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第五十一話 魔法の言葉


五十一話更新。


少女は願う。もっと君の事を知りたい、もっと仲良くなりたいから。だから――


少女は願う。君に酷いことをしてしまった。こんな自分にもう関わらないでほしい。だから――


互いの想いをぶつけあい。遂に少女達の戦いに決着がつく。





「ぬしよ。これで良かったのかの?」


戦う準備をしていたリースリットにそう声をかける。

見上げれば難しそうな表情を浮かべるアウルの姿があった。


「これでいい…。あの子も、うんって言った」

「しかしのぉ……」

「フォルテ…異常はない?」

[スキャン完了。全システムに異常はありません。何時でも彼女と戦えます]



リースリットから持ちかけた決闘。

その行動はほのかとバルドを除く全員を驚かせた。


――私が勝ったら、持っている欠片を捨ててもう私に関わらないで

――うん、分かったの。でも、私が勝ったら私のお願いを聞いてくれるかな?


自分が勝つ事を想定してそれだけを告げる。

そこにバルドが二人の間に立ち、五分間の準備時間を与え解散させた。






 いまは両者は離れた位置でターミナルのメンテナンスと戦う準備をしている。

これで決まる。あの子との関係が今日この日に変わる……そんな気がしていた。


(絶対に、負けない……!!)

「ぬしよ。わっちはぬしを信じておるぞ」


フォルテからアウルの方に再び視線を向ける。

言ってから気恥ずかしくなったのか、照れ隠しに扇子で口元をおおって表情を隠す。


「……ん」


 それに短く返事を返した。どういった意味で言ったのかは分からない。

でも、信じている…その言葉だけでどうしてだろう。

胸の奥が凄く暖かく感じる。何かが自分の中で生まれる、そんな感じがした。


 負けられない理由があるから、絶対に彼女に勝つ。

小屋から出る時にバルドから貰った漆黒のコートを身にまとい待機状態から起動して柄を強く握りしめ前を見据えた。






一方、ほのかの方も準備を整えていた。


「ウィル、調子はどう?」

[各システムに異常はありません。何時でも戦えますマスター]

「ほのか、気を付けてね」

「皐月、ベストを尽くせ。今のお前ならピステールと互角に戦える。あとは気持ち次第だ」

「うんっ」


仲間達の応援を受け力強く返事を返し決戦のフィールドへ向かう。

その途中で一人、腕を組んで黙想していたバルドがいた。


「バルドさん……」


名を呼ばれて彼は目を開ける。見上げてくるほのかを認めると、何も語らずにその頭に手を置いて撫でる。


 言葉は要らない。「お前の気持ち全てをリースリットにぶつけろ」と頭を優しく包み込む大きな手から伝わって来た。

だからほのかも何も言わない。答えなんて最初から決まっているから……


 決戦フィールドに入るとバルドが封鎖結界を展開して外の世界と隔絶かくぜつする。

吹雪が止み、二人だけの戦いの世界が広がる。

先にアウルと共に待っていたリースリットがほのかを認めた。


「リースリットちゃん……」

「………」


 何も言わない。その眼には負けないという強い意志が感じられた。

二人の準備が整ったのを確認してからバルドが仕切り始める。


「これより、皐月ほのかとリースリット・ピステールの決闘を始める。双方、準備はいいか」

「うん!」

「ん……」


 互いのターミナルを構えて二人は上空へと浮かぶ。

アウルは静かにその場から立ち去って結界の外に出てフィリス達と同様に見守る。


バルドがすっと静かに手を上げ――――


「バトル……スタートッ!!!」


 手を降ろしたと同時に二人が激突した。

フォルテの一撃をウィルの柄で受け止める。


 いま此処に、二人の少女の戦いの舞踊ロンドが始まった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 金の雷槍が複数展開されてほのかに襲いかかる。

ディフェンシブで防御してから反撃のシャインバレットを飛ばす。


素早い動きで弾幕を避けてほのかへ接近戦を仕掛ける。

フォルテの刃を受け止め、自ら飛び退く事で距離を取る。


(リースリットちゃんは近距離戦に強い……! でもっ!!)


急停止の後にウィルを構える。

オーバーリミッツ時に得た新たな形態『ブレイブモード』に切り替える。


「ホーリーランス!! いっけーーー!!」


 宝石を囲む様に金のバインダーが集まって光の槍を作り出す。

搭載されたブースターから魔力が噴き出し、ミサイルのごとき速さで飛翔。

リースリットに向かって突撃する。


 突貫してくる彼女の攻撃を身を捻ってかわし、身を翻して逆に背後を取った。

突撃を止め、慣性の法則のままに飛びながらほのかもリースリットの方に身をひるがえし三点にスフィアを展開。弾幕で牽制する。


桜色の弾幕の中を彼女は飛び、避けつつ進む。


「アクセラレーション……!」


彼女の身を金の魔力がまとった。閃光となった彼女が弾幕の中を高速で飛び抜けてほのかの背後に回り込んだ。


「レイジングスマッシュ!!」

「つっ!!」


 振り返ってディフェンシブを展開し受けるが弾き飛ばされ落下する。

地面に落ちる寸前に体勢を整えて平行に飛行する。


頭上から降り注ぐ雷槍の弾幕を身をひねり避け、仰向けになる。


「ブライトキャノン!!」


圧縮された一発の魔力弾がウィルの先端より放たれる。

通常の魔力弾より重く、速い速度で飛ぶそれにギリギリで反応して避ける。


 避けた彼女に合わせて続いて飛んでくるシャインバレットが殺到さっとうし爆発に包まれる。

しかし、爆発の中からリースリットが飛び出した。


 急降下してほのかと同じく低空飛行で並走して弾幕の飛ばし合いを始める。

螺旋らせんを描く様に二人は飛び交い、徐々に高度を上げて行き頂点で激突して弾き飛ばされる。


「っ……! フォルテ!」

「デュアルザンバーフォーム!」


 リースリットも双剣に切り替えて肉薄する。

純粋に攻撃力が倍になった一撃はほのかのディフェンシブを破る。

それを紙一重で身をらし避ける。かすめた刃が胸元にあるリボンの端を切って宙に舞った。


 逆の手にあるフォルテで追撃しようとした所でほのかが魔力弾を前に一つ作って炸裂させる。

爆発の衝撃で二人は吹っ飛んで距離が開く。

コートが破け、右腕の素肌があらわになる。その右手をかざし頭上から一発の雷撃をほのかに落とす。


 魔力の込められた雷撃がほのかに直撃。

爆発の中からほのかは身を乗り出してホーリーシューターを繰り出す。飛翔するリースリットの後をほのかの弾幕は追尾していく。

振り切ってからリースリットも同様に追尾弾を放つ。ほのかは回避し、更に追いかけてくる雷槍に向かって魔力弾を当てて相殺する。


互いに魔力を身にまとって瞬時に最高速で突撃。再び二人はぶつかり合って鍔迫つばぜり合いをする。


(っ……なんで)


 向かい合うほのかを見ていたリースリットが

顔をゆがませて苦しそうな顔をする。どうして自分なのか、なんで酷い事をしたのに関わってくるのか。

どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!


 困惑こんわくするリースリットを決意を固めた表情のほのかが全身に魔力を帯びて押し返し始める。

槍型の魔力刃を展開したままのウィルでフォルテを弾いてリースリットを吹っ飛ばす。


「ウィル! オーバーリミッツ!!」


 オーパーツの欠片を集める理由を聞いてきた。関わってほしくないのに……関わらないでほしいのに。それでも彼女は自分の心に足を踏み入れてくる。

彼女だけじゃない。いま地上で自分達を見守る彼もまた簡単に自分の領域に入って来た。


 澄んだ瞳で見つめられ、あの大きな手で撫でられて気が付けば何も知らない二人の事をもっと知りたいと思ってしまっている自分がいる。

出来ないのに……分かっているのにそう思ってしまった。





 吹っ飛ばした彼女に向けてウィルを構え魔力を集中する。

圧縮された魔力弾が作り出されて膨張する。


「ブライトキャノンッ!!」


 発射されるブライトキャノンがリースリット目掛けて飛ぶ。

フォルテをクロスして受けるが勢いに負けて押されて球状に発した爆発に呑み込まれる。


「はあ、はあ……!」


 体力を消耗して息切れが起きる。でもまだだ。彼女はまだ立っている。

桜色の閃光が金の閃光に塗り替えられて爆ぜる。


 中からリースリットが姿を見せる。

ボロボロになった黒きコートを脱ぎ捨て二刀のフォルテを構える。紅い綺麗な瞳が光る。


「オーバーリミッツ、レベルⅠ……!!」

「…………ぬしが本気になった」


 フィリス達と共に戦いの行方を見守っていたアウルが呟く。

リースリットの全身に魔力が帯び始める。その魔力光にその場にいた全員が気付いた。


魔力光が一色でないことに……。


「これって……火属性!?」

「待て、水属性と風属性も感じるぞ!」

「地属性もです!?」

「まさか……特殊能力ヴァリアブルスキル!!」

四大元素フォースエレメンツ……。それが、ぬしの持つ力。いままで隠されて来たぬし本来の力じゃ」


 元々の属性である雷を合わせて五属性。それを彼女は使えるというのか。

リースリットから感じられる複数の属性を感じ、ほのかは汗が自然と出てくる。


だが、同時に嬉しい気持ちがあった。


リースリットちゃんが自分を認めてくれた!


本気を見せてくれた。その事がとても嬉しかった。

自然と口がほころんで笑みが浮かぶ。


 フォルテに五つの属性をまとわせて突撃するリースリット。

その攻撃をウィルで受け止める。先ほどとは比べ物にならない威力に顔をゆがませる。


「ふっ!!」

「きゃあっ」


 吹っ飛ばされるほのか。

体勢を立て直そうと急停止。


「っ!?」


してからいまの一手が失敗だったと気付いた。

彼女の八方を囲むは金の雷槍……。


「ブレイクッ!!」


掛け声と共に右手をギュッと閉じる。一斉に弾幕が襲いかかり、炸裂する。

咄嗟とっさに張ったディフェンシブで耐えきるが、いまの攻撃で砕けて空に消える。


動きの止まったほのかに対し、リースリットが見逃すことなく手をかざし捕縛魔法をかけた。

ライジングウィップ。リースリットの使う最高レベルの捕縛魔法だ。


 身動きを封じられたほのかの目に映ったのは、リースリットを中心に四点してんに展開される

四色の魔法陣と無数に生まれるスフィア。彼女の背後に四つの光球を従えた戦女神の紋章が現れた。


「四属性同時攻撃!?」

「いくらほのかでも耐えきれねえぞ!?」

「ほのか、逃げて!!」


 他の属性に耐性のある光属性でもこの同時攻撃は耐えきれない。

捕縛魔法で動けない事が分かっていてもフィリスはそう叫ばずにはいられなかった。


「……これで決まったかの」


どこか希望が消えたかのような表情を浮かばせ、静かに扇子を広げて口を隠しアウルは目を閉じた。

そして、リースリットが必殺の魔法の詠唱に入った。


四元招来しげんしょうらい天地轟雷てんちごうらい!! 始まりの力、この手よりこじ開ける。たけき焔、疾風しっぷうなる風、無窮むきゅうの大地、大いなる大水たいすいいま此処に!! スピリット・エレメンツッ!!!」


 合計二十にも及ぶスフィアから放たれる驚異的な弾幕が身動きの取れないほのかに殺到さっとうする。

爆発に続く爆発。一秒間に一つのスフィアから放たれる魔力弾は十二発。それが八秒間続いた。


――――だが、彼女の攻撃はまだ終わらない!!


「そして開け、天光のいかずち!! インディグネイト・エクスプロードッ!!! 打ち砕けファイヤーーーーーーッ!!」


 あまりにも巨大な金の魔法陣が頭上に広がる。

雪雲が彼女の魔力によってその全てを掌握しょうあくされ暗雲の雷雲に変わった。そこから溢れるは膨大な魔力の塊。

彼女の合図と共に魔法陣の中に十五の大型スフィアが生まれ、毎秒十六発の落雷がそれこそ数えるのも馬鹿らしい膨大ぼうだいな数が十秒にも渡って降り注ぎ、爆発に包まれたほのかへと落ちた。


最後に最大級の魔力を込められた特大の雷が真っ直ぐに落ち全てを白に染め上げた。



「っ……!! ほのかあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 悲鳴に近い叫びで親友の名を叫ぶ。隔絶かくぜつされた結界内にあった雪が今の一撃で全て蒸発し更に焼かれて焦土と化していた。

その景色を見るだけで、結果は明らかなものだった。


 己の持ちうる全てを放ったリースリットの魔法。

ほとんど残されている魔力はなく、激しい呼吸を繰り返す。


 だが、いまので決まった。

手応えに確信を持っていたリースリットは視線を落とし、地上にいるバルドを見る。


 彼は、攻撃の余波を受けるだろう場所に無傷で立っていた。

あれ程の攻撃を防いだとしたらやはり彼は強い。

彼は今まで一人で行動してたと聞く。ならば、やはり一人で戦った方が強くなれるんだ。そう思った。



爆風でコートを棚引かせながら腕を組んだ状態で自分を見上げている。


だがどうしてだろう……。



――彼は、決着の合図を出していなかった。



「……っ!!!」


 疑問に思ったリースリットが答えに辿たどり着くのに時間は掛からなかった。

前方で、自分のものではない魔力を感じ取ったからだ。


「この魔力……ほのかのだ!!」

「まだだ……。皐月はまだ負けてない!」


 見守っていた全員が目を見開き驚きの表情を浮かべて爆発に呑まれたほのかのいる位置を凝視ぎょうしする。

薄れゆく白煙、その中から薄っすらと人影が浮かび上がった。


「いたたた……。やっぱりリースリットちゃんはすごいの…」

(うそ……)


目に映る光景にリースリットは信じられないものを見ているかの様に見開いた。

そこにはマジックアーマーがボロボロになりながらも、しっかりと飛んでいるほのかがいたのだから。


受けきられた!?

自分の最強の範囲系殲滅魔法を!?

己の持てる全てを込めて放った魔法を彼女は耐えきったというのか。


「ほのか!!」

「あの攻撃を、耐えたというのか……!?」

「すごい……ほのかちゃん。すごいで!」

「今度は……こっちの番なの!」


 ウィルをリースリットに向けてしっかりと腰をえて構える。

女神の紋章が現れ、魔法陣が展開されウィルに魔力が集束する。


「ホーリー……バスターーーーーーッ!!」


 フォトンブレイザーを超える砲撃がリースリットに向かって放たれる。

驚きで挙動きょどうの遅れたリースリットは回避が間に合わなかった。


「っ!? ……ヴァルキリーシールド!!」


 だから彼女は防御魔法を展開する。そこにぶつかる砲撃。

大きな質量を持った砲撃による衝撃が腕を伝って襲いかかる。


負けられない! 彼女は自分の攻撃を受け止めたんだ。なら、自分にだって受けきれる!!


「ああああああああああああああああああああっ!!」


 雄叫びをあげて残る魔力を注ぎ込み障壁をより強固なものにする。

更に四大属性の盾も合わせて一つにしほのかの砲撃を耐えしのいだ。


「はあ、はあ、はあ……!!」


 残る魔力は飛行するだけで精一杯の量。

だが、向こうも今までの戦闘を考えればもう底をついた筈。


「っ!?」


 しかし、次に彼女を待っていたのは桜色の捕縛魔法。

自分を幾重いくえも縛る魔法に彼女は驚愕きょうがくの表情を浮かべた。


まさか――――!!


「ウィル、オーバーリミッツ……レベルⅡ!!」

[Yes,Master.Over Limits LevelⅡッ!!]


 頭上を見上げるリースリットの目に映るのは……膨大ぼうだいな魔力を集束させるほのかの姿だった。

その魔力は、ホーリーバスターなど比ではない量だった。


「バレル解放、魔力全開ッ!!」


杖の先が展開、大型バレルが起動し桜色の魔力が集束を始める。

彼女の立つ場に巨大な魔法陣が広がった。


「リースリットちゃん。これが私の全力!! 私の想いの全てなのっ!!」


 ほのかの後ろにひとみを開けて杖を構え翼を大きく広げ羽を舞い散らす女神の紋章が立体的に現れる。

足下に展開する巨大な魔法陣。大気に稲妻いなずまはしり、魔力波で風が起きていた。

桜色の大きな翼、それがとても美しくそして……荘厳そうごんな様を見せる。


「私の想い……受け取って!! 魔力全開、一撃必倒!! ホーリーライトオォォォ……ジャッジメントーーーーッ!!!」


 ウィルより放たれる超極太の集束砲撃。

ホーリーバスターを優に三倍を超える大質量の閃光がリースリットを包みこんで行った。


 巨大な閃光が駆け抜けて消滅し、落下するリースリットが見えた。

気を失ってるのか、地面に真っ直ぐに落ちて行く。


「リースリットちゃん!!」


すぐにほのかは助けようと後を追う。

しかし、全てを出し切ったほのかには追いかける程の体力も魔力も残されておらず自身もほぼ落ちる様な形だった。


地面に叩きつけられる寸前……二人の落下地点に一人の人物が入って受け止める。


「ったく、暴れ過ぎだっての」


ツンツンの紅い髪に月の様な金の瞳。ほのか達の頼れる存在、バルドが二人を受け止めてくれたのだ。

宙にわずかに浮かんで片腕で二人を抱えるバルドは小さく嘆息しながら言う。


「勝負あり。勝者、皐月ほのか」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「う……ん…」


重く閉じたまぶたがゆっくりと開いた。

ぼやけた視界は徐々に焦点があってハッキリとする。


リースリットの目に最初に映ったのは、自分を覗き込むバルドとほのかだった。


「目が覚めたか?」

「……あ」


 バルドに抱き抱えられているリースリットはそこにきて自分が負けた事を思い出した。

自分の最大の魔法を当てたのにほのかは立っていた。

なぜ彼女はあれ程の魔法を受けても立ってられたのだろうか。


ぼんやりと考えていると、その答えが二人の会話に出ていた。


「しっかし、よく耐えたなあの魔法。流石に撃墜されたと思ったぞ」

「う~んっと、気合いと…根性? にゃはは……」

[気持ちの問題なのかね?]

[ほのかさんの強い意志がリースリットさんの意志に打ち勝ったということなのでしょう]


 魔剣も加わってそんな事を言い始める。

まあ、それよりも…とバルドはほのかにジト目を向けた。


「その代わりに、リースリットが撃墜された時はきもが冷えた。やり過ぎだっての」

「えっと……ごめんなさい」

「俺にじゃなくてリースリットに言うセリフだろ」

「ご、ごめんねリースリットちゃん!! どこか、怪我してない!?」

「う、ん……大、丈夫…」


バルドの腕の中から降りてほのかと向き合う。

ふと脳裏を過ぎったのは勝負の前の会話だ。


―――私が勝ったら私のお願いを聞いてくれるかな?



 確かそう言っていた筈。

いったい彼女は自分に何を要求してくるのだろうか?


「えっと……リースリットちゃんにお願いがあるの」

「……」

「友達になって下さい!」

「……あ」


 差し出された手を前に硬直する。聖女の様な微笑ほほえみを浮かべたほのかがリースリットの瞳に映る。

それに困惑した今にも泣きそうな表情を見せてリースリットは首を弱々しく振った。


「出来ない……。私には、出来ない……」

「どうして?」

「だって、だって……! 私は……友達になる、方法を知らない…」


 ずっと一人だった。誰とも関わりを持とうとしなかった。

だから友達なんて存在しない。作り方も知らないしなり方も知らない。


ほのかの願いには応える事が出来ない。

眉を下げてうつむくリースリットを見て、ほのかは彼女の右手をそっと掴んだ。


「っ!」

「……そんなの簡単なの」


胸の位置まで掲げて両手で包み込む。

その答えは知ってる。


大切な親友の二人から教わったから……



――…ちょっと、ほのか

――ふえ?

――あんた、なんであたし達をレイスタードと如月って呼ぶのよ?

――え? 呼んじゃいけないの?

――ダメって訳じゃないんだけど……なんというか、ちょっと余所余所しく感じるのよね。

もっとこう……だから、あ~…その……

――くすくす♪

――あ~~もうっ!! だからっ、あたし達を苗字みょうじじゃなくて――!!



「名前を、呼べばいいんだよ」


リースリットが目を見開く。

親友二人から教わった魔法の言葉。


自分を孤独から救ってくれた言葉を、今度はリースリットを助けるために彼女に伝える。大事な友達になりたい彼女へと…。


泣きそうな顔のままでリースリットの震える唇が動いた。


「ほ…の……か?」

「…うん」

「ほ、の、か……」

「うん…」

「ほのかっ!!」

「うんっ!!」


 名前を言った瞬間、ほのかも笑顔で返事を返した。

溢れ出る涙が止まらない。こぼれ落ちて行く涙をぬぐう事なくリースリットはほのかを見る。


その彼女にほのかはそっと両手を握った。


「それに私だけじゃないよ」


 見守っていたフィリス達の方を向く。

それが意味するのを悟ったフィリス達は二人の方へ歩み寄る。


「独りが辛いなら、二人で手をつなごう。二人でさびしいなら、みんなで手をつないで輪になろう」

「リースリットちゃん。いまなら、友達になってくれるんよね」

「リースリット、私達も友達なりたいんだ」


 自分を温かく囲んでくれるフィリス達。それを見てますます涙が溢れて来た。

涙でぐちゃぐちゃになった顔でほのかをもう一度見る。それにほのかはにっこりと笑った。


「だから、名前を呼んで……リースリットちゃん」

「あ…っ……ほのか! ほのかほのかほのかああぁぁぁぁ!!」

「うん。うんっ!! そうだよ、私はほのか。皐月ほのかなの!」


 リースリットは彼女に抱きつく。何度もほのかの名前を呼んだ。

抱き付くリースリットの背中にそっと腕を回して抱きしめ返す。

 両方とも溢れ出る涙を拭う事なく流し続ける。

人と仲良くなるとはこうも温かいんだと教える様にギュッと強く…強く抱きしめる。


「やっと…名前を呼んでくれたねリースリットちゃん」

「うわああぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 遂に声を上げて泣き出す。溢れ出て、止まらない感情を全て外に表す様に声の限りリースリットは泣いた。

そんな二人の少女の頭に、ずっと見守っていてくれたバルドが何も語らず手を置く。

言葉なんて今は不要だ。ただ彼も、静かに普段は見せない微笑ほほえみを浮かべるだけだった。


「ぐすっ……。良い話じゃねェか」

「ホントだぜ。ずずっ……!」

「なんだ、プレセア。お前も泣いてるのか?」


鼻をすするプレセアを見て聞いてくるユグドラ。

それに腕で目元をぬぐって、しかし再び涙が浮かんで目をにじませながら答える。


「う、うるせえ! そういうユグドラだって泣いてんじゃねえか!」

「私のは……溶けた雪だ」

「霧島さん。ハンカチ貸す?」

「オウ、すまねェ…」


 涙を拭いてから鼻をかむ。

その場に居合わせた仲間達全員が感動的な光景に目を細める。

リースリットの使い魔であるアウルも、口元を扇子で隠し目を細める。

隠しきれない涙がその頬を伝うのをそのままに…。



そしてエメローネは何処か懐かしいものを見ている様に見つめていた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



~~第六都市 レザーノ付近の平野~~



雷の魔力素が豊富に存在する第六都市地域。


「……んで、やられておめおめと逃げられたってか?」


 その平野部にて一人の男のあきれた声が聞こえる。

それに対して彼の開いている携帯端末から五月蠅うるさい声が響いた。


『ふざけるな!! 僕はあんな奴らに負けてない!! 部下が弱くて役に立たなかったんだ!!』

「はいはい……」


 ヒステリック気味に画面越しに怒鳴り散らすのはクラスト・シームレスその人だった。

それを聞いている彼はどうでもよさそうに聞き流している。


『おいっ!! 僕の話を聞いてるのか!!』

「うっせーな。耳元でぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねえよ」


 遂に心底うんざりした顔をして返事を返す彼の名は『ジャン・バジーナ』という。

ぞんざいに切り揃えられた青い短髪に茶色の眼。がたいの良い体付きをしたまだ三十路みそじもいかぬ青年だ。

ここ、第六都市の警備を担当するタスクフォース第四部隊総大将だ。一枚も二枚もクセのあるタスクフォースにしては珍しい真っすぐでバカ正直で有名な人物だ。


「そもそもお前の警備のやり方が悪いから逃げられたんだろ。俺に愚痴ぐちられても知らねえよ」

『なんだと!! 僕のやり方がおかしいって言うのか!!』

「ってかお前、しばらく見ない内に随分と大きくなったな……顔が」


ジャンの端末に映されているクラストは前に見た時よりも倍近く顔がれてふくらんでいた。


「……お多福たふく風邪か?」

『違う!! これは、あの褐色女の所為だ!! あいつは許さない。僕の人形を壊して絶対に許すもんか!!』


 今思い出すだけでも忌々(いまいま)しい女性。歯軋はぎしりをして憎悪ぞうおの表情を浮かべる。

次に会った時は僕に手を出したこと後悔させてやる。

そう言ってから通信を切断際にジャンの端末にデータが送り込まれた。


『とにかく、こいつらを見つけたら絶対に捕まえろ!! そして、僕に知らせるんだ!!』


 言いたい事を全部言ってクラストは一方的に通信を切った。

残されたのは三名の顔写真の張られたデータだけだった。


「つっても、こっちも忙しいんだけどな……」


 背後から迫る気配に端末を閉じて上に軽く放り投げる。

左足を軸にその場で回転しグレートソードを両手で持って一閃、飛び掛かって来た影を両断する。


 地面に転がり落ちるもの、それはBランクの鳥型モンスター『サンダーバード』の亡骸なきがらだ。

倒したモンスターの残骸を見下ろしながら彼はグレートソードを脇の地面に突き刺し、落ちて来た端末をパシッと取る。


「最近増えたモンスターの討伐で人員けねえんだけど」


 否、それは地面ではなかった。

彼の立っている小高い山は積み上げられたモンスターの亡骸なのだ。

雷鳴とどろく中で雷光を背に立つその姿は悪鬼の様に見える。


討伐隊に参加していた一人の隊員がその姿に思わず息を呑む。


「す、すごい……たった一人でBランクのモンスターを…」

「そういえば、君は最近入隊したばかりの新人だったね」


 隣にいた先輩隊員が声を掛け、ジャンのほうを見る。

もう何度も見て来たが、何時見ても恐ろしくも頼もしい、そして高揚こうようする立ち姿だ。


「あの人こそ、タスクフォース第四部隊総大将『ジャン・バジーナ』一等空尉だ」

「『落雷のジャン』!? 確か、Sランクのモンスターを単独で倒したっていうあの……!?」

「『ダイヤモンドハード討伐作戦』は有名だからね知ってて当然か」


 先輩隊員から再び総大将に視線を送る。

まだ若い歳であるにもかかわらずタスクフォースに抜擢ばってきされた一流の魔法士。その立ち姿は知らず知らずの内に体の奥底から高揚感こうようかんを与えてくる。


「さて、まだモンスターは残ってる隊長に負けない様に我々も頑張ろう」

「は、はいっ!!」


敬礼して返事を返し二人の隊員は戦闘を再開する。



 そんな羨望せんぼうの眼差しがあったのも知らないでジャンは端末を開いてクラストの送られたデータをながめていた。その中で目に留まったのがバルドだった。


「へぇ…大剣使いか。俺と同じじゃねえか。ちょっと会いたくなって来たぜ」


まあ、この討伐作戦が終わって平穏へいおんが戻れたらの話だけどな……。

そうつぶやいて彼はグレートソードを死体の山から抜いて最前線へと足を運んで行った。







遂に決着。

お互いの全力を出し切って、戦った。


持ちうる全てを出し、ほのかは勝ち、リースリットは負けた。

しかし、その代わりにリースリットは温かな居場所を得る。友達という温かく優しい場所を……。


それでは、次回もよろしくお願いします。


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