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第七十四話 闇の底に住まう者

七十四話更新。


秘石の力により覚醒する古代戦艦ジパング。

そして深き闇の底に住まう魔獣は水底に沈んだ古の船の中より目覚める。




ジパングの艦橋部に秘石の反応を捉えたエメローネはすぐに各員へ指示を出す。


「エンジン起動、高度を下げて! 対艦戦闘準備。目標、古代戦艦ジパング! 海上にいる戦艦ウォーウルフへ“我、大型魔力反応ヲ感知。貴艦ヲ上空ヨリ支援ス”と伝達を」


 高度を下ろしたフェンサーの下部に取り付けられた主砲が動く。エネルギーが集束して砲口より大型ビームが発射され、ジパングの張る障壁に激突する。


「目標に着弾! 効果は確認できません!!」

「堅いわね……。それだけ多量の闇の魔力素を保有したというの?」

「いかがされますか、エメローネ様?」


傍らに控えるシーガルの問いに彼女はしばし考え込む。


「第二射撃用意。主砲から第二兵装『アポロン』を起動します」


 フェンサーの主砲が艦隊内部に収容され、新たに別の砲塔が展開される。アンテナ状の物体を先端に取り付けた不思議な形をした砲塔だった。


「先生が遺蓬人いほうじんの記述の中から見つけた秘石のガーディアンの情報……。正しければ、これが一番効くはず。でも、発射までに時間が掛かる。対艦ミサイル解放、攻撃を続けて。それと、ほのかさん達に繋いで。照準を維持する為に足止めをお願いするわ」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



上空で待機していたほのか達はエメローネからの通信を受け取る。


「俺達も行くぞ」

「ほのか達はマードックに連絡よろしく!」


 仲間達を残し二人が先行してジパングへ肉薄する。初撃から反応を示さなかったジパングがここにきて対空機銃を動かして接近する二人を攻撃し始める。


「実弾に魔力の膜を張った二重構造か。だが……」

「当らなければ、どうということはないさ!!」


厚い弾幕の中を潜り抜けてバルドが一気に距離を詰める。


「魔王獄炎破!!」


 ケルベロスに闇の炎を宿して一気に振り下ろす。張られている障壁を叩き壊す勢いで振り下ろされた一撃だが、障壁の前に弾かれた。


「双龍天雷、そぉいっ!!」


 続けてシリウスが身を捻って回転を加えた回し蹴りを二回叩き込むも、ジパング全体を守る障壁はビクともしない。


「たいしたダメージにはならないか」

「ならこれならどうさ! 火遁、焼き尽くせ焔よ。ヴォルカニック・レイジ!!」


 上級魔術ヴォルカニック・レイジは指定された地点に魔力を集束させ、圧縮の反動で起きる爆発で相手を攻撃する魔術だ。炎の魔力が一点集中し一気に弾けて戦艦を丸々呑み込む爆発が起きる。


「およよ? 効いてないかな?」


 だが、黒煙の中からジパングが何事もなかったかのように姿を現す。障壁は亀裂すら入らず健在だった。

 それどころかジパング全体を黒いオーラが包み込んだと思ったら、船体側面の一部が展開して内部から重機関銃が姿を現して二人を攻撃し出した。


「死角を潰されたか」

「あちゃー、これじゃあ砲台の下に潜って近接攻撃が出来ないね~」

「二人とも無茶をし過ぎだ。もう少し距離を取れ」


 遅れてアイネを除く守護騎士達が合流する。仲間を代表してルチアが無謀な突撃を行った二人を窘めた。集結したバルド達へ対空攻撃が再び襲いかかってくる。


「とは言ってもこれだけ対空攻撃がキツイと近接攻撃の方が楽なのさ~」

「予想以上に守りか堅くて失敗したがな」

「だったら、アタシの出番だ!! ミョルニル、シュピラールフォームだ!!」

[Over Limits LevelⅠ!]


 スコップだったミョルニルが鎖付きの鉄球に姿を変える。弾幕を避けて飛びだしたプレセアがミョルニルを回転させ始める。


「エアーデ・ファウスト! でりゃあぁーーっ!!!」


 投擲とうてきされた鉄球の一撃がジパングを覆う障壁にぶつかる。しかし、強力な『バリア貫通』を持つプレセアの一撃は激しい火花を散らした後に弾かれてしまう。


「ちぃっ!!」

「うえぇぇ~!? プレセアちゃんの攻撃が通ってないよ~!?」


 ジパングへ流れる魔力が増していくのが肌を通して伝わってくる。頭上からフェンサーの対艦ミサイルの支援攻撃が飛来する。

 接近するミサイルを前に多大な量の魔力が形となって現れ、搭載されている機銃が変化してその数を増やした。銃口から撃ち出される弾幕の量はその数を増して濃い密度の弾幕がミサイルを迎撃し、更には彼女達に襲いかかる。


「武装が変わりやがった!? どうなってんだよあの戦艦!?」

「戦闘状況に合わせて進化する!? これも欠片の影響なのか!」

「くっ…このぉっ!! ジェットインパルス!!」


 水で生み出された獣の姿をした魔力弾が放たれる。空中を素早い動きで動いて弾幕を掻い潜ってジパングに飛んで行く。艦橋へ向かって突っ込み弾けるが、障壁に再び阻まれてしまう。


「……ん?」


魔力弾の爆発による閃光の向こうでルチアがなにかに気付いた。


「どうしたルチア」

「あの戦艦の艦橋部分になにかいる。見えないなにかが……」


一瞬だけ光の向こうに見えた塊。だが光が消えたいま、艦橋部分にはなにもいないようにしか見えない。


[ぼぅっとしてんのはいいけどよ。あの船、砲台動かしてんぞ!!]

「狙いはウォーウルフか!」

「主達が危ない! 急いで知らせねば!!」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 ウォーウルフの下に辿り着いたほのか達は艦橋の大穴の開いた部分から飛び込んだ。ブリッジでは先の砲撃の影響かマードック達が倒れていた。


「マードックさん! しっかりして!」

「う…ん……。御嬢ちゃん達か……」


目を覚ました様で起き上がったマードックは転がっていた帽子を手に取って被り直す。


「いつまで寝てんだ。起きろお前ら!!」

「いてて……。さっきの光はなんだったんだ?」

「うぉ~い。誰か俺の体を組み立てるの手伝ってくれ~!」

「おいおい、骨はしっかりとくっ付けておけって前にも言っただろうが」


 倒れた他の船員達に声を飛ばす。衝撃で骨がバラけていたり、艦橋から転げ落ちて下に転がってたりする船員を仲間達が組み立てるのを手伝う光景にマードックは肩を竦る。


「被害状況を報せろ。甲板、状況は!」

『さっきの閃光で左側面に被弾! 装甲の一部を持ってかれました!』

「ちっ、あの光はなんなんだ。こっちの装甲を焼き削りやがった……って、なんだよあれ」


 ジパングの方を見たマードックは愕然とする。前方を漂うジパングが彼の記憶にある姿から大きく変化していた。描かれた古代インペリア文字は艦体全体に広がっており、搭載されている兵装も違うものになっている。


「どういうことだよあれは……」


 絞り出される様にして出された声には大きな憤りが含まれていた。手を拳に変えて震わせている彼にほのかがそっと近づく。


「マードックさん」

「御嬢ちゃん……俺達が気絶してる間に、なにがあったか教えてくれるか?」


 初めて会った時の陽気な様は消え去ってその身から滲みでる気配は怒りを現していた。出来る限り分かり易くいま起きている状況を説明すると、彼は被っていた帽子を少しだけ深く被って顔を隠す。


「そうか……。ジパングをあんな汚い姿にしたのは御嬢ちゃん達が封印しようとしている目的の物か」

「う、うん…」

「それが、ジパングの艦橋にいて彼女を操ってるんだな?」


それにもう一度頷くと、彼はもう一度小さな声で“そうか…”と答えた。


「ざっけんなよ……。ふっざけんなああぁぁぁぁぁっ!!!」


 そして次の瞬間、怒りを爆発させて彼が咆えた。表情も分からない骨だけの彼だがそこには怒りの様子が容易に判別できる。


「そこに座っていいのは、テメーじゃねえ!! そこは彼女の、彼女だけが座っていい場所だ!!!」


 目の奥底に光りを映しブリッジの中で輝きを見せる欠片を睨みつける。留まる事を知らない怒りに身を任せてマードックが部下に指示を出す。


「いますぐそこから叩きだしてやる!! 機関最大、全速前進!!!」


ウォーウルフのエンジンが掛かりジパングへと真っ直ぐに突き進む。


「マードック落ち着いて!! 突っ込むのは危険だよ!」

「うるせえ! あの席は彼女だけのものだ! 誰も座っていい権利なんかねえんだよ!!」

「こいつ、頭に血が上ってやがる。話を聞く気ねェぞ。どうすんだ!?」

[フィリス、ジパングの主砲が動いてます!!]


真っ直ぐに進むウォーウルフへジパングが主砲を向ける。砲口から黒い魔力の塊が溢れ、零れ出ている。


《主あかね! 主砲がそちらに向いてます! 早く逃げて下さい!!》

「うそやろ!?」

「マードックさん避けて!」

「突っ込めーー!!」


 ジパングの主砲から砲撃が放たれる。水面を蒸発させながら真っ直ぐに突っ込むウォーウルフへと迫る。


「うおぉーっ! 間に合え!! 五行方陣 水天!!」


 砲撃の前に回り込んだシリウスが印を組んで小さく呪文を唱える。水面が動いて持ち上がり、姿を変えると仏の姿になって砲撃を受け止める。歯を食いしばって形を維持しようとするシリウスだが、受けきれずに弾け飛んだ。


「私に任せろ。はああぁぁぁぁっ!!」


 艦橋から飛び出したのはグラキエスだった。彼女は水面に降り立つと手を水面に付けた。そして魔力を開放させると彼女の前方に氷の壁が幾重にも展開される。

 分厚い氷の壁を砲撃が次々に貫いて行く。しかし、直進する筈の砲撃の進行方向が徐々にだが上に向き始める。


 グラキエスが絶妙な調整で氷の壁に角度を付けている様で、ウォーウルフに届く前にギリギリの位置を飛び越えて雲の彼方に消えていった。

 被弾を避けたのを確認してから彼女は生み出した氷壁を解除して戻ってくる。ブリッジに降り立った途端に彼女は膝をついた。


「グラキエスさん、大丈夫!?」

「だ、大丈夫だ。呼吸を、整えれば問題はない…」


一度に大量の魔力を消費したことによる疲労を隠せない。


(あれほどの魔力を消費しながら繊細な調整を行って疲れぬ訳がなかろう。無茶をしておってからに)


 呼吸を整えているグラキエスを傍で見ていたアウルが口元を隠す様に当てていた扇子を閉じてからマードックの方へと歩み寄る。


「ふんっ!」

「ぶっ!?」


 そして一息と共に手に持つ扇子を彼の頬に叩き込んだ。帽子が宙を舞い、バルドに引っ叩かれた時の様に首から上が物凄い勢いで回転する。


「な、なにを――!?」

「いい加減にせぬかわっぱめが!!」

「わ、わっぱ!?」


 首の回転を止めたマードックへ次に待っていたのは叱責だった。すごい剣幕のアウルの様子にマードックはたじろぐ。


「僅かな時の間奪われたくらいでわめくでないわ! 男児のクセに情けないことこの上ない!! ぬしはなんじゃ? この戦艦の艦長じゃろ! 一時の感情で船員の命を危険にさらすではないわ!!」


 叱責を受けたマードックの纏っていた気配が変わっていくのが分かる。アウルの言葉に冷静さを取り戻したのか、彼は帽子を少し目深に被り顔を隠す。


「……確かに情けないな。すまなかった、御嬢さん」

「ふんっ。分かったのなら次はどうするのか分かるじゃろ」

「そうだな」


 艦橋に見える黒い光を放つ欠片を見据える。それをじっくりと観察してから彼は深く息を吸い、静かに吐いた。


「艦内にいる全船員に告ぐ。これより、本艦はジパングに対して近接砲撃戦に移る」


先の感情だけの指示とは違い、今度は冷静さを失っていない。


「だが、いまの彼女は彼女にあらず。彼女はブリッジに居座る不届き者に囚われている。我々の彼女を取り戻すぞ。総員戦闘配備!!」

『ヒャッハー!! 待ちに待った近接砲撃戦だ!!』

『エンジン始動! 最大船速で特攻するぜーー!!』

『主砲そのまま! 有効射程に入るまで撃つんじゃねえぞー!』


各所の通信から聞こえるのはハイテンションの船員達の声だった。


「真正面から突っ込むの!? またさっきの砲撃が来るよ!」

「……危ない」

「はっはっは、心配なさんな御嬢ちゃん。二度も三度も同じ攻撃を受ける様な訓練は積んでないさ。うちの船員の技術を甘く見てもらっちゃ困る」


 直進するウォーウルフへジパングが再度砲撃体勢に入る。圧縮された光が解き放たれ水面を蒸発させながら迫ってくる。接近する砲撃を前にウォーウルフが回避行動を行う。艦体の直ぐ脇を砲撃が通り過ぎて回避を成功させる。


「速度そのまま! 一気にジパングの側面に食らいつけ!」

「どうするの?」

「さっきは距離があり過ぎた事と砲弾の形質で威力が最大限に活かせなかった。あの光の壁をぶち抜くにはこっちの虎の子の一発を至近距離で撃ち込む以外にない。九八式徹甲弾全砲塔に装填!」


 砲弾の種類の変更を部下に指示する。通信士がすぐに砲撃士に通達を行い、受け取った砲雷長が装填を急がせる。


「私達もバルドさんのところに行こう!」

「サヤとアシュトンはここで待ってて」


 水上では飛行能力を持たない二人では危険過ぎる。

しかし、それにサヤはなにを言ってるんだ? といった様子で首を傾げる。


「あァ? 別に水の上でも平気だぞ」

「え……」

「あたしがコイツを担いで走ればいい。それで問題なしだ」

「えぇ!? 霧島さん、それ本気で言ってるの!?」

「あたしが嘘をつくタマに見えるかよ?」


ほら、と言ってアシュトンの前にしゃがんで背中に乗る様に促す。


「立場が逆な気がする……」

「どうでもいいだろ。人には得意不得意があんだからよ。おめェら、先に行ってるからな。行くぞアシュトン!」

「あっ、ちょっと待って! まだ心の準備が――うわぁ!?」


 ブリッジからその身を投げたサヤがアシュトンと共に甲板へ落下する。

空中で体勢を変えて足から着地すると、そのまま駆け抜けて艦首から水面に飛び下りる。

 直後、艦首の前で大きな水飛沫が上がる。そしてアシュトンを乗せたサヤは水上を駆けてバルド達へ合流しに向かって行った。


「………あれも、魔法って奴なのか?」

「えっと…サヤは別格、かな」

「まさか…生身であんな事してんのか?」


 見る者なら誰もが初めは己の目を疑うだろう。どこの時代に水の上を魔力なしで走る輩がいるというのか。世界広しと言えども、サヤの様な人物はそうそういないだろう。いや、いないでほしい。


「行くよ、アウル……」

「承知した、我がぬしよ」


 呆然とサヤを見送っていた一同を尻目にリースリットとアウルも同じくジパングと交戦する仲間達の下に飛んで行く。


「あっ、待ってよリースリットちゃん!」

「ほな、マードックさん。うちらも行くから」


 艦橋から飛び出しジパングへと向かう。接近するほのか達を捉えたジパングから多数の対空火器による弾幕が飛んでくる。空中で炸裂する弾幕を掻い潜り彼女達は自らの得意とする位置へと散開する。


「アクアインパクト、シューット!!」

「シャインバレット、シューット!!」


 光と水の魔力弾が同時に放たれる。多数の魔力弾は魔力障壁に届く前に分厚い対空射撃によって迎撃されほとんどが消え去る。続いてリースリットとアウルの雷と風の弾幕が反対側から放たれるも、同様に迎撃されてしまう。


「たゆたう聡明なる母なる力よ。立ち塞がる災いを飲み干し、討ち滅ぼせ。メイルシュトローム!!」


 サヤの背に乗りながらアシュトンが魔術を発動させる。ジパングを中心に青い魔術陣が展開され陣内の水面が荒れ狂い大きな渦潮が発生する。

 水の流れに進行を阻まれ身動きの取れなくなったそれだが、船体から黒き魔力が溢れ出ると、渦潮の中を無理矢理進み始めたのだ。


 ギギギッと金属の嫌な音が聞こえてくる。アシュトンの魔術を力技で抜けたジパングが攻撃してきた二人へ向けて主砲の第一砲塔を向ける。


「チッ…。アシュトン!!」

「えっ! ちょっ、うっ、うわぁ!?」


アシュトンを掴むと彼女は彼を全力で空中に向けて放り投げた。同時にジパングが砲撃を開始。轟音と共に実弾が三発、発射される。


「奥義、紅刃爪!!」


 接近する曵光弾に向けて腕を振るう。爪から真紅の斬光が空中を奔る。三発の内、二発がこれに命中し空中で炸裂する。そして、黒煙を突き破って最後の一発がサヤへ向かう。


 ここで彼女は更に驚くべき事をやってのける。接近する砲弾を彼女は右手で受け、砲弾の先に爪を突き刺して受け止めたのだ。

 慣性の法則で後方に大きく後退する彼女だが、両足に力を込めると勢いを力ずくで抑え込んだ。そして水面から跳躍し、空中で身を捻り回転する。


「返すぜ、おらァッ!!」


 回転の力を加えてジパングに砲弾を投擲とうてきする。発射時とほぼ同等かそれ以上の速度で投げ返された砲弾が魔力障壁に命中し炸裂する。


「地の底より這い出る大火。汝、紅蓮の魔人の吐息なり。愚かなる贄を焼き尽くせ!! イフリートブレス!!」


空中に投げだされたアシュトンが落下しながら火属性の魔術を発動する。

頭上から強力な火炎の奔流がジパングに襲いかかる。


水面に落ちる直前でサヤが下に回り込みアシュトンをキャッチして再び水上を駆ける。


「今のでもダメか!」

「あの魔力障壁…想像以上に堅いみたいだ!」


 あれだけ多数の攻撃を受けているにも拘らずジパングを覆う障壁は傷一つ入っていない。攻撃の間にもジパングは搭載火器を変化させていき、より強力なものに変えていく。


『御嬢ちゃん達、下がってな!!』


 声が聞こえて振り返る。気がつけば、マードックを乗せたウォーウルフが間近にまで接近していた。

 接近するウォーウルフを撃沈せんとジパングの砲撃が行われる。ビーム状の砲撃を前に彼等は巧みな操舵で攻撃を紙一重でかわしていく。


「この高速戦艦ウォーウルフの足の速さを舐めてもらっちゃ困る!! 目標まであと僅か。三連速射用意!!」

「全砲門、三連速射準備、用~意!!」


 砲撃が船体側面を掠める。装甲が弾け飛ぶ。それでも彼等は怯むことなくジパングへと突撃する。そしてジパングと重なった。


「全砲門、ファイヤーーーッ!!」


 搭載されている砲門が一斉に火を噴いた。空気と水面が振動するほどの第一撃が障壁に命中し炸裂する。


「次弾装填!」


 間髪入れずに次弾が装填され、再び砲撃が行われる。第二撃が障壁を爆発で包み込む。


「次弾装填!!」

「そいっ!」

「ほいっ!」

「くらええぇーーっ!!」


 そして第三撃が放たれる。放たれた砲弾は空気を貫き、黒煙の向こうにある障壁……連撃で亀裂の入った闇の障壁へ着弾する。

 ウォーウルフがジパングとすれ違うまでの時間、僅か十秒。その十秒の間に彼等は三回もの砲撃を成功させた。


 受けたダメージを修復する時間すら与えず、瞬間超火力の戦艦の砲撃を三発も受けた障壁は遂に耐えきれずに粉々に砕け散った。


「守りが崩れた!」

「ほのか! 艦橋の欠片を!!」


 弱点が剥き出しの欠片を狙って砲撃姿勢を取る。そこに圧倒的数の対空攻撃が行われる。


「っ!」


 攻撃を中断して回避する。少しでも歩みを止めてしまえば直撃はさせられない。そこで彼女は大胆な行動に出る。


「ウィル!」

[ブレイブモード、オンライン]


 ウィルの形態を変えてブレイブモードに変える。そして魔力槍を展開し、ブーストを全力で解放し猛スピードで飛行する。


「ホーリー、ラーーンス!!」


砲撃が出来ない。


 なら……攻撃の出来ない艦橋に自ら突撃して欠片をジパングから引き剥がすまで!!

 高速で突撃するほのかに対空攻撃は追い付けていない。桜色の閃光に包まれたほのかが艦橋へと飛び込んで、艦長席で怪しい光を放つ黒の欠片に体当たりする。


欠片はその場に留まろうと堪えている様でほのかの攻撃を受け止めている。


「ウィル!!」

[ブースト! ブースト!!]


 それにほのかは魔力を開放し更に出力を上げる。排熱部から吐き出される桜色の魔力光の量が増加し、艦橋部から噴き出る。


 遂に堪え切れなくなった欠片がその場から押し出され、ジパングから引き剥がされた。ジパングから遠ざけようとほのかは勢いを止めずに欠片を押していく。


「欠片が離れた!!」

「あとはこのまま封印すれば…!!」

[警告! ジパングより膨大な魔力反応!!]


 メローからの報告は目に形となって映る。ジパングの真上の空間に不透明な何かが見えた。そしてそれから二本の黒い糸状の物体が飛ばされる。


 その直後、欠片から魔力の衝撃波が発生してほのかは弾き飛ばされる。闇の光に包まれる欠片を飛んで来た糸が絡み付いてジパングの艦橋に再び引き戻される。


「な、なにこれ!?」

[マスター! 後方より接近する魔力体を確認!!]

「えっ!?」


 振りかえるともう一本の糸が追いかけてきた。慌てて回避するも、それは執拗に彼女を追いかけ、足にくっついた。


「な、なん――きゃあっ!?」


 強い力で引っ張られ滅茶苦茶に振りまわされる。そして同様の糸が更に複数も飛んで来てほのかを空中にはりつけにする。


「ほのか!?」

「まずい! 早く助けないと!!」


 ほのかは自分を捕らえている糸を見る。力を込めても伸縮するそれは取れそうにない。まるで獲物に絡み付いて逃がさないクモの糸の様だ。早く脱出しようともがく彼女の耳に水の弾ける音が聞こえる。


 正面を向くと、前方の水面に幾つもの大きな波紋が生まれている。それは一定の距離を作りながらこちらに近づいてくる。


(な、なにかいる……!!)


 目に見えないが、いま自分の目の前に大きななにかがいる!

恐怖を感じた彼女の眼前で重いなにかが開く様な音が聞こえた。低く唸る声が聞こえてくる。


やられると思って本能的に目をつむった。

その時、頭上から強い光を感じて再び目を開けて頭上を見上げる。




「アポロン、エネルギーチャージ完了!」

「照準をジパングとほのかさんの間の区域にセットして! アポロン、発射!!」


 アンテナ状の主砲から眩い閃光が放たれる。ビームともレーザーとも違う、純粋な光の塊で出来た砲撃は闇の広がる世界を照らしながらほのかの正面に着弾する。光は見えない何かにぶつかり、水面に落ちずにある高さで止まる。


(先生が教えてくれた情報が正しいなら……!!)

「艦長! 局所的に大型の魔力反応を捉えました!!」


 闇に溶けて見えなかった存在が徐々に暴かれる。見えないそれが不透明なものに変わっていく。

 不透明だった身体は本来の黒い体色に変わり、赤い複眼が暗い世界に怪しく光る。姿を隠していたそれ……戦艦を超える巨体を有した大型のクモが正体を現した。


「闇に隠れて私達の攻撃から身を守っていた。けど、『アポロン』の強い光が闇から引きずり出す。やっと出てきた。黒の欠片を守るガーディアン。闇に住まう存在、暗雲の虚構 アトラク・ナクタ!!」


自らを暴かれたガーディアン『アトラク・ナクタ』が咆える。ほのかから視線を外し、自らを攻撃した不届き者を睨む。赤い複眼にエメローネ達の乗るフェンサーを捉えると、前足を上げて先をそちらに向ける。


先端に闇の魔法陣が展開され、直後に闇の砲撃が発射された。


「っ!? 回避!!」

「くっ!!」


操縦桿を全力で倒してフェンサーを傾ける。間一髪のところで砲撃は脇を通り抜け回避に成功する。


「どひゃー!? 予備動作なしの砲撃魔法~!?」

「んなアホな!?」

「被害状況は!?」


揺れる艦内が砲撃の威力を物語る。回避には成功したが余波でどんな影響を受けたか……。


「バリアの表面を掠めるただけです。左側面の出力70%に低下!」

「ルカ、回避行動を主体に切り替えて。直撃は何発も受けられないわ!」

「了解しました」

「ルイスはこの事を皆さんに伝えて! エドは艦砲射撃を続けて。あの大きさだと相当な耐久力を持っているはず。私達で出来るだけ削るわよ!」

「了解!! 火器管制オンライン。下部第一砲、主砲に換装。対艦ミサイル解放、システムを対大型生命体迎撃態勢に移行!!」



大きく軌道を変えたフェンサーを見ていたアトラク・ナクタが再びほのかの方へ顔を向ける。彼女を助け出そうと仲間達が行動を開始するが、それはジパングからの対空射撃で阻まれる。


「俺達を近づけさせない気か!!」

「ほのか!!」

『俺達に任せろ!!』


反転して戻ってきたウォーウルフが接近してくる。その主砲は全てアトラク・ナクタの方を向いていた。


「我が隷下の者達に告ぐ! あのデカブツがジパングを操ってる正体だ!! 船乗りとして、兵士として、一人の男としてあの存在からジパングを開放するぞ!! 全砲門ファイヤーーーーッ!!」


 合図と共に主砲から徹甲弾が放たれる。放物線を描いて飛んでいった砲弾はそのことごとくを命中し炸裂。爆発と炎がアトラク・ナクタを包んだ。

 戦艦の装甲すら貫き、吹き飛ばす砲弾の直撃にアトラク・ナクタは悲鳴を上げて仰け反り、ほのかから後退する。


「徹甲弾から煙幕弾に変更! 第一砲塔一番に装填、距離1200。目標、ジパング前方!」

「照準OK!! 一発必中だ!!」

「ファイヤー!!」


 一発の砲弾が放たれジパングの眼前の空中で炸裂。アトラク・ナクタ共々煙に包まれる。目標を見失ったジパングからの対空射撃が止んだことで仲間達はほのかの下に駆け付け、絡みつく糸を切り落とした。


「ほのか、大丈夫!?」

「うん。ありがとうフィリスちゃん」

[エル、エル。レムーーーッ!!]


 咆えるアトラク・ナクタが全身から魔力の衝撃波を出して煙幕を吹き飛ばす。してジパングの上に覆いかぶさる様に跨いで一つ咆哮を上げる。


「こっからが本番だ。気を抜くなよ」


 ジパングの形状変化が加速していく。主砲の砲身が伸び、機銃の数が増え、甲板に新たな武装が追加される。更に武装が増量・強化され、まるでハリネズミの様なものへと変わる。


[ジパングへの魔力供給を行っているのはアトラク・ナクタの様です。あれを引き剥がせば、ジパングへの影響を極力減らす事が可能だと思います]

「分かったの。みんな、行こう!!」


空を駆け、ジパングとそれを操る欠片を守護するアトラク・ナクタを倒すべくほのか達は再び戦闘を開始した。



時が過ぎるにつれて狂暴化するジパングとそれを操る闇の欠片より目覚めたアトラク・ナクタ。

強大な力を持つ一体と一隻にほのか達は挑んでいった。


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