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第五十話 強さ


五十話更新。


強くなりたい。もっともっと強くなりたい。

でなければ、永遠にあの人を超えられないから……。

だから、彼女は強くなりたいと願う。


彼の様な強さが欲しい……そう願わずにはいられないのだ。






 広大な宇宙。無限に広がる星達の煌めき。

永遠に続く闇の抱擁の中で全ての星達は長き刻をその一生を終えるまで抱かれる。


 だが、その星達を呑み込む蠢く闇が宇宙空間に現れる。

宇宙を包む闇よりもなお暗い闇は広がり一つ、また一つと生命のいる星を闇の中へと消していく。


止まる事のない侵食の前に無数の空間が開く。

そこから戦艦が一隻、また一隻と姿を見せる。

多種多様な国旗に、統一されていない形状……しかしその外壁に示されている紋章は全て同じ。


 そこから出撃するのは機械人形。

人に似せて造られた姿に光る双眸を持って火器を携えて宇宙を飛ぶ。

更に空間から飛び出して現れる物体。


 液体金属の様に蠢く表面を持った巨大なそれと周囲を飛ぶ機械人形よりも小さな小型飛行物体。それだけでない、さまざまな姿を持った者達が集結して広がり始める闇の前に立ちはだかった。


 機械人形を出撃させた艦隊の母艦と思われる大型艦が信号弾を飛ばす。

合図と共に全ての者達が攻撃を開始。艦隊も持ちうる全ての火器を使用して星達を呑み込む闇へと攻撃を開始した。

 闇の中へと吸い込まれるビームやミサイル。

奥底で煌めく閃光。爆発が起きて彼等の前を爆発による光が彩る。


だが、圧倒的数の火器攻撃が襲っても闇は侵食を止めない。

爆発の光が消えて再び闇が覆う。


 そして、その奥で見える無数の八色の光。

赤、青、黄、緑、白、金、紫、黒。眩い光……否、弾幕が彼等に襲いかかって来た。

穿たれ撃墜される仲間達を乗り越えて彼等は攻撃を続ける。



果敢に攻撃を続ける彼等の背後で空間が割れ、中から数十キロにも及ぶだろう大型の飛行物体が姿を見せた。

彼等の切り札と思われる物体の先に搭載されている発射口にエネルギーが集中、大出力の砲撃が闇へと撃たれる。


 それすらも闇は呑み込み無効化する。

そして、いままで沈黙を続けていた闇が遂に動き出した。


闇の空間から出てくる手。それだけで彼等の戦艦を超える。

無理矢理裂く様に空間を押し開いて禍々しいマーブル模様の空間から見える真紅に光る無数の眼。


中央に十字架のある六芒星が描かれた紅き瞳は邪魔する挑戦者達を睥睨する。

深淵の闇に包まれたそれは龍……いや蛇の様な姿をしていた。



 攻撃され続けているのに全く効いている様子はない。

その存在が小さく口を開く。十字に裂ける口から白い蒸気が漏れる。

白色矮星よりなお明るい光がそこから覗いて宇宙を照らした。



 大きく息を吸って体を軽く反らした蛇が光を吐きだす。

全てを白に染め上げる光は挑戦者達を呑み込み、切り札と思われるものすら爆発も起さず蒸発して消え去る。射線上やその付近にいた惑星すら吹き飛ばし宇宙の彼方へと飛んで行く。


明確な攻撃を始めた彼のたった一度の攻撃で行く手を遮るもの全てが消し飛んだ。


 赤熱した空間に佇む大蛇。闇のオーラに包まれたその存在はまるで邪神の様にも見えた。

その瞳がこちら・・・を向いて……宇宙を恐怖で震わせる咆哮を上げたのだった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「っ!?」



 眼が覚めて飛び起きる。

周りを見渡せば寝る前と変わらぬ小屋の景色。さっきまでいた宇宙空間は何処にもない。


夢?


 冷や汗で冷たくなった身体、激しい動悸のする胸に手を当ててホッと息を吐いた。

あまりにも恐ろしい存在だった。あんな生き物がいると思うだけで背筋が凍り付きそうだ。


 でも夢だ。そんな生物など存在する訳がない。

夢でよかったと安堵し身体の緊張が解けると今度は傍らに寝ていた筈のバルドがいない事に気付いた。

一瞬だけ不安が過ぎったが、彼女の鼻孔を空腹を誘う香りがくすぐってきた。


「おっ、眼が覚めたか」


そこには先に起きていたバルドが暖炉の火を使って調理をしている最中だった。

牛乳に野菜を加えてコトコトと煮込んでいる様から彼はシチューを作っているのだと分かる。


「ん、いい感じだな。……ほれ」


一口含んで納得のいく味だったのか満足した表情で頷いた。

そしてシチューを持っていたお椀に装ってベッドの上にいるリースリットへと近づき差し出した。


おずおずと彼女は受け取ると頭に手が乗せられてくしゃりと撫でられる。


「腹減っただろ? それ食って身体暖めておけ」


 フッと柔らかな笑みを浮かべるバルドから視線を落としてシチューを見る。

乳白色の液体に浮かぶ彩り豊かな野菜と立ち昇る香りが食欲をそそる。


くぅ~と少女のお腹の辺りから可愛らしい声が聞こえた。

正直者のお腹の声にバルドがプッと噴き出し、リースリットは顔を紅く染める。

恥ずかしさを誤魔化す為にスプーンでシチューをすくって口に運んだ。


「……美味しい」


 胃に暖かなシチューが落ちる感覚が伝わってくる。

同時に舌から脳へと伝達される甘美なる味に彼女は素直に感想を零した。


 一口味わえば止められない。

無心でリースリットはシチューにパクつく。

もきゅもきゅと食べる小さな少女の姿を、バルドは微笑ましく眺めていた。


三杯ほど頂いて彼女の胃袋は満足したらしい。

作ったシチューもだいぶ減っていた。


「もういいのか?」

「ん……」


お椀を返すリースリットが返事をする。

んじゃ、残ったのは俺が食うかとバルドは自分のお椀を取って残ったシチューを食べ始める。


[おっ、相棒に嬢ちゃんおはようさん!!]

[おはようございます。若、そしてリースリットさん]


そこにタイミングを計ったかのように姿を見せるケルベロスとバハムート。

姿を見せた魔剣達に対してバルドは食事を中断してねぎらいの言葉を掛ける。


「昨日はご苦労だったな」

[さみぃ世界で立ちっぱなしで凍る所だったぜウヒャヒャヒャ!!]

[本当にそのまま氷漬けにされて永眠すれば良かったのに……]

[なんだとぉ? デカイ口叩くじゃねえかトカゲやろう!!]

[なっ! 私は高貴な竜族です!! そこらの爬虫類と一緒にしないでください!!]

[竜もトカゲだろうよ! 何も違わねえってウヒャヒャヒャ!!]

[その下品な笑いを止めなさい!! これだから犬は……!!]

[おい、いま犬って言ったか!? 俺をそこらのワンコロと一緒にすんな!! 俺は地獄の門を守る由緒ある番犬だ!!]

[ふん、犬だという事に変わりはないでしょう? お座りでもして尻尾でも振ってればいいんです]


労いの言葉を掛けた後に食事を再開するバルドを余所に、ケルベロスとバハムートがなにやら言い合いを始めた。そして、バハムートの一言でぷちんと何かが切れる音が聞こえた様な気がする。


[……よぉ、久々に切れちまったよ。ちょいと表に出ようや]

[ふん、地獄を守る程度の三つ首が天より竜帝の名をたまわった私に勝とうというのですか?]

[テメーこそ、地獄のなんたるかも知らねえ小娘のクセしてデカイ口叩くなよ? いまから調教して態度改めさせてやるぜ!!]

[どうやら貴方を躾ける時が来たようですね。どちらが上かこの際ハッキリと決めましょうか!!]


 魔剣同士が互いを密着するほど近づいてギリギリと擦れる。

激しい火花を散らし、いまにも怒りのボルテージが最高潮で爆発しそうだ。


だが、その両者の背後にゆらりと立ち上がる影が一人。

振り下ろされる二つの拳骨。重く鈍い音が部屋に響いた。


「うっせーぞお前等!! 食事中くらい静かにしやがれ!!!」

[[………すんませんでした(すみませんでした)]]



……強者はただ一人である。



ったく、と床に腰を下ろしたバルドは朝食を再開する。

刀身からコブを出し地面に突っ伏す二振りの魔剣にリースリットは近づいてしゃがんで覗き込む。


「……大丈夫?」

[若の拳骨……痛い]

[魂を揺さぶる…良いパンチだ、ぜ]


 骨身にみている様である。

恐るべきは魔剣すら黙らせるバルドの拳か……。


暫くして食事を終えたバルドは食器などを片付け終えると暖炉の火の始末をして出立の準備を始める。


「リースリットこれを着とけ」


 渡されたのは彼の着ている漆黒のコート。

それを子供のサイズにしたものだった。


「それで少しは寒さも和らぐ。マジックアーマーの上から着ておけ」

「ん……」


 魔力で修復したフォルテを起動してアーマーを展開。その上からコートを羽織る。

リースリットがしっかりと着こんだのを確認してからバルドはドアを開いた。


 吹き込んで来る冷たい風が小屋に入ってくる。昨晩からの吹雪は若干だが弱まって視界は確保出来た。白い吐息を吐きながら吹雪の中を二人は進むのだった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 吹雪の中を進む二人を待っていたのはモンスター達の襲撃だった。

氷原にのみ生息する『アイススパイダー』、氷の礫を風と共に飛ばし攻撃してくる『ブリザードホーク』、氷の岩を積み重ねた宿を持つ『ブルーロックハーミットクラブ』。


 どれもこの雪の世界にしか生息しないモンスターでランクもD、C、+Cとなかなかに手強い。

凍てつく糸を吐いてバルドの動きを封じようとするアイススパイダー。

ケルベロスに漆黒の炎を纏わせてそれを切り裂いて頭上に飛ぶ。


 そこを飛行できるブリザードホークが距離を詰めて自身の周りに氷の礫を生み出して風に乗せて飛ばす。降り掛かる礫を剣先から衝撃波を出して吹き飛ばす。

そのまま衝撃波がブリザードホークに命中して怯んだ相手は後退する。


 地上に着地したバルドはすぐに地を蹴って駆けだす。

その直後に彼のいた場所に氷弾が撃ち込まれる。ブルーロックハーミットクラブの両鋏から繰り出される弾幕を地を駆けて避けて行く。


 上に飛び上がったバルドは両手に持つ大剣に魔力を通し上段から振り下ろす。

自慢の宿に身を隠し叩きつけられる剣から身を守る。驚異的な強度を誇る宿は砕ける事はなかったが衝撃で巨体が浮いて転がった。


 その間に八つの足を動かして接近したアイススパイダーが鋭い牙でバルドに噛みつこうと飛び掛かる。

バハムートをその場で上に投げてから身を低くして牙を避ける。

彼はそのまま胴体の下に潜り込んで手を伸ばし捻り潰す勢いで掴んで地面に叩き付けた。


「悪いが、容赦はしない。深淵の炎……。爆ぜろ、業火滅掌」


 もがくスパイダーの上に乗ったバルドの掴んでいる手に闇の炎が宿る。

光が炸裂すると同時に爆発が起きる。白煙を上げるバルドの手の先にいたスパイダーはおらず消し飛んだと思われる。


 上空からブリザードホークが急降下し強襲を仕掛ける。

冷静にバルドは手をその場から水平に出すと上に放り投げたバハムートが彼の手の位置に正確に落ちて来た。


「獄炎剣!!」


振り向きざまに一撃。地面に叩き付けた剣から闇の業火が巻き起こる。

闇の炎に焼かれブリザードホークの肉体が塵も残さずに大気に消え去る。


最後に宿がひっくり返った所為でなかなか起き上がれないブルーロックハーミットクラブにケルベロスを突き刺し止めを刺した。





 バルドの戦いを後方で待機させられていたリースリットはジッと見つめていた。

その動きには一切の無駄がなく確実に相手を倒す事だけを念頭に置かれたものだった。


冒険者をやっているだけにモンスターを倒す事になんの躊躇ためらいもない。


(あの動きを真似できたら……)


グッと拳を作る。もし、彼の様に戦えたら結果は変わっただろう。


(もっと、強くなりたい……!!)


 心の底からそう願った。

リースリットの背後で地面が静かに盛り上がる。

その些細な動きに、彼女は反応してフォルテを持つ手に力を込める。



 雪原から鋭利な切っ先を持った尾の様なものが飛び出してリースリットに向かって頭上から襲いかかる。

それを彼女は冷静に飛び退く事でかわし、身を翻して自分を狙う敵を確認する。



 地中から身を躍り出したのは群青色のサソリの姿に似た大型モンスターだった。

『キラーアンタレス』と呼ばれる体長10メートルの+Cランクの凶悪なモンスターで、尾に生えている鋭い針と分厚い鉄板すら紙の様に切るハサミで攻撃してくる。


 この地域に住むモンスターの中では上位の位置に立っており、その名の通り人に及ばずモンスター達にすら恐れられている。

生息地に反して得意属性はなく、弱点属性もないのが特徴。餌は、動くもの全般である。


[キシャーーーーーッ!!]


 雄叫びを上げてリースリットに黄色い双眸を向ける。

無機質な殺気を臭わせない視線が彼女に突き刺さる。


 迎え撃とうと戦闘態勢に入るリースリット。

スッと瞳を鋭くしてキラーアンタレスを倒そうと一歩踏み出す。


 眼の前で動いたリースリットを獲物と判断。キラーアンタレスは鋭い尾先を彼女に向かって伸ばした。

両足に雷を纏わせて高速移動で回避、キラーアンタレスへ肉薄する。


 振るわれる左の鋏の攻撃を地面を蹴って飛行し頭上に飛ぶ。身を翻しフォルテを振り下ろす。

頭部を狙って振り下ろされる一撃を尾で遮られ弾かれる。


 弾いたキラーアンタレスが器用に尾を横に回転させる。鞭の様にしなって飛んでくる攻撃を避けて頭上から雷槍の雨を降らす。

金の爆発が巻き起こって煙の中に相手の姿が隠れる。


 雄叫びで煙を吹き飛ばし頑丈な甲殻に僅かな焦げ目を付けただけの姿を見せる。

頭上にいる彼女を串刺しにしようと連続で尾を伸ばし打ち込んで来る。


素早い動きでそれ等を避けてから再度弾幕をつくって飛ばし目晦ましする。


「フォルテ!!」

[Over Limits,LevelⅠ!!]

「デュアルザンバー!!」


 彼女の後ろに戦女神の紋章が立体的に現れる。

双剣に切り替え彼女は雷光となって急降下。

地面すれすれで軌道を変え、地面と水平に飛ぶ。


 立ち込める粉塵を吹き飛ばしながらキラーアンタレスが飛び出して彼女に向かって真っ直ぐに突撃してくる。

六つの足を動かし重量ある音を響かせながら迫る相手をリースリットは恐れずに突っ込む。


 そして、互いの射程に入った瞬間―――キラーアンタレスはその巨体を浮かせ飛び掛かって来た。

百キロ以上もある巨大な体が軽々と飛んで少女に鋏と尾の三方向からの同時攻撃を叩き込む。


地響きと激しい揺れが起きる。

雪の舞い上がる攻撃箇所に、リースリットの姿はない。


キラーアンタレスの真上に浮かぶ影。紙一重でかわしたリースリットが重力に従って真っ直ぐに落下して地面に突き立てられている尾先をフォルテで貫いた。


[シャーーーッ!!?]

「はああぁぁぁぁ!!」


素早く振り抜き相手の鋭い針を持った尾を斬り落とした。

悲鳴を上げて踏鞴たたらを踏むキラーアンタレス。弱っている今がチャンス。


リースリットが魔力を纏って姿勢を落とす。


「ナイトチャージ……!!」


雷を足に集中させて駆けだす。一歩踏み出すごとにその速さは上昇し、最後には眼にも止まらぬ速さへと辿り着く。



残された武器のはさみを振りかざし彼女を倒そうとする。

しかし、それは空を切って視界から彼女の姿が消えた。


振り抜かれるはさみの影からリースリットが飛び出す。

両手に持つフォルテから雷の魔力が迸る。


「ライトニング、ストライクッ!!」


 攻撃後の硬直で隙だらけのキラーアンタレスへ向けて彼女は渾身の一撃を叩き込んだ。

頭部へのダイレクト攻撃を受けたキラーアンタレス。その強固な甲殻に亀裂が奔り、悲鳴を上げて仰け反った。


「ヴォルトランサーーーッ!! 焦がせ、シューット!!」


素早く展開した魔法陣。キラーアンタレスの頭上にも同様の魔法陣が展開され、そこから雷が落ちた。

高電圧の雷を全身で浴びて黒焦げになったそれは地面に倒れ伏し絶命した。


「なかなかいい動きじゃないか」

「……まだ、足りない」


 彼女の動きを見て褒めるバルドだがリースリットは頭を振って否定した。

そして、リースリットはバルドの方を真っ直ぐに見上げる。


「もっと…もっと強くなりたい」


 小さく呟かれた言葉に彼は表情を僅かに険しくする。

キラーアンタレスは並みの魔法士や冒険者が単独で倒せるほど簡単な敵ではない。

それを単身で、しかもまだ年端もいかない彼女が倒せた。これだけでも十分だというのにまだ強さを求める。


少女の異常なまでの強さへの欲求にバルドは小さな危機感を覚えた。


「リースリット、お前はなんで強さを求める」

「あの人を超えるため……」


返ってきた言葉はそれだった。

あの人、シルヴィアを超えること…。それがリースリットの強さを求める理由だった。


「わたしは……」

「ん?」

「あなたみたいに強くなりたい…」


 眼の前にいるバルドを見て素直な感想を伝える。

バルドの実力は相当なものだ。闇属性の魔法士でありながら魔術にも精通し身の丈も超える大剣を軽々と振りまわす。


 なにより、バルドはシルヴィアの攻撃を弾いた。

自分には出来ないことを彼はやってのけた。


 虚無属性という未だ解明されていない点の多い希少属性。

それに対抗してみせた。



この人みたいな力が欲しい……。



そうすれば、自分の求める願いも叶うかもしれない。

だが、バルドは彼女の感じた事に対して首を振って否定した。


「俺は強くなんかない」

「うそ……」

「本当だ」

「でも、一人で戦ってきたんでしょ?」

「まあな」


別に隠す理由もないので肯定の返事をする。それにリースリットはやはりといった様に確信を得た様な顔になった。


「けど、それが強さに繋がるって考えは間違ってる」

「え……?」


真剣な眼つきでバルドは否定する。

膝を片方ついてリースリットと眼の高さを合わせると逆に質問をして来た。


「リースリット。強さってのはなんだ?」

「……だれにも負けない力じゃないの?」


 前にも同じ質問をされてたのを思い出し、同様の答えを返した。

あるていど予測はしてたのか、バルドは首を振って違うと言って彼女の両肩を優しく掴んでさとす。


「リースリット。その考えはいつかお前を苦しめる。強さには大きく分けて二種類ある。誰にも負けない孤独な強さと誰かと共に高みを目指す強さだ。けど、誰にも負けない強さには限界がある」


 誰にも負けない力の限界…。それは並び立つ者がいないということだ。

だが、人は孤独では成長しない。頂点に達した時点でその強さは限界に至る。

人には必ず競い合える者が必要である。それがいるいないで人の能力はガラリと変わってしまう。


それは強敵でも家族でも友達でもいい。肩を並べられる相手が傍にいるだけで人は成長するのだ。


 誰にも負けない力を求めて己を破滅の道を辿たどった者は数知れず。

彼女にはそんな道を進んでほしくない。


「いままでは一人だったかもしれない。……けど、いまのお前の傍にはアウルがいる。孤独になる考えは捨てろ。もう、お前は独りでいたあの時とは違うんだ」


目を見開いて黄金の瞳を見つめる。

驚きを隠せない様子のリースリットに今度は笑みを見せてもう一つ言い加える。


「アウルもそして…俺もお前の前から絶対にいなくならねえ。約束する。だから、お前も孤独の力に頼ろうとするな。守る力を手に入れろ」

「守る、力……?」

「誰かを守る力ってのは人の限界を超える。他者を倒す力をただ手に入れようとするな。誰かを守る為に他者を倒す力を手に入れるんだ」


 誰かと共にいれば必ず守りたい者が出来る。それは友達、家族、恋人……数え上げればきりがない。

そしてその力は守りたい者の数だけ比例して増すのだ。


 守りたいという意志は人にかつてない力を与える。

守りたい者の為に己の限界を超えて戦った者達もまた数知れず。

皆、一筋縄ではいかないつわものだった。


「強くなれリースリット。守りたい意志を持てば、お前の見ている世界はもっと広がる」


頭に手を乗せてくしゃりと撫でる。

ツインテールの綺麗な金の髪がサラサラと揺れる。


「ん……」

「だからお前は……俺みたいになるな」

「……え?」


最後に呟かれた言葉を聞き取れなかった。

なんと言ったのか聞き返そうとしたが、その前にバルドがもう一度少し強めに撫でてから立ち上がってタイミングを逃し聞きそびれる。


「守る為の力……。それを持っている奴がいる。それが、ほのかだ」

「っ!」


 脳裏を過ぎる一人の少女。光属性の砲撃魔法士…。

初めて会った時は素人丸出しの動きをしていて警戒する必要もなかった。


 でも、いまはどうだろうか。彼女は見る見るうちにその力を上げていき、気付けばすぐそこまで近づいている。

有り得ない速さで実力を上げて、もう追い付かれそうだと先の戦闘で実感していた。


(あの子が……)

「ほのかは不思議な奴でな。普段は弄り易いチビッ子で毎回トラブルを運ぶ困った奴だが……あいつの周りはいつも賑やかだ」


 人を惹きつける力があるのかもしれない。

気付けば彼女は多くの仲間、友達が出来た。


「守りたい奴らが沢山出来た。だからほのかは強くなる。そして、もう一つはリースリット、お前だ」

「わ、たし……?」

「友達になりたいからさ」


視線を先にある都市の方角に向ける。彼もほのかの姿を思い浮かべているのだろうか、自然な笑みを浮かべていた。


「猪突猛進、一度決めたら最後まで突っ走る。後先考えないしかえりみない。窮地きゅうちに追い込まれたら気合と根性で乗り切ろうとする」


毎回その尻拭いをさせられている俺の身にもなってみろっての、と笑みを崩さないまま愚痴を零す。


「そんなあいつも、元は独りぼっちさ……」

「え……」

「ここ最近まであいつは魔法が使えなかった。その所為でいじめを受けていた」


 いまよりも幼い頃に彼女はいじめを受けていた。魔法適正があるのに魔法を使えない。

魔法学校では格好のいじめの的だ。マリナや舞華のお陰で今でこそいじめは少なくなった。

ほのかの知られざる過去にリースリットは今の彼女からは想像できなかった。


「だからなんだろうな。お前を見て、自分と重ねたのかもしれない」

「………」


 一昔前の独りぼっちだった自分と、何者も寄せ付けず壁を作っているリースリット……。

違うが似ている。だからほのかはリースリットを追いかける。


 暖かく幸せな気持ちを与えてくれる場所を知っているから。

それを教えたくて、そして仲良くなりたくて…。



 毎回、会う度に悪戯をしてるのに次に帰って来た時にはけろっとして「バルドさ~ん!」っと言ってニコニコと駆け寄ってくる。


 そんな愛らしい姿を見て時々思う所がある。フィリスもあかねも守護騎士も彼女と出会って笑う様になった。

ほのかは元来から人を幸福にさせる力を持っているんじゃないかと、だから彼女の周りには沢山の友達が出来るんだと思う。


 俺もいよいよ菓子娘のお花畑みたいな考えに毒されたか?

心の中でくっと笑ってそれもいいなと納得した。

だからリースリットにも知ってほしい。かたくなに拒まないで向き合ってほしいのだ。


「リースリット、自分から逃げるな。ほのかが真正面から向き合ってるんだ。お前も真っすぐにあいつの言葉を受け止めてみろ。案外、お前の悩みなんて簡単なものかもしれないぞ」

「………」

「さて、寒い事だしさっさと都市に帰るぞ」


 俯いて何かを考えているリースリットへ差し出される大きな手。

それにおずおずとリースリットは手を伸ばして置く。

握られて包まれる互いの温もりを感じながら、彼女は先の言葉を考えるのだった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 第五都市に戻る道の上。いてもたってもいられなくなったほのかが

仲間達と共に吹雪く雪原に立っていた。


「バルドさんとリースリットちゃんの魔力を感じる……」

「そろそろ二人の姿が見える頃だな」


道中いろんなモンスターを蹴散けちらしながら広々とした平原に辿り着いたほのか達。

視界の悪い吹雪の中で二人の帰りを待っていた。


「来た……」


吹雪の向こうに浮かぶ二つの影。

雪を踏みしめて姿を表したのは、間違いなくバルドとリースリットだった。


「ぬしーーーー!!」


 二人の姿を認めた途端、一番先に動いたのはアウルだった。

彼女の使い魔たるアウルは主人であるリースリットの状態を繋がっている魔力回路から分かっていた。

分かっているのに動けなくて心配していたのが、彼女の姿を見つけて爆発したのだろう。


真っ先にリースリットに駆け寄るとそのまま膨らみのとぼしい胸の中に抱き寄せぎゅっとする。


「おぉ、ぬし! 会いたかったえ!! ぐずっ…」

「……アウル」

「元ぬし、わっちのぬしを助けてくれたこと、礼を言うぞ!」

「当然だ。俺を誰だと思ってんだ? お前の元主人で冒険者だぞ。約束は守るさ」

「アウル……やる事があるから少し待ってて」


 そっと抱きしめてくる腕を解いてリースリットはアウルから抜け出す。

視線は既に一人の少女に向けられていた。


「………」

「リースリットちゃん?」


 ほのかへ歩み寄り、少し手前で止まる。

その瞳は何かを決意した様にほのかの目から逸らされることはない。

 それに何かを感じ取ったのかほのかも目を逸らさない。

次の瞬間、リースリットはフォルテを起動。剣先をほのかに向けた。


思わず動き掛ける仲間達だが、リースリットからは敵意は感じられない。

ほのかもまた驚く事はなく受け止めていた。


互いに見つめ合いう中で、リースリットは道中で考えていた自らの答えを出す為に静かに唇を動かす。


「勝負しよう…。きょうここで全てをハッキリと決める為に……」







殺戮凶虫 キラーアンタレス


危険度 +Cランク

属性 なし


 第五都市に生息する大型のサソリ型モンスター。重鎧すら易々と穿つ針を持った尾と分厚い鉄板すら紙の様に切るハサミを持っている。第五都市周辺では上位のモンスターでその狂暴性は人だけでなくモンスターにも恐れられている。

 第五都市まで活動範囲を広げる頃にはちょうど実力のつき始めで自信を持った辺りなので慢心で戦いを挑んで命を落とすことも少なくない。

 得意属性はないが弱点を持たないのが特徴。身を守る甲殻も非常に硬いので戦う時は注意が必要。

別名『中級殺し』、『群青の死神』と呼ばれる。



 次回、魔法少女と魔法少女は激突する。

互いに譲れないものを賭けて……彼女達は空を舞う。


それでは次回も宜しくお願いします。


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