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第五十九話 常勝不敗 カルロス・トーラス


五十九話更新。


突如として始まったバルドとカルロスの模擬戦。

タスクフォースの頂点に君臨し、SCCA最強と称される彼の力がバルドに襲いかかる。




 宮中より近い場所に一つの巨大施設がある。

主にSCCAの魔法士達が互いの力を高めるために摸擬戦を行う目的で造られたもので現在、ほのか達はこの場所に連れて来られていた。


「バルドは大丈夫なのだろうか?」


 観客席へと案内されて待機させられている中でユグドラがそんな質問を投げる。

少し前のバルドゥスとの戦闘で白蓮と言う少女の不意打ちをまともに受けて大きなダメージを受けている。そんな彼が心配での問いだった。


「本人は大丈夫だと言っていたが……心配だな」

「お主らは心配性だのぉ。元ぬしを信じておらぬのかえ?」


心配する彼女達を余所にアウルは杞憂きゆうだと言って鼻を鳴らす。

まるで心配していない彼女にプレセアは疑問の声をかける。


「なんだよアウル。相手は胡散臭え野郎だけど、一応はSCCAって組織の天辺てっぺんにいる奴なんだろ? 別に信じてない訳じゃないけど、心配じゃないのかよ?」

「くふっ、わっちの元ぬしはそう易々とやられる男ではありんす。でなければ、わっちは元ぬしと契約など交わそうと思いやせん」


自信満々に答えて扇子で口元を隠す。


「誰もバルドさんのことを信じてない訳やあらへんで? 摸擬戦いうても怪我したら大変やろ。せやから皆、心配してるんや」

「そうだよアウルさん。僕達はバルドさんを信じてるよ。でも、僕達の為に無茶しないでほしいって思ってるだけです」


あかねやアシュトンの言葉を聞いて彼女は、ふむ…っと声を零し扇子を閉じる。


「分かっておる。みなが元ぬしを信じ信頼しておる。元ぬしはなんと果報者達に巡り合えたものか……。元ぬしも幸せ者よ」


それから視線をユグドラ達から離し、一点を見つめる。


「ぬしも信じておるくせに心配するのじゃからい奴よの……」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「……よしっ」


 準備を整えたバルドが屈伸をした後に立ち上がる。いまから摸擬戦とはいえ戦うのに彼は何時もと変わらない様子だった。


「さて、そろそろ時間だ」

「バルドさん……」

「……」


そんな彼の傍らにはほのかとリースリットがいる。

心配で心配で体が勝手に彼の下に動いたのだ。


見上げてくる二人を見て彼はポンポンと二人の頭を撫でる。


「なに時化しけたツラしてんだよ。ちょっとあの野郎をぶっ飛ばしに行くだけだっての」

「でも……」

「あのな、本気で戦って殺し合う訳じゃないんだ摸擬戦ってのは適時打を受けた時点で終了するんだ。そこまで心配しなくても大したダメージは受けねえよ。だから、向こうであいつ等と見てな」

「でも……」


尚も心配そうな表情を消さないほのかに、軽く小突く様に指で額を押した。


「戦うって言っても受けるのは魔法ダメージだ。直撃を受けても気絶で済む」


 それに今回はカルロスへ自分達の実力を見せるための、いわば代表戦である。

カルロスの方は部下となにやら話をしているようで、準備の方は整っている様だ。


「アイツの方も準備は出来たみたいだな。二人とも戻ってろ」

「うん……。バルドさん、頑張ってね。私もいっぱいいっぱい応援するから!!」

「おう。お前らに応援されたら余裕で勝てるな」

「うんっ!!」


 表情を崩し笑う彼につられてほのかも笑顔を取り戻す。最後に応援の言葉を伝えてから仲間達の下に戻っていった。だが、リースリットはまだ彼の傍から離れようとはしない。


「お前も戻れ」

「……無茶、しない?」

「お前も心配性だな。大丈夫だっての」

「でも……あの時の怪我……」

「もう治った。頑丈なのが俺の取り柄だからな」


 なにが心配なのか分からないが、別に心配される様な所はない。

だから彼はそんな不安なんぞ杞憂だという様に彼女の額をほのか同様に指で小突いた。

とんと小突かれた個所を両手で隠す様に覆い、キョトンとして見上げる。


「戻ってほのかと一緒に応援でもしてろ」

「……応援したら、勝てるの?」

「ああ、勝てるな。つーか、負ける気はねえし」


急に俯くリースリット。なにやらモジモジと手を動かしている。

彼女の様子に疑問を感じたバルドだったが、すぐに合点がいった。


「別に名前を呼べとは言わねえよ。ただ頑張れって言うだけでも十分だ」

「……いいの?」


 変に純粋な彼女のことだ、きっと名前を呼ばないとと思ったのだろう。まだ呼ぶことを恥ずかしがる彼女にそれは無理と言うものだ。

そこまでの事をしなくてもいいと伝えると、やや安堵した様な顔になり彼を上目遣いで見つめて(それでも)恥ずかしそうに小さな声で応援した。


「が、頑張って……/////」

「おう、任せろ。お前の応援もあったら勝利確定だな」

「ん……/////」


大きな手に彼女の頭が包まれて撫でられる。

少しだけ頬を染め、眼を閉じ気持ち良さそうにする。



ほのか達の下に戻っていくリースリットの姿を見送ってからバルドは軽く肩を回しながら不敵な笑みを浮かべた。


「さあ、あいつ等の希望ある未来を守る為に喧嘩すっぞ」

[楽しい楽しい喧嘩の始まりってか~ウヒャヒャヒャ!!]

[ほのかさん達は未来溢れる子たちです。その道を一本化させない為にも、負けられませんね!]


現れた相棒達を持ち、フィールドへ降り立ち、先に待っていたカルロスと向き合った。

二人の間、丁度中央付近にモニターが現れる。


[システム起動。メインジェネレーター出力開始。フィールド『コロッセオ』解放]


何もない部屋があっという間に円盤上に広がる建造物『コロッセオ』に変わる。

バルドとカルロスはそのバトルフィールドに立っており、ほのか達は観客席の位置に立たされていた。


「ふえ~……部屋が変わったの!?」

「フィールド変換システム。空間を歪曲させて遠くの土地を模写して造り出すシステムさ」

「バジーナか」


急に変わった景色に周囲を物珍しさに見渡していた彼女達の下にジャンとクレアがやってきた。


「摸擬戦するには、あの部屋じゃ狭過ぎるだろ?」

「確かにそうだね。バルドの攻撃だったらあんな部屋、一瞬で吹っ飛んじゃうかも」

「へぇ~、あいつそんなに強いのか? く~~っ、やっぱ俺が相手したかったぜ!!」


フィリスの言葉に心躍ったのかうずうずと身を震わせ、今回摸擬戦が出来なかった事を残念がる。


「どうしてバルドさんと戦いたんですか?」

「だって大剣使いだぜ!? 俺みたいにデカイ武器振りまわす奴なんてそうそういないからな。周りからは『落雷のジャン』とか変な名前付けられて強そーな扱いだけどよ、実際のところ世界は広いし―――だから同じ大剣使いのあいつと戦ってみたいんだよ」


いまの自分は世界規模からみたらどれくらいか知りたいしな。

最後にそう付け加えていまから始まる摸擬戦にワクワクを隠さないで童心の眼差しで見つめる。


子供がそのまま大人になった感じの彼に苦笑いが出た。


「あの~、一つ聞いてもいいです? あのカルロスと言う人はどんな属性を使うんですか?」

「あー……。わりぃ、そいつは俺も分かんねえんだ」


 気になったことを質問するマルグリットに対して、ジャンは間の抜けた声を出した後にそんな返事を返して来た。仲間なのになにも知らないという事に疑問を感じたサヤがすぐに疑惑の眼を向ける。


「ダチのこと知らねェ訳ねェだろ。隠してねェで言えよ」

「いや、本当に分かんねえんだって。何度かカルロスの野郎と摸擬戦をしたことがあんだけどよ、あいつの属性は全然分からないんだよ。プロフィールとかに書かれる保有属性欄も空白なんだ」


真剣に答えるジャンの様子に嘘は見受けられない。

信じられない様な顔をするほのか達に、傍にいたクレアがカルロスの事を話し始める。


「特別災害対策本部タスクフォース所属第一部隊総大将カルロス・トーラス元帥。SCCAの全権を政府から預かっている方でその権威は王家と政府の御歴々方の次に高いです。部隊を率いた戦術から単独戦闘にかけてあらゆる面で欠点はなく、SCCAでは組織の象徴として認められています」

「実力だってすげぇんだ。タスクフォースには俺以外にもいろんな奴が隊長をやってるんだが、いままであいつと本気で渡り合えた奴は誰一人としていないんだ」

「単独戦闘では群を抜いて高い方です。一人にして一般魔法士およそ五千人に匹敵するとも噂され、モンスター討伐などで出撃した際に部下を軽傷程度に抑えて帰還しています。その圧倒的な実力からカルロス元帥は『常勝不敗のカルロス』とまで呼ばれています」


 戦闘で無傷で帰還し、更に部下達は重傷以下に抑える。その華々しい話にほのか達は驚いた。タスクフォースはSCCAの中でも実力のある者が入れる場所だ。

その中で隊長をやるだけでも相当の腕だというのに、そんな他の大将が挑んでも無傷で勝利できるとあれば、その力は圧倒的なものだろう。


「そこまで強いのか……」

「あいつが強いのは分かるが、カルロスの野郎とどこまで渡り合えるか……」

「ふんっ、わっちの元ぬしはあんな児戯程度に敗れる訳ありんす」

「じぎ? なんだそれ、挨拶の事か?」

「児戯ですよ、児・戯。子供の遊びという意味です」

「なにぃっ、カルロスが子供だって!? あいつどう見てもおっさんだろ!? ―――――はっ! まさかおっさんの皮を被った子供!? あ、侮れないぜ……」

「どういう解釈をしたらそこに行きつくんですか!?」

「……バカだ」

「バカですー」

「バカだな」


 一人で変な納得をして戦々恐々とするカルロス。それにツッコミを入れるクレアと冷ややかな目を送る守護騎士達。

緊迫した空気が一瞬にして砕け散ってしまったそこにミラが一人、やってきた。


「皆さん、どうしたのですか?」

「ミラちゃん!?」

「ミ、ミラ姫さま!? なぜ此方に!?」

「こっそり抜けてきました」


 彼女は先まで警備の置かれた特別席にいた筈である。

王女である彼女がこちらにいる事に驚きを隠せない一行に、当の本人は小さく舌を出して悪戯いたずらがばれてしまった子供の様な顔をする。


「警備をよくくぐったなテセアラの愛娘よ」

「一人で寂しく見るよりも、経験者の方から解説を頂きながら聞きたいと思いまして。少しの間だけ、動物達に代わりを務めてもらっています」

「代わり……?」


彼女いた場所へ視線を送る。そこには、どういう事かもう一人のミラが椅子に座っているではないか。


「えぇっ!? ミラちゃんが二人!?」

「違うよほのか。あれは偽物で、本当の姿は動物だよ」


驚くほのかへシリウスが説明を入れてくれた。

一目で見破られてしまった事にミラ本人は逆に驚いて目を見開いた。


「見えるのですか!?」

「うん、まあね。幻術系が得意な俺にしたらあれは分かり易いかな。自身の存在をベール状にして動物に被せて、恰もその場にいる様に見せ掛ける。存在の定着によって本物の肉体は事象から外れて対象からは見えなくなる。そんな感じかな?」

「????」

「え~っと……。どういう事?」

「簡単に言うと、あそこの面子にはミラはそこにいるように見えるけど本人は別の所にいるってこと。これ普通の人には真似出来ない技術だけど、すごいね?」


められる事に慣れていないのか、彼女は少し恥ずかしそうに頬を染めて両手を組んでモジモジする。


「お父様から教わったんです。お父様はよくこの魔法を使って宮中から脱け出していましたから」

「そのお父さんは何処にいるのさ?」


シリウスが質問をするとミラの表情が一気に曇った。


「お父様は、もう……」


それから察するにもう彼女の父はこの世にはいないのだろう。

聞いたシリウスも流石にバツが悪そうな顔になる。


「そろそろ始まるぞ」


悪い空気になりそうになった所でユグドラが話題を強制的に変えてくれた。

両手に大剣を持って立つバルド。左手に大盾、右手に両刃剣タイプのターミナルを持って向かい合う。


無言で睨みあう二人。摸擬戦開始の合図が鳴り響く。

地を蹴り、最初に動いたのはバルドの方だった。普段以上の速さで接近して超重量の斬撃を上段より叩き落とす。


それに対してカルロスは余裕の表情を崩さないで一歩も動かずに盾を前に出す。

剣と盾が激突し、信じられないくらい重い衝撃音が発生してほのか達の耳を打った。


 接触面で激しく火花を散らす剣と盾。ケルベロスがいなされると、流れに逆らわずに逆のバハムートで斬り込む。

だが、それも見えているのか少し身体を動かす事でかわされてしまい今度はカルロスが両刃剣タイプのターミナルに魔力を通して斬りかかる。


黒銀色の魔力刃となった剣がバルドに襲いかかるも受け止める。

打ち払い反撃を仕掛けるがカルロスはまるで余裕を崩さずにバルドの苛烈な攻撃を受け流し、隙を見ては鋭い一撃を繰り出していた。


「あの男……出来る!」

「あわわわ……!! バルドさんの攻撃が全部防がれてますー!?」

「こ、これが魔法共和国SCCAタスクフォースの総大将の実力……!!」


 あのバルドの攻撃をいとも簡単に受け止めて反撃する姿に騎士達は唸り、ほのか達は驚愕の眼で見つめていた。バルドは並みの冒険者とは比べ物にならない位に強いと思う。

それはほのかから見た感想だが、彼女だけでなく他の仲間達共通の感想だろう。


 互角に戦えるカルロス。それはまるで前に戦った軍神に匹敵する力だ。

しかも、彼はまだターミナルに魔力を通して魔力刃で斬りかかる程度の魔法しか使っていないのだ。


「元ぬしの攻撃を正面から受けるか……。彼奴め、想像以上に厄介な者か」


余裕余裕と言っていたアウルもその戦いぶりを見て考えを改める必要があった。

表情を険しくさせ、扇子越しに唸っていた。


「ん~~……。でも、バルドの方も本気じゃないよね」

「様子見かもしれんな」


まだ剣に魔力も通さないで乱舞しているだけな様子からそう解析するシリウスとアイネ。

幾度か刃を交えた時が、彼が本気になる時だろう。


十合か二十合か、もはや数えるのも馬鹿らしくなるほど剣を交えた所で二人は鍔迫り合いになる。


「バルド君、君の様な実力ある者が冒険者であることが非常に残念だったよ」

「そうか? 俺としては嬉しい限りだね。なんせ、テメーみたいな胡散うさん臭え奴の下で働かなくてもいいんだからな」

「果して、それでいいのかな?」

「なに?」


含みある言葉に眉を動かす。聞く素振りを見せた所で彼は続きの言葉を綴った。


「君が冒険者であるが故に、君の従える彼女達もいずれは冒険者になるやもしれないのだが?」

「それはねえよ」

「そう言い切れるかな? あの子たちはどうやら君を想像以上にしたっている様子だ。そんな子達が、果して冒険者にならないという道理が何処にあるというのかね?」

「…………なにが言いたい?」

「彼女達が冒険者になる恐れがあるというのに、君が冒険者を続けるのは彼女達の未来をかんがみるに非常によろしくない。君とて本意ではないだろう? だとすれば、君は今後どうすべきかおのずと見える気がするのだがね?」


軽く舌打ち。目の前で余裕の表情を崩さないカルロスをにらみつける。


「何処までも腐ってやがるな……」

「何分、この仕事をしているのでね。……で、答えはなんだね?」

「決まってんだろ……っ!!」


押し返してから両手の魔剣達に漆黒の炎をまとわせる。

その炎はまるで生きているかのようにうごめいていた。


「もし、あいつ等が道を間違ったり、外しそうになった時は―――――俺が正してやるだけだ!! テメーの思惑なんぞに乗ってたまるか!!」


地面に両手の大剣を叩きつける。地面が砕けて隆起りゅうきする。それは真っ直ぐにカルロスの方へとはしって彼の視界を黒き炎に包まれた土の壁が覆い尽くす。


それを前に表情を崩さないで彼はターミナルに黒銀色の魔力を這わせて一閃。

迫りくる土の壁を両断する。だが、カルロスの足下に闇色の魔術陣が描かれた。


「邪なる水泡の牢獄、ナイトメア!!」


 魔術陣から次々に闇の水泡が浮き出してカルロスの周りで爆発を起こした。

黒煙の立ち込める先をバルドは油断無く見据える。

やがて、煙の中から影が現れて無傷のカルロスが現れたのだ。


予想はしてたのか驚かずにバルドは再び肉薄し斬りかかる。

常人どころか並みの怪力の持ち主でも持つことが出来ない重量の大剣を軽々と振りまわし、休む暇も与えぬ高速乱舞を繰り出す。


これまで捌いてきたカルロスの鉄壁の防御に遂に綻びが見え始めた。

戦いの流れがバルドの方へと向かい始めたのを騎士達だけでなく、ほのか達も感じていた。


(こいつで、チェックメイトだ!!)


 カルロスのターミナルを弾いてから、バルドはケルベロスを胴へと向かって横に振るった。かわしきれないと悟ったのか、カルロスの表情は余裕から一転して驚愕の顔を浮かべていた。


(とった―――!!)


一撃が入ると確信するバルド。距離も十分、速さもタイミングも文句なしだ。これなら、一撃が入る。

そしてそのケルベロスの刃が、カルロスの胴を――――――捉えずに空を斬った。


「なっ――――!?」

「ふっ……」


攻撃が当らなかった事に今度はバルドの方が驚きの表情を浮かべた。

何処も見落としはなかった。確実に相手に命中するはずだった。


だが、それが届かなかった!?

当たる筈の一撃が届かなかった事に困惑する彼の決定的な隙をカルロスは見逃さずに剣を振るう。


黒銀の刃が飛んでくるのに咄嗟に身を反らしてじった。

彼の頬を掠める様に刃は通り過ぎる。距離を取って相手を睨むバルドの頬には一筋の血の流れが出来ていた。


「バルドさん!?」

「なんだいまのは……。確実に奴を捉えた一撃が届かなかっただと!?」


観戦していた彼女達すらその光景に驚いていた。

バルドの攻撃は直撃確実の攻撃だった。勝負はそれで決まったと思っていた。―――なのに、かするどころか届いていないのだ。


「まさか、雷属性!?」

「で、でもそんな魔力は感じなかったよ!?」

「じゃあ、さっきのはなんだ。奴は、一体なにを使ったというのだ」


 反対側で余裕を崩さずに観戦している彼の部下達の姿にわずらわしさを感じる。困惑するほのか達を余所に戦闘は続く。

攻撃を繰り返すバルド、盾で攻撃をいなし余裕を崩さないカルロス。

先までと同様の光景だが時折り、バルドの攻撃が当らなくなることが増え始めていた。


[おいおい、相棒。どうしたってんだ!?]

[若、攻撃が当っていませんよ!?]

「当っていないんじゃねえ――――届かないんだ!!」


ほのか達ですら混乱を隠せないのに、戦っている本人が驚かない訳がない。

幾度か直撃のチャンスはあった。だというのに……なぜか攻撃が当らないのだ。


距離も踏み込みも間違ってはいない。攻撃のタイミングもしっかりと調整した。

カルロスの隙を逃さずに叩き込んでいるのに、それはまるで当たる気配を見せない。


(どうなってやがる……。まるで当たる気がしねえ!?)

「どうしたのかね? 私をブッ飛ばすという言葉は嘘かな?」

「ちっ……。言ってくれる!!」


徐々に攻勢に出ていたバルドが押され始めていた。

時間が経つにつれて、バルドの空振りの回数が増えていくのが分かる。


(相棒の攻撃がこんなにスカるなんて有り得ねえ!!)

(カルロス・トーラス……。この男、なにか使っているのは間違いありません!!)


 長年、彼と共に戦いの修羅道を駆け抜けて来た魔剣達は自然とそこに至る。

だが、相手がなにを使ってるのかまるで見えてこない。


レア属性を含めた八大属性を使用する実力者達の中にこの様な力を使った者はいない。


(だとすれば――――!!)

(答えは一つ! 希少属性ですか!!)


しかし、それでも判断材料は少な過ぎる。発動の兆しも予兆もなければ魔力すら感じ取れない。

遂には、バルドの背後に瞬時に回り込む様な動きまで見せ始めていた。


「そろそろ、決めさせてもらおうか?」

「くっ……。負けてたまるか。あいつ等の今後を決める大事な戦いだ。テメーがなにを使ってるか知らねえが……負ける気はサラサラねえ!!」


黒銀の魔力刃と漆黒の炎の刃が激突して周囲に拡散する。

飛び散った魔力がフィールドを囲う様に張られている障壁に激突し振動する。


「………っ!!」

「リースリットちゃん!?」


突然彼女はその場から駆け出して観客席の縁に手をかけ身を乗り出す。

胸の内に宿る抑えきれない感情をがいまにも溢れだしそうだ。


――――彼を応援したい。彼の助けになりたい。


いまの彼女に、彼の名を呼ぶことへの抵抗は全くない。

息を大きく吸い込み、ありったけの声を乗せ―――


「バルドーーー!! 負けないでえぇぇぇっ!!」


彼女は彼の名を呼び声援を送ったのだ。

声は彼の耳へと届く。眼を見開いて驚きの表情を浮かべてからうつむいた。

剣を下げて構えを解いた姿に、カルロスは疑問を覚え様子をうかがう。


「くっ、くくく……はははは……はははははははっ!!」


そして、次の瞬間に彼は肩を震わせたかと思うと大笑いしたのだ。

急に笑い始めるバルドにカルロスは怪訝な表情になる。


「なにがおかしいのだね?」

「くくく……。なんだよ、俺の名前……呼べるようになったんじゃないか」

[若]

[相棒]

「ああ、分かってる……」


笑みを崩さずに、彼は顔を上げる。体を包む様に漆黒の魔力が溢れだして燃え上がる。

様子が変わった。それを察知したカルロスから余裕の表情が消える。


「あいつが名前を呼んで応援してくれてんだ。なら、それに応えてやるのが礼儀ってもんだ。ケルベロス、少し試したい……あれをやるぞ」

[ウヒャヒャヒャーーー!! いいねぇいいねぇー、久々に暴れてやんよー!!]

「バハムート、少しの間下がってろ」

[分かりました。ケルベロス、存分に暴れなさい]

[任せろよぉ、バハムート。ボッコボコに野郎を叩きのめしてやるぜ!!]


バハムートが虚空に消え、ケルベロスだけが残される。

ケルベロスの漆黒の刀身にそれよりも深い闇の色を持ったバルドの魔力が通り、全ての光を呑み込む様な闇の閃光が輝く。


「ケルベロス、2ndフォルムだ!!」

[ヒーーハーー!! 2ndフォルムアンロック、派手踊ろうぜ!!]


 彼の手からケルベロスが上空へと飛ぶ。そして、光に包まれるとそれは二つに割れて彼の下へ再び落ちる。手を差し出した位置へ真っ直ぐに落ちる光は形を変えていき彼の手に収まった。

そして、バルドの手に握られているのは黄金に輝く両刃の大型剣があった。


「2ndフォルム『一対の燃える剣コラーダ・ティーソン』」


 無骨な大剣ケルベロスから一転して黄金色の剣が人工光の光に反射して眩い光沢を放つ。

先の大剣よりも一回り小型になったが、それでも大型剣なのは変わりない。

それから発せられる大型魔力の反応にカルロスは警戒を強めた。


「行くぞ……」


地を踏みしめ姿勢を落とし不敵な笑みを浮かべる。

そして、次の瞬間にバルドは全ての者達の視界から消えた。


「っ!!」


なにかを感じ取ったカルロスが身を反らす。直後に彼の頬を風が吹き抜けた。

風が駆け抜けた先、背後にバルドが立っていた。


「よくかわしたな。なら……これならどうだ」


再びバルドの姿が消える。身の危険を察知したカルロスは咄嗟にその場に流れる時を止める・・・・・

周囲の時間が僅かな時間だけ停止する。その間に、自身の胴を狙って繰り出そうとしているバルドの攻撃圏内から身を捩じって逃れた。


同時に時は動き出し、その場をバルドが駆け抜ける。


「やっぱりそうか。見えたぜ、カルロス。お前の属性がな」


二度のアタックで確信を得たのか、肩に剣を担いで振り返る。


「お前の属性は『時属性』……そうだろ?」

「……」


看破かんぱされ誤魔化ごまかしが効かないと分かるカルロスは口を一文字にして無言で返事を返す。


「おかしいと思ってたんだよ。なんで直撃の筈の攻撃が気付けば空振りに終わってるのかってな。けど、いまので分かった。お前は僅かな時間だけ周りの時間の流れを止めてその間に回避してたんだろ」

「――――ふっ、流石だよバルド君。よもや、私の属性が看破されるなど思ってもいなかった」


タスクフォースのメンバーではなく一般の……それこそ冒険者の者に自分の所持する属性を見破られるとは想像だにしてなかった。

見破られた事に驚きがあったが、次に込み上げて来たのは笑みだった。


調査はしたが、まさかこれほどの逸材いつざいだとは思ってもいなかった。そんな男がいま観客席で戦いを見守る少女達を引き連れ旅をする。

幼くもみがけばダイヤかそれ以上の輝きを放つだろう原石と、それを守る守護竜……とでも言おうか。


(想像以上だよ。君達の存在は―――!!)


 沸々と黒銀色の魔力が身体から溢れる。先までは余裕をもって戦っていたが、それはもう止めるとしよう。相手の力量を考えるとそうも言っていられないからだ。


「そろそろ、本気になろう。私も曲がりなりにもタスクフォースの総大将を受け持っているのでね、部下達の目の前で醜態しゅうたいさらす訳にはいかないのだよ」

「なら、俺の速度に反応してみろよ。これからもっと速くなる。いまの速度で精一杯のお前についてこれるかな?」


漆黒の魔力と黒銀の魔力に身を包んだ二人が得物を構える。

バルドの姿が掻き消えた。その場から衝撃波が遅れて発生し、それは真っ直ぐにカルロスへと伸びる。

時を止めると数センチの位置で右手のコラーダが胴に迫っていた。


 盾を当てて時間停止が解除される。表面を撫でる様に剣がはしり、火花が飛び散る。

隙だらけのバルドに攻撃を叩き込もうと剣を振るうが残像すら残さずに彼は姿を消した。

 眼にも止まらぬ高速攻撃があらゆる方向から襲いかかる。それらを時を止めてはかわし、時を止めては受け流してしのぎきる。


 次に来た攻撃を回避してからバルドへ一撃を繰り出す――が、再び残像すら残さずに姿が消える。

同時に前後から衝撃波が迫ってくる。時間を止める。正面のは剣より放った衝撃波、ならば後ろが―――――!!


「フェイクだ」

「っ!?」


 前後ともに本人ではない。解除した時間を慌てて止めてその場より飛び退く。

解除されると衝撃波同士が激突し爆風を生む。砂塵さじんの舞うその中央に影が現れ、バルドが姿を見せた。


(一歩判断を間違えれば直撃だったか……)


もし横に飛び退かずに上空へ逃げていたら彼の餌食になっていただろう。

剣を構えて黒銀の魔力を通す。応える様にバルドも漆黒の魔力を刃に通し、地面を蹴ろうとした―――



だが、直後に施設内に警報が鳴り響き赤いランプが点灯した。


『緊急事態発生、緊急事態発生。先ほど『第七都市 ルイン』に超大型モンスター出現。都市の半分が壊滅。死傷者多数とのもよう。職員全員、直ちに事態の収拾に向かって下さい。繰り返しお伝えします。緊急事態発生、緊急事態発生。先ほど――』


室内に響く第七都市に起きた事態にその場にいた誰もが凍りつくのだった。





カルロス・トーラス


保有魔力量 +SS

属性 時属性

階級 元帥


 特別災害対策本部タスクフォースに所属する第一部隊総大将。階級は元帥。

SCCAの切り札であり、魔法共和国の切り札でもある人物。その実力は並みの魔法士の数千人分と称され、Sランクモンスターの討伐で一切の傷を負わずに討伐出来るほど。その実力から『常勝不敗のカルロス』という二つ名を与えられる。

保有属性は『時属性』で時間を止めたりすることが出来る。

プロフィールに属性が明記されていないのは、他勢力に情報が漏れないようにするための工作という理由もある。



時属性の力を前に苦戦を強いられるバルドだが、ケルベロスの第二の姿『コラーダ・ティーソン』によって再び互角の勝負になる。

しかし、そこに飛んできた緊急事態の報せはその場にいた全員を凍りつかせた。


それでは、次回も宜しくお願いします。

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