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第六十八話 仮初め

六十八話更新


巨大モンスターの反応に駆け付けたバルドとリースリットが到着した時、その場にはほのか達が目の前の光景を信じられないという様子で立ちつくしている姿があった。



 晴天の下、雷鳴と共に三度みたびその姿を見せた巨大モンスターが天へと向けて咆哮する。声は大気を震わせ、天と地上を震撼しんかんさせる。その声に呼応する様に上空にどす黒い雲が何処からともなく姿を見せて瞬く間に都市を覆い尽くす。


「まずい…酸性雨が来る! お前ら、一先ず避難するぞ!」

「でも……あのモンスターはっ!」

「話は後で聞く! いまは安全な場所に身を隠すのが先決だ!!」


 何時降って来てもおかしくない天候に舌打ちして、足が動かないほのかやフィリス達を近場の建物の中へと連れ込む。全員が避難を終えた所で程なくして空からしずくが一つ、また一つと落ちて来てやがてそれは大量の雨となって降り始めた。


「間一髪か」

「危なかったねー。あのままだったら全員雨であばばばってなってる頃だったよ」

「シリウス、俺達のいない間になにが起きたか教えてくれ」


 ほのか達の様子を見るとまだ現実を受け止めきれていない様子で呆然としている。あれでは話を聞くに聞けないだろう。


「あの大型モンスターの正体、それは人間だった。名前は、アスノ」

「え……」

「リースリットは知ってるね。アキトの、あの子達の母親さ」




いまから数時間前―――


 ほのかとフィリスが二人で街の中を見て回ろうという話をしていた。それを聞いていたシリウスが同行して三人で街の中を散策しに出た。


 二日間の間に異臭はだいぶ薄れたのか鼻を指す様な臭いもなくほのか達は街中を談笑しながら歩いた。その時、アキトとアスノとばったりと出くわした。


面識のあるシリウスがいたおかげで互いの自己紹介等もスムーズに進んで、買い物途中だという二人のお手伝いをすることになった。


「ボクが怖くないの?」

「ふえ?」


そんな時、アキトからそう問われた。何の事か分からないほのかやフィリスは首を傾げる。


「ボクの顔を見て怖くないの? こんな風になってるのに……」


 指し示す先にあるのは焼けただれた左半分の顔。痛々しいそれを二人に見せたアキトはもう一度問いかける。


「こんな気持ち悪いのに、二人は怖くないの?」

「どうして怖がらないといけないの?」

「え?」

「それよりも、アキト君は大丈夫なの? その、いたくないの?」


 心底不思議そうに首を傾げるフィリスと火傷の痛々しい様子に心配そうに見つめるほのかに逆にアキトの方が驚かされた。いままで怖がられる事はあったが心配されるというのは経験がなかった。


「いたくはないけど……」

「そっか、よかった」


ホッとしてふわりと笑みを浮かべる。二人にとって気がかりなのはそこだけだ。アキトのことが怖い等と微塵みじんも感じていない。


「ねえアキト君! よかったら私達とお友達になってほしいの!」

「とも…だち?」

「うんっ!! 友達なの!」

「いいけど……」

「本当!? やったの~♪」


 両手を上げて喜びを体で表現するほのか。年の近い男の子と友達になるのは彼女にとって初めてなこと。アキトと友達になれた事を心の底から嬉しそうにしていた。

 一方、アキトの方はいまや家族となった他の孤児の子達以外に繋がりはなかった。友達という存在がいなかった彼にとって友達という響きは心に来るものがあった。


「おや、ほのかとフィリスはもう友達になれたのかい?」

「うんっ!」

「俺とも友達になってくれないかな~? いまならな~んと、自信作の『カオスでビックリな手作り弁当』のおまけ付き!」

「いらない……」

「お兄さん傷ついちゃうよー」


 白い目で距離をとるアキトによよよと泣き崩れる。わざとらしいその様にほのか達はぷっと吹き出して笑い、つられてアキトも表情を崩した。子供達が笑ってくれたのに嘘泣きを止めてシリウスも笑みを浮かべ、改めてアキトへ手を差し出す。


「まあ弁当の事は冗談だけど、友達になってほしいのは本当さ。よろしくアキト!」

「よ、よろしく……」


 差し出された手におずおずと手を差し出して握手を交わす。そんなアキトの姿をアスノはとても幸せそうな顔で見つめていた。




晴れて友達になれたほのかとフィリスは、先までの空気も一変して楽しそうに会話を交わしていた。


「ほのかとフィリスは、どうして旅をしてるの?」


 二人の会話を聞いていてアキトが疑問に思ったのはそこだった。二人の出身は聞くに第三都市。ここからはだいぶ遠い土地であるそこからどうしてここに来たのか疑問に思ったのだ。


「えっとね、それはあるものを探してるからなの!」

「探し物?」

「うん。放っておくと危ないものなの。だから、それを集めてるの」

「どんなもの?」

「キラキラしてて、結晶みたいなものさ」


その質問に対して答えたのはシリウスだった。具体的な形や名前を上げない抽象的な言葉で答えを濁す。


「それはそうとアキトはアスノと本当に仲がよさそうだね」

「そうだよ。お母さんはボクの…僕だけじゃなくて皆にとって大切なお母さんだもん」

「ふふっ、ありがとうアキト」


 アキトの言葉にアスノは微笑みを浮かべる。それは愛する息子を見つめる母親そのものだった。会話を続けていると、彼等の前方に目的の店が見えた。


「あそこでいつも買ってるの?」

「あそこがこの都市で一番安くて沢山帰る場所だから」

「どんな所か気になるの。ねえ、早くいこ!」


 興味津々の二人に引かれる形で後をアキトもついていく。そんな子供の微笑ましい光景にアスノはふふっと笑い、シリウスも笑みを零した。


「ありがとうございます、シリウスさん」

「ん?」

「あの子の友達になってくれて本当にありがとうございます」


お礼を言って頭を下げる。しかし、顔を上げた彼女はアキトの方を向くと悲愴ひそうな表情に変わった。


「あの子は顔の火傷の所為で院にいる子達以外からは怖がられて友達もいなかったんです。あの火傷の所為であの子は沢山、沢山傷付いてました……」


でも……。ほのか達の方へ視線を送る。


「ほのかちゃん達のお陰でもうその心配はなくなったと思います。きっと、あの子たちはアキトを裏切らない……なんだかそう確信できるんです」

「二人は素直でいい子だし、人の本質を見抜く力があるからね。見た目でこだわる様な子じゃないさ」

「あの…出来れば他の皆さんにもアキトの事を紹介して頂けませんか?」

「勿論! 皆ならアキトの事を歓迎してくれるよ。リースリットも、友達になってくれるさ」

「ありがとうございます」


 ほのかだけじゃない。あかねも騎士達も皆きっとアキトと仲良くなれる。アキトを仲間達に紹介する事を約束するとアスノはもうこれ以上の幸せはないかのように微笑みを浮かべた。


「ところで、アスノは孤児院を何時から経営を始めたの?」

「つい一月ほど前からです。最初は子供達も警戒してて懐いてはくれませんでしたけど、いまではいい思い出ですね」

「へぇ~、一月前、か~。じゃあさ、その前まではなにをしてたんだい?」


 そして話題は彼女のことへと移る。いったいどういった経緯で孤児院を始めようと思ったのか、それに至るまで彼女はいままでなにをしていたのか気になった彼は質問を投げかける。


「え……そ、それは…そのっ……」


 しかしシリウスの質問に彼女はすぐには答えなかった。大きく目を見開いたかと思うと目を泳がせて色白だった肌が更に白さを増した。彼女の反応を見てシリウスはおや?っと疑問に思った。

 どうしたのかと聞こうとしたその時、アスノが急に苦しそうな表情を浮かべてしゃがみこんでしまった。


「ちょっ、ちょっとどうしたのさ!?」

「だ、だめ……! 出て、こないで……! 私、は…まだこのままで、いたいの……!!」


 自らの体を抱き締める様に腕を回し震えるアスノに異変が現れる。服越しから彼女の身体に白色の紋様が浮かびだしたのだ。


「この文字……古代インペリアの!?」



「ボク、思うんだ。なんで人ってこんな風に見た目が違うと距離をとろうとしたり気持ち悪がったりするのか」

「どうしたの急に?」


前を歩いていたアキトが歩みを止めてそんな事を口に漏らす。それに二人も歩くのを止めて立ち止まった。


「皆、経験してないからだよ。火事で親が死んで、火傷を負って独りぼっちになることを知らないから……」


 そして頭上から照らす太陽を彼は見上げた。目に刺す様な眩い輝きを放つ星。手をかざし影を作ってそれを見つめる。


「太陽が……まぶしい。まぶし過ぎて、憎い……。みんな、通る時に見るんだ……ボクの顔を、そして笑うんだ、気持ち悪いものを見るような目で見るんだ。なにも……知らないくせに!!」


 アキトの様子がおかしい。二人に話しかけている様に見えるが、その目には二人は映っていない。様子が変になったアキトに危機感を覚えた二人が一歩だけ後退りする。

その時、二人は目にした。アキトのかけていた首飾りが胸元で服を通して金色の光を放っているのを……。


「だから、だからボクは……!!」

[強い魔力反応を感知! 発生源は目の前の少年からです]

「えっ……!?」

「アキト! やめてっ!! それ以上言っては――っ!!」

「みんな、おんなじ目にあえばいいんだ!!!」


少年の叫びが都内に響いた。その瞬間、彼の持つ欠片が強い輝きを放ち世界を金色に染める。


「あああああああぁぁぁぁぁ!!?」


 それに合わせて背後から悲鳴があがる。光の向こう、地面に蹲るアスノから膨大な魔力が放出されていた。その身体に描かれているのは古代インペリアの文字だった。


「お母、さん……?」

「アキト、皆さん……逃げてっ!!!」


 彼女が声を張って言うと同時に首輪を千切り、彼の下から白い欠片が飛び出し、アスノの下へと飛ぶ。そして、彼女と一体化する。綺麗な黒真珠の目が一変して金色に輝いて、声は獰猛どうもうな獣の様な雄叫びを上げる。


「三人とも、逃げるよ!!」


 呆然と事態を見ていた三人をシリウスが駆け寄って来て、抱き上げてその場より退避する。光は益々強さを増していき、合わせて周囲を濃密な重圧プレッシャーが包み込む。


 晴天の彼方から落雷が彼女の下へ落ち、爆発的な閃光が周囲を包んだ。ある程度離れたところで着地して遅れて襲ってくる風圧から彼女達を守る。そして、彼女達の前に、立ち込める霧の中に巨大な影がそびえ立っていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 全てを話し終えたシリウスが一つ小さく息を吐く。その彼から視線を外し、酸性雨の降る中ビルを超える巨躯を持つモンスターを窓から見る。


「そうか……。あのモンスターは秘石のガーディアンで、あの時助けた子の母親か」

「一月前の事を聞いても答えられなかった理由もこれで分かったよ。秘石が飛び散ったのは一月前くらいだったからね」

「願ったことで出来た、仮初かりそめの肉体……か」


 酸性雨の降る中、たたずむガーディアンが咆哮を空気を震撼しんかんさせる咆哮を上げ動き出す。アスファルトの地面を削り長い胴体をくねらせて真っ直ぐにSCCA第七都市作戦支部へと向かっていた。


「願いを叶えるために大勢の人間がいる場所を狙ってるな」


 バルドの目付きが変わる。虚空からケルベロスとバハムートを取り出し、ドアを開け放った。その音に呆然としていたほのかがハッとなりバルドの方を向く。


「バルドさん、どこ行くの!?」

「決まってるだろ。あのガーディアンを倒しに行くんだよ」

「っ!!」

「だ、だめっ!! そんなのダメなの!!」


倒すという言葉にアキトの体がビクリと震えた。ほのかは駆け寄りバルドのコートを掴んで行かせまいとする。


「離せほのか」

「いや!! 離さないの!!」

「あれは倒さなきゃいけない敵だ」

「敵じゃない。アスノさんなの!! 助けないといけないの!!」


あのガーディアンの中にアスノがいる。アキトの、アキト達の大切な親があそこにいるのだ。


「他にもなにか、なにか方法が――!!」

「それはなんだ?」


 言葉をさえぎって低い声がほのか達の耳を打った。掴む手をそっと解かせた彼が振り返った。太陽を遮られ曇り空を背にした彼の顔に暗い影が映る。


それでも輝きが失せない満月の様に綺麗な金の瞳が異様に恐怖を感じさせる。


「いますぐにその方法を言ってみろ。それが妥当ってなら俺も協力してやる」

「そ、それは……」


すぐには答えられなかった。それにバルドの目付きは更に鋭さを増す。


「答えが出るまで待てってか? そうしてる間に大勢の人が死ぬ。お前は、アスノが助かる為にあの支部にいる関係のない人間全てを見殺しにするつもりか?」


動き続けるガーディアンのう音がどんどんと遠ざかっている。それに小さく舌打ちをしてバルドはほのかから背を向けた。


「嫌なら戦うな、ここで大人しくしてろ。シリウス、こいつらのお守は任せた」

「………」

「リースリット、お前もここに残れ。覚悟が固まってないのについてこられても迷惑だ」


 ついていこうとしたリースリットを制止させる。いまのリースリットはまだ迷いを捨て切れていない。

 それもそうだろう。シリウスとリースリットはアスノと面識がある。その女性が実はガーディアンの仮初かりそめの肉体だったと知って動揺する筈がない。


「ほいほい了解~。まあ気を付けてね」

「………ああ」


 やけに素直なシリウスに若干の違和感を覚えるも、優先するべきは欠片の方なので疑問をすみに置いてバルドは外へ出て雨の中を飛んで行った。



 バルドが飛び去った後、室内はシンと静まりかえり雨音だけが響いていた。アスノを救いたいのになにも思い浮かばずうつむいていたほのかの肩に手が置かれる。


「さて、と……そろそろ行こうかほのか」

「え?」


手を置いたシリウスがそう言って笑いかけて来た。


「アスノを助けたいんでしょ? だったら行こうよ」

「でも……」


 バルドとの会話を思い出す。欠片であるガーディアンを止めなければこの異常気象は治まらない。でもその為にはアスノを倒さなくてはいけない。それが出来ないなら来るなと言われた。


「助けたいんでしょ?」

「うん…」

「じゃあ、戦いながら考えればいいんだよ。…おっと勘違いしないでね。戦うって言っても別に倒す気でって意味じゃない、あくまで足止めをしながらって意味だよ」

「戦いながら?」

「ほのかは決めたんでしょ? あの時、第六都市でバルドとさ」


 第六都市グラシキルで交わした時がよみがえる。浮かんでいた涙を袖で拭ってほのかはシリウスを見上げた。


「そうだったの。私、決めたんだった。シリウス君ありがとう」


彼女の決意が固まるに合わせてウィルの紅い宝石に輝きが宿る。


「私は、私の意志で行くの! ウィル、セットアップ!!」

[イエス、マスター! マジックアーマーセットアップ!]


 ウィルを起動してマジックアーマーを展開する。指輪だったウィルが杖へと変化し、それを手に取る。彼女の背後に女神の紋章が大きく展開される。セットアップの完了したほのかはフィリス、リースリットへと手を差し伸べる。


「行こう、フィリスちゃん、リースリットちゃん!! アスノさんを助けに!!」

「ほのか……。うん、そうだね。ここで立ち止まっててもなにも解決しないもんね!!」

「ん……行く」


 二人もほのかの強い意志に感化されてターミナルを起動、マジックアーマーを展開する。弓になったメローと剣となったフォルテを手に取ると、彼女達の背に人魚の紋章と戦女神の紋章が大きく映る。


「アキト君はどこか安全な場所に隠れてて」

「ボクも行く!!」

「でも、この雨はマジックアーマーなしじゃ危険だよ」

「それなら俺にお任せってね」


そう答えたシリウスが後ろに手を回すと、何処からともなく赤い羽衣を取り出したではないか。


「じゃじゃ~ん!!」

「シリウス君、それはなんなの?」

火鼠ひねずみの毛皮で出来た羽衣さ。これはとっても頑丈で、なんと酸攻撃や毒、おまけに刃物まで防いじゃう優れモノなのだ!!」


 えっへんと胸を張ってふんぞり返る。一見なんの変哲へんてつもない服にそんな優れた性能があるのにほのか達はビックリして大きく目を見張ってまじまじとそれを見つめていた。


「ふえ~、それってそんなにすごいんだ~!?」

「でもこれは一着しかないので一人しか着れない残念!!」


 だから一般人であるアキトに着せるのだろう。これなら酸性雨の中を移動しても雨に濡れる心配はない。用意が出来たところでアキトをシリウスが背負い空を飛ぶ。眼下にはガーディアンが這って蹂躙じゅうりんされた地上と倒壊した家屋とビル。


そしてその先では燃え盛る炎の中で暴れるガーディアンの姿がある。光球や酸弾の攻撃の合間を飛んで弾ける漆黒の炎の弾幕が見える。


[バルドさんの魔力反応を感知。あそこで戦闘を行っている様です]

「急ごう皆!!」


接近するにつれて激しさを増す酸性雨とガーディアンから発せられる重圧プレッシャー


 これまで戦ってきたどの敵をも超える気配が肌にビリビリと伝わってくる。あれがさっきまでアキトの母親であったアスノだったとは思いたくない。弾幕を避けているバルドの移動先を狙ってガーディアンが金色のブレスを吐いた。


「あぶない!! フォトンブレイザーーーッ!!」


 瞬時に砲撃体勢に入ったほのかが砲撃魔法を撃つ。ガーディアンのブレスに横やりを入れる形で砲撃が命中し、バルドに当たることなく相殺して消える。


「バルドさん!!」

「……なんで来た」

「私達も戦う!」

「倒す気になったのか?」

「ううん、違うよ」


バルドの前に並んだほのかとフィリス、リースリットが相棒を構えて目の前のガーディアンと向き合う。


「倒すんじゃない、アスノさんを助けるために戦うの!」

「ただそこにいるなんて出来ないから!」

「だから、戦いながら助ける方法を考えるの!! これが私の、私達の意志なの!!」


 一斉に散開して相手の周囲を飛び交う。周りを飛び回るほのか達を目で捉えたガーディアンが咆哮を上げ、三人を叩き落とそうと長い身体を動かしその場で暴れ始める。


「………」

「うんうん。やっぱ、ほのかはああいう猪突猛進な所が良いね」


 いつのまにか背後に立っていたシリウスが何度も頷いて戦闘の様子を眺めていた。それに顔を少しだけ動かして目の端で睨み、とがめる様な視線を送った。


「お前があいつらをきつけたのか」

「嫌われ役を買うのは感心しないぞ~。酸性雨の中で戦わせるのは危険だからって思ってわざと突き離したんだろうけど、それはただの善意の押しつけでしかないよ?」

「…………」

「一人で背負い過ぎなのさ、君は。それに前に言ってたでしょ? この旅の間はほのか達を戦士として見るって。さっきの行動はそれを裏切ることになるんだよ?」

「……まさかお前に説教されるなんて思ってもなかったな」


考えもしなかった相手から説教をされて言葉を漏らす。後頭部を掻いて大きく一つ息を吐く。


「俺だっておかしいと思ったら言う時は言うさ」

「みたいだな。さて、俺もそろそろ戻るか。菓子娘だけに戦わせるわけにいかねえしな」


向かう前に彼は背負われているアキトの方を見る。


「アキト、すまなかったな」

「え?」


そう言い残してバルドは戦線へと戻っていった。


「例え嘘だったとしても、君の親の事を倒すなんて言ったからね。それに対して謝ったんだと思うよ」


 戦闘地域から少し離れた場所に移動してビルの屋上にアキトを降ろす。ほのか達の戦闘を見ていると本部から飛んで来たあかね達が二人を見つけて下りて来た。


「シリウス君!」

「やあやあ、皆も飛び出して来たんだね。……アシュトンとサヤはいないけど?」

「二人は地上から向かってる。だが、この雨だ。思う様に動けていないから合流に少し遅れるだろう」


 彼女達の様にマジックアーマーを持っていない生身だ雨を避けて通るから遅れるのも当然と言える。


「皐月達はどこだ?」

「いまあっちで戦ってる。話は向こうで聞いて来てね」

「ん? シリウス、その少年は?」

「ん~…それも向こうで聞いた方が早いと思うよ」


ここで話すよりも、向こうでまとめて話を聞いた方が早いし整理もしやすくなるだろう。


「そうか。主あかね、我々も急いで合流しましょう」

「ん? なにかあったのかい?」


言葉からなにかを察知したシリウスが質問をかける。


「こっちでなんか動きがあったんだよ。SCCAの連中、なんかしそうだから急いできたんだよ」

(なにか、ねぇ……)


 十中八九あのガーディアンに対する対策か何かだろう。ただ、事態が把握できなければ巻き込まれる恐れもある。飛んで行ったあかね達の後ろ姿を見つめながらシリウスは思った。


(ちょっと、探りを入れてみるかな?)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ウア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァッ!!」

「アスノさん! 元に戻って!!」


 襲い来る酸弾の中を潜り抜けながらほのかは必死にガーディアンと化したアスノへ声をかけていた。

 しかし彼女の叫びにまるで反応せず、攻撃は激しくなるばかり。ほのか達は魔力弾で相手の弾幕を相殺する以外の攻撃をしないで周囲を飛び交うだけ。


 仮にもあのガーディアンはアスノであり、出来れば傷つけたくはない。声をかけながらどうにかしてアスノを助けようと思考を巡らせていた。


「ラー、アルム、トール……。ラー、アルム、トール……」

「古代インペリア語!! 気を付けて、何か来るよ!」

「コール、フォルグ!!」


 酸の液で出来た翼がその大きさを拡大する。振り下ろされた翼より周囲の建造物と同じ高さを持つ衝撃波が飛んで来た。左右に展開してギリギリで回避した三人の間を衝撃波が通り抜ける。

 後を追って視線を向けて彼女達は驚きで目を大きく開いた。地面深くから都市の城壁に至るまで一直線にあるもの全てが溶けていたのだ。


「アスノさん、もうやめてっ!!」


アスノの正面に立って両手を大きく広げてとめようとする。だが、彼女の声に耳を貸さず大口を開けて飛び掛かって来た。


「あぶないっ!!」


 間一髪のところでフィリスが助けに入り、噛みつき攻撃から逃れる。二人が体勢を整えるまで注意を引こうとリースリットが魔力弾を飛ばして牽制しながら飛びまわる。


「正面に立つなんて危険だよ!?」

「でも前に立たないとアスノさんに声が届かないの!!」

「ウガア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!」

「っ……あっ!?」


 飛びまわるリースリットを引き離そうとしてガーディアンが大咆哮を上げる。声と共に放たれる魔力と空気の振動による衝撃波が迫り、咄嗟にナイトシールドを張って防御する。――が、耐えられずナイトシールドが破壊されリースリットはほのか達の方へ吹っ飛ばされてしまう。


「「きゃあっ!?」」


飛ばされてきたリースリットとぶつかって三人まとめて後ろへ大きく飛ばされる。


「どふぅっ!?」


このまま遠くまで飛ばされるかと思ったら途中で何かにぶつかって止まった。


「お前ら……。まとめて一緒に飛ばされてくんなよ……」

「あっ、バルドさん」


 受け止めてくれたのはバルドだった。三人の突撃をまともに受けた所為か声が若干苦しそうだ。退けると腹部を少し擦って痛みを和らげてから一つ息を吐く。


「ねえバルド」

「あ?」

「アスノを倒す気なの?」


 まだ彼は倒すことを考えているのだろうか。アスノを出来る限り傷つけたくない彼女達にとって重要なそれを聞いてみる。


「……ありゃ嘘だ」

「え?」

「本当はこんな環境下でお前等を戦わせたくなかったから言っただけだ。マジックアーマーでもそう長くは持たないからな」


 勿論、あのままだったらアスノを倒すつもりでいた。予想する最悪のシナリオが彼女達にとってあまりにも酷な現実だったから。


「けど戦うって言うなら俺は止めねえ。倒すのは最後の手段として取っておく。それまでは助けるのを手伝ってやるよ」

「バルドさん……」

[攻撃、来ます!!]


一つの光球から光属性の光線が発射され、ほのか達目掛けて飛んで来る。


「ふんっ!!」


だがそれは彼女達の前に降り立った人物の放った旋風の前に弾かれ空の彼方へと飛んで行く。


「アウルさん!?」

「やれやれ……。ぬしと元ぬしがいい雰囲気の時に現れるとは何とも無粋な奴よの……少しは空気を読んでほしいの」


現れたアウルはそう呟いて扇子で口元を隠す。


「アウル、来ていたのか」

「うむ。じゃが、わっちだけではありんす」

「ほのかちゃん!!」


シリウスの下から離れて飛んで来たあかね達がそこへ到着した。


「あかねちゃん、みんな!」

「ちょうどいいな。お前らに教えておくことがある」


後から来たあかね達にここまでに至る経緯を説明する。


「じゃあ、あのガーディアンは元は人なんか!?」

「うん。だからアスノさんを助けるためにお願い、力を貸してほしいの!」

「モチのロンだぜ! あのデカブツから助けてやろうじゃねえか!」


 プレセアの第一声に仲間達も同意の頷きで答える。近づいてくる気配に振りかえると作戦本部へとガーディアンが再び歩みを始めていた。


「待っててねアスノさん。すぐに助けるから!」


友達のアキトの為にほのか達はガーディアンへ飛んで行った。


再び正体を見せた巨大モンスター。その正体はオーパーツの欠片、そのガーディアンだった。少年の願いを叶える為に生れた偽りの肉体から元の姿に戻ったガーディアンは少年の願いを叶えるべく世界に再び酸性雨を降らす。


果たしてほのか達は止めることができるか。


それでは次回も宜しくお願いします。

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