第七十一話 戦火の足音
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息つく暇もなく起きる事件の数々。遂に戦争すら起きようとしていた。
クロス王国からの宣戦布告によってにわかに慌ただしさが増す共和国内。
その首都アルセイユにて航行艦隊が空港へ集結を始める。
「X型150m級高速航行艦十隻にZ型180m級軽巡航行艦十七隻…おっ、XW型200m級重武装航行艦七隻と」
ドッグから発艦した航行艦が次々に空港へ集結する。記録係の隊員が集結した艦の間を歩きながら集まった艦を帳簿に明記していると航行艦のハッチが開いてそこへ車輌が搭乗するのが見える。
「本当に戦争が始まるのか……」
「おーい記録係! こっちも頼む!!」
かつてない数の航行艦が集まる様を見て、これから始まる出来事に現実味を帯びてきて緊張が高まっていた所で整備班の隊員が呼ばれ、そちらへ急ぎ足で向かった。
「失礼します!」
その頃、SCCA総本部のカルロスの執務室にエメローネが扉を勢いよく開けて入ってきた。
「アルトワルツ君。中央魔導研究所の局長にして淑女であるなら扉は静かに開け閉めしたまえ、扉が壊れる」
「タスクフォース第一部隊総大将 カルロス・トーラス元帥。これはいったいどういう事なんですか?」
余裕のある薄ら笑みを浮かべ冗談をかますカルロスの言葉を流し、険しい表情のエメローネが詰め寄る。
「どう…とはどういうことかな?」
「惚けないでください。クロス王国が攻めてくることについてです。彼等がどうしてこちらに対して宣戦布告をしてきたのか、きちんと説明して下さい!」
「さて……ね。私も政府から詳しくは聞かれていないから分からないのだよ」
「国防も任されているあなた達SCCAの最高責任者である元帥が知らない筈がない」
ふぅ…とため息にも近い吐息がカルロスから零れる。
そして張り付いていた笑みがなくなり、無表情と化した彼の姿があった。
「アルトワルツ君。君は本当に賢しい女性だね。―――さすがはニコラス・オズワルドの助手でIPターミナルの開発に関わった存在かな?」
「っ!?」
カルロスからの発言に彼女は息を詰まらせ、強張った顔になる。
それはオズワルドが伏せた唯一の情報。それをなぜ目の前にいる人物が知っているのか。
「どうして、それを……!?」
「オズワルド君は相当必死に隠していた様だが、我々の情報収集力を甘く見てもらっては困るな? その気になれば彼の場所だってすぐに分かるのだよ? そうしないのは、何故だと思うかね?」
目の前にいる老帥の持つ底知れない力に背筋が凍りつく。強張ってなにも言えなくなった彼女を見てカルロスは再び余裕のある笑みを顔に表した。
「彼はいずれ、私達の下に必ず戻ってくると確信してるからだよ。なぜなら……彼も私達と同じ戦いの中でしか己の存在価値を見いだせない一人の兵士だからさ。さて、彼の事は置いといてだ。どうして我々がクロス王国の宣戦布告に対する説明をしないかだったね」
君には色々と世話になっているからね、と言ってコーヒーを一度口にしてから説明を始める。
「某日、魔術王国所属クロス王国の国境付近を警備している航行艦から発せられる信号が途絶えた。向こうの調査兵が来る前に調査隊を送ったところ、航行艦が墜落、轟沈していたそうだ。こちらの生存者はいなかったよ」
バラバラの航行艦から管制室を見つけ出し、そこからフライトレコーダーなどを回収して解析したところ――
「航行艦の主砲が勝手に動き出して地上に居たクロス王国の警備兵へ向いたそうだ。無論、彼等は停止しようとあらゆる手を使ったようだが、制御不能のまま発砲……地上を焼き払った。そして、その後に爆発が起きて記録はここで終わった」
砲撃などは本来、管制室からのみ操作できる。本来なら艦長などの責任になるはずだが、今回は違う。レコーダーに残されたのは必死な声で攻撃の中断を指示する艦長の声だった。
「外部からの……遠隔操作?」
「そうだ。何者かが、この戦争を仕組んだ。我々はそう見立てた。そう考えると、これほど馬鹿げた戦争などないだろう?」
「だから、国民には大規模なモンスター討伐作戦の実施と放送しているの?」
「その通りだよアルトワルツ君。余計な不安を国民に与えたくはないからね。事実の隠ぺいだと罵るならいくらでも構わない。ただ…国同士の戦争とモンスターの討伐作戦、どちらが国民の不安が少なくより効率よく混乱を回避できるか考えてみてはどうかな?」
戦争が終わって十年……。停戦協定によってこの世界の三大国家は争う事を止めた。
まだ十年だ。十年しか経っていないのに、協定を結んだ筈なのに再び戦争が起きようとしている。またあの惨劇が起きるかもしれない。
もし真実を報道すれば国民に大きな不安が起きて混乱が起きるかもしれない。彼の考えは正しいのかもしれない。けど、真実を伏せて偽りの情報を国民に伝える事が正しいとは思えない。
「考えているところで悪いのだが、実はちょうど君に一つ頼みたいことがあってね」
どちらが正解なのか答えに苦難しているところでカルロスに呼ばれて思考を中断する。
「頼みたいこと、ですか?」
「うむ。第八都市で奇妙な噂が流れていてね、あまりに非科学的で信憑性も薄い。ただ目撃報告がやけに多くてね。事の真相を調査してほしいと思うのだよ」
中央魔導研究所の局長という忙しい身分だと思うが、どうしても君に頼みたいものでね……。そう言って彼はモニターを出し、持っていた書類を彼女へ渡す。
書類を受け取ってからモニターに映されている映像に目を向ける。夜間の湖かどこかで撮られたものなのか画面には闇が広がっていた。
「第八都市 シャドーモセスの巨大湖で一般漁船の船長が録画した映像だよ」
やがて映像に白い霧が広がり始めた。それに合わせる様に水面が大きく揺れ始める。そして霧の中に浮かび上がる黒いシルエット。モニターの前を巨大ななにかがゆっくりとした速度で通り過ぎていく。
後を追ってカメラが動き、最後に霧と共に消えていく巨大な船の後ろ姿を映した。
「これは……戦艦?」
「詳細は不明だが、霧と共に現れそして霧と共に消えていくそうだ。これだけなら別段後回しでも構わないのだが、時折り砲撃音が聞こえて来て住民に不安が広がっているらしいとの報告があった。こうなると我々も対応しなければならないのだが……いまはこの状況だ、一部隊ですら出動させられない。そこでアルトワルツ君、君にお願いしたいのだよ」
晴れた日に調査してもそれらしき船は見当たらない。それに湖にいること事態が不可解だ。こちらの航行艦は指定の場所にある格納庫に停留しているからまずあり得ない。
「………分かりました。こちらで調査をさせて頂きます」
「助かるよ。移動には軽巡航行艦一隻を手配しておく。準備が出来次第、出立してくれ」
部屋を後にしてエメローネは自らの執務室に戻る。待機していたシーガルが彼女を出迎える。
「おかえりなさいませ、エメローネ様」
「シーガル、二日後にここから第八都市に向かいます。準備して」
「は? エメローネ様、今回の戦争の理由をお聞きに行ったのでは?」
「聞いたわ。けど、あの人の言っている事は信用できるものじゃなかったわ。あれはなにか隠している」
「追及はしなかったのですか?」
「しても、はぐらかされるわ。それよりも第八都市に向かう理由が出来た。私の勘が正しかったら、あそこに『ニーベルンゲルゲン』……最後の欠片が眠ってる」
ほのか達が発見した欠片は全部で七つ。うち二つは魔術大国とシルヴィアが持っている。エメローネには一つの勘があった。最後の欠片――そこにシルヴィアが……親友が絶対にいると。
「ほのかさん達を呼んで。彼女達も一緒に連れて行きましょう」
「分かりました。すぐに、準備します」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
新型軽巡航行艦『ガヴェイン』……従来の軽巡航行艦の性能を上回り、更に多彩な兵装を持ち合わせる次期主力航行艦である。格納庫に集まったほのかはその航行艦を見上げていた。
「ふえ~……これが航行艦なんだ」
「それも新型なんだってよ?」
「これに乗るの?」
「残念じゃが、わっちらが乗るのはあっちのようじゃ」
アウルの向いている方に視線を送る。ガヴェインの隣には旧い航行艦が置かれていた。
「ふむ…旧型軽巡航行艦『フェンサー』かえ。もう退役しているのが殆どの船じゃな」
「おいおい、オンボロ船かよ」
装甲は一応手入れはされている様でピカピカだが、何処か漂う古臭い感じは隠しきれない。
「飛べんのかコイツ?」
「一度飛んだら壊れそうな感じだな……」
「飛べるかどうかも怪しいな」
仲間達から口々に目の前の古参艦についての評価が出される。
酷評が出される中、バルドはエメローネにジト目を向ける。
「廃棄処分に利用されたな?」
「そうね。でも安心して、今日までに私達で改良してるから大丈夫よ」
「そうかい。まあ、中央都市のエリート技師たちの腕がどんなもんか楽しみだな」
「ええ任せてちょうだい。さて、まずはここから出発する為に管制室に行きましょ」
胸を張って自信満々にふんぞり返る彼女に少しばかりの期待をしつつ搭乗する。
乗ってからかれこれ三十分後―――
「さあ、皆さんそろそろ出発の時間ですが大丈夫ですか?」
管制室に辿り着いたエメローネが初めにほのか達の方を向いた。
「まずはここで各担当をしてくれる皆を紹介するわね。索敵担当フォン・レオーネさんよ」
「フォン・レオーネです。皆さん、宜しくお願いします」
中央から右側にいた女性が席を立って挨拶する。エメローネよりも少し年上に見える鮮やかな赤色のストレートの髪を持った同じく赤い目を持った女性だった。
「その隣にいるのは砲雷担当のエド・スミスよ」
「砲雷担当のエドだ。気軽にエドって呼んでくれ!」
立ち上がったオールバックの金髪と紫色の目をした男性が挨拶する。軽く挨拶してニッと笑う。
「そっちにいるのが操舵担当のルカ・コルダと通信担当のルイス・ジョースターよ」
「ルカ・コルダだ。宜しく頼む」
「ルイスだよ~! よっろしく~~っ!!」
眼鏡をかけた青髪の男性が静かに挨拶する傍らで元気一杯に椅子から立ち上がって挨拶する桃髪の女性。
「彼女達は私の研究の補佐をしてくれている研究員なんですよ」
「おいおい、研究員が操縦すんのかよ。大丈夫なのか?」
心配するバルドを前にエメローネは問題ないと胸を張って答えた。
「その点は大丈夫よ。フォンは電子機器に関してはトップクラスだし、エドは射的能力が高くて、ルカは元輸送艦の操縦士だったし、ルイスは……現場を明るくしてくれるムードメーカーよ」
「えへへ~、褒められちった!」
「おいおいルイス。一人だけ技術的な利点を上げられてねえぞ」
「な、なんですとー!?」
「はいはい、それはいいから出発するわよ。ルカ、準備して」
格納庫の天板のハッチが開いて航行艦に日の光が当たる。
フェンサーのエンジンが動き、整備班の者達が後退する。
「周囲の整備班の退避、完っ了しました~!」
「軽巡航行艦フェンサー、浮上!!」
下部に付いているバーニアが火を噴いて航行艦が垂直に離陸する。浮上した航行艦は一定の高さに浮かんだ後、後部エンジンの出力を上げて直進を始める。
機体が安定し自動操舵モードに移行した所でエメローネはほのか達に艦内の案内を始めた。
食堂に医務室、機関室と多数の施設を見て回り、初めて見る艦内にほのかを始め子供の彼女達は目を輝かせていた。
「おい、エメローネ。これがエリート技師の実力ってか……」
「ええ、そうよ。凄いでしょ?」
「すげえって言えば確かにすげえよ。けどよ、一つだけ言いたい事があんだよ」
それから数十分ほど色々と見させてもらったバルドだったが、一つだけ……一つだけどうしても言いたい事があった。
「なにかしら?」
「この無駄に広い和室はなんなんだ?」
彼の目の前に広がる広々とした部屋……畳にちゃぶ台、隅には立てかけてある炬燵となんともこの航行艦にはミスマッチな様があった。
「どう? 凄いでしょ? 船室を三つほど取り払って造ったのよ。広さはなんと畳十二畳×2よ!」
「いやそうじゃなくて、なんでこんなだだっ広い和室を造ったんだよ?」
「わびさびがあるでしょ?」
「お前……実はとかじゃなくて本当はただの馬鹿だろ?」
どこの時代に航行艦に趣を求める人間がいる。ジト目で彼女を見ると、失礼ね! と頬を膨らませいかにも子供っぽい怒った様を見せる。
「ちゃんと理由があって造ったんです!」
「理由ってなんだよ?」
「和室というのは心を落ち着かせる効果を持った素敵な部屋よ。閉塞的空間とも開放的空間とも言えない曖昧でおぼろげさを醸し出してその用途に合わせて多彩な姿に変貌できる万能空間なの。心を安らかにする稲藁の香りが固まった心を解きほぐす……これほど適した造りはないわ!」
「無駄に専門的な説明してるが、実のところただの趣味で造ったとかじゃねえだろうな?」
「…そんな事はないわ」
「おう、その間はなんだ? あと否定すんならこっち向いて言えや」
妙な間と顔を逸らして視線を外しながらの返答。誰がどう見てもやましい事を隠している様にしか見えない。問い詰めようかとした所で背中から軽い衝撃が来て振りかえるとほのかがくっ付いていた。
「バルドさんバルドさん! ここにおふとんを敷いてみんなで寝たらきっと楽しいよ!」
「修学旅行みたいやね」
「お前らな……」
「あら、それはいい案ね。今夜は皆でここで寝ましょうか」
「やったー!」
期待に満ちた目の彼女へバルドがなにかを言う前にエメローネが賛成する。艦長であるエメローネの賛同を得られたのに嬉しそうにしたほのかは続いてバルドにもう一度聞いた。
「バルドさんも一緒に寝ようよ!」
「面倒くせえからパスだ。俺は自分の部屋で休ませてもらう」
キラキラと目を輝かせて言う彼女だが、しかし彼はそっけない返事を返し、そのまま部屋を出ていってしまった。
「ぶぅ~……」
「ありゃりゃ。交渉失敗だね~」
「ほのか、元気出して?」
心底残念そうなほのかをリースリットが慰める。
それから彼女は彼の出て行ったドアの方をジッと見つめていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
航行を始めて早数時間が過ぎて……
「よし、ホーリーシューター!」
艦内に設けられた訓練施設でほのかは何時もの様に特訓を始める。誘導タイプの魔力弾を作ってから空き缶を置いて魔力弾を当てて宙に飛ばした。
「29…30…31…」
弾かれ不規則な動きをする缶を正確に当てて回数を重ねていく。
当たるにつれて形を変えていく空き缶を落とさないようにぶつける。
「98…99…100ッ!!」
最後の一発で缶が割れて地面に転がる。
「よしっ!」
[目標回数達成ですね。だいぶ上達したのではないですか?]
「ん~……、そうかな? 私には分かんないかも、にゃはは……」
自分ではいまいち実感が湧かず苦笑いする。
でも、初めは全く上手くいかなかった特訓が今はそこそこ出来ているのだ。ウィルに言われて思い返すに確かに出来ている様な気がする。そう思うと少しだけ自信が湧いてきた。
「よーし! 次は割らない様に当ててもっとむずかしい動きを目指そうっと!」
「ほのか……?」
「あっ、リースリットちゃん」
声をかけたリースリットは近くに転がっている空き缶を拾い上げ、変形し割れたそれをジッと見つめる。
「特訓してたの?」
「うん。 ちょっとでも魔法を上手く使いたいから練習してたの」
「……ほのかは、いつもこの特訓をしてるの?」
「うん、そうだよ。リースリットちゃんもやってみる?」
「ん……」
二人で特訓を始めて早一時間が過ぎ、疲れを感じた所で少し休憩を入れる。
「リースリットちゃんってやっぱりすごいね。もう誘導魔力弾の使い方が上手なの」
「…そう?」
「だって私は一時間で魔力弾一つ作って飛ばすのに苦労してたよ。でも、リースリットちゃんはもう三つも作って自由に飛ばしてたよ?」
初めて特訓を始めた頃は魔力弾を作って操作をするのも苦労した。けど、リースリットは僅か一時間で自由自在に操作できる様になった。
ちょっと羨ましいな~と言って苦笑を浮かべる。それを見て少し考える様を見せた後、リースリットは返事をする。
「ほのかは…魔法を最近まで使えなかった。最初から使える私よりも大変なのに、いろんな魔法が使える。もっと自信を持っていいと思う」
「そうかな…? でも、ちょっと嬉しいかも。えへへ、ありがとう♪」
嬉しそうに微笑んだほのかを見て顔を赤くして俯く。
恥ずかしくなった彼女は話を変えようと思い、話題を脳内で探した。
「ねえ、ほのかはバルドのことをどこまで知ってるの?」
そして思いついたのがバルドの事だった。
急に聞かれたほのかは不思議そうな顔をして首を傾げる。
「バルドさんのこと?」
「うん……」
思えば彼は不思議な人だ。
魔術が使える魔剣士なのに系統が違う魔法まで使える。言葉を持つ剣ケルベロスとバハムートを所持する。面倒くさがりで、でも困った時は助けてくれる。普段は意地悪だけど不思議と温かい人。そんな彼が少し気になるから知りたいと思った。
「う~~ん……。私もバルドさんの事はよく分からないんだよね」
「そうなの?」
「バルドさん、自分の事はなにも話さないから……あっ、でも」
一つだけ付き合っている間に分かった事があるのを思い出した。
「バルドさん、時々だけど私達を見て少しだけ辛そうな、寂しそうな、悲しそうな…そんな顔をする時があるの」
それがどうしてなのかは聞くに聞けないけど……。
なにを思ってそんな顔をするのか分からないけど、見ていると胸が苦しくなる。
「む? 皐月にピステール、そこでなにをしてるんだ?」
そんな話をしていると、ちょうど通りかかったユグドラが声をかけて来た。
「あっ、ユグドラさん! ユグドラさんも特訓に来たの?」
「うむ。ジッとしているのは性に合わないからな。ピステール、どうだ? 少し摸擬戦でもするか?」
「……ん、する」
摸擬戦と聞いてすぐに休憩を止めて立ち上がる。剣の腕ではバルドとタイマンを張れるほど高い実力を持つ彼女との摸擬戦は勉強にもなるし、なにより楽しい。その彼女の好戦的な姿勢に好感を抱いたユグドラは笑みを浮かべた。
「今度は、勝つ。ほのか、ちょっと行ってくる」
「ふふっ、そう簡単には勝たせんぞ。なぜなら、私は主あかねを守る守護騎士なのだからな」
話の途中もなんのその。頭の片隅に行って摸擬戦で一杯になってユグドラの後をついて行ってしまった。そんなリースリットの一面を見て苦笑いを浮かべていたほのかははたと気づいた。
「……あれ、でもよく考えるとバルドさんってもしかして私達がたくさん迷惑かけてるからあんな顔してたりして……。だったらすごいショック……うぅ~」
そして一人残されたほのかは勝手に自爆して頭を抱えていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日の晩……和室で寝ていたほのかは扉の閉まる音に目を覚ました。眠い目を擦りながら起きた彼女はぼやーっとした状態で周囲を見渡す。
周りの皆は布団で眠ったままだ。
*あかねと一緒に寝ようと駄々をこねたシリウスをアシュトンが問答無用で連れて行ったので二人はこの部屋にはいません。
「ほのか、起きてる?」
小さな声が聞こえて隣を見れば、布団から顔を出したフィリスがこっちを見ていた。
「フィリスちゃんも、起きたの?」
「私だけじゃないよ、リースリットも起きたみたい」
「ん……」
どうやらいまの物音に目が覚めたのは自分達だけの様だ。そっと布団から這い出て、音をたてないようにドアを開けて廊下に顔を出して向かいの部屋が開いているのを確認した。
「バルドさんの部屋が開いてた」
「じゃあ、さっきのはバルドなの?」
こんな夜更けに何処に行くのだろう。気になった彼女達はそっと後を追いかけた。足音と僅かに見える影を頼りに追跡すると、展望室へと辿り着く。そしてそのまま彼は展望室から外へ通ずる扉を開けて出て行ってしまった。
「外に出ちゃったね?」
「行ってみよう!」
「あっ、ちょっと待ってほのか! いま航行中だから開けたら――!?」
後を追う様に開けたドアから物凄い勢いで冷たい夜風が入ってきた。鈍い音と共に全身でそれを浴びたほのかは全力でドアを閉める。
「……ほのか、大丈夫?」
「寒くないかっこうをした方がいいかも、にゃはは……はっくしゅん!!」
盛大なくしゃみをして慌てて口を両手で塞ぐ。そっとドアの方を振り返るが開く気配はないのでホッと一息。改めてドアを僅かに開けて外の様子を見る。
「あれ?」
さっき開けた時はバルドが立っているのが見えたのにいなくなっている。なんでだろうと首を傾げているとぬっと彼女の視線の位置に顔が出て来た。
「に゛ゃぁぁぁぁ!!?」
盛大に悲鳴を上げて慌てて後ろの二人に抱きついた。
何事かと目を丸くする二人だったが、目の前のドアが開いた。
「お前ら、なにしてんだこんな夜更けに……」
開けた本人、バルドは三人の姿を見て呆れた様な顔で立っていた。
「もうもうっ! バルドさんビックリしたの!!」
「あ? そりゃ後ろでドアが閉まる音聞こえたら確認するのは当たり前だろ」
にやりと笑いながら言う。それを見てリースリットとフィリスは、絶対知っててやった犯行だとなんとなく察した。
それに気付かないほのかはプンスカと怒ってバルドをポカポカ叩いているが軽く謝ってからあさっての方向を向いて口笛を吹くだけだった。
「んで、なんで起きてたんだ?」
「えっと、ドアの開く音が聞こえたから…」
「あ~、俺の所為か。それはわりぃ、起しちまったか」
「それはいいんだけど……。バルドはなにをしてたの、こんな時間に?」
三人を代表して理由を問いかけると彼は展望室の機能を動かして天井を開放する。ガラスの天井の先には夜空に光る星が見えた。
「星を、見てたんだよ」
「お星さま?」
雲の少ない夜空にはきらきらと輝きを放つ星達が見える。
「暇な時はこうして星を見てるんだよ。明日の天気とかも分かるしな」
ソファーに腰掛けて夜空を見上げるバルドに倣って三人も座って星を見る。いろんな色の星が見えて黒い世界を彩っている。
「知ってるか? 星ってのは光の速度で何万、何億年先にいる奴まであるんだぞ? いま見えている光はそういった長い年月をかけて飛んで来た光って訳だ」
「ふえっ! そうなの!? それじゃあ、あの光ってるお星さまも?」
「そうだな。何万年も昔の光かもしれないな」
大昔の光が自分達が見ている光なのだと思うととても素敵なものに見えた。
「それじゃあ、あの光があるってことはお星さまが元気でいるってことなんだね?」
「いや、そうとも言い切れない」
「ふえ? どうして?」
首を傾げるほのかにバルドは詳しい説明をする。
「俺達が見ている星の光は光の速度で何千、何万と年月をかけて飛んで来た光だ。つまり、いま見えているのは遠い昔のものでいまの星の状態は分からない。もしかすればとっくの昔に爆発し消滅してるか、あるいは命の炎を燃やしつくして静かに消えているかもしれない」
「お星さまも死んじゃうの!?」
「そりゃそうだ。あいつらだって生きてるんだ。そうして消えていった星を俺は沢山見ているからな」
けど、と彼は更に言葉を続ける。
「死んでいった星はまた生まれ変わる。砕けた星の欠片は宇宙に散らばる隕石や同じ星の欠片とぶつかり混じり合ってやがて新しい星として誕生する。命が尽きて粉となったものも同じ様に集まって結束して隕石になってぶつかり合ってそうして新しい星は生まれる」
「へぇー、バルドって宇宙に詳しいね? 宇宙学とか勉強してたの?」
「いんや。ただ少しお前らより年が上だから知ってるだけだ」
そう言って頭上を見上げるバルドは星を見つめた。
それから少しの間、夜空の観賞を続けていた四人だったが、ほのか達が眠気を訴えた所で終了、彼女達を部屋へと送り届けて彼女達が寝付くまで見守ってからバルドもまた自室に戻った。
暗き闇に覆われた世界の中、航行艦は静かに空を飛んで第八都市を目指す。
着実に近づいてくる戦争へのタイムリミット。その中でほのか達は最後の秘石の欠片が潜む第八都市へと向かう。闇の力の強い都市で彼女達を待つものはなんなのか。
それでは次回も宜しくお願いします。




