第五話 始まりの洞窟
第五話更新!!
相変わらずの駄文です。
では、本編をどうぞ!!
洞窟内は陽の光が届かない所為か少しジメジメした空間だった。
辺りには苔が生えており、蝙蝠が天井に幾つもぶら下がってこっちを見つめていた。
「此処はまだ入り口にも入っていない。この先だ……」
彼の案内の下、ほのか達の前に立っていたのは大きな門だった。
「すごい……!! 洞窟の中にこんな門があるなんて……!?」
バルドに門に近づいていいかを聞いて、了承を得てから彼女は駆け寄ってそれを興味津々で眺めていた。
「特殊な魔除けの魔法式が組み込まれている……。それにこの素材は、幾つもの属性を織り交ぜた鋼材だ。今の技術じゃセンチ単位ですら作るのが難しいこれをメートル単位で作れるなんて……」
「大昔の奴が作ったらしいからな。昔の人間は相当腕が良かったらしいぜ」
「うん、見ただけで分かるよ。魔除けの効果が失われない様にしっかりとした文字が彫られている。これって、もしかして元は住民の避難所だったんじゃないの?」
その質問にバルドは少し眼を開いて、ほうっと感心したように声を出した。
「よく気付いたな。それは確かに元は市民の避難所だったそうだ。けど、今となっちゃ洞窟内へ追い込んだモンスターを閉じ込める為に使ってるらしいがな」
「本来の役目とは逆の使われ方なの?」
「そうだな。だが、それでもしっかりと人を守るって言う根幹は保たれてるけどな」
ほのかの質問にバルドはそう答えてから門へと近づいてそれに手を触れる。
そして、振り返って二人を見やる。
「この先が新人冒険者にとって最初の試練となる場所だ。辺りに気を付けていくぞ」
それに二人が頷くのを確認してバルドはその門を押した。
意外とあっさり門は開いてその先の光景をほのか達へと見せた。
「わぁ~~……!!」
その光景を見てほのかは思わず感動の声を漏らした。
目の前に広がるのは、古代遺跡の空間だった。
洞窟の中だと言うのに、その様子を一切感じさせない人が住んでいたのを感じさせる景観が目の前に広がっていた。
「すごい……!! こんな遺跡が洞窟の中にあったなんて……!!」
「バルドさん。洞窟の中なのに、明るいの。これって如何いう事なの?」
感動しているフィリスの隣で洞窟内だと言うのに外ほどではないが薄明るい事に気付いたほのかが質問する。
「ヒカリダケっていう茸の一種だな。こいつ等は陽の光の届かない空間を好むんだよ。そんで辺りを明るく照らして生物の視界を確保する。そのかわりに、近づいた他の動物の身体に菌を付着させて遠くに運んでもらって数を増やしているって関係を結んでんだ」
この中に閉じ込めたモンスターが如何やらそれを体に付けていた様でこの遺跡内で数を増やしていった様だ。
そのお陰で洞窟内だというのに視界は三十メートル先が見える位に明るい。
「私の思ってたのとちょっと違うの…」
「うん、そうだね。洞窟だから暗いイメージしかなかったけど、ヒカリダケのあるなしでこんなに違くなるんだね」
「おら、そこで一日を突っ立って過ごす気か? 早く先に行くぞ」
気付けばバルドが少し先へと進んでいた。その後を二人は慌てて駆けて追いかけていった。
彼の後ろを付いていきながら彼女達は辺りをキョロキョロと見渡す。
古い大理石の建物が崩れた状態で幾つか点在していてキノコやコケがこびり付いていた。
その間を三人は通り抜けていく。
「こんなに歴史的遺産があるのに今まで学者が入れなかった理由って、モンスターって事なの?」
「まあ、そうだろうな。傭兵を雇うにも金が掛かるし、危険な場所には違いないからな」
殆どの学者は此処に来る前に入り口付近でモンスターたちに阻まれて断念するのだという。
それ程までに人とモンスターとの実力の差は大きいという事だ。
「SCCAに依頼しても失敗するのが殆どだ。まあ、それもしょうがねえさ。人間を相手に戦う奴が、モンスターみてえに野生本能で生きる奴を相手できる訳がねえ」
だからこその冒険者だ。
そう彼は背を向けつつ語った。
外の世界の事をより身近に感じ、人を襲うモンスターを相手に戦う者達。
「今じゃ、そういう奴らが結集して『ギルド』なんていうのも設立されてるしな。まあ、SCCAの奴等にとってはいい気はしないだろうな」
「私達の都市では聞いた事ないね?」
「うん。知らないの」
「非公式の組織だ。無理はねえよ。まあ、その話は後だ」
話しながら進んでいたバルドが足を止めて膝をついて足下を確認していた。
それに気になって二人も彼の見つめる先を覗き込む。
そこには赤い斑点が幾つも広がっているではないか。
そして、その付近に折れた剣や砕かれた武装の幾つかが転がっていた。
「バルドさん……それって…!?」
「SCCAの奴らの標準武装のもんだな。討伐隊の奴らは、此処までは来ていたって訳か」
そして、此処でモンスターの襲撃を受けたという事なのだろうか?
その壊れた装備の持ち主が如何なったのかを想像してしまい、顔を真っ青にする。
「あいつらでもヴォルフ程度だったら遅れは取らない筈だ。だとすれば、それよりも強いモンスターか……」
残骸を見詰めて冷静に分析するバルド。
その時、前方より大理石の道の上を何者かが歩く音が聞こえた。
[ウグルルル……]
果して姿を見せたのはヴォルフだった。
ただし、そのヴォルフはあの時見た色と全く異なっていた。
灰色だった毛並みは燃える炎の様に真っ赤で、その口からも白い蒸気を零していた。
その狼の数は合計で八体。それが全て三人を睨んでいた。
「あれは……ヴォルフ?」
[いんや違うぜフィリスの嬢ちゃん。あいつは火属性の力を強く受けて突然変異した『フレイムヴォルフ』ってんだ。ランクはヴォルフと同じ最底辺のFランクだ]
[ですがお二人とも、気を付けて下さい。フレイムヴォルフの特徴、それは……!!]
[ウグルルル……。ガアァァァァ!!!]
[非常に好戦的である事です!]
咆えたフレイムヴォルフが一斉に大理石の道を蹴って此方へ突っ込んで来たのだ。
その眼は完全に自分達を餌としか考えていない狩人の瞳だった。
「ほのか、フィリス。お前等はそこにいろ。俺が片付ける」
「バルドさん!?」
彼女達をその場に待機させてバルドが単身で群れに向かって突撃する。
自分達に一人向かってくる相手を最初の標的と定めた八体が一斉に彼に向かって突っ込んで来る。
「行くぞ、ケルベロス!!」
[ヒ~~ハ~~!! いらっしゃいませ~~~!!]
虚空に伸ばした手が空間の中に沈み、中から漆黒の大剣ケルベロスが取り出される。
刀身に漆黒の炎を纏わせたその剣を目の前に飛び掛かってくる一体に向かって一閃する。
一撃の前にフレイムヴォルフは見事に両断されて崩れ落ちる。
仲間を殺したバルドに更に強い殺気を溢れさせ、彼等はバルドを囲んで口より炎を吐きだした。
「バルドさん、危ない!!」
ほのかの悲鳴が響く。複数の方向から迫る炎、それを彼は真上に跳躍してかわす。
「こい、バハムート!!」
[はい、若!!]
左手に新たにバハムートが出現し、その柄をバルドは掴んだ。
そして、大きく上段の構えを取り振りかぶる。
「爆砕斬ッ!!!」
地面にバハムートが叩きつけられる。
瞬間、超重量の一撃を前に彼を中心に地面に大きな亀裂が奔って隆起した。
足下の地面が崩れるのを前に成す術なく吹き飛ばされるモンスターたち。
体勢を立て直そうと必死に動く彼等を逃すまいと、バルドは追撃を加える。
彼の足下から闇色の陣が展開された。
「魔法陣!?」
[いえ違うみたいですよフィリス! あれは、魔法とは違う系統のものです!]
「まさか……!! 魔術!?」
「闇より来たりし光よ、爆ぜろ!! ダークスフィア!!」
詠唱を唱え、魔術が発動する。
すると、一体のモンスターを中心に漆黒の球体が出現して包み込み球体に陣が描かれ完成する。
それと同時に爆ぜて内に閉じ込めていたフレイムヴォルフを消し飛ばした。
体勢を漸く立て直したモンスター達が同時にバルドに向かって飛び掛かる。
それを両手の大剣を軽々と振りまわして瞬く間に四体が絶命させられる。
残った二体は半ば自棄になったのか並んで同時にバルドに向かって駆けてくる。
それを冷静に見てバルドはケルベロスに漆黒の炎を纏わせ、構える。
「黒狼斬ッ!!」
下段より斬り上げが繰り出されて剣より闇の斬撃が地を削りながら奔る。
その斬撃は真っ直ぐに標的の二体へと駆け抜けて大爆発を起こして残る二体を消し飛ばした。
あっという間に八体もいたフレイムヴォルフを片付けバルドは二振りの剣を軽く振るって付着していた血を飛ばす。
「バルドさん……すごい」
初めて見る知り合いの戦いを見せつけられてほのかは呆然としていた。
あの身の丈よりも大きな剣を片手で軽々と振りまわしてモンスターを前に挑む姿は凄いとしか言えなかった。
「ふぅ……。おい、さっさと先に行くぞ。何時までも此処にいると他の奴らが来るぞ」
「ねえ、バルド。さっきのは魔術かな?」
先程の彼が行使した力が気になったフィリスが質問を投げかけてみる。
「そうだな。お前らで言えば俺の使ったのは魔術の部類に入る」
「ふえ? それじゃあ、バルドさんは魔術士なの?」
「正確には魔術と剣術を使える魔剣士って事だろうな」
この世界には魔法と魔術といわれる力が存在する。
魔術は魔法とは違って発動時に詠唱が必ず必要であり、その間は中断でもしない限りは完全に無防備になってしまう。
しかし、一度発動すればその効果は絶大なものだ。
熟練された魔術となればその威力は大規模戦術兵器に匹敵する恐るべき破壊力を持つ。
更に特徴的なのは多くの魔術士は、魔法士とは違って複数の属性を行使する事が出来る。
逆に言えば、ほのか達の様な魔法士個人が持てる属性は一人一つ。
複数持つ為には血に滲む様な努力が必要なのだ。
この事から魔法と魔術の違いとは大きいものがこれに当たる。
バルドの場合、それに加えて近接戦も得意だ。
この両方を兼ね備えている者を『魔剣士』と呼ぶ。
「バルドさんって、ホントはすごい人だったの?」
「如何思うかはお前等が判断しろ。俺は一度も自分がすげぇと思った事はねえしよ」
などという事を言って彼は再び先へと歩き出す。
その先々で少数のモンスターが立ちはだかっては来たが、全てバルドが一人で一蹴し一行は奥へと進む。
「この先が最奥だ。そこに、祭壇がある」
「祭壇?」
こんな奥地に祭壇が置かれているのに首を傾げるほのか。
「何かの儀式に使ってたのかな?」
「さあな。目的は知らねえよ」
それには明確な返答を避けるバルド。
奥にはどんな祭壇があるのだろうか……。
見てみたい気持ちが湧き上がる。
だが、その彼女達の期待を遮るかのように……目の前に巨大な岩が道を塞いでいたのだ。
「あれ? 行き止まり?」
「あ? 何だこの岩……?」
フィリスの疑問の声にバルドも同様に首を傾げた。
通路の真ん中にあるその大きな岩は直径七メートルは下らないだろう大きさでまるで最初からこの場所にあった様な自然な形で鎮座していたのだ。
「バルドさん。この道で本当に合ってたの?」
「確かにこの道で合ってたんだけどな……。前の地震で崩落でもしたか?」
「他に道はないの?」
「先に通じてるのは此処だけだ。って事はあの欠片の奴はこの先には行ってないのか?」
「待って、今から探査魔法をかけて先の様子を見てみるよ」
意識を集中させて前方の気配を探る。
水色の魔法陣が展開されその中でフィリスは眼を閉じたまま先の様子を探った。
幾つものモンスターの反応を捉えると同時に一際大きな反応を彼女は捉えた。
脳裏には、赤い欠片が眩い輝きを放って祭壇の中央で浮かんでいる光景がビジョンとして現れたのだ。
「この先に、あのモンスターがいる!」
「おいおい……この岩を飛び越えて行ったのかよ。空間ジャンプでもしないと無理だぞこれ……」
[あの欠片っ子にそんな芸当が出来るとは思えないんだけどな~?]
首を傾げて唸る二人を余所にほのかは一人、徐にその大岩の前に近づいてみる。
近くに寄るとその存在感は更に大きく感じられる。
「何なんだろう、この岩……」
思わずそれに手で触れてみる。
やっぱりざらついた感触が伝わって来て、自然の土が固まって出来たものだと納得が出来た。
でも、この先に欠片はいる。だが、これを退かさなければ先にはいけない。
如何したものか……と考えていたその時だった。
岩が微かに動いた様な感覚がほのかの手に伝わって来た。
「……ねえ、ウィル。この岩、動かなかった?」
[………………]
「……ウィル?」
[……マスター。急いでこの場から後退して下さい。目の前の岩より生体反応!!]
「えっ……!?」
それと同時にフィリスの持つメローも感知をしたのか、警告の声を上げた。
[フィリス!! あの岩から生体反応を探知しました!!]
「うそっ!?」
「まずい……!! ほのかっ、急いでそいつから離れろ!!」
バルドが声を上げると同時に岩を中心に地面が揺れ始めた。
流石の彼女も身の危険を感じたのか直ぐに身を翻して岩から離れる為に駆け出した。
そして、次の瞬間――!!
[キシャーーーーッ!!]
地面を吹き飛ばして岩が……いや、巨大なヤドカリ型のモンスターが姿を見せたのだ。
「きゃ~~!?」
モンスターが地面から姿を見せた際に発生した衝撃で地面が盛り上がってほのかの軽い体が浮き上がって放りだされる。
「おっと……」
その彼女の落下地点に素早く移動したバルドが彼女を上手くキャッチ。
フィリスの元に戻ってから彼女を降ろした。
「大丈夫か?」
「う、うん……なんとか」
助けてもらった事にお礼を言ってから前を向く。
そこには先程、自分達の道を塞いでいた巨大な岩を宿にするヤドカリ型のモンスターがいた。
真っ赤な甲殻に二メートルは優に超える巨大なハサミ。水晶玉の様な無機質な瞳を自分達へ向けてくる。
「レッドロックハーミットクラブかよ……」
[C級モンスターの中じゃ上位に位置してる奴じゃねえか]
「あれは、どんなモンスターなの?」
[レッドロックハーミットクラブは攻撃的モンスターです。相手が誰であろうと問答無用で仕掛けてきます]
「気をつけろよお前等。あいつの攻撃方法は二つある。一つは巨大なハサミを使った攻撃、もう一つは……」
[シャーーーッ!!!]
咆えるハーミットクラブがハサミを開いてそれを三人に向ける。
すると、ハサミから赤い光が灯った。
「炎弾による連続射撃だ!!」
直後、ハサミから火炎弾が機関銃の如き勢いで発射されてきたではないか。
驚いた二人が慌ててそれぞれの障壁を張る。
その魔法障壁に炎弾が次々に激突して爆ぜる。
「エビなのに火を噴いたの!?」
「此処は火属性の力が強い場所だぞ。エビでも火は噴く」
「そ、そんな解釈でいいの!?」
同じ様に黒い魔術障壁を張って防御しているバルドの言葉にツッコミを入れる。
そんなやり取りが繰り広げられている最中、ハーミットクラブが急に攻撃を止めたと思うと力を溜めてハサミ同士を合わせて巨大な火球を一発発射してきた。
「ふえぇぇ~~!?」
「うそ~~!?」
巨大な火球を前に驚きあたふたする二人。
その彼女達を脇に抱えてバルドはその場より飛び退き、すぐ近くの岩陰に降ろした。
外れた火球が遺跡の一角に直撃して爆発、炎上する。
「いいか? 此処から絶対に出てくるなよ。巻き添えをくらいたくないならな」
そう言い残してバルドは飛び出してケルベロスを片手に戦闘を開始した。
接近してくる彼に向かって火炎弾の雨を撃ち込んで来る。
その中を彼は素早く駆けてかわし、距離を詰めていく。
「黒狼斬ッ!!」
黒き斬撃が地を奔る。それが見事にモンスターに直撃し、煙に包まれる。
だが、その砂煙をハサミで払い元気な姿を見せた。
直撃を受けても平気そうな相手を見ても彼はそれを気にする事なく距離を詰めて一歩手前で跳躍し大剣を振り下ろす。
しかし、その一撃をハーミットクラブは持ち前の巨大なハサミを動かして受け止めて逆に押し返して彼の一撃を弾く。
地上に着地したバルドは直ぐにその場より横へ駆けると同時にそこに相手が火炎弾を連射して撃ち込んできて爆発が起きる。
「うそ……! あの一撃を受け止めた!?」
あの大剣を易々と受け止めて押し返す程の事が出来る相手に岩陰から見ていたフィリスが驚きの声を上げる。
休むことなく撃ち続く弾幕をバルドはかわし、時に接近して近接戦闘を繰り広げる。
「ったく、なんだってこんな場所にC級モンスターがいんだか……」
[此処は普段はE級のモンスターが基本でしたよね? 一体如何したんでしょうか?]
始まりの洞窟はその名の通り、初心者の腕試しの場所だ。
出てくるモンスターも基本は最下位のE級モンスターが基本である。
だが、このレッドロックハーミットクラブはC級の上位……+C級のモンスターだ。
のろい見た目に反して攻撃は速く、使用する火属性も高めだ。宿にこもってしまえば通常の銅や鉄といった武器は刃が通らず折れる。『初心者殺し』の異名を持つ強敵なのだ。
ハッキリ言えば初心者の身に余る存在である。
それがなぜこんな下位クラスの場所にいるのか……。
[憶測だけどよ。あの欠片が関係してんじゃねえか?]
「欠片か……」
弾幕を掻い潜りながら分析する。
最近のモンスターの様子の変化、そして下位クラスの場所に強力なモンスターの出現。
あの欠片が姿を見せてから異常現象が起きているのは確かである。
「面倒くせえ話になってきやがった……」
[そんなめんどくさがりな相棒に、更にめんどくさい事態がやってきやがったぜ?]
[若、騒ぎを聞きつけて他のモンスターもこっちに来てます]
見れば後方よりフレイムヴォルフの群れがこっちへ向かって来るのが見えた。
如何やら、ハーミットクラブのおこぼれに預かろうという算段なのだろう。
[数が増えましたね、若?]
「面倒くせえ……」
普段の口癖を呟くバルド。
その彼を標的に捉えたフレイムヴォルフの群れがハーミットクラブと手を組んで彼へと攻撃を始めるのだった。
「どうしよう……!! バルドさんが……!!」
大群を相手に孤軍奮闘する彼を影から見てほのかはハラハラしていた。
次々に襲い来る牙と爪を捌き、降り注ぐ炎弾の雨を掻い潜る。
「邪魔くせえ! 地顎崩襲撃!!」
ケルベロスを真上に投げて続いてバルドも跳躍。
空中でケルベロスを掴み、身を捩じって一回転した後に落下。
上段に構えたケルベロスを思いっきり地面へと叩きつける。
超重量の大剣が重力も加算され凄まじい破壊力を生み出す。
彼を中心に地面が隆起して噴き出し、周りにいたヴォルフ達を打ち上げた。
続けて降り掛かる炎弾の雨を素早く大剣を持ち直して高速で振るい弾いていく。
何時まで経っても攻撃に決定打が生まれない事に痺れを切らしたのか、遂に今まで一歩も動かなかったレッドロックハーミットクラブが咆えて動き出したのだ。
それに続けと言わんばかりにヴォルフの群れが再びバルドへと襲いかかる。
来る敵を次々に斬り伏せるバルド。
[相棒、後ろだ!!]
[キシャーーッ!!!]
「っ! ちっ!!」
ヴォルフの攻撃に意識が向いていた所為か或いは相手の動きが予想以上に速かったのか、振り向けばそこにはハーミットクラブが二メートルを超える巨大なハサミを振り上げた恰好でいた。
そのハサミが拳の様に振り下ろされる。
咄嗟にケルベロスを上に水平にして構え盾の様にする。
直後に金属音が響き渡った。
強力な一撃をバルドはしっかりと受け止めていたのだ。
彼の踏みしめる地面が僅かばかり沈んでいるのが見えた。
「ど、どうしよう!? バルドさんが……!!」
彼が危ない。
モンスターの一撃を受け止めている所為で今の彼は動けない状態だ。
それを好機と見えたのか、フレイムヴォルフ達が距離を狭めていくのが見える。
何か……何か助ける方法はないのか!?
そして、気付いた。自分の手に握られている杖、ウィルを……。
そうだ。自分は今、魔法が使える!! ならば、この状況を打破する事が出来るではないか!?
そう思った彼女は岩陰より身を出した。
「ほのか!? 危ないよ!?」
「でも、このままじゃバルドさんが危ないの!! 何とかして助けなきゃ!!」
今の自分には魔法がある。なら、今使わずして如何するというのか。
彼は今まで自分を助けてくれた。だから、今度は自分が助ける番なのだ。
その意思が彼女の後ろ姿を通してフィリスに伝わってくる。
「……分かったよ、ほのか」
その決意の姿を見つめていたフィリスもまた何かを決心して岩陰より姿を見せてほのかと並ぶ。
「メロー、私達も戦うよ」
[いいのですか?]
「うん。ホントは怖いけど、でも……やるしかない!」
「フィリスちゃん……」
「ほのか、相手は動きが早い。勝負を決めるなら速攻でやるよ」
「うんっ!!」
ハーミットクラブの一撃をケルベロスで受け止めながらバルドは現状を如何するかを考えていた。
[相棒ピンチだぜ~? ウヒャヒャヒャ!!]
「動けないってのは確かにピンチだな。つーかホントに群れるモンスターを相手にすんのは面倒くせえ……」
[若、如何するんですか?]
現在、彼は片手がヤドカリの一撃を受けているので塞がっている。
もう片手が残ってはいるが、体の向きからしてヴォルフ達を追い払うのには無理がある。
とすれば、残るのは……
「やっぱ魔術でやるしかねえよな」
[詠唱が間に合うかね~?]
「中級までなら間に合うだろ。けど、それじゃあ流石にあの数を一発で吹っ飛ばすには火力が足りねえな」
そうこうしている内にフレイムヴォルフの群れが一斉に動き出した。
身動きの取れない獲物を今度こそ仕留めんとその牙を剥き出しに突っ込んで来る。
しかし、その時だった。
突如、モンスターたちの背後より強大な力が発生したのだ。
それに動きを止めてヴォルフ達は振り返る。
そこに立っていたのは……
「行くよ、ほのか!!」
「うん、任せてなの!!」
ほのかとフィリスが魔力を解放し、杖と弓を構えて立っていたのだ。
二人の背後に女神と人魚の紋章が展開される。
「あんのバカ野郎が……」
[相棒のピンチに颯爽と登場ってか? ウヒャヒャヒャ!!]
「まずは私から行くよ!!」
左手に持っている弓を構え、右手に魔力矢を一つ作りだして弦を大きく引く。
その先端に青い光が集まり、彼女の足元に水色の魔力陣が展開された。
同時に紋章も変化して赤い羽帽子を被っていた人魚が弓を引く格好となって出現する。
「撃ち抜け水流、アクアスパイク!! シューーット!!」
弦から指を離し、矢を放つ。
空気を切り裂いて飛んで行く一本の矢は途中で八つの矢に分裂。
それぞれが正面にいたヴォルフ達に直撃し爆発を起こす。
しかし、煙を破ってヴォルフ達が飛び出して彼女達に向かって突撃を開始してきた。
身動きのできない獲物よりまず先に自由に動ける敵を仕留めた方がいいと判断した様だ。
「ほのか、続けてお願い!」
「行くよ、ウィル!!」
「はい、マスター」
彼女の足元より桜色の魔法陣が出現。背後に翼を広げた女神の紋章が出現する。
周囲に桜色の光弾が幾つも展開され浮かぶ。
「光よ、弾けて!! シャインバレット、シューーット!!」
一斉に放たれる魔力弾。それが再びモンスター達へと直撃、爆発を起こした。
直撃を受けてヴォルフ達が悲鳴を上げて踏鞴を踏む。
直ぐに怒りの表情を浮かべ大きく息を吸う。その口から炎が零れ出て強力な火炎が放たれた。
「今度は私の番だよ!! メロー、アクアウォール!!」
ほのかの前に出たフィリスが魔法を発動。彼女達の正面の地面より水壁が出現し大きな壁となる。
そこに火炎が一斉に激突するが突破には至らなかった。
「此処から……抑え込む!! ツイストカーレント!!」
攻撃していたヴォルフ達の足元よりブクブクと水泡が出てくる。
そして、突如として地面より水流が帯状に出て来て一斉に絡み付いて来たのだ。
水属性の捕縛魔法。火属性であるフレイムヴォルフにとってこれは効果的な一手だ。
弱点属性である水の捕縛魔法に絡め取られてヴォルフ達の動きが完全に抑えられた。
「ほのか、チャンスだよ!!」
「任せてなの!!」
水流の帯に巻き付かれてヴォルフ達は動けない。
この好機を逃すまいとほのかは再度、魔法陣を展開する。
今度は敵に向けていた杖の先端に一つの大きめの光弾が生み出される。
「ブライト……キャノンッ!!」
圧縮された強力な魔力弾が撃ち出される。
その反動は大きく、彼女の持っていた杖が大きく上に持ち上がったほどだ。
その高圧縮された魔力弾がフィリスの張った水壁から飛び出し猛スピードで飛んで行く。
そして、集まっていたヴォルフ達の中央に着弾。桜色の閃光が炸裂し彼等を呑み込んだ。
光が治まって煙が晴れると、そこには地面に倒れてピクリとも動かなくなったモンスター達がいた。
そして、ほのかは続いて巨大なヤドカリの方を向いて杖を構える。
魔法陣が出現して背後に杖を片手に持って翼を大きく広げた女神の紋章が出現する。
杖の先端に光が集まり、どんどん膨張する。それに比例してそこから感じる魔力の量も上昇していく。
「バルドさんから、離れてっ!! フォトンブレイザーーー!!!」
[フォトンブレイザー、バースト!]
放たれるは強力な光の砲撃。膨大な質量を持った砲撃は真っ直ぐに残る中型モンスターへと迫る。
ただ……その砲撃の射線上及び攻撃範囲には、バルドもいた。
[おやおや~!?]
「おいちょっと待て!? これは俺達まで巻き添えをくうぞ!?」
その砲撃を前にして、予想外の事態にバルドは眼を見開いて驚愕の表情を見せた。
「おらあっ!!」
それを前にして振り下ろされているハサミを力任せに弾き返してその場より飛び退く。
直後に桜色の閃光がレッドロックハーミットクラブを易々と呑み込んで行った。
[シャーーーー!?]
断末魔の様な叫びを上げ光の奔流の中に消えるモンスター。
砲撃は止まることなく突き進み、先にある通路の奥へと消える。
そして何かに激突したのか遠くで爆発音が聞こえた。
「や、やったーー!!」
砲撃が決まって喜びに跳びはねる。
何とか自分達だけでバルドを救えた事に彼女は達成感に包まれていた。
(私にも出来た……!! 魔法で人助けが出来たの!!)
湧きあがる高揚感。溢れる感情は抑えきれない。
「おい……ほのか」
そんな彼女の前にバルドがゆらりと現れた。彼の役に立てたことが嬉しかった彼女はバルドの様子がおかしいことに気づかない。高揚した気持ちで彼のそばに寄った。
「あっ、バルドさん。私、出来たよ! バルドさんの役に立てたの!」
「ああそうだな。でもよ……」
――ふにっ――
「ふえ?」
気付けば、彼の両手が自分の頬を掴んでいる。これは一体如何いう事なのだろうか?
なぜ彼は自分の頬を摘まんでいるのだろうか?
よく分からない現状を前に彼女は大量の?マークが浮かび上がる。
「危うく俺まで倒される所だったっての!!」
「ふひゃ~~!?」
ぐにぐにと横に大きく引っ張る。
頬を引っ張られてほのかは眼を白黒させて両手をブンブンと上下に動かす。
「お前は、俺もモンスターと一緒に倒す気かコラッ!?」
「い、いひゃいいひゃい!? なにするにょ~!?」
「それはこっちのセリフだ! ったく、敵を倒すなら味方もろとも精神でフレンドリーファイヤしようとすんじゃねえよったく……」
「あう……」
溜息を吐いた頬を引っ張るのを止めて手を離す。摘ままれた個所をほのかは手で押さえて擦る。
よもや魔法が出来る様になったばかりの少女に倒されそうになるとは思ってもみなかった。
ため息を吐いてから彼女を一瞥して、バルドは目線をハーミットクラブの方へと向ける。
白い煙を上げてピクリとも動かないモンスターの自慢の宿は壊れていて崩れていた。
「倒したんだよね……?」
隣でほのかが辛そうな表情を見せた。
如何やら相手の命を奪ってしまったと思っているのだろう。
その事に罪悪感を覚えている様な苦しそうな表情だった。
「違うぞほのか。こいつらは死んじゃいない。皆、気絶してるだけだ」
「ふえ?」
よく見てみろと言われ倒れている彼等を確認すると、胸部が上下している事から呼吸をしているのが分かった。
ハーミットクラブの方も宿が壊されただけで、時々痙攣をしているので生きているのが分かった。
「みんな生きてるんだね? 良かった……」
「お前は優しいな。モンスターの心配をしてよ」
[そこがほのかの嬢ちゃんの美点なんじゃねえか? ウヒャヒャヒャ!!]
「美点と言うか……欠点の間違いじゃねえのか?」
[そんなツンツンな発言すんなって。素直に褒めてやりゃいいじゃねえか相ぶふぉっ!?]
「黙ってろこのナマクラ」
余計な事を言ったケルベロスに拳を叩き込んで物理的に黙らせる。
最近、このお喋り大剣を如何にかした方がいいなと思い始めるバルドだった。
「今回は上手くいったが、次からは自重しろよ。こんな事、上手くいく方が少ないんだからよ」
「うん、分かったの!」
ホントに分かっているのだろうか?
彼女のニコニコした表情を見てそんな疑問が浮かぶが、今はそれを片隅に置く事に決めて彼は通路の先を見る。
レッドロックハーミットクラブが(物理的に吹っ飛ばされて)退いた事で開かれた先に通路があり道が続いていた。彼女達を連れてそこを通ると再び目の前に大きな門があった。
「この先が祭壇だ。何が起きるか分からねえから気をつけろよ?」
二人が頷いたのを確認してからバルドはその門を押し開けた。
鈍い音を立てて開かれる門の先に一つの大きな祭壇が設置されていた。
その中央に赤く輝く欠片が宙に浮いていた。
「あれは……!!」
「あの時の欠片!」
その正体に気付いたその時だ。
欠片が輝きを増し、祭壇に赤い魔法陣が展開されて眩い閃光を放った。
激しい光で動けなくなった彼女達。
直後に背後にあった門が独りでに動き出して閉まってしまった。
「ふえっ!?」
「門が勝手に!?」
「閉じ込められたか……」
退路を塞がれた三人。
その時、正面から膨大な魔力反応を捉えて前を向くと赤い欠片が激しく光って雷を迸らせて炎に包まれた。
[オオオオオォォォォォォッ!!]
その中より、黒い体毛に鋭い牙と鉤爪を持ったあの黒い獣が姿を見せたのだ。
レッドロックハーミットクラブ。要するに赤い岩の宿を持つヤドカリ。『初級者殺しの異名』を持つ。基本的にはこの洞窟には居ないまれな存在。
出会ったらまず新人の冒険者では勝てませんので、逃げましょう。
因みにヤドカリは『寄居虫』とも書くエビ目の甲殻類。
フレイムヴォルフ。真っ赤な体毛のヴォルフ。
口から火を吐く。真っ赤に燃える体毛は火の力を大きく受けた証。
群れで行動して相手を攻撃する。
でも、ランクは最底辺の位置。
両方ともその環境の影響で変異して進化したモンスターで、非常に攻撃的。
危うく誤射でバルドまで巻き込む所だったほのか。
その後しっかりとお説教を受ける事になる。
次回、ほのか達を襲った謎のモンスターとのバトル開始。
はてさて、どんな展開になるのやら。
それでは、今後とも宜しくお願いします!
では(゜∀゜)ノシ!!




