第七十六話 イレギュラー
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アトラク・ナクタを討ち破り一息つく暇もなくそれはやってきた。
鈴の音と共に虚無の魔法士シルヴィア・ピステールが再び立ちはだかる。
「また会えて嬉しいわ、リースリット」
黒の欠片の隣に現れたシルヴィアはリースリットに向けて再開を喜んだ。
ただし、それは彼女を絶望に陥れる事を喜ぶ負の感情によるものだ。
「あ……あ……」
「ふふふ…。二度も私に挑み、そして絶望を見せつけられ牙を折られたのかしら?」
怯える彼女を見て悦を浮かべるシルヴィアは右手を動かして欠片に翳す。魔力が鎖となって欠片に絡み付き封印を施される。
「秘石の暴走を止めたこと感謝するわ。お陰で力を使わずにこうして楽に回収出来るからね」
手を伸ばし欠片を取ろうとする。その行動にリースリットは身体が動きかけるが、震える身体はそれを拒むかのように動かなかった。いや、動けなかったといった方が正しい。
彼女の状態に満足そうな様子を見せるシルヴィアは視線を外して欠片を手中に収めようとする。
「シャインバレット、シュートッ!!」
しかし一発の魔力弾がシルヴィアに直撃する。爆発に包まれるシルヴィアを見てリースリットは驚いて声の主であるほのかの方を見た。真剣な面持ちのほのかにフィリスが驚きの声を上げる。
「ほのか!? なにやってるの!?」
「あの人に、シルヴィアさんに欠片を渡しちゃいけない。よくわかんないけどそうしなきゃいけないの」
「どないしたんほのかちゃん。なにかあの人の事が分かるんか?」
「わかんない……。でも、胸の奥でなにか気持ち悪い感覚があった。それで止めなきゃって……」
「ふ、ふふ…ふふふふふ……」
煙の中から笑い声が聞こえる。身構える一同の目に無傷のシルヴィアが立っているのが見えた。
「さすが、イレギュラー。もうそこまで覚醒を始めていたのね」
黒の欠片に向けていた視線が今度はほのかの方に向けられた。
その眼に浮かぶのは全ての感情を捨て去った空っぽの感情。なにも感じないシルヴィアにほのかは背筋が凍り付きそうになる。
「でも、止められはしないわ。私のこの絶望を癒す事は不可能。この秘石で私はこの絶望を消し去るのよ!!」
「訳分かんねえこと言ってるけど、正気じゃなさそうだぞあいつ!」
「そうはさせない! 止めてみせるの!!」
アトラク・ナクタとの戦闘での疲労が残っているがほのか達は動き出した。動き出した仲間達にリースリットも続こうとした。だが、全身に来る恐怖に動けず置いて行かれる。
接近するほのか達を見てシルヴィアは深い深い笑みを浮かべた。
「ウィル……フォルテ……古き時代のターミナル、可能性の光……。けどね……なにもあなた達だけがそれを行使できるとは思わない方がいいわ」
懐より彼女はあるものを取り出す。
(なに、あれ……? 黒い…ウィル?)
自身の持つターミナル『ウィル』の待機状態と酷似した指輪が見えた。
ただしそれは全てが黒く、禍々しい黒に染まった指輪だった。
「IPターミナルはなにもあなた達だけが使える特別なものじゃない。
それを教えてあげる。起きなさい“ブラックハート”……」
虚無の光が全てを包みこんだ。宝石から放出される黒い波動が身の毛のよだつ気配とともに広がる。
「ブラックハート起動完了」
[System Online.All destroy]
右手に握られるのはウィルに酷似した杖型のターミナル。
ただしその形状は異質なものでまるで魔界の代物であるかのような姿だった。
「さあ、来なさい。あなた達に絶望を与えてあげる……」
杖の宝玉が禍々しい輝きを放つ。
彼女の後ろに恐ろしい姿をした魔物とも魔女とも見える女性の紋章が現れる。
「情けをかけてあげましょう……ナンバーズ」
虚無の魔力弾が生み出され、一斉に発射される。
その密度はほのか達の比ではない。圧倒的なまでの弾幕が一挙に飛んで来たのだ。弾幕の中を飛んでほのかとフィリスが魔力弾を飛ばす。だが、シルヴィアはあっさりと弾き飛ばす。
「これが本気? まるで効かないわよ」
「いまだ! ツイストカーレント!!」
弾幕に気を取られたいる内にフィリスが捕縛魔法をかける。
シルヴィアの足下から水流が二つ飛び出して彼女の身体に巻き付く。
「あかね、アシュトン! いまだよ!!」
「虚空より至りし七色の剣よ。我が真名の名の下に、七角形と共に――!!」
「天地轟く魔神の咆哮よ。善悪全てを灰塵に帰する――!!」
「詠唱?……させると思って? 結晶 フォースマテリアル」
身動きを封じられている筈のシルヴィア。ところが、彼女の周囲に四つの赤いクリスタルが出現した。
それは二つを残して残る二つが目にも止まらぬ速さで飛行しあかねとアシュトンに接近、弾幕をばら撒いた。
「う、うそ! きゃあ!?」
「霧島さん危ない! ――うわあ!!」
弾幕はまるで意志を持つかのように、散らばった魔力弾はあかねとアシュトンを正確に攻撃した。痛烈な一撃を貰った二人はそのまま水上に落下し水面に消える。
「アシュトン!!」
「あかね! ……てめえぇぇぇぇ!!!」
あかねを傷つけられたプレセアが怒りの炎に燃える。紋章が立体的に出現し、彼女の魔力が膨れ上がる。
「潰す!! エアーデファウスト!!」
バリア貫通能力を持った鉄球による一撃が振り下ろされる。
「付属効果? ……くだらないわ。ペネレイトフィールド」
落下してくる鉄球を前にシルヴィアは領域を展開した。その領域に入った途端、ミョルニルが石に変わり果ててマテリアルの体当たりで粉々に砕け散る。同時にシルヴィアを縛っていた捕縛魔法も同様に石化して砕けた。
「なっ、ミョルニル!?」
「力を活かせず消えなさい」
自由になったシルヴィアが左手の人差し指から光線状の魔力弾を撃つ。
咄嗟の判断で横に飛んだプレセアだが右腕を貫かれる。
「ぐっああっ!?」
「プレセアちゃん!」
「待ってて、いま回復する! 癒しの光よ、ヒール!!」
「回復……? つまらないわ。虚無の冥道 エーテルパニッシャー」
ヒールで回復させようとしたフィリス。それに対してシルヴィアが新たな魔法を発動する。発動寸前だったヒールが突然、何の前触れもなく音を立てて弾け飛んだ。
「えっ……なん―――」
そして直後、フィリスを爆発が包み込む。爆風に吹き飛ばされたフィリスが気を失ってあかね達と同様に水中に没した。
「フィリスちゃん!」
「ちっ!!」
水中に沈んだ三人を助けるべく、サヤが戦闘から離脱。水中に飛び込んで救助に向かった。領域の消滅と共にユグドラが近接戦闘をしかける。素早い剣戟をシルヴィアはブラックハートにより防ぐ。
「ルチア!!」
「背中ががら空きだ! 切り裂け、シュトゥルムスピナー!!」
鍔迫り合いになった所で背後からルチアが強襲を仕掛ける。
「私の背後に立たないで。結晶 ガードマテリアル」
しかし、新たに現れた四つの青いクリスタルから発する障壁に攻撃が阻まれる。
必然的に障壁に押し出されてしまったユグドラが破壊しようと攻撃を試みるも展開した守りは彼女達の想像を超える強度を誇っていた。
「これで終わりなのかしら? なら興ざめもいい所ね」
「くっ……」
「呼ばれて飛び出てジャンジャジャーンっと!!」
声と共にシリウスが水面から飛び出し、目にも止まらぬ拳による連打を繰り出す。
「ラッシュラッシュラッシュラッシュラッシュラッシュッ!!!!」
最後に強烈な一発を打ち込んでから二連撃の回し蹴り、続けざまに多数の青い火の球を叩き込んだ。
「双破波紋掌!!!」
そして最後にグラキエスの重い一撃が障壁に入った。
「……なっ!?」
「ナンバーズ・ジェノサイドシフト……」
四つのクリスタルは健在。障壁にも罅一つ入っていない。驚きで後退りするグラキエス達の前にシルヴィアが敷いたのは、圧倒的多数の魔力弾。掲げた杖が振り下ろされると同時に待機していた魔力弾がまるでハチが敵を襲うかの如き勢いで放たれる。
「ぐあっ!?」
振り切ろうと回避行動をとるも、圧倒的なまでの飽和攻撃の前に仲間達は成す術もなく撃墜される。
「みんな!!」
「他愛のない。これで私を止められると思って? さあ、次は貴方よイレギュラー!!」
過密なる弾幕がほのかに襲いかかる。全力の飛行で攻撃を振り切ったほのかは弾幕を作って飛ばす。それにシルヴィアは瞬時に対応し、同数の弾幕を作ってほのかの魔力弾を相殺する。
「あの守りをなんとかしなきゃ!」
[高レベルの魔力障壁です。突破するにはこちらも同等の火力で応戦しかありません]
「なら、一気に行くよ!!」
[イエス、マスター!!]
弾幕を展開し偏差攻撃を仕掛ける。対応され相殺される。それでも十分な時間は稼いだ。砲撃体勢に移ったほのかの後ろに女神の紋章が現れる。輝かしい光を放つ紋章と同じ桜色の魔力がウィルに集まる。
[Over Limits LevelⅠ!!]
「ホーリーバスター!!」
高火力の砲撃魔法が解き放たれシルヴィアの守りに直撃。
シルヴィアを守る結晶の一つが砕け散った。
「もう一発!! ホーリーバスター!!」
更に魔力を送りこんで再度砲撃魔法を放つ。一発目よりも魔力を込めたこの砲撃なら――!!
シルヴィアのガードマテリアルに命中した砲撃が激しい火花を散らす。
遠目から見てもこちらが押しているのが感じ取れる。このまま押し切ろう! そう思った彼女はしかし眼前に見えた光景に直後、恐怖を感じた。
「砲撃魔法……? 力押しで勝てると思って?」
障壁の向こうに虚無の光が見えた。ブラックハートから溢れるそれはやがて膨張し膨れ上がる。
「禁断 バスターイーター」
解き放たれる虚無の砲撃。障壁をすり抜けてほのかの砲撃に正面からぶつかり侵食を始める。
(砲撃魔法が……食べられてる!?)
自身の砲撃魔法が相手の砲撃魔法に食われていた。出力を上げて相殺しようと試みるも、差は広がるばかりで遂に押し返され始める。
そして強い光が虚無の闇に飲み干された……。
阻むものを呑み下した砲撃は、ほのかへと飛んで行き彼女もまた呑み込まれる。
「いくらイレギュラーだろうと、私を止めるのは不可能よ」
空に溶けて消える砲撃の中からボロボロになったほのかが落ちて水中に消えた。
「ほのかーー!!」
漂うウォーウルフに救助した仲間を寝かしていたサヤが再び湖に飛び込んだ。水中に消えたほのかを見下していたシルヴィアがスッと頭上を見上げる。
視線の先―――仲間がまともに対抗できずに倒されていく様を見せられて恐怖におびえていたリースリットがビクッと体を震わせる。
「次は貴方がこうなる番よ」
「主には近づかせぬぞ小娘!!」
間に割って入ったアウルが突風を起してシルヴィアの動きに制限をかけようとする。激しい暴風の中でしかしシルヴィアは平然としていた。
「無駄よ。私のガードマテリアルはそんなそよ風で壊せはしないわ」
「言うてくれる。ならばこれならどうじゃ!!」
特大サイズの扇子を両手に持って風を起こす。風と共に飛ばされた鳥の羽が姿を変えて梟の群れとなりシルヴィアに襲いかかる。
「……邪魔よ」
視界を遮る梟の群れを魔力で吹き飛ばす。舞い散る羽の中からアウルが姿を見せて扇子に風を宿して叩きつける。ガードマテリアルの障壁に僅かに波紋が生じる程度に終わり、反撃の魔力弾が撃たれる。
至近弾を避けつつ近接と中距離の攻撃を行いリースリットを守ろうとする。
「あまり手間をかけたくないのだけど……いいわ。少しの間、遊んであげる」
「そいつはありがたいな」
声に反応して振り返るシルヴィア。素早く回り込んだバルドがケルベロスとバハムートに闇の炎を宿らせて振り下ろす。黒い爆炎に呑み込まれるシルヴィア。しかし、彼の重い一撃を持ってしてもガードマテリアルは一つ壊れる程度だった。
「私の背後に立たないでといった筈よ。結晶 ガードマテリアル」
壊された結晶が再び四つに戻る。絶対なる守りの中でシルヴィアは呆れた様子でバルドを見る。
「あの子に関わったばかりに深手を負ったはずなのに……貴方も懲りないわね魔剣士さん」
「…生憎と俺はこうと決めたら最後までやる性格なんだよ」
「そう…。なら、一緒に絶望すればいいわ」
周囲に現れた多数の魔力弾。その数はこれまでの比ではない。
「アウル、リースリットと一緒に下がってろ! こいつは俺が相手をする!!」
「ナンバーズ……」
一斉に放たれる魔力弾。合間を縫って避ける彼だが、弾幕内に軌道を修正して接近する魔力弾を見つける。
「ちっ、無誘導と誘導弾を混ぜていんのか!」
それらを弾いて斬撃と魔術を交えた素早い攻撃が繰り出される。だが魔術も斬撃もガードマテリアルの前に罅を入れることすら出来ていない。いまいち効果が薄い状況にバルドは小さく嘆息する。
「あのマテリアルが厄介だな」
[正面から真面目にぶつかっても疲れるだけだしなー。これは厄介ウヒャヒャヒャ!!]
[呑気に笑ってる場合ですか! こちらの攻撃が通らない以上、疲労の蓄積で若が不利になるのは必死なのですよ!!]
「大火力の一撃でも一発ブチ込んでみるか?」
ケルベロスに闇の炎を宿して提案をしてみる。それにケルベロスがカタカタと震えて笑う。
[やめときなって相棒。んなことしたらこの一帯が焦土になっちまうだけか疲れるだけだぜ~ウヒャヒャヒャ!!]
「だよな……。さて…どうしたもんか」
そもそもあのマテリアルが常人では破壊が難しい魔法である時点で面倒だ。そしてそれが四つ破壊しないと守りが完全に破壊できないという点で更に面倒だ。
「あいつの事…俺以上にもっと詳しい奴が居たっけかな……?」
出来れば幼少の頃から親しき間柄の人物とか……。
「……ああ、そういやいたな」
「シルヴィア!!」
上空から声が聞こえ、バルドの隣にエメローネが並んだ。
「やっぱり来ていたのね、エメローネ」
「当然よ。あなたを止めるのは親友の…私の役目だから!!」
「できるのかしら? 勝負は今のところ私の勝利は揺るぎそうにはないけど?」
あれだけの人数を相手にしたにもかかわらず彼女から未だ強大な魔力が感じられた。それを前にエメローネは臆することなく持っている杖型ターミナルを向ける。
「いいえシルヴィア。勝敗は二対八……勝率がゼロじゃない限り、私は諦めないわ!!」
「変わらないわね、貴方も。だからこそ、偽りに気づかないのよ」
シルヴィアの周囲に大量の魔力が展開される。今までの比ではない数の魔力弾は余すことなくバルドとエメローネに向けられる。
「たった二人で私に勝てるとでも?」
「二人…? なに言ってやがる」
彼女の言葉にバルドが不敵な笑みを浮かべる。
「あら? なにがおかしいのかしら?」
「いつあいつが脱落したと思ってんだ。あいつはまだリタイアしてないぞ」
彼は知っている。彼女がこれだけの事で膝を屈することがないことを。
「あいつはまだ弱い。だが、俺たちにないものを持ってる。トラブルばかり起こす面倒な奴だが、人一倍強い意志を持ってる。猪突猛進、やると決めたからには最後まで挑む。困難を前にしても諦めないで立ち向かう」
それが―――
「俺の知る皐月ほのかだ」
水面が強く発光する。桜色に輝く水面が盛り上がり弾け飛んだ。湖が割れ水底が見える。そこに立つサヤの真上にある強い輝きは勢いそのままにこちらへ真っ直ぐに飛んでくる。
[Over Limits LevelⅡ!]
「ディバインランサーーーッ!!!」
ホーリーランスよりも更に大型の槍を展開して猛スピードでシルヴィアに激突する。ほのかの突進をガードマテリアルの障壁が受ける。
「ウィル!!」
[ブースト! ブースト!!]
ブースターが展開して魔力を放出し出力を大幅に上げる。いままで突破不可だったシルヴィアのガードマテリアルに、亀裂が入った。
それを目の当たりにしたシルヴィアは左手に魔力を込め、手をかざし衝撃波を放つことで彼女を弾き飛ばす。
ふんばったほのかの背後に女神の紋章が大きく現れる。ウィルより桜色の大きな翼が生え、彼女の傍らに囲むように四つの魔法陣が展開された。
「フォトンブレイザー・シューティングレイ!! ブレイク、シューーット!!!」
ウィルと四つの魔方陣より同時に砲撃魔法が放たれる。砲撃がシルヴィアの障壁へ激突。クリスタルに罅が入り、四つの内の三つが砕け散った。
砕け散るクリスタルの破片の先、自らの絶対防壁を一撃で三つも砕いた少女をシルヴィアは見つめる。
「イレギュラーの分際で…大した能力ね。少し侮っていたわ」
「イレギュラー、イレギュラーって……さっきからなんなの!? 私はほのかっていう名前があるの!!」
「……私の障害になるのはリースリットだけかと思っていたのだけれど……」
ごうっという音が聞こえそうな勢いでシルヴィアから魔力が放出される。
感情の薄れた顔をした彼女からなにかが消えた。
「可能性は摘み取る。私の邪魔はさせない!!」
「バルドさん! エメローネさん!!」
「ええっ!!」
「分かってる!」
応えるように返事を返した二人と共にほのかは再びシルヴィアに向かって突撃し交戦を再開した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
三人が交戦する光景を離れたところでリースリットは見るだけしかできなかった。
「ぬしよ。主は行かぬのかえ?」
傍らに侍るアウルが問いかけてくる。
だが、リースリットはその身を震わせて口を閉ざしたまま答えない。
「わっちはこのままでも構わぬ。ぬしが行きたくないのならそのままでもよい。……じゃが、ぬしはこのままでよいのかえ?」
いいわけがない。けれど、体が動いてくれないのだ。
思い起こされる恐怖体験。圧倒的で情け容赦ない攻撃、それをまだ覚えてる。
「ぬしよ。怖いのはわかる。恐れているのはわかる。じゃが、それに背を向けて逃げてばかりでは変えられぬ」
「っ……」
「あの者を止めなくては、と強く思っているのは他でもないぬしじゃろ? 菓子娘達は本来あらば関係のない問題じゃ。じゃが、それでもああして立ち向かっておる。秘石の件もあるが…それ以上にすべきことがあるからじゃ。何か分かるかえ?」
首を振る。分からない。ほのか達が秘石以上に重要視しているものなどなにか分からなかった。
「ぬしじゃよ」
「え……?」
「菓子娘たちは、ぬしを守ろうとしている」
自分を……?
まるで理解できなかった。
「どう…して?」
「決まっておろう。友達であるぬしのためじゃよ」
他でもない、リースリットを守る。ただそれだけの為にほのか達は戦うのだ。
「ぬしはどうする? ぬしのシルヴィアに対する想いはこの程度かえ? ぬしはなにを思って、なにをするためにシルヴィアと戦うと決めたのか。ぬしはシルヴィアをどうしたいのか、もう一度思い返すのじゃ!」
その言葉にリースリットの脳裏に過去の記憶が流れ始める。
――魔法を覚えたい? ……いいわ。まずは簡単な魔法から始めてみましょう?――
――凄いわリースリット。もうその魔法を使えるようになったのね。私も嬉しいわ――
――呑み込みが早いわね。それじゃあ、もっと難しい魔法を教えてあげる。……大丈夫よ。貴方はリースリット・ピステール、私の妹なのよ。きっと出来るわ――
――諦めたら駄目よ。諦めたらその場で終わり。最後の一瞬まで立ち止まってはいけないわ――
優しい微笑みを浮かべるシルヴィア。脳裏に映る彼女の姿を瞼を閉じて深呼吸と共に再びふたをする。
「アウル……」
目を開けた彼女が彼女の名を呼ぶ。瞳に一つの決意を宿したリースリットはフォルテを取り出し握りしめる。震えは、止まっていた。
「行くよ……」
「うむ、行こうぞ。わっちの風はぬしの意志を乗せどこまでも共にある」
金色の魔力がリースリットを包み、戦女神の紋章が大きく姿を現す。
閃光となり彼女はアウルを従え、シルヴィアへと飛んだ。
「どうしたの、可能性の光? その程度で私を止められると思っているの?」
三人がかりの攻撃をものともせずに弾幕で攻撃を仕掛けてくる。攻撃を避け、反撃を試みるが残された最後のフォースマテリアルに防がれてしまう。
「イレギュラーの分際で私に立ちはだかったこと……後悔しなさい!! ナンバーズ!!」
放たれる魔力弾を同じく弾幕で相殺するほのかだったが、一発だけ撃ち漏らした。直撃弾となるそれをギリギリで反応してディフェンシブで受ける。受け止めた直後に魔力弾が炸裂し、爆発の衝撃で吹き飛ばされる。
「終わりよ!」
バランスを崩して隙の生まれたほのかにシルヴィアが魔力を込めた魔力弾を放つ。あわや直撃と思われたその時、ほのかの前にリースリットが飛び出しフォルテで受け止める。
「リースリットちゃん!?」
「くっ……ああああああっ!!」
力を込めて質量の塊の魔力弾を弾き飛ばす。
自らの魔力弾を弾いたリースリットを見てシルヴィアの目が細くなる。
「いまになって何をしに来たのかしらリースリット?」
「っ……私は、止める!! 姉さんを、止めるっ!!」
金の魔力を全身に纏いシルヴィアに向かって突撃する。
その彼女へナンバーズで応戦する。濃密な弾幕の中を掻い潜り、一直線に飛ぶ。
回避先に一発の魔力弾。それをリースリットはコートを脱いで前に投げた。
広がるコートが魔力弾を受け止め爆ぜる。そして煙の中からデュアルザンバーフォームとなったリースリットが飛び出した。
「レイジングスマッシュ!!」
双剣の一撃がシルヴィアに振り下ろされる。だが、彼女を守るガードマテリアルが受け止めた。
「模造品程度の一撃で止められると思うな!!」
左手を向けて魔力の衝撃波で攻撃する。防御する彼女だが後方に吹き飛ばされる。続けて追撃の魔力弾に瞬時に反応したリースリットが頭上に飛び、攻撃をかわす。
そして同時に彼女の脳裏に第七都市でのバルドととの会話が思い起こされる。
「魔法はイメージが大事……」
言い聞かせるように呟き自らの内にイメージを作り出す。雷のスフィアが生まれる。そこに土の魔力を加える。ブレそうになるそれを整える。意識を掘り下げ、更に他の魔力を混じり合わせてゆく。
(できる……。私にもできる…!!)
フォルテの魔力刃に四色の魔力光が新たに宿り始める。
そして彼女のイメージが確固たるものへと成る。
「っ! フォルテッ!!」
[Over Limits LevelⅡ!!]
双剣を一つに戻し右手にしっかりと握り一気にシルヴィアへと飛ぶ。
「墜ちなさい、ナンバーズ……」
「アクセラレート!!」
濃密な弾幕を高速移動で掻い潜り距離を詰める。
魔力刃が五つの輝きを放つ。
「ジオ、ブレーーイクッ!!!」
振り下ろされた一撃がシルヴィアを守るフォースマテリアルを打ち砕いた。
最後の障壁が失われたと同時にシルヴィアが後退する。
「……やっと手に入れた様ね。自分だけの魔法を……。ようやく私の障害となる可能性の光となったようね」
「リースリットちゃん」
「私はもう逃げない。姉さん、あなたを止める!!」
迷いを振り払った瞳を向けるリースリットにシルヴィアが俯き肩を震わせる。
「くくく……はははははは!!!」
そして笑い出した彼女から魔力が周囲に広がった。その大きさにほのかやリースリットは背筋が冷たくなる感覚を覚えた。
「なら、来なさい可能性の光。そのイレギュラーを私はすべて否定して消し去ってくれる!!!」
再度展開された膨大な数の魔力弾とスフィア。恐怖すら感じる数の魔力弾を前にしかし彼女たちは逃げることなく立ち向かっていった。
驚異的な魔法攻撃の前に成す術なく撃墜される仲間たち。
残された彼女たちに勝機はあるか。
それでは、次回もよろしくお願いします。




