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第七十五話 VS 暗雲の虚構 アトラク・ナクタ

七十五話更新


覚醒した欠片のガーディアン。暴走を防ぎ、ジパングを止めようと動き出すほのか達。しかし、操る戦艦と自らの魔法攻撃で苦戦を強いられる。

 正体を現した黒の欠片のガーディアン『アトラク・ナクタ』の攻撃は苛烈を極めた。特に脅威となったのはジパングの対空射撃を混ぜた八足から繰り出される砲撃魔法だ。

 グラシキルで出会ったガーディアン『アフール=ザー』も砲撃を主体とした戦闘を行っていたが、攻撃の密度が圧倒的に違った。


アトラク・ナクタはジパングの対空射撃と自ら生み出した子蜘蛛を誘導弾として飛ばしこちらの動きを制限しながら強力な攻撃を行ってくる。更に腹部から闇の糸を飛ばしてきてこちらを捕縛しようとしてくる。


積極的にこちらの動きを封じようとする戦法を仕掛けるアトラク・ナクタにほのか達は苦戦を強いられていた。


 追尾する子蜘蛛を振り切り魔力弾を当てて迎撃する。スフィアによる自動射撃で誘導弾を撃破した所でほのかが砲撃魔法を撃つ。それにアトラク・ナクタも一本の足から砲撃魔法を放つことで相殺した。


湖の水面を何度も踏み鳴らしたアトラク・ナクタの下に魔法陣が生まれ、中から黒い棘が幾つもランダムで飛び出す。


[エル、エル…レム!!]

「アクアスパイク、シューット!!」


 水の魔力矢を多数発射し攻撃を行うフィリスだが、相手はまるで意に介していない。ジパングを操作し砲塔を動かしてフィリスを狙う。

 身構えるフィリスの眼前で突然、放たれた砲弾が炸裂して中から大量の魔力の塊が弾幕となって拡散して襲いかかってきた。


「うそっ!? きゃあっ!」


 予期していなかった彼女は不意を突かれる。防御魔法で身を守る彼女へ大量の魔力弾が命中して爆発に包まれる。

 煙の中から飛び出したフィリスのマジックアーマーが一部爆ぜたものの本人はなんとか直撃を免れた様で無事だった。


「徹甲弾装填! 第一斉射、ファイヤー!!」

「対艦ミサイル及び主砲、斉射! 撃てーー!!」


 ウォーウルフとフェンサーに乗るマードックとエメローネからの支援砲撃がアトラク・ナクタに降り注ぐ。艦体の攻撃から全身に闇の魔力障壁を張り、身を守ったアトラク・ナクタが再び足を踏み鳴らし闇の棘を水面から出す。


 棘の直撃を避けようとしたウォーウルフが砲撃を中断して進路を変更する。空を見上げたアトラク・ナクタが足を上げる。すると、驚いた事に彼は空中を上り始めたのだ。


「マジかよ!!」

「いけない! ルカ、急速反転! 急いで!!」


 こちらに近づくガーディアンに慌てて指示を出す。グッと身を屈めた途端に一気に相手は跳躍してフェンサーよりも高高度に飛んだ。自らの重さを活かしてこちらを押し潰そうと狙っている。


「そうは問屋が下ろさないぞー! 幻想より一発! スパイラルナックル Ver.フック!!」


 直撃寸前のところでどこからともなく現れた鋼鉄の拳がアトラク・ナクタを殴った。バランスを崩し、背中から落下する真上にいたシリウスが腕に力を込める。


「天狐神空拳!! ラッシュラッシュラッシュ!!」


 落ちるアトラク・ナクタに拳の連打が降り注ぐ。相手の目の前の空間が歪んでそこから拳が次々に飛び出して殴りつけていく。


「グラキエス、ラストはよろしく!」

「任された。はあぁぁ! 波紋双撃掌はもんそうげきしょう!!」


 懐に飛び込んだグラキエスが掌底を同時に叩き込む。気と魔力の込められた強烈な一撃にアトラク・ナクタは水上に叩きつけられ、水中に消える。


「やったか?」


 水面を吹き飛ばし、アトラク・ナクタは姿を現した。全身から黒い魔力を放出させ、怒りの咆哮を上げる。そして八足から砲撃による攻撃が始まった。


「フォトンブレイザー!」


 攻撃を避けながら砲撃を撃つも張られる闇の障壁に阻まれる。口が開かれそこから闇の糸が扇状に飛ばされる。


「貫け、サンダースピア。ファイヤー!」


 回避したほのかの援護に回ったリースリットが魔力弾を飛ばす。後から飛ばされた子蜘蛛の弾幕を撃ち落とし、その隙に一気に距離を詰める。


「レイジングスマッシュ!!」


 そしてアトラク・ナクタの体を支える一足にフォルテを叩きつけ見事に斬り落とす。踏鞴たたらを踏んで後退するアトラク・ナクタ。それを援護する様にジパングから対空射撃が行われる。


「汝の王はいまここに。守護する結晶達よ、天を裂く十角形デカゴンより舞い降りよ!! 結晶城の聖騎士団《クリスタルリッター》!!」


そこにあかねの魔法が発動。結晶の騎士が生み出されリースリットの前に移動してその盾で彼女を弾幕から守った。


「まだや! 虚空より至りし七色のつるぎよ。我が真名しんめいの名の下に、七角形ヘプタゴンと共に降臨せよ。虹彩の宝石剣《イリス・デア・シュヴェーアト》!!」


 虚空に一文字の切れ目が入り、七角形が形成される。開かれた異空間から七色の巨大剣が七本投射され、アトラク・ナクタに直撃する。


 苦手とする光の一撃に明確な反応を見せた相手は咆えて闇の魔力を放出する。魔力による衝撃波から逃れようとその場から移動したあかねだったが、突然 彼女は身動きが取れなくなる。


「えっ、なんなん!?」

「あかね!?」


 異変に最初に気付いたプレセアが助けようとあかねの方へ飛ぶ。動けなくなったあかねに目をつけたアトラク・ナクタが足を動かし、彼女に向かって一発の砲撃を放つ。砲撃とあかねの間に割って入ったプレセアが防御魔法を張った。


「プレセア!」

「ぐっ……! 大丈夫だあかね!」


 被弾したプレセアが煙の中から姿を見せる。身体に魔力をまとわせ見えない何かをあかねは急いで引き千切る。彼女は後ろにいるあかねが無事なのを確認してからアトラク・ナクタをにらんだ。


「てめぇ……。あかねを狙ってんじゃねえよ! ミョルニル、オーバーリミッツだ!!」

[Over Limits LevelⅠ!!]

「ツェアシュラーゲンフォルム!!」


激怒したプレセアがミョルニルを鉄球形態に変える。振りまわすミョルニルに黄色の魔力が通る。


「くらいやがれっ!! エアーデファウスト!!」


 振り下ろされた鉄球が肥大化してアトラク・ナクタに落ちる。超荷重の一撃を真上から叩き落とされ、関節が曲がり水中に叩き潰される。


[エル、エル、レム! ラー、アルム、トール!! ウィール、トム、シューフ!]


 押し潰されたアトラク・ナクタが古代語を紡ぐ。魔力の膨張が起きてミョルニルが押し返された。更にアトラク・ナクタは古代語を続けて紡いでいく。


[ミュール、アム、グール]


 ジパングがアトラク・ナクタの方へと近づく。艦橋にいる欠片が強い光を放ち始め、ジパングの艦体に古代文字が広がっていく。

 ジパングがガーディアンへと自らをぶつけるように触れた。すると、アトラク・ナクタの体がジェル状に崩れ始め、ジパングが取り込まれていく。


[コール、コール、ジェノバ。ヨーク、トール、エール!!]

「ジパングを取り込んだ!?」

「待て。魔力が…上がっていく!?」


 崩れた身体が元の姿に戻りアトラク・ナクタとなる。その中央で黒く輝く欠片が闇の世界を呑み込んでいく。

 身体から筒状の物体が次々に飛び出す。ボコボコと泡立つ体表から黒い…この世の者とは思えない異形の生物が幾つも飛び出した。それは不揃いの羽を生やし、耳障りな奇声を上げた。


[ソーム、ロン、ガブル。コール、コール、クライシス!!]


 つむぎ終えると同時に大地と空が揺れた。ガーディアンの立つ場所の真下に黒い穴が生まれる。それを見たほのか達は息を呑んだ。


「うそ……」

「世界が…呑み込まれていく!?」


底の見えない穴の向こうに全てが吸いこまれていく。

呑み込むにつれて穴はゆっくりと拡大を始め、被害を広げていく。


「全てを呑み込む破滅魔法の一種か」

[目覚めは世界の終わりを意味する。だからアトラク・ナクタってか]

「止めないと! そんなの誰も望んでないもん!!」

『その通りだ御嬢ちゃん。ジパングも…あの艦長もそんな事は願ってねえだろうよ』


ほのか達に肩を並べウォーウルフに乗るマードックも頷いた。


『それに…ジパングを取り込むたぁいい度胸してやがる。俺達が奴の武装を破壊して注意を引き付ける。御嬢ちゃん達は手っ取り早く本体叩いてあの化け物を倒してくれ!』


 動き出したウォーウルフが艦砲射撃を再開する。ハリネズミの様に完全武装したアトラク・ナクタに砲弾が次々に命中し、武装が吹き飛んでいく。


 咆えるアトラク・ナクタが全身の武装を動かし一斉射撃を始める。実弾の他にビームや魔力砲とあらゆる攻撃がウォーウルフに襲いかかる。

 巧みな操縦で攻撃を避けるウォーロックだが攻撃の密度が違い過ぎた。被弾し火の手が上がる。


「気合い見せろお前ら!! 俺達はもう一回は死んでんだ! 恐れを捨てろ、前を見ろ! 俺達が生きてる限り……ウォーロックはその歩みを止めはしねえ!!」


 船員達が応える様に雄叫びを上げる。被弾を恐れず彼等は撃ち続ける。そんな彼等を沈めようとアトラク・ナクタが前足に備えている二門の大型の砲台を向けて圧縮した魔力を撃ち出そうとする。


しかしそれを頭上からの砲撃が砲台を撃ち抜いて破壊したことで阻んだ。上空を飛行するフェンサーからの艦砲射撃だ。


「彼等を守るわよ。全主砲斉射!」


 空からの攻撃を受けたアトラク・ナクタが咆える。それに傍らに侍っていた異形のモンスターが反応して不揃いな羽を羽ばたかせフェンサーの方へと飛んだ。身体から大きな目が一つ出てそこから光線を放ち、エメローネ達を攻撃する。


「させん!!」


 近づくモンスターをユグドラ達が防ぐ。目から光線を放ち、接近時は腕を生やしそれを刃物に変えて突進してくる。交戦する仲間達の間をほのかとリースリット、フィリスとあかねが通り抜けアトラク・ナクタに近づく。


 接近するほのか達に気付いたアトラク・ナクタが対空攻撃を始める。恐ろしい火力の対空攻撃の中を飛び抜け有効な射程まで移動する。


[ウォーム、カム、ルーツ。ラー、アルム、トール。コール、ラギア]


 古代語の後にアトラク・ナクタの身体から黒い衝撃波が発せられる。強力な圧力を持った衝撃波にほのか達は接近を阻まれる。


「っ、くうっ!」

「なんて魔力なの!? あれだけの魔法を使っておきながら、こんなにも強いなんて!?」

「押し返される!」


その場で耐えていたが、遂に吹き飛ばされてしまう。直後、彼女達は再び見えない何かに捕らえられてしまう。


「えっ!?」

「ま、またや! なんなんこれ!?」


 動けなくなった四人を認めたアトラク・ナクタが前足を上げ、こちらに引き寄せる様な動きをする。

 するとこっちの意志とは関係なくほのか達はアトラク・ナクタの方に引き寄せられてしまった。眼前にあるガーディアンの顔が大きく歪む。


――やられる!


「あかね達になにするだキ~~ック!!」


 大きく口を開けたアトラク・ナクタの顔が横にブレ、巨体が横に弾かれる様に飛んだ。横っ面に蹴りを叩き込んだ本人――シリウスは口から青い炎を煙の様に出して怒りをあらわにしていた。


「捕らえ封じよ、尾獣縛鎖びじゅうばくさ!!」


 倒れたアトラク・ナクタの周囲から獣の尾の形をした青い炎が現れその身体を拘束する。動きを完璧に封じている間に、バルドがほのか達の方に下りてきた。


「ったく、世話の焼ける……」


ほのかの肩に手を置く。手から闇の炎が出て、身動きを封じているそれ・・を燃やしていく。炎は隣のあかね達にも伝播でんぱして他の三人の拘束しているそれ・・も焼き尽くしてほのか達は自由の身になった。


「ありがとうバルドさん!」

「気をつけろよ。あいつは自分の周りにクモの巣を作って近づく奴らを捕まえようとしてるぞ」


 夜の世界に紛れこむ黒色のクモの糸がそこら中に張り巡らされている。

フィリスとリースリットが灯火魔法を打ち上げて辺りを光で照らす事で闇の糸を目視で確認出来る様に対策をとった。


 周囲を照らし終えたところでアトラク・ナクタはシリウスの尾獣縛鎖を破壊して再び立ち上がる。

 大きく息を吸って怒号と共に黒き衝撃波が放たれる。今度はクモの巣に引っ掛からない様に動きながら攻撃を避けて射撃魔法で応戦する。


紅連爪くれないれんそう!!」


 水上を走るサヤが片腕を高速で動かして紅の衝撃波を連続で飛ばす。足に来る衝撃にサヤの方を向いたアトラク・ナクタが咆え、艦砲射撃を行う。ジグザグに動く彼女の周囲に水柱が次々に立ち昇る。


「雷鳴よ。神々の刃となりて、敵を貫け! サンダーブレイド!!」


 アシュトンの魔術が発動して頭上から雷の剣がアトラク・ナクタの身体に突き刺さり内部から焼き尽くす。動きが鈍った所でバルドが一気に距離を詰め、頭上に飛ぶ。


「全力で叩き込む!!」

[ヒーハーーッ!! 闇魔力全開だぜ~!!]

破邪滅刹炎はじゃめっさつえん!!」


 相手の背中…ちょうど欠片が潜んでいる個所に全力で振り下ろされるケルベロス。全てを吹き飛ばす爆炎が巻き起こり、背中を焼き尽くす。本体を守る肉壁が消え去り、欠片が剥き出しになる。


 欠片を守ろうとアトラク・ナクタの防御行動が過剰なものになる。注意を引くためにフィリス達が射撃魔法を行い意識を自分達へ向けさせる。

 その間にほのかが低空で接近して、その後一気に急上昇から砲撃魔法を叩き込もうとした。


[……ッ!!!]

「気付かれた!?」


 だが、アトラク・ナクタがほのかに気付いた。

本能的に彼女を恐れているのかフィリス達には目もくれず彼は身体ごと向け口を開ける。口内に闇の光が収束、更に残っている火砲も全て展開して砲撃を行おうとする。


「させるかーーーっ!!」


 撃たれるか否かの瞬間―――両者の間に割って入ったのはマードックだった。ウォーウルフでほのかを守る様に壁となり主砲をアトラク・ナクタに向ける。


「主砲……斉射ーーー!!!」


 徹甲弾を搭載した主砲が一斉に火を噴く。砲撃魔法を撃とうとしたアトラク・ナクタの口に吸い込まれる様に消えていった砲弾が炸裂。爆発の衝撃でアトラク・ナクタの頭部が消し飛んだ。


 頭部を失い踏鞴を踏んだ相手だがしかし、残された砲塔が火を噴いてウォーウルフに直撃する。


「マードックさん!!」

「全弾直撃! 機関停止! 各所で火災発生!!」

「くっ……! 構うな行け!! 俺達の想いも載せて、奴に叩き込んでやってくれ!!」


 満身創痍まんしんそういのウォーウルフを飛び越え、相手の頭上に移動したほのか。損傷した身体が修復されていくのが目で確認出来る。失った頭もすぐに回復されるだろう。


その前に―――!!


「ウィル! オーバーリミッツ!!」

[Over Limits LevelⅠ!!]


 女神の紋章が立体的に現れる。それと同時にほのかの魔力が急上昇する。ウィルを構え矛先を欠片に合わせる。


「マードックさん達の大切な人を返して!!」


 集束する魔力。彼女の足下に桜色の魔法陣が展開され、同色の羽が空へと舞い上がる。頭部の再生をいち早く終えたアトラク・ナクタがほのかを見上げ、轟く声を上げる。


「マードックさん達の想い。私の魔法と一緒に飛んで! ホーリーーバスターーーッ!!」


 輝く砲撃がアトラク・ナクタに命中する。

バルドから受けたダメージを修復し切れていない個所に命中した砲撃は更に傷口を削っていく。闇の魔力の塊で出来た身体を持つアトラク・ナクタ――その中核となる秘石の欠片が魔力を持ってほのかの砲撃を必死に押し返そうとする。


「くぅ……いっけーーーー!!!」


 雄叫びと共に砲撃の出力が上昇する。闇が消し飛び、欠片に砲撃がダイレクトに命中した。

その瞬間、保有していた膨大な闇の魔力とほのかの光の魔力が波紋を生んだ。全てを白に染める大きな波紋は近場にいたマードック達も包み込む。




 視界が白一色に染まった世界に立つマードックはその時見た。

白い世界の先から忘れもしないあの人がやってきた。


「……あんたは」


 軍服を着ているが見間違いではない。軍港で出会ったあの女性……ジパングの艦長だったあの女性だった。微笑みを浮かべた彼女は丁寧なお辞儀をして彼に挨拶をする。


「参ったな……。死んだ後にまた御嬢さんと会えるなんてな。御嬢さんももしかしてジパングと一緒に目覚めたのかい?」


 しかし彼女はそれに頭を横に振った。マードックに近づいた彼女は両手をそっと彼の両頬に当てて額と額を重ね合わせる。その瞬間、彼の脳裏に数々の映像が流れ込んで行く。


 沈んでゆくウォーウルフの傍ら、泣きながらも艦隊を砲撃で焼き払う。活路を見い出し艦隊の間を強行突破して逃げ去る。


修復したジパングで再び出撃する。

何度も……何度も同じ海域に来ては海上を眺めるだけ。


 そして海上に浮かんでいる布切れ。それはマードック自身の着ている軍服の切れはしだった。回収して胸に抱えて泣きじゃくる。


 映像が切り替わる。見た事もない都市、自分達の住んでいる国よりも発展した世界が見えた。その軍港から出港する彼女は光に包まれ次の瞬間にあの海域に出てきた。


 そして乗員に退艦指示を出し、隣接するもう一隻の戦艦に乗り移る。最後に乗り移った彼女が見送る中、ジパングが海中に沈み始める。そこは自分達が沈んだ区域だった。

 持っていた花束を海に投げ入れ、乗員全員で敬礼する。右手に自分の軍服の切れ端を握ったまま……。


「そうか……。御嬢さんはあの後、軍を降りたんだな」


そのまま年を重ねて、静かな山村で眠りについた。眠りについた後も、彼女はこうしてあの世との境目で待っていたのだろう。


「別に謝らなくてもいいんだぜ?」


彼女が来た理由はそれだろう。だが、彼にとってそれは気にする事ではなかった。


「俺達はあの時、自分の意志で選んだ。御嬢さん達をなんとしても帰す。それが船員一丸の意志だ」


祖国を裏切っても、それでも彼女達を帰そうと思った。

神聖な戦いに水を注されたのも理由だが……。


「だから、もう安心して行ってもいいぞ。先に行って待っている英霊たちのところによ。俺達も、これが終わったら追いかけるからよ」


 言いたい事は沢山ある。けど、それを全て呑み込んで彼はそれだけを伝えた。白い世界が少しずつ消えていく。彼女との別れの時が近づいて来たと彼は察した。


 彼女も分かっているのかスッと彼の傍から離れる。

ふと、彼女が頭上を見上げたのでつられてマードックも見上げた。

視線の先に見えたのはアトラク・ナクタと交戦するほのかがいた。


「……あの御嬢ちゃんが、引き合わせてくれたって事か。これが魔法の力…彼女の力なのか?」


彼女は返事を返さない。ただ静かに彼を見つめ返すだけだった。


「そうだな。そんな事は些細なことだな。俺達がするべきことは唯一つだな」


帽子をかぶり直して彼は小さく呟く。

そして姿勢を正して彼女に向けて敬礼を行った。


「お別れだ。先に行って待っててくれや。麗しき黄金郷のお姫様」


 同様に敬礼を行う彼女が微笑みを浮かべ、その身が光となって弾けた。散った光の粉がマードックの下に飛ぶ。光が彼を包み白い世界は終わりを迎える。




 砲撃の直撃を受けたアトラク・ナクタの体が崩れ始める。欠片が保有する闇の魔力がほのかの光の魔力と相殺されたことで肉体を維持する魔力が減ったのだ。


しかしそれでもオーパーツを守るガーディアンだ。

崩れる身体を動かして真下の破滅魔法を守る様に雄叫びを上げて保持する火器で攻撃を始める。咆哮が空に届くとユグドラ達と交戦していた異形のモンスターは攻撃を止め、踵を返してアトラク・ナクタの下に集結する。


 溶けだした身体はそのまま湖に開いた大穴に落ちていく。

しずくが闇の世界に落ちていくにつれてアトラク・ナクタが発動した破滅魔法から莫大ばくだいな魔力が溢れて来るのを感じた。


「あのガーディアン。もしかして自分の肉体を構成する魔力をあの魔法に送ってる!?」

「まさか自分をささげて魔法を完成させようとしてるんじゃ……」


 崩れるアトラク・ナクタの顔が大きく歪む。まるでもう止められないと勝ち誇った様な笑みに見えた。


「ウォーウルフ、エンジン起動!!!」


 その時、空にまで届く声が聞こえた。続いて重低音と共に聞こえるエンジン音。燃え盛る炎をそのままに大破寸前のウォーウルフが動き出した。


「いくぞ、我が隷下れいかの兵士達よ!! あれだけは絶対に止める。全主砲斉射!! てっーーーっ!!」


 いつ沈んでもおかしくない状態のウォーウルフが持ちうる全ての兵装を動かして前方にいるアトラク・ナクタに攻撃を始めた。


 その瞬間、不思議な現象が起きる。

攻撃を受けるアトラク・ナクタの身体から光る粒子が出てきたのだ。


 それは空に舞い上がるとほのかの周りを何度か周回する。その粒子が彼女には微笑みを浮かべる女性に見えた。やがてそれは降下し、ウォーウルフへ……ブリッジにいるマードックの下に集まる。


 骨だけだった彼の身体がまるで時をさかのぼる様に肉体を取り戻していく。屈強な男性の姿に戻ったマードックの周りを回る粒子が女性の様な姿を成して彼を背後から抱いた。


 彼の変化だけに留まらず、ウォーウルフも時を逆行し始めた。火災が消え、ボロボロの艦体が当時の姿を得る。

 同時にアトラク・ナクタの肉体を突き破って水上にジパングが飛び出し、旋回してウォーウルフと肩を並べる。


「奴を打ち砕け! 御嬢ちゃん達の道を作れ!!」


 二隻の超弩級戦艦による一斉射撃がアトラク・ナクタを襲う。集結したモンスターが自らの体を大きくさせ盾にするも、大火力の一撃に木端微塵に吹き飛んで意味を成さない。


「徹甲弾装填、ファイヤー!!」


放たれた砲弾が相手の肉体を穿ち、内部で炸裂する。吹き飛ぶ肉体の内部から輝く秘石の欠片が顔を出した。


「ほのか!!」

「うん!」


マードックが作ったチャンスを逃す訳にはいかない。


「我が敵を射抜け、天に輝く五角形ペンタゴン。凍てつく氷彗星《キュール・コメット》!!」


 五角形の紋章を展開し、その中から複数の光線状の弾幕が飛ぶ。欠片の周囲に着弾した光線が再生を行うアトラク・ナクタの肉体の活動を停止させる。


「これで決める! ホーリーーバスターーッ!!」

「サンダーレイジ!!」


ほのかの砲撃魔法とリースリットの範囲攻撃魔法が同時に炸裂する。桜色と金色の光が黒い輝きを呑み込んで行く。

 光の奔流と共に欠片は真下にある破滅魔法に落ち、強大な魔力の衝突による余波に最後の破滅魔法はアトラク・ナクタ諸共、その構成を崩して消え去った。


 穏やかになった水面の上に仄かな光を放つ秘石の欠片だけが残された。それと同時にウォーウルフの姿が元のボロボロの姿へと戻り、傍らに並んでいたジパングが黄金の輝きに包まれ、次には姿を消した。


「終わった……?」

[秘石の魔力量減少を確認しました。どうやら暴走は治まった様です。フィリス、お疲れ様です]


 欠片の暴走を食い止めたほのか達はホッと息を吐いて肩から力を抜いた。都市に被害が及ぶ前になんとか倒せてよかった。

 暴走が止まったことをマードック達に伝えようと思い、通信を行うが水上に浮かぶウォーウルフから反応がないのに気付いた。


「さっきの影響でまた気絶でもしたんだろ。急激な変化だったからな」

「いったい何が起きたんだろうね」

「さぁな。なんらかの影響を受けたとしか言えない。それよりも欠片の封印を始めた方がいい。また暴れられたら面倒だしな」


 バルドの意見に賛成だ。少しでも回復されたらさっきと同じことが起きるかもしれない。それだけは何としても避けたい、体力的にも……。

早速、秘石の欠片の封印を始めようとほのか達は動き出す。


しかし……



――ちりん――



「っ……!!!」

「リースリットちゃん?」

「どないしたん?」


 急に立ち止まったリースリットに振りかえる。表情は青く、身体が震えていた。

どうしたのかと心配になったほのか達だが、直後に彼女らのいる空間にとてつもない重圧プレッシャーが加わった。


「え……」

「な、なんや…これ……」

「これって……まさか!」


 欠片の浮かぶすぐ隣の空間に禍々しい穴が開いた。渦巻く底の見えない穴より聞こえるのは、鈴の音……。小さかった鈴の音はやがて大きくなり、近づくにつれて穴の向こうから人影が見えた。


「また会ったわね、リースリット……」


 穴の向こうからやってきた人影……魔法共和国最強の魔法士といわれた虚無魔法士シルヴィア・ピステールが姿を現した。


激闘の末、ガーディアンを倒しホッと肩の力を抜く一同。

しかし、その彼女たちを再び脅威が襲う。


虚無魔法士シルヴィア・ピステールが彼女たちの前に立ちはだかる。

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