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第五十三話 つかの間の休息


五十三話更新。


秘石を集める冒険から一時離れ、少女達は小さな休息を得る。





遊園地内に設置されているレストランにて……


「ったく、探すのが大変だったぜ」

「にゃはは、ごめんなさいなの」


店外の大型テーブルを囲む様にほのか達は座って昼食を楽しんでいた。


 第五都市の出来事からほのか達は数日かけてここ、第六都市に辿り着いた。

その際、エメローネとクロウは指名手配されるだろうオズワルドの身の安全を確保する為に別行動で別れた。

場所はエメローネの別荘らしく、オズワルドをそこに隠すつもりだ。

別荘には研究機材が多数置かれている様で、オズワルドはあかねとの約束を守る為にそこでターミナルの研究を再開するつもりらしい。


名残惜なごりおしみながらも、道中で三人と別れて今日、ほのか達はここに辿り着いたというわけだ。



子供メンバーは初めて見る巨大遊園地を前に目を輝かせる。

渋るバルドにおねだりして彼女達は入園する。

沢山のアトラクションが彼女達を出迎えそれを見て大はしゃぎ。


 幾つかのアトラクションを満喫まんきつしていたのだが、ふとした拍子にほのかは一時的にみんなとはぐれてしまったのだ。

仲間達もそれに気付いて取り敢えずバルドは他のメンバーをレストランに待機させて前回にいたったという訳だ。


「でも、ほのかが無事でホッとしたよ」

「念話という手段を忘れてたワタシ達もワタシ達だがな…」


ほのかを心配するあまりバルド同様に念話という手段をすっかり忘れてた一同も反省する。


「まあまあ、ほのかも無事だったし」

「次から気を付けるという事でええんとちゃう?」

「そうするか。……んで、お前達はまだここで遊んで行くか?」


質問を投げかける。それにほのかやフィリス、あかねは互いの顔を見合ってから元気良く頷いて返事を返した。


「うんっ!」

「うちもこういうとこ初めてやからもう少しいたいで」


 彼女達の意見を聞いてバルドは了解と二つ返事で了承りょうしょうした。

オーパーツの欠片の捜索は明日からする予定だ。ならば、今日くらいは子供らしく過ごさせたいと思ってのことだった。

昼をりおえた彼女達は早速、他のアトラクションへと向けて駆け出した。


「行こうリースリットちゃん!!」

「う、うん……」


 誘われたリースリットが小さく頷くとほのかはその手を取って駆けだす。

まだそういうことに慣れていないのか、リースリットは頬を赤く染めてうつむき加減になる。

そんな二人と一緒にフィリスとあかね、引率としてシリウスとプレセアが付いていって次なる場所に走って行った。


「……いいものだな。この様な光景を見るのも」


 それをツリ目を僅かばかり下げ微笑ほほえむ様に見ていたのは氷の精霊グラキエスだった。

なんと彼女はほのか達の旅に同行してくれたのだ。

ほのか達の楽しむ様をながめている彼女の左右にバルドとアウルが並ぶ。


「まさか、氷の精霊が旅に加わってくれるとはな」

が付くがな。……不服か?」

「いや、心強い限りだ」


 いまの彼女は既に精霊という存在から片足が抜けた状態だ。

精霊であって精霊ではない。かといって人間かと言えば人間ではない。そんな曖昧な位置にいるのだ。

肉体は実を持つようになり、傷も付く。その代わり、人と同じ様に味覚や嗅覚といった精霊が本来持っていない感覚を手に入れた。


 彼女は初めは静かに来るかもしれない消滅まで時を過ごそうと思っていた。

しかしそれをほのかは拒んで、消えない方法を探す為に一緒に冒険に出ようと誘ったのだ。

まだ知り合って間もない彼女だが助けたいと思った、なんとかしたいと思ったからの誘いだった。


逡巡しゅんじゅんしたグラキエスだったが、結局ほのかの粘り勝ちで旅の同行を承諾しょうだく。晴れて仲間に加わったという訳だ。


「うむ。グラキエスは近接戦に強いからの。中遠戦闘要員の面子めんつが多いこのパーティでは重宝ちょうほうするえ」

「黒風の幽姫。めた所で何も出ないぞ」

「わっちは黒風の幽姫ではありんす。わっちはアウル。ぬしの使い魔であり、元ぬしの使い魔じゃ。それ以上でもそれ以下でもありんす」


 グラキエスの発言に対してアウルはフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向く。

それからすぐにブツブツと愚痴ぐちの様なものをこぼし始めた。


「大体、シルフといいおぬしといい……。既に引退したわっちを昔名で呼びおってからに……まったく」

「何を言ってるんだ。シルフは――」

「グラキエス。少し、向こうで話をしようではないか」

「……うむ、分かった」


 急に肩をつかんで有無うむを言わさぬ気迫を出しながら語りかける。

グラキエスの了解が出るか出ないかの所でアウルは彼女を問答無用で引っ張る形で連れて行った。


そんな二人の後ろ姿を見てバルドは面倒くさそうに溜息を吐いていると先に行ってたはずのほのかがリースリットを連れて戻ってきたのだ。


「どうしたほのか。忘れもんか? それとも便所か?」

「もうもうっ!! 女の子にそんなこと聞くなんてデリカシーに欠けてるの!!」


 プンプンと頬を膨らませて怒るほのか。二つのおさげが呼応して逆立っている様に見えるのは気のせいだろう。

小学生のがきんちょがデリカシー云々(うんぬん)を語るなっての。

ポンポンと怒る彼女の頭を軽く叩く様にでて、叱責しっせきをスルーして本題を聞いた。


「んで、なんで戻ってきたんだ?」

「あっ、そうだった。ねえ、バルドさん。バルドさんも一緒に行こう!」

「……貴方も一緒じゃないと、や……」

「……はぁ~、はいはい分かった分かった。分かったからそんなに服を引っ張るな、伸びる」


 裾を掴んで目を輝かせているほのかを見てバルドはやれやれといった表情を見せる。

まあ、今日くらいは羽目はめを外してもいいか。

ほのかに引かれる形でバルドもまた彼女達と共に遊園地を満喫まんきつすることにした。



「……うむ。ここの紅茶は美味しいな」

「わたしもそう思う。しかし……よもや主と共にこの様な場所に来れるとは思わなかったな」

「あかねちゃんも楽しんでいるみたいでよかったですね~♪」

「騎士として生きてきたが……偶にはこういったのも悪くない」


その頃、プレセアを除いた騎士達は遊園地に建てられている喫茶店で紅茶をたしなんでいた。

優雅ゆうがで品のある作法で紅茶を口にする自分達が周囲の男性の眼を奪っていることは本人達は知らないだろう。




そして時間は進んで――


「………」

「お前ら、そんなにくっ付くな。歩きづらい」


 薄暗い肌寒い空気の漂う室内の中でバルドのにそれぞれ抱きつく形で怯えるほのかとリースリットがいた。

いま彼女達は俗にいう『ホラーハウス』という場所に来ていた。


ひゅ~どろろっと気味の悪い音が周囲から聞こえるし、鳥肌の立つ冷たい風が頬をでるだけで身体がビクッとする。


それに加えてぼろきれの白い布が垂れ下がってたり、笹の葉が擦れる音がしたり

不安をあおる要素がそこかしこに置かれているのだ。


「怖いなら止めればよかっただろ」

「コ、コワクナイモン」

「……」


 ついに返事がカタコトになってた。まあ、ここにくるまでに色々あったから仕方がない。

入って早々、彼女達を出迎えたのは全身特殊ペイントされたゾンビ役のスタッフだったり、

ビックリして壁にぶつかると……壁が反転して五寸釘ごすんくぎはりつけにされた死体が出たり……


 心臓に悪いシチュエーションが盛り沢山だった。

その所為ですっかり恐怖で怯えてしまったほのかとリースリットがバルドから離れない様に腕にがっしりとしがみ付いて離さなくなってしまった。


「シリウス君。ここおもろいな!」

「そうだね、あかね。人を驚かすのが好きな俺には最高のステージさ!!」

「うちも人をおどかすの好きやで。気が合うな~」


ふっふっふ~っと黒い笑みを浮かべて不気味な笑い声を上げる二人。

どうやらこの二人はホラーハウスを満喫まんきつしてる様子。


「二人ともお化けとか大丈夫なんだね……」

「ホラーハウスやし。わりと平気や。まあ、本物のお化けなら怖いで」

怨霊おんりょうはこんな人を楽しませておどかす場所には出ないよ。もっと殺伐さつばつとした空気のある場所なら別だけどね」


 そ、そう……。二人の平気そうな返事にフィリスは乾いた笑みになるしかなかった。

なんとも人をおどかす仕事の人達にとっては涙ものの発言である。


「……」

「プレセア、どうしたんだい? 顔色が悪いよ?」

「な、なんでも……ねえよ」

「もしかして……怖いん?」

「コ、コワクナイゼッ! ぜんっぜんコワクナイ……」


顔面蒼白のまま返事をするプレセア。とか言いつつあかねの影に隠れる辺りである。

それはほのかやリースリットのそれと全く同じ様子だった。


あかねが満足してくれてなによりです。by プレセア


そろそろホラーハウスも佳境かきょうに差し掛かったところで、ほのか達に更なる恐怖が襲いかかる。


「に゛ゃあ゛あ゛ぁぁぁぁ!!?」

「っ!!?!?」


 壁が崩れて白骨体が目の前に飛びだす。

リアルに再現された骨にほのかは絶叫を上げ、リースリットは声にならない悲鳴を上げる。


カタカタと歯を鳴らして笑う白骨体はそのまますぅ~っと闇に溶けて消える。

そして今度は首筋に冷たい何かが落ちて来た。


「ひに゛ゃああぁぁぁ!?」

「~~っ!!」


ひんやりとした液体に背筋がピンっとなって飛び上がる。

騒ぐ二人に挟まれているバルドは首筋に落ちた液体を冷静に手に取って確認。


「……氷水」


上を見上げれば通り過ぎる位置にパイプがある。

なるほど、人が通るタイミングに合わせて一滴垂らす仕組みか……。


「リースリットちゃぁ~ん」

「ほ、ほのかぁ~……」


泣きだしそうな二人が遂にひしっと抱きあう。

これが素の子供の反応なのだろう。


「うひゃあ!? つ、冷たい!? ……って水かい!!」

「わおっ!? スケルトンさんこんちわっす!!」


後ろの二人はどうにかならないだろうか……。

わりと本気で思ったバルドだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



その後も遊園地の中を回って楽しいひと時を満喫まんきつして時間はあっという間に夜になる。

旅館に宿泊した一行、時刻は入浴の時間になる。


「わぁ~、広いの~♪」


女湯に入ったほのかの開口一番の感想はそれだった。この旅館は近場の源泉から汲み上げて直接流している。

流石は観光客が多く来る場所なだけあって温泉はとても広かった。


他の女性客が多数見受けられた中で一角だけ空いていたので、ほのか達はそこに入った。

肩まで浸かった所でアウルが一つ息を吐いた。


「ふぅ~……。極楽じゃ~。やはり、自然から生み出される湯は格別じゃの~」


少し爺臭じじくさい事を言って扇子を広げるアウル。だが、彼女の感想には同意する。

芯まで温まる少し熱めの温度、乳白色の源泉から漂う硫黄の香り。それが鼻を刺激する。


「温かいね。フィリスちゃん」

「うんそうだね。ちょっと熱いくらいだけどこれがちょうど良いかも」

「リースリットちゃんはどう?」

「……あ、う、うん」


ほのかの問いかけに肩を狭めて小さくなりうつむいて答える。その間もチラチラと視線が別の方に泳いでいた。なにやら辺りをキョロキョロとして少し落ち着きのない様子をみせる。


物珍しいのかな? っと思ってほのかは彼女の様子に首を傾げる。


「ここに効能が書いてるみたいです。えっと……肩こり腰痛と血行促進……色々あるみたいですね。あっ……美容びようにも効果ありっと」

「むっ、それは耳寄りな情報だな」

「にゃはは……」


騎士たるもの、美と健康には気を遣うべし。

元から綺麗なのにそれ以上美しくなって如何する気なのだろうか。

もしここにシリウスがいたらそんなツッコミを入れてるところだろう。


「しかし……。グラキエスは大丈夫なのか?」


ふと浴場の入り口に立ったままでいるグラキエスに視線を送る。

初めて見る公共の風呂場を見てキョロキョロと物珍しそうに見渡していた。


「ここが人の世界でいう『風呂』というものか……」


例にならって彼女は体を清める為に蛇口を捻っておけんで、冷水・・を被った。


「……(゜Д゜;)」

「ほう、いい水じゃないか。身が清められるな」


隣にいた女性客がポカンとした顔で見ている中、髪の水気をはらってから立つ。

ほのか達も遠目から見ててグラキエスの行動に唖然あぜんとして見ていた。


水をしたたらせて歩く褐色肌の女性は周りから注目の的である。

そして、グラキエスが湯船のふちにやってきた。


 固唾かたずを呑んで見守るほのか達。なんせ彼女は曲がりなりにも氷の精霊……。

こんな熱い温泉に入って大丈夫なのだろうか。溶けてしまうのではないか、いや、あるいは彼女からあふれる冷気で自分達が氷漬けになるかもしれない。


彼女の爪先が湯に入る。ちゃぷっという音がほのか達にはやけに大きく聞こえた。

そのまま足が入っていき―――


「ふぅ~……」


遂に肩まで浸かった。目を閉じて小さく息を吐き、リラックスした様子をみせる。


「あの……グラキエスさん」

「……ん? どうしたほのかよ」

「大丈夫……なんですか?」


何を? といった様子で首を傾げるグラキエスだったが湯に浸かる自分を見て、ああそういうことかと

納得して質問に答える。


「大丈夫な様だ。人の特性に近しいからか、入っても問題なさそうだ」

「精霊としての特性よりも、人の特性が強くなってるの?」

「かもしれないな。昔の私なら難しかっただろうな。それ以前に、温泉が氷の湖になってただろう」


さらっと恐ろしい事をいってくれる。


「しかし……っ、人の浸かる『湯』というのはいいものだな。少し熱いが、それがいいな」

「精霊の時では味わえぬしの」

「そう考えると、この曖昧あいまいな存在になれた事がひどく幸運に思えてくるな」

「そうじゃろそうじゃろ」

「しかし、あの水風呂と言うのも興味があるな」

「…………」


二人で会話に花を咲かせる。このパーティに馴染んでくれた様でなによりだ。


「さてと……。こうして皆で楽しくお風呂な訳やし……」


(☆∀☆)キラーンッ! っと目を輝かせて急に立ち上がった

あかねが手をわきわきさせてユグドラの方へと近づく。

なにをする気なのだろうか?


そして――


「身体検査やーー!!」

「あ、あるじっ!?」


ユグドラに飛び掛かった。急に飛び込んできたあかねに流石のユグドラもビックリする。

背後に回ったあかねがそのままユグドラの胸に手を伸ばしてもみ始めた。


「むむっ! また少し大きくなったんとちゃう?」

「そうですか? 私には実感はないのですが……」

「いいや間違いないで! おっぱい魔人たるうちには分かる! また少し、大きくなった!」

「あ、あかねちゃん何してるの……?」


ユグドラの胸を揉んで何やらぶつぶつと独り言をしている姿に唖然あぜんとするほのか。

それにマルグリットが代わりに答えてくれた。


「あかねちゃんはお風呂に入ると人の胸を揉むんです」

「ど、どうして?」

「う~~ん……。スキンシップだとおもうですよ」

「ちなみに、一番おっぱい大きいのはユグドラや。次にマルグリット、ルチア、アイネ、プレセアの順や」


家族間ではよくそんな事してたらしい。

一番と聞いて、一同がユグドラの胸を凝視ぎょうしする。


確かに……大きい……。


「おっぱい大きくてスタイル良くて品行方正でおまけに美人……。うらやましいで」

「あの主あかね。あまりからかわないでください。聞いている私が恥ずかしいです」

「ええやんか。減るもんでもないし。いいな~……うちも何時かユグドラみたいなスタイルばつぐんになりたいで」

「いまはまだ成長途中です。主あかねならきっとなれますよ」

「ありがとな、ユグドラ」


はげまされて笑顔を見せるあかねにユグドラも微笑ほほえみを返す。

ただ、胸を揉みながら会話するのだけはやめてほしい。


「そや。ほのかちゃん達も、測ったる!!」

「ふえっ!?」

「なんじゃと!?」


なにを思ったのか、急にそんなことをのたまう。予想外の発言にほのか達はギョッとする。

いまのあかねは背後に怪しげなオーラがまとっているように見えた。


ふふふっと低く笑いながら舌なめずりする姿は、まるで獲物を見つけた肉食動物の様である。


「勝利はうちにありっ……。じーく・おっぱい!!」

「何かが違うっ!? ……って、わああぁぁぁ!?」

「お、おいッ!? ヤメろばか!?」

「ふはははは!! サヤちゃん、水場でうちに勝とうなどと片腹痛しや!! おっぱいゲ~~ット!」

「ギャアァァ!?」


阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図……。その一言に尽きる。


「リ、リリリリースリットちゃん。どうすれば――!?」


自身にも身の危険が迫ってきたので隣にいる親友に助けを求めて振り返る。

――――だが、そこにいたはずのリースリットは忽然こつぜんと姿を消してた。


「ふええぇぇぇ!? リースリットちゃんいないのーー!?」

「ほのかちゃんゲ~~ット!!」

「にゃぁ~~~っ!?」


…………お風呂では静かにしましょう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




一方、男湯にて――――



「…………ムサイッ!!」


シリウスの声がむなしく浴室に響いた。


「男湯なんだから当たり前だろ」

うるおいが欲しい!!」

「湿度は十分にある」

「そっちじゃない。瑞々(みずみず)しいっ、うるおいがっ、欲しいっ!!」

五月蠅うるさい黙れ」

「メダパッ!?」


くわっと目を見開いて魂の慟哭どうこくを上げるシリウスにおけをぶつけて黙らせておく。

他の男性客もいるのにまったくもって騒がしい。


少し熱めの湯に浸かって一つ溜息。日々の疲れがそれと一緒に出ていくのを感じた。

すぐ隣にいたアシュトンも同様に息を吐いて肩の力を抜き、湯に体を沈めた。


「アシュトン、身体の何処かに不調はないな?」

「あ、はい。大丈夫です」


バルドからの気遣いの言葉に素直に返事をする。


「悪いな。危ない冒険に付き合わせちまってよ。本当ならお前はもう魔術大国に帰ってる頃だろ」

「そ、そんな!? 謝らないでくださいバルドさん。僕はほのかちゃん達と冒険できて楽しいんです。そんな迷惑だなんて思ってませんよ!?」


バルドからの謝罪の言葉にアシュトンは慌てて否定する。


「それに、僕の方こそ皆の足を引っ張ってるんじゃないかって思ってるんです」

「そんな事ないぞ。お前の魔術のお陰で助かった事は沢山ある。心配すんな」

「でも、僕はまだ学生で魔術なんてほとんど習得してないし、それに皆に守られてばかりだし……」


うつむき加減で吐露とろする。バルドの様な魔剣士でもない、あかねの殲滅魔法の様な強力な魔術を持ってる訳でもない。

いつも仲間の後ろに立って守られるだけの自分にいる意味なんてあるのだろうか。


「バルドさんみたいに強い魔術が使えればいいんだけど……」

「なに言ってんだ。俺が使える魔術は闇と火属性の二つだけだぞ。逆にお前が羨ましいくらいだ。それに、いまじゃお前だって初級だけじゃなく中級と上級も出来るようになったじゃねえか」


初めて会った時とはだいぶ強くなったとバルドは確信を持って断言できる。


「安心しろ。お前が思っている以上に、お前は成長してる」

「バルドさん……」

「これからも、ほのか達を守るのに力をかしてくれ」

「……はいっ!」


力強く返事を返し、ほのか達の為にも頑張っていこうと決心を固める。


「僕、もっと強くなれる様に頑張ります」

「何か困ったら何時でも聞けよ。俺に応えられる範囲なら出来るだけ教えるからよ」

「お願いします!」

「ああ、任せろ」


頼もしい返事をもらってアシュトンは笑顔を見せる。


 俺も困った時はお前を頼りにしてるからなと彼に対して期待しているという意味を込めた言葉を送った。

頼られた事に少し恥ずかしくなったのか、

断りを入れてからアシュトンは逃げるように洗い場に向かった。


 彼に期待しているのは本当のことである。

ほのか達の先輩でもあるし歳も近い。自分なんかよりも彼の方が彼女達の気持ちは分かってくれるだろう。

それはサヤも同じことだ。二人は年齢も一緒だ。これからもほのか達を先導してくれる良い先輩として

頑張ってほしい。


「……ねえ」

「ん? ……ぶっ!?」


そんな事を考えていたその時、後ろから声を掛けられたので振り返った。そして吹いた。

彼の後ろに立っていた人物、それはリースリットであった。


湯船に浸かるバルドを見下ろす形で無垢むくな瞳で見つめてくる少女の突然の登場に流石の彼も慌てた。


「おまっ!? なんで此処にいるんだ!? ってか、何処から入って来た!?」

「あそこ……」


指さす方、そこは子供が父母の下を行き来できるように設置された小ドアがあった。

その隣には札が掛かっており『11歳以上は立ち入り禁止』という注意書き。

リースリットはほのかと同じ年齢だからつまり、セーフ。


あそこから来たのか……。


タオルを巻いて身体を隠し、普段はツインテールにしている髪を下ろした彼女はそのままバルドの右隣に身体を沈めた。


「なんでこっちに来たんだ」

「……アウルがグラキエスと話しこんでたから」

「意味分かんねえ……」

「……居ずらかった」

「あ~、そういう事か」


 身を小さくして言うリースリットの言葉を聞いてようやく合点がいった。

簡単な話だ。まだリースリットはほのか達に慣れてないのだ。

頼りのアウルもなにやらグラキエスと話をしているのでとても声を掛けられない。

結果として一番いま落ち着くのが自分の隣だったということだ。


「ねえ、一つ聞いてもいい?」

「なんだ、やぶから棒に?」

「貴方は、どうして冒険者になったの?」


本当に唐突とうとつな質問だ。なんで冒険者になったか……。

天井を見上げながらバルドはなった理由を語り始める。


「そうだな……。簡単な話、組織だった行動がやりたくなかったからだろうな」

「そう、なの?」

「何かにつけて規律規律ってうるせえしな。組織だった動きは俺のしょうに合わないのも理由だな」


 その点、冒険者は自由奔放に生きていける。

組織なんてしがらみもなければ、気の合う人とだけ組んで動く事も出来る。逆に命の保証はないし、生活もその日暮らしがほとんどの者が多い。


組織に入ることで与えられる恩恵がない代わりに、組織では得られない恩恵を受けられる。

一長一短、対となる関係。上の人間にへつらう組織と縛られないで空を自由に飛ぶ冒険者。


「俺にはお偉いさんに頭下げる様な生き方はごめんだったからこっちを選んだだけだ。………それに、あいつとの約束も守れないしな」

「え……?」

「いや、なんでもねえよ」


最後に呟かれた言葉が上手く聞き取れなくて聞き返すが、それはやんわりとはぐらかされて終わる。


「まっ、俺のことはどうでもいいだろ。聞くだけ無意味さ」

「そんなことない……。貴方はすごく強い。もっと、その強さを知りたい」

「強さなんて最初からあるもんじゃねえよ。後からついてくるもんだ」

「でも、いまの貴方は確かに強い。私も、もっと強くなりたい」

「……おい、リースリット。さっきから聞いてて気になる事があるんだけどよ」


話の中に違和感を覚えたバルドはリースリットの方を向いた。


「……なに?」

「お前……さっきからどうして俺の名前で呼ばないんだ?」


ずっと気になってた。彼女はいままで彼の事を貴方としか呼んだ事がない。

もう敵という訳ではないのだからそろそろ名前で呼んでほしいものだ。


なにやら意図してそうしている風に感じたバルドはその辺について質問をしてみた。


「そ、それは……そのっ……えっと」

「ほのか達の事は名前で呼べるようになったのは嬉しいが、ちょいと寂しいな」

「あ…うぅ~……」


なにやら可愛くうなるリースリット。口が開いたり閉じたりを繰り返す様は愛らしい。

少し頬を上気させ、目をうるませながら上目遣いで彼を見上げる。


「わ、笑わない……?」

「ああ」

「――しい」

「え?」

「恥ず……かしい、から///」


もじもじとしながら蚊の鳴く様な声で言ったのはそんな言葉だった。

少しの間、二人の間で沈黙がただよい――


「……っぷ。そうかそうか、恥ずかしいからか。可愛い奴だな、はははっ!」


予想外の答えだったのだろう。バルドは堪え切れずに吹いてしまった。

笑わないって言ったのに……。頬をふくらませ、とがめるようににらみつける。


「わるいわるい。意外と可愛い理由だったから油断してた。でも、そんな恥ずかしがる必要ないだろ。ただ名前を呼ぶだけだぜ?」

「うぅ……」

「ちょうど目の前にいる訳だし、一回普通に呼んでみ」

「あ……うぅ……」


名前を呼ぶだけ。ただそれだけなのにどうしてだろう。

言葉にしようとすると口から声が出てこない。


何度か言おうとして顔を上げ、口を開閉しパクパクしては出来なくてまたうつむく。

なぜだろう。彼の名前を呼ぼうとすると、胸の辺りが苦しくなる。

心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。


「……そうだな。一回深呼吸してみろ。少し落ちつくかもしれないな」


モジモジとするリースリットを見て提案する。

それに素直に従って彼女は数回の深呼吸を行った。

胸のドキドキはまだ治まらないけど、でもいけそうな気がしてきた。


キッと表情を引き締め、顔をグイッと上げて彼女はバルドの眼を真っ直ぐに見つめ―――



「バ、バ……バルニョッ!!」



――――――――――んだ。



「……」

「くしゅ~……/////」


肝心かんじんな所で噛んでしまい、恥ずかしさのあまり顔が半分ブクブクと沈んだ。

真っ赤な湯ダコの様に顔を染め縮こまる姿はあまりにも愛らしい。


(……こいつ、もしかしてこれが素か)


 彼女の意外な一面を見て、第一に思った事がそれだった。

あの鉄面皮てつめんぴはまさに仮面の様なもので、実際はこっちの方が彼女の本当の姿なのかもしれない。

いままで一人でいたのが、ほのか達と友達になって安心できる居場所を見つけられたことで隠れていた彼女の本当の姿が浮き出て来たのだろう。


「ま、まあ少しずつでもいいさ。いまは出来なくても何時かは出来るさ」

「うぅ~……/////」


 頭に手を乗せて少し強めにでる。

顔を見られたくないのか、右腕に抱きついて顔をうずめて隠す。

まるでその光景は兄妹の様に微笑ほほえましかった。


「あーーっ!! リースリットちゃん見つけたの!!」

「ん? ……ぶっ!?」


そんな声が聞こえたと思って振り返ったバルドはまたもや吹いた。

そこに居たのは、ほのかとあかねそしてフィリスだった。


「お前ら、なんでここにいんだ!?」

「リースリットちゃんがバルドさんの隣に居るって分かったからなの! それよりもリースリットちゃんだけずるいの!! 私も混ぜてなの~♪」

「うちも混ざるで~。フィリスちゃん行くで~とうっ!!」

「え、ちょちょっちょっと!? きゃ~~!?」

「なにっ、あかねがいる!? 俺復活っ!! そして、俺参上っ!!」


飛び込んで来るほのか達。

ついでにあかねの存在を感知したシリウスが復活してちゃっかり混ざる。


静かな風呂場が一気ににぎやかなものとなった。


「だあ~~~!! 風呂場くらい静かにしやがれ!!」


ばしゃばしゃと自分の周囲で騒ぎたてる仲間に届くはずもないだろう、バルドの怒号がむなしくひびき渡った。


「………あー、今日も平和だ~」


そんな光景を洗い場で見ていたアシュトンは他人のフリを決め込み、現実を見ないことにしたのだった。





まだリースリットはほのか達に慣れない様子。

でも、大丈夫。近くにはアウルもいるしバルドもいるから。

ゆっくりでもいいから、ほのか達ともっと仲良くなろうと努力しよう。


つかの間の休息を取った少女達はゆっくりと羽を休めて、次なる冒険に備える。


それでは次回も宜しくお願いします。


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