第六十三話 酸性雨の中の激闘
六十三話更新。
酸性雨降り続く中で、ほのか達は都市を襲撃するモンスターと再び出会う。
都市を覆う酸性雨を降らせ、未だその能力が未知数の敵を前にほのか達はどう戦うのか。
強酸性雨の中に現れた巨大なモンスターは何をするでもなくその場で佇んでおり、身動き一つも起さなかった。
「動く気配はなさそうだな」
「寝てるのかな? ボク、オヒルニガテデス! みたいな?」
「だといいがな」
軽く入ったおふざけを取り敢えずスルーしておいてバルドはモンスターを見上げて警戒していた。
「どうやってこの都市にまた入ったんだ?」
[雨で臭いが辿れねえから全然分からねえぜ]
謎な点はそこである。いままでいなかった敵が都市にある索敵レーダーを潜りぬけてどうやって入ったのか。いまは酸性雨で使えなくなったとしても、最初の侵入は発見できた筈なのだ。
だが、それが出来なかった。どんなトリックを使ったのか分からないから余裕が少し持てない。
「まずは全体の把握から始めるか?」
「そだね~。って言っても、見た目は蛇に近い感じだけど」
動かぬ内に相手のことを把握しようと相手の目線に合わせた高度に飛ぶ。しかし、その時だった。光が失せていた瞳が閉じて、輝きを取り戻して再び開いたのだ。
「ウア゛……」
「なにっ!?」
「ウア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァッ!!」
身動ぎを始めた巨大モンスターが咆哮を上げる。雨粒を吹き飛ばす声の衝撃波が一帯に起きてバルドとシリウスを吹き飛ばした。
「ちぃっ、動き出しやがったか!!」
「耳がキーンって鳴ってますはい」
相手が動き出したことに舌打ちをするバルドと、声の衝撃波の影響でフラフラしているシリウス。その二人を認めた巨大モンスターが大きく息を吸い込むと身を反らした。動作から危険を察知した二人がその場より散開する。
直後に相手は口より液状のブレスを吐いたのだ。鉄砲水、いや水大砲の様な勢いで放たれたブレスが二人の間を飛び抜けて背後にあったビルに直撃する。すると、ブレスの掛かった個所が融解して崩れ落ちていた。
「どぇ~~!? 酸性ブレスだあれ!?」
「何処までも面倒な奴だな!!」
悪態を吐く彼に向かって今度は長い胴体を伸ばして噛みつこうとしてくる。人など易々と一飲み出来る大口を避けてケルベロスへ闇の炎を宿す。
「くらえっ、獄炎剣!!」
振るわれる刃から黒き炎の塊が放たれてモンスターに命中し爆発を起こす。しかし、微々たるものなのか相手は攻撃を無視して再びブレスを吐いてきた。
「ならこれだっ! いけ、炎孤旋嵐!!」
攻撃を避けたバルドの代わりに前に出たシリウスが自身の周囲に青い火の球を展開する。狐の形に変化させたそれが彼の元から飛び出して相手の周囲を旋回する。やがて、青き炎の渦となって相手を包み込んだ。
焼かれる痛みに一瞬だけ身動ぎをしたが、すぐに炎を消し飛ばして今度は降っている雨を自身の周囲で球体に集結させる。小型の水球が大量に形成されて、バルドとシリウスへの弾幕攻撃が始まる。
空中を飛んで弾幕の中を掻い潜りながら、ケルベロスから闇の斬撃を飛ばしたり、神威で拳を転移させて中距離からの連続攻撃を仕掛ける。二人の攻撃を受けてもまるで効いている素振りを見せない相手は攻撃をさらに激化させる。
「ちっ、ダメージが入ってねえ!!」
[ここは光の魔力素が強いからな。相棒が戦うには不利過ぎるぜ!]
[若、相手の様子を見るに光属性持ちかもしれません!!]
「属性が効かないなら物理で殴るだけ!!」
弾幕の中を擦り抜けたシリウスが相手の頭上を取る。
「孤連脚ッ!!」
連続キックが神威の能力の空間ジャンプで相手の顔に炸裂する。僅かばかり怯みを見せるが、すぐに牙を見せて弾幕による迎撃を始める。
かわしてから拳による連打を繰り出す。死角から一発の水弾が飛んで来てシリウスに命中するが、ボンッと白い煙と共に消えてしまった。
「トリックさ!!」
果して、彼は相手の真下にいた。右手に青い炎を宿し、身を屈めてから伸びあがる様に飛ぶ。真下からの強襲に反応出来なかった相手の顎を思いっきり打ち上げ反らさせた。
「本物はどれでしょう? 分身っ!!」
複数人のシリウスが並ぶ。それぞれが動き出して縦横無尽に暴れる。素早く動くシリウス達に身動きを封じられて攻撃を浴びる。
「このまま縛れれば問題ないんだがな……」
「まあ、世の中そんな簡単にいかないと思うよ」
バルドの傍らに下がって来たシリウスが肩を竦めて返事を返す。それは相手が咆哮と共に魔力波による衝撃波で分身たちを消し飛ばしたことで現実となった。
「いや~、分身じゃ耐久力なかったわー」
「俺達のする事はまだ残されている市民の避難と菓子娘達の為の時間稼ぎだ。出来れば、SCCAの部隊の到着まで被害を最小限に留める事だ」
雨が降り始めて少し時間が経っている。作戦本部にいる彼等がモンスターの存在に気付いて出撃する頃だろう。
どっちにせよ、自分達に出来る事は残された市民の避難を少しでも早く終わらせるための時間を稼ぐこと。相手には悪いが、もう少しこの場で釘づけになっていてもらおう。
ケルベロスとバハムートに闇の炎を宿してバルドはシリウスと共に攻撃を再開した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
建物と建物の下を素早く駆け抜けて影に隠れながらほのか達は地上を進んでいた。そこに聞こえる重い音に視線を向けると、モンスターが動き出していたのが見えた。
「動いたぞ!」
[二つの魔力反応を感知。あそこにバルドさんとシリウスさんがいます]
「二人が戦っているんだ!」
時折り相手の表面に発生する小爆発は二人が攻撃しているのだと受け止める。しかし、それを受けているのにモンスターはまるで通じていないのか攻撃を続けている。
「ひゃあっ!?」
その内の一発の水弾が進行方向の商店へと着弾して全員が慌てて止まる。みるみるうちに溶けて液体となってしまった商店にほのか達は顔を青ざめた。
「こっちだ」
ユグドラの先導についていくと一軒のビルが見えた。屋上が溶けている様だが、未だ無事な様相を見せるそこへ駆けこんで一息吐いた。
「このビルなら少し上れば奴の姿を確認出来る筈だ」
窓から外を見ればモンスターの姿がハッキリと確認出来る。酸性雨の降る中で二つの魔力光がモンスターの周囲を素早く飛びまわっている。
「にしても、あいつらこの雨の中でよく平気そうに動けるな」
「元ぬし達は自身の身に魔力を何層にも渡ってオーラとして纏っておる。一層目が溶けたとしても二層目が防いでる間にその下に新たに張って一定に保つ――ぬしらのマジックアーマーと似た様なものじゃよ」
慣れれば簡単にできる技よ。そう言ってアウルは扇子で口元を隠して微笑んだ。
「じゃあ、私達にも出来るの?」
「うむ、コツさえ掴めばの。じゃが、さすがにこの量の雨ではそう長くはもたん。もって三十分といったところかえ」
三十分まで、それを聞いてほのか達は緊迫した顔になる。
あまり時間をかける訳にはいかない。すぐにでも動かないと……。
「ここから狙うの?」
「それが妥当だと思う。この中で射程のある攻撃が出来るのは皐月とアルトレーネ、主あかねと私やアイネだ」
ルーンを弓の形態に変えて窓辺に立つユグドラが炎の矢を魔力で形成して右手に持ちながら答える。
「もう少し近づきたいところだが、これ以上近づけば巻き込まれる可能性がある。共に来た魔法士達が来るまでの時間稼ぎが関の山だろう」
「なら、私のホーリーライトジャッジメントで……」
「だめだ。皐月女史のあの集束砲撃ならいけるかもしれないが、あれは負担が大き過ぎる」
ほのかの進言をルチアが断る。確かに集束砲撃はこのパーティの中で最大級の火力を持っている。大型モンスターですら一撃で戦闘不能に落とせるだろう威力。だが、あれを使用するのは今のほのかでは負担が大き過ぎるのだ。
「バルドも無理をして倒す事は考えていない筈だ。皐月の気持ちは分かるが、少しだけ我慢をしてくれ」
「う、うん……」
「ほのかちゃん、うちも同じ気持ちや。けど、それでほのかちゃんが倒れたらもっといやや」
「あたしもあかねに賛成だ。出来ればあのデカブツをシメてやりてェけど、何も分からねェ内じゃ手も出せない」
「今は我慢の時よ。わっちの元ぬしなら、この戦いでなにかを必ず掴める。分かるまでの辛抱じゃ」
皆、気持ちは一緒なのだ。相手のことをよく知らないで仕掛けて、それで不用意な反撃を受けるのは避けたい。それは、自ら前線へと出たバルドとシリウスの本意ではない。
ここは、彼等の戦いから離れた位置で二人からは見えないなにかを探りながら援護をするのが最善策なのだ。
「まずは一撃を入れる。その後は少し場所を変えるぞ」
射撃体勢に入ったユグドラに倣う様にほのかとフィリスとアイネも準備に入る。あかねも加わりたいところだが、場所が場所なだけに範囲殲滅魔法は周囲への被害が大きいという事から待機することにした。
大型モンスターの周囲を飛びまわって攻撃を続けている二人を誤射しないように、慎重に攻撃のタイミングを計る。
「まだだ。相手の視界が離れるまで待つんだ」
二人が相手の背後に回り込んで背面を攻撃した。それに反応してモンスターも顔を動かしてほのか達のいる方角から視線を外した。
「いまだ!」
「ホーリー、バスターッ!!」
「アクアインパクト!!」
「コズミックレイ!」
四人の射撃と砲撃魔法が一斉に放たれた。攻撃は気付かれることなく直撃して爆発を起こした。不意の攻撃にモンスターは身を捩り苦悶の声を上げる。
「ほのか達か!」
「ベストタイミングだね!!」
背後から攻撃されたモンスターが振り返り、ほのか達の姿を探す。だが、見えない場所からの攻撃で位置を特定できないのか攻撃のアクションは見受けられない。みすみす彼女達に攻撃をさせる気など毛頭もない。バルドとシリウスが立て続けに攻撃を仕掛ける。
注意が再び自分達へ向いたところでほのか達が気付かれないように位置をずらして攻撃を再開する。そうとも知らずにモンスターはバルドとシリウスへ酸のブレスや弾丸を飛ばして暴れる。
「バルド達は我々の場所に気付いた様だな」
「そうみてえだな」
「もう一回、攻撃したら場所を移しますよー」
「うん」
二人を援護する為、これ以上の被害を出させない為に意識を集中して二射目の体勢に入った。
ほのか達の位置を確認出来たバルドとシリウスは彼女達が相手に気付かれないようにする為に位置をあまり動かさないで攻撃を行っていた。
「よし、このままこいつをこの場に縫い付けるぞ」
「でもさ、それって行動範囲が狭くなるから避けるの難しくなるんだけど? おわぁっ!?」
目の前を横切る水弾に慌てて身を引く。大型モンスターの攻撃は相変わらず激しく、こちらの攻撃はあまり効いている様に見られない。しかも、行動範囲が狭くなったことで回避が難しくなってきた。
「あのさバルド。これけっこうキツイんだけど?」
「文句を言う暇あるなら手を動かせ」
「あらま鬼軍曹」
「なんか言ったか?」
「ナンデモアリマセーン」
そこへモンスターに向けて砲撃や射撃魔法が再び飛来して命中する。背後からの攻撃を受けて身を捩って怯みを見せた。
「いいタイミングだな」
「んじゃ、反撃と行きますか!」
シリウスの下に展開されるのは白色の魔術陣。
「降れや降れや霰よ降れや。これより至るは豪雪、豪霰。頭隠して身も隠せ、ストームダスト!!」
相手の頭上、上空高くに大型魔術陣が広がる。雲を貫いて姿を見せたのは一つ一つが五メートルを超える大型の氷塊の雨だった。それがモンスターを頭上から強襲する。
「ヴア゛ァァァ!?」
悲鳴を上げて身を捩る。容赦なく落ちる氷塊はモンスターに次々に激突してダメージを蓄積させていく。
「ッ! ウガアアアァァァァァッ!!」
だが、苦痛に耐えて閉じていた金の瞳が開いて一層強い輝きを灯して雄叫びを上げた。地表に展開される無数の魔法陣。そこから間欠泉が噴き出して落ちる氷塊に激突、蒸気を上げて融解する氷塊が次々に水となって消えていく。
「もう少しいけると思ったけど、やっぱ予定通りにいかないねー」
「お前、魔術使えたのかよ」
「アシュトンのを見よう見真似で覚えただけさ」
初めてやってみたけどまあ上出来かな~。
手を握ったり開いたりして感触を確かめながらそんな事を言う。それには流石にバルドも表情こそ出さないが心の内で驚いていた。
(今の魔術を始めてやっただと? どう見てもさっきのは上級魔術かそれ以上のレベルだったぞ。シリウス……。お前は何者なんだ?)
咆哮が轟いたのに反応して二人はその場より退くと、その場を相手の噛みつきが通り過ぎる。魔法陣が周囲に張られ、レーザーの様な水弾が連射される。密度の濃い弾幕を身を捻り擦り抜ける様に飛んでかわしていく。
「ちぃっ!?」
進行方向に向かって飛んで来た水弾。回避不能と判断して漆黒の炎を盾の様に張って防ぐ。そこに殺到する複数の弾幕に盾が融解していく。舌打ちをしてケルベロスを前に構えて身を伏せる。貫通した弾幕が次々に着弾して衝撃で吹っ飛ばされる。
[あちっ、あちちちちっ!? 相棒、俺を溶かす気か!?]
「地獄の番犬のクセに酸攻撃程度で文句言うな」
[毛が痛むっての!!]
[たかが毛だけで文句を言うんじゃありませんよ駄犬。少しは若の為に身を盾にしなさい]
[アホ抜かせ! 俺は身だしなみは大事にしてんだ!! お前と一緒にすんじゃねえ毛なしが!!]
[んなっ!? 女性に対して失礼ですよ!? 私だって髪の毛はありますよ!!]
[爬虫類のクセに毛があるってか? ハハッ、ワロス]
[言わせておけば……!! ここで決着をつけましょうか!?]
[上等だやってみろやゴラッ!!]
「うっせーぞお前ら!! 少し黙ってろ!!」
左右から飛んでくる怒号にいい加減イライラしていたバルドがキレた。殺気全開で牙を見せ飛んでくる睨みに魔剣達は口を閉ざして身を小さくした。
大人しくなった所で軽く息を吐いてから戦闘に意識を集中する。一層密度の増した弾幕は当り構わず着弾して次々に建造物を溶かしていく。このままでは一帯が酸性の湖に沈んでしまう勢いだ。
(このままだと不味いぞ。ったく、SCCAの連中はなにやってんだ!!)
何時まで待っても姿どころか影すら見えないことに苛立ちを隠せない。それでも少しでもこの周囲にいるかもしれない逃げ遅れた人の避難の時間を稼ぐために厳しい戦いの中に身を投じた。
その頃、バルド達の戦闘がより激しさを増しているのを離れたビルの窓からほのか達は見ていた。
「バルドさん達が危ない!」
「急いで別のところから助けなきゃ!」
「隣のビルに行こうぜ。それなら時間も掛からねェ」
サヤの意見に反論はない。全員が頷いてから急ぎ場所を移す為に足早に部屋を出ようとする。その中で、リースリットがジッと外の様子を見つめているのにアシュトンが気付く。
「リースリットちゃん、どうしたの?」
「誰か、いる」
アシュトンの質問に彼女が窓の外を指差す。目を凝らして見れば、モンスターとバルド達が戦っている地上付近で人影が薄っすらとだが見て取れた。それに部屋を出ようとしていた一同も戻ってきた。
[酸性雨の中に微弱なジャミングがある所為で判別が出来ませんが生体反応があります]
「まさか、逃げ遅れた人!?」
フォルテからの報告に逃げ遅れた市民ではないかと推測した。上空で戦っている二人はモンスターとの戦闘に注意が向いているからか気付いている様子はない。
その時、相手が放った水弾をバルド弾いた。それはゆっくりと放物線を描いてその人影に向かって真っ直ぐに落ちていく。
「危ない!!」
「…っ!」
ほのかが叫んだと同時にリースリットが動き出す。目の前の窓ガラスを割り、自ら飛びだして地上へ急降下。建物の壁を蹴って両足に金色の魔力を纏わせて着地する。
「ナイトチャージ!!」
地面を蹴り、一気に最高速度に達する。雷光の如きスピードで降り注ぐ酸性雨の中を突っ切って彼女は一直線に市民と思われる人に向かって駆けた。水弾があと少しで落ちるまさにギリギリのタイミングで彼女は小さな人影に飛び付き、そのまま駆け抜ける。
直後に水弾が地面に着弾してその人のいた建物の屋根や壁を溶かして崩壊させる。
「っ……。大丈夫?」
怪我の有無を確認すべく救出した人物へと顔を向ける。そして、その人物の顔を見てリースリットはハッと息を呑んだ。
自分と大差ない年頃の少年で、顔の半分が火傷を負った様に爛れていたからだ。具合を見るに昨日今日で出来たものではなく、幾年か時間が経っている様子だった。
[若、地上に民間人が一人います!]
「逃げ遅れた奴か!?」
[何時の間にか嬢ちゃんが傍にいるぜ。くっそ、酸性雨の所為で鼻がうまく利かねえぜ!?]
リースリットと少年一人が近くにいる事に気付いたバルドは小さく舌打ちをした。その時、モンスターの自分達に向けられていた視線が外れ、リースリットの方を向いた。彼女の姿を捉えるやモンスターが雄叫びを上げ、光で出来た鞭を生み出して彼女の方へと振るった。
空気を裂きながら飛んでくる攻撃に気付いて慌ててヴァルキリーシールドを張る。戦女神の紋章が背後に姿を見せると同時に防御魔法が発動する。受け止め、抑え込む魔法障壁だったがそれも数秒のこと。亀裂が生じて全体へと広がり始める。
「っ……!!」
もう持たないと分かったリースリットは次の瞬間、傍にいる少年を建物の壁際まで突き飛ばす。防御魔法を破壊して光の鞭がリースリットを弾き飛ばした。雨に濡れた路面を何度も跳ねる様に転がった後に建物の壁にぶつかって止まる。
「リースリット!!」
相手はまだ彼女を狙っている。口を開けて大きく息を吸い込む。隙間から零れるのは白色の光。そこから感じられるのは膨大な魔力反応。
「大型ブレスを撃つ気か!?」
[魔力レベル、AAクラスです!]
「狙いはリースリットだよ!」
身を大きく反らしモンスターがブレスを放った。酸性ではない純粋な魔力の込められたブレスがリースリットを狙って伸びていく。
「ウィル、オーバーリミッツ!!」
[Over Limits,LevelⅠ!!]
気を失って動かない彼女の前に滑り込んだのはほのかだった。オーバーリミッツによって限界を引き出したウィルを構えて相手の大型ブレスと向き合う。彼女の背に女神の紋章が立体的になって展開された。
「リースリットちゃんは、私が守る!! ホーリーーー、バスターーーーッ!!」
砲撃魔法が大型ブレスと激突する。互いに押し合いを繰り返し、力の拮抗が続く。だが、まだ幼いほのかにはあまりにも分が悪すぎた。
「っ、……ふっ!?」
徐々に押され始める。酸で溶けて滑り易くなった地面も重なって彼女の後退の勢いは止まる様子を見せない。
「追い付いたぞアシュトン!! 一気に決めろ!!」
「任せて霧島さん。淵怨たる戦火に巻かれし自然の嘆きよ、我が前に集いて極限と成れ! トレント・ジャイアントッ!!」
建物の影から影を駆け抜け追い付いたサヤに背負われているアシュトンが土色の魔術陣を広げ、地属性上級魔術『トレント・ジャイアント』を発動する。モンスターの周囲を囲む様にビルに匹敵する高さと幅を持った巨木の根が次々に飛び出してくる。そして、最後に相手の真下から最後の一本が飛び出してその顎を打ち上げた。
ブレスを吐いている最中に口を強制的に閉じさせられて行き場を失ったエネルギーが逆流して相手の体内で暴発する。体内から黒い黒煙を吐きだして苦しそうにのたうつ。そこに追撃の水色と赤色の魔力矢の弾幕が降り注いで爆発を起こして行く。
「アルトレーネ、手を休めるな。こちらに注意を向けさせるぞ!」
「うん。メロー、撃ちまくるよ!」
[了解ですフィリス。ガンガン撃ちましょう!!]
上空からフィリスとユグドラが矢の雨を降らす。その後方より、複数のスピナーが彼女達の間を通り抜けて雨を切り裂きながらモンスターへと特攻して炸裂する。
「出て来たからには短期決戦だ。ここでこの怪異を止める!!」
スピナーを次々に射出して相手に攻撃を仕掛けるルチア。更にアイネが加わって四人の射撃魔法の弾幕が相手を攻撃する。
「お前達は私が守ろう。氷壁天蓋、スノーデン・シールド!」
地上にいるグラキエスの背後の地面より氷が空高く伸びあがる。まるで生きている様にユグドラ達の方へ伸びる氷は彼女達の真上にくると大きくその場で広がり雨から身を守る壁となった。
「よくもわっちのぬしに手を上げたな。その代償は高いぞ!」
グラキエスの隣にいるアウルが持っている扇子を大型のものへと変えて身体を捻ってから大振りで一閃する。風が巻き起こり雨を吹き飛ばしながらモンスターへと飛ぶ。
強烈な風圧が顔面を打ち、首が上を向く。見上げた先にいるのは美しき結晶の羽を広げて浮かぶあかねが魔導書を開いて待機している姿があった。
「我が敵を射抜け、天に輝く五角形。凍てつく氷彗星《キュール・コメット》!!」
彼女の頭上に五つの点が現れ、そこにラインが奔り五角形の紋章が生み出される。その中に複数の星の煌めきの様な光が点滅すると、そこから一斉に光線が放たれる。複雑な軌道を描きながらモンスターへと着弾すると、接触面から相手の体を凍りつかせる。
隙が出来た所でプレセアが低空飛行で接近する。ある程度接近した所で急停止し、スコップ形態のミョルニルを地面へと突き刺して地面を掘り上げる。巨大な岩塊が打ち上がると彼女も飛んで、身を捻る。
「くらえ!! エアーデ・ファウストッ!!」
黄色の魔力を帯びたミョルニルの腹の部分で岩塊を思いっきり殴りつける。強烈なインパクトが発生して巨大な岩塊が魔力を帯びて砲弾の如く飛んで行く。
氷で身動きの取りづらいモンスターのどてっ腹に直撃して相手を大きく押し返す。距離が開いた所で空中にいたあかねがほのかの隣に降り立つ。
「ほのかちゃん。いまのうちにあの子をお願い!」
「分かったの!」
リースリットのことを任せてほのかは先ほどリースリットが助けた少年を回収する為に飛んだ。ほのかの代わりに気を失っているリースリットを守る為にあかねは結晶を作り出して目の前に壁を張る。
変質属性による結晶能力。物質を変化させて結晶化させられる彼女だけの力だ。それは物だけに問わず、人体すら変えてしまう恐るべき力。暴走した時にSCCAの魔法士達を結晶体へと変えたこの属性は本当はあまり使いたくはない。
(でも、これで誰かを守れるならうちはこの力を受け入れる!)
魔導書が眩い光を放ちページが捲られていく。
「うちが皆を守るんや!! 創星の書、力を貸して!!」
呼応する様に魔導書の輝きが強くなる。目の前の結晶壁の全面が変化して棘の様なものが生え、それが連続で撃ち出されてモンスターへ攻撃を始めた。鋭利な結晶の欠片がモンスターを攻撃し、魔力ダメージを与える。
周囲からの多数の射撃魔法を浴びる中であかねを狙って光線状の魔力弾を放って来た。結晶の障壁に次々に激突して欠けていく壁を修復しながら張り続けるも長くは持ちそうにない。
「無茶すんなあかね!」
「バルドさん!?」
攻撃を相殺して間に立ったのはバルドだった。バハムートに漆黒の炎を宿らせ、身構える。
「邪王轟破斬!!」
振り下ろされたバハムートから闇の炎が解き放たれ、真紅の瞳を持った蛇の形を成してぶつかって爆発する。
「バルドさん!」
そこにリースリットが助けた少年を連れてほのかが戻ってきた。流れ弾などの危険性を排除出来た所で、丁度よく接近してくる複数の魔力反応をウィルが感知した。
[マスター。こちらへ近づく複数の魔力反応を感知しました。おそらく、SCCAの魔法士の方たちです]
「よし、あと少しだけ抑え込む。もう少しの辛抱だ」
既に酸性雨の中でそこそこの時間が経過している。もう時間は残されていない。一気に此処で大打撃を与えてからSCCAの部隊に任せようと思った。
「…………!!」
しかし、その直後にモンスターの動きに変化が起きた。集結したほのか達をジッと見ていたと思ったらその身を光で包み込み、水となって溶けて地面に水溜りとなって広がったのだ。姿が消えると共に豪雨も急に止んで曇天があっという間に晴れる。
「消えた……!?」
「逃げられたか」
目の前に広がる水溜りが動く気配はない。魔力反応も水になった途端に消えた事から敵はもう逃げたという事だろう。周囲に探知魔法をかけるも、さっきの大きな魔力は感じ取れない。
「追跡も無理そうだな」
ケルベロスとバハムートをしまいバルドはリースリットの方へ近づいて、頬を軽く叩く。
「おい、リースリット起きろ」
「ん……んん…?」
閉じていた瞼が震えて目が開いた。初めにバルドを見て、それから周囲を見渡して、最後に空を見上げる。
「奴ならまた撤退した。またしばらくは安全になる筈だ」
「そ、う……」
「それと、お前はそのマジックアーマーを早く解除した方がいいぞ」
「え……?」
視線を逸らしながら言ってくる彼に首を傾げつつも視線を下に降ろす。装備しているマジックアーマーがなんと溶け始めているではないか。
「っ! やっ!」
「落ち着け。暴れると余計に早まる。落ち着いてマジックアーマーを解除しろ」
溶けるという恐怖に暴れそうになった彼女を押さえてゆっくりと言い聞かせる。目をじっと見つめられて言われた彼女は不安な表情を隠さないままに言われたとおりに解除を行う。
解除されたことでマジックアーマーの表層上でギリギリ留まっていた酸が共に消えて溶解の危機は去った。
下着だけとなった彼女をバルドが素早く自身のコートで身を包み、お姫様だっこで抱えて立ち上がった。急に抱えられたリースリットは顔を朱に染めて身を硬直させてバルドの方を見つめる。
「お前の助けた奴も無事だったみたいだし、もう少しで来る部隊に預けて終わりだな」
リースリットを抱えたままほのかの連れて来た少年へと振り返り近づいて声をかける。
「怪我はないな?」
「…………」
質問に少年は少しだけ後ろに身を退いて顔を右半分だけ手で隠す。残る左目の目付きからして警戒の色が強いのが窺える。
最近の子供はあの菓子娘や遺跡娘みたいなお花畑な子供じゃねえんだな、と思ってほのかやフィリスを見て、最後に腕の中にいるリースリットを順に見る。
「ふえ?」
「どうしたの?」
「……?」
「…………はあ」
「すごく重いため息つかれたの!?」
「なんかすごく失礼なこと思われた気がする!?」
バルドの反応にそれぞれの反応を見せる二人となんでため息を吐いたのか分からずにキョトンとしてるリースリット。三者三様の反応を見て苦笑してから、改めて少年へ声をかけようとした。
しかし、それは急に感じた複数の魔力反応で阻まれることとなる。複数の同じ武装をした集団がほのか達を囲んだのだ。
「な、なんだァ!?」
「敵か!?」
武器を向けてくる集団に身構える一行。その肩の部分にある紋章が描かれていた。
(双頭の蛇……!?)
「バルドさん。この人達って……」
ほのかやフィリスも気付いたのかバルドへ顔を向けた。バルドも自分達を囲んでいる者達の正体がなんなのか分かったのか軽い舌打ちをする。
ほのか達を取り囲んだ集団の正体、それは第一都市で誤解を解けずにいたギルド『アンフィスバエナ』だった。
ほのか達の活躍により撃退に成功する。
そんな彼女たちを取り囲んだのは、第一都市で誤解を解けぬままにいたギルド『アンフィスバエナ』だった。
それでは次回も宜しくお願いします。




