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第六十五話 交戦

六十五話更新。


牢から脱出したほのか達は中央区にあるルドガルアギルド長ザックス・イエーガーのいる場所を目指す。しかし、そんな彼女たちを待ち構えていたのは脱走を感知して動き出したアンフィスバエナだった。



「き、来たぞ!!」

「迎え撃て!!」


数名の団員が立ち並ぶ通路。それぞれが得物を構えている。


「邪魔だどけえっ!!」

「ぐああっ!?」


 そこにプレセアは突っ込みミョルニルのフルスイングで殴り飛ばす。撃破した彼女は肩にミョルニルを担いでふうっと軽く息を吐く。


「ったく、いくらでも湧いてきやがる」

「台所の強敵を彷彿させるね。一匹いたら十匹はいると思えって感じ?」

「しかしシリウス。本当にこっちの方角であっているのか?」


先導するシリウスにルチアが問いかける。それにシリウスは勿論と頷いて答える。


「この建物は大体は調べたからね。こっちで間違いないって本体が言ってたし」

「短期間でそこまで出来るのか……む、ちょっと待て。いまお前、本体と言わなかったか?」

「あれ、言ってなかったっけ? 俺、本物じゃないよ」

「ええっ!?」


 シリウスの発言にその場にいる仲間達全員が驚いた。どこからどう見てもシリウスにしかみえないのに目の前の彼は本人ではない。どういう事かと疑問に思っている彼女達へ彼は自らの説明を始めた。


「俺は分身で、本人はリースリットと一緒に外にいるよ」

「リースリットと?」

「リースリットちゃん無事だったんだ。よかった……」


大事な友達の無事が確認出来てホッと息を吐いて安堵する。離れ離れになってずっと心配だったが、シリウスと一緒ならきっと大丈夫だろう。


「いま、この区画には五人の分身が各場所で活動している。それぞれが情報を共有して行動を決めてるから、いまごろ他の分身は数を分断する為に騒動を起こしてると思うよ」

「これでも敵の数は少ないという事か……」

「そゆこと」


 とはいえ、足止めもそう長くは持たないだろう。急いでこの区画から離れるべきだと思う。先を急ごうと更に飛行速度を上げようとした所で、なんと急に周囲の景色が崩れ始めた。


「ふえっ。な、なんなの!?」


狭い通路が一転して広い広場に変わったことに戸惑いを隠せない。


「フィールド変換システム……こっちでも完成してやがったか」


 そこに新たに複数の魔力反応が転移してくる。その中から現れた人達の中に見覚えのある顔があってほのかは声を上げる。


「あの人は!?」

「ちっ、もう追い付かれたか」


 集団の正面に立っている男女。その男性は前にほのか達を襲撃したアンフィスバエナの片頭……斧のギルバートと呼ばれる人物だった。

そして隣に並ぶ女性はアウルに襲撃したもう片方のリーダー……レイラと呼ばれる女性だった。


「そこかしこで暴れていたのはコイツか」

「顔も姿も似てるし、犯人はあの人で間違いない様ね」


 そんな二人が視線を送った先にはシリウスがいる。一体なんの事かと思っていたが、分身である彼は分かっているのかあちゃーっといった感じで後頭部を軽く掻く。


「あっちこっちで分身が消えてると思ったら、やられてたのね。まあ、しょうがないっか。皆同じ顔だしね~」


むしろここまで時間を稼げたから合格点かなーと呟いて焦っている様子は感じられない。


「シリウス君、分身がやられたって……!?」

「まあ分身なんて、元から耐久力もないし能力も本人の十分の一以下だしあんま気にしなくてもいいさ。影分身だったらもう少し耐えられるんだけどね~」


 あはは~と気楽な声で笑う――が、その胸を光の光線が貫いた。驚きで目を見張るあかねの前で分身のシリウスは痛みを感じないのかやれやれと肩を竦める。


「ほらね。こんな感じであっさりとさ。じゃあ、あとはよろしく~♪」


その言葉を最後に、分身シリウスはポンッと白煙と共にその姿を消してしまった。


「おい!? 道案内できる奴が真っ先にやられんなよ!?」

「工作員は倒した。あとは脱走者を仕留める。総員戦闘開始!!」


 雄叫びを上げてそれぞれの武器を片手にアンフィスバエナの団員が突撃してきた。広々とした空間になったことで大きく広がり囲うような動きで向かってくる。


「ようやく広くなったなァ……」


 身構えるほのか達の一歩前に歩を進めるのはサヤだった。ジャージのポケットに突っ込んでいた手を出す。中学生の少女とは思えない重い気が全身から噴き出す。


「これでアタシもやっと暴れられるぜ」

「あいつから仕留めろ!! 動かれると厄介だ!!」


 後方に控えている団員が一斉に捕縛魔法を発動して彼女を拘束する。更に牢に入れられていた時に彼女を封じていた大型の鎖まで魔力を使って飛ばして拘束を強化させた。


「これで奴は動けない! いまのうちに倒せ!!」

「………ッ!!」


 飛び掛かり得物の切っ先をサヤへと向ける。拘束されている彼女は動かない。少しだけ俯き加減だった彼女の顔が上がる。同時に彼女を中心として激しい重圧が大気を震わせる。グッと身体に力を込めたと思えば、彼女を拘束していたあらゆるものが一瞬で粉砕された。


「なっ!?」

「奥義……紅刃爪ッ!!」


鋭い爪を生やした手が振るわれる。真紅の衝撃波が発生して正面にいた集団を地面諸共、空高く吹き飛ばす。抉り取られた土砂と共に飛び掛かって来た団員達が地面に落下する。


「ケンカなら買ってやるよ……!!」

「ひっ!?」


鋭い眼光を向けられた団員が小さく悲鳴を上げる。現実か、はたまた幻覚か。いまの彼の目にはサヤは鬼の様に見えた。


「爆砕斧ッ!!」


頭上から声と共に鞘に振り下ろされる戦斧。地面が吹き飛んで砂塵が舞い上がる。


「生身で俺の一撃を受ける奴がいるなんて初めてだな!」


 片手一本で戦斧を受け止めるサヤ。そこにレイラが高速で接近してくる。だが、その前をユグドラが塞ぎ彼女への追撃を封じる。ユグドラから感じられる気配に足を止めたレイラは目標を変えて、彼女へと攻撃を始める。


 鋭い突きが放たれそれをルーンで捌く。切っ先から光の残滓ざんしが散り、ルーンの刃先から炎が弾ける。光と炎の魔力が二人の身を包み、同時に地を蹴って激突した。その近くでマルグリットがナイアスを振りまわしアンフィスバエナの精鋭数名を相手に戦う。


「許せ、人間よ。波紋掌!!」


 グラキエスが自らに斬りかかって来た一人の団員へ攻撃を避けた後に掌底を胸部に打ち込む。冷気の衝撃波が体を貫通して大気を冷やす。強烈な重撃に白目を向いて倒れる。


「よくもやったな貴様!!」


仲間をやったグラキエスへ別の団員が飛び掛かり刃を振り下ろす。半歩、彼女は足を動かすと相手の刃はするりと空を斬り外れる。


斧嶽ふがく……」


 そのまま流れる動作で地面をしっかりと踏みしめたグラキエスが裏拳によるカウンターを打ち込む。拳が相手の顔に叩き込まれ、重い音と遅れて真空波が巻き起こる。氷属性の含まれた打撃による衝撃と発生した風圧が命中した団員を真上に打ち上げる。


貪狼とんろう!」


 その場で回転し背後から強襲しようとしたもう一人を蹴りで吹き飛ばす。一発一発が重くまともに受けた団員が面白いくらいに吹っ飛ばされる。


「くそっ。あの女にあまり近づくな!」

「まともな攻撃じゃねえ……。なんなんだあの攻撃力は!?」


当身やカウンターなど威力の高さに近づけず後ろに下がる。


「遠距離から攻撃するんだ! 接近される前に叩け!」

「氷属性なら火属性で攻撃だ! 第二班、フォーメーションF!!」


隊列を組んだ部隊から一斉に火属性の魔力弾が放たれる。迫りくる弾幕を前に腕をクロスして防御の体勢を取って耐える。


「アクアウォール!!」


 その彼女の前に水の防壁が広がり、飛来する火炎弾の雨を防ぐ。発動者のフィリスは攻撃を防ぎながら続けてアクアリングを発動。指定された範囲に水の輪が展開されてその中にいたグラキエスを囲む。癒しの水により、グラキエスの傷付いた身体が徐々に再生を始めて癒えていく。


「感謝するフィリス」

「どういたしまして」


 フィリスへと礼を言ってから彼女は駆け出す。飛んでくる炎弾を避けてある程度距離を縮めた所で軽く跳躍して地面を思いっきり踏みつける。踏み降ろした場所から前方へ大きく広がる氷壁が伸びていき、正面にいた団員達を吹っ飛ばした。


「陣形を立て直して! 各班は相手の属性から有利な者に任せて攻撃、無理なら多属性での包囲攻撃。敵を抑え込め!!」


ユグドラと交戦していたレイラからの指示に団員達が動き出す。サヤの初撃で崩れていた陣形が瞬く間に戻り始め攻撃に厚みが出て来た。


「団長、援護します!!」

「いいえ。この人は私が止める。手出しは禁止よ!」


 部下にそう伝えると彼女はレイピアを構えて地を蹴って突撃、剣先に光を宿して鋭い突きを放つ。ルーンで攻撃を弾き一端飛び退いてからユグドラは待機状態に戻してカラドヴォルグを起動し刀身に炎を宿す。


「はあぁぁぁぁ!!」

「やあぁぁぁぁ!!」


 互いの刃が高速で行き交う。どちらも攻撃が弾かれるかかわされ一撃が入らない。レイラが刺突を打ち込めばそれを弾いて、ユグドラが斬り掛かれば軽い身のこなしでかわす。


(速いな……)


 レイラの刺突を弾きながら彼女は思った。刺突は一撃の威力は低いが素早い攻撃を可能とする。更に的確に相手の急所を狙うことも出来て実力次第では重装備の相手すら翻弄できる。


(それに加えて、相手の属性が厄介だな)


顔に飛んで来た切っ先を首を動かして避ける。刀身に宿る白色の光……レイラの属性はほのかと同じ光属性だろう。火属性の自分では相性では負けている。


(だが、それは瑣末さまつなことか)


 思った事を切り捨てて戦闘に集中する。地を蹴り相手の距離を一気に詰めて相手と斬り結ぶ。鍔迫り合いになったところでユグドラはレイラへと問いかけた。


「一つ聞きたい。なぜ皐月達を狙う!」

「私達の仲間を傷つけたからよ!」

「それは違う! 貴様らを襲ったのは魔術大国の者だ。皐月達は関係ないぞ!」

「信じると思う!? 魔術士と魔剣士を連れて、そして私達の領内近くをウロウロしていたあなた達を!!」


話が通じる様子はない。どうも冒険者というより、アンフィスバエナというギルドの冒険者たちは堅物が多いとみた。


「烈光刃ッ!!」

「くっ!?」


光を宿した神速の刺突が飛んでくる。カラドヴォルグで防ぐもその威力は先のよりも重く、鎧を着込んだユグドラの体が浮く。


「千光烈火!!」


 そこから続けて高速の連続刺突を打ち込みながら前進する。防ぐので手一杯の彼女は体勢を立て直しきれない。最後の刺突が彼女の肩を貫いた。顔を歪ませて傷口を押さえるユグドラに更に追撃を加えようともう一度仕掛けてくる。


「水棍必倒! 水爆壊っ!!」


 上から聞こえた声にレイラは地面を踏ん張って停止して勢いよくその場より飛び退く。直後にその場にマルグリットがナイアスを振り下ろして地面を陥没させる。


「ユグドラちゃん、いま助けるね。癒しの水泡、バブルサークル」


レイラへ視線を外さないで手だけをユグドラに向けるとその身を水泡が包み、傷を癒していく。


「行くよ、ナイアス!!」

[ja,meine freund]


 ナイアスに魔力を通してユグドラに代わって突撃する。牽制の軽めの刺突を打ち出してきたところで姿勢を落とし避けながら地面にナイアスを突き立てて棒高跳びの要領で高く飛ぶ。そのまま相手の頭部へナイアスを振り下ろすが受け流される。


 レイラはそのまま振り返り、着地硬直を狙って今度は本気の刺突を打ち込む。地に足を付けた彼女に瞬時に動く術はない。しかし、彼女は手に持つナイアスを手の中で回すと腕だけを使って背後に向かって突きを放つ。


「っ!?」


リーチの差で負けたレイラの腹にナイアスが打ち込まれ衝撃でくの字に曲がって吹っ飛ばされる。地面を転がったレイラは素早く起き上がり顔を上げる。


「ナイアス、オーバーリミッツ!!」

[Over Limits,LevelⅠ]

「水牙嵐槍撃!!」


 地を蹴ったマルグリットが水の魔力を纏った突進攻撃を繰り出す。相手は近接が主体のレイピア使い。ならこの距離から勢いを付けてぶつかれば防ぎきれないはず、そう思っていた。


ところが、レイラは避ける素振りを見せるどころかレイピアを構えたではないか。右手に持つレイピアを軽く引いて刀身に手を添える。刃に光が宿り、煌々と輝く。


「まさか……!? マルグリット、避けろ!!」

「烈光。光魔閃ッ!」


突き出されたレイピアから光の光線が放たれた。それは、シリウスの分身を穿ったあの光線と姿形が一致する。


「えっ、きゃあ!?」


 予想外の遠距離攻撃だった。逆に回避することが出来ない状態に引き込まれていたのだとこの時、マルグリットは悟った。しかし、いまさら分かった所でどうしようもない。相当威力が乗っているのか、それとも相性で負けたのか……マルグリットの水牙嵐槍撃はレイラの光魔閃とぶつかると相殺されてしまった。


魔力同士の激突で発生した爆発に巻き込まれて吹っ飛んで地面を転がる。


「光魔閃」


起き上がったマルグリットへ放たれる光線。直撃を受けた彼女が吹っ飛んだ。


「マルグリット!!」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



一方、戦斧を振りまわすギルバートの猛攻をサヤは凌いでいた。


(なんて子だ。斧を手で……爪で防ぐなんて!?)


まるで鬼、まさに鬼と言っても過言ではない。石突きの方で突きを繰り出すも掌で受け止め、僅かな後退しか見せない。


「爆戦斧!!」


 退いて地面に斧を叩きつけてつぶての雨を飛ばす。飛来するつぶて達をサヤは腕を一薙ぎして消し飛ばす。衝撃波で木端微塵に消し飛ばした爪の衝撃波はギルバートにまで及び、斧を盾にする事でその場で耐えきる。


「紅刃爪……!!」

「うおっ!?」


 続けてくり出されるのは五つの真紅に染まった衝撃波。地面を抉り取りながらこちらに飛んで来た三日月状の攻撃を慌てて飛び退いてかわす。駆け抜けていった衝撃波の跡を見れば、まるで鬼が地面を爪で切り裂いた様な深い穴が出来ていた。


「少女と思えない馬鹿力に、圧倒的な攻撃性……。これで一般人とは言わせないぞ!!」

「アタシはただの学生だ」

「馬鹿な。ただの学生でこんな事をする奴なんて……はっ!」


ここで彼は思い出した。自分の縄張りである第一都市で噂される都市伝説を――。

 曰く、この都市には鬼が住んでいる。曰く、その鬼は少女で都市にいる全ての不良の畏敬と畏怖の象徴とされている。

 その者、鬼の如き力を持って相手を問答無用で瞬殺す。その者の前には鉄の壁すら紙の様だとか。その前には何者も歯向かう事許さず。頭にある突起は本物の角だとか、鉄をも切り裂く爪を持っていて喧嘩無敗の『鬼』の異名を持つ少女――超絶無双喧嘩少女。絶対無敵の女子中学生。


「そうか、お前が『鬼のサヤ』か!!」

「だったらなんだよ」

「不良どもから恐れられる程度の存在だからと侮っていたが、まさかこれほどまでに凶暴な奴だと思わなかった!」


彼の身から土気色の魔力が大きく溢れる。刃に魔力が集まり鈍く光る斧を彼は振り上げる。


「なら、ここからが本気だ! 陸城隆門ろくじょうりゅうもん!!」


地面に斧を叩きつける。地鳴りが起き、サヤの足元が突然持ち上がり始める。


「な、なんだァ!?」

「破ッ!!」

「うおっ!?」


気迫の声と共にサヤの足元の地面が真っ二つに裂けた。急に踏みしめる大地が消えて自由落下し始める自分に焦りの声を出した。


「地上では強くとも、空中ではうまく動けまい!! もらったぞ!!」


落ちる彼女に向けて魔力弾を多数同時に放つ。魔力を持たない彼女では空中の攻撃を捌き切れない量だ。


「フォトンブレイザー!!」


 だが、彼女を救ったのは桜色の閃光。ほのかの放った砲撃だった。砲撃に呑まれた魔力弾は次々に爆発を起こして大気中に消える。着地したところにほのかが下りて駆け寄ってきた。


「サヤちゃん、大丈夫!?」

「おォ、サンキュ…」


ギリギリで間に合ったことにホッとするも魔力刃が飛んで来て左右に避ける。


「面倒な敵ほど邪魔をする……!!」

「ギルバートさん、お願いだから私達の話を聞いて!!」

「はああっ!」

「っ……!」


 ディフェンシブを張って斧の一撃を防ごうとする。しかし、降り抜かれて障壁が弾けて衝撃でほのかは後ろに吹っ飛ばされる。決定的な隙……それを逃す筈もなし!


「もらった!!」

「っ……。ウィル!!」

[ブレイブモード、オンライン!!]


 無理矢理勢いを殺してブレイブモードに移行したウィルを構える。備えられている三叉の金色の突起が光る。そこから桜色の魔力がそれぞれ鋭く突き出て、合わさりまるで槍の様になる。ブースターから桃色の魔力光が粒子となって噴き出す。


「ホーリーランス! ゴー、シューーット!!!」

「なにっ!?」


 ブースターから魔力が解放されて一気に最高速度に達する。彼女の戦い方から中~遠距離攻撃しかしないと思っていたギルバートは意表を突かれる形となり驚きの声を上げる。斧をすぐに引いて防御の構えをとり、土色の防御魔法陣を張って身構える。


 手が痺れる様な衝撃と共に吹っ飛ばされるギルバート。すぐに空中で体勢を立て直し駆け抜けていったほのかに向かって魔力弾とレーザータイプの誘導式魔力弾を飛ばす。

 ホーリーランスを展開したままほのかは空中を高速で飛び弾幕を避ける。一定距離引き離した所で反転し魔力弾を打ち消しながら再び突撃する。


「光属性との戦いは……レイラで慣れている!!」


 ほのかの進行先に魔力障壁が複数縦列して展開される。ホーリーランスで貫いて破壊していくが、貫く度にその威力が少しずつ削がれていく。最後の障壁を貫いた時には、ギルバートは容易く防げるまでになっていた。


「はあっ!」

「きゃあっ!?」


受け止められて弾かれる。振り下ろされた斧で地面に叩き落とされた。


「とどめだ!!」

「ほのか、逃げろ!!」


 動けないほのかに向けてギルバートが距離を詰めてくる。攻撃できる距離まであと数メートルにまで近づいたその時だった。異常を示す警告音と共に建物が大きく振動する。


「な、なんだ!? なにが起きている!?」

「団長! フィールド変換システムに異常発生!! 何者かに制御室を制圧されてます!!」

「なんだと!? いったい誰が……はっ!?」


 気配を感じたギルバートが視線を向ける。フィールドの一点が開くと同時に金の閃光が猛スピードでこちらに突っ込んで来るではないか。


「せえぇぇぇいっ!!」


 超スピードからの高速回転斬り。煌めく剣閃にとっさに防御するも凄まじい衝撃に弾き飛ばされて端まで吹っ飛ばされた。突如として姿を見せた人物に全員が動くのを止めて視線を送る。


 金の魔力光を身にまとう少女がそこにいた。胸元をひし形に開いた形でそこに紅いひし形の宝石が付いた黒き闇に紛れる装甲の薄そうな服装。その上に黒きコートを羽織り黒い手袋を装着している両手にはそれぞれ金色に光る一本の剣。黒き柄の中央には金色に輝く宝石が埋め込まれていた。


 見覚えのある顔、それは自分達が民間人だと思って救助した少女であった。彼女、リースリットはゆっくりと降下してほのかの前に下りるとそっと手を差し伸べる。


「ほのか、大丈夫……?」

「リースリットちゃん。きて…くれたんだ」

「ん……」


 コクリと頷いた彼女を見て嬉しさを隠しきれないほのかは笑顔になってその手を掴んで立ち上がる。リースリットに向けてお礼を言ってからもう一度笑顔を見せると、恥ずかしそうに顔を赤くして視線をスッと逸らす。


「くっ、まさか……。他にも仲間がいたとはな……」

「ほのかを、皆を傷つける人は……許さない」


羽織っているコートを脱ぎ捨てる。背後に剣を構える戦乙女の紋章が出現、両足に稲妻が宿る。


「ナイトチャージ……!!」


 地を蹴り彼女は駆け出す。その一歩ごとに速度は増していき、高速でギルバートへ肉薄する。一撃を入れる度に離脱し、反転して再度斬り掛かる。幾度となく仕掛けられる攻撃をさばき、次いで来た斬撃を受け止め踏み止まる。


「まさか、一般人だと思ってた子供まで敵だったとはな!」

「違う……。ほのか達はあなた達に何もしていない」


 とはいえ、この人達が話を聞いてくれそうな雰囲気は見られない。当事者ではないからよく分からないが、ほのか達はなにもしていない。やったのはクロス王国の人間だというのに分かってくれない。


「ほのか達を狙うなら、倒す」


 相手の斧を押した反動を利用して飛び退いて地上に着地、デュアルザンバーとなり右手の剣を逆手に持ち変えてからナイトチャージで駆け出す。接近してくる彼女に対して斧を地面に叩きつけてそこから土の杭を複数作りだして飛ばして来た。


「はああっ!!」


 身を捻り全身を使って高速回転斬りを繰り出す。飛んで来た杭を次々に両断して突っ込む全てを破壊した彼女は回転を止めてギルバートへと斬り掛かっていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



光魔閃を受けて地面に伏したまま動かないマルグリットを見てレイラは持っていたレイピアを下げる。


(これでやった、よね……)

「マルグリット……くっ」


 ピクリとも動かないマルグリットの傍を吹き飛んだ札付きの帽子が転がる。先ずは一人……。次は――ユグドラを狙う。

 倒れたマルグリットから背を向け、ユグドラの方に向き直った彼女はレイピアの切っ先を向ける。しかし、向き直った彼女は始めに目の前の光景を見て違和感を覚える。


ユグドラを包む水泡が―――――消えていないのだ。

そして網膜に映るユグドラの表情、それは他でもない驚きの表情だった。


 ハッと気づいて振り返る。地に伏していたマルグリットが何時の間にか立っていた。頭を振り、顔を隠していた髪が払われる。閉じていた目がゆっくりと開いた。その目つきは、先ほどまでの自信なさげなものではなく鋭いものだった。


(なに、この人……。さっきと気配が全然違う)

「……選べ」


発せられる気配に警戒を強めていると、マルグリットが静かに問いかけて来た。


「武器を捨て、人として生きるか―――」


地に転がっていたナイアスが翳された手に戻る。全体を水の魔力が覆い、それを相手に見せる様に水平に突き出す。


「それとも、獣となりて死を選ぶか選べ」

「倒れるのは、お前らだ!!」


 そんな問いかけに対して答えたのはレイラではなく、団員達だった。レイラの一撃で疲弊してる相手なら自分達だけでも十分。団長の手を煩わせるまでもない。そう思っての行動だった。


「そうか。お前達は獣か……」


 レイラが制止の声をかける間もなくマルグリットに襲いかかった団員達が一瞬で吹き飛んだ。さっきとはまるで別人の様な一瞬の動き、それを目の当たりにしてレイラは緊張の面持ちで問いかける。


「貴方は、何者なの……?」

「私は古代インペリアの騎士……波濤のマルグリットだ」


 本能が告げる。目の前にいるマルグリットは危険だと。レイピアに魔力を通して身構える。レイラの動きを見たマルグリットが目をスッと細める。


「そうか……お前も獣か」

「部下がやられて、なにもしないで降参する気なんてない!」


 地を蹴り一気に最高速度に達したレイラが神速の刺突を打ち出す。それをマルグリットは身を捻り紙一重でかわすとその場で足を軸に回転し、胴を狙った一閃を繰り出す。体を仰け反らして一撃を避け、通り抜ける。


「くっ……! はああぁぁぁっ!!」


 地面を踏みこみ急停止して反転から再びマルグリットに突撃する。素早い連続の刺突で攻撃するが前に張られた水壁に阻まれる。水壁を切り裂く様に棍が飛び出してきて慌ててレイピアで受ける。

 そのまま身体ごと吹っ飛ばされるもすぐに体勢を整えて相手の姿を確認しようとする。しかし、前方にいるはずのマルグリットの姿が何処にもない。


「っ、いな――っ!?」

「水棍必倒……」


声にハッとして頭上を見上げる。棍を頭上で回しながらマルグリットが急降下する。


「水爆壊っ!」


 通常の倍の勢いで打ち上がる水柱。その中からレイラが吹っ飛ばされる形で地面を転がる。持っているレイピアは半ばからへし折れてもはや使い物にはならない。

 全身を襲う痛みと己の得物がなくなったことに顔を歪ませながら立ち昇る水柱を見やる。勢いが収まり中からマルグリットが姿を現す。全身を水浸しになってもまるで気にする様子もなく悠然と歩く。


「いまので仕留めきれなかったのは驚いたが、次は外さない」

「くっ、なら……!!」


使い物にならなくなったレイピアを構える。刀身に光が宿り、折れた個所から魔力が刃となって生えた。


「奥義!! 光魔五煉閃!!!」


 神速の五連突き。突き出された切っ先から放たれるは五つの太い光線。自分に襲いかかる五つの閃光を前にマルグリットはナイアスに魔力を込める。


「魔力解放。天叉斬鉄てんさざんてつ……」

[Over Limits,LevelⅠ]


ナイアスの棍の柄が鱗状に浮き上がりそこから魔力の粒子が流れ出てくる。棍全体を青い魔力光が包み込み、激流が流れる如き勢いで荒れ狂う。


「水棍絶倒、水影塵」


 振り上げた棍を全力で振り下ろす。地面を吹き飛ばすほどの水魔力の大爆発が発生してレイラの攻撃が相殺される。自らの奥義を打ち消されたのに驚愕の表情を浮かべる。


「これで終わりにしよう」


一歩、レイラの方へと歩み出る。その時、マルグリットの背後に一つの影が現れる。


「はい、そこまでにしようかマルグリット」


 声と共に彼女の頭の上に何時もの札付き帽子が載せられた。帽子を載せられた途端にマルグリットの体がビクンッと硬直する。ゆっくりと首を動かし振り返る。


「ダメだよ。これ以上は、あかねを傷つけるからお休みしようか」


マルグリットの後ろに立つ人物。それはシリウスだった。


「シ、リウス……貴様……ダメ、だ。私は、まだ戦わねば……くっ、力がぬけ、る」


 がくっと体から力が抜けて気を失い崩れ落ちる彼女をシリウスが受け止める。彼の登場から少しして広場だった空間が崩れ始めて、元の狭い通路へと戻っていく。


「シリウス、なのか……?」

「いや~ごめんごめん。人を呼ぶのに時間が掛かってね」

「え?」

「ったく、最近の若いもんは人様の領地でドンパチするのが好きだねぇ」


 彼の後ろから野太い声が聞こえる。その姿を確認したギルバートとレイラを含んだアンフィスバエナの面々は、シリウスの後ろに立つ人物を見て動きを止め驚きで目を見開く。


「ギルドの誓い第七番、人の領地でドンパチする時は必ず許可を取ること。知らないとは言わせねえぞ若い衆よ」


白髪と白髭を生やした老齢な男性が腕を組んで歯を見せ笑った。



遂にアンフィスバエナ筆頭と交戦。激しい戦闘が続くと思われたが、姿を消していたシリウスが人を連れてきたことで戦闘は中断される。

果たして、彼が連れてきた人物とは……。


それでは次回も宜しくお願いします。

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