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第五十四話 アラガミ平野


五十四話更新。


つかの間の休息を終えたほのか達は外へと再び旅立つ。

モンスターのランクも上がるこの地。その中にある第六都市より離れた場所に平野がある。

そこは、かつてとある作戦が行われた場所でいまもそれはそこにある。




 第六都市の北西に進んだ先に雷の精霊『ヴォルト』が住むとされる『雷の塔』が建っている。

誰が何のために何を目的として建てたのかは不明の古代建造物だ。

建設経緯の記された古い書記が塔内部で発見されるが所々が破けたり虫に食われていた為に解読が現在も進められている。


 昼夜を問わずに落雷が発生しており、長い年月の間、雷を受けていた所為か塔自体も帯電して時折り放電現象が起きる。

唯一、雷から逃れられるのは塔の入り口だけ。

迂闊に塔の窓から侵入しようものなら放電現象に巻き込まれて数万ボルトの高電圧にやられて命の保証はない。


 その雷の塔から南下した場所には広大な平野がある。

魔術大国の国境付近に位置し、大昔に一体のモンスターが暴れて雷の精霊と三日三晩の死闘を繰り広げたとされる『アラガミ平野』である。


まるで、神が荒ぶるかの如き戦いだったことからこの名がつけられたそうだ。


 元は緑豊かな森林があったそうだが、先の記述の様にモンスターと雷の精霊の戦いで全て消し飛んでいまは雑草しか生えない地帯になってしまった。

結果的に雷の精霊が勝った訳だが、戦いの最中に飛び散った膨大な雷の魔力素の影響で第六都市一帯は空を暗雲がほとんどをめ、落雷が多発するような地域へと変貌へんぼうしてしまった。


「っといった過去がある……」


昔話をしていたグラキエスが一息ついた。

自分達の知らなかったこの土地の誕生経緯に一行は聞き入っていた。


「そんな事があってこの平野が出来たんだね」

「ああ、精霊によって起きた環境変化の代表的な事例だ」


 元々は雷の魔力素はこの地にはそこまでなかった。

しかし、戦いによって雷の魔力素が大量に飛び散ったことでヴォルトが管轄かんかつをせねば制御できないレベルにまで達してしまった。結果、ヴォルトはこの場所を永住の地と決めて今も管理しているそうだ。


―――グラキエスの話を聞くに雷の精霊は相当な力を持っているように感じる。


「ヴォルトとはそこまで強力な精霊なのか?」

「そうだな。我々八大精霊の中では三指に入る力の持ち主だ」


雷の精霊の実力の高さ、それは精霊界で三番目に強いという事実にほのか達は驚かされた。


「それって、グラキエスさんよりもなの?」

「私などまだまだだ。雷の精霊に比べれば私など赤子も同然さ」

「そこまで力の差があるなんて……」


同じ精霊という存在でも力の差があることに驚かされる。


「精霊は長く生きればそれだけ力を保有できる。雷の精霊は私が生まれるはるか昔から生きていた」

「どのくらい生きているのだ?」

「そうだな……。単純計算で一万年以上は生きてるだろう」


一万年以上……。想像できない年数にほのか達はポカンとした表情を見せる。


「私は生まれてまだ三千年・・・だ。雷の精霊には遠く及ばない」

「え……」


見た目とは裏腹に、グラキエスはかなりの長寿さんだった。


「一番長寿さんなのは誰なの?」

「そうだな……。最も長命なのは地の精霊と光の精霊だろう。次に雷と風の精霊だな」

「シルフ達が?」

「あのチビ達がかよ。人は見かけによらねェな」


思い浮かぶ四姉妹の姿。あの見た目とは裏腹に彼女達は相当の時間を生きてきたのか。

しかし、彼女達の反応に対してグラキエスは首を横に振って違うと言った。


「いいや。現在の風の精霊は二代目・・・だ。私の言っているのは先代の方だ」

「えっ、シルフさん達は二代目なの!?」

「先代を知らないのか?」

「そんな昔の奴、知ってる訳ねえだろ」


プレセアの返答に同意する。精霊と人とでは時間軸が違い過ぎる。

二代目は知ってても初代など知る訳がない。


しかし―――


「何を言ってるんだ? 先代なら――」

「グラキエス!」

「――そこにいるではないか」

「え?」


アウルの制止の声がかかるも一歩間に合わずに言葉が紡がれる。

グラキエスの視線の先……そちらを見てほのか達は驚きに目を見開く。


視線の先にいたのはリースリットの使い魔……制止の声を掛けたアウル本人だった。


「彼女が初代風の精霊、またの名を『黒風の幽姫 アウル』だ」

「アウルさんが!?」

「アウル……?」


 不思議そうな眼で見上げてくるリースリットにアウルが手で顔をおおって天をあおいだ。

軽くため息を吐いてから再び視線を戻し、グラキエスをとがめるように見る。


「グラキエス……。わっちの事は周知にするなとあれほど言ったじゃろうに!」

「ん? この子達に話してなかったのか?」

「じゃから、口にはするなとあれほど言った筈じゃろう!」


言葉の解釈に相違があったようだ。


「ふむ……。そうだったか、すまない。次からは気を付けよう」

「もう遅いわ!」


まったくもってその通りである。

もはやバレてしまっては隠す意味もない。


「ホントにシルフさんだったの?」

「はぁ……そうじゃ。わっちは元はシルフ。今のシルフの先代に当たる者じゃ」


隠す理由もなくなったアウルは溜息を吐いた後に割とあっさりと肯定こうていの返事を返した。


「あれ? でもおかしいよ。だって精霊って役目を終えたら世界に還るってグラキエス言ってなかった?」

「その通りじゃよ。精霊は役割を終えれば消える。例外はない」

「だったら、どうしてだよ」


簡単なことよ。そう言ってアウルは一瞬にして姿を人からふくろうに変えてバルドの肩にとまった。


「こうして霊化を極力控えておったから消滅に至らなかっただけのこと。あとは元ぬしに拾われて契約をかわして使い魔になったからよ」

「だからバルドさんの事を元ぬしって呼んでたんですか」

「そうじゃ」


アシュトンの質問に頷いて答えてから元の人の姿に戻る。

その後、バルドからリースリットに契約はたくされいまに至った。


「まあこんなものじゃよ」

「アウルの事はよく分かった」

「精霊さんだったなんてビックリしたの」

「うむ。大いに驚くがよい」


扇子を広げ、口元を隠し笑みを浮かべた後に彼女は早々に話を切り上げさせた。


「さて、わっちの話はこれで終わりにしよう。目下の目的を果たそうではないか」

「次の目的地は『アラガミ平野』だ」


バルドの方を向く。そうなのだ。

今回、ほのか達は雷の塔には行かない。次なる目的地はヴォルトによって変えられた土地『アラガミ平野』なのだ。


なぜ彼女達がそこに向かうかというと―――


「ホントに欠片はそこにあるのかな?」

「ある……。あそこに、ニーベルンゲルゲンはある」


秘石ニーベルンゲルゲンの欠片がそこにあるとされるからだ。

情報の提供者はもちろんリースリットだ。


「にしても……アラガミ平野か」

「どうしたバルド。何か気がかりなことでも?」


思わずといった形で呟いたバルドにアイネが怪訝けげんな表情でたずねる。


「いや、あそこは有名な場所だからな」

「ふえ?」

「あっ、そうか。『ダイヤモンドハード討伐作戦』があった場所だったね」

「『ダイヤモンドハード討伐作戦』? なんだよそれ」


 聞き覚えのないものに知らない者達は首を傾げる。

そんな彼女たちにフィリスの首にかけられた十字のネックレス、相棒であるメローが解説を始めた。


[『ダイヤモンドハード討伐作戦』とは二年前にレザーノで起きたモンスター襲撃事件です。Sランクモンスター……最堅超獣さいけんちょうじゅう『ダイヤモンドハード』と呼ばれる巨大モンスターが都市にある鉱石『ヴォルトの羽根』を狙って襲撃してきたんですよ]

[城壁もぶっ壊して入って来て、当時は相当ビビったらしいぜ~。なんせ、第六都市の防衛のかなめ電磁波砲パルスキャノンも歯が立たなかったしな]

[幸いにもSCCAが大部隊を編成して激しい死闘の末に倒したそうです]

「そのダイヤモンドハードが倒されたのが、いまから行く『アラガミ平野』なんだよ」


 そこまで強力なモンスターが近年に存在してたのかと知ってほのか達は関心する。

いまでもモンスターの亡骸は風化せずに残っているらしく、調査の対象として研究が行われているらしい。


「でも、どうしてそんな場所に欠片が?」

「さあな。行ってみれば分かるんじゃねえか」


ここで話していても答えなんて分からない。

現地に行って確認した方が早いだろう。そう言ってバルドは先を歩きだし、それに仲間達も続く事にした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




荒れた大地が広がる平野。雷の魔力素で日夜暗雲が立ち込めるこの土地に不釣り合いな物体が地に伏している。


雷の光で反射して光る身体、まるでダイヤモンドの様な輝く体表。

もはや生きてはいないだろう巨大生物、最堅超獣『ダイヤモンドハード』の亡骸なきがらが大地の中央にあった。


「ふえ~……」

「これがダイヤモンドハードなんかー」


元は二足で歩いていただろうそれ。

地に伏してもなおその巨体は大きく、ほのか達は首を目一杯上げないと頭の上が見えなかった。


「すげェな。ホントにダイヤモンドみたいじゃねェか」

「ふえ~…プレセアちゃんのシュピラールフォームでも突破は難しそうですね~」

「ミョルニルが痛みそうだぜ」


ナイアスで軽く小突いて堅さを実感したマルグリットの発言に、プレセアも同意する。

破城の騎士と言われてた彼女でも、見た目からして堅いと分かったのだろう。


「属性としては『地属性』らしい」

[物理防御と魔法防御に関しては他属性の中でも随一の高さを誇りますから、ダイヤモンドハードは地属性最強の防御力を誇っていたと情報があります]


近代兵器すら弾く体なのだから事実だろう。

こんな生物をよく倒せたと思う。


「この近辺に欠片があるというのか?」

「らしいな」


リースリットの情報ではこの『アラガミ平野』に秘石の欠片は飛来したらしい。

しかし、見渡してもそれらしい姿はおろか魔力反応すら感じ取れない。


「ニーベルンゲルゲンの魔力は感じられないけど……?」

「平野っつってもアラガミ平野は広い」


見渡す限り荒れた大地の広がる土地。

度重なるダイヤモンドハードの行き来があった所為か亡骸なきがらの置かれている場所から都市に向けて直線状に地面がならされている。


「この先にこいつが出て来たんじゃないかって噂のある山があんだ。そこまでがアラガミ平野に入ってる」

「平野なのに山があるのか?」

「アイネの疑問もそうだな。まあ、そこは領土的な問題って考えてくれ」


第六都市は『魔術大国の国境』に最も近い地域。バルドの言わんとしている意味を理解したのか納得のいった風にアイネは静かに頷いた。


その後も周囲を散策するがそれらしい反応はキャッチできなかった。


「この辺りにはなさそうだな。別の所を探すか」

「これは、長丁場ながちょうばになりそうだな」


時間が掛かりそうな予感がして思わず口から感想がこぼれる。

別の地点を探そうと一行はダイヤモンドハード撃破地点から離れようとした。


「あれ? ちょっと待って」

「ん? どうしたアシュトン」


何かに気付いたアシュトンがダイヤモンドハードの亡骸なきがらに近づいてしゃがんだ。

彼の隣に並んで視線の先をバルドも確認する。


「これって、足跡だよね?」

ひづめか……。形からして馬だな」


馬のひづめだった。それも一つではない。数からして複数頭、全てが大型種の様だ。


「野生の馬じゃないな。この足跡は統率のとれた付き方だ」

「誰かがいたという事か」

「付き方からしてまだ日は浅そうだな」


同じく分析していたユグドラとルチアがそれぞれ答える。

ということは数日前まで誰かがこの周囲にいたという事だろうか。


「メロー、足跡からなにか分かる?」

[蹄の形を検索してみます。少し待っていてください]


蹄の形状を基に検索を始めたのか沈黙するメロー。

少し経って検索結果が出てメローが分かった事を告げる。


[魔法共和国内の馬種と違うようです。これは、魔術大国に生息するタイプですね]

「魔術大国の!? なんで魔術大国の馬がここにいるの!?」

「いやな予感がするな……」


直感が告げてくる。地面に少し沈む様に出来た足跡。それは馬自体が大型か乗り手が重装備をしていることを示唆しさする。

幸いなことに足跡は辿る事が出来る。足跡の向かう先、それは魔術大国の国境付近にある険しい山のある場所だ。


「どうするのかえ、元ぬしよ?」

「行くしかねえだろ。お前ら、少し飛ぶぞ」


高度を低く保ったままひづめの跡を辿る。それは乱れることなく真っ直ぐに続いていた。


「オイ、バルド」


飛行するバルドの隣を地を蹴って並走するサヤが声をかけてきた。

常人の脚力とは思えない鬼の如き速さで走っているのに涼しそうな顔をしている。


「なんだ、サヤ」

「あたしの勘違いかもしれねェんだけどよ……。この足跡、どっかで見たことあるぜ」

「……」


彼女は気付いてるのだろう。この足跡を残した犯人が誰なのかを……。


「だったらどうする?」

「ブッ飛ばす……」


自由な左手の爪を見せて敵意に燃えるひとみでバルドを見る。

短く答える辺り、彼女の意志の強さが窺えた。


「そうか。……ならその右手にぶらぶらさせてるアシュトンはちゃんと背負って走ってくれ」

「あ?」

「た~~す~~け~~て~~~っ!?」


彼女の右手にいる者……それは、胸倉掴まれて宙ぶらりんの状態でいるアシュトンだった。

ジェットコースターも生ぬるいと感じる速さで走っている所為で空気抵抗をもろに浴びて尚且なおかつシートベルトなんて安全器具もない状態。


――――その恐ろしさたるや。


「アシュトンの魔術は頼りになる。いざって時に戦えなくなると困るんだよ」

「あ……わ、わりィ……。ついクセで」

(寿命が五年縮んだ気がする……)


青い顔からもはや真っ白い顔になって口から魂が抜けてる。

この後もし戦闘が起きた時、本当に戦えるのか心配になって来た。


「アシュトン君、大丈夫?」

「ウン、ダイジョウブダヨ……」

[大丈夫そうに見えませんね]


返事がカタコトになってる。もうダメかもしれない。


「しかし、霧島は凄いな。飛行する我々に追い付けるなんてな。他に何かできるのか?」

「半径二百圏内にいるヤロウの動きが分かる」

「その角はレーダーか何かか……」


指差す先にある頭にある二つの角のような突起はレーダーなのだろうか。

UAVか何かかお前は?

かれこれ長い間彼女と旅をしてる訳だが、本当に鬼か何かではないかと思い始めて来た。


サヤが鬼の娘かどうかはこの際置いておこう。

いまはこのひづめの跡を追う事である。


飛び始めて少し時間が流れる。

飛行を続ける彼女達の前方、地平線の先に山が見え始めた。


「あれが、魔法共和国と魔術大国の境界線に近い山だ」

「真っ直ぐにあそこに向かってるの」


少しずつ見えてくる山。あそこに一体何があるのだろうか。


[生体反応に複数の反応あり。モンスターです]


 上空に見える紫色の鳥……帯電雷鳥たいでんらいちょう『サンダーバード』である。

更に地上に見えるのは雷毛牙狼らいもうがろう『イエローヴォルフ』だった。


全身が雷を纏っている様に帯電し大空を悠々と飛ぶサンダーバードはBランクモンスターとしては代表的な一角で冒険者が中級レベルとしてその地位を確立する為に突破せねばならない関門として知られる。


 元は普通の鳥類だったのだが、大量の雷の魔力素を浴びたことで突然変異を起こしてこの姿になった。

主食は雷の魔力素で動物を食べるという事はしない。その為、魔力素を大量に含んで身体が帯電する様になったそうだ。


攻撃技の全てに雷属性を持っており機動力は飛行モンスター界で高ランクに入る。

更に特徴として上げられるのは、彼等は特殊なブレスを吐く事だ。

鳥類系モンスターのほとんどはブレスを吐くという事はないのだが、サンダーバードは雷のブレスを吐く事が出来る。


 イエローヴォルフはその名前の通り全身が黄色い逆立つ体毛で覆われているのが特徴。

+Cランクのヴォルフ種の中では移動速度がトップクラス。プライドを作りチームワークで獲物をしとめる。更に体毛から電撃波を放つ事もでき中距離からの攻撃も可能だ。


「お前ら気をつけろ。この第六都市からモンスターのレベルは一気に上がる。気を抜くなよ!!」

「うんっ!」


ほのか達を認めたモンスター達が一斉に襲いかかってくる。

初めにサンダーバードが持ち前の機動力で急降下アタックを仕掛けて来た。


散開して避けてそれぞれ標的を決めて空戦を開始する。


「はあっ!!」


ユグドラのルーンによる神速の突きが繰り出される。

炎の槍の穂先ほさきを身を捻りローリングでかわし急制動で彼女の背後を取った。


「コーッ……キューーーッ!!」

「ナイトシールド!!」


 大きく息を吸って身体をふくらませたサンダーバードが雷のブレスを放つ。

ブレスと言うよりは光線に近い攻撃をインペリア式防御魔法を張って防御する。


「ブレスか! だがっ!!」


 攻撃が止まると同時に爆発的な速度でサンダーバードへと肉薄する。

再び放たれる突きを翼を羽ばたかせ上空に飛び上がってかわす。その後を追ってユグドラは飛翔、ついてくる彼女に対して一度、速度を上げて振り切ってから身をひるがえし真っ向勝負を仕掛ける。


体を雷の魔力素で包み込んで猛スピードで体当たりを敢行かんこうしてくる。

それにユグドラはルーンをしまい、カラドヴォルグを抜き放った。

二つの閃光が交差する。


「インペリアの騎士を相手に一対一を挑むには、まだ若い!!」


カラドヴォルグを鞘に収める。サンダーバードの身体に横一文字の赤き閃光がはしった。

直後に紅蓮の爆発が起きて墜落していく。ルーンを再び取り出したユグドラに雷の光線が飛んでくる。


仲間を撃墜された復讐かブレスを連射してくる。

プレセアがユグドラの援護をする為に背後に回った。


「くらえ! シュベルトゲーベル!!」


複数のつぶてが作り出されて魔力弾として放たれる。

背後から飛んでくるプレセアの攻撃を身を捩って回避すると標的を彼女へと切り替えて反転して翼を羽ばたかせる。


 雷の羽根が雨の様に降って来たのに驚くもナイトシールドを張って防御。勢いに負けて地面に落ちた。

地上に落ちたプレセアを仕留めようと近づいてくるのはイエローヴォルフ。

砂塵さじんの舞う中にいるだろう獲物プレセアを狙って鋭い牙と爪を出して飛び掛かった。


「土涛憤激!! ギガインパクトッ!!」


 しかし、待っていたのは大きな岩を自分の前に浮かせて振りかぶっているプレセアだった。

左足を軸に大地をしっかりと踏みしめ、全身を使ったフルスイング。スコップの腹がド真ん中を打ち、岩塊は飛び掛かるイエローヴォルフを巻き込んで吹っ飛んで行った。


プレセアを地上に落したサンダーバードを今度はアイネが追う。

高速で飛行する相手を振り切られない様にしっかりと後をつけて飛ぶ。


「飛べ、サザンクロス!」


 彼女の周囲にスフィアが生まれてそこから一斉に光線状の魔力弾が飛ぶ。

追尾性能を持った魔力弾はサンダーバードの背後にピッタリとついてその距離を徐々に狭める。


追いかけてくる弾幕に対してサンダーバードは翼からきらめく粒子状の何かを舞い散らす。

その中に魔力弾が突っ込むと、突如として誘導性が消え自爆して消滅してしまった。


「魔力素の結合による磁場で防いだか。さかしい真似を……!!」


 サンダーバードのした行動。それは保有している雷の魔力素を大気中に放出したのだ。

体内に保有した魔力素は特殊なものに変じており大気中にある雷の魔力素とは別のものとなっている。

保有する魔力素と大気中の魔力素は互いに結合する特性をもっており、結合時に磁場が発生する。


 それが魔法士達の使う魔力弾を自爆させる効果を持っているのだ。

サンダーバードが中級者としての地位を確立する為の関門として知られるのはこういった理由があるからである。

いかに魔力弾を多用せずに敵を倒すか……。それが出来なければ、中級冒険者にはなれない。


手強い相手だ。だが―――


「水棍必倒!! 水爆壊!!」


――こっちには仲間がいる!!


 アイネの攻撃を凌いだことで油断しているサンダーバードの頭上より

錫杖しゃくじょうを構える女性導師の紋章を背にしたマルグリットがナイアスを大きく振りかぶって急降下。

水をまとった一撃がサンダーバードを地面に向けて叩き落とす。


圧縮された水圧とこんの重い一撃を受けて地面に撃墜された相手は気絶したのか動かなくなった。


「まだまだです! 掛けろ猛獣、ジェットインパルス!!」


 五頭の水で出来たピューマが水泡より生まれ空を駆ける。素早い動きでサンダーバードの後を追いかける。

アイネの弾幕をしのいだ時の様に粒子を散らすも、それは舞う粒子を跳躍ちょうやくで飛び越えてサンダーバードに食らいついた。弱点属性である水属性を受けて激しく抵抗を見せる。


「ルチアちゃん!!」

「任せろ! ヴィントヘルム、ブレイクシュート!!」


戦輪にある刃が魔力を帯び、魔力刃が生み出される。それが本体と分離、高速回転を始める。

独自の意志を持つように複数の軌道を描いて飛ぶそれがマルグリットの抑え込むサンダーバード達に襲いかかった。


疾風怒濤しっぷうどとうの勢いで飛ぶ刃がサンダーバードに連続攻撃を行う。

最後に一点に集合して一斉に飛んでサンダーバード達を貫いた。


純粋なる魔力攻撃を受けて意識が飛んだサンダーバード五体が地上へ墜落する。


 地上を走るイエローヴォルフ三体がグラキエスを狙って突っ込んで来る。

正面から来る相手に対してグラキエスは右手を前に出し、白色の魔法陣を展開する。


「アイスニードル!」


氷柱型の魔力弾が連続して放たれる。

飛んでくる弾幕は真ん中にいたイエローヴォルフに当たって吹っ飛ばす。


二体となった彼らだが、それでも突撃は止めない。

一体が先行しグラキエス目掛けて跳躍、飛び掛かった。


「……はあ!」


一呼吸入れ、飛び掛かる相手のタイミングを合わせて彼女は回し蹴りを繰り出す。

しなやかな美脚から繰り出される重い一撃。かかとが側頭部に叩き込まれ蹴り飛ばされる。


 通常ヴォルフなら一撃で倒せるだろう。しかし、相手は曲がりなりにもヴォルフの変異種。

一撃では倒れず頭を何度か振って身を震わせていた。

仲間の援護ともう一頭が全身を震わせ、逆立っている毛を更に立たせた。

毛先から静電気がはしったと思ったら、次の瞬間に強力な電撃波がグラキエス目掛けて放たれた。


それに対してグラキエスは両手を上に上げる動作をする。

冷気が地面からただよい始め、氷の結晶が地面から生えて来た。真っ直ぐに伸びる結晶と電撃波がぶつかって相殺する。


発生する白煙を破って跳躍ちょうやくしたグラキエスが飛びだす。

そのままかかと落としで相手の頭を地面に叩きつける。


「飛竜脚!!」


 衝撃で浮いた所を横回転から蹴りを二回繰り出し、最後にもう一度踵落とし。

二度も地面に叩きつけられたイエローヴォルフは気を失ったのか完全に伸びて動かなくなる。


彼女の背後に蹴り飛ばした一体が牙と爪を伸ばして飛び掛かって来た。

それに視線を向けることなく彼女は地面に足を力強く踏み降ろす。


イエローヴォルフの下から太い氷の柱が飛び出して上空へと弾き飛ばす。

振り返りつつ両手を合わせる。その間に白色の魔力が集束する。


「氷狼波!!」


両手を突き出すとそこから白色の砲撃が放たれる。

大気を凍らせながら飛ぶ砲撃は容赦なくイエローヴォルフを呑み込み全身を凍結させた。


「ふむ……人の姿ではこの程度が妥当か」


 撃った後に手を開閉して確認するグラキエス。予想通りだったのか小さく頷いて納得している様子だった。

近づく新たな敵の気配を感じて考え事を止めて彼女は再度回し蹴り、魔力弾で吹っ飛ばした最初のイエローヴォルフは蹴り飛ばされる。


その進行方向の先にバルドがいて、ケルベロスを大きく振り上げて地面に叩きつける。

煉獄れんごくの炎が地面を駆けて飛んで来たイエローヴォルフごと前方の敵を焼き尽くす。


炎が駆けて出来た道をリースリットがナイトチャージで高速移動で突き進み。飛び掛かってくる敵を軽い身のこなしで斬り伏せる。

地面を蹴って空中で回転しながらサンダーバードの突撃をかわし、かわし際にその背に魔力刃を叩きつける。


宙に飛んだ彼女を狙ってイエローヴォルフが電撃波を飛ばす。

リースリットはサンダースピアを飛ばし相殺。幾つかを撃ちらすも彼女の前に少し大きめの水球が現れる。


「マテリアルクウォーターッ!!」


落下する水球がリースリットを狙って放たれた電撃波に激突する。

すると水に引き寄せられる様に電気はまとわり付き、弾けた。


相反する属性関係にある水と雷。

フィリスの発動したマテリアルクウォーターは味方を狙う魔法攻撃を水に吸収させて内に閉じ込める魔法だ。


もともと味方の被弾を避けるために編み出した魔法であるので持続性がなく、耐久力はそこまでないのでいまの様に電撃波を受けただけで相殺されてしまう。


しかし、それだけでも味方としては非常に心強い。

フィリスの方をチラッと見た後にリースリットは雷槍を地上へ放つ。

地上にいたイエローヴォルフに命中し、怯みを見せる。


「そこっ!! フォトンブレイザー!!」

「奥義、紅刃爪!!」


ほのかとサヤの二人の同時攻撃が地上にいるモンスター達を襲う。

桜と紅の砲撃と衝撃波が炸裂しイエローヴォルフ達を一撃の名の下にふっ飛ばし気絶させる。


「残るは空だけ!」

「ここは僕と――!!」

「うちが決める!!」


二人が同時に魔法陣と魔術陣を展開。

アシュトンの魔術陣は青色を示し、あかねの魔法陣は赤色を示した。


「浄化の間欠! スプレッド!!」

「来たれ、天より降りし破滅の業火、全て狂わす三角形トライアングル

フラムス・メモアーレン《葬火の追悼歌》!」


地面が盛り上がり、大量の水を噴き上げる。それは一つだけではない。幾つも断続的に噴き上げ、次々に天高く伸びる。

凄まじい勢いで噴き上げた水は上空にいるサンダーバードを狙う。

下方から連続して来る攻撃に逃げ遅れて数体が呑み込まれた。


 更にスプレッドをかわしたサンダーバードを今度は頭上から火球が襲いかかる。

正三角形の中から撃ち出される火球から逃げ惑うサンダーバード達が次々に命中、更に地上から噴き出る水圧。上下からの挟撃に対処できずに最後の一体も遂に捕まって撃墜された。


「片付いたな」

「流石にここまで来ると手強いな」

「こうでなければ面白くない。だが、すこし物足りなかったな」


ユグドラの心強い言葉にバルドは肩をすくめる。

何はともあれ、道をさえぎる邪魔者は倒した。


当初の目的である足跡を追うべく一行は再び先を急ぐために移動を開始した。





帯電雷鳥 サンダーバード


Bランクの飛行型モンスター。得意属性は雷で、弱点は水。雷属性特有の高い機動力を持って空を飛んで魔力素を主食にして生きている。

もとはわしと同じサイズの普通の鳥類だったが、環境変化で突然変異を起こして大型化する。雷のブレスを吐けて、更に誘導式魔法攻撃を無力化する粒子を散布できる能力を持ち、魔力弾だけで撃破するという戦法が通じないので、これに対抗できる出来ないで中級冒険者としての能力が決まる。


雷毛牙狼 イエローヴォルフ


+Cランクのヴォルフ種。ヴォルフの変異体で移動速度がサーベルヴォルフよりも高い。(これは平野での機動性を基準にしたもので、森の中ではサーベルヴォルフの方が高い)帯電している所為で体毛が逆立っており、刺々しいのが特徴。

群れで行動するのはヴォルフと同じ。雷撃破を使えるので中距離だから安心と思っていると漏れなくビリビリプレゼントされるので注意。

静電気で毛が逆立ってケアできないのが目下の悩み。



地上に残された馬の蹄。これは一体なにを意味するのか。


それでは、次回も宜しくお願いします。

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