第五十六話 勝者はただ一人
五十六話更新。
あのとき以上に成長した彼女達と、精鋭で固めた主力部隊を引き連れるバルドゥスとの激闘が始まった。
果たして、軍神と呼ばれた男を前に彼女達はどこまで戦えるか。
「我が軍に勝利あれ!!」
「例え女子供だろうと、戦場で敵対するならば容赦せん!!」
指揮高々とバルドゥス配下の近衛兵団が馬を駆り突撃してくる。
「来るか。ならば我らが相手だ!!」
ルーンを構えユグドラ率いる守護騎士達が突撃する。
先陣を切るユグドラに一番槍の騎兵が槍を突き出し突進。
「あまい!!」
目の前に迫る穂先を顔を僅かに傾けることでかわす。
腕が伸びきって隙だらけの騎兵にルーンに炎を宿し、鋭い眼光で捉える。
「はあっ!!」
「ぐはっ!?」
呼吸に合わせて刺突。神速の一撃で放たれた槍が相手の腹部に命中。
馬上より吹き飛ばした。主なき馬にユグドラは飛び乗り、手綱を引く。
すると、暴れていた馬があっさりと大人しくなり彼女に従ったのだ。
「騎馬には騎馬と……相場が決まっている!!」
腹を踵で軽く蹴り馬を走らさせる。
その背の上に彼女は立ってルーンを振りまわし、近づく敵を薙ぎ倒す。
「なんという曲芸!?」
「次の相手は誰だ!! このルーンの錆にしてくれる!!」
美しきポニーテールの朱髪を風で揺らしながら馬を駆る姿は敵ながら心惹く光景だった。
しかし、彼女の身に纏う赤き鎧を見て戦場だという事を思い出した彼等は果敢に彼女へ挑むために突撃する。
彼女の様な曲芸は出来ないルチアやマルグリットは空戦から接近戦へと切り替えるスタンスで戦闘を行う。
「パール・ローレンツ!!」
腕に装着されている小型のスピナーが分離し回転を始める。
彼女の合図と共に自動で飛行し、地上を走る騎兵に攻撃を仕掛ける。
「なんのこれしき!!」
一つを弾き、もう一つを伏せて避ける。
しかし、二つのスピナーはまるで磁石に吸い寄せられる様に再び戻ってきた。
「なんと!?」
防いだ攻撃が再び戻ってくることに驚きを隠せない。
慌てて二度目も凌ぐ。だが、スピナーは対象を倒すまで止まらないのか弾いても避けても何度も戻ってくる。
「隙だらけだ!! シュトゥルムスピナー!!」
「なにっ!? ぐあっ!?」
小型スピナーに気を取られているところにルチアが両脇にある大型スピナーを回転させながら突撃して相手を馬上より吹き飛ばした。
「あたしとミョルニルの力……見せてやるぜ!! ミョルニル、ツェアシュラーゲンフォルム!!」
[Je,My Prinzessin. Over Limits,LevelⅠ!!]
鎖付きの鉄球にミョルニルを変える。
武器の形態を変えたプレセアに警戒を示しながらも近衛兵は馬を駆り槍を片手に突撃する。
「何が来ようと……我らが進撃を止める事は出来ぬ!!」
三方向に分かれ、挟撃を仕掛けようと動く。
三名の騎兵の動きを目で追ってから彼女はその場で回転を始める。
回転に合わせて鎖が動き、続いて鉄球が回り始める。
「牙城撃砕!! エアーデファウスト!!」
軸足を地面にしっかり縫い付けて全力のフルスイング。
遠心力に従い、鉄球は彼女の周囲を空気を慄かせながら回った。
「なんだと!?」
「あの小柄な身体から、何処にそんな力が!?」
驚愕の表情を浮かべる。迂闊に接近し過ぎた所為で三人とも攻撃の射程範囲内。
馬首を変えようにも間に合わない。防ごうと彼等は魔術障壁を展開する。
しかし、強固と称された彼等の守りは鉄球の一撃を防げず砕けた。
直後に馬上の彼等を狙った正確な鉄球攻撃が直撃。三名を馬上より攫う鉄球をプレセアは身を捻って軌道を修正、全力で地面に叩き下ろした。
「『破城の騎士』なめんな。テメーらの守りなんかほのかよりも破り易いんだよ」
「つ、強い……」
「将軍……申し訳ありません」
最後にその言葉を残して鉄球の下敷きにされた兵士三名は気を失う。
「うえぇ~!? む、むむむ無理ですよ~~!?」
ガクガクと震えるのはマルグリット。
地上に降りた所で三人の騎馬に囲まれてしまっていた。
「この札付きの娘、他の奴よりも戦意が低いな」
「ならば話が早い。ここから奴らを崩すまで!!」
「こ、怖い……。お、落ち着けマルグリット。こ、これはあかねちゃんを守る戦い。皆を守る戦い。わ、わわ私は騎士なんだから、皆を守らないと」
見るからに強そうな気配を漂わす騎馬隊を前に深呼吸。
気持ちを落ち着かせてお札の張り付いている帽子を被り直す。
「仕留める!!」
一騎が先駆けてマルグリットを狙って突撃。槍を突き出す。
「……しっ!」
自身を狙う槍に素早く反応してナイアスで受け流す。
攻撃を流され、騎馬はそのまま彼女の横を走り去る。
「受け流されたか!?」
「ならばっ!!」
左右から挟撃体勢に入る。これならば防ぎきれまい!!
「ほっ!!」
だが、彼女はナイアスを地面に突き刺すと棒高跳びの要領で上に飛んだ。
槍が空を切り互いに交差する。
避けた彼女はそのまま空中で身を捻り、最初に攻撃を仕掛けて来た一人の頭上を取った。
「水棍必倒!! 水爆壊っ!!」
水の魔力を集中させて振り下ろす。強力な水圧のかかった打撃が隙だらけの彼の頭部に直撃し大量の水を発生させる。
頑丈につくられた鉄の兜が見事にへしゃげて衝撃で脳震盪を起した彼は気を失って馬上より落ちる。
「よくもっ!!」
「氷槍、アイシクルスパインッ!!」
「うぐあっ!?」
突如として降り注ぐ氷塊の雨が二人を襲う。
上空から急降下して怯んだ二人に肉薄するのはグラキエスだ。
「許せ。波紋掌っ!!」
氷の魔力を宿して掌底を打ち込む。魔力の波動が波紋の様に相手の身体に流れ、直後に背中から衝撃が突き抜ける。
胸部を強く圧迫された様な衝撃に一人が気を失い落馬する。
「おのれっ!!」
「伏龍脚!!」
「ごっ!?」
突き出す槍を伏せた後に下方から蹴り上げる。伏した龍がその鎌首を擡げ、食らい付こうとする様な蹴り技が相手の顎を捉えて真上に飛ばす。
後を追う様に飛んだ彼女は相手を追い抜き、回転し落下する。
「鷹爪天落撃!!」
足を上に上げたまま落下し、相手の顔面へ踵落としを打ち込んで蹴り抜く。
地面に強く叩きつけられた相手はそのまま動かなくなった。
「わ~お。強烈な蹴りだね」
「シリウスか……」
空中で椅子に腰かけているようにくつろいでるのはシリウスだった。
その姿にグラキエスは難色を示す。
「少しは戦いに集中したらどうだ?」
「ん~? やってるよ」
「なに?」
眉を動かすグラキエス。その彼女に人差し指を下に向け、見る様に促す。
怪訝な表情でグラキエスは下方を見やる。
すると、そこには白い狐のお面を被った彼とそっくりの人達が戦闘を行っている光景だった。
「俺って、幻術が得意なんだよね~」
声に再び視線を戻すとそこには同様の白いお面を被ったシリウスがいる。
「だから、いま目の前にいる僕は幻体かもしれない。もしかしたら本物かもしれない。くっくっく……!! さあ、誰が本物かな~?」
「シリウスく~~んっ!! こっちちょっとヘルプ~~!?」
「待ってろあかね。いま行くぞーーーッ!!」
声に身を翻しミサイルの如く飛んで行くシリウス。
眼下のシリウス達を見下ろす。……彼女の声に反応なし。
「あかねになにをするだキーーーックッ!!」
「ぎゃあーーー!?」
「……お前が本体ではないか」
――――結論、すぐ分かる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あかねとアシュトンを狙う複数の騎馬隊。
その進行を食い止めようとサヤとアイネが前線に出て戦っていた。
「アシュトン君! うちらが地上におると二人の邪魔になる。飛ぶから掴まってぇな!」
「ダメだよ! あかねちゃんの魔法はこの状況を覆せる力があるんだ。僕のことはいいから空に行って!」
「そしたら、アシュトン君が危ない! そないなこと出来へんって!! それにアシュトン君の魔術だって頼りになるんや。置いていくなんて出来へん!!」
「ドッチでもいいから早くしろーーー!!」
爪による攻撃で地面ごと相手を吹っ飛ばしながら必死の叫びが聞こえる。
いくら彼女が鬼の如き力を持ってても実力のあり尚且つ戦闘能力が高い近衛兵団を相手にするのは限界がある。
喧嘩と殺しは違う。それを痛感する。
「――しまった!?」
遂に一人に突破される。相手は真っ直ぐに二人に向かって突撃していく。
「後方支援と見た!! 撃たれる前に倒すのみ!!」
「あかねちゃんは僕の後ろに!!」
「アシュトン君!!」
「僕は……先輩なんだ。後輩は……絶対に守る!! 吹き荒ぶ風の洗礼!! ウィンドスラッシュ!」
距離的には初級までしか間に合わない。
すぐに彼はウィンドスラッシュによる反撃を開始、緑色の風の刃が複数飛ばされる。
しかし、相手は自身の前に魔術障壁を張り弾く。
「無駄だ!! 初級程度の魔術で我等を止められると思うな!!」
「くっ……!!」
「同じ魔術士でありながら、魔法共和国の人間に与する裏切り者め。ここで始末してくれる!!」
「あかねになにをするだキーーーックッ!!」
「ぎゃあーーー!?」
死角からの飛び蹴り。容赦のない一撃が相手を蹴り飛ばし、馬上より落とす。
そしてアシュトンとあかね、二人の前にシリウスが靴を滑らせながら停止した。
「シリウス君!」
「呼ばれて飛び出て俺参上!!」
「おのれ――「黙って寝てなさい」ぽぐっ!?」
起き上がろうとした所で狐火を投げつけて気絶させる。
「さて、サヤ達の援護に回るよ。分身!!」
白煙が立ち込める。その中から白い狐のお面を被った姿の人達がシリウスの左右に並んで立っていた。
「六道門衆……! 行けぇ!!」
彼の命令に従い、六人が動き出す。素早い動きで前線にいるサヤ達に加勢し、騎兵を相手に戦う。
「いまの内だよ。二人とも!!」
「ありがとうシリウス!! 襲い来るは足掬う大地。絡め取れ、ドラグスワンプ!!」
敵の密集する個所に土色の魔術陣が展開する。
直後、敵の彼等の足場が軟化し沈み始めた。ただ、どういう訳かサヤ達は沈む地面の上に普通に立てた。
恐らく、アシュトンが味方への被弾を避けるための術式を組んだのだろう。
「な、なにぃ!?」
「沈む!?」
重量のある鎧を着て、更に大型の馬に乗っていることもあってその沈む速度は異常に速い。脱け出そうと馬が暴れもがくが、それが更に沈む速度を速める。
「あとは任しときぃ!! 天変を呼ぶ災いの六角形。轟き、討ち滅ぼすは慈愛の雷鳴。天光の抱擁《ウムァルメン・ダス・リヒター》!」
雷雲漂う空に紫色の大規模魔法陣が展開。幾何学の文字の刻まれた六角形が描かれ、ゆっくりと回転を始める。
それは徐々に電気を帯び、中央に魔力が集束、直後に大出力の雷光が解き放たれる。
ドラグ・スワンプにより身動きの取れない兵達に直撃。地面を吹き飛ばすほどの爆発が巻き起こる。
倒れ伏し動かなくなる。魔法ダメージを優先しているので外傷は最小限に抑えられている。
それでも、恐るべき火力を誇る殲滅魔法をまともに受けたのだ。兵達の重鎧は攻撃によって罅割れ、砕けている。
「ちょ、ちょっと火力強過ぎた?」
「死んでないから大丈夫だよ。……たぶん」
ちょっと自信ない。
くらった事ないから……いや、くらいたくない。
「ホーリーシューター、シューット!!」
「ムダだ!!」
無数に放たれる誘導弾。
不規則な軌道を描いて飛んでくる弾幕を軍神バルドゥスは持っているランスで軽々と消し飛ばす。
「これなら……っ!! 絡め取る水流、ツイストカーレント!!」
彼の周囲の地面から渦巻く帯状の水が噴き出て捕縛する。
魔力は込めた。そう簡単には破れないはず!
「笑止!!」
しかし、バルドゥスが全身に魔力を纏うとあっさりとフィリスの捕縛魔法が弾け飛ぶ。
老いてもなお、衰えの見せぬ鋭い眼光がフィリスを竦ませる。
「はあぁぁぁ!!」
そこに真上を取ったリースリットが急降下。大上段からの斬撃を繰り出す。
一閃。防がれる。反撃を警戒して高速移動で相手の眼の前から姿を消した。
「雷属性の魔法士か。速いな……しかしっ!!」
ランスを右に水平に構える。リースリットの攻撃が防がれた。
驚きに目を見開く少女に、彼は瞳を細め淡々と語る。
「速いだけでは……ワシには届かぬぞ」
「くっ……!!」
弾き、素早く神速の刺突を繰り出す。
空気すら穿って飛んでくる穂先に全身の毛が逆立つ。
アクセラレートを発動して、間一髪のところで回避する。
避けたリースリットを目で追うバルドゥス。
だが、迫る大きな気配に視線を外してランスを振るう。
甲高い金属音が鳴り響き、空気が振動する。
「やはり、貴公との戦いはワシの血潮を滾らせるか!!」
「血気盛んな爺だな!!」
バルドの繰り出した重撃を受け止めたバルドゥスが浅い笑みを浮かべる。
馬上より繰り出す高速の連続突きや一閃。その一撃一撃に重さが乗っている。
その全てを捌き、受けるバルドも反撃は忘れていない。
闇の炎を宿したケルベロスを袈裟懸け、逆袈裟懸け、下段中段上段と多彩な攻撃を仕掛ける。
ランスを巧みに動かして彼の攻撃を防御、互いに隙のない攻防が繰り広げられる。
[オイオイ相棒。気合い入れねえと押し負けるぜ~。ウヒャヒャヒャ!!]
「だったら、少し黙ってろっての!」
[いや~、そう言ってられねえって。流石は『軍神』って言われるだけあるぜ~。人間にしちゃ、化物級だなウヒャヒャヒャ!!]
「受けてみよ!! 騎戦槍!!」
一歩退いてからの爆発的加速による突撃。ガードしたバルドが軽々と弾き飛ばされる。
地面を削って止まる。
「なら、お返しだ!! 獄炎剣!!」
闇の炎を纏わせたケルベロスを地面に叩きつける。
バルドゥス正面の地面が爆ぜ、地獄の業火が爆風となって襲い来る。
風圧に負けて愛馬が若干押し下げられる。
「フィリスちゃん、リースリットちゃん。ここは遠距離魔法で一気に!!」
「うんっ!!」
「ん……」
「むっ……!? 上か!?」
見上げる彼の眼に映ったのは、三色の光。
桜、水色、金の魔法陣だ。
「「「三位一体!! トライデント、シューーーット!!」」」
三属性の魔力弾が一斉に放たれる。
一点集中で放たれたそれは、交わったと思った瞬間に弾けて三方向に分かれて同時にバルドゥスに殺到し大爆発を起こした。
「やった!!」
手応えあり。いまのは直撃した。
「……ちょっと待ってほのか」
「ふえ?」
「まだ……終わってない」
リースリットの眼がスッと鋭くなる。
舞い散る砂塵が風圧で吹き飛び、中から無傷のバルドゥスが姿を見せた。
「幾多の戦場にて、幾多の強敵を退けし勝利の御旗よここに……エースガードッ!!」
青白い光が彼の身を包む。そこから迸る圧倒的な魔力に気圧される。
「うそ!? 受けきったの!?」
「三属性の同時攻撃を受けてもダメージがないなんて……」
「……っ!!」
「リースリットちゃん!」
リースリットが動き出す。迷いのない突撃にバルドゥスはランスを構える。
「レイジング……スマッシュ!!」
真っ向からフォルテを叩きつける。青白い光と金の光が激突。
行き場を失った力同士が周囲へ拡散した。
「まだまだ……青い果実!!」
「あっ!?」
だが、それも一瞬。ランスの穂先で受け止めた彼女の魔力刃を軽々と弾き、フォルテを手より宙に飛ばした。
身を守る手段を失った彼女に一度退いたランスが再度放たれる。
だが、それが彼女の透き通るような柔肌を傷つける前にバルドが割り込んで一撃を受け止めた。
――――今度は、押し返されない。
「むっ……。流石は『煉獄の魔剣士』。よくぞいまの攻撃を防いだ」
「リースリット、前に出過ぎだ。つかず離れずを意識して戦え」
無理な特攻を仕掛けた彼女を軽く窘めてから改めて相手との戦闘に意識を集中する。
《にしても……『エースガード』か》
《確か、戦時中に使った奴さんの最強の魔術だっけか~? 発動中はあらゆる攻撃を無効化、大幅カットする超強力防御系魔術。『バリア貫通』も突破できなかったって聞いたな。事実上最強の防御魔術ってかウヒャヒャヒャ!!》
《……面倒くせえ》
念話でやり取りし気だるそうな顔になる。
『エースガード』はバルドゥスの使用する彼専用の超強力な防御系魔術だ。
補助効果系の魔術の中では最強クラスの分類に入る。
発動後一定時間は敵からのあらゆる攻撃を大幅カット、または無効化する力を持っており過去の大戦では配下の兵にもかけ、共和国に大打撃を与えた。
仲間にかけられることもできるが、それは極小範囲の中だけで、いまは兵達がバラけているから効果は自身だけだろう。
だが、それだけでもかなり厄介だ。バリア貫通も効かないとなると、守りを突破するには恐らく純粋な魔法攻撃……それも超高密度に圧縮した砲撃または範囲系の攻撃魔法しかない。
脳裏に宿るはほのかの放った超極太集束砲撃。
だが、彼は頭を振ってその考えを消した。あれは多用してはいけない。
使ったあと、ほのかは暫く飛行すら出来ない状態になったのだ。
使用するとなると、大きな負担が彼女に掛かってしまう。
(結果的に……あいつの魔術効果が切れるまで俺がなんとかするしかないな)
向こうの魔力にもよるが、そう長くは使えない筈だ。
騎馬はスピードが命。圧倒的速さで敵を蹂躙し、後方の歩兵の為の道を作る。
速く戦場を駆け抜けるのにそこまで長い時間維持する必要はない。
だとすれば、エースガードもそこまで長くは発動しない筈。
予想するに、だいたい三分!!
三分もあれば、鉄壁の守りを維持しつつ敵陣を内側から喰い破ることが出来る。
いまのバルドゥスの実力を当時と重ね合わせて計算した結果。そこに行きついた。
「俺に出来る事……。それは、ほのか達を守ることだ!!」
「むうっ!?」
闇の魔力が溢れだし、オーラの様に纏う。彼の背後でオーラが波打ち、姿形を変える。
炎になったかと思えば、蛇となり真紅の目と鋭い牙を見せて咆哮する。
闘気が空気を振動させてビリビリと痺れる感覚が伝わってくる。
(これ程の殺気……。いつ以来か……!!)
金の瞳が光る。
―――――来るっ!!
ランスを水平にする。黒き閃光が金の残光を残しながら飛び掛かって来た。
振り下ろされるケルベロスの一撃。バルドゥスの跨る馬が立つ場所を中心に地面が陥没した。
「ぬぅっ!? これほどの重撃を出すとは!?」
「もういっちょ行くぞ!!」
[ヒャッハーー!! 叩き潰してやんよーーっ!!]
相手の得物を舐めるように滑らせてその場で一回転し冷酷な狩人の如く追撃を入れる。
ランスに先の攻撃以上の荷重が加わる。更に地面が沈み、亀裂が生まれ隆起する。
「いま暫し耐えよ。我が愛馬ガリューよ!!」
黄金の毛並みを持つガリューが鼻息を荒くする。目には戦う闘志が爛々(らんらん)と輝いており地面に埋まった足を一本、また一本と地上へ出す。
後ろ足に力を溜めて、バルドの重撃に負けじと反撃。驚異的な脚力でバルドの超荷重攻撃を踏ん張り耐えている。
「ちっ……馬の方も規格外かよ」
「おおおぉぉぉぉっ!!」
雄叫びを上げてバルドゥスがケルベロスを押し返し弾いた。
拮抗が破れ、後方に飛ばされ地上に着地。
そこに愛馬ガリューが驚異的な脚力で一気に接近する。
横に身を投げ出す形でバルドゥスのランスを避ける。
かわされた彼はしかし冷静に馬首を切り替えし、再度突撃する。
通り抜けざまに繰り出される攻撃にケルベロスを当て、ランスの穂先を外に逸らし攻撃をかわす。
「大した男よ……。このワシをこうも楽しませてくれるとはな!!」
高ぶる高揚感が何処までも上昇する。
こんなに楽しいと思った戦いはあの大戦を思い出させてくれる。
「だが、これで終わりだ!!」
「………」
爆発的加速で突撃を開始する。
空気を穿ちながら神速の一撃がバルド目掛けて打ち出された。
取った!! そう確信を覚えた。
迫る穂先を前にバルドの目に光が灯る。
瞬間、バルドゥスは己が深追いをしていた事に気が付いた。
「タイム……アウトだ」
自身の纏っていた青白いオーラが消える。
(しまった……!! エースガードの限界時間か!?)
何時もなら気付く筈の限界時間がすぎたと直感する。
戦いに夢中になって気付けなったか!?
犯す筈のないミスを犯した事を僅かな時間で悟った。
(この男……。時間を稼ぐためにわざと……!?)
いまになって相手の思惑を見破るが、もう遅い。刺突が首を傾けることで紙一重で避けられる。
相手の大剣がランスの表面を撫でる形で自身を両断せんと伸びて来た。
「ぬおおぉぉぉ!!」
老いた身体に鞭を打って体を横に倒す。交差する両者の影。
その選択が生死を分けた。バルドの刃は避けた彼の上を通り過ぎ、僅かに右肩の鎧を掻っ攫う形で振り切られた。
「ちっ……避けられたか」
舌打ちするバルドの直ぐ脇に斬り落とした鎧の一部が落ちる。
重い音と共に地面に沈んだ。
「将軍!」
「いかん。将軍が危ない!!」
ほのか達と交戦中だった兵士達が気付く。
その時、彼等の間を一陣の風が駆け抜けていった。
一進一退の攻防を繰り広げる両者。だが、その均衡は徐々に崩れ始めていた。
バルドゥスの槍に重さがのらなくなってきたのだ。
超重量の一撃を繰り出すバルドの一撃を受け続けた所為で手の握力に限界が近づいていた。
(あの大剣……。見た目以上の重さを持っているか……!!)
ケルベロスは見た目は身の丈よりも大きな剣と見えるが、とてもあのサイズの武器の持つ重量ではない。
むしろ、彼の持っている剣は乗用車や大型トラック並みと思った方がいいのかもしれない。
それほどの重量が腕力と重力を合わせて繰り出されて来るのだ。
とてもではないが、いくら軍神と呼ばれた彼でも受ける回数に限界があった。
(鍛えなおさねばならないな……!!)
己の未熟さをこの歳になっても感じる事になるとは思ってもみなかった。
その点に関しては彼に感謝するべきだろう。
ランスが弾かれ宙を舞う。
「しまった……!?」
己の得物が空高く舞い上がる光景に目を見開く。
バルドの大剣が無防備な状態の彼へと伸びていく。
自らが無骨な大剣に寸断される未来の光景が脳裏を駆け抜けた。
――だが、それは突然聞こえた馬の嘶きで消える事となる。
側面から姿を見せたのは、黒毛の軍馬に乗る鉤鎌刀を持った桃髪のショートカットの小柄な少女だった。
「なっ!?」
「人馬一体……秘奥義オーディン、ストライクーーーーッ!!」
突撃してきた少女と軍馬の身を赤色の光が包み込む。
閃光となり突進する少女の攻撃がバルドを強襲し撥ね飛ばした。
ほのか達の間で時が止まる。
信じられない光景を見たほのかが目を見開き、思考を停止させる。
徐々にそれが現実として脳が受け入れ始め――――
「いやあぁぁぁ!! バルドさーーーんっ!!」
地面に倒れ、動かなくなるバルドを目の当たりにしたほのかの悲鳴が戦いの場に響き渡った。
背を向けて軍馬と共にいる少女は手綱を引き、停止。鉤鎌刀の刃を下ろす。
馬上に跨るのは小柄でストレートの桃色の髪に澄みきった蒼眼の幼い顔立ちの少女。不釣り合いな重厚な鎧に両肩に龍の頭部を模した金の肩当て。
フリルの付いたスカートに装甲板が備えられており頭部にも王冠に似た兜を被って、高尚な羽毛か、青い鮮やかな色彩の尾長鳥の尾羽が付けられている。
「……勝者は、ただ一人だ」
「白蓮!? なぜそなたがここにいる!?」
その少女、白蓮の姿にバルドゥスは驚きの声を上げる。
彼女には王の護衛を任せた筈である。その彼女がここにいる事に疑問の意を伝える。
「閣下の御意志です。バルドゥス将軍と合流せよと……」
クロス王国国王『アガレス・ラ・ドヴァーキン』。
自らの王の命とあっては二の句も告げられない。むぅっと唸って口を閉ざした。
「バルドゥス将軍、道中で偵察隊がSCCAの動きを捉えました。どうやら異変に気付いた様です。急いで撤退を―――」
刹那……。
背を向けていたほのか達のいる方角から二つの大きな魔力が放たれているのを肌で感じ取る。
「ウィル!! オーバーリミッツッ!!」
「フォルテ、オーバーリミッツッ!!!」
[[Over Limits LevelⅠッ!!!]]
ブレイブモードとデュアルザンバーフォームに切り替わった二人からそれは放たれていた。
かつてない怒りの炎を瞳に宿し、その気持ちを刃に載せている。
「バルドさんに……なにするのっ!!」
「許さない……。許さないっ!!」
魔力槍を展開したウィルのブースターが爆発する。
普段の数段上をいくだろう加速が起きる。同時にリースリットもナイトチャージを発動し、二人が閃光となって白蓮に向かって突撃する。
「「ホーリーー……ラーーーンスッ(レイジング……スマーーッシュッ!!)」」
二人の近接攻撃が繰り出される。
ゆっくりと振り返る白蓮。迫りくる攻撃に対してその表情に焦りの色は見受けられない。
そして――――
「……」
無言の一閃。
刹那、二人を剣圧が衝撃波となって襲いかかり、軽々と吹き飛ばした。
「きゃあっ!?」
「くうっ!?」
いとも容易く吹き飛ばされた二人が地面を撥ね転がり、倒れているバルドの前で止まる。
「覇気がないな。私にはそれでは届かない」
抑揚のない言葉で語る白蓮を前に起き上がる二人。
怒りは治まりを見せるどころか更に燃え上がる。地面を踏みしめて再度突撃しようとした。
しかし、それは背後から伸びる手によって止められた。
二人の抱き寄せた者、それは倒れていたはずのバルドだった。
「バルドさん……!?」
「はぁ……はぁ……」
呼吸が荒く、身体からは血の臭いがした。
額から流れる血をそのままに彼女達を腕の中に抱き抱え、右手に持つケルベロスを盾にする様に地面へ突き立てる。
あの一瞬で直撃を避けられた。それに気付いた白蓮が驚いたような表情を作る。
だが、それはすぐに消えて表情を引き締める。
「バルドゥス将軍を追い詰めるほどの強者、生かしておく訳にはいかない。ここで仕留める。いくぞ、黒隼」
彼女の言葉に応える様に軍馬が嘶く。
地面を蹴り、砂を巻き上げながら白蓮を乗せた軍馬が突撃してくる。
それを前に、バルドは二人を腕に抱えたまま蛇の様な鋭い眼つきで相手を睨んでいるだけ。
あと少しで、白蓮の鉤鎌刀が射程圏内に入ろうとした時、彼のケルベロスを持つ手が僅かに動く。
それが行動として移されるまさにその瞬間だった。
横合いから朱槍が弾丸となって飛んで来たのだ。慌てて黒隼を止める白蓮は飛んで来た朱槍を弾き飛ばす。
弧を描いて落ちる朱槍ルーンを軍馬の上に立って掴んだのはユグドラだった。
彼女は軍馬の背を蹴り跳躍、白蓮の頭上を取る。
「紅蓮剣!!」
ルーンを待機状態へ戻し、カラドヴォルグを取り出して上段から叩きつける。
鉤鎌刀を水平にして柄で受ける。爆発が起きて白蓮が軍馬と共にバルドゥスの方へと押し飛ばされる。
「三人はやらせん!」
朱髪のポニーテールを風に揺らし、二人の前に立ち塞がる。
剣からは赤々と燃える炎が滾り、彼女の魔力が全身からオーラの様に出ていた。
ユグドラと見合う白蓮。その彼女に主を失った軍馬が駆けてきて止まる。
「借りた馬は返すぞ。もう、必要ないからな」
彼女の駆け抜けただろう場所に視線を送る。
そこには、バルドゥスが率いていた近衛兵達が皆、地面に転がり蹲っている光景だった。
彼等はバルドゥスが育てた精強な者達だ。その彼等がああもなったという事は目の前の朱髪の女性は相当の腕を持っているだろう。
その彼女の周囲にフィリスやあかね、他の仲間達も駆け付けてバルド達を守る様に立ち塞がる。
「白蓮……。もうよい。兵達を連れ、退くぞ」
「御意……」
これ以上の損害は撤退に響く。白蓮に命を下し、引き上げさせる。
彼女が得物を掲げると、周囲から引き連れて来ただろう配下の騎馬隊が姿を見せて負傷者を担ぎ離脱していく。
「……我が名は白蓮。バルドゥス軍副隊長、白蓮だ」
「……我が名はユグドラ。朱槍剣のユグドラだ」
互いに名乗り合ってから視線を交わす。
少しした後、白蓮はバルドゥスの後を追う様に背を向けて走り去っていった。
「行ったか……」
「バルドさん!! バルドさんしっかりして!?」
脅威が去ったところで彼はそう呟いて意識を手放す。
暗くなる意識の中で、最後にほのかとリースリットの泣きそうな顔が映った。
バルドゥス隊を追い詰めるも、増援として着た白蓮隊に強襲によりバルドが戦闘不能に追い込まれる。
辛うじて撃退に成功するが、その代償は大きなものだった。
それでは次回も宜しくお願いします。




