第六十六話 動き出す歯車
六十六話更新。
アンフィスバエナとの交戦の最中、突如として現れた人物。彼の正体は……?
全てのギルドを監視まとめるギルド『ルドガルア』の中枢区――――
そこにあるとある部屋へと案内されるが、その風景は他の施設や部屋と違って簡素なものだった。
「どっこいせっと」
やや爺臭い言葉と共に椅子に腰かける。その人物の前にはほのか達を含めアンフィスバエナの団長と部下数名がいた。
「話はそこの坊主から色々と聞かせてもらったぜ。若い衆に絡まれて困ってるってよ」
「あ、あの……すみません。あなたの名前って……」
「おおっ、言うのを忘れてたすまんすまん。わしがこのギルド――『ルドガルア』をまとめる団長の『ザックス・イエーガー』だ」
各都市に確認されているギルドの中枢を担う組織にして最初に正式に立ち上げたギルド――そんな彼等をまとめるギルドリーダーが目の前に座る人物だということに驚かされる。
「さて、アンフィスバエナギルド長『ギルバート・シュタイン』に『レイラ・アッシュフォード』。お前さんらが敵と思ってるその子らは何ら関係のない一般人だ。これ以上絡むのは止めな」
名乗ってからザックスはギルバート達に制止の言葉を発する。
それにギルバートが慌てて反論の意を唱えた。
「し、しかしお言葉ですが『親父』! こいつらは我々の領土の周辺をうろついてて――それに我々の部下を攻撃した連中となにか関係があるのは間違いないんです!! それにこれだけの戦力を持っているという事はどこか大きな組織の実力者達である可能性も――!!」
「喝っ!!」
黙って聞いていたザックスが突然目をカッと開くと室内一杯に響く大きな声を出した。それにギルバートは驚いて肩を震わせる。
「ったく、最近の若いのは頭が固いのが多くて困る。お前さんら、自分がだれに襲われたか調べたか?」
盛大に息を吐いて椅子に体重を預けながら質問をするとギルバートは気まずそうに視線を下に向ける。完璧というほど満足に情報を集め切れていないと言ったところか。
「お前さんらの報告を聞くにそれはクロス王国の娘っ子だ。あいつらは戦闘のプロであって隠密行動にも長けた集団だ。まあ、まだ若いお前さんらには掴みにくい相手だっただろうよ」
言ってから今度はほのか達の方に視線を送る。
「んで、そこのお嬢ちゃん達は奴らに狙われるなにかを持ってるんだろ?」
「な、なにを持っているというんですか?」
「そいつは分からねえ。だから教えてもらうと助かるんだけどよ」
どうだい? そう聞いてくる。どう答えればいいのか分からないほのかはバルドの方を向く。それに彼は静かに頷いて応えた。このままの関係でいるよりもマシだと考えたのだろう。リースリットもいまの状況を察して頷いてフォルテを起動する。
コアから四つの欠片――青と黄と緑と白の秘石の欠片が出てくる。ほのか自身も始まりの洞窟で手に入れた赤の欠片を取り出した。
「あの人達は、この欠片を狙ってるんです」
「そいつぁ……」
「秘石ニーベルンゲルゲン。オーパーツに認定されている古代の遺物です」
封印されても尚感じる魔力にザックスは眉を動かす。彼等にも知ってもらうべくほのか達は自分達の知っている情報を話す事にした。
「そうか。あのでけえ地震の後に各都市のギルドの連中から怪奇現象の報告があったが……全部そいつが原因だったか。ってことは今この都市で起きてる怪奇現象もそいつの仕業か?」
確認をとるザックスに対してほのか達の代わりにバルドが答える。
「それは分からない。欠片の保有する独特の魔力反応が感じられないからな。これの仕業なのか、それとも新たなモンスターの出現かだろうな」
「ん? よくみりゃお前さん……巷で噂になってるバルドって冒険者じゃねえか?」
「そうだが」
「おお、そうかそうか! お前さんがあの煉獄の冒険者か!」
答えるとザックスはなにやら歯を見せて笑いかける。
なんでもバルドの名はここルドガルアでも話題となるほど有名らしい。高ランクモンスターの群れにたった一人で戦い村々を守り抜く。その高い実力がギルド団員の中では憧れと羨望の位置にあるらしい。
「バルドって本当に有名だよね」
「俺としては面倒くせえ依頼がポイポイやって来るから勘弁してほしいんだけどな」
尊敬の眼差しを送るフィリスに対して当の本人は非常に面倒くさいのか呆れ顔を隠さない。
「けどビックリだな。そんなお前さんがまさかこれだけの大所帯で動くなんてな。そこの子達は一体どういう関係なんだよ?」
「面倒事を呼ぶアホたれと保護者(仮)な関係だ」
視線を一人の少女へと静かに向ける。
「ふえっ!? もしかして私のこと言ってるの!?」
自分へと向けられていると気付いたほのかは驚いた様子だ。左右のおさげが驚きに合わせて上に向かって跳ね上がる。
「そう思うって事は自覚があるんだな。さすがはトラブル娘ランキング世界一の座を守り続けてるだけはある」
「いつからそんなランキングが出来てたの!?」
「いま作った」
「変なランキング作らないでよーっ!!」
大変不服そうな声が部屋一杯に響き渡った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やれやれ、最近の若いもんには困ったもんだぜ」
「も、申し訳ありませんでした」
「あーいいっていいって。若い頃は失敗して成長するもんだ。わしも昔は色々やらかして問題を起こしたからなガッハッハッハ!!」
申し訳なさそうにうなだれるギルバートに対して、彼は怒るでもなく歯を見せ笑って答える。
「だが、あの子たちが王家の……それもテセアラ家の書状を持って来たのには驚いたがな」
椅子から立ち上がって窓から下を見れば、ここから出ていくほのか達の姿が見える。医務室で寝かされていたマルグリットをバルドが背負っており、その彼女をあかねが心配そうに見ている。
その彼の手元には一通の書状が残されている。あの後、ほのか達はミラの書状をザックスへ渡すことが出来た。
帰る彼女達の姿を見てからザックスは書状の内容を確認する。丁寧な、それでいて整った文字で提携を申し出る文章が綴られている。
(テセアラ家の印……。代々続く正当後継者のみが持つことを許される印)
最後にミラの名とその上に押された印を見ていたザックスの瞳に特別な輝きが宿る。
(こいつぁ……時代が動くかね)
「親父?」
「ギルバート。ギルドの誓い第三条は分かるな?」
「はい。『自分の行動が誤りだったらしっかり始末を付ける』です」
ザックスの質問に対しギルバートは間髪いれずにそう返事を返した。
「今回の大型モンスター討伐作戦……SCCAと連携を組んで討伐する」
「なっ、なんですって!? SCCAとですか!?」
ザックスの発言にギルバートは驚愕の声を上げる。まだギルドを立てて短い期間だがそれでもギルドとSCCAの関係は知っている。彼の発言にはさすがにギルバートは自分の思う所を告げる。
「ですが親父! SCCAと我々ギルドの間には深すぎる溝があります。過去に何度も衝突を繰り返した我々がそう簡単に協力出来るとは……」
「うむ」
「それに向こうの組織内は統一されているとは思えません。現に我々のいる第一都市でも幾つかの不可解な行動を目撃した団員がいます」
「……ギルバート。それはこっちだって一緒だぜ。わしらギルドの中でも完全な統一はされてない。それどころか、管理しきれてない奴らの方が多いんだ。向こうさんばかりを下に見んじゃねえ」
ギルバートの意見を窘めてからザックスは深い深いため息を吐いた。そこには何やら彼のみが知りえる苦労が見え隠れしている。
「今日来てる各ギルドの団長をここに呼んでくれ。この事を話す必要があるからな」
「わ、分かりました……」
納得している様子ではないが、親父であるザックスの命とあっては従う他ない。一度、礼をしてから傍らのレイラを連れて部屋を出て行った。
一人になったザックスは改めてミラの書いた書状に目を通す。
「字ぃ綺麗になったねぇ~。昔はミミズ這ったような文字で読めんかったのにな……」
天井を見上げ昔を懐かしむ様に目を細める。そこになにが映っているかは表情から窺えない。天井に映る過去を懐かしんでいた彼だが、一度目を閉じて現実へと戻る。ルドガルアギルド長『ザックス・イエーガー』となって。
「にしても……あのべっぴんさんの言うとおりの展開になって来てんな」
思いだされる一人の女性。厳重に警戒されているこのエリアに難なく侵入して自分の前に姿を見せた人物。彼女は何をするでもなくただこの後に起きる事を話して去って行った。
「まるで掌の上で踊らされてるみたいだな。全部その通りに起きてやがる……。あのべっぴんさんの目にはな~にが映ってるのやら」
なにも映っていない空虚な瞳。あの瞳の奥にはどんな未来が見えていると言うのか。想像しただけも背筋に冷たいものを感じる。長年ギルド長として勤めているがこれだけ嫌な予感がしたのは過去に類を見ない。
「せめて最後に言ってた事くらいは外れてほしいもんだな……」
そう呟くと同じくしてドアがノックされる。入室を許可すると招集されたギルドのリーダー達が次々に入って来た。考え事もここまでだと思考を切り替え、何時もの様に豪快な笑みを浮かべて息子達を出迎える。
「来たなドラ息子ども。今日はちょいと込み入った話になるが覚悟は出来てるな?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――クロス王国
鍛錬を続ける兵士達の声が外から聞こえてくる城内――
その謁見の間では主要人物を集めた定例会議が行われていた。
「兵達の状態はどうだ?」
「順調に進んでおります。皆、高い意識を持って訓練に励んでくれてスケジュールは問題なく進んでおります」
玉座に座るアガレスからの問いに平伏していた訓練担当の白蓮が報告を行う。頷いた後に今度はビアンカの方へと目を向ける。
「そっちの状況はどうだ?」
「問題ありませんよ~閣下。全て滞りなく進んでま~~す」
「ビアンカ! 閣下に対してその態度はなんだ!!」
ふざけた感じで報告をするビアンカに筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の大男が勢いよく立ち上がり怒声を上げる。
「うっさいな~マルコのおっさんは。近いんだからそんなデカイ声出すなよ」
「ワシの声の大きさなど如何でもいい!! 閣下の御前でそのふざけた態度はなんだ!! 誠意が篭っておらーーん!!」
「あ~うるさいうるさい。おっさんの声はいつも耳に響くんだよぉ。鼓膜が破れそうだぜ」
「そんな事はどうでもいいと言っておるだろうが!! 閣下の御前だ口を慎まんかーーっ!!」
「あの……マルコ将軍、ビアンカ将軍。喧嘩は良くないかと……」
睨みあう両者を落ち着かせるべくと宥めようとする白蓮。それを赤いアーマードスーツで全身を完全武装している者がキョロキョロと見渡す。
「え、なに。喧嘩してるなら俺が土下座して止めようか?」
「お主はそのまま閣下に頭下げておれペイン」
「うぃす」
「いい加減にしろお前達。閣下の御前でふざけるのも大概にしろ」
会議がややずれ始めた所でアトラスが止めに入る。窘められ喧嘩をしていた二人が大人しくなった所で続きを始めようとする。二人の喧嘩が収まり、玉座の間に静寂が訪れる。
「あ? おい白蓮。部下の鍛錬は終わったのか?」
それに最初に違和感を覚えたのはビアンカだった。さっきまでの兵士達の訓練している声が聞こえていたのが嘘の様に静まり返っていた。
「い、いえ。まだ休憩までは時間が――」
「し、失礼します!!」
そこに一人の兵士が飛び込んで来る。全力疾走で来たのだろう息も絶え絶えで大量の汗を浮かばせていた。武装と肩に騎馬に乗った女性の紋章が描かれている事から白蓮の訓練兵であることが窺える。
「貴様ぁー! ここは玉座の間であるぞ!! 誰の許可を得て入った!!」
「申し訳ありません!! ですが、緊急の報せ故っ!」
「……話せ」
「じょ、城内に侵入者がっ!! こちらに真っ直ぐに向かっております!!」
兵士の報告にアガレスを除く将軍たちは驚きを露わにする。不法侵入者に対する警報が鳴ってないのだ。だというのに城内へ侵入された。
それにここにくるまでには多数の精鋭たちが護衛に付いている。そう易々と突破されるなど有り得ない。
「閣下、御気をつけください! 敵は奇妙な力で我々を無力化し――」
最後まで言うことなく兵士が突然倒れた。代わりに通路より聞こえてくるのは鈴の音。
兵士の言う侵入者と確信したバルドゥス達が一斉に武器を持って身構える。通路より響く鈴の音がどんどんと近づいてくるのが分かる。
そして、姿を見せたのは一人の女性―――――あのシルヴィア・ピステールだった。
「敵か」
「待て白蓮。迂闊にあの者に近づくな」
鉤鎌刀を持っていまにも飛び出そうとした彼女をバルドゥスが制す。並みの者が竦みそうな気を発している中をシルヴィアは涼しい顔で歩く。
「クロス王国国王アガレス・ラ・ドヴァーキンね?」
「シルヴィア・ピステールか……」
自らの名を当てられたのに意外そうな顔をする。
「あら。私をご存知でしたか?」
「魔法共和国内で最強とも謳われる魔法士を我が知らないとでも思うか?」
「これは失礼しました。魔術大国の端にある田舎だから知らないと思ってたわ」
「っ!! 貴様、言わせておけばーー!!」
挑発的な物言いにマルコが拳を作って咆える。アガレスが手を上げ、制止させなければ飛び掛かっていたかもしれない。
「それで……かの有名な魔法士がここに何の用だ?」
「単刀直入に言うわ。……貴方達は、戦争を起こしたいのよね?」
シルヴィアからの発言に静まり返る。
「でも理由がない。理由なき戦争はただの暴力…大義なき戦は賊軍でしかない」
でも……と彼女は言葉を続ける。
「理由があれば、戦える。それを与えようと思ってね」
「なんだと……?」
「貴方達が戦いたい理由。それは長年の統制からの脱却……つまり大国からの独立。ここクロス王国は共和国と大国の戦争で幾度も戦場に晒された場所。その度に国は荒れ人は死に、衰退してきた。貴方の父はそれを改善すべくして志半ばで病死した」
「………」
「貴方はそれを継ごうとしている。でもその為には力を周囲に見せる必要がある。だからこそ必要なのよ、戦争という大きな渦がね。それを私が与えてあげようと思ってね」
歪んだ笑みを浮かべる。しかしその瞳には一切の感情が見えないことにバルドゥスは危険性を感じた。
このうら若き娘は内に暗い暗い闇を内包している。それは世界を呑み込む力を持っていると長年の経験から察知した。
「どの様に与える気だ?」
そんな中でアガレスもまた抑揚のない言葉で質問を返す。
「こんな風に、よ……」
彼女の前方の空間が歪んだ。そこにとある場所が投影される。魔法共和国と魔術大国……正確にはクロス王国が監視する国境に位置する場所だった。
見張りとして警備をする兵士達の前方空高くに浮遊しているのは魔法共和国の大型艦一隻。
その大型艦に動きがあった。下部に搭載されている砲塔が動いたのだ。角度を調整するその砲口は地上―――――兵士達のいる地点を指していた。
(まさかっ!!)
将軍たちが気付いたその瞬間、砲口より圧縮されたビームが発射され地上を焼き払った。
「これで、戦う理由が出来たでしょう?」
呆然とする将軍たちの耳にそんな声が聞こえる。それに画面を見ていた視線を彼女へと戻す。さて……と呟いた彼女は画面に映る戦艦へ手を翳す。
そして広げた手をグッと拳に変えた。戦艦の頭上より紫電の巨大落雷が落ち船体を真っ二つにする。裂けた個所から火が出て上空で爆散した戦艦の破片が地上へと降り注いだ。
「言ったでしょう? 戦争を起こす大義名分を与えるって……」
「きっ、さまああぁぁぁぁ!!!」
激昂したマルコが全身より魔力を放出させオーラとして身に纏う。同じく他の将軍たちも殺気を全開にしてシルヴィアを睨むが、本人はどこ吹く風……涼しい顔をしていた。
「あとはこれをどう利用するかは貴方達にお任せするわ。失礼します、アガレス・ラ・ドヴァーキン国王陛下」
軽く会釈したシルヴィアは何事もなかったかのように背を向けて歩きだす。
その背後に疾風の如き速さで接近する影――
「死ネッ!!」
黒蠍のビアンカだった。その眼は完全に相手を殺すつもりでいる意志を宿しており、振り上げた円月刀を全力で振り下ろした。
だが、刃が見えない何かに激突して弾かれる。衝撃で飛ばされたビアンカは空中で身を捻って着地する。歩みを止めて振り返ったシルヴィアの周囲に何時の間にか青いクリスタルが四つ浮かんでいた。
「私の背後に立たないで。結晶、ガードマテリアル」
「だらっしゃぁぁぁぁーーっ!!!」
ビアンカを飛び越えて姿を見せたマルコが圧縮した魔力を拳に込めてシルヴィアに向けて叩き降ろす。重量感あふれる重い一撃が見えない障壁に激突する。ビリビリと空気が振動する音が響くがしかし、マルコは表情を険しくさせてその場より飛び退いた。
シルヴィアの守りは未だ健在……。
「それで……貴方達は何をしたかったのかしら?」
「お前、生意気っ!!」
挑発的な発言に更に怒りを露わにするビアンカ。その時、玉座で座っていたアガレスがスッと立ち上がる。そして上座から下りた足が地についた瞬間に神速の速さでシルヴィアに肉薄、持っていた鞘から長剣を抜き放って一閃した。
シルヴィアの周囲に展開されているクリスタルの内、一つが二つに割れて消滅する。
「あら意外ね。私の防御を破る人がここにもいるなんてね」
自らの守りが破られたのに彼女は驚くこそすれ焦りはなかった。純粋に自身の防御魔法を一部破壊したアガレスに意外そうな目を向ける。
「でも残念ね。貴方の実力をもう少し拝見したいところだけど、私ももう行かなければならないの。それではアガレス国王陛下、よき采配を期待しています」
深々と礼をした彼女の後ろの空間が歪み、その中にシルヴィアが吸い込まれる様に消えていった。魔力も気配も感じ取れなくなったところでアガレスは剣を収めて将軍たちに命令を下す。
「バルドゥス、マルコ。すぐに兵士達の容体を確認しに行け。ビアンカは部隊を引き連れてシルヴィア・ピステールの追跡を始めろ」
「「「はっ!!」」」
命を下され三人はすぐに動き出した。残された白蓮とアトラス、ペインにもアガレスは命令を下す。
「白蓮、アトラス。お前は動ける者を連れて先の場所へ行き生存者を捜せ」
「「御意」」
「ペイン。お前はレノンの下に向かいアレの起動を急がせろ」
「えっ、アレですか。でもアレはまだ同調も済んでないし段階を踏まないと……」
「だから急がせろ」
「うぃす。土下座してでも急がせます」
役目を与えられた三人が持ち場に向かう為にその場から去る。
「なにが目的か知らないが……貴様の策に乗らせてもらおうシルヴィア・ピステール」
一人呟く彼の目には炎の様に激しく燃え盛る闘志が宿っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時を同じくして魔法共和国中央都市の王立図書館。古き時代の書物達が眠っている巨大施設にミラはやって来ていた。
「ほのかさん達が探しているというのは、このオーパーツなのですね」
「はい。秘石『ニーベルンゲルゲン』、それがいまこの国内で起きている異常現象を引き起こしているものの正体です」
その彼女の傍にいたのは、なんとエメローネであった。中央都市研究所の局長を務めている彼女がなぜ王女の下にいるのか、その理由はバルドが要因であったりする。
ほのか達との別れ際に、困ったことがあったら彼女に相談しろ。彼女は信頼できる人物だ。そう言われたミラは彼女を召喚して話をする事にした。
彼女と会話をしてお互いの意見が合ったという事もあって時々、短い間だが彼女を呼んで色々な話を聞かせてもらった。
そして今回、ミラは国内で起きている異常現象について少しでも知りたいと思う気持ちからエメローネを同伴してここにやってきた。
「ごめんなさいエメローネさん。局長という忙しい立場なのにここまでついて来て下さって」
「いいえ。この王立図書は本来は王家やその近い位の者以外は入ることが許されない場所。その様な場所へ入れる機会は滅多にありませんから私こそミラ姫様にお礼を言わせて下さい」
しかし近年の王家の子孫は読書をする趣味がないのか長い時の間ここを使われなくなっているのか辺りは埃などで汚れてしまっていた……。
「あの、エメローネさんはとてもお若いのにどうして局長になれたのですか?」
世間を知らないミラであっても研究所の局長という立場はどれほどのものか分からない訳ではない。三十、四十といった年齢ならまだしもエメローネは二十代だ。そんな彼女がどうして局長という座に居るのか不思議な様子。
「それは先生のお陰です。先生がいてくれたから、沢山の事を教えてくれてくれたから私は局長になることが出来たんです」
「先生、ですか? その先生という方はとてもお優しい方だったのですね。どのようなお方なのですか?」
「先生は私の恩人であって、先生であって、憧れの人なんです」
先生という人物について語るエメローネにミラは質問をかけると彼女はとても嬉しそうな顔で答えた。それにミラも自然と温かな気持ちになれる。
「とても大切な方なのですね」
「ええ。私にとって大切な……特別な方なんです。それでいて、近くて遠い……遠過ぎて支えたくてもそれが出来ない」
「え?」
「いいえ何でもありません。それよりもオーパーツについて探しましょう。ここなら古い伝記が残されているからなにか手がかりが残されてるかもしれませんし」
一瞬見えた暗い表情はすぐに晴れて本棚の方へと歩き出す。整然と並ぶ本たちは皆 埃を被っており薄汚れてしまっている。貴重な歴史ある書物なのにもったいない事を……。そう内心思ってため息を吐く。
探すことだいぶ時間が経ってやっとそれらしき本を見つける事が出来た。やや埃が所々ついた古い言語で書かれているそれは『オーパーツ名鑑』と題名が書かれていた。
「あった。先生が探していた本が……」
「それはなんなのですか?」
「遺蓬人と呼ばれた古代人達が残した古代に造られたオーパーツ達の詳細を記した書物です。これなら、ニーベルンゲルゲンのことが詳しく分かる」
辞書よりも厚いその本をミラへと渡す。あまり重いものを持ったことがない彼女はその重さに少しビックリしながらもしっかりと両腕で抱きかかえる様に持ってテーブルにその本を置いた。
「この中にほのかさん達が探しているものの正体があるのですね。……開いても?」
静かに頷いて答えるエメローネを見てからミラはその本を開いた。数々の見た事もない様な形をした物体の写真が収められており、その横に名前とその詳細な能力が記されている。
「秘石ニーベルンゲルゲン……これですね」
いくらか進んだ所でそれはあった。美しい八色に輝く星の様な結晶体。人を魅了する輝きの中に感じる怪しさ。その写真の隣に書かれている詳細な情報を二人は読み進める。
――ニーベルンゲルゲン……大戦争時代に生み出されたあらゆる願いを叶えるとされる願望器。もとは戦争で敵国に甚大な被害を与える為に造られた大陸破壊兵器の一種。世界中に存在する八大属性全てに対応する為に欠片一つ一つが一つの属性を完璧に行使できる様にプログラムされている。
「あらゆる願いを叶える願望器……」
「もとは破壊兵器として開発されていたオーパーツだったのね」
――しかしその高い能力故に一時的なバグによる動作不良等が発生。後に各属性別に暴走を封じ込める楔役として『ガーディアン』を製造、プログラムとして導入し完全な制御化に置くことに成功する。開発成功と共に以降の経歴は一切不明。後の調査で一冊の書記を発見。闇が来る、という言葉を最後に残す……参照『大宇宙からの来訪者』
「大宇宙からの来訪者……」
最後の文章に綴られた言葉を声に出して文字を指でなぞった。
その瞬間、ミラの脳裏をなにかが駆け抜ける。
「っ……!?」
駆け抜けたなにかに彼女は悲鳴が出かけたが、グッと堪えて呑み込んだ。
「姫様、どうかされましたか?」
「いえ、なんでもありません。だいじょうぶです」
「御身体に障ったのかもしれません。今日はもうお休みになりましょう」
「……はい」
大丈夫とは言ったものの顔色の悪さは隠しきれない。エメローネの申し出に彼女は従った。本の方はエメローネにお願いして預かってもらう事にして、ミラは自身の部屋へとエメローネを伴って戻る事にした。
(さっき見えたのは……)
脳裏を掠めたのは空に浮かぶ巨大な影……。黄金に輝くその身体を大きく広げ地上にいる自分達を睥睨する。その背後に浮かんでいたのはそれよりも大きな都市の様なもの。
(なにかが……。なにかがこの世界で起きようとしてる)
言いようのない不安に胸に手を当てて拳を作った。
遺蓬人
大昔に実在したとされる遥か昔に生み出された遺跡や古代遺物を調査し後世の為にその情報を残していた種族。現代では再現不可能なオーバーテクノロジーを持っていたとされているが、ある時を境に歴史上より姿を消す。
アンフィスバエナと和解する事が出来たほのか達。無事にミラからの書状をルドガルアのギルド長ザックス・イエーガーに渡した。
一方、その頃クロス王国に姿を見せたシルヴィア。彼女はなにを企むのか。
それでは次回も宜しくお願いします。




