第七十話 意志の力
遅まきながら新年明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。
第七十話更新です。
光弾の弾幕を飛ばし続けるオケアノスの周囲をほのか達は飛び交っていた。
「貫け、サンダースピア。ファイヤーッ!!」
前に出たリースリットが雷槍の弾幕を飛ばしてオケアノスに命中させる。
さしたダメージを受けた様子もなく攻撃してきたリースリットに目を向けたオケアノスが彼女へ攻撃を行う。
一度背を向け、急降下で高度を一気に落とし地上をナイトチャージで駆ける。
すぐ後ろに光弾が次々に着弾する中で彼女は急に左へ滑り込む様に移動、瓦礫を利用して弾幕を防ぎながら身を翻してオケアノスへ向き直って一直線に駆ける。
周囲に落ちてくる光弾に怯むことなく突っ込み、足に力を込めて跳躍、高速飛行で一気に接近する。
「レイジング、スマッシュ!!」
頭上を取った彼女はフォルテを全力で叩きつける。強力な電撃を併せた斬撃を受けるもオケアノスはまるで効いた素振りも見せず頭を振り、彼女を吹っ飛ばす。
後退するリースリットを援護するようにルチアが前に出てパールグラスを合体させて投擲する。風の魔力を纏った疾風の一撃はオケアノスを直撃するが弾き飛ばされ反撃の光弾が飛ばされる。
ルチアを狙う光弾をフィリスが魔力矢を放って相殺で援護し、
ユグドラがカラドヴォルグから炎の衝撃波を放ち注意を向けさせる。
「ラー、アルム、トール。コール、フォルグ!!」
翼を振り下ろし酸の衝撃波を放つ。迫る攻撃を散開して回避し、隙を突いてアウルとグラキエスが弾幕を生み出して一斉射する。頭上に注意を向けている間に地上ではアシュトンが魔術を詠唱する。
「大地よ! 汝の怒りを具現化し、彼の者を打ち砕け!! グランドクラッシャーッ!!!」
岩塊の拳が生み出されオケアノスへと放たれる。下方から来る強烈な一撃が命中し明確な怯みを見せる。その眼に怒りの感情が宿り、地上にいるアシュトンへ向けられる。
長い胴体を動かし薙ぎ払う様に動かす。地面を削りながらアシュトンに迫る胴体の前に一人の影が飛び出す。そして爪で切り裂く様に腕を振るい巨体の一撃を弾き返す。
弾いた本人――サヤは地面を蹴り、疾風の如き速さで駆ける。近づいてくる彼女へオケアノスが弾幕を降り注ぐ。弾幕の雨の中をジグザグに動きかわし、爆発の衝撃で浮き上がった地面を利用して跳躍する。
「鬼鉄っ!!」
拳を作って胴体に叩き込む。強靭な肉体と重量を持つオケアノスの身体がそれだけで後方へ大きく押し出される。
「エル、エル、レムッ!!」
怒号を上げて魔力を開放するオケアノスの足下の地面に水が浮かび上がる。周囲の地面から白い蒸気が上がり、物が溶ける独特の異臭が漂う。
新たに生み出した酸の湖から水泡が多数浮かび上がると意志を持つようにほのか達へと飛んで行く。
「ほのか」
「バルドさん、どうすればアスノさんを助けられるの?」
攻撃は激しさを増す一方だ。声をかけてもオケアノスの内よりアスノの返事が返ってこない。むしろ声をかければかけただけ相手の抵抗が激しくなっている様な気もする。
「奴の中からアスノが姿を見せた時のこと、覚えているか?」
「え?」
聞かれてほのかは思い返す。あの時は自分の砲撃を受けてオケアノスが動かなくなった。それがなにに繋がるのだろうと疑問に思った。
「いいか。アスノはニーベルンゲルゲンから造られた存在、本人も言ってた様に願いから生まれた仮初めの肉体だ。つまりオケアノスの意識がある内は本体に囚われている」
「あっ、それじゃあ!」
「ああ、オケアノスの意識を吹っ飛ばせばアスノはもう一度、姿を見せれる。それが最後のチャンスだ」
全身から漆黒の魔力を放出するバルドの足下に闇の魔術陣が展開される。
「一発だ。一発で奴の動きを封じ込める。その瞬間にお前の最大火力の魔法を叩きこめ」
「うん!!」
「それじゃあ……俺も混ぜさせてもらおうっかな?」
声に振りかえると、封鎖結界の外に居た筈のシリウスとアキトの姿があった。
「シリウス君!? それにアキト君も!?」
「お前らどうやって入った?」
「ん~? そりゃ普通に入っただけだよ~」
外界との接点を遮断する封鎖結界は発動者の意がなければ外部からの侵入を許されない。解除して中に入るにしても相応の技術が必要だ。精霊界屈指の実力のレムルスの封鎖結界に外部から入るのはそれ相応の技術が必要だ。
「……まあ、いまはお前の事は置いといてだ。何時でもいけるな?」
「あいあい~。何時でもバッチこいさ!!」
深い青色の火の球が幾つも周囲を周回する。それはやがて一つになって上空高く飛んで消えていく。二人の準備が行われている間にほのかはアキトへと向き直る。
「アキト君、ごめんね。アスノさんを助けるために傷つけることになっちゃうかもしれない」
「………」
「本当は、こんなことしたくない。でも――」
「ボクには母さんを助けられない」
伏せていた顔を上げるとアキトは自分を真っ直ぐに見つめていた。
「ボクは魔法が使えない。力がないから、魔法が使えないからあんなモンスターの中から母さんを助けられない」
「アキト君……」
「だからボクはほのかを信じる、魔法を信じる。ほのかの魔法が、みんなの魔法が母さんを助けてくれるって。だからお願い……母さんを助けて」
小さな手を拳に変えて顔を伏せ身体を震わせる。隠れた表情に隠しきれない感情が現れていた。
「何も出来ない。それは違うと思うの」
「え?」
「私はバルドさんに教えてもらった。出来る出来ないなんてやってみないと分からない。諦めたらそこで終わり。最後の最後まで諦めないことが大事なんだって。だから、アキト君も諦めないで」
飛行魔法で上空に飛んだほのかの下にリースリット、あかね、フィリスが集まる。
「みんな、全力で行くよ!!」
「ん……」
「まかしとき!」
「任せてほのか!!」
「ウィル、オーバーリミッツ!!」
[Over Limits LevelⅠ]
桜、金、白、水色の魔法陣と共に女神と戦乙女、巫女、人魚の紋章が立体的に現れる。それぞれがオーバーリミッツで限界を引き出した彼女達から魔力が溢れだす。
「汝の王はいまここに。守護する結晶達よ、天を裂く十角形より舞い降りよ!! 結晶城の聖騎士団!!」
空を裂いて姿を見せた十角形。それが砕け散り欠片となる。欠片は人へと形を成して身長二メートル近くある結晶騎士となった。総勢二十近く誕生した結晶騎士は両手を広げると右手に剣を左手に盾を装備してあかねの傍らに侍る。
「行くぞ、シリウス!!」
「何時でもどうぞ!!」
「銀河を呑み込む闇獄の門よ。その力を持って全てを闇へと引き寄せ、喰らい尽くせ!! ブラックホールッ!!!」
闇が世界を呑み込んで行く。瓦礫だろうと地面だろうとありとあらゆる物を重力の塊が引き寄せてその無限大の闇の世界へと引き込んで行く。
オケアノスも例外ではなく、その巨体で超重量の体が目の前に現れた重力体に引き摺り寄せられていた。呑み込まれまいと自らの体を地面へと押しつけ、踏ん張る。
「動きは止めた。シリウス!!」
「夢幻の彼方より来い、拳!! スパイラルナックル!!」
拳を地面に叩きつける彼のモーションに合わせて空が砕け、空いた空間からとてつもなく大きな鋼鉄の拳が落ちて来た。殺人的な加速で振り下ろされる鋼鉄の拳は空気との摩擦で燃える拳となってオケアノスに直撃する。
「押さえ付けた!!」
「シリウス、手伝うよ!! メロー、魔力全開で行くよ!!」
[分かりました!]
「最大出力! 人魚の抱擁!!」
オケアノスへと大量の渦巻く水が巻きつく。それが人魚の姿を形どって押さえ付けた。
「やれ、ほのか!!!」
上空にいるほのかがブレイブモードで待機していたウィルを構える。
攻撃準備の整った相棒へ彼女は話しかける。
「ウィル……。ウィルは何も出来なかった私に魔法をくれたよね?」
[いえ、私はなにもしていません。魔法は、マスターが信じたからこそ使えたのです]
「ううん。ウィルのおかげだよ、ありがとう。私は魔法を信じるよ。魔法は奇跡を起こせるって……。だから――!!」
ウィルに流れる魔力が一気に膨れ上がる。女神の紋章がより一層大きく、そして立体的に生まれる。
「みんなの想いを、意志を、魔法と一緒にアスノさんに届けて!! 悪夢からアキト君とアスノさんを助けよう!!」
[イエス、マイマスターッ!! Over Limits LevelⅡッ!!!]
バレルが解放され、魔力が集束する。彼女の立つ場所に大型の魔法陣が生み出される。ほのかから感じる膨大な魔力にオケアノスは打ち下ろされている拳と捕縛魔法を押し上げて吹き飛ばし身体を持ち上げて最大出力で口から砲撃を放った。
「させへん! 行って!!」
彼女の声に傍らにいた結晶騎士達の目に光が宿り、一斉に飛び出してほのかの前に集結した。そして自らの盾を前に展開して砲撃からほのかを数秒だが守りきって砕け散る。
「オケアノス! アスノさんから、離れて!! 魔力全開、一撃必倒!! 聖光の煌めき、ホーリーライトォォォ、ジャッジメントーーッ!!!」
世界を桜色に染め上げるほのかの最強砲撃魔法が上空よりオケアノスへ落ちる。お互いの砲撃が衝突して魔力同士の波動が結界内で波紋を広げる。そのオケアノスの砲撃に不規則な動きが見られた。
「オケアノスの砲撃が、安定していない!?」
「いまなら…いける!!」
「いっけーーーっ!!!」
押し返され始めるオケアノスの砲撃が遂に撃ち破られた。落下する大質量の魔力の塊がオケアノスを呑み込んだ。
巻き上がる砂塵と白煙が薄れ、クレーターの中心にぐったりとして活動を停止したオケアノスが立っていた。そして活動を停止したオケアノスの中からアスノがゆっくりと姿を見せる。
「アスノさん!」
「ほのかさん、どうして……どうして?」
「アスノさん、諦めないで!! 例え秘石の一部だったとしても、アスノさんはアスノさんなの!! アキト君や他の子達のたった一人のお母さんなの!!」
オケアノスの目に再び輝きが戻り始めている。力なく立っていた身体が僅かに動きを見せている。
「一緒にいた時間は短かったかもしれない。でも、それでもアキト君達にはかけがえのない時間だったはずなの!! 楽しかった時も、辛かった時も、どんな時でもアスノさんと暮らした時間はとても大切なものだったはずだよ!!」
「母さん!!」
アキトの声にアスノは地上を見た。そこには自分の愛する大切な子が泣いている姿があった。
「母さん!!」
「アキト……!!」
「アスノさんはどうしたいの!? ニーベルンゲルゲンとしてじゃなく、アスノさんの本当の願いはなんなの!?」
「私は……私は……っ!!」
脳裏を駆け巡る数々の大切な思い出。そのどれもが愛おしく、失いたくない記憶。オケアノスと一体化すれば消え去ってしまう。頬を伝い零れ落ちる滴を手に取る。溜まる滴に、自分の顔が映し出される。
「エル……」
「私は……私は……!!」
「エル……!!」
「アキト達と、もっと一緒に生きたいっ!!!」
「レムーーーーーッ!!!」
アスノが自らの願いを口にして叫ぶと同時にオケアノスが再び覚醒して動き始めた。もうアスノを内に閉じ込めることもせず、体を大きく広げその身体を発光させる。
「自爆する気か!?」
「オォォォォッ!!!」
止めようと動こうとしたユグドラ達だったが、オケアノスが雄叫びと共に全身から魔力による衝撃波を撃ってきた。
「ぐっ……! 凄まじい魔力だ!」
「まともに近づけねえ!?」
距離のあるユグドラ達でさえ一歩も動けない状況でより近い場所にいたほのかもまた吹き飛ばされそうになっていた。
「ほれ、菓子娘。ここで負けてはいかんぞ?」
そんな声と共に彼女に襲い来る衝撃が和らいだ。顔を上げて前を見ると、アウルとグラキエスの二人が魔法障壁を展開して守ってくれていた。
「あの童の願いを届けるのじゃろ? ここで屈しては助けられるものも助けられんぞ?」
「我々が道を作る。ほのかよ、その高くそして折れぬ強き意思で彼女を助けるんだ」
「久々の共同技じゃの。しくじるでないぞ、グラキエス?」
「言われるまでもない。黒風の幽姫の異名、いまも伊達ではない事を拝見させてもらおう」
「若娘だったおぬしが言う様になったの。では、行くぞ」
黒き風と白色の冷気が合わさる。扇子を広げるアウルと、腰を落として拳を構えるグラキエス。
「「複合奥義、氷破絶風撃ッ!!」」
扇子を振り切り、拳を打ち出す。二人の一撃は絡み合い冷気が大気中の水分を凝固させ、それを風が加速させる。強力な氷の礫を加えた竜巻の様な攻撃はオケアノスの放つ衝撃波を貫いていく。その造られた道は完全なる無風状態だ。
ブレイブモードのウィルに備えられている三叉の金色の突起が光る。そこから桜色の魔力がそれぞれ鋭く突き出て、合わさりまるで槍の様になる。生み出される魔力槍、だがほのかの表情が苦しさに歪む。
(魔力が、足りない……!!)
先の最大出力で放ったホーリーライトジャッジメントで殆どの魔力を使いきってしまった。残った魔力では突撃までに失速して届かない。そんなほのかの手を、リースリットが手を添えた。
「………ほのか」
「リースリットちゃん?」
「私も一緒に行く。私の魔力を使って……。アスノを助けよう」
「リースリットちゃん……ありがとう。うん、一緒に行こう。アスノさんを助けるために!」
リースリットからウィルへ魔力が送り込まれる。桜色の魔力刃に更に金色の輝きが混ざり、魔力刃が更に大型のものとなる。
「ウィル! アキト君の願い、私達の想い、全部をこの一撃にのせるの!」
[Extreme Overdrive!!!]
「意志という名前を持つなら、私達の意志を奇跡に変えて!! 行くよっ!!」
桜色と金色の魔力が翼となりウィルから生える。ブースターからはかつてない勢いで魔力が溢れている。互いにウィルをしっかりと握ってほのかとリースリットは魔法を発動する。
「二心一体!!」
「デュアル・ドライブッ!!」
「ホーリーーーーッ!!」
「「ラーーーンスッ!!!」」
爆発的な加速と共に二人がオケアノスへ突撃する。障害のなくなった空間を二人は飛んで行き、オケアノスの―――本体とも呼べる白の欠片を内包するアスノへと突撃、激しい閃光が結界内を覆い尽くした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
都市の一部を覆っていた封鎖結界が解除され世界との接点が戻る。
オケアノスによって覆われていた雲と重苦しい気配は消え去り、空には煌々と輝く太陽の光が降り注いだ。地面に溜まっていた酸性の雨水なども蒸発して跡形もなく消え去っていきルインに再び平和が取り戻された。
それから二日後―――復興部隊を残し、首都から送られてきたSCCAの部隊と共にほのか達もまたアルセイユへと帰る時が来た。
「もう行っちゃうの?」
酸性雨でボロボロになって使い物にならなくなった駅から少し離れた場所に建てられた新しい簡易駅。大勢の人が行き交う中でほのか達はアキトと別れの時が来ていた。
「うん。SCCAの隊員さんに聞いたんだけど、今日の便に乗らないと復興資材とかでここに来るリニアトレインは人を多く乗せられなくなっちゃうんだって。だから今日乗らないと戻るのが難しくなるって言ってたの」
秘石のガーディアンによる被害は酷く、とてもではないがルインの持つ資材だけでは完全な復旧は不可能だった。
そこで首都から復興資材や人員そして機材などを搬送しなければならず、一度に多くの人を乗せられるのは今回で最後となる。
「悪いなアキト。ここの復興の手伝いもしたいとこだが、俺達にもやらないといけないことがある」
「ボクが拾ったあの欠片を集めること?」
「……そうだ。あれを片付けない間は手伝えそうもない」
一瞬だけ言うか考えたバルドが肯定の返事を返す。アキトは人で初めてニーベルンゲルゲンに願いをした。隠しておくことは出来ない。
「大丈夫だよ。私達はまた必ずここに来るから」
「ホントに?」
「うん、約束なの。これが終わったら、まあ必ず……ね?」
小指を立ててアキトの前に差し出す。それに彼も手を出し、小指を絡め約束を交わした。
発車時刻となってリニアトレインが動き出す。徐々に加速していく列車はあっという間に最高速度で走り出していく。その去り行く列車をギルド総本部『ルドガルア』からザックスは見送っていた。
「行っちまったか……。お前さんは見送らなくてもよかったのか?」
後ろのベッドで休んでいる人物へ声をかける。それにその人物は首を振った。
「そうかい。……にしても、奇跡ってもんは起きるもんだな」
「あの子の想いには、強い力……可能性の光が宿っています」
いままで発しなかった声にザックスは振り返る。光の加減で見えない顔、だがそこには確かに笑みが浮かんでいた。それにザックスもまた歯を見せて笑う。
「違いないガッハッハッハ!! …さって!!」
一通り笑った彼は医務室から出て行こうとする。
「どちらに?」
「ミラ王女の召喚の書状も貰ったことだし、ワシも首都のアルセイユに行こうと思ってな」
「リニアトレインに乗れば良かったのではないのですか?」
「色々と整理もしたいから歩きでいいんだよ。おっと言い忘れるところだったわい。お前さんが療養してる間はうちのバカ息子どもがお前さんの子供の面倒を見てくれる。心配しないでゆっくりと休めや」
「ありがとうございます」
振りかえらないで手だけで返事を返し、部屋を後にする。廊下に出ると今回招集されたギルドのリーダー達が廊下の左右に並んで集っていた。
「よくやったドラ息子共。今回の作戦は成功だ、ご苦労だったな。あとは自分の領地に帰ってもいいぞ」
「あの、親父。本当にSCCAと提携を組もうと思うのですか?」
「なんじゃい、あの時に話しただろ。聞いてなかったのか?」
「聞いていました。しかし…まだ納得のいっていない部下達もいます」
いままでSCCAとにらみ合いを続けていたのに、今になって方針が変わったのに躊躇いを覚える者達が多い。ザックスの下に居るルドガルアのギルド団員にも同様の様子が窺えていた。
それに最も強硬な姿勢だったのはザックス自身だった。だからこそ納得がいかない者が多いのだ。
「そうだなー……。ワシからお前さんらに分かり易く言えるとしたら……時代を動かす奴が出て来たからって位だな」
「時代を動かす者? それはあの少女達の事ですか?」
「それもあるかもな。あの子らはもしかしたら時代も変えてくれえるかもなガッハッハッハ!!」
彼女達から見えた未来を想像して笑いだす。彼女達ならもしかすれば亡き王の忘れ形見の彼女と共に歩めるかもしれない。
(その為にはまず行ってみないとな……アルセイユに。そんで会わねえとな…あの馬鹿に)
内に秘めたる決意を持ってザックスはその場を去って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
第三都市コーネリア……その都市から離れた深い森の奥、ぽっかりと開いた空間に一軒の民家があった。蔦や苔で壁は覆われ長年使われていない様子を見せている民家の窓には明かりが灯っていた。
その民家に一つの人影が近づいてくる。ドアノブに手をかけて中に入った。室内は古めかしい機械が置かれており様々な色の光が点灯していた。
そしてその先には古びた書庫が所狭しと並んでおり奥で本を山の様に重ねた状態のテーブルで本を読んでいる人がいた。
その人に外から来た者はそっと近づいていき手を伸ばす。
そして―――――
「わっ!!」
「ぬおっ!!?」
大声と共に背中を押した。それに驚きの声と共に本を読んでいた人は飛び上がった。その所為でテーブルにぶつかって上に乗っていた本の山が彼の方へ雪崩の如く崩れ落ちていった。
「……」
「エ、エメローネ君……もうそのおどかし方は止めないか? さすがにこういう事が何度も起きると私も辛い……」
「ご、ごめんなさい先生。でも……先生の反応が面白過ぎてやめられないんです!」
「中毒症状か!?」
崩れ落ちた本の山の中から飛び出して彼……オズワルドは思わずといった形でツッコミを入れる。そんな彼の姿を見て彼女…エメローネはクスクスと笑った。
「冗談ですよ先生。次からは気を付けて驚かしますから」
「驚かすのは決定事項なのかね……」
「はい、決定事項です♪」
満面の笑みで返事を返され、軽い頭痛を覚えて手を額に当てながら椅子に座った。
「君は本当に昔から変わらないな。敵わないよ」
「くすっ、ありがとうございます。…それで先生、なにをお読みだったんですか?」
肩越しに顔を覗かせて読んでいた書物に目を向ける。彼女から仄かに甘い香りが漂い僅かばかり動揺したが内にぐっと押しとどめた。
「君からもらった遺蓬人の本だよ。それで気になる所を見つけた」
「気になるところですか?」
「うむ、この文だ。ニーベルンゲルゲンは八つの属性を持った結晶体で欠片一つ一つが各属性を制御することで莫大な力で所有者の願いを叶える。とあるが私は一つ疑問に思ったのだよ。それほどまでに強力な力を持っているのに管理プログラム……“中枢”といえばよいか? それらしき記述が見当たらないのだ」
「中枢……? 核という事ですか?」
「そうだ。これだけ強大な力を持っているのだ。暴走が起きない訳がない。なら、それを抑止する管理システムがなければならないのだが……」
読んでいてそれに値するものが見当たらない。そこがオズワルドには不思議でならなかった。エメローネからの調査内容の話を聞いたが欠片は八つに分かれて飛散ようだ。
「確かにないですね? ……あら?」
「どうしたのかね?」
「先生、これは……?」
ニーベルンゲルゲンの詳細が残されたページから次をめくった際に見つけた彼女は指を指した。そこには『UNKNOWN』と書かれた影絵と『神体 ニアタ』という名前が記載されていた。
「『神体 ニアタ』……?」
「古代遺産の調査・研究に長けていた彼らですら見つける事も出来なかった古代インペリア時代に造られたと思われるオーパーツ。私も気になっていたよ」
神体 ニアタ
全長及び体重、保有魔力量不明のオーパーツ。古代インペリアが残したとされる最後の遺跡物。これに関しての詳細なデータはほとんど残されておらず、なにを目的として生み出されたのかも不明。航行艦と共に『惑星 アールヴレイズル』へと輸送されたのが最後の目撃だった。
「正体不明のオーパーツ……気になりますね。開発時期が戦時中と重なってるから決戦、あるいは土地再生用兵器なのかしら? でもそれなら星間移動をして輸送する理由はなんなのかしら……?」
「エ、エメローネ君!」
ぐっと身を乗り出してニアタに関する資料に集中する彼女にオズワルドが切羽詰まった声が届く。
「どうしたんですか、先生?」
「その…できれば離れてほしいのだが」
少し身体を押し付ける様に身を乗り出している所為で色々と背中から感触が伝わって来てどうにも集中できない。
言われて気付いた彼女は一度だけ考える素振りを見せた後、悪戯っ子の様ななにかを企んでいる顔になると更に彼に強く体をくっ付けて来た。
「ぬおっ!?」
「どうしてですか先生?」
「ど、どうしてって……いいから早く離れなさい。色々と当ってるから!?」
「わ・ざ・と…当ててるんですよ♪」
あたふたする彼の姿を見て気をよくしたのかもっとくっ付いてくる。
「別にいいじゃないですか。私と先生の仲でしょう? あの日だってそうだったじゃないですか?」
「いやいや、過去に何かありました的な風に言ってるが、実際は君がわざと階段から私に向かって飛び下りて来ただけじゃないか!? しかもそれは小学校の時だぞ!?」
「中学、高校でもやりました♪」
「…そういえばあったね。あの頃には君も大きく成長して――ってそうではなくてだね!?」
「大きくって、何処のことを言ってるんですか? やっぱり先生も男の人なんですね安心しました、ふふっ♪」
「なにを言いたいのか何となく察しはつくがそうじゃなくて、大きくってのは身長の話をだな……っというか話が逸れているぞ!? いいから大人をあまりからかうのは止めて早く離れなさい!」
だがそれに対して返事は返ってこなかった。抱きつく腕の力も弱くなり、急に大人しくなった。急に黙った彼女に彼もなにかを感じて暴れるのを止めて振り返る。
「そうやって、私をいつまで子供扱いするんですか?」
「エメローネ君?」
「先生……私だってもう二十歳なんですよ。もう遊びで先生をからかってるんじゃないんです」
あの頃も随分と本気だったのだけれど……。いまはあの頃よりももっと本気になった。この人はいつだってそう。まるで自分が愛されるのを拒んでいる様に一定の距離を置いている。
でもそんな彼を自分は―――
「先生……。私、ずっと前から先生の事が――!!」
自分の想いを全てぶつけようとしたその時――――通信の連絡音が室内に響いた。
「……」
「エメローネ君、連絡が来ているぞ。取らないのかね?」
「………むぅ~~~っ!!」
口を開けたまま固まってしまった彼女へ声をかけると、頬を精一杯に膨らませて地団駄踏んだ。さっきまでの大人びた姿も何処へやら、一気に子供っぽくなった彼女はご機嫌斜めな様子で通信回線を開いた。
「……もしもし、エメローネです~」
『シーガルです。至急、エメローネ様にお伝えしたい事があってご連絡をさせて……どうされました?』
「べっつに~」
明らかに不機嫌な彼女の様子に問いかけるが彼女はそっぽを向いて返答を拒否する。シーガルとしてはご機嫌斜めな理由を聞きたいところなのだが、いま聞けば余計なとばっちりを受けそうな気がしたので喉奥にしまう事にした。
「それでどうしたのかしら? またSCCAの上層部から変な依頼でもされたの?」
『いえ……今回は外で問題が起きました』
外という単語にエメローネは首を傾げ、話に耳だけを傾けていたオズワルドは文字を追っていた目が鋭くなる。モニター越しのシーガルは緊迫した面持ちでゆっくりと報告を始める。
『クロス王国が、魔法共和国に宣戦布告をしてきました』
強敵オケアノスを撃破したほのか達は一度、アルセイユへと戻る。
しかし安息の時間はまたたく間に終わりを迎えようとしていた。
それでは次回も宜しくお願いします。




