第七十三話 孤狼艦と呼ばれた船と黄金郷の船
七十三話更新
ある時ある時代のある場所で一隻の戦艦がいた。
その船と艦長の歩んだ軌跡。孤狼艦と呼ばれた高速戦艦と黄金郷の船と呼ばれた戦艦の出会いの話。
遠い遠い昔の話……ある所に大きな国があった。
俺達の主力となったのは海の王、鋼鉄の獣……強固な鋼鉄の鎧で身を守り他を圧倒する大型の巨砲で立ち塞がる敵を薙ぎ払う『戦艦』だった。海に囲まれた俺達の領土を守り、時には敵国の領土への活路を作り出す戦艦は国の、兵士の、国民にとって象徴たる存在だった。
その戦艦を中心として編成されたのが当時世界最強と恐れられた艦隊『第一鋼鉄艦隊』だ。
戦艦六隻、重巡洋艦四隻、軽巡洋艦七隻、駆逐艦四隻の大規模艦隊で編成されたこの艦隊は国土の防衛並びに敵国への侵攻で華々しい活躍を残していった。そしてその艦隊の中に、俺達と戦艦『ウォーウルフ』もいた。
俺達はいざ海戦が始まるといの一番に突貫し敵陣を食い破る牙だった。そんな陣形もへったくれもない戦いをする俺達を同僚の連中は“孤狼艦”なんて呼んでいたな。それと同時に上官の命令を無視して動く連中として疎まれてもいたがな。
どんな相手だろうとその火力で敵を圧倒し、その防御力で敵の攻撃を跳ね返す。相手が誰だろうと、自分達に敵う者など存在しない。連中も…俺達も……その時は確信していた。
だが、それはある日突然……崩れ去った。
東の国へと侵攻を始めた俺達の国は第一鋼鉄艦隊を主力として多くの艦隊を連れて進軍を始めた。そして道中で敵の艦隊と接触……砲雷撃戦となった。相手も相当数の艦隊だったが、それでも第一鋼鉄艦隊の前では紙切れ同然だった。
瞬く間に彼等を殲滅し海の藻屑にした。
全員が勝利に酔いしれていたその時だった――
俺達の眼前に突然として黄金に光る空間が現れたんだ。そして光の中から姿を見せたのは俺達の国が保有するどの戦艦よりも大きくそして大きな主砲を載せた戦艦だった。
連中は突然なにもない空間から現れた戦艦に驚いていたが、俺はその美しいフォルムをした戦艦に見惚れていた。
“自分の乗っている戦艦は己の女だと思え”海兵として戦うと決めたその時から部下にも言い聞かせて来た大事な訓示を、俺はその時、自分で破ってしまった。
友軍が目の前に現れた所属不明艦に呼びかけていることなんて気付かないまま、俺はその戦艦に心奪われていた。
「所属不明艦に再度告ぐ! 武装を解除し、直ちに投降せよ。さもなくば敵対勢力とみなし、全力をもって排除する!」
それが聞こえた時、返答として返ってきたのは砲撃だった。空気が震える感触が全身に響いたと同時に前方を航行していた友軍艦が爆発して、行動不能になったのを見て初めて我に返った。
そこから先は一瞬の出来事だった。反撃に転じようと動き出した友軍艦が一隻、また一隻と攻撃する間もなく直撃弾を浴びて炎に包まれて沈み始めた。
相手は俺達の前を横切る形で航行しながら砲弾の雨を降らして次々に轟沈あるいは大破させ、再び黄金の輝きの中に消えるまで攻撃は止まなかった。
被害は甚大なものだった。第一鋼鉄艦隊だけでも戦艦三隻、重巡洋艦二隻、軽巡洋艦六隻、駆逐艦三隻が轟沈。
他の戦艦も大破、または航行不能…俺達を含めて無事だった船は少なかった。侵攻部隊の70パーセントが一時間もしない戦闘の内で海の底に沈んで、作戦の続行は不可能。たった一隻の戦艦を前に俺達は母国に撤退せざるを得なかった。
帰還した俺達を見た時の上層部の慌てぶりは相当のものだった。生き残った兵士の連中も一瞬で同胞を海に沈めた船に恐怖していた。そしてその船についたあだ名が“黄金郷の鋼鉄艦”だった。
ジパングの噂はあっという間に海兵の中で広まった。まあ、無理もないか。当時最強だった第一鋼鉄艦隊の殆どが帰還できなかったし生き残った連中全員がジパングの事を話せば信じない訳ない。
だが、怯える連中を尻目に逆に俺は心躍らせていた。いままでがぬる過ぎたんだ。あんな強い奴と俺達はずっと戦うことを望んで毎日退屈してたからな。
寝ても覚めてもあの戦艦の事が頭の中に思い浮かんでいた。その度に胸が熱くなってすぐにでもウォーウルフに乗ってジパングに会いたかった。部下の連中も同じ気持ちだった。
機会は意外と早く向こうからやってきた。その日、戦力の低下をどこからか嗅ぎ付けた敵国の艦隊を殲滅するべく交戦していた。
残存戦力を集めて編成された急ごしらえの艦隊だったが、それでもなんとか持ち堪えていた。その時だあの黄金の輝きと共に再び奴は現れた。
こっちをもう一度攻撃してくると思った。だが、遠方に姿を見せた奴はなにをするでもなく海の上に浮かんで見物してやがった。
「おいっ、ウォーウルフどこに行く!? 戦線に戻れ!!」
「会いたかったぞ、ジパングーーー!!!」
気付けば、俺達は艦隊の列から抜け出してジパングへと突撃していた。開戦の合図を正面から正々堂々とライトで発光信号を飛ばしながら……。向こうはそれに応える様に同じ開戦の合図を返して来た。
撃ち合いは防衛を成功させた友軍艦隊が接近してきたことで終わった。砲撃を止めて無傷のまま姿を消した。対して俺達のウォーウルフは主砲を撃ち抜かれて中破した。
戻った俺達に待っていたのは命令違反に対する叱責とジパングを単体で互角に渡り合う戦績に対する評価だった。
命令無視は重大な罪で大変遺憾だが、無敵艦隊と言われていた第一鋼鉄艦隊を壊滅状態にしたジパングを単騎で抑え込み、友軍艦隊への被害を未然に防いだのは大きな評価に値する、だとさ。
笑っちまう話さ。ただ単に自分の私欲の為に戦ったつもりが、周りからは味方を守る為に命を張って真っ向勝負を挑んだと思われてんだからよ。
あまり気持ちのいいもんじゃなかったが、お陰でジパングを発見した際の交戦権を与えられたからありがたく頂戴することにしたよ。
それから俺達は戦力が回復して遠方への侵攻を始める度に姿を見せたジパングを単騎で足止めをした。連絡を受け取って増援が本国から来るまで、俺達はジパングと熱い一時を過ごした。
向こうはどう思ったか知らないが、俺達にとってジパングとドンパチしている方が他国の侵略をしてる時より何倍も…いや、何十倍も楽しかった。
戦う度に戦闘による損傷はドンドンと大きなものになっていた。最近では向こうを小破させられるまでに辿り着いたが、代わりにこっちは中破がほとんどになって整備の奴らや司令部の連中に怒られる日々が続いた。
けど俺は反省する気もなかった。だから司令部の人間どもにはあまりいい感情は持たれなかったんだろうな。
ある日、俺は司令部からの帰り道に港に立ち寄った。好きな葉巻を吸って一人ぼんやりと海を眺めていたんだ。
「ん?」
なんとなく飛んでいるカモメを追い掛けていた時だった。急にそいつらは降下して地上にいる仲間が集まって…というより群がっている中に飛び込んで行った。
捨てられた魚でも食ってんのかと思って見てたら、わっちゃわっちゃしているカモメの軍勢の中から手が出て来た。
「…って、あれ人か!? うおぉぉっ、カモメ共群がってんじゃねえーーっ!!」
人だって分かった時はビックリした。なんせ生きた人間に襲いかかるカモメなんぞいままで生きて来てみた事なかったからな。引き剥がしていくうちにその人の手の紙袋に群がってると
分かった時は慌てて紙袋を引っ掴んで海に投げた。海面に落ちた袋から餌と思しきものが散らばってそれにカモメが群がった。餌づけをしようとして襲われたなんてシャレにならんぞ……。
「う~~ん……」
「お、おい。大丈夫か?」
うつ伏せに倒れている見慣れぬ服(東の国の羽織りというのに似ている)をした女性らしき人に声をかけたらやっと顔を上げてくれた。
「あ、あははは……。元気なカモメさん達だった。餌袋持っていただけで空が黒に染まる勢いで来るんだもん。ビックリしちゃった」
苦笑いしながら起き上がった彼女を見て俺は息を呑んだ。
彼女は俺が今まで見たどんな女性も及ばないほど美しかったからだ。艶のある黒い髪をストレートに伸ばし、女性となる間近だろう年頃の少女だった。
「あの…私の顔になにか?」
「あっ、いやすまない。美しさに思わず見惚れてしまっていた」
素直に口に出してしまった。それを聞いた彼女は冗談と受け取ったんだろうクスクスと口を押さえて笑った。気恥ずかしくてしょうがなかった。そこに来て俺は咥えていた葉巻を思い出して、先端を切って携帯していた灰皿に捨てた。
「タバコはお止めになるのですか?」
「美女、美少女の前ではたばこは吸わないのが俺の流儀ですから」
「まあっ! 面白いお方…ふふっ!」
一頻り笑った彼女は息を整えた後に俺の胸にある星の勲章を見つけた。
「軍人様ですか?」
「いや……様付けされるほど大層な人間ではないのだが」
いままでそんな呼び方もされたこともないから背中がむず痒かった。
「ところで、御嬢さんはどうしてこの港に?」
「海を見に来ました。とても、気持ち良い風が吹いていたので」
風に揺れる髪を押さえて海を見つめて質問に答えてくれた。再びカモメの餌袋を取り出して(今度は襲われないように)餌を海面に撒いた。集まるカモメたちを見て微笑みを浮かべていた彼女は今度は俺に質問をしてきた。
「軍人様は、どうしてこちらに?」
「……貴方と同じく海を見に来たんだ。海の向こうにいるある強敵を思い浮かべてね……」
近々、再度東の国に向かって攻略戦が開始される。そうなれば、奴は必ず姿を現すだろう。またドンパチが出来ると思うと血が滾った。
「軍人様、一つお聞きしたい事があるのですがよろしいですか?」
「ん?」
「噂の軍艦……。軍人様は憎んでおられるのですか?」
海を向いていた顔が俺の方を向いた。黒く真珠の様に綺麗な目が俺だけを見ている。吸い込まれそうな気がして、俺は視線を逸らして逆に海を見つめて答えた。
「正直な話、憎いと思う。けど、俺たちだってドンパチやって多くの国の船を乗組員と一緒に沈めてきた。命を奪うって事は奪われる覚悟がある奴だけだ。撃って、撃ち返されて、そして仲間が死ぬのは当たり前のことだ。殺されるのは当然なんだよ。だからジパングに憎しみを持つ気はない」
俺達は、慢心していたんだ。長年の連勝で大事なことを忘れていた。殺すって事は、自分達も何時か殺される。その日が今日か明日か一週間後か一ヶ月後かは分からない。
けど、常に殺されない為にどう行動をするべきか考えて行動すべきだった。そのツケがあの日になって返ってきただけのことだ。
ジパングっていう一隻の戦艦によってな……。
「怨みを晴らすつもりはないが、一度ジパングの艦長に会ってみたいもんだな。あいつは悪い奴じゃないってのは撃ち合いで分かった」
「なぜですか? 同胞を大勢殺した敵ですよ?」
「それは一度だけだ。それ以降は俺以外を狙ってない。射程範囲に捉えてる距離なのに、俺が接近するまで攻撃もしないし、離脱する友軍艦を狙いもしない。それだけで十分あの戦艦に乗る艦長の性格は分かる。本当はあまり人間を殺したくない、いい意味で臆病な性格の奴だ」
まっ、艦長には向いてない人間だな。そう言って俺は笑った。
分かったのは最近だ。撃ち合いの中で奴はこっちが友軍艦隊から離れる様な航路をとるとわざわざ付いてくるんだ。それも激戦で視界に入ってないと見せかける様に動いてだ。
それが分かっただけで俺はもっとジパングの事が好きになったし、もっと強く惹かれた。勝手な妄想だけどなと言って彼女の方を向くと、彼女は俯いて表情を隠していた。
「そう、ですか」
「ん?」
「いえ、なんでもありません。ありがとうございます」
なにに対してのお礼なのか分からなかった。首を傾げた俺に彼女は微笑みを浮かべただけだった。
「それでは、私はそろそろ行きます」
「おう。御嬢さんと話が出来て俺は楽しかったぜ」
楽しい時間ってのはあっという間に過ぎる。そこそこ長い時間話をしてたみたいで彼女はお辞儀をしてから去って行った。けど、途中で彼女は足を止めて振り返った。
「軍人様。どうか死なないでください。私は貴方の様な優しいお方に死んでほしくありません」
それに俺はなにも言えなかった。戦場に出ればいつ死んでもおかしくない。
安易に彼女の言葉にイエスと言いたくなかった。だから、俺は敬礼で応えた。
彼女はどう受け取ってくれたのだろうか分からない。けど、それを見た彼女は真剣な面持ちで同じく敬礼をしたんだ。それがえらく様になっててあの時はビックリしたな。
腕を下ろした彼女は今度こそ振りかえらないで街の中に戻って行った。その後ろ姿を消えるまで俺は見送った。
彼女に出会ってから数日が過ぎたある日、司令部から呼び出しがあった。ジパングとの当分の間、戦闘禁止の命令だった。あまりにもジパングと交戦を重ね過ぎて修理費なんかの採算が合わないかららしい。当分の間は別の艦隊に回避中心による戦闘を行わせるとかふざけた事を抜かしやがった。
そんな俺に司令部の連中は輸送任務をやれって言ってきやがった。前線基地のある離島に駐留する部隊に弾薬を持っていく簡単な任務だ。ただし、護衛艦隊もつけないで単独で輸送しろなんて言う無茶苦茶な内容だった。
司令部の連中曰く、ジパングを警戒しての処置らしい。あいつは艦隊を組んで遠征に出ると必ず姿を見せる。小規模でなら奴は姿を見せない傾向があるから確実に安全で且つ敵と遭遇しても生き残れる者を計算した結果、俺達が選ばれたらしい。
ウォーウルフは高速戦艦だったから任務には確かに最適だと思う。けどなんで輸送艦じゃなくて戦艦を使うのか分からなかった。
それに気になることはもう一つあった。最近『ソル・イーター作戦』ってのを耳にする。その作戦が行われる日と輸送任務がちょうど重なっていたんだ。
司令部の連中に聞いたら“それはお前が知るべきことじゃない”って言われた。まあ極秘任務なら教えてもらえるとは思ってもなかったし気にもしなかったが、思えばあの時、もっと追及しておけばよかったと今でも後悔してる。
輸送任務を引き受けた俺達はウォーウルフに大量の弾薬と燃料を積んで母港を出港した。途中で敵勢力の哨戒部隊と接触、殲滅して目的地の離島まであと少しくらいの距離まで進んだところで俺達は奴にまた出会う事になる。
広い海の真ん中に黄金の輝きと共に奴は姿を見せた。なんの前触れもなく姿を見せた奴を前に俺は司令部の命令を思い出した。
それを俺は……無視した。
向こうはとっくに俺達を見つけている。護衛艦もいない俺達に戦闘を回避する術はない。俺は覚悟を決めた。今日ここで生死をかけて奴とぶつかるってな。
こっちは輸送任務で弾薬をたんまりと載せている。交戦となれば下手すれば弾薬庫に引火、大爆発で全員死亡が目に見えていた。
部下の連中も分かってたのか、俺の命令になんの抵抗もなく従ってくれた。いや、ただ単にジパングとの戦闘が楽しみだったからなのかもしれない。浮かべる表情は、みんないい笑顔だった。
戦ったのは数十分か、数時間か覚えていない。ただ長くも短くも感じた。降り注ぐ鋼鉄の雨。爆発する船体、爆発に呑まれて死ぬ部下達、黒煙を上げて速度の落ちていく愛する俺達の船。それでも撃ち続けた。俺の持てる全ての戦略を注ぎ込んで挑んだ。
――――――結局
俺達は派手にやられて大破した。ダメコンも動かないし、浸水も始まっていた。ボロボロになった主砲、傷付いて倒れている部下達、満足な笑みを浮かべて息を引き取った連中……艦橋から見える被害は凄惨なものだった。
部下の半数が重軽症及び戦死と報告されたその瞬間に俺は漸くジパングの方を見た。
海上に浮かぶジパングも大きな痛手を与えエンジンこそ停止しているが沈む様子はない。お互いにズタボロだが、奴の方はまだ立っていた。
ジパングをここまで追い詰めてそれでも届かない、それは兵器の力量の差ではない。生き残った連中も何処か誇らしげにしていた。弾薬庫に引火するのも時間の問題だ。最後はジパングの雄姿を目に焼き付けながら奴の砲火で死を迎えたかった。
けど、次に待っていたのは――――空からの爆撃だった。
独特なエンジンと風を切る音、空を見上げればそこには空を黒く染める勢いで飛んでいる俺達の国の航空機があった。
初めそれを見た俺は目を疑った。この輸送任務は単独で任されたはずだ。部下の連中に本国に連絡をいれた奴は誰一人としていない。増援が来るにしたって早過ぎると思った。
その疑問は次に慌てて駆け付けた一人の部下の報告で解決した。
目的地の島に人と思しき影を確認出来ず!
その瞬間、俺は悟った。俺達は餌だ。ジパングという強大な敵を倒す為に、交戦で疲弊した彼女を航空機の大軍隊を入れた決戦艦隊で完全に叩き潰す為に餌だってな。
俺達のジパングに対する執着を利用して、黄金の輝きを喰い尽くそうと考えたのか。故の『ソル・イーター作戦』なのか。その時になって俺はやっとあの作戦がなんなのかを理解した。
怒りが湧きあがってきた俺の視界に入った友軍機が傷付いたジパングに―――まるであの日彼女の手に持つ餌袋を求めて群がっていた海鳥の様に攻撃を始めたその光景を見た瞬間―――俺は祖国に抱いていた大事な何かを失う音が聞こえた。
「ざけんじゃねぇぞ……!! このケンカに水を注すどころか彼女を沈める気か……!! ジパングは…彼女はテメーらが気安く触れていい女じゃねえんだよ!!!」
あの時の俺を、蘇った後に部下は“血走った目で空を見ていて恐ろしかった”とか言ってた。
「各員、対空配備っ!! 目標……友軍機!!」
「「イエッサー!!!」」
だが、部下の連中も同じ気持ちだったんだろう。誰も反対の言葉を出さないですぐに動いてくれた。負傷で動くのも辛いだろう連中ですら歯を食いしばって立ち上がり動かせる火器を起動させてたんだからな。
空に向かって放たれる機銃の雨。それが友軍だった航空機を撃ち落とした。炎に包まれて海へと堕ちていく仲間を見て奴らは慌てていた。まさか味方が撃ってくるなんて思ってもみなかっただろうな。
散開した連中は俺達も敵とみなしたのかこっちにも爆撃してきた。それでも俺達は気にせず動けないジパングに群がる鳥をとにかく撃ち落とす事しか考えていなかった。
「発光信号急げ!! ジパングに早くエンジンを動かさせろ!!」
爆発による爆発の中で俺は部下に指示を出し続けた。そしたらどうだろう。ジパングの奴ら……俺達の上空を飛ぶ航空機を対空火器で撃墜してきやがった。自分達の身を守るだけでも精一杯だったはずなのによ。
それからは俺達は互いの上を飛び交う航空機を撃墜し続けた。数えるのも面倒になるくらい、多くの航空機を叩き落としていった。
「報告! 本国の方角より多数の船影を確認!!」
生き残った第一鋼鉄艦隊を中心とした対ジパング戦闘に集められた機動艦隊が見えた。
「航空母艦が四隻もいやがる。司令部の連中は本気の本気って事か」
「聴音電探に反応あり!! 潜水艦です!!」
その上、数の少ない潜水艦まで出して来たとなっちゃ本気の度合いも分かる。
「魚雷が接近中!! その数、三!! 目標はジパング!」
「エンジン始動! ジパングの盾になれ! エンジンが動かねえなら気合いで動かせ!! これしきのことでウォーウルフは足を止めねえ!!」
「サー、イエッサー!!」
無理矢理動かなくなったエンジンを動かしてウォーウルフを射線上に走らせた。ちょうどジパングと重なった瞬間に水柱と同時に強い振動が艦内を揺らした。
「魚雷被弾! 浸水速度さらに上昇! 艦が傾斜します!!」
「好都合だ! 第二砲塔展開! 徹甲弾装填、ポイント2に照準。潜水艦をぶち抜く!! ファイヤーッ!!」
撃った砲弾が海面に命中したと同時に爆発が起きた。倒れる方向に撃ったのが幸いしたのかウォーウルフは反動で体勢を立て直してくれた。向こうの連中は驚いたろうな。
なんせ、傾く戦艦がそれを利用して潜水艦を沈めてさらに沈没を回避したんだからよ。でも気休めでしかなかった。次に来た航空機の爆撃や機銃で艦体が大きく揺れた。
もう限界かと思って一つ大きな息を吐いた時、隣から駆動音が聞こえた。ジパングの、エンジンが動きだしたんだ。それを見た俺は自然と笑みを浮かべた。
「勝ったな……」
艦橋から見えるジパングの姿を見て俺は確信した。同時に消火が追い付かないと報告に来た。もうウォーロックはもたないだろう。できれば、向こうの艦長の顔を一度でもいいから拝みたかったのが心残りだった。
そう思ったその時だ。ジパングの甲板に視線を送った俺は目を見開いた。
甲板に一列に並ぶジパングの将兵たちがこっちに向かって敬礼をしてやがったんだ。そして中央に立っていたのは港で会ったあの御嬢さんだった。
「まさか……あんたが艦長だったなんてな。海の神様も、最後に粋な計らいをしてくれたもんだ」
あん時は心底海の神様に感謝したな。あんな綺麗な御嬢さんにもう一度会えたからな。ったく、これでこの場所が静かな状況だったら満足に死ねたのに……こうも五月蠅いとたまったもんじゃねえ。
戦いに水を指されただけじゃなく、折角のムードもブチ壊しだ。艦隊後部から爆発が聞こえて大きく揺れる。もう限界がきた。もうじき沈むと分かった。
だから、俺達は彼女達に最大限の敬意を込めて敬礼を返した。そして生きている彼女達の道を作る為の行動をとったんだ。
「最後の反攻だ! 全砲塔、前方敵艦隊に照準! ファイヤーーッ!!」
その後の事は覚えていねえ。きっとあの後に俺達は海の底に沈んでいったんだろうな。ただ、消えていく意識の中で最後に聞こえたのはジパングの砲撃の音だった。
再び出会った二隻の船。二度と日の目を浴びることない真実を胸に、過去との決着をつけようと挑むマードック達をあざ笑うかのようにジパングに潜む秘石がその力を解放する。




