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第五十二話 落雷のジャン


五十二話更新。


第六都市レザーノにはSCCAの中でも有名な人物が警備にあたっている。

若くしてSランクモンスターを倒し、タスクフォースに入り才覚を発揮した男で多くの者はこう呼ぶ。


『落雷のジャン』と……。




 第六都市レザーノは雷の魔力素が豊富に存在する地域にあり、雷雲の発生しやすい土地である。

電子技術に関して非常に秀でた開発を行っている第一都市と肩を並べる技術都市だ。


 この都市の特産品は『ヴォルトの羽根』と呼ばれる鉱石だ。

『ヴォルトの羽根』は飛行するヴォルトの下にある地上にあった羽根の形をした鉱石から呼ばれるようになったと古代の書記に記されている。


雷の精霊と呼ばれるヴォルトは所説によれば巨大な鳥とも飛竜とも呼べる姿をしており、象よりも大きく主食はクジラとも雷雲とも言われている。


 ヴォルトの羽根は、一つあるだけで都市の一区間の電力を丸ひと月分養える高い畜電力を誇る。

これをもとに作り出された蓄電装置は共和国内全域で活躍しており、第一都市で開発されたあの大型航行艦の電力として搭載されている。


多くのビルが立ち並ぶ大都市で電気に関する技術研究所も多数存在する。

最近になってトランスポーターや電磁兵器の開発にも力を入れているらしい。



城壁には超電磁砲レールガンのプロトタイプとして開発された設置型長距離砲『電磁波砲パルスキャノン』が設置されており、並みのモンスターは近づく前にこの火力の前に木端微塵にされる。


 だが高火力を持つ兵器であるパルスキャノンは欠点があり、一度撃つと砲身内部の芯が焼き付いて交換しないと次を撃てなくなる。

しかも着弾時の爆発範囲も狭く密集してないと複数体を同時に攻撃できない。


 その後継として開発が進められているのが『超電磁砲レールガン』だ。

火力も射程も破壊力も全ての性能がパルスキャノンを上回っており、最も魅力的なのが砲身内部の芯の交換の必要がなくなることだ。


 他の都市以上の防衛能力を持つ都市としても有名なレザーノ。

この地を守る人物もまた非常に有名な人物だ。



 SCCA本部にある治安維持特別対策本部『タスクフォース』。

そこに所属する第四部隊、『落雷のジャン』を筆頭に集まる精鋭たちだ。

バルドの持つ大剣すら超える大型剣グレートソードタイプのターミナルを振りまわすパワーアタッカーだ。そして、保有魔力の属性は『雷』。高機動と高い攻撃力を持つ若くも実力名高い魔法士だ。



彼が有名になった経緯は二年前にさかのぼる。



 当時、第六都市には強力なモンスターが存在した。

それがSランクモンスター最堅超獣『ダイヤモンドハード』という怪獣の様な姿をしたモンスターだ。

全長五十メートル、体重はおよそ二十トン近くはあったと思われる。

 全身がダイヤモンド鉱石の様に堅く並みの攻撃は傷一つ付かず、当時最強を誇ってたパルスキャノンすらまるで歯が立たなかった。


ダイヤモンドハードの主食はヴォルトの羽根と呼ばれた鉱石。

それを大量に保有していた第六都市は格好のえさ場といえた。


 幾度となく襲撃され城壁は意味を失い、多くの死傷者が出た。

このままでは要らぬ犠牲者が出ると判断、中央都市より応援を要請する。

総勢千名にも及ぶ魔法士達が集まる大部隊が結成され『ダイヤモンドハード討伐作戦』が開始された。


しかし幾度となく魔法士達は己の持ちうる力を合わせて攻め込んで来るダイヤモンドハードを撃退に追い込む事が出来ても討伐には至らなかった。

 原因は圧倒的なまでの防御力と魔法を弾いてしまう体質と疲れを見せない恐るべき体力だった。

頭部さえ斬りおとせばと思っても辿り着く前に倒される。


 そこに現れたのが『ジャン・バジーナ』その人だ。

彼は雲よりも高くまで飛んで雷を全身にまとった状態で猛スピードで落下、全体重と重力を合わせた超荷重攻撃を相手の頸椎けいついに叩き込んだのだ。

まるで落雷が意志を持ったような一撃を急所に受け、頭部がね飛んで長きに渡る強敵とされたダイヤモンドハードは絶命した。



これが後にジャン・バジーナがタスクフォースへと就任する足掛かりになった事件だ。

若くしてタスクフォースへ自力で辿り着いたジャンはその才覚を発揮した。


第二都市のモンスター討伐、第七都市のモンスター討伐……多くあった討伐作戦に次々に参加し全てを成功に導いた。

モンスター討伐数はタスクフォース全隊長内トップの成績を誇り、戦闘能力はカルロスの次に高いとされる。



 そんな彼の一日は早朝から始まる。

隊長室である簡易ベッドの上で寝転がっていびきを掻いているジャン。

その扉が開いて一人の女性が飛び込んできた。


「隊長!! 朝です、起きて下さい!!」

「うご…あと三十分……ごぉ~…」


 タスクフォース第四部隊副隊長『クレア・ラトウィン』三等空尉。

若干十八歳でSCCAに入隊した若き女性。ブラウンの瞳にさらさらの長めのクリームヘアーをうなじ部分でまとめてポニーテールにしている。


身長は百五十一程度と小柄で胸も控えめだがそれを差し引いても問題なほどに抜群のプロポーションを持っている。


きめ細かな気配りと優しさで第四部隊の男性の心を離さない。

密かに行われている『第四部隊結婚したい女性ランキング』で不動の一位をキープしていたりする。


「長すぎます!! せめて五分にして下さい!!」

「んが……じゃあ、あと五分……」

「ダメです!!」


 言っておきながらその提案を速攻で却下する。

下手に承諾してしまうと彼はそのままズルズルと時間を延ばし一日中寝てしまうからである。

彼の体をゆさゆさと揺すり眠気を吹き飛ばさせようと必死になってる様はまるで新婚夫婦の様に見えなくもない。


「んあ~…勘弁してくれー。こっちは十一時に寝た所為で寝不足なんだぞぉ……」

「みんな二時過ぎまで頑張ってるんですよ。隊長だけ早過ぎます!」


 彼女とて自分のデスクワークを片付けたのは深夜を回った頃だ。

その後に部下達の手伝いをしようと見周りも兼ねて回って寝たのは大体一時くらいだ。


「わ~ぁったよ……起きるよ、いま起きる……」


 何度も揺さぶられて漸く起き上がる。しかし、眼は今にも閉じそうで頭もかくついている。

その彼の前に濡れたタオルが差し出される。差し出しているのは勿論もちろんクレアだ。

彼女から受け取ったタオルで顔を拭いてやっとの事でジャンは覚醒かくせいした。


「おはようございます、隊長」

「おう、おはようさん。毎朝悪いな」

「そう思うんでしたら、次はちゃんと起きて下さい」


 もう……と少し困った表情を見せる。

ベッドから降りたジャンは傍にかけてあった職員服に着替えてクレアと共に部屋を出る。


「今日は南地区の見回りが担当だっけか?」

「はい。それと最近はモンスターの襲撃も多くて住民に不安が広まっていますからそのケアも」

「だいぶ片付けたんだけどな……。一向に数が減らねえ」

「落雷の回数も増えて民家への被害も報告にあります」


 話をしている内に食堂へと到着する。入って来た二人を見かけると他の隊員達は食事や談笑を中断し立ち上がって敬礼する。

それにジャンは軽く手を上げて挨拶し、クレアは一人一人に丁寧に会釈えしゃくをして券売機で食券を購入する。


「その落雷の所為でパルスキャノンも使えなくなっちまったしな」

「使用不能になったのは計十門、修復には時間が掛かるそうです」


定食をトレーに乗せて席につく。すぐにご飯をかきこむジャンに対して、対面にいるクレアはいただきますと言ってから食事を始める。


「それにしても、俺はあのパルスキャノンってのが気に入らねえんだよな」


口一杯に入れていたご飯を呑み込んでから急にジャンはそんな事を口にしだした。


「ですが、この地は比較的モンスターの襲撃が多発する地域です。いまの人員だけではとても都市全域をカバーするのは……」

「分かってるんだけどよ…。でもやっぱりあれは好きにはなれねえな……。でも、ないと不安がる連中が多いしなぁ~」


 現在パルスキャノンは最近起きた落雷の直撃を受けて使用不能におちいっている。

本来、落雷程度では故障など起きる筈ない設計のパルスキャノンが動かなくなった事に住民からは不安の声が上がっている。


「異常電圧の落雷に大量発生するモンスター。襲撃回数は日に日に増えてます」

「早いとこなんとかしないと、と思うんだが……。クレア、なんか分かった事あるか?」

「すみません…。調査はしているんですが、これといったものは」

「いいっていいって。クレアが難しいなら俺にはさっぱりさ」


 両手を上げてお手上げの様子を見せる。実をいえばジャンは電子機器に対してあまり詳しくない。

それどころか書類整理すらまともにできなかったりする。

 だから書類整理や情報収集に長けたクレアが副隊長として抜擢ばっすいされ、この隊に配属されたのもそういった理由があるのだ。数多くいる候補から推薦すいせんしたのはジャン本人であり、選んだ理由は“直感”らしい。


結果としてクレアのお陰で隊の負担は大分軽減されたし、ジャンも遅刻しなくて済んでいる。


「メシ食ったら南地区行こうぜ」

「……その前に、口の周りを綺麗にして下さいね」


食べかすを口の周りにつけたジャンへ向かって次の言葉を投げるクレアだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 第六都市にはもう一つの顔がある。

南地区は観光客や地元の家族の為に建てられた大規模な遊園地があるのだ。

ジェットコースターやお化け屋敷といったレギュラーアトラクションに限らず、他にも多数のアトラクションが多数設置されている。


 観光旅行としても有名な都市。それがこの第六都市のもう一つの顔なのだ。

その観光名所の遊園地で――


「ひゃっほーーー!!」


ジャンはアトラクションを満喫まんきつしてた。


「仕事してください隊長!」

「ちゃんとやってるぞ」

「遊んでるだけですよね!?」


さっきもバンジージャンプしてた。それだけではない。

彼は先ほどから高い場所に行くアトラクションを周っているのだ。

これの何処か見回りなのだろうか。それにジャンは胸を張って堂々と答える。


「遊具に不調がないか調べてる」

「遊びたいだけなんですね」


 本当に自分より年上の人なのだろうか。

アトラクションを楽しんでる様は周囲にいる子供たちとなんら変わらない。


「そんな事ないぞ。これでもちゃんと見てる」

「……そうなんですか?」

「おう。遊園地は広いからな、見移りするものが多いから子供は迷子になり易い。目を見ればだいたい分かるさ。それに高い所に登れば全体を見渡せるし、不審な行動をする奴も見つけられる」


 聞いていたクレアは驚いた。

アトラクションを楽しんでいる様に見えたが、実はその最中もしっかりと周りを見ていたんだ。

南地区は遊園地がある事で大型のアトラクションで影が出来やすい。


 スタッフが警備をしているがそれでも見落とすかもしれない。

だから高い所を重点的に移動していたのかとここにきて彼の意図に気付いた。


「…すみませんでした隊長。わたし、勘違いしてました」

「気にすんなって。説明しなかった俺も悪いしな。さて、分かった所で今度は観覧車行こうぜ!!」


目をキラキラさせて観覧車を指差すジャン。その瞳はまるで子供の様だった。


「……やっぱり、遊びたいだけじゃないんですか?」

「立派な見回りさ!!」


 やっぱりただ遊びたいだけなのかもしれない。さっき感じた感動を返してほしい。

まあ何はともあれ、見回りもするのだからいいのかな。と思い始める。

いやしかし、自分達は市民の安全を守る為に見回りをしなければならない。


「おっ、美味そうなポップコーンじゃねえか!」


 こんな風に遊びまわっている様な姿を見て周りからどんな風に見られているのだろうか?

寧ろそれが隊長の狙いなのだろうか?

 自分達が油断してると思わせて都市内部にいるかもしれない犯罪者をあぶり出そうとしてるのか。

高い所に上って周囲を監視し、尚且つ市民の安全を守る。なるほど、それなら合点がいく。


(さすが隊長。わたしも見習わないと……え?)


っとここで彼女は気が付いた。

視線を上げた時には、既にジャンの姿は忽然と消えていた。


「……あれ?」


周囲を見渡すもそれらしき姿はない。人ごみの中でクレアは完全に孤立してた。

もしかしなくても……迷子?


どっちが? というのは、聞くだけ野暮やぼだろう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




気付いたらクレアが傍らから消えていた。


「クレアの奴……迷子かよ。いい年して何やってんだか……」


 迷子がいないか捜索する側だというのに自分が迷子になってどうするのだと肩をすくめる。

これを聞いた本人はきっと凄く不服だけど絶対に表情に出さないだろう。


 見回りの前にクレアと合流しようと歩き始め、念話を飛ばそうとした。


「わぷっ」

「おっと…」


 その時、自分の腰辺りに何かがぶつかった。視線を落とせば鼻を押さえている幼き少女が

そこには立っていた。視線に気付いたのか亜麻色の髪の少女はハッとなって頭を下げる。


「ご、ごめんなさい!」

「いや、俺こそわりぃ。前をよく見てなかった」


お互いに前方不注意だったことを謝る。

その後すぐに彼女は彼の脇を通り抜けて足早に去っていく。


「……ありゃ迷子か」


その足取りを見ていたジャンは彼女の現状を一発で当ててポツリと呟いて再び歩き始める。

―――そして数歩、歩いてから足を止めた。


「迷子だとっ!? ちょぉぉぉおおおぉぉっと待ったああぁぁぁぁ!!」

「ふええっ!?」


 反転後のロケットスタート。鍛えた脚力であっという間に少女へと駆け寄る。

その必死な形相でこちらに駆けてくるジャンの姿に少女はぶるっと若干の恐怖を覚えた。


ジャン・バジーナ……。

若き実力名高く有名な彼は、実はタスクフォースの中でも一、二を争う『バカ』でもある。


「はあ、はあ……。お嬢ちゃん、お前…迷子か?」

「え、えっと…。は、はい……」


 質問されてしばしの後に、彼女は小さく頷いた。

やはりと心の中で呟く。取り敢えず、呼吸を整えてから話しかけた。


「驚かせてわりぃ。俺は、こういうもんでな」


 懐から手帳を開いて差し出す。それをおずおずと手を伸ばして少女は受け取った。

首を傾げながら見ていた彼女だが、書かれていた内容を見て驚いたのか少し目を見開く。


「俺はタスクフォース第四部隊総隊長のジャンっていうんだ。よろしく」

「タスク、フォース……」

「悪いんだけど、名前、教えてくれるか?」

「えっと…、ほのかです。皐月ほのか……」


二つのおさげをした亜麻色の髪の少女は、そう名乗った。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 観光客の人ごみの中をクレアは見失った隊長のジャンを探していた。

長身の彼ならすぐに見つかると思っていたのだが、予想に反して彼の姿どころか影すら見えない。


「隊長…何処に行ったんだろ」


きょろきょろと前への注意が散漫さんまんになり始めた時――


「きゃっ!?」

「おっと」


 正面から来てた人とぶつかってしまい彼女は後ろに倒れて尻餅をついた。

顔を上げた彼女の前に立っていたのは血の様に紅い真紅の髪に黒しサングラスと黒い外套ロングコートを身につけた男性だった。


「すまねえ、大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫です」


 差し出された手を掴んで彼女は立ち上がる。

それから改めて彼の容姿を確認する。黒いロングコートに黒いサングラス。コートの中から見える

服装も黒と一式に渡って黒色の男性は遊園地という場所で異様に目立った。


 家族連れやカップルの多いこの空間で、何処かの組織に属している様な風貌の人物に会うとは思ってもみなかったクレアは少しばかり緊張で強張こわばった。

悟られてはいけないと、彼女は平静をよそおって謝罪する。


「すみません。前をよく見てませんでした」

「いや、俺の方こそ前を見てなかった。ちょいと人探しをしててな」

「人探し…ですか?」

「ああ。こんくれーのチビの女の子で二つのおさげをした、いかにもトラブル呼びそうな奴なんだが……見た事ねえか?」


 手で身長を示しながら特徴を言う。

だが、その様な少女を見た事もない。


「もしかして、迷子……ですか」

「どうやらそうらしい。あんのトラブル娘め……目を離した途端にすぐこれだ」


まったく、とサングラス越しにちょっと分かりにくいが腕を組んで少々ご立腹の御様子。


「あの、それでは探すのをお手伝いしましょうか?」

「ん? あんたは……」

「自己紹介が遅れました。わたしはタスクフォース第四部隊副隊長を務めてます『クレア・ラトウィン』と申します。あなたのお名前は?」

「俺はバルドっていう。へぇ~、タスクフォースか……」


 手帳を見せて名乗る。それを見て彼は驚いたのか少しだけ眉を上げたのが見えた。


「お偉いさんがこんなとこで何してんだ」

「今日は隊長と共に街の見回りをしてます」

「へぇ~、そりゃ御苦労さんなこって……。んで、その隊長さんは?」

「あ……」


 聞かれて思わず声が出た。

そういえば――


無言になる両者。気まずい空気で先に声を発したのはバルドであった。


「……もしかしなくても、あんたも迷子か?」

「ち、違います!! 隊長が迷子になったんです!」


取り敢えず、自分ではなく自由奔放過ぎる隊長の所為にしておく。

まあ、事実な訳だが……。


「ま、まあいいか…。あんのトラブル娘が見つかればそれでいいしな」

「それで、その子の名前は何というんですか?」

「ほのかだよ。皐月ほのか。皐と月って書いて皐月だ」

「皐月ほのかさんですね。分かりました。では、行きましょう!!」

「悪いな。遊園地なんぞ生まれてこの方、一回もなくて勝手が分からなくてな」

「そうなんですか?」


なんでもない話をしながら二人は迷子の困ったさんを探す事にした。


「にしても……この遊園地は凄いな」

「落雷対策はしっかりされてますからね。あれを見て下さい」


 指を指す先にあるのは遊園地の丁度中央にそびえ立つ古城。

その最上階に一本の避雷針がある。


「あの避雷針は特殊な素材で出来ていてこの遊園地一帯の全ての落雷をカバーできる性能を持ってます」

「あれ一本でか、大した技術だな」

「各所にあれが設置されているので落雷の多いこの土地でも人は安心して暮らせるんですよ」

「まあ一番は落雷がない方がいいんだけどな」


 肩をすくめるバルド。

その長身の彼の顔を見上げる形で見ていて違和感を覚える。


(どこかで見た様な……)


それも最近だったような気がする……。

何時だったろうか…。視線に気付いたのか彼がこちらを向いた。


「ん? 俺の顔に何か付いてるのか?」

「あ、す、すみません。誰かに似ている様な気がしまして…」

「……気のせいだろ」


 ついっと視線を前に戻す。

しかし、見れば見るほど誰かに似ている様な気がする。

じぃ~っと見ていたクレアだったがそうこうしている内に人ごみから抜けて休憩エリアに入った。


「ど~りゃーー!!」


 っと、その直後に疾風のごとき勢いで何者かが飛んで来たではないか。

バルドを狙った正確な飛び蹴り。それを彼は瞬時に反応して受ける。


「って隊長!?」

「うちのクレアにいいよるとはいい度胸してんじゃねえか、コラーー!!」


 その人は探し求めていた自分の隊長その人であった。

飛び蹴りを手で受け止めたバルドは一度引いてから押し返し弾く。


 着地したジャンはすぐに駆けだし、そのまま拳を突き出す。

外に弾く様に手を動かして攻撃を逸らす。


一歩も譲らない徒手空拳としゅくうけんによる激しい攻防がそのままそこで繰り広げられる。


「隊長! ストップです。やめてください!!」


 このままだと大事になるので慌ててクレアが間に割って入って止める。

勢いを削がれる形となったジャンがつんのめって停止した。


「な、何で止めるんだクレア!? そいつはナンパして来た奴じゃないのか!?」

「違います! こちらの方は迷子の捜索を依頼した市民です!!」

「……へ?」


 彼女の説明にキョトンとした顔になるジャン。

端から戦闘する気など更々なかったバルドはその様子を見て腕を降ろした。


「あっ、バルドさん!!」


 っと、そこに聞き慣れた声が聞こえたのでジャンの後ろに視線を送る。

トコトコと自分の方に駆け寄ってくるトラブル娘のほのかがいたのだ。


「バルドさ~ん♪」

「こんのっ……バカ娘がぁ!」

「にゃ~~!?」


 バルドに会えた事で不安が解消されて安心したほのかは抱きつこうとしたが……残念。

その寸前で彼の右手のチョップが眉間みけんに命中して悲鳴を上げる事となった。


額の鈍痛に悶絶もんぜつしていると、今度は頬をままれて左右に大きく引っ張られる。


「毎回毎回トラブル呼びやがって! 少しは自重じちょうしやがれコラ!!」

「うにゃーー!? ふぉ、ふぉふぇんにゃふぁい~~(訳:ご、ごめんなさい~~)!?」


 うにうにと頬を伸ばされ両手をジタバタするほのかと説教を続けるバルド。

ジャン達は自分達そっちのけで展開される光景にただただポカンとする。


「あ、あの……その子が?」

「ああそうだ。こいつが俺の探してたトラブル娘だ。悪かったな、手間かけさせてよ」

「いえ、見つかって良かったですね」


 迷子が見つかって良かったとホッとする。

バルドもサングラスで表情は掴みにくいがホッとしている様に見える。

……頬を引っ張るのは止めてないが。


「次からは気をつけろ」

「あう…」


 ようやく手を止めて離す。

ジンジンする頬に両手を当てて擦るほのかが、抗議の視線をバルドに送るが彼はそんなの関係ねえと言わんばかりにスルーする。


「ほれ、さっさと帰るぞ。みんな、心配して待ってるんだぞ」

「うん。あっ、ジャンさん! 今までありがとうございました!!」

「おう、今度は気をつけろよ!」


 ぺこりと頭を下げたほのかに手を上げて答えるジャン。

顔を上げたほのかはバルドと共に二人に背を向けた。


「ねえ、バルドさん」

「なんだ」

「念話使えばよかったね」

「……うるせえ」

「あう…」


 至極しごくもっともなことを言われて今更いまさらその手があったのを思い出した。

取り敢えず、ほのかの頭をぺしりと軽く叩いてから手を彼女へ差し出す。


それが意味する事を理解したほのかはキョトンとした顔から一変、笑顔を見せてその腕に抱きついた。


「おい、歩きづらいだろうが」

「えへへ~♪」

「ったく…しょうがない奴だ」


 甘えてくるほのかを見て嘆息したバルドだが、しかし振りほどく事はしないで

そのままにしてジャン達の前から観光客の中へと消えて行った。




「迷子が見つかって良かったですね隊長。……隊長?」


 ほのか達の姿を見送ってからジャンの方を見るクレア。

しかし、ジャンの表情は何時もとは違い真剣な面持ちだった。


それは、モンスターと戦う時のそれと一致する。


「あの男……何処かで見た様な気がする」

「そうなんですか?」


 意外や意外。ジャンからその様な返事が来るとは思ってもいなかった。

自分の隊長はほぼ毎日顔を合わせる隊員たちや各総隊長は覚えているが、

あまり顔を合わせない人に関しては忘れる傾向があるのだ。


つまり……人の顔を覚えられない。


「何処だっけかなー? 最近、見た様な気がするんだよ」

「思い出せませんか?」

「う~~ん……。忘れた!!」


 うなって首をひねっていたが、すぐにきっぱりと返事が返されて彼女はずっこけそうになる。

非難めいた視線をジャンに向けるが、特に気にした様子もなくからからと笑う。


「まっ、重要なもんなら何時か思い出すって」

「その何時かが分からなくてわたしは怖いんですが……」

「大丈夫だって。それじゃあ、見回り再開と行こうぜ!」


 元気よく再開の合図をしてから歩き始める。

それに小さく溜息ためいきを吐いて、まあいつものことかなと半ば諦める形でクレアもジャンの隣に並んで歩きだした。


「それにしても、あの二人……似てませんでしたね」

「親戚の子じゃねえの? あの子の懐きっぷりを見るにそれっぽいが」

「そうなんでしょうか……」


 う~~んっと難しそうな顔をする。

仮に親戚の人だったとして、両親はどうしたのだろうか。

両親から信頼を得ているとすればそこまでだが……。


 それにしても似てなかったな、あの二人は……。

隊長の方をちらりと見やる。きっと、隊長の事だから少ししたら忘れるかもしれない。

自分が覚えておこうと記憶の片隅に置いておく事にする。


なにか引っかかる……。

隊長には悪いけど、少し彼らの事をマークしていた方がいいのかもしれない。


「おっ、面白そうなアトラクション!!」

「仕事しましょうか隊長」


またもアトラクションへ向かおうとした隊長にそんなツッコミを入れておく。

副隊長の仕事も大変なものである。






ジャン・バジーナ率いる第四部隊はタスクフォースの中でも比較的民間人に近い所で警備をしている。

第六都市は他の都市よりも雷の発生回数が多く、落雷が起きやすい地域。

その為、特殊素材でできている避雷針を用いて落雷による事故を未然に防ぐように工夫されている。

しかし、最近の落雷発生数が異常に多く更に周囲のモンスターが活発化したり落雷の威力が上がって対モンスター用兵器の『パルスキャノン』が使用不能に陥ったりと多数の問題が発生中。


それでは、次回も宜しくお願いします。


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