え?」

「黒い蠍のハサミの甲に描かれた紅い十字。『紅十字の黒蠍』……!! 魔法共和国と魔術大国の国境の境となる僻地へきちにある独立を掲げる大国……魔術と科学の両立する国、『クロス王国』所属の『ビアンカ隊』だ……!!」


それが意味する事に目の前の局員が顔を青くして息を呑んだのが分かった。


その国は魔術大国側の位置で属しているものの独立を目指しており、旅行者などは迎え入れるが魔術側の駐在兵といった者達は追い返すといった事を繰り返す。


聞き方によっては怪しい国にも見えるが、実際は開放的な国だ。

ただ、自分の国は余所者の加護を受けずとも守れるから警護は必要ないと言っているのだ。

そして事実、彼等の国は他に類を見ない数の軍隊を持っておりそこには優秀な将達が部隊を率いているのだ。


ビアンカ隊もその一角で、実力名高く非常に好戦的な部隊だ。

それに加え、現在は魔科学にも手を出しているそうで、周辺の国々は厳重な警戒をしている。


「ですが、彼女達がなぜこのような土地に……? 彼女達が動くのは自分の国に被害があった時以外は余程の事がない限り動かない筈ですよ?」

「その余程の事態が少し前に起きたじゃないか?」


ハッとする局員。数日前に起きた大地震。それと同じく動きだしたビアンカ隊。

何処か符合する点が幾つかあり、眉をしかめる。


 しかし、あの国が他の国へ軍隊を秘密裏に動かすなど過去にあった大戦以来、一度としてない。

それが今日動いている事が確認された。


恐らく、SCCAも今回の件を調査しに動くであろう。

だが、明確な回答は返ってはこないだろう。


「ですが、あれは自然災害ではないんですか? それで動くには理由が少ない様な気がしますが……?」

「うむ……。少しばかり調べる必要がありそうだな。中央研究所に連絡を入れてみるか」


 年若くして中央研究所のトップとなった女性。

その者と少なからず関係を持っている彼は彼女へと連絡を回してみる事にした。


「もしもし、わしだ」

『あっ、す、すみません。今、銀行にお金はないんです……』

「わしわし詐欺ではないよ!? っというか、語呂が悪いぞ!?」

『ふふっ、冗談ですよ。……お久しぶりですね、先生』


 コロコロと鈴の音を鳴らした様な澄んだ声が回線越しに聞こえてきた。

からかわれた事にオズワルドは深く息を吐いた。


「全く、君という子は……。昔からわしをからかうのが好きだね」

『くすっ。先生の反応が面白いからですよ♪』

「それにしても……。君はまだわしの事を先生と呼んでくれるのかね? 今ではわし以上に偉くなったというのに……」

『それはそれ、これはこれですよ。今の私があるのも先生の教えのたまものです。幾ら偉くなろうと、私は先生をないがしろにするほど悪い子に育った覚えはありませんよ?』


モニターに映る女性が微笑みを向ける。

整った美しい彫刻の様な顔は今も何処か幼さを残し、男という蜂を寄せ付ける綺麗な花の様だった。


これで、未だに彼氏も作らずに独身を貫いているのだから不思議な話だ…と彼は心の中で思った。


『それで、一体こんな夜更けに如何したんですか。先生?』

「うむ。実は君に聞きたい事があってね……」


時間が時間なだけにただ事ではないと悟ったのだろう。

笑みは消えてスッと表情を引き締める彼女にオズワルドもまた、彼女へ事態がどれ程のものかを聞き始めたのだ。



夜は、ゆっくりと更けていった。




紆余曲折あって外で野宿。

次に向かうはほのか達の故郷の隣の都市、第二都市。


人を襲うモンスターの住む外の世界で寝るのはかなり気を張る。

野宿する際は必ず寝ずの番をしてくれる人を選んで置くべし。


夜間は多くのモンスターが元気になる時間。

まあ、外で生活しているバルドがいるので大変心強いかと……。


子供の体力では山脈越えは厳しいので最寄りの都市へと向かう事に……。次の目的地は第二都市。


それでは、次回も宜しくお願いします。


では(゜∀゜)ノシ!!



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