第五十七話 見えざる思惑
五十七話更新。
激闘の末、バルドゥス隊の撃退に成功するも不意を突かれて倒れるバルド。
彼は果たして無事なのか。
そして、中央都市の宮中では一人の侵入者が現れる。
深夜の中央都市宮中。
ほとんどの明かりが落ちて暗くなった通路を、一人の影が動いており通路内に不気味に足音が響く。
その者は周囲には目もくれず、真っ直ぐに宮中奥を目指しゆっくりとした足取りで進む。
それを天井から光る双眸で見ている無数の影。
音もなく動きだして両手にあるブレードを振り上げて襲いかかる。
ノーム遺跡より回収、改良を加えられた人造機甲型モンスター『ガジェットMk.Ⅱ』だ。
新たに装備させられた『熔断壊ブレード』の刃が赤く熱を帯びて侵入者を両断せんと振り下ろす。
だが、無数の刃は全て侵入者の手前で見えざる手に捕まえられたかのように止まる。
そして侵入者を中心に一瞬だけ魔力の衝撃波が発せられる。
禍々しく澱んだ色の魔力波が起きて、衝撃でガジェット達は吹き飛ばされ壁にぶつかり機能を停止する。
今度は前方の暗闇の向こうから数体のガジェットが電光石火の速さで強襲する。
複数の角度からの同時攻撃。それすら届くことはなく吹き飛ばされ瓦礫と化して崩れ落ちる。
静寂の戻る通路内。目の前を転がる頭部を踏み潰し、その者は更に先を進む。
「だ、誰だ!?」
遂に侵入者は宮中最奥……ミラのいる部屋まで辿り着いた。
見張りとして立っていた二人が身構える。両者とも、SCCA第一部隊総大将カルロスに認められた魔法士だ。
ランクは+S。どちらも腕には確かな自信があった。
警告の言葉を掛けるも侵入者が一歩……前へ足を踏み出した。
――――と思った時にはその者は二人の背後に立っていた。
「弱い……」
そう一言、背を向ける二人に投げかける。
石像の様に固まった二人はゆっくりと床に倒れ、動かなくなった。
「少しの間、寝てなさい。そして、次に目覚めた時…いま起きたことは忘れるがいい」
倒した二人に忘却の魔法を掛けてからその者は大きな扉を押して開ける。
「――――っ!?」
眠りについていた少女ミラ・ラ・ピュセル・ユグドラが気配に気付いて飛び起きた。
大きな魔力反応が扉の方から感じて身を震わせ、顔を強張らせる。
「ど、どなたですか……!?」
雲の影から月が顔を現し、部屋を覆う闇を追い払う。
ちりん……と鈴の音が室内に木霊し、その者は姿を現した。
毛先に向かうにつれて金色になる紫色の髪、腰よりも伸びるウェーブのかかった髪。
月の光に反射する白き肌をした手、豊かな胸に括れた腰の抜群のプロポーション。
身に纏う服装は黒を基調とし、紫色のラインが幾つか施されて何処か魔女を連想させる。
丈の長いスカートで後ろはえん尾状になっておりその先に鈴が付いている。
もとは他を魅了しただろう…濁り切った赤い瞳をもった女性が彼女の前に立っていた。
「ど、どなた……ですか?」
怯えを隠せずに震える声で再び名を聞く。
澱んだ瞳でミラを見下ろしていた女性だったが、次に寝台の前で片膝を折り、礼を始めた。
「お初にお目に掛かりますミラ姫様。私の名前はシルヴィア・ピステールと申します」
「シルヴィアさん……ですか?」
「はい。ミラ姫様に少し、見てもらいたい物がありまして」
彼女は懐より鈍く光る白き欠片を取り出し差し出す様に前に出した。
それは、ほのか達から奪い取ったニーベルンゲルゲンの欠片だった。
ミラは彼女の差し出された手の上にある欠片にそっと近づいて、手を伸ばし触れる。
「っ!?」
その瞬間、彼女は自身の脳を駆け抜ける光景に身体をビクッと震わせた。
「八つの光と虚無の世界より変革し、数多の試練を与える……。幾多の光、宝石の海より集い、駆ける道は絶対へと辿り着き、彼方を超えゆ」
目から輝きの消えたミラから発せられる要領を得ない言葉。
しかし、シルヴィアはその意味が理解出来たのか手を下げて欠片をミラから離した。
瞬きの後、瞳に光が戻ってハッとする。
「ありがとうございましたミラ姫。ようやく、確信を得る事が出来ました」
「え……?」
訳が分からないといった表情を浮かべるミラを余所に、シルヴィアは外へ通ずるバルコニーの方へと歩き始める。
「ま、待ってください!!」
慌てて呼びとめると、彼女は歩みを止めた。
「いま、一瞬でしたがシルヴィアさんのことが見えました。あなたは……それでいいのですか!?」
欠片に触れる際に、シルヴィアの事もなにか見えたのだろう。
ミラ自身、明瞭な形で見えた訳ではないので表現し難い。
ただ、彼女はシルヴィアを止めるべきだと悟ったのだ。
何時もの相手に対して口ごもってしまう様な気弱な彼女が、この時は落ち着いて話す事が出来た。
「すべては許されないかもしれません。ですが、あなたはその道を選んではダメです!」
「…………」
「どうか思い止まって下さい。そのような選択でなくてもきっと―――」
「ふっ、ふふ……ふふふふふ………あははははははっ!!」
説得を試みようとしたミラだったが、背を向けていたシルヴィアが肩を震わせたかと思った途端に急に大声で笑い始めたのだ。
急に笑い始めた事にビックリする。一頻り笑い終わったシルヴィアが首だけを動かし、彼女へ向けてぎょろりと視線を送った。
「あなたになにが分かるというの? ただの傀儡風情の娘であるあなたに……?」
「え……?」
嘲笑、侮蔑、憤怒……様々な負の感情の篭った壊れた笑みを浮かべている。
そのあまりにも不気味な笑みに幼き少女は恐怖を覚え、青褪めた。
「なにも知ろうとしない。なにも分かろうとしない。知りもしないし分かりもしない。ただこの部屋に篭って年を過ごし、何時かは政府の道具として他国の有力者と婚姻を結ばされるだけのただの客寄せ看板がなにを偉そうに……」
吐き捨てる様に投げかけられた言葉は、さきほどの敬語とは掛け離れたものだった。
「そ、それは……カルロスさんが外は危険だからと――」
「相手の意見にはいと答えるだけ……。まるで糸で操られる人形の様ね」
「っ!?」
「あなたは何も知らない。この世界の事を、ね……。あなたは所詮、この世界と言う箱庭の中の更に隅へ閉じ込められた哀れな存在にすぎないわ」
興味が失せたのだろう。顔を前に戻し、再び歩き始めバルコニーへと出る。
―――と、同時に扉を叩く音が室内に響いた。
「姫!! カルロス・トーラスです。誠に勝手ながら失礼します!」
「騒がしくし過ぎたわね。さすがはタスクフォース……動きが早いわ」
こんな所で魔力を使い過ぎたわね……と小さく呟いた彼女は目の前の空間を裂いた。
紫電の稲妻が奔る澱んだ色をした空間が現れる。
「それではミラ姫様。本日はここで失礼します」
最後までこちらを振り向かないでシルヴィアは開けた空間へ歩んで行って姿を向こうへと消した。
彼女の姿が消えると同時に空間は元に戻り、カルロスが扉を開けて部下数名を引き連れて飛び込んできた。
「一足遅かったか……!! 急ぎ後を追え、不法侵入者を逃すな」
「はっ!!」
上級魔法士の部下達がバルコニーへ駆け出し、そこから飛行魔法で空を飛んで逃走したシルヴィアの後を追跡していった。
「姫様、お怪我はありませんか?」
「はい……大丈夫です。ありがとうございますカルロスさん」
「いえ、油断しておりました。まさか、単独でこの宮中の防衛網を突破されるなど思ってもいませんでした。護衛をしている者達も優秀な者だったのですが……」
「気になさらないでください。私は大丈夫だったのですから、カルロスさんもそう自分を責めないでください」
「……お気遣い、痛み入ります」
彼女の気遣いの言葉に頭を下げ謝辞を述べる。
その彼をジッと見つめていたが、新しく入って来た隊員の一人がカルロスの下へと駆けて来た。
「カルロス総大将……急ぎ耳に入れたい話が」
「分かった。……姫様、私はここで失礼します。今晩は警備を倍以上に上げてお守りします故、安心してお休み下さい」
「は、はい……」
部下を伴って去る。扉が閉められると、再び室内は静寂に包まれた。
閉められた扉をジッと見ていたミラだったが、なにを思ったかベッドより降りて忍び足で扉の前に行き耳を当てて澄ました。
「先ほど第六都市のジャン二等空尉より護送された集団が到着しました」
「そうか。それで……?」
「はい、どうやら女子供の集団でして……中にナール陸佐の割り出した者と一致する二名を確認しました」
「了解した。今日の所は落ち着かせる為にそっとしておく様に伝えろ。だが、監視は怠るな」
「はっ!!」
「明日、私が直に事情聴取を行う。あのオズワルド氏が我々の要請を断ってまで預ける者だ。少し、興味がある」
遠退く足音と会話。
扉の向こうから聞こえる音が徐々になくなっていき遂に聞こえなくなる。
「―――温かき光が来る。……え?」
自分の口から出て来た言葉にミラは手を添えて驚く。
いま、自分が言ったのか?
それよりも、光が来るとは一体何だろうか?
(温かい……光?)
脳裏に残る感覚、それは思い当たる節があった記憶を遡るに一つだけ。
つい最近、カルロスに見せられ、手に触れたあの写真だ。
桜色の閃光……。
触れた時に見えた優しき光を持った者だ。
(あの人が……来る?)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
深い闇の底から意識が覚醒し、バルドは目を覚ました。
何度か瞬きをして混濁した景色に焦点が合わさる。
「……ここは?」
「目が覚めたかえ、元ぬしよ」
声のする方を向く。そこにはベッドから身を起こしているアウルがいた。
肩には包帯が巻かれていて腕を固定されている。
「気分はどうかえ?」
「まあまあってとこだな」
身を起して周囲を見渡す。白いカーテンで囲われており、周りの状況は確認出来ない。
ただ、薬品特有の臭いがするのでただの宿屋ではないことはすぐに分かった。
そして、腿辺りから感じる重みに気付いて下を向く。
左右を挟む様に腕を枕に、小さな寝息を立てて眠っているほのかとリースリットがいた。
「いままで元ぬしを心配してずっと看取っておったのじゃよ。それはそれは健気なものじゃった」
くふっと笑い扇子を出して口元を隠す。アウルに送っていた視線を再び戻す。
よく見れば、目尻から頬をなにかが伝った跡が見て取れ、その先が濡れていた。
二人を見下ろしていたバルドはそっと両方の頭に手を乗せて優しく撫でた。
軽い身動ぎの後に、二人の瞼が震える。ゆっくりと開き、倒していた体を起した。
「あ、ふ……」
「起きたか?」
「……ふえ?」
一度、眠気を噛み殺す様にあくびをしたところで声をかける。
きょとんとした表情でバルドの方を見て、起き上がっている彼の姿を視界に捉える。
よっ、と軽く手を上げて挨拶する。寝起きだからか、反応が鈍かった。
しかし、それも一瞬のこと。目を何度か瞬いくにつれ意識がはっきしりしていく。
「バルド、さん……?」
「迷惑掛けたな、お前ら」
名を呼ぶ彼女に返事を返す。
「……ふえ」
少し間を置いて、ほのかの顔がくしゃりと歪んで目からぽろぽろと涙が零れ始めた。
「ふええぇぇぇんっ! バルドさーーーんっ!!」
そして、次の瞬間に彼女は抱きついて大きな声で泣きじゃくった。
急に飛び付いてきた彼女に少しだけ身体が傾くも整えて受け止める。
肩を震わせ、しゃくりながら縋り付くほのかにやれやれと小さく息を吐く。
一歩、乗り遅れたリースリットは浮きかけた腰を再び下ろして俯くに終わる。
静かな病室が俄かに騒がしくなってカーテンが開け放たれる。
「バルド!? よかった、目が覚めたんだね」
姿を見せたのはフィリスを筆頭に残りのメンバーだった。
彼が目を覚ました姿を見てホッとした様子。
「バルドさん、大丈夫ですか?」
「具合はどうだ?」
「そこそこってところだ」
「よくくたばんなかったな」
「っとかなんとか言って、プレセアちゃんも心配してたですよ」
「う、うるせぇ! 余計な事言うんじゃねえよ!?」
「プレセアは素直やあらへんからなー」
「ほ、ほっとけ////!!」
顔を赤くしてそっぽを向くプレセア。
素直じゃない彼女の反応に苦笑してからバルドは自分がいる場所を聞こうと仲間達に質問する。
「ここは何処だ?」
「それが、その……」
それにフィリスが答えようとするが、言葉を濁した。
彼女の反応に怪訝な顔をする。
「如何したんだよ?」
「えっとね。……ここは、本部だよ」
本部? 本部とは何処のだろうか?
一瞬だけ嫌な予感がした。
「まさかと思うが……特別災害対策本部、か?」
「そのまさかです、はい……」
「マジかよ……」
そう。彼等のいる場所は特別災害対策本部、通称『SCCA』の本局にある医務室である。
バルドが気を失ったあの後、彼女達の前にジャン率いるタスクフォース第四部隊が現れたのだ。
どうやら、副隊長であるクレアが遊園地での遭遇後に捜査班を付けていたらしい。
負傷したアウルとバルドを庇い、更にバルドゥスとの戦闘で体力と魔力を消耗していたほのか達では逃げる事は不可能だった。
ただ幸いなことにジャンは彼女達を捕縛しに来た訳ではなく、不可解な魔力反応を感知したから出撃したことだった。
負傷している二人を認めて、簡易的な治療を行ってから本格的な治療の行える本部へと連れて行った方がいいと打診し、それにほのか達は従っていまに至るという。
「ってことは、ここはSCCAの中にあるタスクフォースの本部ってことか?」
「どうやらそうらしい」
「ここの連中、どいつもコイツも胸糞わりィ臭いして気に入らねえ」
「サヤに同感だぜ。あたしは、ここは嫌いだ」
なにやら野生の感(いやこの場合は鬼の感だろうか?)でも働いているのだろうか、サヤはだいぶ不機嫌な表情で吐き捨てるように言葉を発した。
それに、プレセアも同意の声を上げた。
「ここに来るまで連中、あたしらを変な目で見やがって……。あたしらは珍しい動物かっての!」
「タスクフォースがどんな組織か知らないけど……。見た感じ、エリート集団って風に見えたね。見た目だけだけど……。……見た目だけだけど!!」
「そこ、強調して二回言うのやめようか!?」
「大事なことなので二回言いました!!」
「うん、だからやめいっ!!」
各々が感じる事があった様で、皆好感を持っていない様子。
その時、壁に寄りかかって腕を組んで黙想していたグラキエスが目を開けて壁から背中を離す。
「誰か来るぞ」
そう注意を促した直後に病室のドアが開き、続いて複数人の職員……恐らくタスクフォースの者達だろう、胸にⅦという数字の勲章を付けた集団が入って来たのだ。
「騒がしいな。少し静かにしたらどうだ?」
「あ~、すんません。仲間がやっと目を覚ましたんで少し嬉しくてはしゃいじゃいましたー」
威圧的な視線を向けて注意をかける一人にシリウスが前に出て何時もの様に飄々(ひょうひょう)とした態度で対応する。
それに職員達は視線をベッドにいるバルド方へ向け、起きている事を確認する。
「そうか……なら話は早い。貴様を国家反逆罪で緊急逮捕する」
そして、次の瞬間にはそんな言葉が飛びだしたのだ。
これにはほのかも泣くのを止めて硬直し、俯いていたリースリットがビクッと肩を震わせる。他の面子も驚愕で目を見開く。
「なっ、国家反逆罪だと!? バルドが何時そんな事をした!!?」
「お前達に話す理由などない。そしてそこの女、お前もだ」
「……………」
グラキエスへと向けられる視線。それに彼女は目をスッと据えて見返すだけ。
「貴様も公務執行妨害の罪状が出ている。大人しく縛につけ」
「グラキエスさんにまで!?」
「二人が何をしたというのだ!!」
納得のいかないアイネが再度問うも、彼等は返事を返さない。
代わりに先頭の者が手を上げて合図を出し、二人を拘束しようと後ろの者達が動き始める。
自分の前に来た職員に、バルドは面倒くさそうに溜息を吐いた。
「やっぱこうなったか……」
「やっぱりと言う事は、心当たりがあるという事でいいな?」
「別に……。ただ俺は、お前らのやり方に納得がいかなかったからしただけだ」
「言い訳は後で聞かせてもらう。さっさと来い」
命令する職員に対してバルドはなにを言う事もなくベッドからほのかを降ろして、
自分から降りようとした。しかし両者の間にリースリットが割って入り、手を広げて立ち塞がった。
「リースリット、お前!?」
「…………この人は、なにもしてない」
「残念だが、証拠はあがっている。庇うというなら同罪で君も逮捕させてもらうが?」
「なっ!? 子供にも同罪を付けると……貴様ら本当にこの国を守る兵士か!?」
カラドヴォルグに手をかける。しかし、それに彼等は冷ややかな目を向ける。
「抜くというなら好きにすればいい。だが、その時はこの場にいる全員がそこの男と同じ罪を被ることになるが、それでもいいか? そこの子供達にもだ……」
「くっ……!!」
自身の主であるあかねと友人であるほのか達を見て苦虫を噛み潰したような顔になる。
幼い彼女達に重すぎる罪状だ。それだけは何としても避けたい。柄にかけていた手が少しずつ離れる。
「それと、我々は兵士ではない。この国を守るという点は一緒だが、履き違えないように」
悔しそうにする騎士達を見て余裕の表情を見せる職員。
目の前にいるリースリットを突き飛ばす様に押し退ける。転びそうになった所をマルグリットが受け止める。
「さあ、一緒に来てもらおうか?」
「……お前ら、リースリットになにしやがる」
命令する彼等に対して鋭さを増した目で睨みつける。
流石の彼もいまの行動に対して怒りを隠せない。いまにも彼等を叩きのめそうと動きかけた。
「ちょーっと待った!」
その時、ドアの方から制止の声がかけられた。
振り返った先には、若い青年――――タスクフォース第四部隊総隊長のジャン・バジーナと副隊長のクレア・ラトウィンが立っていた。
「ま~たお前らか。いい加減にしろよ第七部隊」
「なにか? 我々は仕事をまっとうしているだけですが?」
彼の注意に対してまるで反省の色はない。自分達の行動になんの疑問もないようだ。
そんな彼等の反応にジャンの表情が険しくなる。
「どこがまっとうな仕事だよ。お前らのやってることはただの脅迫じゃねえか」
「この方針はクラスト隊長のものです。我々はそれを模範として行っているだけです」
「あんのくそったれ坊ちゃんが……。自分の隊の躾くらいしっかりしやがれ。とにかく、お前らはさっさと出て行け。話の邪魔だ」
「……後で後悔しますよ?」
「クラストの奴にいっておきな。文句あんならツラ見せて直接話そうぜってよ」
失礼しますと言って職員達はジャンの事を睨んでから部屋から出て行った。
それを見届けてからジャンは軽くため息を吐いて肩を竦めてからほのか達の方を見る。
「よっ、また会ったな」
「ジャンさん……」
ニッと軽快な笑みを見せる。
しかし、ユグドラ達は先の件で警戒しているのか表情は険しいままだ。
「テメーか、ここに連れて来た奴は」
「遊園地で会ったサングラスの兄ちゃんだな? 何処かで見たことあると思ったらやっぱりあんただったか」
懐から取り出した端末を見せる。
そこには、バルドの映像が映し出されている。
「ガルガンシア襲撃事件の重要参考人として事情聴取したいんだが……」
「貴様も……さっきの連中と一緒か」
「怪我人しょっ引いてまで手柄が欲しいのかよ。くそったれ……」
「いやだから、ケガしてっからここで聞ける簡単な質問をしようと思ってだな」
険悪な空気がまたも流れそうになったので慌てて説明する。
ほのかやリースリット、フィリスやあかねはバルドの傍に移動して彼は渡さないという空気を漂わせる。
「あー、もう早くしねえとカルロスの奴が来るってのに……」
「あの皆さん、落ち着いて下さい。私達は一つ質問したいだけなんです」
「信用ならん」
「胡散臭せえ」
ルチアやプレセアが一蹴する。
あまりにも信用されていない事にクレアは軽くショックを受けて肩を落とす。
「プレセアにルチア。そう殺気立つなっての」
そんな彼女達を止めたのは他でもない当事者のバルドだった。
「けどよ……」
「いいんだよ。どうせ、ガルガンシアに乗り込んだ理由はなんだって聞きたいんだろ」
「おうっ!! わざわざ罪になる様な事してなにしたのか聞きたかっただけだ!」
的を射た質問にジャンが真っ直ぐに返事を返す。
そのストレートすぎる質問に苦笑した後に、表情を引き締めて答える。
「理由なんて簡単だ。不当な理由で理不尽に捕まった爺を助けた、それだけさ」
「それが、オズワルドのおっさんって事か」
「局長を知ってるの!?」
「ああ。むかし世話になったからな。だから、あのおっさんがそんな犯罪起こすなんておかしいと思ってたんだよ」
いい人だったからな。そう言ってニカッと歯を見せて笑う。
傍らにいるクレアは、それも勘なのだろうと思って気付かれないように小さくため息を吐く。
「けど、IPターミナルを渡さなかったって言うのは本当なのか?」
「本当だ。そして、それを預かっているのがこの二人のチビッ子だ」
ほのかとフィリスの頭に手をポンと置いて示す。
よもやこんな幼い少女二人にIPターミナルを預けたとは思ってもみなかったジャンとクレアは目を見開いて驚きの表情を見せる。
「ってことは、特別緊急通達を無視したって話は強ち間違いじゃなかったのか……」
「ジャンさん、お願い! オズワルドさんとバルドさんとグラキエスさんを助けて!!」
ほのかがジャンへと三人の疑いを解いてもらおうと願い出る。
オズワルドもバルドも、クラストの横暴な行動で罪を着せられているだけだ。
グラキエスは欠片の影響で意識もない状態だった。
こんなのおかしい、なにかが間違っている。
だから、三人を助けてほしいとお願いするがジャンは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべて首を振った。
「わりぃ……。俺にはそこまでの権限はねえんだ。タスクフォースっつっても、ピンからキリまである。出来るとすればカルロスと政治家のお偉いさんくらいだ」
「そんな……。じゃあ、バルド達はずっと犯罪者扱いなの!?」
「落ち着けフィリス。そこまで興奮すんな」
「自分のことでしょ!? バルドこそ、なんでそこまで落ち着いてられるの!?」
振り返って少し声を荒げて言葉をぶつけてくる。
いつものフィリスらしくもない姿に少々驚きつつも答える。
「分かっててやったんだ。今更、犯罪者ってレッテルがついても別にどうでもいい。ただ……それでお前達に迷惑が掛かるんなら―――」
「だめっ!!」
言う前にほのかは言葉を遮って彼の腕に抱きつく。
いま、彼は絶対に一人で行動しようと考えてたはずだ。
自身の所為で、自分達に迷惑や危険が迫りそうになるとすぐに遠ざけようと身代わりになる。
いつもは面倒くさい、面倒くさいと言ってるけど本当は他人想いの優しい人……。
ギュッと強く服を掴んで離すまいとする。それにフィリスも続き、同じ様に縋った。
「バルドは何も悪くない! だから、そんな風に考えないで」
「それにバルドさん言ってたでしょ!? 私達を今度は一緒に旅に連れてってくれるって!! だから、絶対に離れないもん!!」
「バルドさん。いくらバルドさんがダメ言うてもうちらはついていくで」
「我々も主あかねを助けてもらった大きな借りがある」
「そ、そうですよ! バルドは何も悪くないです」
「つまんねェ事でほのか達を泣かすんじゃねェよ」
「うむ。わっちも元ぬしにいてもらわぬと困る。ぬしの為にもいてくりゃれ」
仲間達からのそれぞれの返事を返されて、言いかけた言葉を呑み込む。
それから小さく溜息を吐いて、次には困った様な少し嬉しい様なそんな笑みを見せて抱きつくほのかとフィリスの頭を撫でる。
「ったく……もの好きな奴らだな」
「バルドさんに似ただけだもん!」
「だけど、困ったなぁ……。あんたを助けたいのは山々なんだけど、俺には出来ないしなぁ……。もっと偉い人……例えば王様とかに頼むしかないよなぁ」
あまりにも現実的ではない話だ。
そんな都合のいい話がある訳がない。
そう思ってた矢先――――窓を小突く音が聞こえた。
近くにいたプレセアが閉まっていたカーテンを開ける。
光が差し込む先には白い鳩が窓辺で、窓を嘴で小突いている姿があった。
その嘴には白い便せんの様なものが咥えられている。
「ハト?」
いぶかしみながらも、彼女は背伸びをして鍵を外し窓を開けると鳩が中に飛び込んできた。
そのまま部屋の中を周回する様に飛んでいたが、咥えていた便せんを離した。
ひらひらとそれは部屋の丁度真ん中に落ちて、勝手に開いた。
―――――直後に、青銀色の魔法陣が一杯に広がったではないか。
「ふえっ!?」
「な、なにこれっ!?」
「これは……召喚魔法か!?」
特殊な文字の書かれた魔法陣に正体を逸早く察知するルチア。
ただ、前にオズワルドが見せたものと何かが違う。
「何か出てくるの!?」
「いや違う……。呼びだすものじゃない。こいつは―――呼びこむ魔法だ!!」
部屋一杯を静銀色の魔力光が包み込み、ほのか達はその中に消える。
そして、光が消えた頃にはその部屋には誰も残らなかった。
少し遅れて騒ぎと魔力反応を感知してカルロスが複数の配下の者を連れ部屋に飛び込む。
誰もいない事を確認して、何時もは見せない焦りの表情を浮かべた。
「この魔力……まさか!?」
「隊長、どうしますか!」
「お前達は捜索隊を出して都内を探すんだ。私は宮中へ向かう!!」
敬礼で返す隊員達を置いて、カルロスは一足先に部屋を後にする。
その足取りは駆け足に近い。
(まさか……まさか、ありえん!)
信じられないものでも思い浮かんだのか、彼は何時になく慌ただしく廊下を歩いて行った。
中央都市に護送されたほのか達。
大事になる前にジャン達のおかげで一時の治まりを見せるも、今度は突然やってきたハトが落とした便せんに組まれた魔法陣より何処かに飛ばされてしまう。
彼女達は一体どこに飛ばされたのか。
それでは次回も宜しくお願いします。




