第六十四話 脱走
六十四話更新。
モンスターを退けたほのか達だが、次に待っていたのは第一都市で因縁をつけられて誤解が解けぬままだったギルド『アンフィスバエナ』の一団だった。
とある建物の地下部にて――
「おいっ! ここから出しやがれーーっ!!」
檻に手をかけ激しく前後させて抗議の声を上げるのはプレセアである。ガタガタと音が室内に響くだけで檻はビクともしない。
「あんまり騒ぐなっての。耳に響くだろうが」
「はあっ!? こんな状況で騒がずにいられるか!!」
後ろから聞こえた声に振りかえる。胡坐をかいて壁に背を預けているバルドに詰め寄り牙を見せて咆える。
「咆えたってどうにもならねえだろ。少しは落ち着け」
「とっ捕まって檻に入れられてんだぞ!! 落ち着いてられっか!!」
だせ~~!! と再び檻にかじり付いてガタガタと揺らし始める。
そんな彼女の様子を見てやれやれと肩を竦めた。
「しかし……。お前達は彼等の恨みを買う様な事をしたのか?」
「ちげえよ。向こうが勝手に勘違いしてるだけだ」
事情の分からないあかねやユグドラ達に事の次第をかいつまんで説明をすると半ば呆れた表情を浮かべた。
「なるほど。その魔術大国の者達もオーパーツの欠片を探していて、彼等に襲われた際の会話から勘違いをされたという訳か」
「傍迷惑な話ですね~」
「まったくだ。お陰でギルドの連中に目を付けられるし面倒くせえ話だぜ」
重いため息を吐いて疲れた顔をするバルドにユグドラ達は苦笑する。
「けど、それなら向こうに説明したら誤解も解けるんやないか?」
「向こうが聞く耳持たねえんだよ。ったく、ギルドの連中は頭が固くて困る」
モンスターが逃げた後、SCCAの部隊が到着する前にアンフィスバエナはほのか達を包囲した。消耗した状態の彼女達では数が多過ぎ、また抵抗すれば余計に関係がややこしくなるかもしれなかった。
結果的に降伏して縛について道中に何度か誤解を解こうとしたのだが、敵の言葉など聞く耳持たんといわんばかりに黙殺されてしまい取り付く島もなくこうして牢屋に叩き込まれてしまったのだ。
「唯一の救いとしては、リースリットが一般人と思われて保護されたってことか」
ただ一人、リースリットはマジックアーマーを解除していてバルドに抱えられていたことから市民の一人と思われたのか助けた少年と共にほのか達の下から引き離されたのだ。
「問題としてはここから出る事と……リースリットと合流することだな」
「まだあるよね。 シリウス君、どこいったんやろ?」
今この場にシリウスの姿はない。アンフィスバエナに拘束された時から彼の姿は忽然と消えてしまったのだ。
「あいつのことだ。ビビって逃げやがったんだ!!」
「シリウス君はそない薄情な人やあらへん」
「普段はヘラヘラと調子のいい奴だが、あれでも人を裏切るような男ではないのはプレセアも分かってるだろう?」
「うっ……」
あかね達にいわれて言葉を詰まらせる。あんな事を言っているが、プレセアも彼のことをそうは思っていない。こんな状況だから思わずといったところだろう。さっきまでの威勢が失せて大人しくなったプレセアにクスクスと笑う。
「もう一つの問題としては……サヤの扱いだな」
隣を見やるとサヤが座っている。何時になく大人しい理由は彼女の今の状態が原因である。
「…………」
無言で苛立ちを隠さずに檻の向こうをジッと見ている彼女の体には、約二人分ほどの太さを持った巨大な鎖が巻きつけられている。拘束された際に彼女だけ手錠などではなく、これを巻かれたのだ。
「対大型モンスター用拘束具でサヤを拘束するなんてなに考えてるんだろここの人達」
「そら前回あれだけ大暴れしたらそんな扱いになるだろうよ」
初めてサヤと会った時のことが思い出される。彼女はたった一人でギルドの団員を鬼の如き勢いで全滅寸前に追いやった。しかも、肉体強化等の強化魔法を一切使う事もなく生身で武装した団員を空高く吹き飛ばしたりしたから……モンスター用の拘束具を使用するのも納得がいく。
「向こうが一番警戒してんのは、俺じゃなくてお前なのかもな」
「…………っ!!」
ゴゴゴッと彼女から気が溢れる様な音が聞こえる。それに合わせて鎖がギチギチと嫌な音を立てる。闇でも映える金髪はまるで生きている様に広がり、その美しい蒼眼からはとても表現し難い殺気が烈火の如く燃え滾っていた。
「おいサヤ。キレたいのは分かるがもう少し待て。時期が来たら好きなだけ暴れてもいいからよ」
闘気が薄れて大人しくなる。彼女の殺気に当てられて互いに抱き合ってガタガタと震えていたほのかやフィリス、あかねがホット一息ついた。近くにいるだけで身の毛もよだつ恐ろしい気配は仲間達すらビビらせる。
実は先ほどまで見張りの団員がいたのだが、彼女の気をまともに浴びた所為で泡を吹いて気を失って緊急搬送されてた。いまとなっては誰も見張りに立ちたくないのか檻の前に人の気配は全くない。だからこうして好き勝手に話をする事が出来るのだから皮肉なものである。
(リースリットちゃん大丈夫かな……)
一人離された友達は大丈夫だろうか。一般市民と思われて保護されたから心配はないと思ってもやはり不安は拭えない。離された友達を思うほのかは薄暗い天井を見上げるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そのころリースリットは助けた少年と同じ部屋にいた。
「……」
「……」
お互いに無言の為に室内は異様に静まり返っている。少年の方は彼女を警戒してるからであるが、リースリットの方は別の理由で静かなのだ。
《フォルテ、皆はどこにいるの?》
《この建物の地下部の様です。状況を整理しますと、私達のいる場所は四階で奪われたターミナルは三階、ほのかさん達は地下一階に閉じ込められている様です》
いまの彼女はフォルテとの念話に意識を集中していたからである。離されたほのか達の居場所と、ターミナルの位置を把握してすぐにでも助けに向かおうとしていた。
《場所は分かる?》
《ウィルからの通信が来ていますので把握は可能です。あとはマスターの意志次第で》
《なら、すぐに行く……》
フォルテを起動してマジックアーマーを展開する。驚く少年を余所に彼女は一人でほのか達を助けに行こうとした。
「おやおやお嬢さん。そんな物騒な物持ってどこに行こうとしてるのかな?」
「っ!?」
ドアの方から聞こえた声にビクッと肩を震わせてから、慌てて振り返りながらフォルテを構える。果して、ドアに寄りかかる形で立っていたのは一人の団員と思わしき男性だった。
バレた!? そう思った彼女の行動は早かった。高速移動魔法で一気に相手との距離をゼロにしてフォルテで斬りかかる。
仲間を呼ばれる前に始末する。そんな気迫が篭った一撃はしかし、軽く上げられた腕に受け止められて防がれる。
「待った待った!? せめて相手をよく見てから攻撃しようよ!?」
しかし、余裕のある防御とは裏腹にその声はだいぶ焦りを含んでいた。怪訝な表情を浮かべたリースリットだが、相手の顔をよく見てやっとここで気が付いた。
「……シリウス?」
「せ、正解……」
キョトンとした顔で首を傾げて問いかける彼女に、半ば苦笑した感じで返事を返したのは姿を消したシリウスその人だった。振り下ろしていたフォルテを下ろし警戒を解いた彼女を見て大きく息を吐いてホッとする。
「いやはやビックリしたよ。いきなりゼロ距離で高速移動して斬りかかるんだもん。もう少し近かったら絶対くらってた」
「そんな恰好をしてるシリウスが悪い……」
「ん、それもそうだね」
これはしまったと自分の頭をぺしりと叩いてケラケラと笑い彼女の意見に賛成する。それでいいのかとツッコミを入れたいところだが、喉奥に押し留めておいてそれ以上に気になることを質問する。
「どうして、貴方はここにいるの?」
「ん~? あのあと逃げた」
簡単に説明すると、アンフィスバエナが現れた→トラブル起きそうなので姿を隠す→みんな捕まったからこっそり後を追う→備蓄庫から装備を少々拝借→建物内を観光といった感じでいま此処に至るという訳だ。
「盗みはよくないと思う……」
「盗んでないよ。ちょっとだけ借りただけ。いや~、ここの人って親切だね。お願いしたら通してくれたよ」
あはは~と笑うシリウスを見て、この人絶対になにかをやらかしたと思う。親切なその人はきっと幻術でも当てられたんだろう。一体どんな幻術を当てられたのか少し心配になってきた。
「まあ、ここの人達のことはどうでもいいとして……リースリットは少し落ち着いて行動した方がいいね」
「私は、落ち着いてる、よ……?」
「敵の本拠地で自分の正体をわざわざ晒す事が?」
聞かれてハッとする。言わんとしている事が分かってくれたのにニコッとシリウスは笑い返す。
「ここは相手の陣地。そんなことしたらすぐにバレちゃうよ?」
なぜほのか達が捕まったのかよく分からないが、なんにせよいまこの建物にいる全ての者が敵なのだ。迂闊に勘付かれる様な行動すればどうなるか容易に想像できる。諭されて展開していたマジックアーマーを解いてフォルテを待機状態に戻した所でシリウスはにこりと笑う。
「さて、やっておく事を先に終わらせてから皆を助けに行こうか」
「やっておくこと?」
そうそうやっておくこと。そう言って彼が視線を送らせたのは、二人のやり取りをジッと見ていた少年だった。
「ねえ、君の名前を教えてくれないかな?」
「……アキト」
「アキトか。いい名前だね~」
まだ異臭の残る街中をリースリット達三人は歩いていた。あのあとにアンフィスバエナの拠点から外に出る事が出来た。見張りの団員らしき者の前を通る時はだいぶ緊張したが、シリウスが軽い感じで話をしたら通してくれたのが非常に気になるところ。
「ん~? それは企業秘密さ♪」
それを質問したらそんな返事が返って来て深く聞く事を止めた。どうせ探ってものらりくらりとかわされて話を逸らされるに決まってるから。にこやかに話しかけるシリウスに向けていた視線を今度は少年の方へ変える。
色々と話しかけてくるシリウスに対して警戒心を隠さないでいる少年。その顔……正確には顔の左半分が爛れている。つい最近といった感じではなく、出来てから数年は過ぎているだろう。
「貴方は……アキトはどこに住んでるの?」
「はずれの孤児院…」
案内された街はずれの何もない場所に一軒の家が見えた。そこから元気な子供達の声が聞こえてくる。木造の簡素な佇まいの家と少し広めの庭。その庭で十人程度の少年少女が駆けまわっていた。その中で物干し竿に洗濯物をかけていた黒髪の女性がこちらに気付く。
「アキトッ!!」
名前を呼んで駆け出した女性は少年へと駆け寄りそのまま腕の中に抱いた。
「どこ行ってたの! ずっと心配してたのよ!?」
「ごめんなさい……お母、さん」
「にーちゃん。おかえりー!」
「おかえりー!」
少年と女性を囲む様に遊んでいた子供達が囲んで次々に声をかける。自分を囲む少年少女達を見て、さっきまでの無表情が嘘の様にアキトは笑みを見せてただいまと返事を返した。
「雨が降っていたから心配してたけど、無事でよかったわ。……あら、あなたちは?」
「どうも。俺の名はシリウスって言います。こっちはリースリットといいやす。アキトを家に届けにきたんです」
「まあ、ご迷惑をかけてしまって申し訳ありません。詳しくは家の中で」
案内されて入った家の中は見た目と同じ様に質素なものだった。大きめのテーブル一つに数席の椅子。台所は狭く、食器や家具も少ない。
「たいした御もてなしもできませんが、どうぞ」
出されたお茶に対して礼を述べてからシリウスが事のあらましをかいつまんで説明する。大体の事を話し終えたところで、彼女……アスノは深く二人に頭を下げてお礼の言葉を言った。
「雨の中からアキトを助けて頂き、本当にありがとうございます。なにかお礼をしなくてはいけないのですが……」
「いいっていいって。そんな目的で助けた訳じゃないし。それにここって孤児院でしょ?」
「はい」
周りで遊ぶ子供達の楽しそうな声が聞こえる。シリウスはニコニコと笑顔を絶やさない。
「子供達を養うだけでも大変なのにそこから貰おうだなんて思ってないから心配しなくてもいいよ」
「すみません……」
「そんな謝らなくてもいいよ~」
「ん……。気持ちだけで大丈夫……」
リースリットも謝るアスノにそう伝える。二人に言われてホッとしたのか体の緊張が少しばかり解かれた様だ。
「さて、そろそろ時間が来たかな」
立てかけてある時計を見た後にシリウスはそう言って椅子から立ち上がる。なんのことか分からないリースリットは彼の行動に首を傾げた。
「俺達はここいらで失礼するよ」
「なにか予定があるのですか?」
「仲間が待ってるんだよ。アキトを助けた時にちょっと面倒事に巻き込まれててね」
「あ……」
言われて気付いたのかリースリットも立ち上がる。そうだ。ここでこうしてる場合じゃない。ほのかやフィリス、バルド達を助けなくちゃいけないのだ。
「そうですか。その方達もアキトを助けてくれたのですね。では、次に来る時は皆さまも……」
「ん、了解。それじゃあ、お邪魔しました~」
ジッとこちらを見ているアキトの姿を目の端で捉える。そちらを向いてシリウスは笑顔で軽く手を振った。
「アキトもじゃあね~」
「……ばいばい」
二人の別れの言葉に彼はぷいっと顔をそっぽを向いて応えた。周りの子供達は外に出て帰る二人に次々に元気よく挨拶をして手を振って見送ってくれる。
「シリウス……すぐに行くよ」
「ほいほい。まあ、大丈夫だと思うけどね」
気楽な様子で答える彼に疑問を感じながらも一刻も早く皆を助けたいと思った彼女は足早に来た道を戻り始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、檻に閉じ込められているサヤにそろそろ限界が近づいて来ていた。なにやらすっごいオーラが立ち昇り始めており、鎖からは嫌な音が絶えず鳴っていた。
「霧島さん大丈夫?」
「そろそろ我慢の限界だ。暴れてェ……」
イライラを隠せない。他の皆は手錠とかで済んでいるのに自分だけモンスター用の捕縛鎖で拘束されているのだから納得がいかない。
「そうだね。女の子の霧島さんにこんな鎖を付けるなんてここの人達は酷いかも」
「お、女の子だァ!?」
アシュトンの言葉に素っ頓狂な声を上げて驚いたした様子で見つめる。それに彼は真剣に頷いて答えた。
「そうだよ。霧島さんは女の子なんだからこの扱いは酷いよね」
「あたしはそんなお淑やかじゃねェぞ」
「そうかな……。霧島さんってヤンキーだけど、それほどヤンキーじゃないし……。一緒に旅をしてて霧島さんはやっぱり女の子だって思うよ」
サヤの顔が紅潮していく。言われ慣れていないのか口はパクパクと開閉を繰り返してそこから空気が漏れる音しか出てこない。
「それに、僕の知ってる中でもっと乱暴……ってよりは無茶な人いるし。………母さんとか母さんとか母さんとか母さんとか母さんとか」
ブツブツと最後に呪詛の様に呟くアシュトンを余所に、さっきの言葉がサヤの脳内を何度もリフレインしていた。
サヤが脳内熱暴走を起こしている時だ。上の方でなにやら警報や人の喧騒が聞こえて来た。
「なにやら上が騒がしいの?」
「待って、誰か来るよ」
階段を下りてくる音が聞こえて全員が耳を澄ます。そして、彼女達の檻の前で一人の帽子を目深に被った団員と思しき人物が立った。目にした途端にプレセアが駆け出して檻に手をかけて牙を見せて咆える。
「おい! ここから出しやがれ!!」
「おぉ怖い怖い。女の子ならもう少しお淑やかにした方がいいと思うよ?」
「ほっとけ!! つーか、アタシは子供じゃねえ大人だ!!」
「ま、待ってプレセアさん。この声、もしかして……」
聞き覚えのある声にアシュトンが制止を掛ける。薄暗い中で正面の男がニヤリと笑った様に見えた。
「さすがアシュトン。よく気付いたね」
被っていた帽子を脱いだ先にいたのはシリウスだった。思わぬ再開に違った形で仲間達は驚かされる。
「シリウスお前!! いままでどこ行ってたんだよ!?」
「ちょっとお散歩にだよ~♪」
「仲間置いていってなにが散歩だ!」
「はいはい静かに。あんまり騒ぐと気付かれちゃうからさ」
そう言って人差し指をプレセアの唇に当ててし~っというジェスチャーをする。口を噤んだ所で彼はズボンのポケットに手を入れた。
「おいっ!! そこでなにをしてる!?」
その時、入口の方から声が聞こえた。見れば二人組の団員が階段の前に立っていたのだ。それを見るやシリウスはポケットからプレセアに向けてなにかを投げて相手に向かって突撃し、青い炎を宿した拳で近接格闘を仕掛ける。
「こいつ!?」
「上での騒動はこいつの仕業か! 構うことはねえ、やっちまえ!!」
向かってきた彼を敵と認識した団員が自らの得物を手にして襲いかかる。振り下ろされる剣を体を半歩ずらすことでかわして避けると回し蹴りで相手の側頭部を強打し、倒れる相手の影に隠れて残る一人の視界から消える。
一瞬だけ動きが止まったところでスライディングで下から攻撃し、足下をすくわれ倒れ込む相手に連続キックを打ち込んでから最後に勢いのついた飛び蹴りを当てて壁まで蹴り飛ばす。
「ふぅ~。証拠隠滅完了!」
額を拭って軽く息を整える。その時、後ろの檻がけたたましい音を立てて吹き飛んだ。人の手では破壊できない筈の鋼鉄の檻がまるで紙の様に破壊された奥には……。
「フゥ~~……!!」
「こわっ!?」
鬼がいた。ストレートの金髪が大きく広がり、目は青から赤へ、爪は普段の倍以上に伸びて口からは鋭い歯が見え、白い息が吐き出される。
「貴様ら、一体なにを―――ひぃっ!?」
そこに運悪く騒ぎを聞きつけて別の団員が二名ほど下りて来た。そして、サヤを見て身を強張らせる。彼等の目から見ると、いまのサヤは怖ろしいオーラを纏った悪鬼以外の何者にも見えなかったからだ。
「お、鬼だーーーっ!?」
そんな失礼な発言を言い残して、彼等は脱兎の如き速さで階段を駆け上がってその場から逃亡した。一瞬だけ、戦いになると思って身構えていたシリウスだったが構えを解いた。
「檻を生身で粉砕するか。人としては達人の域だな」
「グラキエスさん、そこ感心する所じゃなくて驚く所だよ!?」
「まあなんだっていいじゃねえか。出られたことだし」
先にサヤの拘束具の鍵ではなく、檻の方を開けておけばよかっただろうか。もうことは終わってしまったので今更な感が残っているがこの際、出られればなんだっていいかと納得する。
「さて、まずは取られたターミナルの回収だな」
「場所は知ってるから行こうか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「保護した子供達を誰かが勝手に解放したとか、どうなってんだ」
警報が鳴る中をギルドリーダーのギルバートは報告を受けて足早に歩いていた。誰も許可は出してない筈なのに、保護した少年と少女を誰かが外へ連れ出したらしい。しかも、それが誰なのか番をしていた者達は思いだせないとか言っていた。
「それに合わせて各エリアでの同時多発的なボヤ騒ぎ、ただの偶然じゃないぞこれは……」
「監視カメラの一部も使えなくなってるみたい」
「レイラ、牢に入れた連中はどうなってる?」
レイラと呼ばれた女性、かつてアウルと一戦を交えたアンフィスバエナのもう一人のリーダーは深刻そうな表情を浮かべる。
「そっちの監視カメラも動かなくなってるみたい。団員を向かわせたけど、いくらなんでも帰りが遅すぎる」
「だ、団長ーー!!」
通路の向こう。血相を変えて走ってくるのは様子を見に行かせた二名の団員だった。二人の前で止まった彼等は全力で此処まで走ったのだろう激しく息を切らしながらも報告をする。
「お、檻を破って……お、お、鬼が、鬼が出ました!」
「鬼?」
「脱走されたのか!? なにやってるんだ!!」
脱走した相手を前に尻尾を巻いて逃げた彼等に叱責を飛ばす。
「む、無理ですよー!? あ、あんなのに我々二人では勝てる気がしません!?」
「頭から生えた二本角……。鋭い爪と牙、真っ赤に光る目……!! きっと俺達なんか骨までバリバリ喰われちまう!」
完全に怖気づいてしまったのかその場でしゃがみこんで頭を抱え震える。そこまで凶暴な奴を入れた覚えがないので疑問が生じるが、彼等の怯えっぷりは嘘を吐いている様には見えない。
「ギルバート。どっちにしても、脱走されたことに変わりはないよ」
「そうだな。第三班は俺達についてこい。残りは事態の収拾を急げ、きっと組織内に潜り込んだネズミがいる。見つけ次第に叩きのめせ」
肩に斧を担ぐギルバートとレイピアの柄に手を触れるレイラ。二人は部下数名を引き連れて三階へと歩を進めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
立ち塞がるアンフィスバエナの団員をサヤやグラキエスやシリウスが撃破してほのか達はウィル達の収められている部屋の前に辿り着く。警戒しつつバルドが少しだけ開けて中の様子を見る。人の気配がないのを確認してから仲間に合図を送って内部へと入る。
「ウィル!」
[お待ちしてましたマスター。きっと来てくれると信じていましたよ]
見つけた相棒に駆け寄って両手でしっかりと手に取る。いじられた様子はなく、問題ないと点滅して答える。メローも他のターミナルも問題はないようだ。
「全員セットアップしておけ。こっから先は強行突破だ」
「え。、そこの窓から逃げるんじゃないんですか?」
アシュトンが外へと通ずるだろう窓の方を見る。確かにターミナルを取り戻したのだから外へと飛び出して飛行魔法で逃げれば問題はなさそうに見える。
「いや、バルドの意見に私は賛成だ」
「アタシも同じ意見だ」
騎士達も彼の意見に同意らしい。なぜだろうと首を傾げるほのか達に彼は窓の外を示す。なんだろうと思ってほのか達は窓の方に近づいて外の様子を確認する。
「え……」
「うそ!?」
外の景色を見て驚きの声を上げる。彼女達の前に広がっていたのは、広大な土地に建てられた大型建造物。そして、それはいま自分達が居る建物そのものであった。
「なにここ!?」
「どうやら俺達は厄介な場所に連れて来られたらしい」
「まさかとは思うが、ここはギルドの総本部……ではないのか?」
「そのまさかだろうな。なんかでけえ建物に連れて来られたと思ってたが、面倒くせえ所に来ちまったな」
険しい表情を浮かべる。本来ならこんな形で入るべきでない場所だ。窓から見えるだけでもアンフィスバエナ以外のギルドがちらほら見える。
[『サマーキャット』に『トリックトリック』……おっ、あっちには『パーシヴァル』と『エレファンド』がいるじゃねえか]
[どれも有名なギルドですね。総本部にこれほどのギルドが集まるなんて珍しいですよ]
「ギルド総本部には普通は『ルドガルア』以外はいないはずだ。それがこれだけ集まるとするとギルド長の『ザックス・イエーガー』が招集をかけたとしか思えないな」
呟いていたバルドが視線を廊下へと向けてケルベロスとバハムートに手をかける。同じくアウルは両手に扇子を持ち、グラキエスは両の手を拳に変える。騎士達も自らの得物に手を当てて廊下の方を見ていた。その動きからほのか達もなにかを感じ取ったのかウィル達を構える。
[ドアの向こうに数名の生体反応を確認しました]
「バルドよ。これからどうするのだ?」
「こうなったらしょうがねえ。ザックスに会いに行くぞ」
「ザックスさんに?」
「お前の持っているミラからの書状を渡すのと、アンフィスバエナとの誤解を解いてもらう」
その為には―――
「ここを突破して中央部へいく。そこにギルド長ザックス・イエーガーがいるはずだ」
「では、ドアの前に居る童達には悪いが退いてもらおうかの。わっちが道を作ろう」
黒き風が彼女の身の周りを旋回する。それは腕から手へ、手から扇子へと移る。腕をクロスさせて力を溜めてから、一気に開放する。暴力的な風はドアを突き破り、更にその先にいた団員達を壁へと吹き飛ばした。
「いくぞ!!」
バルドの合図と共に一同が飛び出す。目指すはギルド『ルドガルア』の団長にして全てのギルドの長を担う人物、ザックス・イエーガーのいる中央部。立ち塞がる者を倒しながら、一同は奥地へと突き進んで行った。
シリウスの活躍によりリースリットとアキトを無事に外へと脱出させて、アキトの住む孤児院へと届ける。一方その頃、ほのか達もシリウスから鍵を受け取り檻から脱出、奥にいるだろうギルド長『ザックス・イエーガー』に会う為に動き出した。
それでは次回も宜しくお願いします。




