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第五十八話 王女会合


五十八話更新。


魔法陣の中に呑まれたほのか達。

送り込まれた先で彼女達を待っていたのは、狭い世界に閉じ込められた一人の少女だった。


とある場所で青銀色の魔法陣が展開される。


「にゃあ!?」

「きゃあっ!?」


タスクフォースの本部で謎の魔法陣の光に呑み込まれたほのか達だったが次の瞬間、一瞬の浮遊感の後に重力に従って落ちて尻餅をつく。

更に他の仲間達も次々と落ちてきた。


「いててて……」

「酷い目にあったぜ」

「霧島さん、大丈夫?」

「あァ、なんとかな」


みんな無事な様子でホット一息――――


「あれ? バルドさんは?」

「そういえば、バルドがいない!?」


 キョロキョロと周りを見渡すも彼の姿が見当たらない。

隣にいるフィリスもリースリットも辺りを見渡しているが見つけられない。

それにしても、やけに柔らかい地面である。それに、人肌位に暖かい……。


「おい、お前ら……」


物凄く低い声が下から聞こえた。


本能的に危険を感じて三人ともビクッと体を震わせる。

互いに青褪あおざめた顔で見合ってからそろってゆっくりと下を見る。


――自分達が下にしていたのは、バルドだった。

うつ伏せの彼を下敷きにしているのに、戦慄せんりつを覚える。


「いい加減に………降りろーーーーっ!!!」


闇の魔力を全開にして力一杯に立ち上がる。

ゴッという音が聞こえそうな勢いで吹きあがった魔力の風圧で軽い彼女達は軽々と彼の上から転げ落ちた。


「怪我人を尻に敷くたぁ、いい度胸じゃねえかお前らぁ……」

「「「ぴぃっ!?」」」


 般若はんにゃも裸足で逃げそうな形相のバルドがゆらりと三人に近づく。

そんな恐ろしい彼の姿に互いに抱きあう形で体をガタガタと震わせ、涙目になる。


 元はと言えば、自分達をこの場所に呼び寄せた魔法陣が原因なのだが……

彼女達としては下敷きにするつもりなど毛頭もなかったのだからとばっちりもいい所である。


[まあまあ、落ち着けって相棒]

[若、怒りをぶつける矛先を間違ってますよ。そもそもはこの場に呼びこんだ相手が元凶なのですから]

「……それもそうか」


 魔剣達になだめられて、まとっていた怒りのオーラを鎮める。

彼から放たれていたオーラが消えたことでホッと息を吐いて力を抜く。


「ここはどこなんだろ?」


 改めて周囲を見渡す。多数の花や植物で覆われ緑鮮やかな空間があり

噴水やベンチなどが置かれる大庭園と思わせる空間が室内一杯に広がっていたのだ。


「広い部屋だな。ここは何処なのだろうか?」

「嫌な気配は感じられないな。むしろ、とても澄んだ空気だ」


近くの草むらがガサッと音を立てて揺れる。

果してそこから顔を出したのは白い体毛を持つウサギだった。


「あっ、うさぎさんなの!」


 ほのかの方へトコトコと近づいて鼻をすんすんと動かして相手を確認している様子。

その子を彼女はひょいと抱えて腕の中に収めた。


「ふあー、もふもふしてて暖かいの~♪」

「あー、ほのかちゃんズルイ。うちも触らせてぇな」


幼少組は可愛いウサギに目を輝かせて集まる。

周りをよく見て見れば、鳥なども見受けられた。


「動物達がいるのか」

「なんだか動物園みてェだな」


 その後も続々と動物達が集まり始め、気付けば囲まれていた。

頭上からは小鳥が数羽、降り立ちくつろぐ――――バルドの頭の上に……。


「……」


思わずぷっと笑いがこぼれる。鳥を乗せている彼の姿はなんとも微笑ほほえましい光景だった。


「元ぬしは相変わらず動物に好かれておるのぉ」

[野生動物達は若の本質を見抜いているという事ですね。ふふっ、微笑ましい光景です]

[鳥を頭の上に乗せてる相棒、まぬけに見えるぜーウヒャヒャヒャ!!]

「そんな事は如何でもいい。それよりも……おい、そこに隠れている奴、出て来い」


視線を向けた先で何かがビクッと揺らいだ。

バルドの鋭い視線の送る先、その影から出て来たのは一人の小さな女の子だった。


「こ、こんにちわ……」

「女の子……?」


 白いノースリーブの薄いドレスを着ており、つやのある綺麗なブラウンカラーの長髪を下ろしている。

そのコバルトブルーの瞳はけがれを知らない純粋な輝きを宿している。


「お前か。俺達をここに呼んだのは?」

「は、はい……」


 肯定の返事を返して来た彼女にほのか達は驚かされた。

まさか、この人数を一度に……それも行ったのがほのかやフィリス達と大差ない年頃の女の子なのだから驚くのも無理はない。


「は、はじめまして。私はミラ。ミラ・ラ・ピュセル・テセアラと申します」

「え……」

「ハ……?」

「へ?」


 相手が自己紹介で自らの名を名乗った途端に、フィリスとサヤ、あかねが表情を固まらせた。

急に様子が変わった三人にどうしたのかとプレセアが尋ねる。


「おい、どうしたんだよ三人とも?」

「ラ・ピュセルって……。まさか、ヨーデル・ラ・ピュセル・テセアラの……!?」

「あ、それは私のお父様です」


その瞬間フィリスは完全に活動を停止した様に固まり、あかねもサヤも口を開けて呆然とした様子で目の前の少女を見つめていた。


「フィリスちゃん、大丈夫!? 具合悪そうなの!?」

「ほ、ほのか……。あの人のこと知らないの!?」

「ふえ?」


 首を傾げる彼女にフィリスは慌てる。

彼女は歴史的にも有名な家系の人物だ。よもや知らない訳はないだろうと思って確認を取る。


「ほのか、この国を建国した家系は知ってるよね?」

「うん。歴史の授業で習ったの。確か……テセアラ家だよね?」

「じゃあ、過去に起きた魔術大国との戦争で陣頭に立って停戦協定を結んだ国王様の名前は?」

「えっと……ヨーデル・テセアラ王、って……あれ?」


ようやく彼女も気付いたのか、ハッとした顔になる。


「そうだよ。あの子は……この国を建国したテセアラ家の王女様だよ!?」

「なんだと!?」

「この国の王女様!?」

「王女様? ……帝の娘、みたいな子かな?」


騎士であるユグドラ達としては反応せざるおえない言葉で驚きに目を見張り、シリウスはなにやらよく分からない事を呟いた。


「ぬしは驚かないのかえ?」

「……知ってた」

「わっちのぬしはなんと賢い子よ。わっちも鼻が高いの」

「アウルよ。つまりあの子が古き時より我らに訪問を繰り返した王家の者の血族か?」

「うむ。そのようじゃな」


 アウルやグラキエスに至っては昔の事を思い出して話している様子。

それぞれがそれぞれの反応を示す中、バルドが彼女へ質問を投げた。


「あの魔法はお前の仕業か?」

「は、はい。お父様に教わった召喚魔法の応用です」

「そうか……」


おもむろに彼は彼女の方へと歩み寄ってから膝を折り視線を合わせた。

急に来た彼にちょっと驚きつつも、おずおずと聞く。


「あ、あの……どうしましたか?」

「つまり、お前が俺達を呼んだんだな?」

「は、はい」

「そうか。じゃあ、お前が犯人だな」

「え――――?」


途端、彼は彼女へ両手を伸ばして彼女の頬の両端を摘まんだ。

急に摘ままれて大量の疑問符が浮かぶミラを前ににこやかな笑みを浮かべたバルド……。


「人を呼びだす時は許可を取れーーーーっ!!」

「~~~~~~っ!?」


 直後、表情は一変し怖い顔になる。そしてあろう事か彼は彼女の頬を思いっきり引っ張ったのだ。

頬から来る鋭い痛みにミラは目を白黒させて両手をジタバタする。


「えええぇぇぇぇええええぇぇぇ~~~!?」

「バルドさん!? なーにやっちゃってくれてんのーー!?」


 仮にもこの国を建国した王家の子孫である娘である。

その彼女に対して彼はほのかと同じ様な扱いをやってしまっている。


「お前は自分の都合を相手に押しつけるのか!」

「あ、あうあうー!?」


 なにかを言っているのだろうが、頬を引っ張られて上手く喋れてない。

ギブアップを伝える様に彼の腕を小さな手でタップする。


「元ぬしは相手がだれであろうと自分を崩さないのー」

「の、呑気なこと言ってる場合ですか!? あれはまずいですって!?」


 王家の娘に手を上げるなど、立派な国家反逆罪ではないか。

この後に起きるだろう事態を想像してアシュトンは顔を真っ青にする。


やっとのことで手を離したバルド。解放されたミラはジンジンと赤く染まった頬を押さえる屈んだ。


「うぅ……痛いです」

「当たり前だ。痛くしたんだからな」

「バ、バルドさん! その人に手を上げるのはまずいですって!?」


腰に手を当ててフンッと鼻を鳴らす。


「悪い事をしたら怒る。それは相手が誰だろうと関係ねえよ」

「いやいや、相手を選んでくださいよ!?」

「いえ、いいんです。私が悪いのですから」


謝罪させようとバルドを説得しているとミラの方が先に復帰した。

立ち上がってバルドの方を見ると、ペコっと頭を下げた。


「突然の呼びだし、申し訳ありませんでした。心より謝罪したいと思います」

「あわわわわ……!!」


王家の娘に頭を下げさせるなど前代未聞の出来事である。

ほのか達は顔を真っ青にあわあわと言うだけだ。


バルドは頭を下げる少女を黙って見ている。

そして、再び彼女と視線を合わせる為に片膝をついた。


「次からは気をつけろよ。今回は俺だったからこの程度で済んだが、もし危ない奴だったらこれを理由に理不尽な条件を突き付けてくるからな」

「は、はい。気を付けます」


忠告に対して素直に頷く彼女を見て、険しい顔が消えて何時もの彼に戻る。


「よし。いい子だ」

「ん……/////」


そして彼女の頭に手を置き、ほのか達にする様に撫でた。

気恥ずかしさから少し赤らめて彼女は目をつぶった。


「さて、そろそろあいつを助けねえとな」

「ふえ? あいつ……?」


撫でていた手を降ろし、ミラから視線を外す。

言ってる意味が分からなかったほのか達は彼の視線が向いている方向を見やる。


 果してそこにあったのは、地面に逆さまに突き刺さっているジャンの姿があった。

見事なまでに地面に半分埋まっている……。


「にゃあーーー!? ジャンさん!?」

「おう、その声はほのかかい? 世界が真っ暗で何も見えねえんだけど、一体どうなってるんだ?」

「隊長!? 地面に刺さってますよ!?」

「……まるで墓標みてえだな」

「面妖すぎる……」

「きゃあーーっ!? す、すみませんっ。転移先の座標を間違えましたーー!?」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




その後、地面に埋まっていたジャンを大根を引っこ抜く様に引っ張り出し落ち着いた所でほのか達とミラは互いに自己紹介を改めた。


 初めこそ敬語を使っていたのだが、ミラが気を遣わないでと伝えたのでいまはほのかはミラの事をミラちゃんと呼んだり初期とは大分くだけた会話が出来る様になった。

そして、現在ミラにほのかはいままでの冒険の話をしていた。


「それで、ミラちゃんに会えたの」

「そうだったのですか。皆さん、すごい冒険をしていたんですね」

「うんっ! お外はモンスターが一杯いてすごく怖いけど、バルドさん達がいるから大丈夫なの!」

「モンスターというのはこの子達の様なサイズなのですか?」

「ううん、もっともっと大きいの! こ~~んなに大きいの!!」


 動物達を見て聞いてくるミラへ首を振って身ぶり手ぶり、身体を使った表現でその大きさを教える。

想像以上の大きさだったのだろう。ミラはそれに目を丸くして驚いた顔をしていた。


「本当に建物よりも大きい生き物がいるのですね。絵本の中だけだと思ってました」

「まっ、こん中で暮らしてりゃ一生縁のない話だ」


丁度よい頃合いだと思ったバルドが会話に入り、話を中断させる。


「そろそろ、本題に入ってもいいか?」

「あっ、すみません。お話に夢中になってました」


本題とは、自分達をこの場に呼びだしたミラの目的のことだ。

居住まいを正してからミラはその経緯を話し始めた。


八つの光が集まり虚無と共に世界を呑み込もうとする光景。

温かく強く輝く光に集う幾多の光、夢で見た事から彼女は話し始めた。


「……その夢の中に出て来たのが――」

「はい、彼女……ほのかさんと似ているんです」


夢で感じた温かな感覚。それと同じ波動と言えばいいだろうか、オーラと言えばよいだろうか表現し難いがそのような感覚が伝わって来たのだ。


「このトラブル娘がね……信じられねえ話だな」

[世の中、なにが起きるか分かんないね~ウヒャヒャヒャ!!]

「まっ、その夢自体が曖昧あいまいだからそれがなにを意味するのか分かんねえけどな」


 ミラ自身も分かっていない。名状し難き夢に顎に手を添えて考え込む。

一方、ほのかにはさっぱり分からないようで首を傾げるだけだった。


「それで、ほのかさんがこの土地に来ると分かって……」

「荒っぽい呼びだしした訳か」

「この子にお願いして式を組んだ便せんを送ってもらったんです」


彼女の腕に一羽の白い鳩がとまる。それは本部の病室に入って来たあの鳩で間違いないようだ。


「今回、皆様には多大なご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。できれば、なにかしらの形でおびしたいと思うのですが……」

「そ、そんな! ミラ姫様から受け取るなど私達には身に余ります」

「流石の俺もうんと言えねえぜ……」


ミラの申し出にクレアとジャンは返事を返す。

一介の職員が王の……それもこの国を立ち上げた偉大な血族の王女からなにかを貰おうとは考えてないようだ。


「そう、ですか……。では、ほのかさん達はどうですか?」


 しかし、ほのか達もジャン達同様に特になにをして欲しい訳でもない。

フィリス達を見るも皆、首を振るだけ。

バルドに至ってはどうでもよさそうで、お前の好きにしろと目で語るに終わる。


だからほのかは断りを入れようと思って口を開いた。

――が、脳裏に病室でジャンが言った言葉が過ぎった。


「あ……」


思わず開いた口から声が漏れる。うつむいて黙り込んでしまったほのかに怪訝な顔になる。

少しの間の後、ほのかは急に顔を上げる。


「あのっ! バルドさんとグラキエスさんとオズワルドさんとクロウさんを助けてほしいの!!」

「ほのか!? いきなりなに言ってるの!?」


彼女の突然の申し出にフィリスは驚きの声を上げた。


「ほのかやめろ!」

「なんで!? このままだとバルドさんもグラキエスさんも悪者扱いになっちゃうんだよ!? そんなのやなの!」


 制止の声をかけるバルドのことが理解できない。

振り返って自分の気持ちを素直にぶつける。彼は何も悪い事をしていない。

でも、ガルガンシアの事件で彼等四人は犯罪者として追われている。


それをもしかしたら解決できるかもしれない機会だというのに、なぜ止めるのか分からなかった。


「あの……助けてほしいとはどういう事ですか?」

「コイツの戯言ざれごとだ。気にするな」

「バルドさん!!!」

「俺はこうなるって分かっていて選んだんだ。コイツまで巻き込むのはよせ」

「でも……でもっ!!」

「よくてもグラキエスだけだ。あの時は意識を持ってかれてたから自我もない。許されるとしたらこいつだけだ」


なにか反論しようと思って口を開いては閉じるを繰り返す。

しかし、なにも言えなくて最後にはうつむいた。


「う……ひっく……」


 悲しさのあまり、しゃくりあげる彼女の眼からボロボロと涙がこぼれ出す。

スカートの裾を掴んで鼻をすすっていまにも泣きだしそうだ。


「あーー! 泣~かした泣~かした~」


それにシリウスがバルドに指を指す。

バルド自身、ほのかが泣き出しそうになったのには驚いた。


「お、おい! なんで泣くんだよ!!?」

「だって……だってバルドさんは、何も悪くないのに……ぐすっ、悪者にされて…ひっく、でも、バルドさんやだって言うし、ふえぇ……」


半ば泣きかけの状態でごちゃごちゃだ。顔を上げてバルドを見るほのかの顔も赤くなって涙でぐちゃぐちゃだった。


「バルドさん。ほのかちゃんいじめんといて!」

「うむ。いまのはお前が悪いと思うぞ」


仲間達があかねの意見に同意してうんと頷き合う。


なにも分かっていない……。

あかね達の反応に対して、バルドは一人苛立いらだちを隠さないで髪を掻いた。


「あのなぁ……。そう簡単にほいほいと許されると思ってんのか!? ミラは何も知らねえんだぞ。いくら王女でもそう簡単に出来る訳が―――!!」

「待って下さい」


 それに待ったをかけたのはミラ本人だった。彼女は静かにほのか達の間を通ってバルドの前に立った。

そして、彼の大きな手を包む様に掴んで胸の位置まで持っていき目を閉じる。


「温かくて安心する……。まるで、闇を照らしてくれるお月様の様……」


無意識の内に発動する『先見の瞳プロフェテス・アーキュラー』が彼女に見せたのは包み込む様な温かな感覚。

目を開いて彼を見上げたミラは柔らかく微笑ほほえんだ。


「ほのかさんの申し出……お引き受けしましょう」

「なっ!?」

「ほんとう!?」


はいと答えて肯定する。それに彼女は泣きそうな表情から花が咲いた表情に変わる。


「氷の精霊グラキエス様。御身に着せられし私怨しえんの罪、お引き受けいたします」


今度はグラキエスの方へ向き直り丁寧な口調でそう答える。

それに彼女は昔を懐かしむ様に目を一瞬だけ細めた。


「やはりあの男にして、この娘か……。手をわずらわせてすまない」

「私からカルロスさんにお二方の罪状を取り消してもらうようお願いしてみます。いま此処にお呼びしますので少しの間、お待ちください」

「その必要はありません、ミラ姫様」


 知らない男の声が聞こえて全員が扉の方を振り返る。

果して、そこにいたのはタスクフォース第一部隊に所属する上級魔法士達とそれを引き連れるカルロスだった。


「カルロスさん」

「あの男は……?」

「カルロス・トーラス。俺達タスクフォースのリーダーで第一部隊総大将を務めてるおっさんだ」


食えねえおっさんだよ。そう言ってジャンはにらみつけるように彼等を見ていた。


「カルロスさん。ちょうどお願いしたい事があったんです」

「分かっております。ですが、少々お待ち下さい」


すっと手を上げると同時に背後に控えていた部下達が一斉に動いてほのか達を囲む様に陣形を組んだのだ。


「ふえっ!?」

「な、なんだぁ!?」

「カルロスさん、なにをしてるんですか!?」


 突然の行動にほのか達だけでなく、ミラも驚いた表情を浮かべる。

それにカルロスは静かに落ち着いた口調で返事を返した。


「『宮中への不法侵入罪』で彼等を捕縛します。ここは何人も一般市民が入ることは許可されていない場所……。そこに侵入したとあっては摘発しなければなりません」

「カルロス、お前……!!」

「ジャン・バジーナ君、クレア・ラトウィン君。君達二人も第七十二条の規律違反の容疑で一時身柄を拘束させてもらうよ」


 苦虫を噛み潰したように顔をしかめるジャンを見て静かに語る。

その後に、ほのかを認めると彼は彼女へ声をかけて来た。


「君が、皐月ほのか君かな?」


 急に自分に声をかけてくるなんて思ってもいなかった彼女はビクッとして傍にいたバルドの影に隠れてしまう。

子供らしい彼女の反応に少しだけ相好を崩すと彼は懐から一枚の写真を取り出した。


「登録者リストにないから不思議に思っていた。なるほど、魔法士リストに登録されていないのは盲点だったよ。まさか――――」


 魔法を使えない者が魔法を扱える者に覚醒するとは思ってもいなかったからね。

写真の映っているのは桜色の砲撃が都市の上空を駆け抜ける様子があった。


「あ……」

「見覚えがあるようだね。そう、これは第三都市で撮影された写真だ。君は……この時期にここにいた事は確認済みだ」


ミラの能力である程度の予想は出来ていた彼だが、実際に目の当たりにすると驚かざるおえない。


「驚いたよ。まさか、ミラ姫様と同じ年頃の子がAランクの魔法士を凌駕する魔力を持っているだなんてね。そんな君がガルガンシア襲撃犯の彼と共犯者だとは非常に残念だよ」

「聞き耳か……。タスクフォースの筆頭は随分といやしい手を使うんだな?」

「何分、この役職なのでね。少しでも犯罪の芽を摘み取れるなら手段は選ばないのだよ」


鋭さを増す瞳でにらみつけるバルドを前に涼しい顔で受け答えする。


「仲間達を傷つけられたくないのなら、武器は捨ててくれたまえ。こちらとて、姫様の御前ごぜんで手荒な真似はしたくないのでね」

「………」


虚空からバハムートとケルベロスを取り出して地面に突き刺す。


[おい相棒!! なんで俺達を出した!?]

[まさか、若ダメです!! ここは徹底抗戦の構えを――っ!!]

「うっせーぞお前ら、黙ってろ。俺一人でコイツら全員が助かるなら安いもんだ」

「ふむ、剣が喋るか……。それはオーパーツか? だとすれば、古代遺産不正所持の容疑でも逮捕せねばならないな」


片手を上げて合図を出す。一人の隊員が前に出てバルドを拘束しようとした。

しかし、その手をサヤが掴んだ。


「なんだね君は? そこを退きなさい」


 退く様に指示する隊員。しかし、彼女は彼の前から退こうとしない。

うつむき加減で前髪に隠れたその表情はよく見えない。


「おい、いい加減に―――!!」


何時までもど退かない彼女に苛立いらだちを押さえながら掴んでいる手をはらおうとした。

その直後、サヤの手にグッと力が篭った。


「い、ぎゃああーーーー!?」


 ミシミシと骨がきしむ様な音と同時に掴まれている手があらぬ方向へ曲がり始める。

想像を絶する激痛に襲われた隊員が悲鳴を上げて仰け反る。

早く手を振りほどきたいのに、サヤはそれを許さない。


「…………」

「ひぃっ!?」


 綺麗な金髪がそれぞれ独立した生き物のように浮き上がる。うつむいていた顔がゆっくりと上がる。

その時、隊員は見た。美しく澄んだ青き瞳が熾烈なる赤眼へと変わっている様に見えた。


 激痛による幻覚か、はたまた本物か。

どちらにしろ、彼女から発せられる怒気に腰を抜かしてしまった。


「霧島!? なにをしてるんだ!?」

「気に入らねェ……」


 腰を抜かして戦意を失くした隊員から手を離してカルロスの方へと歩む。

隊員達は動きたかった。だが、出来なかった。彼女から放たれる気配が桁違いに大きかったのだ。

まるで、鬼でも見ている様な気がした。


 尻ごみする隊員達を余所に、サヤはカルロスの前に立つ。

涼しげな表情を崩さないで、長身のカルロスはサヤを見下ろしていた。


「気に入らねェんだよ。その取ってつけた様な感じがな……」

「…………」

「バルド一人を犯人に仕立てようとする感じがすげェムカつくんだよ。そこまでしてバルドを犯人にして、事実を隠すのかよ?」

「なにを言ってるのかよく分からないな?」

「なら簡単に言ってやるよ」


姿勢を落として腕を下げた体勢になる。

爪を出して悪鬼か何かを連想させる形相でカルロスに狙いを定める。


「一発、殴らせろ!」


一息と共に彼の顔面目掛けて彼女の腕が振るわれた。

鋼鉄の守りすら切り裂き、固い岩盤すら砕く破壊力を持った一撃が炸裂し衝撃で砂塵さじんが舞い上がる。


「サヤ!? なにしてるの!?」


彼女の突飛な行動に唖然あぜんとしていたフィリスが非難の声を上げた。

いま彼女が攻撃したのがどんな立場の人間か分からない訳ではない筈だろう。


「……気は済んだかね?」

「なっ!?」


しかし、白煙の向こうから現れたカルロスにサヤは驚愕で目を見開いた。

彼女の爪は何時の間にか出されていた大盾の前に止められていたのだ。


直撃寸前まで、彼は防御も何もしないで無防備だったはず。

何時の間に張られたのか……。得体の知れないなにかを感じてサヤは反射的に距離を開けようと飛び退く。


―――が、次の瞬間には彼女は地面に組み伏せられていた。


「サヤちゃん!!」

「口も悪ければ目上の者に対する態度も悪い。まるで不良だな君は?」


 モンスター相手でも圧倒するパワーを持っているあの彼女が身動きがとれないでいる。

押さえ付けられて悔しさに歯軋りして背中越しににらむサヤを涼しい顔で見下ろす。


「ガルガンシアからオズワルド君を脱走させた者の仲間だけに素行が悪いな。そんなにまで世界を混乱に巻き込みたいかね?」

「おい、カルロス・トーラス……。サヤから退け」

「君の事は調べたよ、バルド君。冒険者でありながらギルドなどと言う非公式集団に属さず単独でAAAクラスのモンスターの討伐などの依頼をこなすその実力は非常にもったいないと思う」

生憎あいにくと、テメーらみたいな組織に入る気はねえよ。俺は何処までいっても、誰にも従わねえ自由に生きるだけだ。あんまりふざけたこと言ってっと……潰すぞ」


眼つきの悪い目が更に鋭さを増し、重苦しい気配を発する。


「出来るかな? 彼女達を巻き込むことになるが?」

「ちっ……」

「やめなさい、カルロス・トーラス!!」


 打つ手のない彼女達を救ったのはミラの一言だった。

先までの頼りなさげな感じが一変して芯の通った声が響く。

何時もは大人しい彼女が自分の強い言葉にカルロスは驚いた顔をした。


「彼女を離しなさい。これはミラ・ラ・ピュセル・ユグドラとしての命令です」


 王女としての命令は逆らってはいけない。

カルロスはゆっくりとサヤの上から退き拘束を解除する。起き上がったサヤの下へミラは歩み寄る。


「お怪我はありませんかサヤさん」

「あ、あァ。大丈夫だけどよ……」

「よかった……。カルロスさん、彼女達をここに呼んだのは私自身です。もし、それで彼女達が罪となるのならそれは私の罪であって彼女達に罪はありません」


 それに周りにいた隊員達はざわめく。

王女自身が呼んだとあればいま包囲している彼女らには何ら罪はない。


「彼らは私が預かります。バルドさん、そしてグラキエスさんの件も不問です。今後一切、彼女達またはその関係者達への干渉は禁じます」

「お、お待ちくださいミラ姫様! この様な怪しいやからを傍に控えるというのですか!? 危険すぎます」


 珍しくカルロスの焦りの表情が浮かぶ。

説得を試みる彼だったが、ミラは断固としてそれに頷かず首を振った。


「ほのかさん達なら大丈夫です。」

先見の瞳プロフェテス・アーキュラーか……!!)


彼女の特殊能力『先見の瞳プロフェテス・アーキュラー』は未来を夢などで描写するだけでなく、触れた人物や物体からその人の本質を見る事も出来る。恐らく、ミラはほのか達を無意識の内に発動した能力で見抜いたのだろう。


 予想外だった。まさか、大人しかった彼女がこうも積極的な行動を移すとは思ってもいなかった。

だが、彼女がここまでの行動を起こす様になったのは何かしらの要因がある筈―――


(あの夜の出来事か!! 何者かは知らぬが、余計な真似をしてくれる……!!)


 姿なき侵入者へ呪詛じゅその言葉を投げる。

しかし、この場にいない侵入者へ幾ら悪態を吐いても意味はない。


「ミラ姫様、恐れながら一つ申し上げてもよろしいですか?」

「はい、なんでしょうか?」

「彼等を傍に置く事に異議があります。彼等の実力は未だ未知数……それが分からなければ納得いきかねます」

「では、どうすればいいでしょうか?」

「簡単です」


伏せた顔を上げて視線を送る先にはバルドがいる。


「彼と摸擬戦をさせていただきたい」

「彼と、ですか?」

「はい。見たところ、この中で最も実力のある様に見えるのは彼です。彼と摸擬戦をして、私が認められる実力があればミラ姫様の御意志に従います」

「……分かった」

「バルドさん!?」


黙って聞いていた彼が了承の返事を返したことにほのか達は驚いてそちらを向く。


「バルド、お前怪我をしているだろ!?」

「んなもんもう治った。それよりもこの馬鹿を一度叩き潰さねえと気が済まねえ。いいぜ、カルロス。その話に乗らせてもらう」


まるでモンスターを相手にする時の様に眼を鋭くさせて、その身から闇の魔力を放っていた。





ほのか達とミラの初会合。

そして突然始まるバルドとカルロスの模擬戦。


サヤですら一瞬で行動不能にさせられた実力はまさに本物の一言。

謎起き相手を前にバルドはどのような戦いをするのか。


それでは、次回も宜しくお願いします。


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