第五十五話 再来の軍神
五十五話更新。
馬の蹄の後を追ってたどり着いたのは古い洞窟だった。
暗き洞窟の奥でほのか達を待っている者とは―――
蹄の足跡を追った先に古びた大きな洞窟がひっそりと佇んでいた。
「足跡はこの奥に行ったみたいだな」
「奥に何かあるのかな?」
暗い洞窟内に足を踏み入れる。薄暗くジメジメとした空気が肌に気持ち悪くまとわりつく。
蝙蝠の鳴き声が不気味に響く中を進むと、彼女達の前に大きな門が待ち構えていた。
「これって……第三都市にある始まりの洞窟と同じものだ!!」
駆け寄って触るフィリスが驚いた表情を浮かべる。同じ紋様に同じ材質……。
紛れもない始まりの洞窟に置かれていたモンスターを閉じ込めていたあの門と同じものだった。
「でも、属性の配置が違う。これは、雷属性に特化した配置になってる! すごい、こんなことも出来たんだ!?」
[フィリス。この先にニーベルンゲルゲンの反応を感知しました]
どうやら、次なる欠片はこの奥にいる様だ。
「『魔法障壁 サンクチュアリ』か。懐かしいな」
ポツリと呟いたのはアイネだった。それに一同は振り返る。
「アイネ、この門の事を知ってるの!?」
「ああ。我々の時代、古代インペリア時代にも使用された耐魔導兵器用の障壁だ。この工法は市民の避難用に作られたものだな」
「そうなのか?」
「私は思い出せないのです~……」
アイネを除くインペリアの騎士達は分からなかったのか首を傾げる。
それに対してアイネがフォローを入れてくれた。
「もう昔のことだ。覚えているのも無理ないだろ」
「……なあ、ずっと気になってたんだけどよ」
それまで黙っていたプレセアが口を開く。
「アタシ達は古代インペリア人なのに、その頃の記憶がないのはなんでだ?」
「えっ!? プレセア、昔の記憶ないんか!?」
「ないっていうより、なんかこう……ぼんやりと靄の掛かった感じでよ。自分が誰で何をしていたのかは覚えてんだけど……他が思い出せないんだ」
驚くあかねに首を傾げながら答える。唸りながら記憶の引き出しを開けているのだろう、しかし明確なものがないのかしっくりといかない感じだった。
「アイネは昔の記憶あんだろ? 別に昔のことを教えてくれって言う訳じゃないけどさ、なんでアタシ達は魔導書に入ったんだ?」
彼女の知りたいこと、それは自分達が魔導書で眠っていた訳だった。
あかねに会えたから別に文句がある訳ではない。ただ、せめて理由くらいは知りたいなと思った。
純粋な目で質問してくるプレセア。
それにアイネは――
「……すまない。正確には言う事が出来ない。いや、私自身も目覚めたばかりで記憶が定かじゃない」
解答を濁す形で返して来た。
「ただ、一つ言えるのは……『脅威』から逃れるためだ」
「脅威?」
「ああ、脅威だ。それから逃げる為に魔導書に選ばれた。それしか思い出せないんだ」
アイネ自身もまだ記憶の整理が出来ていないのだろう。答えられる範囲で返事を返して申し訳なさそうに項垂れる。
「そこまででいいか。何時までもここで立ちつくす訳にいかねえんだが」
そこでバルドの声が掛けられ、話はそこで終了した。
「わ、分かってるっての。わりぃアイネ。ちょっと気になっただけだからさ、別に気にすんなって」
「あ、ああ……すまない」
「いいって。覚えてねえアタシ達も悪いんだ」
「しょうがないさ。人は忘れる生き物だし~。俺だってこの前のあかねのパンツの色忘れたし」
「はえぇっ/////!?」
フォローを入れた後のシリウスの予想外のカミングアウト。
ビックリしたあかねが顔を赤くしてスカートを押さえる。
「シリウス……貴様あぁっ!! あ、主あかねのパ、パパパンツを覗くとは何をしてるんだ!!!」
「う~~ん、何時もは忘れないんだけど……瞬き一瞬だったから覚えきれなかった!!」
「そんな事を聞きたいのではない!! くっ、この変態男め! 何時かはやると思っていたが……今日という今日は許さん。成敗してくれる!!」
「あかねに近づく悪い虫は……アタシ達が掃除しないとなあぁぁぁっ!!」
殺気立つ騎士二名。朱色の槍とドリルの切っ先が洞窟内で怪しく光る。
「ちょっ!? 突き系二つはマジでヤバイ! オーバーキルだよ!?」
「貴様は一度、死んだ方がいい……」
「目にハイライトが映ってない!? 本気と書いてガチの眼だ!?」
「火槍一穿、緋閃槍!!」
「ギガドリルブレイクッ!!」
「ぎゃ~~!?」
殺る気全開の騎士に追いかけ回されるシリウス。非常に哀れに思えてくる。
「うぅ……。うち、全然気付けへんかった……//////」
「あ、主。そこまで気負う必要は……」
「そうですよ。パンツだけなら大丈夫ですよ~」
「じゃあ、二人は大丈夫なん?」
「「……すみません(無理ですよ)」」
「裏切られた!?」
「オイ、この門ってのはぶっ壊してもいいのか?」
「き、霧島さん!? 門は壊すものじゃなくて開けるものだよ!?」
「ふむ……。ぬしよ先人はこう言っておった。『開かぬなら、壊してしまえホトトギス』とな」
「……そうなの?」
「はいそこぉっ!! 変な知識をリースリットちゃんに入れるのやめようかーー!?」
「初めて聞くなその名言。ふむ、開かないなら叩き壊してしまえか……確かに理にかなっているな」
「グラキエスさんも少しは冷静に考えてみようか!?」
「斬っ!!」
「どおっ!?」
「突ッ!!」
「ほあっ!?」
「くたばれ、クソ変態やろう!!」
「た~す~け~てくれ!?」
やんややんやと騒ぐ光景……。
話が一向に進まない……。バルドの肩を震わせ始める。
「……そろそろキレてもいいか?」
「バ、バルドさん。お、落ち着いてなの!」
青筋が出始めいつ噴火してもおかしくない状況に!?
マジでキレる五秒前といったところでほのかが慌てて宥めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなこんなで、洞窟から遺跡に入るまでに十五分以上もかかった……。
「まともな面子が増えたと思ったのに……なんで俺はこんなに疲れてるんだろうな?」
[個性豊かで面白いじゃないか~。俺はこっちの方が楽しいぜ~ウヒャヒャヒャ!!]
[心中お察しします]
だいぶ疲れた顔をするバルドにそれぞれの反応を示す相棒達。
最初の頃を思い出すと、ほのかとフィリスがトラブルを呼び込む問題児だったのに――――
気付けば増えてるというこの事実……。
「……結論から言えば、元凶はほのかだな」
「ふえぇっ!? なんかよく分からないけど私のせいになってるの!?」
自分の預かり知らぬ所で、勝手に責任を押し付けられているのにビックリする。
二つの結った髪がピンと上を向いた様に見えたのは疲れているからだろう。
重い溜息を吐く。なんでこうなった。
そう思う時が最近になって増えた気がする。
「……大丈夫?」
「ああ、たぶんな」
「無理……しないでね」
リースリットの気遣いに少しばかり癒される。
無垢な瞳で見上げてくる彼女の頭に彼は手を乗せた。
「そう言ってくれるのはお前だけだよ。サンキュー」
「ん……////」
撫でられて嬉しいのか、何時もの無表情が若干和らいで目を細める。
頬を若干赤くして撫でるのを受け入れている様は、まるで子犬の様である。
「元ぬしの疲れを癒すとは、さすがはわっちのぬしじゃな! わっちも鼻が高い」
「アウルさんと関係ないよね……?」
ない胸張って偉そうにふんぞり返るアウルにアシュトンは聞こえない程度にツッコミを入れておいた。
そのやり取りに苦笑してからほのかとフィリスは遺跡内部を見渡す。
「なんか……始まりの洞窟にあった遺跡に似てるの」
「そうだね大気中にある魔力素が違うだけで、ほとんど同じに見えるね」
二人の感想はそれに尽きた。
始まりの洞窟の中にあった遺跡と似た様な材質の建築物。
ヒカリダケで薄明るい空間。まるで戻って来たような錯覚を覚えた。
「たぶんだが、こういった遺跡は各都市に幾つかあるんじゃないか? 前にも言っただろ。あそこは避難所として活用されていたってよ」
「あ、そっか。避難所が一つしかないって訳ないよね」
あまり聞いたことはないが、きっとほかの地域でも同じ様な遺跡が残されている筈だ。
こうして見つかったのだから、きっと何処かに別の遺跡があるはずである。
「あれ?」
「どうしたのほのか?」
「あれ、なんだろ……」
道の真ん中に見える奇妙な物体に気付いたほのかが近づく。
他の者も続いてそれを確認する。
四方を剣を掲げた銅像が立つ場所の中央。
彼女達の前にある物体――――それはドクロマークの描かれた赤い四角いスイッチだった。
「……押さない方がいいよね」
「そ、そうだね。見るからに……ね」
「あやしいな」
押すなよ。絶対に押すなよ!! 押したらどうなるか分かるだろ!? だから絶対に押すなよ!!
そんな空気を醸し出しているスイッチに何となく押したらどうなるか予想できる。
「とりあえず、これは無視して先に――――」
「……なに、これ?」
―――――ポチッ……
……………………
………………
…………
………
「ええぇぇぇぇ!?」
「おまっ!? 何しやがるリースリット!?」
「……なに?」
あれほど押すなよとスイッチ自体が語っていたのにも関わらず押しやがったよこの子。
驚愕の表情を浮かべる面々を見て、何がどうしたと言っている様にキョトンとした顔をして首を傾げる。
四方にいる剣を掲げた石像の剣の切っ先から稲妻がバチバチと出て来た。
「やばっ……!! みんな、高いものの下に隠れろ!!」
反射的に危機を察知したシリウスの言葉に、ほのか達は本能的に高いものの下にしゃがんだ。
―――――バルドの周りに……
「は!?」
直後に落雷が落ちる。
無論……バルドに……。
「ギリギリっ……セーフ!!」
「にゃあ~~~!? バルドさ~~ん!?」
伏せた後になって気付いたほのかが悲鳴を上げる。
プスプスと煙を立ててるさまはなんともシュールだった。
「皆も雷が来たら高いものの下に逃げようね。でも、あまり近過ぎても危険だから少し離れる様にね。お兄さんとの約束だよ!」
「……その前に、俺に対して何か言う事があるんじゃねえかシリウス」
黒焦げのバルドが睨んで来る。金色に光る鋭い瞳が不気味さを一層深めていた。
それにシリウスは引き攣った表情になった。
「あ~~……。何時も黒い服装だけど、今日は一段と黒いね!!」
「消えろ、ボケ狐!!」
「ぎゃ~~~!?」
怒りの臨界点を突破したバルドの渾身の一撃が炸裂する。
効果は抜群だ! 急所に当たった!! シリウスは倒れた。
「人を避雷針代わりにすんじゃねえっての」
「……だって、あんなの防ぎようないじゃないかー……」
彼の言い分も尤もだが、だからといって人を避雷針にするとはいったいどういう了見なのだろうかである。
地面に突っ伏すシリウスの頭には大きなタンコブが出来ていて煙が上がっていた。
「……大丈夫?」
「ああ、丈夫なのが取り柄だからな」
ってか、落雷くらって生きてる方が驚きなのだが……。
「それよりも……」
リースリットの視線に合わせて膝を折り、両手を伸ばす。
その手が摘まんだのは……彼女の柔らかな頬だった。
「……ほえ?」
「あからさまなトラップを押すんじゃねーー!!」
「~~~~っ!?!?」
ぐにーーっと引っ張る。
突然の攻撃にリースリットはあたふたするだけ。痛みを体で示す様に両手をブンブンと上下に振る。
「見りゃわかるだろ!! 押すなよ。絶対に押すなよって言ってたような!?」
「ふ、ふいっひぃは、はへらなひほ~~!?(訳:ス、スイッチは、しゃべらないよ~~!?)」
「アホ! そっちじゃねえ、雰囲気だよ!!」
あのほのかですら分かった分かり易いスイッチだったのに……なぜこの子は気付かないんだ!?
「ふえっ!? 遠まわしにバカにされた!?」
「うん、そう思ってもいいかもね……」
「お前は、まともな奴だと思ってたのに……お前もか!?」
「っ??!?」
バルドのいままでの苦労を知らない彼女は目を白黒させるだけ。
「次からは気をつけろよ!? スイッチは押すなよ!」
「こくこくこくっ!!」
返事が出来ないので頷くことで返事を返す。
それにやっと彼は手を離す。ジンジンとする頬を手で揉み解して痛みを和らげる。
「痛い……」
「痛くしてんだ、当たり前だ」
むぅ~っと頬を膨らませて不服そうな表情を見せるリースリット。
それにバルドの方は頭を抱え、深いため息を吐く。
(あの時そうだと思ったけど……ここまで酷い天然娘だと思わなかった)
第六都市の風呂場での出来事を思い出し、その天然ぶりに驚くを飛び越して溜息が出て来た。
これは……迂闊にスイッチとかある場所は気を付けないとヤバいかもしれない。
見えてくる未来予想図に軽く戦慄を覚えたバルドだった。
(とにかく、こいつから目を離すとロクでもねえ事態が待ってそうな――)
「……なにこれ?」
――クイ……
「って、おおおぉぉいぃぃぃぃぃ!!」
言った傍からこれである。
天井から吊るされていた紐を引っ張りました。
四方にいた剣を持った石像から重い音が聞こえる。
いや~な予感がしてほのか達は振り返ると……。
そこには台座から自らの足で降りて自らにゆっくりと接近してくる姿があった。
「スタチュー!? これ人造モンスターだよ!?」
[スタチュー。Cランクの無属性モンスターです。主に防衛目的で造られた人造型モンスターです]
「外敵を排除するようにシステムが組まれてるのか!!」
「ならば、倒すしかない!!」
得物を構えるスタチュー。ほのか達を認めた途端にロックオン。
ターゲットと認定し、足を踏み込んだ。
そして、次の瞬間。石像とは思えない速さで突撃してきたではないか。
石剣が叩きつけられる。ギリギリ避けたほのか達は相手の異常な速さに驚く。
「はやっ!?」
[スタチューは、土地の魔力素に応じてスキルを持ってます。雷の土地ですから『電瞬』のスキルを持っています]
「そういうのは早く言おうか!?」
「あれっ!? そういえばバルドさんは!?」
避けた面子の中にいない。まさか―――!?
スタチューの振り下ろした剣の下を見る。
四方から叩きつけられた石剣をケルベロス一本で受け止めて仁王立ちしているバルドがそこにいた。
砂煙が舞い、俯いていてその表情はよく見えない。
「…………ッ!!」
その顔がゆっくりと上がる。
――――――青筋立てた憤怒の形相を浮かべる阿修羅が、そこにいた。
「「ガクガクガクガク(((゜Д゜|||;)))!!」」
「一々……鬱陶しいんじゃテメーら!!!」
全身から闇の炎を全開にしてケルベロスを振る。
石剣が一振りで木端微塵に吹き飛んだ。
「地顎崩襲撃っ!!」
左手にバハムートを呼びだして地面に全力で叩きつける。
彼を中心に地面が蜘蛛の巣状に割れ、隆起する。足場が崩れ、浮き上がるのに石像達はバランスを崩して仰向けに倒れる。
「煉獄の焔よ。地に伏す愚かなる贄を喰い尽くせ!! ダークサイド・ヘルゲート!!」
闇属性上級魔術が発動。
バルドを中心に闇色の大型魔術陣が展開。頭上の空間が割れて禍々しい闇の世界が広がる。
その中から四頭の黒き身体の炎の蛇が飛び出し、真下にいるスタチュー達へ大口を開けて襲いかかる。
相手の腹を喰らい尽くし、魔術陣の中に消える蛇。
今度は魔術陣が瓦解して足下の空間が砕け散る。落ちるスタチューの下方に見える真紅の双眸。
飛びだしたのは先の四頭よりも大きな闇の蛇。スタチュー四体を丸呑みにして空間に消え、遅れて煉獄の炎がそこから噴き出した。
壊れた空間がピースを填める様に戻る。
全て填め終わった頃には静寂が戻っていた。
「……ふぅ~、だいぶスッとしたぜ」
[何時もの倍の出力だね、相棒。ウヒャヒャヒャ!!]
[明らかなオーバーキルでしたね]
溜めこんでいたストレスをいまの一撃の込めたのだろう……。
一息吐いたバルドが般若の形相から晴れやかな顔に戻った。
「モンスターも片付いたことだし……先行くぞ。……如何した、お前ら?」
「「「……ごめんなさいでした」」」
「は?」
とりあえず、謝っておくほのか達だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなこんなで先を進んで、足跡を追って進んだ彼女達は祭壇の間の前まで辿り着いた。
「祭壇の間まで来るなんてな」
「足跡はこの奥に進んでるね」
馬の足跡と思われる痕跡はこの扉の先に続いている。
そして、扉を通して伝わってくるのは大きな気配。それに守護騎士達は警戒の色を強める。
「バルド、この先に何がいる? 扉の向こうからただならぬ気配を感じるぞ。」
「俺の予想がただしかったら……すげー面倒くせえ奴らがいる」
「お前ほどの男がめんどくさがるほどか……。ふっ、どの様な兵がいるか少し楽しみだな」
「戦闘狂が」
強敵に出会えると思ったのかユグドラが笑みを深めてカラドヴォルグに手を掛ける。
そんな彼女の姿を見て肩を竦めてから、後ろにいる仲間達を見まわす。
目で準備はいいかと送ると、全員が頷いて返した。
「それじゃ……いくぜ!!」
扉を蹴り開けて中に全員で駆けこむ。
淡く光る祭壇が彼女達を待っており、その祭壇の前には先客がいた。
「将軍!」
「分かっておる。先から扉の前に居ったからな」
立派な重鎧を着こむ兵士達。その両肩には黄金の馬とそれに跨る槍兵の姿を描いた紋章がある。
彼等の振り返った先にいたのは、いつぞやに刃を交わしたあの人物だった。
「再び会い見えるとは……思ってもみなかったぞ」
「俺としては二度と会いたくなかったがな……軍神!」
古びた重鎧に片方の角が折れた兜。
老いているはずなのにそれを思わせない筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の体と生気に満ちた鋭い瞳。
魔術大国で名を馳せた『軍神 バルドゥス』。
「バルド。奴は何者だ?」
「……バルドゥス。魔術大国にいる別名『軍神』って呼ばれる面倒な奴だ」
彼の事を知らない守護騎士達に簡単にだが説明を入れる。
軍神……。なるほど、言われて納得した。確かに目の前の老人はただならぬ気配を放っている。
同じ武人としての血と本能が語っていた。
ただ一人、プレセアは彼等が遺跡の中でも馬に乗ってることが気になった様で―――
「こんな遺跡の中でも馬に乗ってるとか……。あいつらバカじゃねえの?」
「我らは戦場では馬は降りぬ!!」
「我らは何時如何なる時も、戦いの場では愛馬から降りはしない!!」
プレセアの御尤もなツッコミに対して過剰に反応する近衛兵団の皆さん。
「我々の崇高な意志を分からぬ愚か者め!?」
「子供は黙っていろ!!」
「なっ!? アタシは大人だ!! こう見えても十八なんだぞ!!」
(子供じゃねえか……)
ガルルと牙をだし顔を真っ赤にさせて怒りの表情を見せる。
まあ、初見の人にプレセアが女性であることが分かる訳がないのだが……。
二十歳じゃない時点で子供は子供の様な気がする。
呆れた顔してそんなツッコミを心の中でしたあとで、バルドは表情を引き締め直し再びバルドゥスを注視する。
彼の左手にあるもの――――紫色に光る欠片が目に留まった。
同様にほのかも気付いたのだろう。指を指して欠片を示した。
「バルドさん! あの人、欠片を持ってるの!!」
「先を越されたな」
「……そうか。おぬし達もこれを狙っていたのか。しかしっ!! これは渡さぬ。総員、構え!!」
バルドゥスが先頭に立ち、槍を構えると他の兵士達も一斉に槍を構えて姿勢を落とした。
「全軍突撃! ワシに続け!!」
バルドゥス隊が一斉に駆け出す。
真っ直ぐにこちらに突っ込んで来る彼等にバルドは急いで仲間達に指示を飛ばした。
「散れ!!」
その場より飛び退く。ここは狭過ぎる。突進力のある騎馬隊に対して正面からぶつかるのは危険すぎる。
だから彼はその場から彼女達を退かせたのだ。
そのままバルドゥス率いる部隊は正面の扉を破壊して祭壇の間より離脱する。
「逃げた!?」
「追いかけるぞ!! 国境まで逃げられたら手が出せなくなるぞ!!」
「う、うんっ!!」
急ぎ後を追いかける。
悪路の筈なのにバルドゥス隊は一糸乱れず、一定の速さで走っていた。
その後をほのか達も空を飛び、追従する。
瓦礫を飛び越え、騒ぎを聞きつけ集まり始めたモンスターを持っている槍で蹴散らし、バルドゥス隊は出口を目指す。
ほのか達も障害物を縫う様に避け、襲い来るモンスター達を魔力弾を当てて撃墜し追いかける。
「逃がさないよ!! アクアスパイク、シューット!!」
フィリスが牽制の意味も兼ねて魔力矢を飛ばす。
放たれた矢は途中で複数に分かれ、弾幕となってバルドゥス隊に襲い来る。
「後衛、防御魔術展開!! 続いて炸裂弾投擲!!」
「はっ!!」
フィリスの魔力弾を最後尾にいた数名が魔術障壁を張って防御する。
更に続けてポーチよりカプセル状の物体を取り出すとそれを放り投げて来た。
ほのか達が接近してきた所でカプセルが爆発を起こす。
「くうっ!?」
次々に飛んでくる爆弾を避ける。
一つ一つの爆発力は低いものの、数が多い。無理だと思ったものは魔力弾を当て破壊して進む。
「炸裂弾、残数ゼロ!!」
「十分だ! もうじき外に出るぞ!!」
洞窟から脱出するバルドゥス隊。
その少し後にほのか達も続いて洞窟より脱出した。
「逃がさない……!!」
狭い空間より解放されたリースリットが動き出す。
得意の高速移動で空を駆け、バルドゥス隊の頭上を取った。
「貫け、サンダースピア。ファイヤー!!」
幾つもの雷槍を展開して地上に向けて発射。
バルドゥス隊の進行方向の地面に着弾して爆発を起こす。
「むぅっ!?」
停止の合図を出し、止まる。砂塵が晴れ、彼等の進行先の地面に凹凸が出来ている。
初めから狙いは彼等ではなく地面だった様だ。これでは先の速度で駆け抜けるのは無理だ。
(さすがに、空を自由に飛べる飛行魔法士を振り切るのは難しいか!!)
バルドゥス隊の前にリースリットが降りる。
フォルテの切っ先を相手に向け、眼を鋭くさせて警告を発する。
「それを渡して……断るなら、斬る……」
「幼きながらもその闘志や天晴れ。しかし、これはそなた達に渡す訳にはいかぬ!」
「そう……。なら、倒す……っ!!」
[アクセラレート]
閃光となりリースリットがバルドゥスへ一瞬で距離を詰める。
予想以上にリースリットの速度が速かったのか、配下の兵達は反応が遅れる。
「レイジング、スマッシュッ!!」
雷を纏った斬撃をバルドゥス目掛けて叩きつける。
必殺の間合い。取った、と思った。
「若いな……」
だが、その呟きが聞こえると同時に彼女の一撃はランスで防がれた。
「っ!?」
「騎馬は走らねば弱いとそう思ったか……だが、まだまだ甘いわ!!」
押し返され、体勢が崩れる。その隙を見逃さない。愛馬の目付きが鋭さを増し、後ろ足に力を込め上体が上がった。
「はあっ!!」
爆発的な突進。ランスの一撃が彼女を狙う。咄嗟にフォルテを構えて防御の体勢に入る。
魔力刃の表面を舐めるようにランスが奔り、ギリギリの所を穂先が突き抜ける。
直撃は免れたがしかし、攻撃の衝撃で彼女は軽々と弾き飛ばされて地面を転がった。
「その歳で恐れもせずに挑むは天晴れなり。しかし、ワシには届かんぞ!!」
彼の愛馬が地面を蹴って跳躍。荒れた大地を飛び越えリースリットを狙う。
「ここは戦場! 女子供であろうと容赦はせぬ。許せ、娘よ!!」
頭上から彼女を穿たんと迫るランス。……避けられない!
時間がゆっくりになるような錯覚を覚えた。
「ぬし、危ない!!」
だが、梟の群れが彼女の前に現れ、中からアウルが姿を見せる。
すぐに扇子を広げて防御の体勢に移る。一瞬だけ進行の止まるランス、しかしすぐに拮抗が破れた。
アウルの扇子が荷重の掛かったランスを受けきれずに貫通する。
防御によって軌道の逸れたランスが彼女の左肩を貫いた。
「ぐ……っ!!?」
「アウル!?」
肩から奔る焼ける様な激痛に顔を歪ませる。
脂汗が噴き出てくる。それでも、彼女は悲鳴を上げるどころか凄まじい怒気を放ってバルドゥスを睨み返す。
「っ……わっちの、ぬしに……触れるなあぁぁぁぁ!!」
雄叫びを上げ、全身より魔力を放出する。黒き暴風となって魔力がバルドゥスを襲い、馬ごと彼を吹き飛ばす。
空中に投げだされた彼だがしかし、愛馬は身を捻って体勢を戻して足から着地した。
「将軍、無事ですか!?」
「心配ない。しかし、ワシごと我が愛馬を吹き飛ばすとはなんという娘か!?」
重装備で身を固めているのに軽々と吹き飛ばされた事に驚きを隠せない。
一方、アウルの方は立っていられなくなったのか膝を折って左肩を押さえる。
「アウル!!」
悲鳴に近い声を上げて駆け寄り、鮮血が傷口から噴き出るのに顔を青くする。
ほのか達がやっと追い付いて地上に降り立ち、アウルの怪我に口を押さえた。
「アウルさん!!」
「出血が酷い……!! マルグリット、アルトレーネ!!」
「分かってます!」
「待っててアウル。すぐに治すから!!」
ヒールとアクアリングを同時に使用する。
仲間の回復を二人に任せ、ほのか達は前に立った。
「よくも、我々の仲間を傷つけたな……!!」
「どこぞの騎士だか何だか知らねェが……我を通してまで他人を傷つける奴は許さねェ!!」
ユグドラやサヤが怒気を隠さずに放出。
空気を振動させる様な気迫に、彼の部下達も危険性を感じ取ったのか槍を構える。
一色即発の状態。
その中で、バルドはアウルの傍に膝をつく。
「無事か……?」
「ふっ、ふふ……元ぬしよ。わっちはこの程度では死なぬよ……。そこまで心配せぬでもよい」
苦しそうにしながらも気丈にも笑みを見せるアウル。
それにバルドは返事を返さないで、バハムートを彼女の背後の地面に刺した。
「バハムート。アウルの背もたれになっててくれ。すぐに……片付ける」
[任せて下さい若。アウルさんは私が守ります。存分に暴れて下さい]
「元ぬし……あ奴は強いぞ」
「知ってる。だが――――」
彼女の眼を真っ直ぐに見つめ返して逆に問い返す。
「――それは、俺よりも強いのか?」
「……くふ。そうじゃったな。元ぬしより強い者など居らぬか」
それに彼女はくすりと笑う。
バルドも小さく笑みを浮かべ、彼女の頭をガシガシと少し乱暴に撫でてから立ち上がり背を向ける。
「リースリット……」
静かに彼女の名を呼ぶ。アウルの傍らにいた彼女はビクッと体を震わせ彼を見上げる。
怒られる……。いまは自分の使い魔だが、元は彼にとって大事な使い魔だ。
「もう一人で無茶はするな。お前は一人じゃないだろ?」
「ごめん、なさい……。私の、せいで……」
「次からは気をつけろ。もう、お前の命はお前だけのものじゃないんだ。一つの行動が、お前の大事な者の命を奪うかもしれない。絶対に、忘れるな……!!」
それと―――
「自分の行動を悔やむなら、戦え、強くなれ。もう同じ過ちは繰り返さない様に、強くなれ」
「……うんっ」
滲む涙を拭う。戦う戦士の顔つきになったリースリットはフォルテを再び手にして立ち上がる。
「アウル……。行ってくる」
「元ぬしとぬしに勝利の風が吹かんことを」
バルドの隣に並ぶリースリット。二人の身体から闇と雷の魔力が溢れだす。
「行くぞ、お前ら!!」
「総員戦闘開始!! なんとしても、閣下の下に戻る為に奮起せよ!!」
雄叫びをあげてバルドゥス率いるバルドゥス隊が突撃する。
それにほのか達も飛行し、戦闘を開始した。
自律石像 スタチュー
無属性のCランクモンスター。弱点を持たぬ人工的に開発されたモンスターで主に侵入者を迎撃する目的で置かれている。土地に合わせてスキルを持っておる。ただ武器が石剣と貧弱貧弱。
リースリットに新たに『天然』が付きました。少しずつ彼女も本来の性格を取り戻りし始めている。
その中で現れた軍神バルドゥス。強敵相手にほのか達は欠片を奪取できるか。
それでは今後とも宜しくお願いします。




