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第六十九話 VS白の欠片 オケアノス

六十九話更新


オケアノスに取り込まれたアスノを救出するために必死の攻防を続けるほのか達。一方その頃、SCCAでは都市を襲うオケアノスに対する準備が進められていた。


第七都市を囲む様に建つ巨大な城壁内――その中では多数の魔法士部隊が動いていた。


「こちら第七機動隊。所定の位置に着きました。システムチェック、問題ありません」


 薄暗い中で大きな物体の前で作業をしていた仲間が手を上げたのを確認した初老の隊員の一人が通信を開いて本部へと交信を行う。他の部隊からも同様の通信が彼の開いたスクリーンに映し出される。


『了解した。各自、その場で待機せよ』


本部からの返事を受け取った彼は了解と答え、通信を切って次の指令が来るまで仲間の下で待つ。


「ホントにこいつが効くのかねぇ……」

「なんだ、これを信じてないのか? 一応これでも現役なんだぞ」

「あっ、隊長。ですが、俺達はこれが動いたのを見た事ないんですよ?」


若い魔法士の男性がその物体の外装を軽く叩いて言う。

他の年若い魔法士達も同意見なのか表情に浮かんでいた。


「ああ、そうか。お前らはまだ子供だったから知らないか。そいつは十年前に起きた戦争で都市内に突入した敵艦隊や車輌を壊滅させた優秀な防衛兵器だぞ。当時は防壁内に防衛兵器を隠していたなんて相手も思ってなかったから結構な損害を与えたもんだ」

「ちょっと錆の入ったこれがですか?」

「まあ終戦してから手入れをされていなかったからな。動くかどうか分からんから心配してたが……さすがはナール陸佐が開発した物だ」

「ナール・ボルジャーノン一等陸佐が開発したんですか!?」


有名な魔法士の名が挙がって若い者達が驚きの表情を浮かべる。


 ナール・ボルジャーノン……『奇科学天才翁のナール』の異名を持つ老人で現在は第一都市を主軸として防衛を任されている人物だ。彼の造り出す物は多岐に渡り、軍事兵器の殆どが彼の発案で完成されている。


 十年前当時は軍事開発局の局長だったらしく終戦後、開発局を辞職した後にSCCAにスカウトされた。周囲の者曰く、『変人』と言われるくらい特殊な人物らしい。


「あの人の造った物の性能は皆も知っているだろう。だから大丈夫だ」

『こちら本部。各部隊応答せよ』


そこへ本部から通信が飛んで来た。話を切って隊長の彼は通信を開いた。


「こちら第七機動隊」

『各部隊、これより一三○○ヒトサンマルマルに作戦を開始する。各自準備せよ』


もうじき始まる作戦に隊員達の身体に緊張が奔る。

作戦開始時刻まで、あと五分だ。


「各員は持ち場につけ。これより城壁全方位からの『イデア』による一斉射撃による超大型モンスター撃破作戦を開始する!!」

「「「「サー、イエッサー!!」」」」


敬礼を行ってそれぞれが持ち場へと動き出す。


「ん?」


 持ち場へと向かおうとした一人の団員が『イデア』と呼ばれる防衛兵器の前で動く影を見つける。

 薄暗い中、目を凝らすとそれは一匹の白狐だった。何をしてるかと思っていると、なんと外装に爪を立てて引っ掻いているではないか。


「こらっ!!」


 大声に反応して狐がビクッと体を震わせてこちらを向いた。そしてすぐに走り出して近くにあった小窓からその身を投げて消えてしまった。

 しまったと思って慌ててそこから顔を出して真下を覗きこむが白狐の姿は見当たらなかった。


「いない……?」

「おいどうした。急に大声出して?」

「い、いや、なんでもない」


 仲間になんでもないと答えてもう一度下を見るが、やはり白狐は見えない。気のせいだったのだろうか。残った疑問を振り払い、持ち場に戻っていった。




「『防衛兵器 イデア』……ね。これはちょっとヤバそうかな」


目を閉じてジッとしていたシリウスが目を開けてそう呟いた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ほのか達の足止めと呼びかけを受けながらもガーディアンはその歩みを少しずつ続けている。八大属性に対して高い耐性を持つ光属性の力で彼女達の攻撃を大幅に軽減しているのだ。


「氷刺、アイスニードル!!」


 グラキエスの左右に二つの氷のスフィアが出来る。そこから氷の弾幕が撃ち出される。飛んでくる弾幕は相手の外皮の前に弾かれる。ガーディアンの目がグラキエスを捉え、光弾の弾幕を飛ばす。不規則な弾道は回避行動をとる彼女の後を追尾する。


 誘導弾と分かった彼女は回避行動を止めて急停止、反転し一気に最高速で突っ込んでその間を潜り抜ける。

 誘導弾も反転して彼女の後を追いかけ始める。スフィアを後方に置いて弾幕を張らせて相殺する。


「氷牙一貫!!」


顔に向かって氷の拳が叩き込まれる。ぎょろりとその眼が動いた。

押し返してふっ飛ばし酸のブレスを吐く。


「旋風凰刃破!!」


 アウルが扇子より放った突風がブレスにぶつかり風圧で四散させて防ぐ。二人を抜いてプレセアが飛び出してミョルニルをツェアシュラーゲンフォルムへ変えて鉄球を投げる。

 巨大な質量を持った鉄球がガーディアンにぶつかり、その巨体が揺らぐ。ガーディアンの体が発光を始め、衝撃波が起きてミョルニルが弾かれる。


「ウア゛ア゛ア゛ァァァァ!!」

「おい、こいつ周りから魔力吸ってねえか!?」

「の、ようじゃの……。やれやれ、厄介な奴よ」


 周囲から光の魔力素が減っているのを感じ取る。それに元精霊だったアウルやグラキエスは肯定の頷きを返した。吸収するにつれてその力が上昇していき、攻撃も激しさを増していく。


「アスノさん! お願い、元に戻って!!」


 飛んでくる弾幕を避けながらほのかが距離を詰めて呼びかける。それに返って来たのは獣の咆哮で、声の衝撃波で彼女は吹っ飛ばされる。


「ちっ、やっぱもうダメか!?」

「待ってバルドさん!! もう少し、もう少しだけ待って!」


 長い胴体を高く持ち上げ打ち下ろして来る。避けた二人に向かって、今度は翼を振るうと酸液がカーテン状に広がって飛んでくる。


「ちぃっ!! 獄炎旋風破!!」


 その場で回転して一閃する。酸の壁に一閃の切れ込みが入るとそこから漆黒の炎が一気に燃え広がって攻撃が蒸発して消滅する。

 そしてバルドの一撃はガーディアンの攻撃を貫いて本体へと直撃した。その瞬間、仰け反ったガーディアンから力が抜けアスノの姿が見えた。


「アスノさん!?」

「ほの……かさん……ですか?」


 十字架に磔にされている様な体勢で衰弱した様子のアスノが顔を上げる。見渡し、あかね達を見つけるとふわっとした笑みを浮かべる。


「あぁ……お友達の方々ですね?」

「待っててアスノさん! すぐに助けるから、それまで頑張って!!」


しかしそれにアスノが首を横に小さく振って拒否した。


「私の事は、気にしないで……早く倒して下さい」

「な、なんで!?」

「ちょっと待てよ!! 折角ほのかが助けるって言ってんだぞ! 根性で耐えろよ!」

「待てプレセア。彼女は――」

「ぐっ、ああぁぁぁぁ!?」


突然アスノが苦しみに悶え悲鳴を上げる。いままで力なく立っていたガーディアンの虚ろだった目に光が戻り始めている。


「私は……このガーディアン……『オケアノス』の一部……。願いで出来た、仮初めの肉体……だから私ごと、封印して……!!」

「で、出来ないよ!! アスノさんを封印するなんて、私には出来ないの!!」

「私が、抑えている間に、早く……!!」

「そんな……アスノは、助けられないの……」

「そんなのって、あんまりですよぉ!」


その時、都市全域にけたたましい警報が鳴り響いた。急に鳴り始めた警報に全員が驚いて地上を見る。


「なんだこの警報は!?」

《全員、その場から逃げた方がいいよー》

「この声は……シリウス君!?」

《正解~。んで、都市の防壁を見た方がいいよ》


 全員に念話を飛ばして来た声の主はシリウスだった。言われた通りに周囲の防壁へ目を向ける。そこに見えたのは、防壁の壁が一部開いて顔を覗かせる二つの筒状の物体だった。


「なんだあれは……?」

「でっけぇ筒だな。なんだありゃ?」

「あそこだけじゃないみたい。見て!!」


次々に壁の一部が開いて同様のものが出てくる。それは至る所から姿を見せてオケアノスと自分達を囲む様に防壁全体から展開されていた。


《防衛兵器『イデア』って言うものらしい。いまからそこに一斉射撃が始まるから早く離脱して!》

「ちょっと待てよ!? あれ、まさか全部砲台かよ!?」

「うえぇ~!? ちょっと数が多過ぎやしませんか~~!?」

[高エネルギーの集束を確認! 発射まであと十秒!!]

「まずい! 全員こっちだ急げ!!」

「待ってバルドさん! アスノさんがまだ……!!」

「馬鹿野郎! 巻き込まれたいのか!!」


留まろうとしたほのかを引っ張って全員がその場から退避する。

周囲に展開されたイデアの砲口に光が集束していく。


「エネルギー充填完了!」

「イデア、撃てぇーーーっ!!」


同時に発射される光弾。一直線に飛んで行った光弾全てが活動を停止しているオケアノスへ着弾し大爆発が起きる。


「目標へ直撃!!」

「やったか……!?」


 本部で待機していた作戦隊長は黒煙立ち込める先を注視する。防壁に備えられている全攻撃を一点に集中して撃ち込んだのだ、倒せたはずである。


漂う黒煙――――――その向こうで金の光が灯る。


「ま、まさか……!! 第二斉射っ、撃てえぇっ!!!」


再び放たれる光弾。音速を超えて、まさに光速で飛ぶ砲弾は黒煙の中にいるそれに再び襲いかかる。


「ラー、アルム、ナー……。ラー、アルム、ナー……。ラー、アルム、ナー……。コール…コール…コール…オケアノスッ!!」


 全身を包む金の魔力光が爆発的な勢いで広がる。周囲にある建物も地面も吹き飛ばす光の暴発はイデアの砲撃を打ち消してしまった。


「標的の魔力量急上昇!! イデアを防がれました!?」

「引き続き砲撃を続行! 攻撃隊を出撃、砲撃で援護しつつ攻撃開始!!」


 本部より部隊が次々に出撃する。砲撃の雨に晒されているオケアノスへ攻撃を開始した。

 色とりどりの魔力光の爆発がオケアノスの周囲で発生する光景をイデアの攻撃に巻き込まれる寸前で逃れたほのか達は雨に当らない建物の下で見ていた。


「やべぇぞ。あいつ、覚醒しやがった」

[推定魔力量Sクラス。なおも保有魔力量上昇中]

[大気中から魔力素を取り込んでいる様です。このまま進むとこの土地の魔力素が枯渇してしまう恐れがあります]

「やっと追い付いたぜ!」


走って駆け付けたのはサヤとアシュトンの二人だった。

雨を避けて移動してきたので合流までにだいぶ時間が掛かってしまった。


「サヤちゃん、アシュトン君!」

「二人とも雨は大丈夫だった?」

「まァなんとかな。時々、アシュトンの奴が魔術で雨避けの壁を作って道を作ってくれたお陰だな」

「そ、そんな事ないよ。あっ、それでいまはどうなってるんですか?」


褒められて謙遜けんそんな態度を取っていたアシュトンが現状を聞いてきたのでこれまでの事を話した。


「それじゃあ、どうするんですか?」

「いまんところ、SCCAの連中が砲撃を混ぜた攻撃を続けてる。あとになってギルドも到着してここは激戦区になるだろう。俺達が出来るのは、もうない」

「そんな!? それじゃあ、アスノさんはどうなるの!?」

「オケアノスごと倒されて封印される……」

「もう、私達に出来る事は……ないの?」


黙って聞いていたリースリットがバルドを見上げる。無垢な瞳は逸らされる事はなくバルドを映す。


「………ああ」


 それにバルドは目を閉じ、小さく答えた。いま飛び込んでも戦いの邪魔にしかならない。出来うることはした。あとは封印されるのを待つしかない、と思っていた。


[オケアノスの周囲で魔力の異常な上昇を確認!!]


しかしウィルからの報告に状況は一転した。振りかえるとオケアノスを中心に光の魔力素が渦を巻いていていた。


「な、なんだあれ!?」

「なんという濃い密度の魔力だ!? あれだけの魔力を制御するというのか!?」

「ラー、アルム……トール!! ラー、アルム、トールッ!!」


 いままでのガーディアンとは比較にならない量の魔力を制御し始めたオケアノスに驚きの表情で見つめていると再び古代インペリア語でなにかを始めようとしていた。


「な、なんかヤバそうな予感……!!」

「コール、リアクト……。コール、リアクト! アシッドリアクトッ!!!」


 魔法が発動と同時にオケアノスを中心に地面に大きな魔法陣が広がる。そして直後に魔法陣の広がる一帯だけ酸性雨の勢いが異常なまでに増したのだ。


「う、うわあぁっ!?」

「マジックアーマーが溶けてきた!? まだ限界時間は超えてない筈なのに!?」

「総員後退っ、後退ーーっ!!」


 雨から逃れようと部隊が次々に後退を始める。そんな彼等を逃がさんとオケアノスが翼を振るい、魔力弾を飛ばして攻撃していく。必死に逃れようとする彼等が一人、また一人と撃墜されていく。

 仲間を助けようとイデアからの援護射撃が行われているが、直撃を受けてもまるで効いている様子が見られない。それどころか、受けたダメージが回復していくようにもみえる。


「活性化してやがる!? どうなってんだよあれ!?」

「あれだ。あの魔法陣の広がる領域ゾーンにいるせいだ。あの中にいることで奴は体組織を活性化させている」

「じゃああん中にいる間は無敵かよ!?」

「防ごうにも接近すれば雨でやられる。これでは一方的ではないか!?」


 周りに敵がいなくなったオケアノスが今度は砲台の方へ目を向ける。翼を振り下ろし酸を混ぜた衝撃波『フォルグ』を飛ばし、街ごと砲台を溶かす。


「このままだと街がめちゃくちゃになっちゃう!」

「で、でもどうしたら……!!」

「おうそこっ!! 退いた退いたーーっ!!」


 大声のした方を向くと『ルドガルア』のギルド長ザックス・イエーガーが後ろに大勢の人を引き連れてやってくるのが見えた。


「退かねえと、巻き込んじまうぞ! いくぞぉっ、怒天懐斬どてんかいざんっ!!」


 持っていたとてつもなく大きな戦斧を片手で振りまわして地面へ叩きつけ衝撃波を放った。その衝撃波の大きさたるや、道路の幅ギリギリに匹敵する大きなものだった。

 建物の壁際に背をぴったりつけたほのか達の前を凄い勢いで奔っていく衝撃波がオケアノスへと直撃し、巨体がひっくり返った。


「行け、息子ども。派手に暴れてきな!! おっと…撃墜されたSCCAの連中も忘れずに拾って来いよ!!」

「おおーーーーっ!!」


背後に控えていたギルドの人達が一斉に飛び出して地上と空を駆けていく。一人残されたザックスはほのか達の下へとやってきた。


「よぉ、また会ったな!」

「ザックスさん!」

「随分と遅い出動じゃねえか?」

「息子ども説得すんのに時間が掛かったんだよ。そう言うなって」


実力名高い彼等を説得するのは骨が折れたのだろう、やれやれと腰を叩いたりして解す仕草をする。


「SCCAと連携をとる事に決めたのか?」

「あくまで今回だけだな。あとはミラ姫に会って話しをしてだな。年寄りに遠出をさせおってからに……」

「あんな技出す奴が言ってんじゃねえよ」

「おぉ、子供のクセに言うじゃねえか。ガッハッハッハ!!」

「んなっ!? アタシは大人だ!!」


 一つの単語に対して敏感に反応したプレセアが牙を見せて咆える。そんな反応がますます子供っぽいのにザックスは歯を見せ大笑いする。


「親父!」


っとそこへ下りて来たのは『アンフィスバエナ』のギルド長ギルバートだ。


「おうどうしたドラ息子?」

「敵の動きが活発化してます。あの周囲だけ非常に強い酸性雨で守られて接近できません」

「被害は?」

「既に数名の負傷者が出てます。撃墜されたSCCAの隊員はなんとか回収を行ってますが……進撃を止める事は出来そうにありません」

「うーむ、もちっと呼べばよかったか……。油断してたわけではないが、向こうさんは規格外もいいとこだったな」


 顎ひげを擦りながら唸っていると、その場で暴れていたオケアノスに動きがあった。こちらに目をつけ、接近して来るではないか。その下では負傷した仲間や拾ったSCCAの隊員を背負って退避する人達が見える。


「エル、エル……レム……。エル…エル……レムッ!!」


大きく息を吸って身を反らしたオケアノスが口から光のブレスを吐いた。

撤退を始めているギルドの集団へブレスが迫る。


「ドラ息子共をやらせると思うか? 一徹、親父の拳骨!!」


 黄土色の魔力が左腕に集まる。左手を拳にして地面に思いっきり拳を叩き下ろす。地面に広がる魔法陣と同様のものが後退するギルドの集団のすぐ後ろに広がる。地面が円形に大きく割れ、垂直に持ち上がり壁となりブレスを受け止める。


「おう息子ども! さっさと退避しろよ。属性の相性でこっちは長く持たねえぞ」


 言うとおり壁に罅が入って砕け散る。幾人かはザックスの後方へ退避が間に合ったがまだ残されている者達をブレスが呑み込もうとしていた。


「ウィル!! オーバーリミッツッ!!」

[Over Limits LevelⅠ!!]

「ホーリー、バスターーーッ!!」


 ギルドの人達のすぐ後ろにほのかが飛びだし、砲撃でブレスを吹き飛ばし本体へ直撃させる。一瞬の怯みにフィリスが飛び出して捕縛魔法ツイスト・カーレントを繰り出しその巨体を拘束する。


「いまの内に早く!」

「すまんっ!」

「援護感謝する!」


礼を告げて負傷者を連れた冒険者が撤退を終える。それと同時にフィリスの捕縛魔法を引き千切ってオケアノスが咆える。


「ほのかの砲撃を受けても平気そうな顔をしてるなんて……」

「あの雨の中では奴の回復力の方が皐月の攻撃力を上回っているのか……!!」

「アシッドリアクトさえなんとかできたら……」


 立ち塞がるほのか達を睥睨へいげいしてオケアノスの動きが止まる。そして顔をもたげその先に見えるSCCA本部をその水晶の様に光る瞳に映す。口から白い息が零れその身にグッと力を込め縮こまる。


[魔力の異常な上昇を確認! オケアノスの体内で膨大な魔力が膨張を始めてます!!]

「まさか、自ら魔力の暴走を起して自爆する気か!?」


メローからの警告にアイネが相手の意図を察知する。


「自爆!?」

「…どの位の被害が出る?」

[計算ではこの都市を含めて半径数キロが消滅します]


 フォルテから発せられた結果に背筋が凍りつく。それはつまり……この都市に住む全ての人間を消し去ると言うことだ。


「もしそれが爆発じゃなくて酸性の液体をぶち撒ける技なら……都市全てを津波の様な酸性液が襲って全てが呑み込まれる。アキトの願いは成就じょうじゅするか」

「そ、そんなのダメなの!!」

「止めなきゃ! こんな願い、叶えさせる訳にはいかない!!」

「……アスノが、悲しむ」

「だがどうする!? あの強力な酸性雨の前では近づくことすらできない。皐月女史の砲撃も効かないとなると手の打ちようが――」


 しかしその時、頭上から眩い光を放つ光球が雲の中からゆっくりと姿を見せた。空高い位置に滞空するそれにほのか達だけでなく地上にいる全ての者は目を向ける。

 光輝く黄金の球体、それが収縮を始めて中から一人の人が姿を見せる。金色の七対の翼に同じく金の短髪の男性――――光の精霊レムルスであった。


「レムルス!?」


頭上に現れた光の精霊に驚きを隠せない。

あれだけ人との関わりを拒んでいたレムルスがどうしてここに――


見上げるほのか達と同じく頭上から感じた魔力に反応してオケアノスが顔を上げ、レムルスを視界に捉える。


「エル…エル……レム。エル、エル、レムーーッ!!」


 そしてレムルスへと雄叫びを上げるやその翼を大きく広げて地上から飛び立った。速度を上げて接近するオケアノスは大きく息を吸うと、宙に浮遊するレムルスへ酸のブレスを放つ。


だがあらゆるものを溶かす強力な酸攻撃はレムルスが正面に張った光の壁にいとも容易たやすく防がれてしまった。


「ふん。汚らわしい雨を降らす矮小わいしょうな存在が、我と同じ天に立つな」


右手を高く掲げる。その手に光が収束しはち切れんばかりの膨張を起こし溢れる。


「この汚らわしい雲と共に……天から落ちよ!!!」


 振り下ろされた手から光弾が放たれる。空気が振動するほどの質量を宿した光弾がオケアノスへ真っ直ぐに落下。同時に雲の向こうから六つの光点が見え、次の瞬間、吹き飛ばす勢いで雲を貫く直径十数メートルの光線が追従する様に落ちた。


 光弾が胴体へ直撃し、オケアノスの巨体が押し返されて地上へ真っ逆さまに光弾と共に落ちて砂煙を巻き上げる。その後に六つの光線が墜落地点へ落ちて周囲の建造物ごと大量の土砂を噴き上げる大爆発を起こした。


「雲が吹き飛んだ!?」

「なんつー火力してんだよあいつ!?」

「見て、オケアノスが!」


薄れる砂煙の向こうで巨体が持ち上がる。その身は泥や傷に覆われていて、先の一撃がどれほどのものか物語っている。


「傷が回復していない?」

「酸性雨を降らす雲を吹き飛ばされて弱まったか」


 アシッドリアクトが解除され身体の活性化が弱まったオケアノスを見下す様にして見ていたレムルスが地上にいるほのか達を見つける。


「……ふん」


 左手を水平に動かす。封鎖結界が広がり、一瞬にして一キロ圏内が包み込まれた。そして驚く事に結界に包まれた世界が瓦礫と朽ちた剣達が突き立つ荒野へと変化していた。


「封鎖結界!? それもこんな大規模なのを一瞬で!?」

「固有結界も同時に併用してるな。さすがは光の精霊といったところか」


 外界との接点を断ち被害を防ぐ封鎖結界、自らの潜在能力を最大限まで引き出し、相手のフィールドに対して影響を与える力を封じる世界を作る固有結界。二つを同時併用するのは精霊であるからこそ容易に行える。


「オア゛ア゛ァァァ!!」

「……まだ立ち上がるか。矮小な存在のわりに随分とタフなものだ。ならば、もう一度受けて見るか?」


天へ掲げた右手に光が収束する。もう一度、同じ魔法をオケアノスへ叩き込もうとした。

――しかし、レムルスの前にほのか達が立って道を遮る。


「待ってレムルスさん! オケアノスに攻撃するのは待ってなの!」


 あそこにはアキトの大事な親であるアスノがいる。レムルスの攻撃はオケアノスを倒す勢いだ。彼の攻撃はオケアノスごとアスノを消し飛ばしかねない。

そんな彼女達の行動にレムルスは理解し難いといった様子で怪訝けげんな顔を作る。


「……分からぬな。あれをどうにかしろと言ったのは貴様らだろ。それを止めろと?」


 攻撃を止めたところにオケアノスから光弾の雨が飛んでくる。はらう様に腕をレムルスは振るうとほのか達の後方で煌めく閃光が無数に起きて飛来する弾幕が次々に爆発を起こし消滅する。


「人間とはやはり理解し難いな。言った事をあっさりとくつがえす。そんな存在に貴様らは可能性を持てと……?」


ほのか達の傍らにいるバルドとアウルに視線を送る。それに二人はなにも言わずに見返すだけ。


「まあいい、興がめた。あとは貴様らが勝手にすればよい。ただし……我はそう長くは待つ気はない。さっさと終わらせるのだな」

「こ、この野郎……っ! やっぱムカつくぜ!!」

「諦めい、大地の娘よ。奴は今も昔も変わらぬ。それよりもオケアノスの方を早くなんとかする方が賢明じゃ」


 レムルスの一撃で体力を大きく消耗して動きは初めの頃よりも弱っている。いまならアスノに声が届くかもしれない。望みを持ってほのか達はオケアノスへと挑む。そんな彼女達を未だアキトの願いを叶えんとするオケアノスが咆哮で応え、襲いかかる。


《レムルス、久方ぶりじゃねえか》


 ほのか達の戦闘を見ていたレムルスに突然念話が飛んでくる。視線を彼女達から外して地上を見たレムルスの視界にザックスの姿があった。


「我に念話を飛ばしたのは貴様か、人間?」

「おいおい。人間だったら全員そう呼ぶのかよ。勘弁してくれ」

「我にとって人間などどれも等しい存在だ。なにか問題でもあるか?」

「それじゃあよ……ヨーデルもそれと同じって事かい?」


 その名が挙がった途端にレムルスの眉が動いた。翼を広げて降下した彼は地面に足がつく一歩手前の位置で止まりザックスと向き合う。


「貴様……何者だ?」

「何者って、よく空の柱にきてた人間に向かってそりゃないぜ」


 レムルスの言動に苦笑する。そんなザックスの姿をジッと見ていたレムルスだったが記憶の中に思い当たる人物に当たった。


「あの男に付き従ってた者の一人か。人間はやはり老いるのが早いな」

「精霊と一緒にされちゃかなわねえな」

「ふんっ……。して、あの男はどうした?」


 鼻を鳴らしそっぽを向いたレムルスが眼だけをザックスに向けて問いかける。それに余裕のあった表情が消えて暗い顔になる。


「……死んだよ。五年前にな……」

「……そうか。天へと昇る光の中に一際輝く魂があったが、それが奴だったか」


 人の死はなんとも呆気ないものだ。目を閉じて小さく呟く様はどこか死を迎えた彼の死をいたんでいる様に見えた。それから目を開いたレムルスはザックスへと視線を戻し、彼の服装に指摘を入れる。


「その身なりから察するに、あの座から叩き落とされたか?」

「がははっ! ちげぇよ、近衛総隊長の座から落とされたんじゃない、自分で降りた・・・・・・んだよ。それにいまのワシはSCCAじゃねえ、ギルドの総長だ」

「分からぬな。組織というものを二分すれば更なる混乱を呼ぶというのに何故ギルドなるものを作るか?」


 強大な組織が一つの国に二つも出来れば新たな争いが生まれるのは必然の理、なぜ分かっていてそれをするのか理解不能だった。それはかつて平和を願ったあの男の目指す未来とは掛け離れたものだ。何故、それを選んだのか。


「………あいつの目指した未来が、崩れそうだったからだ。知らず、止められなかったこの国の暴走に呑まれ死んでいったあいつの代わりに守らないといけない…あいつの生涯唯一つの願いをな」


過去を思い出したのか、その大きく、しわのある手に拳が生まれる。握りしめられた手の合間から赤き滴が伝い、大地に落ちる。


「……人間の欲望とは、に恐ろしきものだな。そしてそれはあれも同じか……」

「ニーベルンゲルゲン……。あの嬢ちゃん達が戦っている奴の正体らしいな」

「あれはもう手遅れだ。あの中からなにかを助けようと思っているのだろうが、それはもう叶う事はないだろう」


いくら願おうと、叶わぬものもある。つぶやく様に言って彼は翼を広げ、再び大空へと飛んで行ってしまった。飛び立つレムルスを見てザックスは彼に聞こえない小さい声で呟いた。


「そうだったとしても、人間ってのは奇跡を願っちまうんだよ。そういう生き物だ」




SCCAの隠し玉やギルドの攻撃もものともしないでオケアノスは暴走を加速させる。しかし、天より舞い降りたレムルスの力によってその力は抑え込む事に成功した。

弱体化したオケアノスを前にほのか達は再び突撃する。


それでは次回も宜しくお願いします。

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